• 検索結果がありません。

有力企業の提携 と企業間競争関係への イ ンパ ク ト

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "有力企業の提携 と企業間競争関係への イ ンパ ク ト"

Copied!
39
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

有力企業の提携 と企業間競争関係への イ ンパ ク ト

DVD

の規格統一 に関す る事例研究‑

衣 笠 洋 輔 ・金 字 烈

Ⅰ 研究目的と分析のフレームワーク

1 研究の背景 と日的

本研究の主たる狙いは,業界の有力企業の提携が企業間の競争関係 に及ぼ すインパ ク トを解明することに置かれている。今 日の企業間提携 は従来のそ れ とは様変わ りの様相 を示 してお り,世界的規模で活動するMNC (Multi‑ nationalCorporations,以下MNCと略す)が主役 を演 じる段階に入 ってい

る。そこでは,企業間提携 はMNCの国際戦略展 開上欠かす ことので きない 競争 ツール (competitivetool) となっている。

こ こで注 意 してお きたい の は,企 業 間 の提 携 (alliance,Coalition, collaboration,partnership),特 に水平的提携 (horizontalalliance)は,本 来競争すべきライバル企業同士が協力する共同行為 (concertedbehavior)に 当たるため,各国の独 占禁止法上違反になる恐れがあるとい う点である。そ もそ も市場競争至上の思想が根強いアメリカの場合,巨大企業は当然のこと, 規模面 においてさほど大 きくない企業間の共同行為 も,共謀 (conspiracy)に

よるカルテル (cartel)と見 なされ,あるいは,競争減殺 (lessencompetition) 135

(2)

につなが り易い とされて,司法当局が これ ら企業間の共同行為 をM&A以上 い

に厳 しく規制 していた時期 さえあった。

しか し,1984年,アメリカの司法当局は,寡占企業間,あるいはライバル 企業間の共同事業であって も,それによって効率の向上が期待で きるならば,

2)

その共同事業に反対するものではないことを明確 に した。 また,同年,アメ リカ政府 も,寡 占企業間の共同研究開発 に対 して,反 トラス ト法 (Antitmst Act)の適用 か ら除外す る とい う主 旨の下 に 「国家共 同研 究法 (National CooperativeResearchAct)」 を成立 させ た。 この一連の動 きは, これ まで 長 い間,企業 間の共 同事業 を厳 し く規制 して きた アメ リカの反 トラス ト

(antitrust)政策の大 きな方向転換 を意味す る ものであった。 この方向転換 は企業間の提携 を数量的に増加 させただけではな く,質的にも大 きく変化 さ せる方向で,法的後押 しの役割 を実質な形で果たす ことになった。

これに対 して,企業間提携,特 に国際的寡占企業間の提携は,場合 によっ ては,提携企業の体質の硬直化,国際的なカルテル化,世界的寡 占,国際競 争の抑制,減殺等々をもた らすのではないか との懸念 をも惹 き起 こしている。

その端的な例 は,1992年 日欧米の独 占禁止政策当局がOECDの競争政策委 員会で,有力企業同士の提携が競争制限にならないかを審査す ることで合意

3)

したことに見 られている。 しか し,その審査の実効性 を疑 う声 も多 く,それ 以降において,この問題 に関する大 きな進展は見 られていない。そればか り か,業界の有力企業間の提携は増 える一方である。

ここで留意 してお きたいのは,このような懸念 は生 じて当然の もの と言 う ことがで き,決 して払拭 されたわけではないため,今後 も時 と場合 に応 じて 繰 り返 し,問題 とされることになろう。

それはともか く,現在,業界の有力企業間の提携 は増加の一途 を辿 ってい る。一例 として,GM と トヨタの北米合弁事業 「NUMMI」 (New Untied MotorManufacturinglnc.)において も,競争関係 にあるクライスラー社の 強力な反対 にもかかわ らず,合弁事業の期間を最長12年間にするとか,また

136 国際経営論集 No.22 2001

(3)

年間生産台数の上限を25万台 とするなどの条件 を付 された上で,米国公正取 4) 引委員会 (FTC・FederalTradeCommission)によって許可 されている。 さ

らに

,

「国家共同研究法」 を生産段階にまで拡大実施す ることを主 旨とする

「国家共同研究生産法 (NationalCooperativeResearchandProductionAct)

が1993年 に成立 されたこともあ り,NUMMIはその事業 を現在 も継続中であ る。

企業間の共同事業 に関 して,アメリカの政策当局が規制緩和 に踏み切 った 主な背景 には,アメリカ企業の国際競争力が低下 し,その強化が最優先的な 政策課題であったこと,そ して,当時アメリカ企業 にとって最高の脅威だっ た 日本企業が

,

「第5世代 コンピュータ ・プロジェク ト (通産省主導の官民 共同研究開発 プロジェク ト)」 などに見 られるように,企業 間の共同研究開 発 プロジェク トを通 じてその競争力 を大幅 に向上 させ ていることが,当時,

5)

大 きな関心 を巻 き起 こしていたことなどを挙げることがで きよう。 この よう な背景の下で進行 したアメリカ政策当局の政策転換 には国益保護 とい う政治 的配慮が強 く認め られ,運用次第によっては, きわめて窓意性の強い ものに なることに留意 してお く必要がある。

時期 こそ異 なるが,アメリカに影響 された形で,欧州お よび 日本 において も 「共同研究開発 に関する独 占禁止法のガイ ドライン」 を発表 し,共同研究

6) 開発 に関する企業側の不安 を取 り除こうと努力 している。

上述 したように,国際的寡占企業の提携が行 き過 ぎた場合,世界的な寡 占 化が進展 しかねないこと,ライバル企業間の提携が競争 を制限す る可能性の 強いことなどを,各国の政策当局は常 に懸念 し,かつ,危倶 している。 にも かかわ らず,多 くの国で, 自国の産業競争力の強化 を最優先的な課題 として 取 り組んでいることが,企業間の提携 に関する司法当局の判断基準の変化 を もたらし,また,そのことが,結果的に,国際的寡占企業間の提携 を増加 さ せる方向に向けて働いていると言 ってよい。

しか し,業界の有力企業 (leadingcorporations)の行 き過 ぎた提携 は,

有力企業の提携 と企業間競争関係へのインパ ク ト 137

(4)

常 に競争減殺や国際的寡 占構造 を一層強化す る恐れ を内包 している。特 に, こうした提携が,企業規模,経営資源の蓄積,ブラン ド構築 などの面で比較 劣位 にある中小 の下位企業 (followingcorporations)に与 えるインパ ク トは 極めて大 きい ものがある。 とい うのは,今 日の企業間提携 における目立つ特 徴 の 1つは,経営資源の補完 とそれによる競争優位(competitiveadvantage)

7)

の構築 にあるが,その場合,経営資源 に乏 しく,競争優位 を持たない中小の 下位企業が提携参加か ら排除 される可能性はきわめて高 くなる。

企業間の提携 を経営資源の非対称的 (asymmetric)分布 と関連づ けて考 察 し,提携が競争企業 に及ぼすインパ ク トを解明 しようとする理論的背景に は,産業内部 における競争構造がある。産業内部 における競争構造 は,個々 の企業の持つ多面的な戦略的能力 (strategiccapability)の較差 により,多様 8) な競争ポジション (competitiveposition)が存在 していることを想定 させ る。

今 日の提携 は戦略的能力 において卓越 した側面 を持つ企業が,その卓越 し た側面 を基軸 としてイニシアティブ (initiative) を取 り,経営資源の補完や リスクの分散 などを図ろうとしているところに大 きな特徴がある。 とい うの は,今 日の提携が企業間の対等で平等 な取引関係 を前提 としているとはいえ, 企業の経営資源 (resources)お よび能力 (Capability)には多面 に亘 るかつ 多大 な較差があ り,戦略的能力 において比較劣位 にある企業は,提携参加か らの実質的排除, または交渉力 (negotiationpower)の減退 などに追い込 ま れ易いか らである。 これこそ,一部の有力企業が提携形成 におけるイニシア ティブを発揮で きることの大 きな要因であ り,原動力 ともなっている。

そこでは,強力な競争優位 を何一つ持たない企業 にとっては,非常 に不利 な提携構造が定着 してお り,この点は今 日の提携 における構造的問題 として 浮 き彫 りにされている。言い換 えれば,同一産業 における有力企業が提携 を 頻繁 に活用することは,当該産業の競争構造だけではな く,中小 の下位企業 に直接 ・間接の多大なインパ ク トを及ぼす ことに繋がるもの と言 うことがで きる。

138 国際経営論集 No.22 2001

(5)

しか し,これまでの企業間提携 に関する研究動向,特 に,経営学 における それは,経営資源 における非対称的分布 を見落 としたため,すべての企業 を 同一の競争ポジシ ョンに位置づけ,提携のメ リッ トのみに焦点 を合わせた論 及が主 になされて きた。つ ま り,産業内部 には,それぞれ企業の戦略的能力 の相違 により多様 な競争ポジシ ョンが存在 してお り,企業間の提携 も個 々の 企業の戦略的能力 (競争 ポジシ ョン) と有機的関連性 を持 って形成 されてい るため,提携の内容や性格 によっては,戦略能力の劣位 にある企業は提携参 加か ら排除された り,または提携交渉力が大 きく減退 された りするとい う可 能性 について,必ず しも適切 な配慮がなされてこなかった と言ってよい。

特 に,日本 における提携 に関する研究は,上記の認識 を欠如 しているため, 提携が企業間の戦略能力の較差 と有機的に連動 して形成 されていることや, 当該産業の企業間の競争関係,特 に,下位企業 に及ぼすインパ ク トはいかな るものかについて,十分 な問題意識 を持つことがで きていない。 日本 におい て も企業間の提携が頻繁 に行 われているとい う時代 的背景 もあ り,数多 くの 研究論文や雑誌の記事が報告 されているが,本論文で特 に着 目している分析

9)

視点によるものはほとん どない といってよい。その意味では,本研究は,堤 携 に関する一つの新 しい問題 を提起することにもなっている。

本研究は,今 日の提携 に内在する上記の構造的問題 に基づ き,企業間の提 携が国際競争構造 に及ぼすインパ ク トに関 して,序説 とも言 うべ き分析 を行 うものである。特 に,業界の有力企業間の提携が,提携参加企業の市場影響 力の維持 ・強化 にいかに機能するのか,提携参加企業間の交渉 と安協のプロ セスに注 目しなが ら,考察 を進めてい く。

2 分析のフレームワーク

競争戦略 としての提携 は,当然のことであるが,それぞれの企業が属 して いる産業構造,お よび,その産業の特性 と緊密かつ有機的な関連性 を持 って いる。 したが って,企業 間の提携 の特徴や競争構造 に及ぼす インパ ク トも,

有力企業の提携 と企業間競争関係へのインパ ク ト 139

(6)

個々の産業 により異 なって くることは当然想定で きる。技術革新が企業の市 場競争力 に絶対的な役割 を演 じてお り, しか も,その技術革新が市場成長性 を強 く規定 している産業 と,技術革新の余地が乏 しく,市場 自体が成熟化 し ている産業では,提携の誘因や内容 も,また,市場への影響度 もそれぞれ異 ならざるを得 ない。

例 えば,バ イオテクノロジー (biotechnology)やエ レク トロニ ックス (electronoics)のように,技術革新が競争優位の核心的要因 となっている産 業の場合,当然のごとく

R&D

の誘因 もきわめて大 きく,その提携 も

R&D

を中心 に活発 に行われることになる。 したがって,提携参加 とそれによる成 果の享受その ものが競争優位 の大 きな原動力 となる。

一方,製品差別化の余地の乏 しい鉄鋼,セメン トなどの素材産業は,市場 全体が成熟 していることもあ り, コス ト削減 と規模の経済性 を確保するため の業務提携が頻繁 に行 われることになる。 また, これ ら成熟産業の場合,読 争の切 り札 としてコス ト要素が絶対的な重要性 を占めることか ら,途上国立 地 を含めての生産立地の問題や規模の拡大が最重要課題 となる。したがって,

これ ら成熟産業の場合,コス ト面,あるいは,規模面で優位性 を持つ企業は 自らの提携交渉力 を強化することがで きる。その場合,提携 自体が必ず しも 後発 の企業 に不利 に働 くとは言 えない。

これに対 して

,R&D

能力が核心的な競争優位 をもた らす産業 ・製品分野 において,技術面,マーケテイング面で優位 に立 っている企業の場合,提携 はきわめて有利 に機能す ると考 えられる。 とい うのは

,R&D

に関連 した提 携の場合,技術面,マーケテイング面で劣位 にある企業 は提携参加か ら排除 され易 く,それに対 して,技術面,マーケテイング面で優位 に立つ有力企業 が,提携 とい う場 を通 じて

,

「イノベーシ ョン機会の独 占」お よび 「市場の 先取 り」 を図ることがで きるか らである。

もとより,かかる産業での提携 において も,技術面,マーケテ イング面で の能力は当然のこと,必ず しも表 に出てこない様 々な能力,事態の進展 を洞

140 国際経営論集 No.22 2001

(7)

察 し,かつ,それに適応する能力,交渉 を成功裏 に進め得 る能力等々が必要 となることは言 うまで もない。 しか し,本研究では, この面の考察は部分的 に言及することに留め,表面 に出て くる技術面,マーケテイング面等の能力 に焦点 を合わせて考察 を進めることにする。

これを受けて,本研究では,新製品開発お よびその製品化のプロセスにお いて,有力企業同士がその市場影響力 を維持 ・強化するために,提携 をいか に有効 に活用 しているかについて考察する。特 に,企業間競争の優劣 を決め る核心的な要因 と言 える 「標準,規格の獲得」 をめ ぐり,提携が有力企業間 の交渉 と妥協の場 となる可能性 に注 目する。そ して,本来,市場競争 を通 じ て決め られるべ き製品技術お よび仕様が提携参加企業間の交渉 と妥協 によっ て決定 されることの問題点 と,それが結果的に有力企業の市場影響力の維持 に貢献することに焦点 を合 わせて考察する。

前述 したように,企業間提携 に関する規制緩和の根拠 として,提携 による 経済的効率の向上があった。 しか し,時 と場合 によっては,提携が経済的効 率性の追求 とは全 く両立せず,単 に企業の利益極大化の手段 として しか機能 しないことも十分 にあ り得 ることである。提携参加企業が現在保有 している 市場影響力 をてこに して,次世代の技術 ・製品にまで,その影響力の拡大 を 企図す る可能性 は十分 に存在す る。本研究では, この間題 に関 して,DVD の規格統一におけるソニー と東芝の対立,そ して,両陣営の背後で機会主義 的な行動 (opportunisticbehavior)を採 っていた松下の行動 を取 り上げ,考 察 をしてい く。

もちろん,本研究で取 り上げようとしているDVDの事例が,必ず しも企 業間提携の慣行や実態の全体像 を提示 し得 るとは考えていない。企業間提携 は様 々な内容や形態 を有 してお り,個々の提携すべてが異 なる動機,内容お よび意味 を持 っていると言 って過言ではない。 したが って,多様性 に富む提 携の問題 を 1つの事例, 1つの尺度で評価することには無理があると言 って

よい。

有力企業の提携 と企業間競争関係へのインパク ト 141

(8)

しか も,提携 とそれによる企業間の競争関係へのインパ ク トを考察すると い うことは,企業間の提携が成功 した場合 を暗黙の うちに前提 としている。

しか し,実際 に半分近い提携が失敗 に終わっているとい う研究報告 もあ り, このことも提携 に関す る研究 を難 しくしている。

本研究 もこの点 を考慮 してお り,DVDの規格統一 に関す る断片的な事例 を紹介することで,提携 とそのインパ ク トに関する一般化 を図ることは意図 していない。実際 に,すべての提携が,有力企業の市場影響力の維持 ・強化 につながるとは言い難 く,場合 によっては,提携 によ り参入障壁が低下 し, 競争 を促進す るとか,中小企業や下位企業にも大 きなチ ャンスを提示するこ

ともあ り得 るわけである。

しか し,それにもかかわ らず,DVD規格の統一過程 は提携 に関すろ研究 において不可欠 とも言 うべ き重要な問題 を数多 く内包 している。その主要な 問題 を挙 げてお くことにす る。 まず第 1に,DVDの ように新製品開発 をめ ぐる提携 は国内に限定 されるものではな く,世界的な広が りをもつため,将 来可能性のある製品に関 しては,複数の提携 ネッ トワーク (企業連合)が構 築 され, こうした提携 ネ ッ トワーク間の研究開発競争が同時多発的に行 われ ているものである。第2に,DVDの規格統一のための交渉の場が ソニー陣 営,東芝陣営間 とい うように,同一業界内にあると同時 に,米国映画産業, 米国情報産業 など,今 日を代表する主要産業 を巻 き込 んで,多岐にわたって お り,もはや1社単独で規格 を形成することは難 しくなっていることである。

第3に,DVDに関す る提携,交渉の事例 の中には,そ こにおいて主導的な 役割 を演 じたソニーお よび松下の行動 に見 られるように,製品開発期 におけ る有力企業の意志が,当該製品の市場競争 にいかに多大な影響 を及ぼす こと になるかが端的に示 されていることである。そ うい った意味では,DVDの 事例 は提携 に関する研究の分析 フレームワーク構築 に最適の内容 をもつ とい

って過言ではない。

その上,本研究は,多様 な動機,内容,インパ ク トを持 っている提携の中 142 国際経営論集 No.22 2001

(9)

で,本研究で問題視 している性質の提携が,いかなる背景の下で,いかなる 条件で成立 し得 るのか,その条件 を探 ることにも大 きく貢献することがで き る。多様性の中で実在する 1つの事実は,事実 として受け止め,検証 し,そ れを可能 とする条件 を抽出することは重要な研究課題 とも言 えよう。

I

DVDの規格統‑をめぐる有力企業間の提携 と市場影響力の 維持 ・強化

1 問題提起

今 日,業界標準の多 くは異 なる規格 間の市場競争 を通 さないまま, まず, 新製品の市場導入の前段階で単一規格 を形成 し,そ こで予め決め られた規格 内で市場競争が行 なわるケースが多 くなっている。つ ま り,製品化 の段 階 (研究開発 の段階)で関連企業同士が話 し合い,当該技術 ・製品の規格 を調 整することであ り,その意味では,新技術 ・製品の規格 は市場競争 により決

まるのではな く,企業間の協調 により決 まることになる。

このや り方は,かつて家庭用VTR (VideoTapeRecorder, ビデオ ・デ ッ キ)市場で, 日本 ビクターのVHS対 ソニーのベータが業界標準 をめ ぐって 規格間の市場競争 を展開 し,VHSが事実上の業界標準 (defactostandard)

を勝 ち取 ったこととは全 く異なっている。上述 したや り方の場合,新技術 ・ 新製品の規格の選択は消費者 に委ねるのではな く,現実 には,業界の有力企 業が主導 し,新技術 ・新製品の基本的な規格,仕様 を予め定めて,それを消 費者 に提供 しようとい うものである。

企業間の規格協定は,ほとんどの場合,業界の有力企業が主導 しているが, 今 日のようにグローバル化が進展 している国際経営事情 を考慮すれば,そこ で確定 された業界標準 はグローバル ・ス タンダー ド (globalstandard)とし て機能することになる。 したがって,多 くの場合,当該製品 ・市場で強い影 響力 を持 っている国際的寡 占企業,いわゆるMNCが新技術 ・新製品の規格

有力企業の提携 と企業間競争関係‑のインパ ク ト 143

(10)

の制定 を主導 していると言 って過言ではない。企業間の協定 (提携) により 規格が形成 される場合,消費者がその製品を購入 し,個 々の価値 を比較評価

した結果,そこで享受する価値の大 きい ものが生 き残 るといったことにはな らない.む しろ,新製品の規格協定 に参加する一部の有力企業の意志,意向 がそのまま製品の設計,仕様等 に強 く反映 され,そこでは,既存製品 ・市場 での影響力がそのまま新製品 ・市場 に引 き継がれることも十分 にあ り得 るこ とである。 ここでは,社会が求める経済的効率性 も,消費者が求める利便性 ち,企業エ ゴによって無視 される危険性 はあ り得 ないことではない。

例 えば, 日本の家電市場で圧倒的なシェアを確保 し, きわめて大 きな市場 影響力 を保有 している松下電器の選択 (どの規格陣営 に参加するか)が,衣 庭用VTRだけではな く,DVD において も決定的な役割 を演 じるとい うこと

10) は十分 にあ り得 ることである。

したがって,市場導入の前段階で,有力企業同士が規格協定 を行 なうとい うこと自体,新製品をめ ぐるこれ らの企業の意志 とか意向が複雑 に絡みあ う 交渉,妥協の相互作用の場 として把握 される必要がある。

市場導入の前段階で業界標準 を形成 し, しか も,業界標準 をめ ぐる交渉 と 妥協の結果,既存製品の影響力 を基軸 として,新製品分野で も,その優位性

11)

を維持 した典型的な例 として,DVD の規格 をめ ぐるソニーの戟略 を挙 げる ことがで きる。

本研究では,DVD 規格 をめ ぐる有力企業 間の規格協定の動向 を探 るとと もに,その規格協定が, これ ら有力企業 によって,新技術 ・新製品の市場影 響力 にどの ように利用 されてい るか,その一面 を明 らか にす ることに した

い 。

そこでは,規格協定 における提携の重要性 はいかなるものか,国際競争 に おける規格協定の獲得がいかなるプロセス を経て形成 されるのか,そ して,

こうした規格協定が,規格協定のプロセスで排除されがちな中小の下位企業 の国際競争関係 にいかなるインパ ク トを与 えるかについて,焦点 を合わせて

144 国際経営論集 No.22 2001

(11)

分析 を進めることにする。

2 企業間競争における業界標準の重要性 と企業間の提携

最近,新聞などを見 ると,新製品 ・技術の規格 をめ ぐっての企業間の提携 (規格協定)が頻繁 に報 じられている。 なぜ,業界標準 (規格)が これほど 注 目を浴びているのか。それは,規格の獲得が,企業間競争 における競争優 位性 をいち早 く勝 ち取 るための絶対的条件の 1つだか らである。特 に,グロ ーバル化が一層の進展 を見せている今 日の国際経営環境 を考慮すると,そこ で成立 した業界標準はそのままグローバル ・ス タンダー ド(globalstandard) を意味 してお り,業界標準 を獲得 した企業は,技術 ,市場の先取 り,鋭模の 経済の享受 を通 して,競争上圧倒的な優位 に立つ ことがで きる。

こうした背景 もあ り,環境条件の変化 にいち早 く目覚めた企業 は新 しい動 きに出ている。その動 きが企図するものは,これまで企業主体の意識の外 に 置かれていた2つの標準,すなわち,市場取引 を通 じて形成 される 「事実上 の業界標準 (defactostandard)」,1国 もしくは多数国 レベルで制度的に形 成 される 「公的標準 (dejurestandard)」の双方 を,企業間の提携 を通 じて,

12) 企業の意識 (つ まり戦略体系)下 に組み込 もうとしていることである。

企業間提携 による業界標準のタイプとしては,事前 に協議 を通 じて1つの 製品フォーマ ッ ト(format)を業界標準 にするか,あるいは,標準化仕様 を 市場投入前 に公 開 し,他の企業 に参加 を呼びかけることによ り特定製品の規 格化 を図るか,または,企業が単独あるいは複数の連合 を形成 して,業界団 体あるいは政府 などを動か し,業界標準 として認めさせ る場合 などが挙 げら

13) れる。

しか し,業界標準 を獲得 した とはいえ,それがそのまま,当該企業の市場 制覇 に直結す る とは限 らない。例 えば,業界標準 を獲得す るために,IBM が採用 したオープン ・ポ リシーは有名である。パ ソコン市場 に参入する際, IBMは自らの仕様 を公 開 (openarchitecture)し,周辺機器,ソフ トウェ

有力企業の提携 と企業間競争関係へのインパ ク ト 145

(12)

アを供給する企業の参入 を促 した。それは結果的に多 くの互換機 メーカーの 参入 を導 き,先行 していたアップル (Apple)の優位性 を退け,IBM製品を 業界標準 にすることを実現 した。

しか し,IBMの場合, 自社製品の仕様,つ ま り,IBMのハー ドウェアに 関する情報 を無料で公開することにより,互換機 メーカーの参入 を容易 に し, その結果,IBM仕様が業界標準の地位 を確保 した ものの,IBMのパ ソコン 本体のシェアは年々低下 し,首位 の座 をコンパ ック (Compaq)に奪 われて

14) しまうといった皮肉な結果 を引 き出す ことになった。

この ように,規格間競争で勝利 して業界標準 を握 ることがで きた として も,

「昨 日の友 は今 日の敵」 とい うことで,同一規格内で提携 した企業 とパ イの 15) 配分 をめ ぐって争わなければならないということも十分 にあ り得 ることである。

また,業界標準が決定 されれば,市場 に存在する製品間に本質的な差がな く なるため,価格競争が激化するか もしれない。 このことは, 自社製品を業界 標準 にすることがで きて も,価格競争が激化すれば,企業はそこで払 った努

16) 力に見合 った利潤 をあげ られるとは限 らない とい うことを意味 している。

規格競争で有名なケースである

VTR

市場 において も,

VHS

陣営が事実上 17)

業界標準 になって以降,価格競争 は一気 に激化することになった。 したが っ て,業界標準 を確立 した企業は確立後の競争で も優位性 を確保で きるように, そのための仕組み を作 ってお くことが必要 となっている。それは業界標準 を 通 して利潤の占有性 を高める仕組みであ り,その方法 としては,以下の3つ

18) を取 り上げることがで きる。

第1に,一般 にフォーマ ッ ト (format)を開発す る企業 は,フォーマ ッ ト を公 開する際に結ぶ契約でライセ ンス ・フィーの設定 に工夫 を凝 らす ことに よって,そのフォーマ ッ トを採用 した企業があげる利潤の大半 を獲得するこ とも可能である。実際

,VHS

フォーマ ッ トの開発企業である日本 ビクター は,巨額の特許料収入 を

Ⅵi S

ファミリー企業 より獲得 している。理論的に は,採用企業があげる利潤 と等 しい固定的なライセ ンス ・フィーを設定す る

146 国際経営論集 No.22 2001

(13)

ことよって,採用企業の製品供給 についての決定 を損 なうことな く,フォー マ ッ ト(format)開発企業 (一般的にスポ ンサー (sponsor)と呼 ばれる)

19) は,イノベーションから生 じる利潤のすべてを占有することさえも可能である。

しか し,多 くの場合,現実 は異 な らざるを得 ない。例 えば,VD (Video Disk)における開発 と規格競争 について見 る と,RCAとフィリップスが フ

ァミリー作 りを争 っていた事例 に見 られるように,競合するフォーマ ッ トが ある場合,ライセンス ・フィーの引 き下げ競争が生 じるために,イノベーシ

ョンか ら生 じる利潤のすべてを占有することは事実上不可能である。

第2に,OEM供給 を積極的に行 うことである。OEM供給 を積極 的に行 うならば,行わない場合 に比べ,他社 ブラン ドで販売 される分だけその生産 量 は大 きくなる。 したが って,規模 の経済や経験効果が働 く産業であれば, OEM供給 なども含めて大量生産 をす ることによ り,生産 コス トが下が り, より大 きな利潤 をあげることが可能になる。 また,OEM供給 をするために 生産能力 を拡充すれば,市場の広が りに合 わせて生産能力 を容易 に増やす こ とが可能 とな り,その結果 として,市場 を先取 りし,他社が独 自に生産能力

20) を拡充するインセンティブを弱めることがで きる。

ただ し,当然のことであるが,OEM供給 を行 う企業 には,その供給先が 自社生産 に切 り替 える場合,自社の生産能力が余剰 になって しまうとい うリ スクが生 じる。 また,最近は,低 コス トの生産立地 を武器 とした途上国の追 い上げが激 しくなって きたため,OEMによる市場 占有の戦略 にはその持続 性での限界が見 られるようになった。

第3は,補完財 (complementarygoods)について独 占的な地位 を保 ち, その補完財事業 を増大 させ,そこか ら大 きな利潤 を上げることである。例 え ば,VD 産業 において,パ イオニアの規格 は業界標準 となった ものの,プレ ーヤー市場では競争が激 しいために,利潤 をあげることがで きなかった。 し か し,プレーヤーの売上が増大するにつれて,独 占的な地位 を保 っている補 完財の需要が増大 し,その補完財事業か ら大 きな利潤 を確保することが可能

有力企業の提携 と企業間競争関係へのインパ ク ト 147

(14)

となった。 また, こうした古典的な例 の1つが ジ レッ トに も見出 される。 ジ レッ トはひげそ り自体 の価格 を低 く設定 しなが ら,その補完財である替 え刃

21) の事業か ら大 きな利潤 を獲得 している。

前述 した ように,IBMはパ ソコン本体 で業界標準 を獲得 したに もかかわ らず,そこでの市場競争,特 に価格競争が激化 し,市場 シェアを大 きく落 と す破 目に陥って しまった。 しか し,IBMの互換機 に使用 されるMPU (Micro ProcessUnit)とOS (OperatingSystem)においては,インテル社 とマイク

ロソフ ト社 の製品が事実上 の業界標準 を獲得 した。IBM互換機種 な ら,パ ソコン本体 のメーカー とは関係 な く, これ らの製品 を 1つの標準仕様 として 搭載 したため,それぞれの市場で規格 を獲得 し,当該市場での他社 の追従 を

22)

許 さない地位 を築 くことになったのである。 インテル とマ イクロソフ トが こ の分野で業界標準 を獲得 で きたのは,IBMの政策 に負 うところ大 であ った とい うことがで きる。 この ことにも明 らかなように,規格獲得後 の競争の厳 しさを反映 して,IBM 自体 の シェア と収益性 (パ ソコン本体 に関 して) は 低下 していること, また,それ と並 んで,補完財事業 自体 もそれ とは別個 の 重要性 を持 っていることが明 らか となる。

業界標準 の獲得が,その まま企業 の競争優位 につ なが る とは限 らないが, それにもかかわ らず,業界標準 を獲得 した企業が競争他社 に比べ, きわめて 有利 な立場で競争戦略 を展 開 し得 ることもまた事実である。例 えば,マイク ロソフ ト社 の場合,次世代技術革新 に対 して 自社規格 の優位性 を維持す るた めに,既存 の技術仕様 に基づ く継続的なア ップグ レー ド(upgrade)を行 っ ている。 また,価格の切 り下げを行 うことによ り,消費者が新 しい規格 に変 更 (switching)す ることを遅 らせ る といった方法 も考 え られる。そ こでは, 市場 シェアを拡大す ることも可能 となる。

この ことについて, シャピロはロナル ド ・コアス (RonaldCoase)が指摘 した価格引 き下 げによる耐久消費財 (durablegoods)の独 占化 の可能性 に 注 目している。つ ま り,ある特定の耐久消費財市場ですでに大 きな市場 シェ

148 国際経営論集 No.22 2001

(15)

アを持 っている企業が,市場 を拡大するためにさらに価格引 き下げを行 う場 令,消費者 はさらなる価格低下 を予想 して,他社の製品の購入 を控 えるとい

23) うものである。

このように,規格間競争 を経て規格内競争が激 しくなるとして も,その規 格 を主導 し,設定 した企業は,本来,市場競争 において圧倒的な優位 に立つ のが一般的である。特 に,ネ ッ トワークの外部性

( n e t wo r ke x t e r n a l i t y )

が 働 く製品 ・市場では, よほどの革新的な技術 または製品で対抗 しない限 り, 既存企業の競争優位性 を覆す ことはきわめて難 しい。 したがって,企業間の 競争が一層激 しさを増 している国際経営事情 を考慮すれば,競争上,有利 な 位置 を占めることがで きる規格の獲得 をめ ぐって,俄烈な競争が展開される ことはむ しろ当然な帰結 と言 える。 また,製品化の前段階か ら,複数の企業 が企業連合 (提携) を形成 し,規格獲得 をめ ぐって協調 と競争 を展 開 してい るの も,同 じ理由に基づいている。

24)

3 DVD

市場におけるソニーと東芝の規格対立 と統一へのプロセス

DVD ( Di g i t a l Vi d e oDi s k )

は,音楽用 ・ソフ トウェア用

CD

と同一の直 径12センチの光ディスクとして,単 に映像 ・音声の記録だけではな く,今 ま で発売 されていた

CD,VD

, ビデオ

CD,CD‑ ROM

などのディス クをすべ て代替 して しまうだけの容量上お よび用途上の広が りをもっている。 さらに は,書 き換 え技術が開発 されることにより

,CD‑ R

,

MO

,

MD,Z i p

VTR

をも呑み込んで しまう巨大 な可能性 も持つ画期的な製品 として位置づけられ ている。そのため,家庭用

VTR

以降久々に登場する

2 0

世紀最後の大型家電 製品 として注 目され,世界的地位 を確立 している大手各社が こぞってその研 究開発 に取 り組んで きた。

日本 において も,世界の

AV ( Au d i oVi s u a

l)業界最大手であるソニー と オランダのフィリップスが この製品の共同開発 に当たっている一方,これ と 並行 して,東芝, 日本 ビクター,三洋電気お よびパ イオニアなどもそれぞれ

有力企業の提携 と企業間競争関係へのインパク ト 149

(16)

DVDの開発 に取 り組 んでお り,それぞれ独 自の規格 の採用 を各社 に呼 びか けていた。

こうしたメーカー各社 の動 きに対 して,1994年9月には, タイム ・ワ‑ナ 一, ウォル ト ・デ ィズニーな ど,アメ リカの映画会社7社がDVDの統一規 格 を提 唱 す る組織 ,「DVDア ドバ イザ リ ・コ ミッテ ィ (DVD advisory committee)」 を結成 し,DVDの再生時間,画質,音質,音声 トラ ック,複 写保護,マルチ画面 などに関 して詳細 な推奨案 を提示 している。とい うのは, DVDの当時の用途 と しては, レザ ーデ ィス クの代替が問題 となってお り, このための ソフ トを撞 るアメ リカの映画産業 にとって も,DVDの規格問題 は最大の関心事 であ り, この映画産業の動 きに連動す ることはメーカーにと って も最重要な課題 だったか らである。

こうした一連の動 きの中で,1994年12月には, ソニー とフィリップスが他 社 に先駆 けて共同で 「MMCD (Multi‑MediaCD)」の規格 を発表 した。 これ に対 して,1995年1月 に東芝陣営 (東芝,松下電器, 日立,パ イオニア,他 に タイム ・ワ‑ナ一,MCA, トム ソ ンの 日欧米7社 ) が,SD (Supper Density)の統一規格 を発表 し,三菱電機, 日本 ビクター, 日本 コロム ビア

25) な どもSD規格への賛同を表明するとい う進行があった。

2つの規格 における最大の相違 はその容量であった。MMCDがCDと同 じ厚 さの1.2ミリの単板 を用 いる ものであ り,その記憶容量が3.7ギガバ イ ト (135分の映像 と音声 を記録)なのに対 して,SDは,厚 さ0.6ミリの板 を2枚 貼 り合 わせ る方式であ り,それぞれ片面で,4.8‑5.0ギガバ イ トの容量 (片 面で142分 を記録) を持つ ものであった。 また,全体 的 に技術 的な優位性や 製品の安定性 もSDが優れていると評価 され, この時点では,映画 ソフ トを 供給す る立場 にあ るアメ リカ映画会社 の賛 同 を得 て,SD規格が デ フ ァク

ト・ス タンダー ドになるとの見方が強かった。

しか し,映画会社 の賛 同だけでは,デ ファク ト ・ス タンダー ドにはな らな かった。その後,IBM,ア ップル,マイクロソフ トな ど,アメ リカの情報産

150 国際経営論集 No.22 2001

(17)

業大手5社が1995年5月に 「テクニカル ・ワーキング・グループ (technical workinggroup)」 を結成 し,8月には,両陣営 に対 して規格統一 を求める要 望書 を提示 した。 この要望書では,既存のCDとの互換性の確保 を条件 とし ていた。つ ま り,アメ リカの情報産業の大手 は,DVDを単 に映像 ・音声の 再生 ・記録のツール としてだけではな く

,

「マルチメデ ィアのツール」 とし て位置づけていたのである。 しか し,既存のCDとの互換性 は別 に して,技 術的に東芝のSD規格が,大容量化,ディスクの安定性,信頼性 とい う観点 か ら,MMCDより優れていたのは紛れ もない事実であった。

ソニーにとって,DVDは ドル箱であるCDを代替 して しまう可能性 と脅 威 をもったメデ ィアであった。そのため, ソニーがDVDの規格統一 を急 ぐ 必要は,特 に存在 しなかった。 また,ソニーにとって幸いなことは,アメリ カの 「テクニカル ・ワーキング ・グループ」が,DVDに対 して 「CDとの 互換性 を維持すること」 を強 く要求 してお り,CDの再生が可能 なDVDプ レーヤー ・ドライブが発売 されれば,それによってCD特許料が再び入 って くることを保証するものであった とい うことである。その意味で,ソニーが 交渉を急 ぐ必要はなかった。統一規格がSDとMMCDの どこで決 まったと して も,その実利がゼロとい うことはな く

,「0‑1

」 の どこかで決着で き ればよかったのである。

こうした状況下で,ソニーが採れる選択肢 は次のようなものであった。第 1は,SD陣営 と協調 をせず に,MMCD規格 を市場 に出 し,市場での競争 に任せ るとい う戦略である。 これはベータとVHSの ような全面的な市場競 争 を意味するものである。 この選択肢 における長所 としては,ソニー&フィ

リップスが持つCD特許 を全面的に主張で きる点である。 また,MMCDは 既存のCD生産 ラインをそのまま転用することがで き,設備 にほとんど追加 投資が要 らないことが挙げ られる。 さらに,MMCDとい うCDの延長線 に ある名称 を使 うことにより,ソニー&フィリップスの覇権 を広 く誇示するこ とも可能になる。

有力企業の提携 と企業間競争関係へのインパク ト 151

(18)

問題 はソニーが東芝陣営 と規格間競争 を通 じて戦い,業界標準が勝 ち取れ るか どうかである。前述 したように,技術的には明 らかに東芝のSD規格が 優れてお り,肝心のソフ トを握 っているアメリカの映画産業 も東芝のSD規 格 に賛同 していたため,敗北する可能性が きわめて高かった とい うのが実情 であった。

2

の選択肢 としては

,S D

陣営 との話 し合いを行い,

MMCD

S D

の中 間点で規格 を統一するとい う戦略である。 この選択肢の長所 としては,現実 的に妥協が図 りやすい とい う点である。しか し,特許料収入が減ると同時に, 単板方式の生産 ラインをそのまま使 えない とい う可能性 も大 きかった。

結局, ソニーは

I BM

やマイクロソフ トな どの 「テクニ カル ・ワーキ ン グ ・グループ」の要望書 を受け入れる形で,8月に東芝 に規格統一 を提案す るに至 っている。 ソニーが規格統一のために提示 した条件 は,信号変調方式 についてのみソニーの

MMCD

の規格 を採用 し,他 は東芝の

S D

規格 をその まま採用するとい うものであった。そ して,両陣営で討議 した結果,9月に 入 り,折衷案が で きあが り, これ らを

I BM

らも支持 した ことを受 けて, 1995年9月15日,両陣営は統一規格 を発表するに至 る。 また,その規格の名 称 は

MMCD

で も

S D

で もない

「 DVD

」 に決定 されたのである。

以上の ように

,DVD

の規格 は,東芝の

S D

が技術 的にも実用性 にも優れ ていたにもかかわ らず,アメ リカの コンピュータ業界が

DVD‑ ROM

(読み 出 し専用

DVD)

の発売 を予定 していることもあ り,その意向に強 く影響 さ れる形で決着 した とい うことがで きる。その理 由 としては, ソニーが

I BM

などと現業で深いつなが りを持 っていたこと,規格統一 に決定的な影響力 を 持つ と見 られていた映画 ソフ トの市場規模以上に, コンピュータ産業 におけ

DVD‑ ROM

の市場規模の方が大 きかったことなどが挙げ られよう。

4 DVD規格統一におけるソニーの意図

そ もそ も

DVD

の研究開発の始 まりは東芝 と松下であ り,東芝は前述 した 152 国際経営論集 No.22 2(氾1

(19)

2

枚貼 り合わせ式の

DVD

の研究開発 を独 自に進めて きた。 これに対 して, ソニー&フィリップスの

MMCD

CD

の延長線で考 えられた ものである。

したがって,ソニーにとって

,DVD

規格の統一 を急 ぐ必要が必ず しもなかっ たが,以下の2つの点で,

MMCD

規格は きわめて重要な意味 を持 っていた。

第1は,ソニーとフィリップスの2社の独 占状態 にあ り,両社 に膨大な特 許収入 をもた らしていた

CD

の特許が2000年 には終わる とい うことであっ た。 しか し

,CD

の延長線で考 えられる

MMCD

が統一規格 となれば

,CD

26) の技術資産が延命 され,特許収入が再び入 って くる。

第2は,既存の生産 ラインの転用である。つ まり,既存の生産 ラインをそ のまま転用することがで き,設備 にほとんど追加投資が要 らない とい うこと である。 しか も,ソニーは

CD

の生産設備 においては競争他社 に比較 して圧

27

)

倒的に有利 な立場 にあった。

この ように,ソニーは既存の

CD

技術の延長線で

DVD

の規格統一 を狙 っ ていたが,ソニーの思惑 に決定的な影響 を与 えたのが松下電器のSD陣営へ の参加であ り, また

,DVD

ソフ トを握 っているアメリカ映画会社の意向で あった

。DVD

規格統一 において,松下電器が とっていた行動やその影響 に 関 しては後述することに し,ここでは,規格間競争 を通 じて独 自規格の獲得 にハ ンディキャップを負 ったソニーが最後 に選択 した行動 を明 らかに してみ たい。

前述 したように,かつて家庭用 VTR市場 において,VHS対ベータが規格 間競争 を展開 していた時,すでに家電市場 において家電王国 と賞 されるほど の圧倒的な基盤 を確立 していた松下電器が,その子会社である日本 ビクター の

VHS

陣営 に参加す ることによ り, ソニーはこの規格戦争で致命的なダメ ージを受けることになったことは周知の通 りである。 ソニーは結局,市場競 争で実質的に敗北 し, 自らも VHSの生産へ移行す るとい う経過 を辿 ること

になった。

規格 間競争 においては,規格相互の互換性 (compatibility)が ない場合,

有力企業の提携 と企業間競争関係へのインパ ク ト 153

(20)

ネ ッ トワークの外部性 (networkexternality)が働 くため,先発企業 (first mover)が非常 に有利 な立場 に立つ ことがで きる。 ネ ッ トワークの外部性

(networkexternality)とは,財やサー ビス 自体の価値 ではな く,ユーザー 数,あるいは,ネ ッ トワークのサイズが増大するにしたが って,その財やサ

28)

‑ビスか ら得 られる便益が増大する性質 をい う。特 に,ネ ッ トワークの外部 性が働 く産業 ・製品の場合,規格間の互換性がないため,ユーザー数,ある いは,ネ ッ トワークのサイズが大 きい企業が,より多 くのユーザーを獲得 し, 企業間の競争 を制す る可能性が極めて高い。だか ら,その規格 を最初 に提案

し,あるいは,規格 を獲得 した企業が競争で絶対的に有利 になるとい うこと 29) で,先発企業の有利性 (firstmoveradvantage)を主張す る見解 も多い。

しか し

,VTR

市場では, ソニーが先 にベータを市場投入 したにもかかわ らず,VHS陣営 に敗北 を喫することになった。その理由 としては,様 々な 見方があると考 えられるが,松下電器の役割が決定的だったとい うことは否 定で きない。

VTR

の ように,規格 間の互換性が ない場合 ,規格 を獲得するため には, それぞれの製品の技術的優位性 もさることなが ら,その製品をいち早 く市場 に浸透で きる能力,マーケテイング能力が決定的な重要性 を持つことになる。

しか し,周知の ように,家電王国,松下電器 はその当時,系列小売店である

「ナシ ョナル ・シ ョップ」 を中心 に, 日本全 国に約5万店の販売網 を擁 して お り,他社の追従 を許 さない最強力の販売機構 を持 っていた。 こうした背景 もあ り

,VTR

市場 において, ソニーは松下 を自社陣営 に取 り組 むことに懸 命の努力 を払 っていたが,結局の ところ,松下電器 をベータ陣営 に取 り込む

30) ことに失敗 し,ソニーのベータは市場か ら淘汰 されてい くことになった。

VTR

と同様 に, ソニーは

DVD

において も松下電器 を自社陣営 に取 り込 も うと懸命であったが,結局 はファミリーへの組み込みに失敗 し, もしそのま まの状態で市場競争 に委 ねた場合

,VTR

の二の舞 となる危倶 は きわめて大 きかった。 こういった不利 な条件の下で, ソニー (当時 ソニー社長 は出井)

154 国際経営論集 No.22 2001

(21)

は,前述 した ように,CD特許の1つである信号変調方式 を採用す る とい う 条件で,東芝規格 を受 け入れることを決断 し, ここに,統一規格が形成 され たのである。

ここで指摘 してお きたいのは,市場導入前 に企業 間の協定 を通 じた規格統 一 を企 図す ることによ り, ソニーは結果的にDVD市場 において も大 きな影 響力 を維持す ることがで きた とい う点である。当時, ソニーはCD特許で年 間

2 0 0

億 円程度 の特許料 が入 って きている といわれてい るが,その期 限が

2 0 0 0

年であった。 しか し

,DVD

の核心部分 にあたる回路 の信号変調方式が 採用 されることになったため,CDの技術的資産 は延命 されることになった。

しか も,こうした特許は,包括的特許であるため,製品開発 が進むにつれて,

S D

陣営 もソニー との新 たな交渉事 を抱 え込 む ことになった。 この ことによ り, ソニーのCD関連特許 はまさに起死 回生 とも言 うべ き蘇生 を果 た した と

31) い うことになる。

以上 の考察 を通 して

,DVD

規格統一 において, メーカーだけで はな く, ソフ ト ・メーカーや コンピュー タ ・メーカーの意図 も大 きく影響 しているこ と,松下電器 とい う有力企業の行動 も規格の行方 を規定す る重要 な変数 とし て作用 したこと, さらには,市場導入の前段階で不利 になったソニーが政治 的な安協 を通 して,新製品の技術 的仕様 に自社 の意向 を貫徹 し,市場影響力 を維持す ることがで きたことなど,その規格統一のプロセスで,実 に様 々な 要因が関わっていることを明 らかに し得 た と考 えている。

5 DVD

規格統一 における規格協定の問題点 と有力企業の 市場影響力の維持 ・強化

シャピロは新技術 と既存技術 との互換性 (compatibility)を基 に して,企 業 が採用 し得 る規格戦略 を4つの タイプに分 けて分析 してい る。 その内, DVD規格競争 において, ソニーが採用 していた戦略 は, シャピロのい うエ

ボ リューシ ョン (evolution)戦略 に当たる。 ここにい うエ ボ リューシ ョン

有力企業の提携 と企業間競争関係へのインパ ク ト 155

(22)

表1 標準化競争のタイプ (TypeofStandardsWars)

轟 壷 換 性 (S 換 ■健

互 換 性

・自社の

̲技術

:揮 )upr

井 宣換 性 Revolutions VersVs EvolutlOn

Evolution Versus

Revolutions Rival Revolutions

(出所) C.Shapiro,andH.R.Varian,"TheArtofStandardsWars,"Callfom]'a ManagementRevJ'ew,Vol.41,No.2,Winter1999,p.16.

(evolution)戦略 とは, 自社 の既存技術 と新技術 間に互換性がある場合,企 32)

業が採用 し得 る規格戦略である。 この類型 に属する規格戦略の場合 ,特許や 生産設備, さらには,既存 の市場影響力 を挺子 にして,新製品 ・技術 にまで その影響力 を拡大 してい く戦略が採 られることになる。既存 の市場優位性 を 確保 している企業か らすれば,この優位性 をフルに活用す る戦略 を採 るのは,

きわめて当然の選択 とい うことがで きよう。 ソニーの場合 も, この戦略 を踏 襲 している。

しか し, ここで問題 となるのは,市場導入の前段階で,複数の企業が新技 術 ・製品の基本的仕様 を交渉 と安協 によ り決めて しまう可能性が きわめて高 い点 にある。その場合,競争企業が協調 の結果得 られる成果 を予 め予測 し, その成果配分 を行 うことと等 しい ことになる。すなわち,規格協定 を行 わな いで,市場競争 によって規格が決め られる場合,規格獲得 をめ ぐっての企業 の利益 は市場競争 によって規定 されることになるが, これに対 して,製品化 の段階で交渉 と妥協 によ り規格が決め られる となると,交渉 と妥協 のプロセ スで,規格獲得が もた らす利益 の コン トロールが可能 となって くるOその一 例 として,複数の企業が話 し合いによ り,それぞれにメ リッ トのある技術仕

156 国際経営論集 No.22 2001

(23)

様 を新規格 に組み込み,特許料収入 を配分す ることも十分 にあ り得 ることで ある。

このように,少数の有力企業 による規格協定は,革新的な技術 ・製品が存 在する場合で さえ,DVDの事例 に見 られるように,適当な政治的安協点 を 模索するとか,既存の有力企業の市場影響力 をそれぞれ温存で きるような規 格統一 を図るな どの抜 け道 を持つ可能性が きわめて大 きい とい うことにな る。 このことは,宮 田氏が指摘するように,技術 の優劣 よ りも販売網の強 さ で 「事実上の標準」が決 まることも十分 にあ り得 ることを意味 している。 ま た,業界内での話 し合い (提携)による 「自発的標準」では,技術 の優劣 よ りも,政治力,交渉力のある企業 (既存大企業)の影響力 により決 まること

33) が多いことにも繋がっている。

このように考察 して くると,企業間の規格協定が最高の技術 を保証 し,最 適 な効率性 を実現するとは言い難いことが明 らかになって くる。効率性の向 上 を根拠 として,企業間の提携 に関する反 トラス ト法の適用除外 を研究開発 段階だけではな く,共同生産段階まで拡大すべ きだ と主張 したジ ョルデイと

34)

ティースは,こうした問題 をどう受け止めているのか疑問が残 るところであ る。

DVDの規格統‑だけではな く,ほ とん どの規格獲得 をめ ぐる競争 は,早 に規格 を提示 した企業 (sponsor)間だけに留 まらず,そのスポ ンサー企業 に協力 し,その規格 を支持 して くれる企業の獲得競争で もある。特 に,互換 性 の ない製 品 間の規 格競 争 は,前 述 した よ うに, ネ ッ トワー ク外 部 性 (networkexternality)が働 くため,製品 自体 の優劣以上 に, よ り多 くの賛 同者 を獲得 した企業が勝利する可能性が きわめて大 きくなるといって過言で はない。

ここで注 目すべ き点は,規格提示企業 に賛同 して くれる企業,特 に,市場 影響力が大 きい企業 を自社の規格 に囲い込むために,様 々な政治的妥協が行 われるということである。言い換 えれば,異 なる規格 を提示 している企業が,

有力企業の提携 と企業間競争関係へのインパ ク ト 157

(24)

相互 に規格統一 を目指 して交渉 と妥協 を行 うだけではな く, 自社の規格 に賛 同 して くれる第3の企業 を獲得するためにも多様 な交渉 と安協が行われるこ とになる。

したがって, ここでは,繰 り返 し強調するように,技術 的にも性能的にも 優秀 な ものが規格 として採択 されるとは限 られないこと,有力企業 を自社の 連合体の中により多 く組み込み得 る企業が規格 を獲得す る機会 を多 く持ち得 ることが明白になる。その上,自社 の規格 に有力企業 を囲い込 むために,共 謀その もの と見 なされるような企業間の政治的妥協が行 われることも十分 に あ り得 ることである。規格協定におけるこうした特徴のゆえに,規格協定そ の ものをも企業間提携 として見 な していると言 えよう。今後,規格協定 をそ の内容 とす る企業 間提携が今後一層活発化す ることは当然の成 り行 きであ り,企業間提携の研究の中核 に位置 して,研究の分析 フレームワークの総合 化,体系化 に大 きく貢献することになろう。

かつての

VHS

対ベータの規格競争で もそ うだったように,家電王国の名 にふ さわ しい卓越 したマーケテイングカ を持つ松下電器 を自社の連合体 に取 り込 もうとして, ソニー と松下間に行 われた交渉 と妥協, さらには

,S D

と MMCDの 選 択 に お い て ,松 下 電 器 が 採 っ た行 動 は機 会 主 義 的行 動

(opportunisticbehavior)という実態 を持 ち,興味深い。

ここでは,DVD規格統一 をめ ぐり,松下電器 を自社 の規格 に取 り込むた めにソニー ・松下間で進行 した交渉 と安協 のプロセスを追いなが ら,規格統 一 をめ ぐる企業間の協定が,有力企業の市場影響力の維持 にいかに利用 され ているのかを明 らかに してい く。

前述 した ように,そ もそ もDVDの製品化 は東芝が松下に持 ち掛けて本格 的に始 まった と言われている。単純 に考 えてみて も,CDで膨大 な特許料収 入 を得 ているソニーが,CDにとって替わ り,ソニーの持つ市場優位性 を一 気 に覆す恐れのあるDVDを業界の先頭 を切 って製品化 し,市場投入 を図る

とい うことは到底考 えられないことである。

158 国際経営論集 No.22 2001

(25)

いずれに しろ,DVD の製品化が本格化 している中, ソニーは家庭用 VTR での苦い教訓 を活か して,当初か ら,松下電器 を自社の陣営 に取 り込 もうと 必死 に努力 し,最重要課題 として位置づけていたことは明白である。 したが

って,世界的に有力 なエ レク トロニ ックス企業であるフィリップス,世界最 大のAV メーカーであるソニー,そ して家電王国松下の 3社が DVD の規格 で一致すれば,それがそのまま事実上の世界標準 になって しまう可能性が極

35) めて高 く,その点では,疑 う余地はほとん ど皆無であった。

ここで,ソニーは松下 を自社 の規格 に賛 同させ るために

,DVD

特許料 の 20%を松下 に渡す という大胆 な条件 まで提示 していたことに注 目してお く必 要がある。つ ま り,前述 したように,

MMCD

CD

の延長線で作 られた も のである限 り

,DVD

の特許料 は松下 に入 る とい う根拠 は きわめて希薄であ る。 この ような背景 の下で,松下 は 「ソニー方式 の

DVD

の フィー を,松 下 ・ソニー ・フィリップスの

3

社で三等分す るな ら,

MMCD

の規格 に賛同 する」 とい う条件 を出 した とい う。 この条件 については

,CD

特許の共同所 有者であるフィリップスが当然の如 く反対 したため,ソニーは自分の取 り分 を30%に減 らし,残 り20%を松下 に渡す とい う交渉が進行 していた とされて

36) いる。

単 に自社の規格への賛同を獲得 し,その規格 に基づいて製品化 を進行 させ るというだけのために,ソニーが受け取 るべ き特許料の一部 を松下に提供す るという取 り決めは,実質的には共謀 (conspiracy)その ものであ り,ここ には,技術革新や経済効率の引 き上げ‑の貢献 とい う論理は もはや通用 しな い と言 ってよい。しか も,企業間のこうした行為や取 り決めは,本来的には, 独 占禁止法, さらには,反 トラス ト法 (米国) に抵触す る性格 の ものであ

る。

一方,技術 的な優位性 にもかかわ らず,東芝は松下の取 り込みに失敗 し, 孤立せ ざるを得 ない状況 に追い込 まれている。 ここで,東芝 を窮地か ら救 っ たのはタイム ・ワ‑ナ‑を始め とするアメリカの映画会社であった。前述 し

有力企業の提携 と企業間競争関係へのインパ ク ト 159

(26)

た ように,DVDとい うシステム商品の特徴上, ソフ トを掌握 している映画 会社の協力 は絶対 的な要件であるのに加 えて,幸いなことに,1992年,東芝 が タイム ・ワ‑ナ一に5.6%を出資 した以降,両社 はハ ー ドとソフ トでの相 互補完関係 にあった。

そこで,東芝はSDの優位性 を周知 させ る と同時 に, ソニーの企図を防止 す る行動 に出ている。それがハ リウッ ドでのDVDのデモ ンス トレーシ ョン であった。他方,松下, ソニー も,それぞれのDVDデモ ンス トレーシ ョン を行 ったが,ハ リウ ッ ドでの映画業界か らの厳 しい注文 と牽制が松下 を して SDに復帰 させ る決定的 な要因 となった。当時,ハ リウ ッ ド映画会社 を相手 にデモ ンス トレーシ ョンを担当 した松下電器の責任者 は,なぜ,松下が技術 的にも優 れているSDか らMMCDに乗 り換 えるのか,その説明 を求め られ るなど,厳 しい注文 をつけ られた とされている。

また,SDの技術 的優位性 に もかかわ らず, ソニー, フィリップス,松 下 の3社が,MMCDの規格 を世界標準 として既定事実化す るため に,記者発 表 を しようす ることに対 して, タイム ・ワ‑ナ‑が松下 を反 トラス ト法違反 として訴 える と抗議す る場面 もあった。未 だ技術 も確立 していない段階で, ソニー方式 をDVDの統一規格 として記者発表す ることは,いわゆるカルテ

37)

ル行為 に当たる とい うのがその根拠であった。こうした背景 もあ り,松下は, 38) 結局,SD陣営 に復帰 し,規格 を差 し替 えることになったわけである。

DVD規格統一 をめ ぐる もう1つの企業間の交渉 と安協 は,前述 した よう に, ソニー と東芝間に行 われた統一規格 に関す る折衝である。 この点 に関 し てはすで に詳細 に考察 したため,割愛するが, もし, ソニー と東芝間に規格 調整が行 われていなかった とすれば,その当時の状況か ら見 て,東芝の規格 がDVDの統一規格 として生 き残 る可能性 は きわめて大 きく,その ことは最 後の賭 けともいうべ き,強引そのもののソニーの行動からも裏付 けられている。

ここで問題 となるの は, ソニーが東芝 と交渉 ,安協 を行 うこ とに よ り, CDの市場影響力 を挺子 に,DVDにまでその影響力 を持 ち込 む ことがで き

160 国際経営論集 No.22 2001

(27)

た とい う点である。 これこそ,規格協定 (提携)が,有力企業の市場影響力 の維持 ・強化 の手段 として用い られ易い ことを端的に示 した もの と言 える。

さらに,松下電器の囲い込みで も考察 したように,次世代の技術 ・製品にお いて,有力企業がその市場影響力 を維持 ・強化するために,企業間の規格協 定の場 を徹底的に活用することを十分 にうかが うことがで きる。

規格協定 を基軸 とする提携 は有力企業 における市場影響力の維持 ・強化の 手段 として きわめて有効であることは明 らかであるが,反面,中小の下位企 業 にとっては,重大 な参入障壁 (entrybarrier),または移動障壁 (mobility barrier)として機能するはずである。

有力企業間の規格協定 と下位企業のジレンマ

1 下位企業の排除 と提携交渉力の較差

以上,DVD規格の統一 をめ ぐる一連のプロセス を通 じて,企業間の提携 が有力企業の市場影響力の維持 ・強化 につながる可能性 について考察 して き たが, この可能性 は同時 に,結果的には中小 の下位企業 に重大 な参入障壁, または移動障壁 として働 く可能性 に繋が るはずである。 もちろん, これは, 提携 自体が こうした障壁 を引 き出す とい うことではな く,提携の結果 として, 提携 に関 して下位企業が直面 しているジレンマ として把握す るべ きか もしれ

ない。特 に,業界標準の ように,当該製品の将来の技術的仕様 を決める場合, 企業間提携 に関する下位企業のジレンマは一層浮 き彫 りにされると言えるは ずであ り,以下,その点 を考察する。

現在,多 くの企業が業界標準 をめ ぐって重点 を置いているのは,主要技術 の特許の取得,製品 ・製造技術 における技術的仕様 を自社 に有利 にすること である。しか し,中小 の下位企業の場合,その技術能力やマーケテイングカ, 市場影響力の限界か ら,規格協定過程で排除 されるか, また,参加 した とし て もその影響力はご く限 られるとい うことである。

有力企業の提携 と企業間競争関係へのインパ ク ト 161

表 2 主なホーム ・ネッ トワーク規格の概要

参照

関連したドキュメント

・ 継続企業の前提に関する事項について、重要な疑義を生じさせるような事象又は状況に関して重要な不確実性が認め

この資料には、当社または当社グループ(以下、TDKグループといいます。)に関する業績見通し、計

これはつまり十進法ではなく、一進法を用いて自然数を表記するということである。とは いえ数が大きくなると見にくくなるので、.. 0, 1,

それでは資料 2 ご覧いただきまして、1 の要旨でございます。前回皆様にお集まりいただ きました、昨年 11

継続企業の前提に関する注記に記載されているとおり、会社は、×年4月1日から×年3月 31

つまり、p 型の語が p 型の語を修飾するという関係になっている。しかし、p 型の語同士の Merge

そのため、ここに原子力安全改革プランを取りまとめたが、現在、各発電所で実施中

能率競争の確保 競争者の競争単位としての存立の確保について︑述べる︒