研 究論文
新 世代 ネ ッ トワー ク と
経営情報 シス テムに関す る一考察
荒 井 義 則
ア ブス トラク ト
本稿 では、新世代 ネ ッ トワークの必要性 を指摘 し、その全体像 を把握 した。次に、新世 代 ネ ッ トワーク上の経営情報 システムを考察 し、新世代 ネ ッ トワーク と経営情報 システム がオー トポイエーシス ・システムであることを示 した。 さらに、新世代 ネ ッ トワークに経 営情報 システムを接続 したシステムが構造的カ ップ リングであることも示 した。
キー ワー ド :インターネ ット、新世代 ネッ トワーク、経営情報 システム、 自己組織化、オー トポイエー シス
1. は じめに
現代 は情報 ネ ッ トワーク社会であ り、その中
心
はイ ンターネ ッ トである。 インターネ ッ トは さまざまな分野で利用 されてお り、 日常生活や 企業活動 な どにおいて必須 の道具 となっている が、セキュ リテ ィや通信 品質の面で、 固定電話 網が果た した ようなユニバ ーサルサー ビス を担 うネ ッ トワークとはなれず、 また、現在 の よう なネ ッ トワーク社会 を念頭 に置いて設計 された わけではないので、今後 さらに発展 してゆ ぐ情 報 ネ ッ トワーク社会の基盤 となるには問題点が 多す ぎる。老朽化 した固定電話網 をIPを利用 したネ ッ ト ワークで置 き換 えた「次世代 ネッ トワーク」(Next GenerationNetwork、以下NGNと略す)はす でに一部 の地域 において提供 されてお り、次世 代 を担 うネッ トワークとして期待 されているが、
後述す るようにい くつかの問題点が指摘 されて お り、 また野村総合研 究所が実施 した企業 アン ケ‑巨 において も、「重要度が低 いあるいは最 も低 いIT」の第10位 にランクされていて、注 目 度はそれほ ど高 くない。NGNは次世代のネッ ト
ワーク として発展す る可能性 は十分有 している が、現時点では次世代 のネ ッ トワークの中心 と なれるか どうかは不 明である。
本稿で考察す る 「新世代 ネッ トワーク」 (New GenerationNetwork、以下NWGNと略す) は 社会のネ ッ トワーク‑ の要求 を考 えて、現在 の 技術 にとらわれず、白紙の状態か ら設計するネッ トワークである。ここではNWGNの代表的なネッ トワークである 「AKARIプロジェク ト」を対象 として、その特性 を考察する。 さらに、 このネッ トワーク上の経営情報 システムを考 え、 どの よ うなシステム となるか を検討す る。
2 .
インターネ ッ トの成功 と破綻(1) インターネ ッ トの利用
「平成21年度通イ討 U用動向調査」 によると、平 成21年末 においてイ ンターネ ッ ト利用者 (日本 国内) は9,408万人に達 し、平成20年末に比べて 317万人増加 している2。企業のインターネ ッ ト利 用率は99.5%であ り、500人以上の企業では100%、
500人未満 の企業では99.2%となっている3。
また、個人についてのパソコンからのインター ネッ トの利用 目的は (調査人数は1,0243人、複 数回答)
1)企業 ・政府等のホームページ ・ブログの 閲覧 (55.8%)
2)商品 ・サービスの購入 ・取引 (金融取引 を除 く)(46.9%)
3)電子 メールの受発信 (メールマガジンは 除 く)(46.4%)
4)個 人 の ホ ー ム ペ ー ジ ・ブ ロ グ の 閲覧 (42.5%)
5)地図情報提供サービス (有料 ・無料 を問 わない)(34.7%)
6)デジタルコンテンツ (音楽 ・音声、映像、
ゲームソフ ト等)の入手 ・聴取 (25.3%) 7)動画投稿サイ トの利用 (23.4%) 8)メールマガジンを受信 (有料 ・無料 を問
わない)(22.2%)
9)イ ンタネッ トオークシ ョン (17.0%) 10)金融取引 (ネ ッ トバ ンキ ング、ネ ッ トト
レー ド等)(12.7%)
ll)電 子 掲 示 板 (BBS)・チ ャ ッ トの 閲 覧 (12.4%)
12)アンケー ト回答 (ll.8%) 13)クイズ ・懸賞応募 (10.5%)
14)電子 ファイルの交換 ・ダウンロー ド(P2P、 FTPな ど)(9.0%)
15)オ ンラインゲーム (ネッ トゲーム)への 参加 (8.4%)
16)就職 ・転職関係 (求人情報入手、採用応 募等)(8.3%)
17)電子掲示板 (BBS)への書 き込み ・チャッ ト‑の参加 (6.1%)
18)ソー シャルネ ッ トワーキ ングサ ー ビス (SNS)への参加 (4.7%)
19)ホームページ (ブログは除 く)の開設 ・ 更新 (4.7%)
20)ブログの開設 ・更新 (4.5%)
21)電子政府 ・電子 自治体の利用 (電子申請、
電子 申告、電子届 出)(4.2%) 68国際経営論集 No.40 2010
22)通信教育の受講 (e‑ラーニング)(2.6%) 23)在宅勤務 (テレワーク、SOHO)(0.6%) 24)その他 (4.7%)
25)無 回答 (10.6%)
であ り4、個人 についての携帯電話 か らのイ ン ターネ ッ トの利用 目的は (調査人数は9,410人、
複数回答)
1)電子 メールの受発信 (メールマガジンは 除 く)(54.5%)
2)商品 ・サー ビスの購入 ・取引 (金融取引 を除 く)(30.1%)
3)デジタルコンテンツ (音楽 ・音声、映像、
ゲームソフ ト等)の入手 ・聴取 (29.4%) 4)メールマガジンを受信 (有料 ・無料 を問
わない)(17.4%)
5)個 人 の ホ ー ム ペ ー ジ ・ブ ロ グ の 閲 覧 (16.2%)
6)地図情報提供サー ビス (有料 ・無料 を問 わない)(14.1%)
7)企業 ・政府等のホームページ ・ブログの 閲覧 (13.8%)
8)電 子 掲 示 板 (BBS)・チ ャ ッ トの 閲 覧 (5.9%)
9) クイズ ・懸賞応募 (5.9%) 10)動画投稿 サイ トの利用 (5.5%) ll)アンケー ト回答 (5.3%)
12)インタネ ッ トオークシ ョン (4.9%) 13)オ ンライ ンゲーム (ネ ッ トゲーム)への
参加 (4.8%)
14)電子掲示板 (BBS)への書 き込み ・チャッ トへの参加 (3.2%)
15)ソー シャルネ ッ トワー キ ングサ ー ビス (SNS)への参加 (3.0%)
16)金融取引 (ネ ッ トバ ンキ ング、 ネッ トト レー ド等)(2.8%)
17)ブログの開設 ・更新 (2.5%)
18)就職 ・転職関係 (求人情報入手、採用応 募等)(2.4%)
19)電子 ファイルの交換 ・ダウンロー ド(P2P、
FTPなど) (2.2%)
20)ホームページ (ブログは除 く)の開設 ・ 更新 (1.6%)
21)電子政府 ・電子 自治体の利用 (電子申請、
電子 申告、電子届 出) (0.2%)
22)通信教育の受講 (e‑ラーニング) (0.10/o) 23)在宅勤務 (テレワーク、SOHO)(0.1%) 24)その他 (2.7%)
25)無回答 (26.4%) である5。
これ らの結果 を見 ると、インターネ ッ トは極 めて多数の人々に使 われていることが分か り、
その利用 日的 もかな り広範囲に渡 っていること が分かる。イ ンターネ ッ トは明 らかに社会基盤 の一つになっている。
(2)インターネ ッ ト利用時の不安 と被害 前項で見た とお り、イ ンターネッ トは現代社 会では必須の社会基盤であるが、インターネ ッ
トに対す る不安の存在 も無視 で きない。
「平成21年度通信利用動向調査」では、平成21 年末 において世帯 に関するイ ンターネ ッ ト利用 上の不安の有無 について (調査世帯4,230世帯)
1)特 に不安 は感 じない (20.2%)
2)対策 を行 っているのでそれほ ど不安 は感 じない (31.5%)
3)対 策 を行 ってい るが少 し不 安 を感 じる (28.7%)
4)不安 を感 じる (14.0%) 5)無回答 (5.6%)
であ り、平成20年末 に比べて特に 「特 に不安 は 感 じない (平成20年末は19.5%)」、「対策を行っ ているのでそれほど不安 は感 じない (平成20年 末は28.3%)」が増加 しているが、40%以上の世 帯で不安 を感 じていることが分かる6。
平成21年末における世帯の不安の内容 は (調 査世帯1,795世帯、複数回答)
1) ウイルスの感染が心配である (70.6%) 2)個人情報の保護 に不安がある (69.9%) 3) どこまでセキュリティ対策 を行 えば よい
か不明 (58.6%)
4)電子 的決済手段 の信 頼性 に不 安 が あ る (40.4%)
5)セキュリティ脅威が難解で具体 的に理解 で きない (33.3%)
6)違法 ・有害情報が氾濫 している (32.5%) 7)認証技術 の信頼性 に不安がある (15.4%) 8)知的財産の保護 に不安がある (7.8%) 9)送信 した電子 メールが届 くか どうかわか
らない (6.9%) 10)その他 (2.1%) ll)無回答 (0,2%)
であ り7、セキュリティや通信品質にかかわる不 安が多い。
平成21年末 における世帯のイ ンターネ ッ トの 被害 (パ ソコン ・携帯電話 ・PHS・PDA、調査 世帯4,064世帯) は
1) ウイルスを発見 または感染 (32.8%) 2)その他 の被害 (29.0%)
3)特 に被害 な し (36.5%) 4)無回答 (1.7%)
であ り、60%以上の世帯が被害 にあっているこ とが分かる8。
平成21年末 における世帯の被害の内容 は自宅 のパ ソコンについて (調査世帯3,751世帯、複数 回答)
1)迷惑メール (架空請求メールは除 く)の 受信 (34.8%)
2)コンピュータウィルスを発見 したが、感 染 しなかった (23.0%)
3) コ ン ピ ュ ー タ ウ イ ル に 1度 以 上 感 染 (ll.9%)
4)架空請求メールの受信 (4.5%)
5)スパイウェア等 による個人情報の漏 えい
(1.4%)
6)不正 アクセス (1.3%) 7) フィッシング (1.1%)
8)ウェブ上での誹誘中傷等 (0.7%) 9)その他 (著作権 の侵害等)(0.3%) 10)特 に被害はない (40.1%)
であ り9、迷惑メールとコンピュータウイルに関 する被害が多いことが分かる。携帯電話 につい ては (調査世帯3,251世帯、複数回答)
1)迷惑メール (架空請求メールは除 く)の 受信 (34.1%)
2)架空請求メールの受信 (14.5%) 3) コンピュー タウィルスを発見 したが、感
染 しなかった (1.9%)
4)コ ン ピ ュ ー タ ウ イ ル に1度 以 上 感 染 (1.1
%)
5) フィッシング (0.5%) 6)不正 アクセス (0.3%)
7) ウェブ上での誹譲中傷等 (0.7%) 8)スパ イウェア等 による個人情報の漏 えい
(0,1%)
9)その他 (著作権の侵害等)(0.0%) 10)特 に被害はない (40.3%)
であ り9、架空請求メール も含めて迷惑メールの 被害が圧倒 的に多いことが分かる。
企業 について、インターネットや企業内
LAN
等の情報通信 ネッ トワークを利用する上での問 題点は (調査企業数1,834企業、複数回答)
1)セキュリティ対策の確立が困難 (57.9%) 2)ウイルス感染 に不安 (56.8%)
3)従業員のセキュリティ意識が低い(40.2%) 4)運用 ・管理の費用が増大 (36.6%) 5)運用 ・管理の人材が不足 (35.9%) 6)障害時の復 旧作業が困難 (26.1%) 7)通信料金が高い (16.9%)
8)導入成果の定量的把握が困難 (15.2%) 9)通信速度が遅い (9.7%)
70 国際経営論集 No.40 2010
10)導入成果 を得 ることが困難 (7.8%) ll)著作権等知的財産の保護に不安 (6.4%) 12)認証技術 の信頼性 に不安 (5.0%) 13)電子的決済の信頼性 に不安 (3.9%) 14)その他 (2.2%)
15)特 に問題な し (4.2%) 16)無回答 (1.9%)
であ り10、平成21年末において過去1年間に情報 ネ ッ トワーク利用で受けた被害は (調査企業数 1,830企業、複数回答)
1) ウ イル ス に感 染 又 は ウ イル ス を発 見 (60.9%)
2)コンピュー タウィルス を発見 したが、感 染 しなかった (36.2%)
3) コンピュー タウ ィルス に 1度 以上 感染 (25.8%)
4)スパムメールの中継利用 ・踏み台 (3.5%) 5)不正 アクセス (1.9%)
6)故意 ・過失 による情報漏 えい (1.3%) 7)DoS攻撃 (1.0%)
8)ホームページの改 ざん (0.3%) 9)その他 の侵害 (0.9%)
10)特 に被害はない (34.8%) ll)無回答 (2.5%)
である11。被害はコンピュータウィルスによるも のが他の被害に比べて極めて多いことが分かる。
(1)、(2) よりインターネッ トに対す る不安や 問題点、被害は少 なか らず存在 しているが、そ れにもかかわ らず極 めて多数の人や企業が利用
していることが確認で きた。
(3)インターネ ッ トの成功 と破綻
こ こで は、『AKARI概 念 設 計 書Ver.2.012』
(以下 「設計書」 と略す)お よび 『AKARI概念 設計書Ver.2.0(要約)13』(以下「設計書 (要約)」
と略す) にもとづいてイ ンターネッ トの成功 と 破綻 について考察す る。
設計書 ではイ ンターネ ッ トの成功の要 因を
(1) ネ ッ トワーク層 (イ ンターネ ッ ト層) に おいて下位層のあ らゆる技術 を集約す るこ とによって、通信技術 の発展があって もそ れをIP層 においていったん収赦 し、上位層 に対す る影響 を最小 限にで きること
(2)ネ ッ トワーク層 の機能は最小 限 (パ ケ ッ ト到達性の確保)に抑え、新 しいアプリケー シ ョン要求 に柔軟 に対応で きるように して お くこと
の2点 としている14。
これ らの成功要因の背景 にあるイ ンターネ ッ トの設計原理はエ ン ド ・ツー ・エ ン ド原理であ る。 この原理 は特定のアプ リケーシ ョンを目的 としてネ ッ トワークを構築 してはな らない、換 言す るとネ ッ トワークはビッ トを送信 ノー ドか ら受信 ノー ドに運ぶ ことに徹す るとい うことで あ り、ネ ッ トワーク層 をで きるだけシンプルに す る とい うことである。 この ような利点は新世 代 ネ ッ トワークにも受 け継がれるべ き原理であ
る。
設計書では、成功 だけでな く、 イ ンターネ ッ トの破 綻 につ い て も以下 の7点 を指摘 して い る15。
(1)マルチキ ャス ト経路制御 の破綻
( 2 )ATM
の破綻(3)イ ンター ドメイ ン経路制御 の破綻 (4)ネ ッ トワーク層 固有 の時間間隔の破綻 (5)IPsecの破綻
(6)IPv4の破綻 (7)IPv6とNDの破綻
設計書では、新世代パ ケ ッ トネ ッ トワー クの 破綻 を防 ぐためには、IP自体 はまだ しも周辺技 術 については抜本的な見直 しが必要 である とし
ている。
イ ンターネ ッ トの技術 的成功要 因は設計書 に
述べ られている とお りであるが、 イ ンターネ ッ トが広範 囲に普及 した要 因は無法地帯 としば し ば称 されるほ どの 自由性 ・匿名性 ・オープ ン性 である。安全性 は考慮す る必要があるが、 この 点 をどう受け継いでい くか によって広範 囲に普 及す るか否かが決定 される。広範囲に普及 しな ければ、ネッ トワークの価値は大幅に減少する。
また、 イ ンターネ ッ トはいろいろな困難 を改 良につ ぐ改良で乗 り越 えて きてお り、今後 も改 良によって設計書 の破綻 を乗 り越 え、更 に発展 をす る可能性が大いにある。 このネ ッ トワーク としての延命力の強 さは今 日の情報 ネ ッ トワー ク社会 を念頭 に設計 されたわけではない とい う
「一貫 した計画性のなさ」によるところも大 きい。
この点は大 きな欠点 として設計書で も述べ られ ているが、逆 に一貫 した 目標が ないゆえ どの よ うにで も改良され うるという特性 を有 している。
最初か ら一方向に計画 されたネットワークでは、
この ような柔軟性 は期待 で きない。
イ ンターネ ッ トの特性 は全体 を管理す る者が いる統合 されたネ ッ トワークではない とい う意 味での非統合性、企業 ネ ッ トワークの ように一 つの組織が所有 してい るネ ッ トワークとは異 な る (一つの組織 に所有 されているわけではない) とい う意味での非組織性、無法地帯 と称 される ほ どの 自由性 ・匿名性 ・オープン性 であ り、 こ れ らがイ ンターネ ッ トの広範囲に及ぶ普及の要 因である。 これ らの点 を新世代 ネ ッ トワークで は どの ように受け継 ぐのか (あるいは受 け継が ないか)が重要 な問題である。
3.次世代ネッ トワ‑クNGNの問題点
NGNは老朽化 した固定電話網 をIP技術 を用 いたネッ トワークで置 き換 えるネッ トワークで、
イ ンターネ ッ トの欠点 とされるセキュリティと 通信品質が非常に高 くなっている。次世代のネッ トワーク として有力 な候補 である。 しか しなが ら、設計書では以下の ような欠点 を指摘 してい る16。
(1)QoSの課題
①IPを用 い る こ とで の制 限 と して のQoS 保証 の難 しさ
③帯域保証 の困難
(2) スケーラビリテ ィ、容量
(ヨセ ッシ ョン管理 におけるスケー ラビリテ ィ の不安
② セキュ リティ確保 のための末端認証、個人 認証 に必要 な トランザ クシ ョン管理 におけ る不安
(丑モ ビリティのための位置情報デー タベース における管理情報検索性のスケーラビリティ の不安
④① 〜③ の不安の未解決 による大容量移行の 難 しさ
(3)電力
①ハイエ ン ドのIPルー タをコアに擁 したペ タ ビッ トクラスの処理 によるメガワッ トクラ スの消費電力 の必要性
(4)柔軟性 、持続性
(∋ANIの実装お よび技術 とは別の制限による 発展性 の阻害の可能性
②既存サー ビスの リプ レースが大儀 であるた めの恒久的な (50年、100年を越えるような) 持続性 の考慮 な し
NGN
も含 めてNXGN( Ne x tGe n e r a t i o nNe t ‑ wo r k
、IPをベース とす る次世代 ネ ッ トワーク)は改良 ・発展 により
NWGN
に近づ く可能性があ る。NXGN
はNWGN
の概念設計図により方向 性 を兄 いだす ことが可能 となるので、設計 図の 重要性 はさ らに増す ことになる。72 国際経営論集 No,40 2010
4.新世代 ネ ッ トワーク
イ ンターネ ッ トは問題点が多 く、いずれ破綻 す る可能性がある
。NGN
は将来のネッ トワーク の中心的存在 となる可能性 は有す る ものの、IP による限界 のため 自ら変化 し社会適応 してゆ く 持続進化性 を持つ ことは難 しい。 したがって、進化 し社会適応す る持続進化性 を有す る新 しい ネ ッ トワー クを創 造す る必要 があ る。AKARI プロジェク トはこの ようなネ ッ トワークの創造 を目指 したプロジェク トである。
このプロジェク トは、現在 の技術 に揃 らわれ ず、社会 的課題の解決お よび社会的将来展望 を 見据 え、 白紙 の状態か ら理想 を追い求め、その 後現在 か らの移行 を考 えるとい う立場 をとる。
20年後、30年後 のネ ッ トワーク社会 を担 う持続 進イヒ性のある社会 イ ンフラとしての新 しいネ ッ トワーク全体 のグラン ドデザイ ンを行 うことが その 目的である。
以下では、設計書お よび設計書 (要約) に し たが って このプロジェク トを概観す る。
4.1社会的課題 と社会的将来展望
新世代 ネ ッ トワークに関 して以下の12点の社 会 的課題が指摘 されている。
(ヨエネルギー課題
②災害課題 (勤医療課題 (彰食料課題
⑤ 防犯課題
⑥事故課題
⑦ 国際地域格差課題 (む少子 ・高齢化課題 (勤国際経済格差課題
⑲教育課題
⑪ リカ レン ト教育課題
⑫ サイバーセキュ リテ ィ
また、社会 的将来展望 について以下の6点 を
上げている。
①文化 ・生活の多様性
② メデ ィア融合
③知識社会
④電子政府 ・eデモクラシー (9エ ンターテイメン ト
(¢フロンテ ィア (高度な衛星 ・地球局ネ ッ トワーク、海洋ネ ッ トワークなど) これ らを見据 えた上で、設計要求 として以下 の点 を掲 げている。
①高速大容量化 (ペ タビッ ト級バ ックボー ン、10GFTTH)
⑦スケーラブル (1,000億デバイス、M2M、 100万放送局)
③ オープ ン性 (適切 な競争原理の支援) (彰頑強性 と高可用性 (医療、交通、緊急通
報など)
⑤安全性 (プライバシー、金融、食品追跡、
災害)
(む多様性 (多様 な通信要求 を前提 とす る設 計 と評価)
⑦遍在性 (地球環境 ・人間社会モニタリン グ)
⑧統合単純化 による信頼性の向上 と拡張性 の容易 さ (通信放送融合)
⑨経済的イ ンセ ンティブが働 くようなビジ ネス コス トモデルを含 んだ設計
⑲地球に優 しい省電力型 ネッ トワーク
⑪社会の発展に合わせて発展できる柔軟性 ・ 発展性
4.2 新世代ネッ トワークアーキテクチャ設計の 基本原理
設計書では上記のような設計要求 を持つ新世 代ネ ッ トワークの設計原理 を以下の ように考 え
ている。
(1)結晶合成原則
新たな機能の統合 にさい しては、技術 の結晶 合成 と呼ぶべ き単純化 を行 って機能統合 におけ る複雑度が減 る方向に設計 を行 うことが求め ら れる。そのため、以下の3つの原則 を取 り入れ る。
①選択 ・統合 ・単純化 :
技術 を選択 し、統合す る際は単純化す ることを最 も重要視す る。
②共通 レイヤ :
共通層の存在 を前提 として他 の層での 重複機能 (共通層で実現 される機能) を 省 き、 レイヤ縮退 を行 う。
③エ ン ド ・ツー ・エ ン ド :
特定のアプリケーシ ョンに基づいて、
あるいは、特定のアプリケーシ ョンのサ ポー トを目的にネッ トワークを構築 して ほな らない とい うインターネ ッ トの基本 原理 は新世代 ネ ッ トワークにおいて も必 要である。端末 にで きることは端末 に任 せて過度の機能をネ ッ トワークに入れな い指針の存在が新世代 ネ ッ トワークにお いて も大切である。
(2)現実結合原則
インターネ ッ トの問題点は、ネ ッ トワーク上 の空間にあるエ ンティティと現実社会 とが乗離 す ることにより生 じているので、 これ らの関係 を滑 らかに結合す る必要がある。そのため、一 旦、エ ンティティを識別す る構造 を目的にそっ て分離 して独立 に体系化 した後、 これ らの間の マ ッピングやそれによって生 じる認証や トレー サ ビリティの要求 を満たす原理が必要 となる。
①物理 ・論理分離 :
複数の論理構造 を独立 して管理す るこ とが重要である。複数の論理ア ドレス空 間の多様 な体系化 を許容 し、利用で きる
アーキテクチ ャは、物理 ネッ トワークを 活用する上で も重要である。
②双方向認証 :
双方向認証が可能なネ ッ トワークを設 計すべ きである。
③追跡可能 :
ネ ッ トワーク上の攻撃 を軽減す るため には追跡可能でなければな らない。
(3)持続的な進化可能原則
新世代 ネ ッ トワークアーキテクチ ャにおいて は、ネ ッ トワークが進化 し発展す るために必要 な持続可能なネッ トワークを設計することが重 要である。ネットワークをシンプルな構造にし、
エ ン ドノー ドやエ ッジノー ドにおいてサービス の多様性 を確保す ることが必要である。 そのた め、以下のような制御 ・設計手法の確立が必要 となる。
(∋Self‑*特性 :
新世代 ネ ッ トワークにおいては、 自己 創発性が求め られ、ネッ トワーク自身が ネ ッ トワークを管理で きるようなさまざ まな機能が必要 とされる。 また、ネ ッ ト ワーク内の個 々のエ ンテ ィティが 自律分 散的に動作 し、全体 としては意図す る制 御が実現 されるような自己組織型ネ ッ ト
ワークを設計す る必要がある。 さらに、
下位層、上位層の状態に適応可能な制御 構造 を有す る自己創発型 ネ ッ トワークを 設計す る必要がある。
②スケーラブルな分散型制御 :
自己組織型制御 を導入 し、 自律的な動 作 を各ノー ドに求めることが重要 となる。
③ ロバス トな大規模 ネ ッ トワーク : 新世代ネ ッ トワークアーキテクチ ャに おいては、故障が同時に発生 した り重大 な故障が発生 した りして も対応可能な設 計が必要である。
(彰トポロジが変動するネッ トワークのため 74国際経営論集 No.40 2010
の制御 :
モバイルネットワークや
P 2 P
ネットワー クにおける通信機器の移動、生成 ・消滅 の多発 などに対応す るため、モ ビリティ を予め考慮 したネ ッ トワーク設計が必須 である。た とえば、 トポロジが頻繁 に変 動す る場合 は、経路 ・ア ドレスの維持 よ りオ ンデマ ン ドな資源発見 に対する制御 が有効 になるのは当然である。ただ し、オーバーヘ ッ ドが大 きいので、状況 に応 じた経路制御が実現で きることも重要で ある。
⑤実時間 トラヒック計測 に基づ く制御 : ネ ッ トワークの大規模化 による故障発 生の常態化 のため、制御 に必要 なタイム スケジュールに応 じた精度 を最適化 した 実時間 トラヒック計測が重要であ り、そ の経路制御への適用 も必要 となる。また、
エ ン ドホス トの自律的な動作 をより求め るためには、ネ ッ トワーク状態の リアル タイム実測あるいは推測が重要 となる。
(参オープン性 :
新 アプリケーシ ョン創生のためのユー ザに対す るネ ッ トワークのオープン性の 提供 も重要である。
4.3 科学 と技術 の融合 に基 づ くネ ッ トワーク アーキテクチ ャ
新 しいネ ッ トワークアーキテクチ ャを構築す るためには、科学 と技術 を融合 したネ ッ トワー クアーキテクチ ャの設計が重要である。科学 と 技術 を融合 した新 しいネ ッ トワーク科学 を創 出 することは容易 なことではないが、以下の よう な分野に注 目す る必要がある。
①べ き則 (参自己組織化 (参自己成長 (彰複雑適応系 (9創発性
(む非平衡系
4 . 4
新アーキテクチ ャの基本構成新世代 ネ ッ トワークアーキテクチ ャの設計原 理 に基づいたアーキテクチ ャの基本構成要素 を 概観す る。
(1)光パケ ッ ト交換 ・光パス
光パ ケ ッ ト交換 とは、電子処理 を駆使 して交 換す ると考 え られて きたパケ ッ トを光化 し、光 技術 によ り交換す る概念であ り技術 である。 光 パスは光パ ケ ッ ト交換 とは対極 にある概念であ る。 光パスは入 口側 の端 に光信号 を入力す ると 出口まで光信号が電気信号に変換 されることも、
光信号の内部論理情報 も変わることがない。デー タの通路 となる回線 の集合、すなわち、パ スが 光か ら構成 されている。光パスは、パ ケ ッ ト交 換 だけでは不十分 なサー ビス提供 のため用 い ら れる。
また、光パ ケ ッ ト交換 と光パスを統合す る機 構 として以下の3つのモデルをあげている。
①パ ケ ッ ト交換 ネ ッ トワーク とパスネ ッ ト ワークのデー タ転送媒体 の分離 ・緩 い資 源共有
(参パケ ッ ト交換 ネ ッ トワークとパスネ ッ ト ワークのデー タ転送媒体 の分離 ・積極 的 な物理資源共有
(参パケ ッ ト交換 ネ ッ トワークのデー タ転送 のためのパスネ ッ トワークの空 き資源一 時利用
(2)光ア クセス
今以上 に高速かつ様 々なサー ビスに対応す る ため、
WDM‑d i r e c t
と呼ばれる新世代光アクセ スアーキテクチ ャを用 いた以下の2つのモデルをあげている。
① シングルス ター型新世代光 アクセスアー キテクチ ャ
② ダブルス ター型新世代光 アクセスアーキ テクチ ャ
(3)ア クセス系
様々なセ ンサやパーソナル通信デバイスがユー ザ を取 り巻 くように存在す る社会 に対応 す るた めの新世代無線通信技術や無線 ネ ッ トワークを 取 り上げてい る。
( 4 )PDMA
PDMA
とは、パケ ッ ト網向けのセルラー通信 のためのパ ラダイムである。 セルラー通信 をイ ンターネ ッ トに代表 されるコンピュー タネ ッ ト ワー ク用 に設計 しなおす。(5) トランスポー ト層制御
トランスポー ト層制御のユニバーサル対応、
移行 シナ リオ、公平性 の考察 と自己組織制御型 TCPを提出す る。生物 に学ぶ 自己組織制御の例 として、 ロ トカ ・ヴオルテ ラ競争モデルに基づ くTCPの編棒制御方式 をあげている。
(6)lD とロケータを分離 したネ ッ トワーク接続 アーキテ クチ ャ
新世代 ネ ッ トワークにおいては、 ノー ド識別 子 と位置指示子 にそれぞれ異 なるエ ンテ ィテ ィ を持つ、機器識別子 と位置指示子 を分離 したID / ロケ一 夕分離 ネ ッ トワー クアーキテクチ ャが 必要である。
(7) レイヤ リング
隣接の レイヤに限 らず制御情報のや りとりを 行 な うクロス レイヤアーキテクチ ャが必要 とな
る。
(8)セキュ リテ ィ
新世代 ネ ッ トワークにおいて も分散管理型の セキュリティ機能 となるが、その内容 は以下の とお りである。
(Dユーザ利用 デバイスの信頼 とデバイス と のや り取 りの正確 な把握
(参ネッ トワーク領域 をまたがる転送におけ る盗聴 ・改窺 ・その他の攻撃の回避 (彰予測 されるあ らゆる攻撃 に対す る頑健か
つ修復可能なアーキテクチ ャ
(彰端末のモ ビリティに対す る通信 のセキュ リティとプライバ シーの保障
⑤信頼で きるサー ビス提供 と信頼で きる通 信 のためのユーザ ・機器 ・オペ レー タ ・ サー ビスプロバイダ間の信頼関係の確立 (む部分 によって様々なセキュリティポリシー を設定可能 とす るセキュリティアーキテ クチ ャの構築
(ヨアイデンティティ管理 ・認証 ・完全性 ・ 機密性 ・信頼性 を含む基本的なセキュリ ティサービスの提供
⑧異 なるグループに対す る要求に応 じた異 なるセキュリティレベルの設定
(勤異 なるセキュリティサー ビスの統合 ・自 律的構成可能なセキュリティプラットホー
ムの提供
(9) QoS経路制御
QoS経路制御 における様々な困難に対処する ため、新世代 ネッ トワークにおいては以下のよ うな対応が必要である。
①QoS通信の経路の統合の不可能性の認識
②各通信 に必要なQoS経路制御情報のその 通信 のシグナ リングメ ッセージによる運 搬
③マルチキャス ト経路制御のQoS経路制御
‑ の統合
76国際経営論集 No.40 2010
(彰事業者の誇大広告の禁止 (10) ロバス ト性制御
スケイラビリテ ィ、故障などを含 めた通信環 境の変動 に対す る適応性 などを実現す るため 自
己組織化の仕組みを導入する。基本的には、ネッ トワーク内エ ンテ ィティが局所通信 によっての み制御 を行い、それによってマクロで見て全体 のシステムで 目的 とす る機能を創発す るもので ある。
(ll) オーバー レイネッ トワーク
新世代 ネ ッ トワークにおいては、持続的発展 性の実現やユーザ コン トローラビリティなどの 枠組みが必要である。持続的発展性 を実現す る
ための技術 的要件 は
①機能移行機構
②移行ポ リシー
があ り、ユーザ コン トローラビリティを実現す るための技術 的要件 は
(∋高度な リソース管理機構 (彰リソース連携機構
③ 中継 ノー ドのAPI である。
(12)ネ ッ トワーク仮想化
ネ ッ トワーク仮想化 とは、仮想化技術 をネ ッ トワークに拡張 した ものである。す なわち、共 有 された物理的な基盤 ネッ トワークを複数の論 理的なネ ッ トワークとして見せ る技術 である。
この技術 により、アーキテクチ ャ設計、競争原 理、持続進化 などが促進す る枠組みを構築す る
ことが可能である。
(13)アプ リケーション基盤
新世代 ネ ッ トワークの機能要件 を抽 出す る上 で重要 なデー タ管理基盤 について
①光 グ リッ ドネ ッ トワーク基盤
(参マネージ ド無線 メ ッシュを用 いた地域 向 け情報流通 プラッ トホーム
③パーソナルネ ッ トワーク技術
④ オープ ンNGN
を考察す る。
4.5 新世代 ネ ッ トワークアーキテクチャの提案
設計書では、 目的別に以下の5つのネットワー ク構成 をあげている。
① モデルA :階層化 とクロス レイヤ連携 に 基づ く統合 的アーキテクチ ャ
②モデルB:下層 (ネ ッ トワーク層以下)の 機能重複 を省 き極力単純化 し たアーキテクチ ャ
③ モデルC :QoS保障 とマルチキャス トを 志 向 したアーキテクチ ャ
④ モデルD :異種 デバ イス ・ネ ッ トワー ク 接 続 を志 向 した ア ー キ テ ク チ ャ
⑤ モデルE :セ ンサ情報流通 と地域 ・個人 適応サー ビスを志 向 したモバ イルアクセスアーキテクチ ャ 4.6 まとめ
4.1‑4.5においては設計書お よび設計書 (要 約) に基づ き、新世代 ネ ッ トワークに対す る社 会的要求 と設計要求、新世代 ネ ッ トワークアー キテクチ ャ設計の基本原理、科学 と技術 の融合 に基づ くネ ッ トワークアーキテクチ ャ設計、新 アーキテクチ ャの基本構成、新世代 ネ ッ トワー クアーキテクチ ャの提案 を概観 した。
新世代 ネ ッ トワークは、現在存在す るネ ッ ト ワークの改良や現在 ある技術 による構築ではな く、社会的要求 に対応す る設計要求 を もとに白 紙 の状態か らネ ッ トワークアーキテクチ ャを構 築す るとい う方式であるか ら、社会的課題 に対 す る対応能力 は非常 に高 くなる。 しか し、将来 の社会 を予想す ることは非常 に難 しいので、設 計書で も述べ られているように、変化 に対応 で きる柔軟 なネ ッ トワー クの設計 ・構築が重要 と なる。
新世代 ネッ トワークは技術的には優れてお り、
セキュリティや通信 品質の面で も格段 の進歩 を しているが、 イ ンターネ ッ トに変 わって、社会 の基盤 となるネ ッ トワー クになるか どうか は分 か らない。 イ ンターネ ッ ト以上 に安価 で使 いや すいサー ビスが提供 で き、 さらにイ ンターネ ッ ト以上 の 自由性 ・匿名性 ・オープ ン性 が保証で きて初 めてイ ンターネ ッ トを凌駕す る社会基盤 としてのネ ッ トワー クとなるが、簡単 には乗 り 越 え られない壁 である。
5.オ ー トポ イ エ ー シ ス17 26
新世代 ネ ッ トワー クのおいは、すでに見 て き た とお り、「自己組織化」が重要 な役割 を果た し ている。河本はシステムの進化 を3段階にわけ、
「自己組織化」 を第二世代 システム と位置づけて い る18。 システム発展 の3段 階 は
第一世代 システム 動的平衡系 第二世代 システム 自己組織化
第三世代 システム オー トポイエー シス である。本稿 で はオー トポイエー シスの観点か ら新世代 ネ ッ トワークと経営情報 システムを考 察す る。そのため、 ここではオー トポイエーシ スについて概観す る。
オー トポイエーシスは生命 システムを説明す るためにH.R.マ トウラーナ とF.J.ヴァレラに
よって導入 された概念である17。H.R.マ トウラー ナと F.∫.ヴァレラはオー トポイエーシスを次の ように定義 した27。
オー トポイエティック ・マシンとは、構成 素が構成素 を産出するとい う産出 (変形及 び破壊)過程のネ ッ トワークとして、有機 的に構成 (単位体 として規定) された機械 である。 この とき構成素は、次の ような特 徴 を持つ。 (i)変換 と相互作用 を通 じて、
自己を産出す るプロセス (関係)のネ ッ ト ワークを、絶 えず再生産 し実現す る。 (ii) ネ ッ トワーク (機械) を空間に具体的な単 位 として構成 し、 またその空間内において 構成素は、ネ ッ トワークが実現す る位相的 領域 を特定す ることによって 自らが存在す
る。
また、 この定義の帰結 として、4つの特徴 をあ げている28。
(1)オー トポイエテ ィック ・マシンは自律的 である。それがプロセスのなかで どの よう に形態を変えようとも、オー トポイエティッ ク ・マシンはあ らゆる変化 をその有機構成 の維持‑ と統御する。 (自律性)
(2)オー トポイエテ ィック ・マ シンは個体性 を持つ。すなわち、絶 えず産出を行い有機 構成 を不変に保つ ことによって、観察者 と の相互作用 とは無 関係 に、オー トポ イエ ティック ・マシンは同一性 を保持する。 (個 体性)
(3)オー トポイエテ ィック ・マ シンは、特定 のオー トポイエテ ィックな有機構成 をもっ ているので、そ してまさにそのことによっ て、単位体 を成 している。オー トポイエティッ ク ・マシンの動作が、 自己産出のプロセス のなかでみずか らの境界を決定する。 (境界 の自己決定)
78 国際経営論集 No.40 2010
( 4 )
オー トポイエティック ・マ シンには入力 も出力 もない。 (入力 と出力の不在) 河本 は 4つの特徴の うち、 自立性、個体性、境界の 自己決定は伝統的な有機体論の視点か ら で も十分理解可能であるが、「入力 も出力 もない (入力 と出力の不在)」 は理解不能であると述べ ている。 さらに、 この点 について、観察者の視 点ではな く、 システムの動作 を内的な視点で捉 える限 り、 システムその ものにとっては 「入力 も出力 もない」 とい うことになると説明 してい る。 システムを産出的作動 とい う点で理解す る と、 システム と外的条件 をどの ように詳細 に分 析 して も、 システムの産出的作動 を分析 したこ
とにはな らない とも述べている29。
オー トポイエーシス ・システムの最大の特徴 は 「入力 も出力 もない」 とい う点であ り、 シス テムの作動 を内的な視点で分析 しない限 り理解 す ることがで きない とい う点である。
6 .
新世代 ネ ッ トワークとオー トポイエーシス新世代 ネ ッ トワークの特徴の一つは自己組織 化である。アーキテクチ ャとして組み込 まれて いるので、ネ ッ トワークが完成 した後 は人手が な くとも自己組織化 される部分が存在す る。
一方、オー トポイエーシスの観点か らは、産 出関係 と入出力の不在が必要 となる。生命 シス テムの ようにネ ッ トワーク自体がネッ トワーク を産出す ることは (少 な くとも現時点お よび近 い将来においては)あ りえないので、ネットワー クのみを考察の対象 としたのではオー トポイエー シス ・システムにはな りえない。 したがって、
本稿 では新世代 ネ ッ トワークとそれを管理 ・発 展 させ る人 も含めて考 える。 この ような立場で 考察するときは、すなわち人 も含 めて考 えると き 「新世代 ネ ッ トワーク ・システム」 と呼ぶ こ とに し、人 を除いて考 えるときは今 まで どお り
「新世代 ネ ッ トワーク」 と呼ぶ ことにす る。
以下では、「新世代 ネ ッ トワーク ・システム」
が 「オー トポイエース ・システム」であること を示す。
「新世代 ネッ トワーク」は 「変化 に対応できる 柔軟 なネ ッ トワーク」 として設計 されるので、
完成後 も改良 された新たな 「新世代 ネ ッ トワー ク」に変化 してゆ く。 この変化 は新世代 ネ ッ ト ワークにかかわる人 (新世代 ネ ッ トワーク ・シ ステムに含 まれる) によって行われる。 この過 程は 「新世代 ネ ッ トワーク ・システム」が 「新 世代 ネッ トワーク ・システム」 を産出する過程 と考 えられる。改良、発展 は継続 されてい くの で、産出過程が続 く産出過程の連鎖 となる。 産 出については他 の産出プロセスを必要 としない ので、閉域 として独立 し、オー トポイエーシス ・ システム となる。他の産出プロセスを必要 とせ ず、 自分 と自分以外の全てのプロセス を明確 に 切 り離 しているので、個体性 は明 らかであ り、
外部か ら直接操作で きないので 自立性 も明 らか であ り、境界 も当然形成 される。新たな (改良 され発展 した)「新世代ネットワーク ・システム」
を産出するためには、物質 (素子や機器など)、 情報、場合 によっては人を取 り入れる (入力)必 要があ り、その意味では入力が必要 となるが、
産出プロセスの連鎖 は閉域 を形成 してお り、入 力 ・出力は存在 しない。
以上 より、(人 を含めた)新世代ネッ トワーク・
システムはオー トポイエーシス ・システムであ ると考 えられる。
7.経営情報 システム30 34
情報 は 「ヒ ト・モノ ・カネ」 と並ぶ第 4の経 営資源 とみなされ、現代 の企業 においてはその 取 り扱いが経営成績に重大な影響を与えている。
それゆえ、情報 を取 り扱 う最適なシステムの構 築 は最優先の課題 となっている。
情報 を扱 うシステムはコンピュータとネ ッ ト ワークか らなる情報通信 システムが中心である が、高性能の情報通信 システムを所有 していて も、それにかかわる多様 な 「ヒ ト」の能力 いか んでは全 く機能を果たさな くなる場合 もある。
また、情報の取得 ・伝達 においてはコンピュー タネ ッ トワークを通 さない 「ヒ トか らヒ ト
」へ
の情報経路 も重要である。それゆえ本稿 では経 営情報 システムに 「ヒ ト」 を含める。すなわち 経営情報 システムを 「コンピュータネ ッ トワー ク+ヒ ト」 と考 える。 ヒ トを含 めない場合、経 営意思決定において経営情報 システムの機能は
「意思決定支援機能」 となるが、 ヒ トを含める場 合 は 「意思決定機能」 となる。
情報 システムが企業で最初 に用い られた 目的 は 「業務の 自動化」である。 手作業で行 われて いた業務の情報 システムによる自動化 は最初か ら成功 を収め、現在 に至 るまで経営情報 システ ムの必須の機能 となっている。 この初期の経営 情報 システムは 「電子デー タ処理システム」 と 呼ばれた。
1960年代 になると 「経営情報 システム」 とい う概念が形成 されたが、当時の経営情報 システ ムは業務の 自動化 に加 え 「構造的意思決定」 に おいて も成果 を挙 げた。
1970年代 になると60年代の 「経営情報 システ ム」では扱 えなかった 「準構造的意思決定」 に 対応 した 「意思決定支援システム」が登場 した。
最終的な判断は 「ヒ ト」が決定す るが、決定過 程 においてコンピュー タネ ッ トワークシステム が有用 な支援 を実施す る経営情報 システムであ る。 このシステムでは、最終判断が意思決定者 の能力 に依存す るので、必ず しも企業 にとって 有益 な決定がなされるとは限 らない。 この点 を 改善す るためエキスパー ト ・システムを活用す る経営情報 システムの研究がなされているが、
現時点において も高度 な経営意思決定が可能な コンピュータシステムは存在せず、意思決定 に おいては 「ヒ ト」が重要な役割を果たしている。
1980年代後半 になると、意思決定 とは別の面 か ら経営情報 システムを活用す る 「戟略的情報 システム34」が提唱 される。経営情報システムを 戦略的に活用 し、企業の競争優位 を獲得 しよう とす るシステムであったが、一時的な競争優位 は得 られて も、持続的な競争優位 は得 られず、
評価が低下 した。
「戦略的情報 システム」以後 「一 一 一 経営 情報 システム」 とい う概念 は提唱 されな くなっ たが、現代企業 における経営情報 システムはさ らに重要性 を増 してお り、業務の 自動化 (効率 化)、意思決定、業務 プロセスの支援など企業の 各部署で経営支援 を遂行 している。
本稿 では経営情報 システムを、企業内 (企業 所有)の経営情報 システム (狭義の経営情報シ ステム)に新世代 ネ ッ トワークを介 して低 コス トで企業外部の膨大 な数の個人 (消費者) と接 続 された巨大 な情報 システム35である と考 える (このシステムを広義の経営情報 システムと呼ぶ ことにする)。狭義の経営情報 システムはこの巨 大 なネ ッ トワークシステムのハ ブであ り、集合 知 による決定 とその利用 とい う新たな役割 を果 たす ことになる。
8 .
狭義の経営情報 システム とオー トポイ エーシス狭義の経営情報 システムも新世代 ネ ッ トワー ク ・システムと全 く同様 に してオー トポイエー シス ・システムであることが示せ る。
「狭義の経営情報 システム」 は現在でも 「変化 に対応で きる柔軟 なシステム」 として設計する のが望 ましいとされているが、新世代ネットワー クが完成す る将来においてはより柔軟 なシステ ムになっていると思われる。 したがって、完成 後 も改良された新 たな 「狭義の経営情報 システ ム」 に変化 してゆ く。 この変化 は 「狭義の経営 情報システム」に含 まれる人によって行われる。
この過程 は 「狭義の経営情報 システム」が 「狭 義の経営情報 システム」 を産出す る過程 と考え られる。改良、発展 は継続 されてい くので、産 出過程が続 く産出過程の連鎖 となる。産出につ いては他 の産出プロセスを必要 としないので、
閉域 として独立 し、オー トポイエーシス ・シス テム となる。他 の産出プロセス を必要 とせず、
自分 と自分以外の全てのプロセスを明確 に切 り 離 しているので、個体性 は明 らかであ り、外部 か ら直接操作でいないので 自立性 も明 らかで、
80 国際経営論集 No.40 2010
境界 も当然形成 される。新たな (改良され発展 した)「狭義の経営情報 システム」を産出するた めには、物質 (素子や機器など)、情報、場合 に よっては人 を取 り入れる (入力)必要があ り、
その意味では入力が必要 となるが、産出プロセ スの連鎖 は閉域 を形成 してお り、入力 ・出力 は 存在 しない。
9 .
構造的カップ リングと広義の経営情報シ ステム「構造的カップリング」 とは複数のオー トポイ エーシス間の関係 を表 した ものである。
H.R.マ トウラーナは「構造的カップリング」を 次の ように説明 している。
二つ以上の単位体の行為 において、ある単 位体の行為が相互 に他 の単位体 の行為の関 数であるような領域がある場合、単位体 は その領域で連結 している (カップリング) と 言って よい。 カップリングは、相互作用す る単位体が、同一性 を失 うことな く、相互 作用 の過程でこうむる相互の変容の結果 と
して生 じる36。
山下は 「構造的カップリング」 を以下の よう に説明 している。
構造的カップ リングとは、複数のオー トポ イエーシス ・システム同士がお互いを環境 として撹乱 を生 じあっている状態である。
したがって、 これはシステム間の単純 な相 互作用ではない。一方のシステムが他方の システムに働 きかけ、それに応 える形で逆 に働 き返す、 という図式にはなっておらず、
相互の撹乱 は完全 に同時で、そのためそれ ぞれの作動 は自律的であ り、対応 関係 にな い。 したがって、構造的カップリング して いるそれぞれのシステムにお きる変化 に因 果的対応 関係 をつけることは不可能だが、
構造的カップ リングはそれ らシステムすべ
ての作動 の前提 とな り、それぞれの システ ムはカ ップ リング してい る相手 の システム の作動 を残 らず 自分 自身の作動 に織 り込 ん でい る。 とは言 って も、 オー トポイエー シ ス ・シス テムに 自分 の環境 に属す るシステ ムは見 えないか ら、それぞれの システムか ら撹乱 を受 けつつ、 自分 のオー トポイエー シス維持が可能 な範囲で、 自律 的に作動 し てい るだけだが。 当然、 カ ップ リング して い る総体 に何 が起 きるか は、創発 に よる。
個 々のシステムの作動か らは決 ま らない。
新世代 ネ ッ トワー ク ・システム も狭義 の経営 情報 システム もオー トポイエー シス ・システム であ るか ら、 これ らの結合 は構造 的 カ ップ リン グ となる。 新世代 ネ ッ トワー クで接 続 される個 人 (消費者) はオー トポイエー シス ・システム と考 え られ るので、狭義 の経営情報 システム、
新世代 ネ ッ トワー ク ・システム、接続 されてい る個 人か らなる広義 の経営情報 シス テムは膨大 な数のオー トポイエー シス ・システムの構造 的 カ ップ リング とい うこ とになる。 このシステム の創発現象 は 「集合知」 であ ると考 え られ る。
10.おわ りに
本稿 では、 まず、最新 の 『通信利用動向調査』
に よるイ ンターネ ッ トの利用率 ・不安 ・被害及 び設計書 に記述 されたイ ンターネ ッ トの成功 と 破綻 を もとに、 イ ンターネ ッ トに変 わる極 めて 高度 な通信 品質 とセキュ リテ ィを備 えたネ ッ ト ワーク (新世代 ネ ッ トワーク)が必要であ るこ とを認識 した。NGNはイ ンターネ ッ トに変わる ネ ッ トワークになる可能性 はあるが、問題点 も あ り、や は り新 しいネ ッ トワー ク (新世代 ネ ッ トワー ク)が必要 であることを認識 した。その 後、新世代 ネ ッ トワークの設計書 を もとに、新 世代 ネ ッ トワーク とは どの ような ものであるか を要約 し、全体像 を容易 に見渡せ るようにした。
さ らに、本稿 の考察 で用 いるオー トポイエー シ ス について ま とめ、新世代 ネ ッ トワーク ・シス
テムがオー トポイエ ー シス ・システムであ るこ とを示 した。次 に、狭義 と広義 の経営情報 シス テムを考察 し、狭 義 の経営情報 システが オー ト ポイエー シス ・システムであ ることも示 した。
最後 に、構造 的 カ ップ リング とい う概念 を導入 し、広義の経営情報 システムが膨大 な数 のオー トポイエー シス ・システムの構 造 的 カ ップ リン グであ ることを示 し、そ して、 この システムの 創発現象 が集合知 であるこ とを指摘 した。
今後 は新世代 ネ ッ トワー ク、狭義 の経営情報 システのオー トポイエー シス としての性質、及 び構造 的 カ ップ リング としての広義の経営情報 システムの性 質 を考察 の対象 としたい。
注
1.野村総合研究所技術調査部
『 I T
ロー ドマ ップ2010年版』東洋経済新報社、2009、227頁。
2.総務省 『平成21年通信利用動向調査の結果 (樵 要)』、2010、 1頁。
3.同上書、 4頁。
4.同上書、 9頁。
5.同上書、10頁。
6.総務省 『平成21年通信利用動向調査 (世帯編) の概要』、2010、30頁。
7.同上書、31頁。
8.同上書、34頁。
9.同上書、35頁。
10.注2、24頁。
ll.総務省 『平成21年通信利用動向調査 (企業編) の概要』、2010、45頁。
12.AKARIアーキテクチャ設計プロジェク ト 『新 世代ネットワークアーキテクチャAKARI概念 設計書改訂版 (Ver2.0)』2009。
http://akari‑projet.nict.go.jp/concept‑design /AKARI‑report2.Opdf
13.AKARIアーキ テ クチ ャ設 計 プ ロジ ェク ト
『AKARI概念設計書Ver2.0(要約)』2009。 http://akari‑projet.nict.go.jp/conceptdesign.
htm
14.設計書、10頁。
15.同上書、10頁。
16.同上書、 7頁。
17.H.R.マ トウラーナ、F.∫.ヴァレラ (著)河本 英夫 (訳
)
『オー トポイエーシス』国文社、1991。 18.河本英夫 『オー トポイエーシス一第三世代システム』青土社、19950
19.河本英夫 『オー トポイエーシスの拡張』青土社、
2000。
20.河本英夫 『オー トポイエーシス2001』新曜社、
2000。
21.河本英夫 『メタモルフォーゼ オー トポイエー シスの核心』青土社、20020
22.河本英夫 『システム現象学 オー トポイエーシ スの第四領域J新曜社、2006。
23.山下和也 Fオー トポイエーシスの世界』近代文 芸社、20040
24.山下和也 『オー トポイエーシスの倫理』近代文 芸社、2005。
25.山下和也 『オー トポイエーシスの教育』近代文 芸社、2007。
26.山下和也 『オー トポイエーシス入 門』ミネルヴァ 書房、20100
27.注17、70頁。
28.注17、73頁。
82国際経営論集 No.40 2010
29.注18、158‑161頁。
30.遠 山暁、村 田潔、岸真理子 『経営情報論』有斐 閣、20080
31.岸川典昭、中村雅章 [編著] 『現代経営 とネッ トワーク』 同文館 出版、2009。
32.遠 山暁 『現代経営情報 システムの研究』 日科技 連 出版社、19980
33.宮川公男 [編] 『経営情報 システム』 中央経済 社 (2004)。
34.C.ワイズマ ン [著]土屋守章、辻新六 [訳]
『戦略的情報 システム』 ダイヤモ ン ド社、1989。 35.現在 は狭義の経営情報 システムと企業外部の膨
大な数の個人 (消費者) とを結び付 けているの はインターネ ッ トである。 ここでは、将来起 こ りうるもの として新世代 ネ ッ トワークによる接 続 を考 えている。 この場合、通信品質 とセキュ
リテ ィが極 めて優 れた接続 となる。
36.注17、117頁。