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日本人学習者による英語の再帰代名詞習得に関する 一考察

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(1)

日本人学習者による英語の再帰代名詞習得に関する 一考察

著者 松林 城弘

雑誌名 主流

号 54

ページ 83‑95

発行年 1993‑03‑05

権利 同志社大学英文学会

URL http://doi.org/10.14988/pa.2017.0000015108

(2)

日本人学習者による英語の 再帰代名詞習得に関する一考察

松 林 城 弘

I  序論

83 

再起代名詞は,それ自体では十分な意味を表さず¥文中の他の名詞句(つ まり先行詞)に依存して初めて意味的に完結される照応形の一つである.普 遍文法理論の枠組では,再帰代名詞を含む照応形は,一定の統語的領域内で その先行詞を持たなければならないとする「束縛理論の原理

AJ

の形で規定 されている.また,この一般的原理には「パラメータ」が組み込まれている とされ,これによって各言語聞における照応形の先行詞決定に関わる異同が 説明されている.

本稿では,特に英語と日本語を例にとり,まず,それら言語の再帰代名詞 に関わる文法が普遍文法理論の粋組内でどのように捉えられているかを概観 する.次いで,その理論を応用した言語習得研究,特に第三言語習得研究の 成果に焦点をあてながら,日本人学習者による英語の再起代名詞の習得が上 記の理論粋組内で説明可能かどうかを検討する.この検討に際しては,特に,

日本語再帰代名詞「自分jの特質が英語再帰代名詞 himselflherself"lの習 得にどのような影響を及ぼし得るかを中心に議論する.最後に,実験結果を 基に,

r

自分」を含んだ文の処理は談話脈絡的な要因に左右されやすく,そ のような「自分」の特質が日本人学習者によ・る英語の再帰代名調習得にも影 響を及ぼしていることを指摘する.そして結果的に,普遍文法理論の枠組だ けでは日本人学習者による英語再帰代名詞の習得は十分に説明できないこと

(3)

84  日本人学習者による英語の再帰代名詞習得に関する一考察 を示す.

日英語再帰代名詞の構造条件

最近の普遍文法理論では,再帰代名調とその先行詞決定に関わる文法とし て,下の英語文(1)が示すような事実を提示している.

(1) a.  Bob said that Tomi introduced himselL  b. *Boh said that Tom introduced himselL 

Tom"は再帰代名詞 himself"の先行詞となり得るが, Bob"はなり得ない.

この制約は,具体的には「束縛理論の原理A

(Principle A of the Binding  Theory)の形で, (2)のように定義されている 2

(2)  照応表現(anaphor)はその統率範轄(governingcategory)内で束縛 (bound)されていなくてはならない.

例文(1)の場合,再帰代名調を含む最小の節(clause)が統率範轄であり, him‑ selfは,その範曙内にある Tomに束縛される.従って, himsεlfの先行詞 はTomであって,統率範轄外にある Bobは先行詞として機能し得ないこと になる.このように再帰代名詞とその先行詞の指示関係を構造的制約により 規定するのが束縛理論Aの責務であると言える.

ごの一般的原理に加え, Wexler & Manzini (1987) 3は,統率範障は各言 語においてパラメータ化されているとする「統率範曙パラメータ

J

(Gov‑ erning Category Parameter)を提案している.統率範鴎パラメータは, (3)で 示す五つの異なったパラメータ値を持っているとされ,それによって各言語 聞の統率範轄に関わる異同が説明されている.

(3)αis a governing category for βiff 

αis the minimal category which contains 

and 

(4)

日本入学習者による英語の再帰代名詞習得に関する一考察 85  a  has a subject, or 

b.  has an INFL, or  c  has a TNS, or 

d.  has an indicative TNS, or  e  has a root TNS 

(English)  (ltalian)  (Russian)  (Icelandic)  (Japanse) Wexler 

Manziniによると,英語は (3a)の値を持ち,日本語は (3e) 

の値を持つとされている.従って,英語の場合,最小の節が統率範轄になり,

例文(1a)で示したように再帰代名詞himselfの先行詞は最小節内にある Tomであると仮定される.一方,日本語の場合は,丈全体が統率範轄になり,

例文(1)に相当するとされる日本語文(例えば,ボブはトムが自分を紹介した と言った)4では,ボブとトムのいずれも自分の先行詞になり得ると仮定さ れる.

以上のように普遍文法理論の枠組内では,日英語の再帰代名調は共に統率 範時内で束縛されなければならないという構造的条件に従うと説明されてい る.また,その統率範障のパラメータイ直は異なり,英語の再帰代名調は最小 の節内にその先行詞を持ち,日本語の再帰代名調は文中にあるどの名調匂で

もその先行詞の候補にできると考えられている

E  構造条件と第二言語の習得

英語を母語とする子供及び大人は 構造的条件に従って再帰代名詞の先行 調を決定すると幾つかの実験で報告されている.それらの代表例として,子 供を対象としたSolan(1989) 6の実験と大人を対象としたThomas(1989) 

の実験を挙げることができる.

Solnは,英語を母語とする 4歳から 6歳の子供36名を対象に, (4)の文に おける再帰代名詞の解釈を調べた.

(4)  The dog said that the horse hit himself 

(5)

86  日本入学習者による英語の再帰代名詞習得に関する一考察

himself"の先行調は, horse"であるという解釈は全体の95%に達しており,

英語の再帰代名詞が最小節内で束縛されることを示している.また, 11名の 英語を母語とする大人を対象とした Thomasの実験報告でも, (5)の文にお ける himself"の先行詞は,最小節内の Bill"であるという解釈が全体の 99%を占めている.

(5)  David could see that Bill was looking at himself in the mirror  それでは,第二言語習得の場合,つまり,すでに母語を習得した上にさら に別の言語を習得する場合構造的条件はどのように作用するであろうか.

平川 (1990)及ぴHirakawa(1990) 8では,日本語を母語とする英語学習者 の場合, (3)で示した統率範時パラメータに含まれる値の内,とeのパラメータ 値を設定するかを実験的に調べている日本人を対象とした代表的な研究 例として,以下で彼女の実験結果を簡単に報告する.

実験に先だ、って次の三つの可能性が考えられている.(a)学習者は正しく英 語のパラメータ値を設定する.(b)日本語パラメータ値の転移が起こる.(c)日 本語でも英語でもない他言語のパラメータ値を選ぶ.実験に参加した被験者 は三群から成り立っており,その内訳は,高校生から大学生に至る日本語を 母語とする英語学習者65名(実験群),英語を母語とするカナダ人高校生20 名(英語の統制群),日本語を母語とする日本人高校生22名(日本語の統制群) である.下の(6)は実験で使用された日英語のテスト丈の一例である 10

(6)  英語文:

ohn said that Bill hit himslf. 日本語文:太郎は明が自分をぶったと言った 11

実験群と英語統制群の各被験者は, (6)の英語文を含む同タイプの合計5文中 の各々の himself"の先行詞の選択が求められた.日本語統制群の被験者は,

(6)の日本語文を含む同タイプの合計5文中の各々の「自分」の先行詞の選択 が求められた.表1は実験結果の一部である 12

(6)

日本入学習者による英語の再帰代名詞習得に関する一考察 87  表 I 実験群及ぴ統制群による再帰代名詞の解釈の結果(%)

英語統制群 実験群 日本語統制群

NP1  NP2  NP

1I

1 i Q U

υ

n u  

t η i ρ 0

1iJ '

J

h U A U n b

? U 1 i  

*小数点第一位で四捨五入しである.

英語統制群の被験者は,

99%

の高い確率で、最小の

NP2

を選択しているが,

日本語統制群の被験者においては,

6 3 %

の確率で

NP1

26%

の確率で

NP2

を各々選択している.一方,実験群の反応は,日英両統制群のそれとは部分 的に異なり,被験者の77%は英語統制群と同じ反応を示しているものの,英 語のパラメータ値よりも広い値(日本語で認められるパラメータ値)を選ん だ被験者も多い (17%).以上の結果から,第二言語学習者は「正しく統率 範時パラメータの値を設定しなかった」とされている.また,その原因は「学 習者がLlである日本語の値を当てはめたj ことによるとされ, L2獲得に おいてLlのパラメータ値の転移が起こり得ると説明されている.

本節では,平川の研究に焦点を当てながら「統率範轄パラメータ」と第二 言語の習得との関わりを中心に概観したが,果たしてこのような構造的な制 約のみで日本人学習者による英語の再帰代名詞習得を説明しきれるであろう か. もっと日本語再帰代名調独自の特質を考慮する必要はないで、あろうか.

次節では,再帰代名調「自分」の特質について再検討し,その特質か言語習 得に及ぼし得る影響についても考察したい.

N  i 自分」の特質とその影響

平川の実験データ表

1

が示すように, 日本語統制群の被験者は

63%

の確率 で

NPl

2 6 %

の確率で

NP2

を各々選択しており,

NP2

よりも

NP1

を選択

(7)

88  日本人学習者による英語の再帰代名詞習得に関する一考察

する傾向を強く示している.

r

自分jの先行詞としては

NPl

NP2

のどち らも可能であるにも関わらず,何故,被験者は

NPl

のほうをより多く選択 するのであろうか.統率範障パラメータでは「自分」のパラメータ値は丈全 体であり,

NPl

NP2

のどちらも先行調になり得ると規定するだけで

NPl

選択の優先性は説明していない.本節でまず,この

NPl

選択の優先性 について久野 (1972)13の提案を基調として考察する.

周知のように,久野は日本語の再帰代名詞化について「感情移入j (empathy)という概念を適用することにより「自分」の先行詞が

NPl

にな りやすい可能性を示唆している.

r

感情移入」という概念は次の(7)の仮説に 基づいている.

(7)  従属節に現われる「自分」は,その指し示す人物Aが,従属節に よって表わされている動作・状態・出来事を知っているか,意識 していることを表わす.換言すれば,

A

の意識の中で,

r

自分

J

は, 一人称代名詞「僕/私」に対応する.

例えば,下の日本語文(8)において,主文の太郎は「花子が僕を愛していない

J

と心の中で意識している訳である.

(8)  太郎は〔花子が自分を愛していなしつことを悲しんだ.

この感情移入による説明が示唆するところは,補文中の「自分」の先行詞は 主文の名詞句

( N P 1 )

であるということに他ならない.しかし,実際には補 文中の名詞匂

( N P 2 )

も「自分

J

の先行詞の候補であり,感情移入が作用し ない形で

NP2

が選択される場合もあり得る.そこで本稿では,この感情移 入という概念をあくまでも

r N P l

選択の優先性」を説明する概念と考え以 下の議論を進める.

先に述べたように,平川の日本語統制群の被験者は「自分

J

の先行詞とし て

NPl

を優先的に選択しており,この感情移入が作用している可能性があ

(8)

日本人学習者による英語の再帰代名詞習得に関する一考察 89  る.換言すると,

r

パラメータ値j という構造的な制約だけでは捉えること ができない「感情移入」というかなり心理学的・認識論的な要因が,

r

自分

J

の先行詞を決定する際に関与している可能性が推し計れる.

それでは次に,このような「自分」の特質は第二言語の習得においても影 響し得るであろうか.平川の日本人実験群のデータでは, 77%が himself"

の先行調として補文中のNP2を選択し, 17%が主文のNP1を選んでおり,

NP1を優先的に選択した被験者は少ない. しかし,英語統制群の被験者に おいては99%の確率でNP2を優先的に選択しており NPlの選択は僅か 1 %にすぎない.何故,日本人実験群の方がNPl選択の確率が高いのであ ろうか.この点については,特に日本人被験者が日本語文の処理において「感 情移入」という心理的な要因に影響される可能性があるという点を考え合わ せると,英語の himself"の先行詞を決定する際にも「自分

J

を処理する際 に関与する「感情移入」という方略を混入させる可能性がある園そして結呆 的に himself"の先行詞としてNPlを選択する日本人被験者独自の反応が 誘発される可能性が考えられる.

次節では,以上のような日本語文及び英語文における被験者の反応が実際 に「自分

J

の持つ特質,即ち「感情移入」による影響であるのかどうかを実 験的に確認する.その手立てとして,平川の実験で使用されたテスト丈を基 本とし,それに主文の主語の感情が補文に移入しやすい形の文を新たに付け 加えて実験を行う.もし,新たに付け加えられた文においてNPl選択の確 率が高くなるならば,

r

感情移入jという心理的要因が日本入学習者による 再帰代名詞の習得に影響を及ぼしているという予測が妥当なものになると言

えよう.

実験

{仮説}日本人学習者による再帰代名詞の習得に関して,次の(9)に示す三 つの仮説を立てる.

(9)

90  日本人学習者による英語の再帰代名詞習得に関する一考察

(9)a.日本人被験者は,主文の主語の感情が補丈に移入しやすい形の日 本語丈において,

r

自分」の先行調としてNP1を選択する.

b. 日本人被験者は,主文の主語の感情が補文に移入しやすい形の英 語文において, himself"の先行詞としてNP1を選択する傾向が ある.この傾向は,英語を母語とする被験者には見られない傾向 である.

これら司英語におけるNP1選択の傾向には相関関係があり,

r

分」の先行詞を決定する際に関与する「感情移入」という因子が himself"の先行詞を決定する際にも関与する.

[被験者及び実験丈]被験者は実験群, 日本語統制群,英語統制群の三群 から成り立っている.まず実験群は, 日本で英語をき学習する日本人高校生86 名である.日本語統制群は,実験群と同一被験者86名である.英語統制群は,

英語を母国語とする英米人10名である.

実験丈は,本実験の仮説が検証できるようにタイプA'Bの二つのタイプ から成り立っている(補遺参照).まずタイプAは,平川lの実験で使用され たものと同じタイプであり,タイプBは,被験者の感情移入が先行詞の決定 に影響しやすいように考慮されたタイプ(本実験で新たに付け加えられたタ イプ)である.下の酬の日本語文が示すように,タイプA'B文の違いは主 文中に「誇らしげにj という副詞が挿入されているかどうかだけの違いであ る.しかし,この主文の主語の感情を表す副詞が挿入されることにより「明 が僕(太郎)を紹介した」という感じが強くなる.つまり,タイプAよりも 副詞が挿入されたタイプBの方が主文の主語の感情が補文に移入しやすくな るという訳である.

0 ) A:

太郎は明が自分を紹介したと言った.

B:

太郎は明が自分を紹介したと誇らしげに言った.

(10)

日本人学習者による英語の再帰代名詞習得に関する一考察 91  日本語のタイプA . Bは(10)の丈を含み,各タイプ三文ずつの合計六丈である.

また各丈の後には「自分jが指し示す候補の選択肢 (a.太郎 b.明 c.  明または太郎 d.誰か他の人 e わからない)が与えられている. 日本 語統制群の被験者は.

r

自分

J

の先行詞として適切だと思うものを選択肢の 中から選ぶように指示された.

英語のタイプA . Bは(11)に示すとおりであり,臼本語のタイプA . Bと平 行関係になっている.日本語と同じく各タイプ三文ずつの合計六丈である.

また各文の後には himself"が指し示す候補の選択肢が与えられている.

1) A : John said that Paul introduced himself 

a  John  b.  Pul c itherJ ohn or Paul  d.  someone else 巴. don't know 

B : John proudly said that Paul introducdhimself.  a  John  b.  Paul  c  eitherJohnorPaul  d.  someone else  e.  don't know 

実験群及び英語統制群の被験者は, himself"の先行詞として適切だと思う ものを選択肢の中から選ぶように指示された.

[結果と考察}下の表2は,各群の反応結果(%)をまとめたものである.

表2 各群によるタイプA ' B文の再帰代名詞の解釈の結果(%) 立

功 日本語統制群 実験群 英語統制群

タイプA タイプB タイプA タイプB タイプA タイプB NPl  61  82  11  46  O  O  NP2  27  5  76  43  100  100  NPll2  7  9  5  6  O  O 

*小数点第一位で四捨五入しである.

(11)

92  日本人学習者による英語の再帰代名詞習得に関する一考察

まず英語統制群の反応に注目すると,タイプ A丈において NP2よりも NP1の方が優先的に選択されている (NP1選択は61%,NP2選択は27%).

この NP1と NP2の選択の確率は平川の実験結果 (NP1選択は 63%,NP2  選択は26%) ともほぼ一致する. ところが,主文の主語の感情カヰ市文に移入

しやすい形のタイプ B丈においては, NP1の選択は 61%から 82%に増えて いる反面, NP2の選択は27%から 5%に減少している.この結果は,主文 中に主語の感情を表す副詞が挿入されることにより「自分」の先行詞として 主文の主語 (NP1)が選択される傾向が強くなるということを示している(※

タイプ A ' B文での NP1選 択 の 差 は ニ 5.534,df=85, p< .01で有意な 差であるに

日本人実験群によるタイプ A文の反応 (NP1選択は 11%,NP2選択は 76%) も平川!の実験結果 (NP1選択は 17%,NP2選択は77%) とほぼ一致 する.ところが,タイプ B文では NP1と NP2の選択の確率はほぼ同じ (NP1 選択は46%,NP2選択は43%) になっており,主文中に主語の感情を表す 副詞が挿入されることにより himlf"の先行詞として NP1を選択する被 験者が増えたことを示している(※タイプ A . B文での NP1選択の差は,

=7.923, df=85, p<.Olで有意な差である).英語統制群の反応においては タイプ A . B丈に関係なく NP2が選択されている(タイプ A ' B丈ともに NP1選択は 0%,NP2選択は 100%) という点と考え合わせると,日本人 実験群の反応傾向は英語統制群には見られない,日本人被験者独自の反応で ある.

次に,日本語統制群と実験群の NP1選択の相関関係を調べると,まずタ イプA丈において「自分」の先行詞として NPlを選択した被験者が必ずし も himself"の先行調として NP1を選択しているとは限らない (r=0.203,

p<.05). 一方,タイプ B丈においては「自分

J

の先行調として NP1を選 択した被験者が himself'の先行調としても NP1を選択している傾向がある

(r=O .441, p<. 05). 

(12)

日本人学習者による英語の再帰代名詞習得に関する一考察 93  以上の結呆から総体的に言えることは,日本人被験者の場合(日本語統制 群及び実験群に関わりなく),主文の主語(NPl)の「感情移入」という要因 に影響されて再帰代名詞の先行詞を決定する傾向があるということである.

この傾向は英語統制群には見られない傾向であり, 日本人被験者独自の反応 であると言える.さらに,

I

自分」の先行調としてNPlを選択する傾向と もimself"の先行詞として NPlを選択する傾向に関連があるということか ら,

I

自分

J

の先行詞を決定する際に関与する「感情移入」という因子が himself"を含んだ、英語文を処理する際にも関与すると言ってよいであろう.

V I  

結論

以上,日本語再帰代名詞「自分jの影響を中心とし, 日本人学習者による 英語の再帰代名詞習得に関して検討してきた.この結果として,

I

自分」の 先行調決定には,パラメータ値という構造的な制約のみでは捉えることがで きない「感情移入」という心理的。認識的な要因も関与してくることが確認 できた.さらに,この「自分

J

の特質は,日本入学習者が英語再帰代名詞 himself'の先行詞を決定する際にも関与するということも確認できた.こ のような「自分j に関わる特質とその第二言語習得への影響という観点は,

再帰代名調の習得に関わる第二言語習得研究が「感情移入

J

という心理学的・

認識論的な要因も視野に入れた上で遂行されることの必要性を示唆してい る.

今回の実験では,概略,平川の実験手順を基本としたため「自分」と himself"の関係のみを調べたが,日本語再帰代名詞には「自分」の他に「自 分自身」及「彼自身」という再帰代名詞も存在するという主張もあり,今後,

これら再帰代名詞と himslf"の関係も実験的に調べてみることが必要で、あ ろう.また,今回とりあげた「感情移入j どいう観点と関連して,日本語の 再帰代名詞化には「話者の視点」という因子も働くとする主張14もあり,

I

感 情移入」と「話者の視点」との相互作用といった観点からの調査も今後の課

(13)

94  日本人学習者による英語の再帰代名詞習得に関する一考察 題と言えよう.

i主

1 英語の再帰代名詞はhimself/herselfなどに代表されるように‑selfの形を持つ.

本稿では便宜上.himselfを再帰代名詞の代表例として使用する.

2 この定義は,大津由紀雄「心理言語学H英語学の関連分野J(大修館書庖.1989),  p.  216の定義に基づいている.

3 Kenneth Wexler and M. Rita Manzini,Parameters and Learnability in Bind ing  Theory"  Parameter Setting, eds.  T.  Roeper  and  E.  Williams  (Dordrecht  Reidel, 1987), pp. 4176

4 Wexler and Manzini (1987)は,英語の himselflherself"などが日本語の「自分」

に相当すると仮定し,議論を進めている.本稿でも,この提案に従って議論を進め ていく.但し,日本語再帰代名詞には「自分」の他に「自分自身H彼自身」があり,

'himself'に対応するのは「彼自身jであるとする提案(Nakamura,ReflxIVes1ll 

apanese" Gengo K.h 951989, pp. 206‑230.)もあることを付記しておく.

5 ここで言う「名詞句Jとは,主語に相当する名詞句であり,目的語に相当する名 詞句ではない.Wexler and Manzini (1987)は,適正先行詞パラメータ (Proper Antecedent Parameter)という概念を提案して,自分の先行詞は主語にあたる名詞 匂であると説明している.

6 Lawrence SolanParameter Setting  and the  Development of  Pronouns and  Reflexives"  Parameter  Setting, eds. T. Roeper  and  E.  Williams  (Dordrecht  Reidel, 1987), pp. 189‑210 

7 Margaret Thomas,The Interpretation of English Reflexive Pronouns by Non‑

native Speakers" Studies in Second Language Acquisition, 11 (1989), pp. 281‑303 平川真規子「第二言語獲得における普遍文法の役割:再帰代名詞の獲得を中心と

してJ

r

日本語学j9巻8月 号 (1990). pp.  92104.及 びM.Hirakawa,A  Study of  the  L2 Acquisition of  English Reflexives" Seιond La冗:gzωgeResearch,  6(1990), pp. 60‑83 

9 Wexler and Manziniでは五つの値を含む統率範時パラメータが提案されたが,

平川及びHirakawaでは下の例文中のab, cで示す三つの値に簡略化されている.

[cJohn thinks that [bBill told Tom ,[PRO to introduce himself.a] b] ,] 

10  実験では, (5)のような時制節を含んだ文の他に,下で示すような不定詞節を含ん だ文も使用された.

[NPJ]une asked May [NP2PRO to understand herself.]]  本稿では,特に時制節に限定して以後の議論や再実験を行う.

(14)

日本人学習者による英語の再帰代名詞習得に関する一考察 95  11  Wexler and Manziniと同様に,平川においても「自分j は英語の'himself'her

self'に相当すると仮定して,日本語テスト文を作成している.

12  本稿の議論は時制節に限定している為,平川の実験結果も時制節の結果のみを紹 介する.表中のNP1 (5)の英語文ではJohn,日本語文では太郎のことである.

NP2は,英語文ではBill,日本語文では明のことである.因みに,表1の数字は,

各々の被験者群における全解答項目数に対して,選択されたそれぞれの解答バター ンの個数が占める割合を百分率で表している.

13  久野暗『日本文法研究J(大修館書庖, 1973).また, S. kuno, "Pronominaliza‑ tion, Reflexivization and Direct Discourse" Linguistic Lη:quiry, 3 (1972), pp.161‑

195.も参照のこと.

14  津田治美「日本語の代名詞化・再帰代名詞化の条件について:特に話者の視点と その移動を中心として

H

英語教育j2月号3月号(1975)では,日本語の代名詞化・

再帰代名詞化においては「話者の視点」といった心理学的・認識論的な因子が関与 すると主張されている.

補遺(日・英語の再帰代名詞テスト文) 日本語タイプ A文 (3文)

l.太郎は明が自分を責めたと言った.

2.太郎は明が自分を推薦したと言った.

3.太郎は明が自分を紹介したと言った.

日本語タイプB (3文)

1.太郎は明が自分を責めたと怒って言った.

2.太郎は明が自分を推薦したと嬉しそうに言った.

3.太郎は明が自分を紹介したと誇らしげに言った.

英語タイプA (3文)

1.  John said that Paul blamed himself  2.  John said that Pulrecommended himself  3.  John said that Paul introduced himself  英語タイプB (3文)

1.  John angrily said that Paul blamed himself  2.  John gladly said that Paul recommended himself  3.  John proudly said that Paul introduced himself 

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