九州大学学術情報リポジトリ
Kyushu University Institutional Repository
建築熱環境シミュレーションとCFDの連成解析に関す る研究
山本, 竜大
http://hdl.handle.net/2324/2236009
出版情報:九州大学, 2018, 博士(工学), 課程博士 バージョン:
権利関係:
建築熱環境シミュレーションと CFD の 連成解析に関する研究
九州大学大学院人間環境学府 2019 年
博士論文
山本竜大
目次
序論 ... 1
はじめに ... 2
研究背景 ... 3
1.2.1 設計実務における建築熱環境シミュレーションの活用と課題 ... 3
1.2.2 建築熱環境シミュレーションの活用方法 ... 4
研究目的 ... 9
論文の構成 ... 10
用語・指標定義... 11
熱環境シミュレーションとCFDの連成解析 ... 17
はじめに ... 18
BES_ExのES・CFD連成手法 ... 19
2.2.1 連成計算の方法 ... 19
対流熱伝達率の計算に関するパラメーター感度解析 ... 22
2.3.1 パラメーター感度解析の目的 ... 22
2.3.2 対流熱伝達率の計算条件 ... 22
2.3.3 CFDによる対流熱伝達率の計算方法 ... 23
2.3.4 CFDによる対流熱伝達率の計算結果および精度 ... 24
BES_Exの適用事例 ... 31
2.4.1 実験内容および条件 ... 31
2.4.2 計算内容および条件 ... 33
2.4.3 計算結果及び考察 ... 36
BES_Exの多数ゾーンモデルへの拡張 ... 43
2.5.1 計算内容および条件 ... 43
2.5.2 計算結果および考察 ... 48
まとめ... 52
BES_Exの簡易化の検討 ... 57
はじめに ... 58
熱分配法の提案 ... 60
3.2.1 熱分配法の定義 ... 60
熱分配法の検証実験 ... 62
3.3.1 実験住宅の概要 ... 62
3.3.2 実験内容および条件 ... 63
3.3.3 実験結果および考察 ... 64
熱分配法を用いたシミュレーション ... 68
3.4.1 計算モデル ... 68
3.4.2 計算内容および条件 ... 69
3.4.3 計算結果および考察 ... 70
まとめ... 77
空調機器特性モデルのBES_Exへの導入 ... 81
はじめに ... 82
連成方法の内容 ... 83
空調機器特性の測定 ... 84
4.3.1 測定内容および条件 ... 84
4.3.2 測定結果および考察 ... 89
空調機器特性モデルを導入したBES_Exによる数値計算 ... 93
4.4.1 計算内容および条件 ... 93
4.4.2 計算結果および考察 ... 95
まとめ... 125
2次元熱流計算ツールとBES_Exの連成解析 ... 129
はじめに ... 130
2次元熱流を考慮したBES_Exの方法 ... 131
盛り土建築の実測 ... 133
5.3.1 対象建築物の概要 ... 133
5.3.2 実測内容および条件 ... 135
5.3.3 実測結果および考察 ... 136
盛り土建築を対象としたBES_Exの適用事例 ... 138
5.4.1 計算モデル ... 138
5.4.2 計算内容および条件 ... 140
5.4.3 計算結果および考察 ... 143
まとめ... 159
総括 ... 163
結論 ... 164
今後の展望 ... 165
謝辞 ... 169
1
序論
2
はじめに
近年の建築は,建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律の施行により,室内熱環 境の改善や暖冷房負荷の低減を目的として,建築設計段階において数値シミュレーション により定量的に熱環境を評価すること,いわゆる環境設計が推奨されている。建築熱環境シ ミュレーション技術は,建築伝熱理論の進展,計算機能力の向上,並列計算技術の開発など により急速に進歩しており,熱負荷計算に基づく省エネルギー計画のみならず,過大な計算 負荷のため従来は困難であった局所分布予測による居住環境評価など,詳細なシミュレー ション結果に基づく建築設計へのフィードバックが図られつつある。
建築熱環境シミュレーションには,建築空間を居室等でゾーン分割し,各ゾーンを均一な 1質点系と仮定して,各ゾーンのエネルギー収支から温湿度や暖冷房負荷を解くマクロモデ ル(エネルギーシミュレーション,以下ESと称す)と, 空間を小さなメッシュで分割し, 有 限体積法等による流体解析により全メッシュの温湿度や気流速などの空間分布を解くミク ロモデル(流体シミュレーション,以下CFDと称する)に大別される。ESは外界気象のみ を入力条件として,熱伝導・熱対流・熱放射・移流に関する伝熱現象を連立する長期間の非 定常計算が可能であるが,ゾーン分割した同一空間内における熱環境分布は予測できない。
一方,CFDは空間の温湿度分布を計算できる反面,空気拡散現象の解析に限定されるため,
入力条件として境界面の温湿度等を設定する必要があり,一般には何らかの境界条件の仮 定に基づいた任意時刻における定常計算に制約される。ESとCFDはそれぞれに優位な特徴 があり補完関係にあるものの,これまでは煩雑な計算のため両者を連成したシミュレーシ ョンは実用化されていない。
そこで,本研究では ESと CFDの詳細な連成方法に関する基礎理論の構築と計算プログ ラムの開発を行うとともに,実用化に供する非定常解析のための簡易計算方法を提案する。
さらに,空調エネルギー消費量の予測精度の向上を目指したESと CFDと空調機器特性モ デルの連成計算,ならびに 3 次元熱伝導が生じる外皮形状に対応した連成計算方法につい て検討する。
本章では, 研究の背景, 目的および本論文の構成を示す。
研究背景(1.2)では, 建築物の設計実務における熱環境シミュレーションの使われ方, 代 表的な熱環境シミュレーションであるエネルギーシミュレーション (空間の温湿度を1質 点系で代表する手法)および数値流体シミュレーション(グリッドによって分割された室内 の温湿度, 気流速などの分布を求める手法)の概要を示す。続いてそれぞれの手法の長所と 問題点を整理し, ESとCFDの連成(以下ES・CFD連成)の必要性と計算コンセプトを示 す。
研究目的(1.3)では, 本研究の目的と範囲を示し, 研究全体の進め方を示す。
論文の構成(1.4)では, 各章の目的並びに結果要旨を示し, 論文全体の構成を示す。
用語・指標定義(1.5)では, 本研究一般で用いる用語, 略号および評価指標の定義を示す。
3
研究背景
1.2.1 設計実務における建築熱環境シミュレーションの活用と課題
パーソナルコンピューター(以下PC)の性能向上, 三次元CADの普及, 建築要素のオブジ ェクト化に基づく管理手法の一般化(BIM)により, 建築設計企画時点での各種の数値シミ ュレーションが容易に実施できる環境が整備されつつある。このような状況の中, 多くの 物件で数値シミュレーションに基づく設計時の熱環境予測が検討されるようになり, 快適 性やエネルギー消費の傾向を定量的に評価することが可能となっている。
図1.1にESとCFDの計算上の特徴を示す。建築熱環境分野におけるシミュレーション手 法には, 各室の空間を必要に応じて分割した単位(以下, ゾーンと称する)を1点の質点 で代表させるマクロモデルによる熱環境シミュレーション(以下ESと称する)と, 空間を メッシュ分割し, 有限体積法等を用いて各メッシュ間の温熱, 湿度, 気流速など, 全体の 分布を計算する流体シミュレーション(以下,CFDと称する)がある。建築熱環境工学の分 野では, ESは多大な研究実績があり, 用途に応じた様々なモデル, プログラムが提案され ている。一般にESはCFDより計算負荷が小さく, 非定常状態を長期間に渡って予測可能で あるが,ゾーン分割した同一空間内における熱環境分布は予測できない。一方,CFDは空間 の温湿度分布を計算できる反面,空気拡散現象の解析に限定されるため,何らかの境界条件 の仮定に基づいた任意時刻における定常計算に限られる。
図 1.1 ESとCFDの計算上の特徴
4
1.2.2 建築熱環境シミュレーションの活用方法
(1) ESの現状
【ES全般の状況】
建築の熱環境・熱負荷解析ソフトは,普及型を目指して操作性に重点を置いたものから,
研究を目的として物理現象を忠実に再現し計算精度を重視したものまで様々開発されてい る。最近の研究発表では,SMASH(建築環境・省エネルギー機構),HASP/ ACLD(空気調和・
衛生工学会),EESLISM(工学院大学),LESCOM(東京理科大学),MARBLE(積水ハウス),TRNSYS
(Wisconsin大学),TrP(九州大学),THERB(九州大学)などが使用されている。研究にお いては計算精度が重要となるが,実務では計算負荷や操作性も重視され,上記ソフトはその 開発コンセプト(計算対象,計算精度,計算速度,操作性)に応じて作成されている。
これらのシミュレーションソフトは外界気象を入力条件として,建物躯体および空間の 熱環境を長期間に亘り非定常に予測する完成度の高いものであるが, 対流熱伝達率などを 経験則に基づいて設定したり,簡易な伝熱理論を適用したりする場合もあり,ソフトにより 計算精度に大きな違いが見られる。
TRNSYS などの世界的に著名なソフトでさえ,伝導・対流・放射の各伝熱現象に対して簡
易な理論を用いている。例えば,建築壁体の非定常伝熱モデルは,一次元多層平面壁体を対 象として,対流と放射による熱伝達を総合熱伝達率と等価気温の概念で処理することによ り,簡易に空気温度の励振に対する熱流を計算している。
【本研究で用いるESの概要】
本研究では,THERB for HAM[1]を用いる。THERBは可能な限り現象に忠実な伝熱理論を採 用している。例えば, 空間内の熱輸送を対流と放射に分離し, 対流熱伝達率は標準的な慣 用値を用いる他,境界層理論あるいは実験則に基づく無次元整理式[2]を用いることで,
対流熱伝達率の時変性を考慮した計算も可能である。以下に,その他のTHERBの伝熱計算方 法を列記する。
躯体を含む建築全体(多数室)の熱・水分・空気移動の連成計算
温湿度およびPMVによる空調制御
対流による熱・水分伝達の時変性
無次元整理式を用いた部位ごとの熱・水分伝達率(自然・強制対流)の計算
内外表面における厳密な日照・日影部位の幾何学計算
Multi-layer window model(透過日射)
室内表面における透過日射の多重反射
放射熱伝達の非線形性
室内表面間の長波放射熱授受
Network airflow model (自然・強制換気)
5 (2) CFDの現状
数値流体シミュレーション(Computational Fluid Dynamics: CFD)は計算機の性能の向 上により近年急速に発展しており, 多様な範囲(機械, 化学, 物理など)に応用されてい る。ただし, 計算負荷とモデリングの煩雑さから目的に応じて ESと使い分けられている。
いくつかのプログラムが提案されており, モデル構築, 分析用ツールやマクロ言語を備え た開発環境も整備された商用コードや, オープンソースで無料公開され, 自由に目的によ ってソースコードが変更可能なOpenfoam[3]などがある。
CFDの数値解法は, 有限差分法, 有限要素法, スペクトル法と有限体積法に大別される。
本論文においては, 建築環境分野で広く用いられている有限体積法による数値解法によっ て研究を進める。有限体積法とは, 計算領域全てのコントロールボリュームについて積分 し, 離散化し, 反復法により代数方程式を解くことでコントロールボリュームにおけるス カラー量を定義する手法である。反復法にはSIMPLE法(Patankar , Spalding(1972)[4]) を適用する。SIMPLE 法では,仮の圧力場を用いて運動方程式と連続の式を連成することで 反復計算によってコントロールボリュームにおける圧力と速度を決定する事が可能である。
CFD は基本として連続の式と運動方程式とエネルギー方程式を解く事で三方向のベクト
ル, 圧力, 温度の5つの未知数を計算する事ができる。建築環境分野においては, 乱流モ デルは汎用性の高さから基本的には標準k-εモデルが適用される。標準k-εモデルは乱流 エネルギーkの方程式と粘性散逸率εに関する輸送方程式から渦動粘性係数 Vtを計算する ことでコントロールボリュームのベクトル成分が求まる。壁近傍の取り扱いとしては, 詳 細に分割することなく一定の精度で近似する方法(標準壁関数)が採用される場合が多い。
しかし,詳細な熱輸送を再現したい場合や, 対流熱伝達率を精度よく計算したい場合は, 壁面近傍を詳細に分割し, 低レイノルズ数効果まで計算する乱流モデルとして低 Re 型 k- εモデルを用いることが考えられる。
近年は, 流れ場をモデル化せず直接計算する(Direct Numerical Simulation:DNS)に関 する研究[5-7]や, 格子気体法[8]から派生した格子ボルツマン法などの研究[9-13]が行わ れており, 更なる発展を遂げている分野である。
6 (3) ESとCFDの連成計算
【ES・CFD連成計算の必要性と課題】
上記の熱環境シミュレーションはそれぞれの特徴に合わせて適宜利用がなされてきた。
しかし, 個別に利用することでは検討の難しい物理現象も存在する。例えば,オフィスでの ペリメーターと執務空間の混合熱損失の影響などが挙げられる[14]。近年では, 省エネル ギーと快適性の両立を目指したタスクアンビエント空調などの技術が適用される事例も見 られる。タスクアンビエント空調では, 執務領域を快適範囲に空調すれば良いという発想 で空調を行うので, 部屋を1つの質点で表現しようとすれば, 実現象に即した計算を行う ことは難しい。ESは長期間の非定常解析を得意としているが, 分布特性を考慮するのには ゾーン分割するなどの工夫が必要である。しかし,ゾーン分割の考え方は,冬期の窓面のコ ールドドラフトなど,現象を再現することが難しい場合もある。計算精度を高めるには,ゾ ーン間の移流量およびゾーン毎の対流熱伝達率などを精緻に計算する必要がある。
一方,CFDは空間の温湿度分布を計算できる反面,空気拡散現象の解析に限定されるため,
入力条件として境界面の温湿度等を設定する必要があり,一般には何らかの境界条件の仮 定に基づいた任意時刻における定常計算に制約される。
ESとCFDはそれぞれに優位な特徴があり補完関係にある。室内の温度分布や気流速の影
響を踏まえ, ESの計算精度をより高める方法として, ESの計算過程にCFDの変数修正処理 を割り込ませ, 適宜修正しつつ計算を進めることが考えられる。なお, 本研究では上記の ESへのCFDの介入処理をES・CFD連成と称する。ES・CFD 連成コンセプトについては,Zhai らにの既往研究があるが,基礎的な連成方法を提案するにとどまり,実際の建築への適用や 非定常伝熱現象の下で計算精度など多くの課題が残されている。
7
【既存のES・CFD連成コンセプト】
図1.2に連成手法の分類を示す。ES・CFD連成手法は, 同じタイムステップ内で収束計算
を行うDynamic Couplingと, 計算負荷低減を目的として計算された物理量を次の時刻のタ
イムステップへ受け渡すStatic Couplingの2つが考えられる[15-16]。Static Coupling にはone-step Static CouplingとTwo-Step Static Couplingの2種類あり, 前者はStatic Couplingを逐次行うもので, 後者はESとCFDが2つのタイムステップ毎に物理量を受け渡 して行う。
図 1.2 連成手法の分類
8
表 1.1にESとCFDの連成方法を示す。受け渡しの入力・出力条件に関して提案・検証が されているが[17], 対流熱伝達率が大きな役割を果たしている。前頁に示した 2つの連成 方法は目的に応じて使い分けられている。例えば,Zhai らにより,主に自然対流を対象と して, Dynamic Couplingによる一定時間間隔の完全連成が行われ[17],上下温度分布が小 さいケースでは,ゾーン分割を行わなくても計算結果に支障が無いことが確認されている。
また,ピーク負荷時の室温は連成した方が実測値に近い値となることも示されている。また, 流れ場および温度場が変動しない環境下では, 時間間隔を 1 時間毎としても計算精度に支 障が無いことが確認されている。計算時間間隔は長期間の連続計算を行う場合は,計算負荷 の観点から重要である。CFDで粗いメッシュを使用し, 連成解析に必要な時間を短縮した検 討も行われている[18]。強制対流の卓越する環境では, 対象建物の容積が大きい場合に,対 流熱伝達率を連成すると, 冷房負荷が増加する傾向が報告されている。このことは,対移流 熱伝達率の慣用値とCFDで求めた対流熱伝達率に大きな違いがあることを意味している
窓面にラジエーターを配置した場合など,自然対流の卓越する環境でも対流熱伝達率の 慣用値が適用できないことも報告されている[17]。熱源の配置によっては局所的な流れ場 および温度場が発生し,ゾーン内を一様分布とするESでは現象を捉えられない。
対流熱伝達率の計算条件の確立を目指す研究も行われており, 自然対流の下では壁面第 1層を詳細に分割する必要性があることが報告されている[19] [20]。壁面第1層を0.005m とすると実測値に近い値となることが示されている。強制対流の卓越する環境については 十分には検討されていない。ES の対流熱伝達率は,条件によっては経験則に基づく慣用値 では対応できないため,CFDを使用して算出することが望ましいが,計算条件等に課題が残 されている。
一方で,建物側の熱負荷計算の方法にも課題の残されており[21-25], 熱負荷予測およ び表面温度計算の精度向上に向けても連成手法の拡充が重要である。
表 1.1 ESとCFDの連成方法[17]
9
研究目的
本研究ではESとCFDの詳細な連成方法に関する基礎理論の構築と計算プログラムの開発 を行うとともに,実用化に供する非定常解析のための簡易計算方法について提案する。さら に,空調エネルギー消費量の予測精度の向上を目指したESとCFDと空調機器特性モデルの 連成計算,ならびに 3 次元熱伝導が生じる複雑な外皮形状に対応した連成計算方法につい ても検討する。
つまり,建築熱環境評価手法の高度化を目的とし, ESとCFDを連成した新しい評価モデ ルを提案するとともに,実大実験と比較した精度検証およびパラメーター感度解析によっ て計算の妥当性を確認する。さらに, 連成計算の簡便さ, 汎用性の両立を目指した簡易計 算方法の構築, ならびに空調機器特性モデル,二次元熱流モデルなどとの連成方法を提案 する。
10
論文の構成
第1章では, 研究背景, 研究目的, 論文構成について述べるとともに,論文で使用する 用語の定義などを示す。
第2章では,Dynamic Couplingを使用したESとCFDの連成方法に関する基礎理論ついて 示し,双方の計算に共通な変数(自由変数と媒介変数)の最適化を行う。Dynamic Coupling とは,計算ステップ毎に自由変数について収束計算を行い,ESとCFDの計算誤差をなくす 方法である。ここでは,自由変数に境界面の示強変数(温度)あるいは流束(熱流),媒介 変数に熱拡散係数(対流熱伝達率)を設定し,温度あるいは熱流を収束判定条件として,収 束過程で対流熱伝達率を推定する方法を提案する。さらに,Dynamic Couplingにおける収 束計算を省いて,CFDで算出される対流熱伝達率をESの次ステップ(あるいはそれ以降の 任意ステップ)の境界条件とすることで計算負荷を軽減するStatic Coupling の方法を示 す。
Static CouplingでもESと比較すると遥かに計算負荷が大きいため,汎用的パソコンで
は実用性に欠ける。そこで,第3章ではCFDの機能をESに簡易的に付加する熱分配法を提 案する。熱分配法とは,最初に代表的な流れ場の熱量拡散係数を導いておき,ES で計算さ れる時刻毎の空調負荷に熱量拡散係数を乗じることで各ゾーンへの投入熱量を算出し,投 入熱量をESの入力条件として再計算することでゾーン間の温度分布を予測する方法(ESと CFDの簡易連成法)である。本章では,吹抜け空間を有する実大の試験住宅を使用して暖房 実験を行い,実験結果と計算結果を比較することで,熱分配法が十分な予測精度を有するこ とを検証する。
第4章では,ESとCFDの連成計算に空調機器特性モデル(ヒートポンプエアコン)を組 み込み,機器効率等の挙動を再現することでエネルギー消費量の予測精度を改善する。冷房 時のエネルギー消費量および居室環境について実測結果と計算結果を比較することにより,
ESとCFDと空調機器特性モデルの連成による高い計算精度を示す。
第5章では,3次元熱伝導が生じる外皮形状の建築を対象とする場合のESとCFDの連成 計算方法について検討する。一般に,ES は矩形建築を対象とすることが多いため,熱伝導 は1次元非定常を想定するが,複雑な外皮形状の場合は2 次元あるいは3次元の計算が必 要となる。ここでは,曲面外皮形状を有する建築への適用を目指して,ESとCFDの連成計 算に 2 次元伝熱計算プログラムを補填する拡張計算の方法を提案し,実験結果を再現する ことで計算方法の妥当性について明らかする。
第6章では, 各章で得られた知見を要約して総括とし,今後の課題について整理する。
11
用語・指標定義
本論文中の文言の注記を表 1.2にまとめる。
表 1.2 本論文中の用語・計算に関する注記一覧
項目 内容・設定 参考文献・他
境界条件
数値流体シミュレーションで用いる壁体表面温 度や流量の入り口などの計算に必要な入力条 件を指し示す。
パラメーター感度解析
ここで定義するパラメーターとは、対象領域の 熱環境が変動し得る入力条件に対応して用い られる。ここで注意すべきなのは、熱量を投入し ている場合は、投入熱量を固定して他の変数に ついて個別検討を行っている点についてであ る。偏微分的アプローチが本論文においてのパ ラメーター感度解析の定義である。
境界層
流体(液体または気体)の流れの中に個体が置 かれていると,個体の表面に接してできる速度 および温度それぞれに対してこう配が大きい壁 面からの範囲を意味している。
谷下市松:伝熱工 学,裳華房,1986年 4月
グラスホフ数
粘性力と浮力の大きさの比率を示す無次元数 である。一様な流れである層流と流れに乱れの ある乱流を区別するために用いられる。
プラントル数
熱エネルギー拡散の度合いと運動エネルギー 拡散の比率である。プラントル数が大きいほど 熱エネルギーの拡散に対して運動エネルギー 拡散の度合いが強いことを示している。
CYBERNET:htt p://www.cybernet.
co.jp/ansys/glos sary/prandtlsu.html
,2019年1月10日 アクセス
レイノルズ数
流体の慣性力と粘性力の比を表す無次元数で ある。一様な流れである層流と流れに乱れのあ る乱流を区別するために用いられる。
CYBERNET:htt p://www.cybernet.
co.jp/ansys/glos sary/prandtlsu.html
,2019年1月10日 アクセス
12 ヌセルト数
境界層内の熱流束に基づき相似の法則を適用 した際に無次元数として定義される。ヌセルト数 は強制対流と自然対流でそれぞれ取るべき値 の範囲が異なる。ヌセルト数が求まれば,幾何 学形状によって異なる変数である代表長さを仮 定することで容易に対流熱伝達率を計算するこ とができる。
谷下市松:伝熱工 学,裳華房,1986年 4月
対流熱伝達率
壁体表面と乱流域の熱輸送を定式化したもの である。熱流を温度差で除した形で表現される ので,熱流と主流空気の温度の参照方法は重 要である。
境界層理論
境界層内に容積一定の微小部分をとり,その部 分に出入する流体に運動量の法則およびエネ ルギの法則を適用することによって積分形の運 動量方程式並びに積分形のエネルギ方程式を 求め,それに速度や温度の分布を経験的に仮 定して代入することによって,比較的簡易に近 似解を得ることができる方法。
谷下市松:伝熱工 学,裳華房,1986年 4月
y+
壁面摩擦速度と壁面からの距離を乗じたものを 動粘性係数で除した形で表現される。y+は粘性 が大きくなる領域では小さくなる対応が得られる ので、その関係から粘性低層・遷移層・乱流層 を定義することが可能である。
y+>1
CFDでは,表面熱流を計算する際や壁面近傍 の熱輸送を詳細に計算する際には壁近傍は詳 細に分割する必要がある。壁面近傍の分割の 最適解はモデルや流れ場に応じて壁毎に異な る。従って,粘性の影響を考慮した指標である y+を使用して全ての壁面でy>1となるようにメ ッシュを設定するのが望ましいとされている。
ポリへドラルメッシュ
10〜15程度の多面体のメッシュ構造である。
複雑な形状でもテトラメッシュや直行メッシュな どと比較して計算負荷が低く,経済性に優れて いる。
13 テトラメッシュ
四面体のメッシュ構造を意味する。片方向流れ を計算するには,面数の多い多面体の場合は 解が収束しづらいため採用される場合がある。
基準サイズ CFDで領域を分割する際のセルの幅を示す。
相対サイズ
壁面近傍はプリズム層と称する層分割の領域 が存在する。層分割の領域の幅はセルの分割 幅から相対的に規定する。
標準壁関数
壁面摩擦と速度分布の経験的な関係式によっ て近似する。対数速度分布則に基づいているた め,原理的制約が大きい。計算格子数を節約し たい場合に用いられることが多い
須賀一彦:RANS乱 流解析のための解析 的壁関数モデルの進 展,ながれ35,
pp.247-254,2016
理論成績係数
逆カルノーサイクルによる理論成績係数は,冷 媒蒸発温度を冷媒凝縮温度と冷媒蒸発温度の 差で除して表現される。
上野剛,北原博幸,
宮永俊之,占部亘:
家庭用エアコンの冷 房時熱源特性モデル の開発 第1報:冷房 熱源特性のモデル 化,日本建築学会大 会学術講演梗概集,
pp.1439-1440,2010 年9月
実成績係数
エアコン全体ではなく,冷凍サイクルのみの成 績係数である。全熱負荷を冷凍機で消費される 電力で除して表現される。
上野剛,北原博幸,
宮永俊之,占部亘:
家庭用エアコンの冷 房時熱源特性モデル の開発 第1報:冷房 熱源特性のモデル 化,日本建築学会大 会学術講演梗概集,
pp.1439-1440,2010 年9月
14 補正係数R
冷凍サイクルの理論効率と実際の効率の比とし て定義される。本研究で使用する空調機器特性 モデルでは,現行機種の技術資料に記載され ている,最小・定格・最大時の3つの条件を用い る。また,Rは以下の仮定に基づいて計算され る。1)コンプレッサーの能力依存性を考慮する 目的で,Rを最小・定格・最大条件における冷 房能力[kw]を2次式で近似する。2)ファンなど で消費される電力をPc[W]とした時,Pcは大 きく変動しないと考えられるので,最小・定格・最 大条件全て等しいと仮定する。
上野剛,北原博幸,
宮永俊之,占部亘:
家庭用エアコンの冷 房時熱源特性モデル の開発 第1報:冷房 熱源特性のモデル 化,日本建築学会大 会学術講演梗概集,
pp.1439-1440,2010 年9月
15 参考文献
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更が その制御性,温熱環境及び熱的混合損失・利得量に及ぼす影響 事務所ビルの ペリメータゾーンとインテリアゾーンの空調システムの熱特性 に関する実験的研究 その1,日本建築学会環境系論文集, 第78巻, 第688号,2013年 6 月,pp.513-521 1-15) Zhai.Z, Chen.Q:Solution characters of coupling between enrgy simulation and CFD programs,
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16
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17
熱環境シミュレーションと CFD の連成解析
18
はじめに
本章では,ES・CFD連成手法に関するZhaiらの研究をベースとして,ES・CFDの基礎理論 を示し,BES_Ex の連成,計算フローを説明する。続いて床暖房を用いた実測実験結果を用 い,BES_Exの計算精度検証とパラメーター感度解析を行う。以下に本章の構成を示す。
2.2では,Zhaiらの先行研究を参考に,連成計算のコンセプトと目的を示し,具体的な計
算方法を説明する。尚,同節では,はじめに対流熱伝達率の計算に関する検証を行う。続い て,CFDを用いた対流熱伝達率の計算方法と,ESと組み合わせた連成計算フローを示す。
2.3 では,任意の y+での温度を参照温度として計算された対流熱伝達率の精度について
検証を行う。y+の計算にはメッシュ数や流速などのパラメーターが強く影響する。本節では,
これらのパラメーターを変数として感度解析を行う。また,y+から計算される参照温度の感 度解析も合わせて行う。
2.4では,不均一な温度場での計算による非定常計算法の提案と検証を目的として,不均
一な温度場である床暖房を対象とした実測および連成計算を実施する。床暖房を敷設した 環境のシミュレーションでは,CFDによる既往研究が多くみられるが[1-2],境界条件の妥 当性が確保できなくてはシミュレーション精度について議論することは難しい。床暖房を 敷設した空間では,均一な温度場が得られることが確認されているが[3],実際の過渡応答 などの計算では,時間変動によって不均一性が生じると推測できる。人体モデルを導入し,
建物性能や暖房方式による快適性の評価も行われているが,過渡応答が人体生理に与える 影響などはBES_Exを用いるなどの工夫が必要である。このような過渡応答の計算も見据え た非定常計算方法の検証として逐次連成を行うDynamic Couplingの適用が適当であると考 える。自然対流の卓越する環境での対流熱伝達率の計算については,床暖房を敷設した実験 室を対象として,無次元整理式を用いて計算した場合と任意の y+で計算した場合で実測値 との比較から対流熱伝達率の妥当性を確認する。
2.5では,更に検討結果を踏まえてESとCFDの連成を多数ゾーンへ拡張し,自然対流お
よび強制対流の卓越する環境でゾーン間の移流量と対流熱伝達率をCFDで計算し,ESに連 成する検討を行う。
19
BES_Ex の ES・CFD 連成手法
2.2.1 連成計算の方法
(1) 既往研究の整理
前章に示した通り, ESとCFDの連成手法はZhaiらの既往研究が存在する。同研究ではES は表面温度を,CFDは対流熱伝達率を計算して相互に収束判断し,逐次タイムステップを前
進させるDynamic Couplingと,収束計算を行わずにタイムステップを前進させて連成する
Static Coupling の2つが提案されている。Static Couplingは計算負荷が少なく長期間の 検討に適するが,Dynamic Couplingはより計算精度が高く,汎用性が期待できる。BES_Ex では,目的に応じて連成収束条件を選択し,比較的単純な形状かつ入力条件で,長期間の検 討が必要な場合は Static Coupling を,複雑な形状を有し,詳細な分析が必要な場合は
Dynamic Couplingを適用できるようモデルを構築する。なお,本研究では, 計算負荷低減
を主たる目的とする第三章の内容を除き,Dynamic Couplingを採用する。
(2) BES_ExのES・CFD連成計算フロー
【使用するツール】
図 2.1 に本章で行う ES と CFD の連成計算のフローを示す。本研究では,ES として THERBforHAM[4]を,CFD にはマクロ言語(Java)および公開APIにより機能拡張が可能な商用 CFDアプリケーションソフトを利用した。なお,本章では,フィン効率を考慮した温水床暖 房の計算に関するモデルをESに機能付加している(温水床暖房に関する機能をオミットし た標準版THERBforHAMでもES・CFD連成計算は可能である。)。THERBforHAMは空間を必要に 応じて分割する機能も有する。図 2.2 にESのゾーンと移流量の概念を示す。ESではゾー ン間の移流量は未知数として扱われるため,CFDで計算する必要がある。
【計算の全体像】
連成計算はESを主として行い, 外界気象条件を時系列の外部入力値とし,熱・水分同時 移動を計算により壁体表面温度や熱流を随時出力する。なお,これらはゾーンごとに出力さ れる。通常,連成を伴わないESの計算では, 表面温度の変化や熱流による対流熱伝達率の 変動や,空間同士の移流量は検討できず, 対流熱伝達率は固定値を用いることが多い。
BES_Exでは,この出力値をCFDの境界条件として連続の式と運動方程式とエネルギー方程
式を解き未知数を計算することで,対流熱伝達率やゾーン間の移流量を計算し, 計算ステ ップごとにこれらの数値を更新することで, 熱環境評価に時変性を持たせることができ る。
20
図 2.1 連成のフロー
図 2.2 ESのゾーン間の移流量
21
【対流熱伝達の分類と計算方法】
壁表面の対流による熱の移動は,自然対流と強制対流に分類される。BES_Ex の対流熱伝 達の考え方を表 2.1 に示す。本研究では, 自然対流,強制対流の影響をそれぞれ分離し, CFDとの連成を通して随時更新される形とする。形状が単純かつ強制対流の影響が小さい部 分については, 計算負荷低減のため CFDとの連成は実行せず無次元整理式を用いて計算す る。
表 2.1 手法ごとの対流熱伝達の考え方 対流熱伝
達
簡易なES 詳細なES(THERB) ES・CFD連成(BES_Ex)
自然対流 熱伝達
自然対流,強制 対 流 の 両 方 を 区 別 せ ず 総 合 熱 伝 達 率 を 用 いて計算する。
対 流 熱 伝 達 率 と 放 射 熱 伝 達 率 は 分 離 さ れ ず,事変性は考 慮されない。
実験則に基づく無次元整理 式, レイリー数を用いて時 変性を評価可能。
但し流速が大きく乱流とな る場合や,複雑な形状の場 合は課題が残る。
特に同一ゾーン内で温度の ばらつきがある場合は計算 精度が低下する可能性が高 い。
以下の 2手法いずれかを,ユーザーの判 断で適用する。(設定は初期設定ファイル で行い, 計算中の手法は終了まで変更さ れない)
① 形状が単純かつ流速が遅い場合は無 次元整理式を用いる。
② 形状が複雑かつゾーン内に局所的な 発熱が発生,または流速が早い場合 はCFDとの連成を行う。
強制対流 熱伝達
固定値の対流熱伝達率を用 いる。
通気経路,室の形状とも単 純な場合は有効面積を用い て 主 流 速 度 の 概 算 値 を 求 め,強制対流熱伝達率の推 定に反映させる等の方法が 考えられる。
CFDとの連成により,対流熱伝達率を動的 に計算する。
22
対流熱伝達率の計算に関するパラメーター感度解析
2.3.1 パラメーター感度解析の目的
前項で構築したBES_Exを用い,床暖房を想定したシミュレーションを行い, 計算精度の 妥当性を検討するとともに, パラメーター感度解析を通して熱環境に与える要因を分析す る。
2.3.2 対流熱伝達率の計算条件
床暖房した場合の対流熱伝達率は,床表面温度の上昇に伴い発達し,定常状態に近づくに つれてその変化は小さくなる。計算ステップ毎に対流熱伝達率を推定して更新することは 容易ではないが,例えば境界層理論あるいは実験則に基づく無次元整理式を用いれば,対流 熱伝達率を算出できる。自然対流熱伝達率は,内表面に対しては水平面と鉛直面に分けて,
それぞれ式(2.1)~式(2.5)に示す無次元整理式から計算される。なお,THERBでは建築各部 位(内外表面と空気層の各部位)および強制対流場と自然対流場のそれぞれに対して対流熱 伝達率を計算している。
水平面
𝑁𝑁𝑁𝑁=𝐶𝐶 ∙ 𝑅𝑅𝑅𝑅𝑓𝑓𝑚𝑚 (2.1)
𝑅𝑅𝑅𝑅𝑓𝑓=𝐺𝐺𝐺𝐺𝑖𝑖∙ 𝑃𝑃𝐺𝐺 (2.2)
𝑓𝑓= (𝑇𝑇𝑠𝑠+𝑇𝑇∞)/2 (2.3)
鉛直面
𝑁𝑁𝑁𝑁= 0.241(𝐺𝐺𝐺𝐺𝑖𝑖∙ 𝑃𝑃𝐺𝐺) (2.4)
𝐺𝐺𝐺𝐺𝑖𝑖 =𝑔𝑔𝑔𝑔∆𝑇𝑇𝑅𝑅𝑙𝑙3/𝑣𝑣2 (2.5)
式(2.1)の係数𝐶𝐶と指数𝑚𝑚は以下の通りである。
・上向き熱流
𝐶𝐶= 0.58, 𝑚𝑚= 1/5
・下向き熱流
𝐶𝐶= 0.54, 𝑚𝑚= 1/4 �𝑅𝑅𝑅𝑅𝑓𝑓: 2𝐸𝐸4~8𝐸𝐸6�
𝐶𝐶= 0.15, 𝑚𝑚= 1/3 �𝑅𝑅𝑅𝑅𝑓𝑓: 8𝐸𝐸6~1𝐸𝐸11�
対流熱伝達率𝛼𝛼𝑐𝑐は,ヌセルト数𝑁𝑁𝑁𝑁から式(2.6)で求められる。
𝛼𝛼𝑐𝑐=𝑁𝑁𝑁𝑁 ∙ 𝜆𝜆
𝐿𝐿 (2.6)
本節では,平板上の流れを想定して対流熱伝達率を計算するので,前縁から X0の距離か
23
ら加熱を始めた平板を対象として境界層に対する積分形のエネルギー方程式を解くことで 近似解が得られる。前縁からXの場所における局所熱伝達率αの式としてヌセルト数Nux
は次式で求められる。
2.3.3 CFDによる対流熱伝達率の計算方法
CFDによる対流熱伝達率の計算は式(2.8)により表現される。
𝛼𝛼𝑤𝑤𝑤𝑤𝑤𝑤𝑤𝑤 = 𝑞𝑞𝑤𝑤𝑤𝑤𝑤𝑤𝑤𝑤
(𝑡𝑡𝑤𝑤𝑤𝑤𝑤𝑤𝑤𝑤− 𝑡𝑡𝑓𝑓𝑤𝑤𝑓𝑓𝑖𝑖𝑓𝑓) (2.8)
熱流を計算する際には第 1セルの厚みが重要であるため,第 1セルの厚みを小さくする 必要がある。更に主流空気と壁体表面の熱移動を表現するため,乱流域の温度を参照してく る必要がある。
一般的なCFD計算では,壁近傍を細かく解像するのは計算負荷の増加に繋がるため,局所 の壁せん断応力を平均速度,乱流運動エネルギーと消散率を結びつけ標準壁関数を利用し て壁近傍の熱輸送を計算している。図 2.3に示すように,対流熱伝達率の参照温度として 考えられるのは壁面第1セルを参照するか,任意の距離の温度を参照するかで決まる。y+は 壁面からの無次元距離として定義される。壁面第 1 セルを十分に分割できているかを確認 する際に目安となる範囲としてy+<1がある。y+<1にする理由としては,プラントルの壁法 則に従い標準壁関数を使わない場合は壁面第一層を粘性低層に持ってくる必要が生じるか らである。この粘性低層はプラントルの壁法則による個体壁近傍の速度分布[5]によると y+<5となっている[6]。従って,y+<1として十分に壁近傍の粘性低層を分割した上で,低
Re型k-εモデルを適用する事により,標準壁関数を用いずに壁近傍の熱輸送を詳細に計算
する事が可能である。本章では,熱源から空間への熱輸送を詳細に解く必要がある事に加え て,対流熱伝達率の算出に必要な熱流は壁面第一層の温度を参照するため乱流モデルを低 Re型として,y+>1としている。なお,乱流領域では,(30<y+<500)とされており,その範 囲に適切な参照距離がある。
𝑁𝑁𝑁𝑁𝑥𝑥= 0.332𝑃𝑃𝐺𝐺1/3𝑅𝑅𝑅𝑅𝑥𝑥1/2[1−(𝑥𝑥0
𝑥𝑥)3/4]
−1/3 (2.7)
24
図 2.3 参照温度の取り方
2.3.4 CFDによる対流熱伝達率の計算結果および精度
(1) 計算対象および計算条件
計算モデルを図 2.4に示す。平板流れを想定しモデル化しており,流れ場の中央部分か ら発熱させて温度成層が得られるようにした。表 2.2にCFDの計算条件を示す。加熱面と 非加熱面の温度差は 10℃とした。一方向流れでは,ポリへドラルメッシュのような異方性 のある構造だと解が安定しないので,テトラメッシュを用いた。
図 2.4 CFDの計算対象の空間領域モデル
25
表 2.2 CFDの計算条件
(2) y+のパラメーター感度解析の計算結果および考察
y+の相違による各ケースの感度解析の結果を表 2.3に示す。境界層理論では,レイノル
ズ数の影響が支配的であるため,大きな変動はなかった。任意の y+を参照温度として対流 熱伝達率を計算した場合は,参照距離が大きくなると対流熱伝達率は小さい値を示した。こ れは,参照温度が粘性低層から乱流域にかけて小さくなっている事と,参照流速が小さくな っている事が原因と考える。計算結果としては誤差範囲を考えて75~125の範囲の y+を参 照距離として対流熱伝達率を計算すれば,境界層理論と概ね一致する対流熱伝達率を計算 することが示されている。
本研究では,y+の感度解析結果を踏まえて,中央値であるy+を100とした計算を行うこ ととする。
表 2.3 Y+の相違による感度解析ケースおよび結果
Case Velocity[m/s] y+[-] Forced Convection[W/m2K]
Mesh Number y+ calculation Profile Method
Case1-1
1.5
50 7.1
6.57 8,548,185
Case1-2 75 6.59
Case1-3 100 6.28
Case1-4 125 6.06
Case1-5 150 5.83
項目 条件
計算領域 1.0 m(x) × 3.0(y) × 0.5 m(z) メッシュ数 表2.2-2.4による
乱流モデル 低Re型 K - ε モデル
流入条件 速度入口:0[Pa] 温度:278.15 [K]
出口条件 圧力出口:0[Pa]
加熱面 / 非加熱面 293.15[K] / 283.15[K]
26
(3) Case2計算結果および考察
ES・CFD連成では,自然対流場では無次元整理式による計算で十分な精度が得られる。し
かし,ESは強制対流場で境界層理論を使用する際に必要な主流空気の速度が計算できない。
一般的なエアコンなどの空調機の動作範囲として 1m/s~2m/s 程度が妥当であると考えて,
1~2m/sの範囲の感度解析を行った。境界層理論では,レイノルズ数によって計算結果が異
なるため,流入速度をパラメーターとして感度解析を行った。表 2.4に流入速度による感 度解析ケースおよび結果を示す。計算結果はレイノルズ数の増大によって対流熱伝達率も 大きくなる傾向が見られた。y+を 100 とした参照温度から計算した対流熱伝達率はプロフ ァイル法によって計算された対流熱伝達率と概ね同じ値となった。
図 2.5にCase2の壁面法線距離とy+の関係を示す。メッシュの重心位置を参照している。
流速が大きくなると y+の値が大きくなる傾向が見受けられた。これは,流速が大きくなる と乱流域の距離が壁面からの法線距離で小さくなることを示している。粘性低層における 境界層の厚みは流速によって異なり,対流熱伝達率の計算時の温度の参照距離が変化する ことを確認した。
表 2.4 流入速度による感度解析ケースおよび結果
Case Velocity[m/s] Forced Convection[W/m2K] Reynols
Number Mesh Number y+ calculation Profile Method
Case2-1 1 4.93 5.31 1.26E+06 8,548,185
基 準 サ イ ズ : 10mm
Case2-2 1.5 6.28 6.57 1.93E+06
Case2-3 2 7.48 7.63 2.60E+06
図 2.5 壁面法線距離とy+の関係[Case1]
0 20 40 60 80 100 120 140 160 180 200
0.00 0.01 0.02 0.03 0.04
y+[-]
Wall surface normal distance[m]
1[m/s]
1.5[m/s]
2[m/s]
27
(4) Case3の計算結果および考察
メッシュ数を制御した感度解析結果を表 2.5に示す。基準サイズに対して相対サイズを 30%で規定しており,壁面近傍分割は全体のメッシュ数によって異なる。相対サイズによっ て規定することで,粘性低層から乱流域にかけてメッシュ幅が大きくなるのを緩やかにす る狙いがある。結果からは,Case2-2とCase3-1では,y+を100として参照した温度で計算 された対流熱伝達率は境界層理論によって計算された対流熱伝達率と概ね同じ値となった しかし,Cas3-2とCase3-3 に関しては,境界層理論により計算された対流熱伝達率とは異 なる結果が得られた。これは,粘性低層の解像度が不十分であり,y+が正確に乱流域を捉え ることができていないためと考えられる。
図 2.6にCase3の壁面法線距離とy+の関係を示す。メッシュの稜線のデータを参照して いるため,メッシュが詳細でも完全に線形対応はしていない。Case3-1は詳細にメッシュ分 割しているため,サンプル数は多い。Case2-2 でも同様の傾向が見受けられるが,Case2-2
とCase3-3では,セル数が少なく,線形対応が得られていないため,乱流域の距離が正確に
表現できないと考えられる。この結果はCase3-2とCase3-3で境界層理論とy+を100で参 照した温度で計算した対流熱伝達率の値が合わない原因と推察できる。
表 2.5 空間解像度の相違による感度解析ケースおよび結果
Case Velocity[m/s] Forced Convection[W/m2K] Reynols
Number Mesh Number y+ calculation Profile Method
Case3-1
1.5
6.75 6.54 1.91E+06
61,319,948 基 準 サ イ ズ : 5mm
Case3-2 7.77 5.52 1.36E+06
1,290,370 基 準 サ イ ズ : 20mm
Case3-3 7.64 5.59 1.40E+06
462,222 基 準 サ イ ズ : 30mm
28
図 2.6 壁面法線距離とy+の関係[Case3]
(5) 温度場および流れ場の計算結果および考察
図 2.7にCase2の温度境界層を示す。風速が大きくなると温度境界層の厚さが小さくな る傾向が見受けられる。これは主流空気の影響を大きく受けているからだと推察される。こ
の傾向はy+と壁面法線距離との関係においても相関性のある結果であると言える。
図 2.8にCase2の風速分布を示す。出口流速が加熱面の影響を受けて水平な分布ではな くなっているが,概ね水平な管内流れが観測される。温度成層は薄い事が確認できるので,
平板の高さは十分だと考える。
図 2.9にCase3の温度境界層を示す。メッシュ数が荒くなると温度境界層の厚さが大き くなり,安定しない形となっている。y+との壁面法線距離との関係を考えると,一定のメッ シュ数が必要であることが確認できる。メッシュ数が多ければ境界層は線形に表現されて いる様子が確認できる。
図 2.10にCase3の風速分布を示す。風速分布からは水平方向の流れが観測できる。分布 性状からのみでは,温度境界層が正しく表現できているか確認することは難しい。
0 100 200 300 400 500 600
0 0.02 0.04 0.06 0.08 0.1
y+[-]
Wall surface normal distance[m]
Case3-1 Case3-2 Case3-3
29
図 2.7 温度境界層[Case2](X=0.5m,Y=1.5-3.0m)
図 2.8 風速分布[Case2](X=0.5m)
30
図 2.9 温度境界層[Case3](X=0.5m)
図 2.10 風速分布[Case3]
31
BES_Ex の適用事例
2.4.1 実験内容および条件
(1) 実験目的
BES_Exを自然対流場に適用し,Dynamic Couplingの検証を行う。BES_Exによって床暖房 により発生した自然対流場の室温の予測が可能であるかを実験値を用いて検証することが 実験目的である。
(2) 建物モデル
図 2.11に実験棟の概要と断面図を示す。図 2.12に実験室の測定点を示す。実験は環境 試験室内に設置された1 階平屋建ての実験棟にて行う。実験の測定対象の部屋を A室と設 定した。A室の外形は3.6m(x)×3.6m(y)×2.6m(z),床面積は12.96m2(8畳)である。温水マ ットの敷設率は床面積に対して70%(8.17m2)である。断熱性能は新省エネルギー基準(平成4 年基準)相当を有する。配管の直径は0.0098m,ピッチは0.075m である。環境試験室内の温
度は5℃一定に設定し,A 室において床暖房を 8時間稼働させた際の各温度および温水流量
を測定する。空気温度はA室150点,B室中央1点,廊下1点,床下1点を測定する。
図 2.11 実験室の平面図および床表面測定点
32
図 2.12 実験室の測定点
(3) 実験条件
環境試験室内の温度は5℃一定とし,実験棟の対象室において床暖房を8時間稼働させた 際の各温度と温水流量を測定する。表 2.6に実験棟の概要および測定点を示す。床表面温 度は,温水マット敷設位置の対角線上5点,温水往き系統2本は熱源機から1,500mm,戻り 系統は熱源機から300mmの位置で測定する。熱源機器は,ガス温水式床暖房を用いる。
表 2.6 実験棟の概要および測定点 断熱性能 新省エネルギー基準(平成4年基準)
対象室広さ 12.96m2(8畳)
床暖房敷設面積 約70%
測定点
温度 空気 対象室(150点),隣室(1点),
廊下(1点),床下(1点)
表面 床面(5点)
温水 温度 往き(熱源機から1,500mmの位置で2点)
戻り(熱源機から300mmの位置で2点)
流量
33
2.4.2 計算内容および条件
(1) 計算モデル
前述の床暖房の実測実験を対象に THERB を用いて数値計算を行った。壁体の構成と材料 の物性値を表 2.7に示す。THERBの計算条件を表 2.8に示す。一時刻における連成のため,
タイムステップは前進させず,同じタイムステップ内で収束計算を行う。連成時刻までの助 走計算では,計算時間間隔を30sとしている。計算期間は実験を行った8時間とし,環境試 験室温度,隣室温度,床暖房の温水送水温度の実測値を入力値とした。
表 2.7 壁体構成と材料の物性値
部位 材料 厚さ 熱伝導率 比熱 比重
[mm] [W/(m・K)] [J/(kg・K)] [kg/(m3)]
壁
カラー鋼板 1 0.130 0.1 7.9
スタイロフォーム 40 0.040 1134.0 20.0
カラー鋼板 1 0.130 0.1 7.9
床
フローリング 12 0.111 1880.0 550.0 温水マット(押出法ポリスチレン) 12 0.028 1470.0 33.0
合板 12 0.103 1880.0 565.0
スタイロフォーム 25 0.040 1134.0 20.0
合板 12 0.103 1880.0 565.0
天井
石膏ボード 10 0.202 0.0 0.1
スタイロフォーム 40 0.040 1134.0 20.0
カラー鋼板 1 0.130 0.1 7.9
屋根 カラー鋼板 4 0.130 0.1 7.9
合板 12 0.103 1880.0 565.0
室 内 扉
合板 12 0.103 1880.0 565.0
カラー鋼板 4 0.130 0.1 7.9
窓 ガラス 3 0.780 770.0 2540.0
表 2.8 THERB計算条件 計算期間 実験開始より8時間
入力値
外気温(環境試験室温度5℃)
隣室温度(隣室・廊下・床下)
壁体の構成・材料物性値 温水送水温度
出力値
自然対流熱伝達率 放射熱伝達率 床暖房の放熱量 温水戻り温度 室内温度