3 5
アバール語の相互代名詞
t s o t
sa‑の分布*山 田 久 就
1.は じめに
照 応 詞
( a n a ph o r )
(再 帰 代 名 詞 、相 互 代 名 詞 )の 分 布 は 、類 型 論 的 統 語 研 究 及 び 理 論 的 統 語 研 究 の 中 心 的 な トピ ッ クの 一 つ で あ る1
。 世 界 の 諸 言 語 の 照 応 詞 は 、 あ る 共 通 性 を 保 ち な が ら も 、か な り違 っ た 分 布 を 示 す 。 本 稿 で は 、北 東 コ ‑ カサ ス 諸 語 (ダ ゲ ス タ ン諸 語 )の 一 言 語 で あ る ア バ ー ル 語 の 相 互 代 名 詞t s o t s a
‑の 分 布 を考 察 の 対 象 に す る 。アバ ー ル 語 の 格 配 列 は絶 対 格 ・能 格 型 で あ る。本 稿 で は
、Di x o n( 1 9 7 9 , 1 9 9 4 )
の 用 語
S、A、
0 を 用 い るが2
、 ア バ ー ル 語 の よ うな 絶 対 格 ・能 格 型 の 格 配 列 を持 つ 言 語 で は、S
と0 が 絶 対 格 で 現 わ れ、A
が 能 格 で 現 わ れ る 。 一 方 、日本 語 の よ うな 主 格 ・対 格 型 の 格 配 列 を持 つ 言 語 で は
、Sと A
が 主 格 で 現 わ れ、
0 が 対 格 で 現 わ れ る。S、A、
0 は 、節 の 主 要 な ア ク タ ン トで あ り、S
、*本稿は日本言語学会第
11 6
回大会で 「アバール語の相互代名詞t s ot s
a‑について」として発表 した内容に加筆と修正を施したものである。鈴木英一先生、加賀信広先生、佐々木冠氏、西田 光一氏に草稿に対して貴重なご助言をいただいた。ここにお礼を申し上げたい。アバール語は、北東コ‑カサス話語 (ダゲスタン諸語)に属し、主にロシア連邦ダゲスタン共和国で話されて いる。アバール語の文語で用いられている文字はキリル文字であるが、本稿ではラテン文字へ 次のような転写を行って、アバール語を表記している
。a: a,6: b
,B:W,r: g,rl ⊃ ‥ Y,rb ‥ h ,r I ‥ T , A ‥ d,e: e , 派: Z h
,3:Z,H : i ,i i : j ,t t : k,Kr b: kx' ,Kb: t 書 ' ,Z { I : k'
,J I :
1,J I r h: 4 ,M: m,H: n
,0:0,r I = p,p: r , C: S ,T: t ,TI : t ' ,y: u ,¢: f ,x: x,xも: kx,xh ‥ G,XI = h,L I : t S , q: C h , u: s h , L u: S hs h,E ) : e , K) : j u
,J I : j a
。本発表のデータは
1 996
年8
月から1 998
年2
月までの間と1 998
年8
月にロシア連邦ダゲス タン共和国で行った調査による.Same do v,Dz hal i lS.
氏、Xange r e e v,Magome dbe kD.
氏、I s al ma gome dov,I s al magomedM.
氏を中心に多 くの方にアバール語の インフォーマントに なっていただいた。ここで、感謝の意を申し上げたい。本稿で用いる省略記号は次の通 りであ る。ABL:
奪略、 ABS
‥絶対格、ACC:
対格、Adj
‥形容詞、Adj Pt
:形容詞的分詞、ALL
:向格、DAT:
与格、ERG:
能格、GEN:
属格、LOC:
位格、NOM:
主格、PL:
複数、PRS:
現在、PST:
過 去。アバール語の位格、向格、奪格は5
系列の構成要素からなる。系列 Ⅰ、
ⅠⅠ、
ⅠⅠⅠ、
IV、Vの
基本的な意味は、それぞれ、「 ‑
の上」 、「 ‑
の辺 り、‑の所」 、「 ‑
(連続的な媒体など)の中」、「‑の下」、「‑(入れ物など)の中」である。
1
「照応詞」という用語には、再帰代名詞と相互代名詞だけを含む用いられ方と、文脈指示の 人称代名詞、指示代名詞をも含む用いられ方とがあるが、本稿では、再帰代名詞と相互代名詞 の総称 として 「照応詞」という用語を用いる。2
comr i e( 1 978)
などは、
0 の代わ りにP
を用い、S、A、P
という表記法を用いている。A、0 以外のアクタン トは二次的なア クタン トと考えられ る 3 。Sは 自動詞
の唯一の主要なア クタン トである。Aと 0 は他動詞の二つの主要なア クタ ン トである。典型的な他動詞節では、動作主( Ag e nt )
がA
として、被動者( pa t i e nt )
が 0 として現われ る。S、A、
0 と格配列の関係 を簡単に図式化 すると次の ようになる。(1) 絶対格 ・能格型 : 能格 絶対格
【
/\
A
\/
主格 ・対格型 : 主格
0 1
対 格S
アバール語の格配列 を例示する
。( 2 )
は 自動詞文で、S
のMus a
が絶対格で 現われている。( 3 )
は他動詞文で、A
のRa s ul
が能格で、
0のMus a
が絶対 格で現われている。( 2 ) Mus a ha ni wewa c h' a na・
Mus a・ABS
ここに 来る・PST
「 Mus a
が ここに来た。 」
( 3) Ra s u li t s a Mus a ha ni wewa c ha na.
Ra s ul・ERGMus a・ABS
ここに 連れて来る・PST
「 Ra s ul
がMus a
をここに連れて来たO 」
本稿 には、二つの 目的がある。第一の 目的は、アバール語の相互代名詞
t s o t s
a‑の分布を記述することである。アバール語の研究において、私の知る 限 り、相互代名詞 t s o t s
a‑に関する研究はない4
。第二の 目的は、言語類型論 及び統語理論の発展に対 してアバール語の相互代名詞 I s o t s a ‑
の分布が持つ 意義 を明らかにすることである。アバール語の相互代名詞t s o t s
a‑の分布は、類型論的統語研究において広 く関心が持たれている統語的能格性の問題に新 しい発展を与えると思われる。
Di xo n( 1 9 9 4)
やMa nni ng( 1 9 9 6 )
は、照応詞3
本稿では、項 ( ar gument ) と付加語 ( adj unc t ) の総称 としてア クタン ト ( ac t ant ) とい う用 語 を用いる。
Jアバール語の全体像については Bokar e v( 1 949)、Madi e va( 1 980) を参照 していただ きた
い。 また、アバール語の研究の歴史については At ae v( 1 997) を参照 していただ きたい。
アバール語の相互代名詞 t s o t s a ‑ の分布
37 の分布は言語普遍的に統語的対格性 を示す と考えているが 、それに反 して、アバール語の相互代名
詞 t s o t s
a‑の分布は、統語的能格性 を示すことを明ら かにしたい。 また、本稿では、アバール語の相互代名詞t s o i s a
‑の分布 を文 法関係 と意味役割に基づ く制約を用いて理論的に一般化することを試みる。本稿の構成は次の通 りである
。2
節では、統語的対格性 と統語的能格性に ついて簡単に説明する。3節では、意味役割 と文法関係 とい う範噂について 説明する。そ して、4
節で 、アバ ール語の相互代名詞 i s o t s
a‑の分布 を考察 する。2.
統 語 的対 格 性 と統 語 的能格 性ある統語現象で
S
とA
が 0及び二次的アクタン トに対 して優位性 を持 っ ている時、その統語現象は統語的対格性 を示す と言われ、S
と 0がA
及び 二次的アクタン トに対 して優位性 を持っている時、その統語現象は統語的能 格性 を示す と言われ る。統語的対格性 を示す統語現象はいろいろな言語で非 常にた くさん報告 されているが 、統語的能格性 を示す統語現象はあ まり報告 されていない。どの言語のどのような統語現象が統語的能格性 を示すのか と い うことは言語類型論の主要な トピ ックの一つである。統語的対格性及び統語的能格性 を示す統語現象を、ロシア語 と
I n ui t
語の 分詞関係節 を用いて 、例示す る。ロシア語で分詞 を用いて関係節 を作 る場 合、S
(主格 )とA(主格 )は関係節化することがで きるが、
0 (対格 )及 び二次的アクタン トは関係節化することがで きない。( 4 a )
ではS
(主格 )が 関係節化 されていて、( 4 b )
ではA
(主格 )が 関係節化 されている。( 4 a )
と( 4 b )
は適格である。それ に対 し、( 4 C )
は、
0 (対格 )が 関係節化 されてい て、不適格である。( 4 ) a ・l l e ] li g r a v s hi j ] ma l ' c hi k l
遊ぶ
・Ad j Pt , PST
男の子「遊んでいた男の子
」
b ・ l
le ] lC hi t a j u shc hi j k n i gu ]
studentl 読 む・Ad j Pt , PRS
本・ACC
学生「本を読んでいる学生」
山 田 久 就
C .*l Ta n j a l e ] lC hi t a j us hc ha j a ] kni gal Ta n j a・NOM
読 む・Ad j Pt , PRS 本
「 Ta n j a
が読んでいる本」一方
、I nui t
語で分詞 を用いて関係節 を作 る場合、S
(絶対格 )と0 (
絶対 檎)は関係節化することがで きるが、A
(能格 )及び二次的アクタン トは関 係節化することがで きない。( 5 a)
ではS
(絶対格 )が関係節化 されていて、( 5 b)
ではO (
絶対格 )が関係節化 されている。( 5a)
と( 5 b)
は適格である。それに対 し
、( 5 C )
は、A (
能格)が 関係節化 されていて、不適格である。( 5) a.mi i r a q ka ma トt
u‑qc hi l d. ABSangr y‑ REL. I NTR‑ SG
̀ t hec hi l dt hati sa ngr y'
b.nanuq Pi t t a ‑ p t uqu‑ t a ‑ a
pol a r . be a r . ABSPi i t a ‑ ERGki l l ‑ TR. PART‑ 3SG
̀ apol a rbe a rki l l e dbyPi i t a' C .* a ngut aa l l aa t t i gu‑ s i ma ‑ s a ‑ a
ma n. ABSgun. ABSt ak e ‑ PERF‑ REL. TR‑ 3SG. SG
̀ t hema nwhot ookt hegun' ( Ma nni ng1 996‥8 4)
Di xon( 1 99 4)
やManni ng( 1 996)
は、統語現象には、ある言語では統語的 対格性 を示すが別の言語では統語的能格性 を示す統語現象 と全ての言語で統 語的対格性 を示す統語現象があると考えている。Di xon( 1 99 4)
が言語普遍 的に統語的対格性 を示す と考えている統語現象は、( i )
命令文、( i i ) c a n,t r y ,
be gi n,wa nt
などに相当する述語におけるコン トロールの ターゲ ット、( i i i )
照応詞の分布、( i v)
使役構文などである。Di xon( 1 99 4)
もManni ng( 1 99 6)
も照応詞の分布が言語普遍的に統語的村椿性 を示す と考えている。
統語的能格性 を示す統語現象を持 っている言語は、基本的に、絶対格 ・能 格型の格配列など形態的能格性 を持 っているが 、
Di xon( 1 994)
やManni ng
( 1 99 6)
は、形態的能格性 を持つ言語には、統語的能格性 を示す統語現象を 持っている言語 と持っていない言語があると考えている。Di xon( 1 99 4‥1 75)
は、アバ ール語 を統語的能格性 を示す統語現象 を持 っていない言語に分類アバール語の相互代 名詞 t s o t s a ‑ の分布 3 9
している。一般に、統語的能格性 を持つ言語の代表 と考えられているのはDyi r ba l
語である。Dyi r ba l
語は次の ような統語的能格性 を示す統語現象を 持っている。( i )
等位接続における後文での名詞句の省略、( i i )
従位接続にお ける従属節での名詞句の省略、( i i i )
関係節化などである5
。どの ような言語 のどの ような統語現象が統語的能格性を示すのかについては、Di xo n( 1 9 9 4)
にある程度詳 し くまとめ られている。3.
意味役割 と文法関係本稿では、アバール語の相互代名詞の分布を分析するのに 「意味役割」と
「文法関係」とい う二つの範晴を用いる。そこで、意味役割 と文法関係につ いて簡単な説明を行いたい。
意味役割 とは、動詞など主要部 (あるいは、節)によって表 され る状況に 対 してア クタン トの指示対象が持 っている役割 (あるいは 、働 き)を抽象 化 し、い くつかに分類 した意味統語的な範噂である。どの ような意味役割 を設定す るべ きか とい う問題には、いろいろと異なった提案がある。一般 的には、主な意味役割 として、動作主
( Age nt )
、被動者( pa t i e nt )
、対象物( The me )
、受益者( Be ne 丘c i a r y)
、受け手( Re c i pi e nt )
、経験者( Expe r i e nc e r )
、道具 ( I ns t r ume n t )
、場所( Loc a t i o n)
、着点( Go a l )
、起点( So ur c e )
などが設 定 されている。意味役割は優位性において階層 をなしていると考えられてい る。例えば、Br e s na na ndKa ne r v a( 1 9 8 9 )
は( 6)
の意味役割の階層 を仮定 している。( 6 ) Ag e nt> Be ne 丘c i a r y> Re c i pi e 山/ Expe r i e nc e r> Ⅰ ns t r ume nt
> The me / Pa t i e nt> Loc a t i o n/ Goa l / So ur c e
意味役割やそれに類する概念について詳 しくは
、Fi l l mo r e( 1 9 6 8 ) 、Ja c k e ndo f f ( 1 9 7 2,1 9 9 0) 、Andr e ws( 1 9 85 )
とそこであげ られている文献 を参照 してい ただ きたい。次 に、文法関係 に移 る。本稿では
、LFG( Le xi c a lFunc t i o na lGr a mma r )
やHPSC( He a d‑ Dr i v e nPhr a s eSt r uc t ur eGr a mma r )
のように、統語部 門で の派生を認めない立場 をとる。したが って、RG( Re l a t i ona lGr a mma r )
のよ うにアクタン トが派生によって二重に文法関係を持つことはない。文法関係5
Dyi r bal 語の統語的能格性 について詳 し くは Di xon( 1 972) を参照 していただ きたい。
には主要文法関係 と二次的文法関係がある
6
。主要文法関係は主要文法関係1
と主要文法関係2
か らなる7
。文法関係は、優位性 において、下の( 7)
の 階層 をなしている。(7)
a
・主要文法関係>二次的文法関係b.
主要文法関係1>主要文法関係 2
主格 ・対格型の格配列を持つ諸言語では、一般に
、S
とA
が主要文法関係1
で 0が主要文法関係2
であると考えられている。絶対格 ・能格型の格配 列 を持つ言語に対 してはい くつかの提案が なされている。Mar ant z( 1 98 4)
、Ma nni ng( 1 996)
などは、バ スク語の ように統語的能格性 を示す統語現象を 持 っていない言語ではS
とA
が主要文法関係1
で、
0が主要文法関係2
で あ り、Dyi r bal
語やエスキモー諸語のように統語的能格性 を示す統語現象を 持 っている言語では、S
と 0が主要文法関係1
で、A
が主要文法関係2
で あると考えている。本稿では、Dyi
r ba l
語やエスキモー諸語に関してはMara nt z( 1 984) 、Ma n‑
ni ng( 1 99 6)
などの立場 を受け入れ、Dyir ba l
語やエスキモー諸語でSと 0
が主要文法関係1
で、Aが主要文法関係 2
であ り、Dyi r ba l
語やエスキモー 諸語が統語的能格性 を示す統語現象を持 っているのはそのためであると考 える。アバール語 も、本稿で明らかにするように、Dyir ba l
語やエスキモー 話語 と同様に、統語的能格性 を示す統語現象を持 っている。したが って、ア バール語で もS
と 0が主要文法関係1
で、A
が主要文法関係2
であると仮 定する。一方 、バ スク語などでS
とA
が主要文法関係1
で、
0が主要文法 関係2
であるかど うか、また、バ スク語などが統語的能格性 を示す統語現象 を持っていないのは何に起因するのかについては本稿に直接関係がないので 扱わない。6
主要文法関係 と二次的文法関係は、それぞれ 、RG での ̀ t e r m' と ̀ non‑ t e r m' に 、LFG で の直 ( di r e c t ) 文法関係 と斜 ( obl i que ) 文法関係に対応する。
7
主要文法関係 1 、主要文法関係 2 は、それぞれ、「文法主語」、「直接 目的語」とよ く呼ばれ
ているが 、「文法主語」、「直接 目的語」 とい う用語は誤解を招 きやすいので 、RG に従い、数
字を用いて表すことにする。
アバール語の相互代名詞 t s o i s a‑ の分布 4 1
4.
相互代名詞の分布前節 までの議論 をふ まえ、アバール語の相互代名
詞 t s o t s a
‑の分布 を考察 してい くことにす る。4. 1
主要アクタン トと二次的アクタン トの照応関係黄初に、主要アクタン ト(S、A、0)と二次的アクタン トを相互代名詞 で結び付ける場合に、相互代名詞 と先行詞がどちらの位置に現れ ることがで きるのかを見てい く。
4. 1. 1
Sと二次的アクタン トの場合アバール語では
、
S (絶対格 )は二次的アクタン トの位置にある相互代名 詞の先行詞になることがで きるが 、反対に、二次的ア クタン トは S (絶対 檎 )の位置にある相互代名詞の先行詞になることがで きない。例 を示す と、( 8a) 、( 9 a)
は、S (絶対格 )が二次的アクタン トの位置にある相互代名詞の 先行詞になっていて、適格な文である8。それに対 し、(8 b)、( 9 b)
では、二 次的アクタン トが S(絶対格)の位置にある相互代名詞の先行詞になってい て、不適格な文である9。
( 8) a. He l t s ot s azda
kx' oc ha na.
彼 ら
・AB
Sお互い・LOC( Ⅰ )
キスする・PST
「彼 らがお互いにキスした。」
b. * He z d a t s ot s al kx' oc ha na.
彼 ら
・LOC( Ⅰ )
お互い・AB
Sキスする・PST
「彼 らにお互いがキスした。」
( 9) a ,He l t s ot s a2 ; ukx r al a hana.
彼 ら
・AB
Sお互い・LOC( Ⅰ Ⅰ )
見る・PST
「彼 らがお互いを見た/彼 らがお互いに日をやった。」
8
本稿では、先行詞を斜字体で 、照応詞 ( 再帰代名詞、相互代名詞 )を太字体で表す。
9
本稿を通 して明らかになるように、アバール語の相互代名詞 t s o l e a‑ の絶対格形は実際に用い
られ ることが ない。そこで 、 t s ot s a‑ の絶対格形 を便宜的に形態論的に予測 され る ̀ t s ot s a l 'で
表すことにす る。
山 田 久 就
b.
*He z uk x t s ot s al r a l a ha na.
彼 ら
・LOC( Ⅰ Ⅰ )
お互い・ABS
見 る・PST
「彼 らをお互いが見た/彼 らにお互いが 目をや った。」
S
と二次的アクタン トを意味役割の観点か ら見 ると、大多数の 自動詞で は、Sが二次的アクタン トより意味役割の階層で高い位置にあると考えられ ている。しか し、斜格経験者述語( obl i quee xpe r i e nc e rpr e di c a t e s )
に分類 さ れ るような 自動詞では、二次的アクタン トで現れ る経験者がS
で現れ る被 経験者 より意味役割の階層で高い位置にあると考えられている。斜格経験者 述語は世界の多 くの言語にあるが 、アバール語の 自動詞の中に も斜格経験 者述語がい くつかある.‑ o t I ' i z e
(気に入る、欲する)などの述語では経験 者が与格で現われ 、‑ i G i z e
(見る、見える)、r aT i z e
(聞 く、聞こえる)、壬 a z e
(知る)、‑ i c h' c h' i z e
(分かる)、r i xi ne
(嫌 う)、c h' a l T i ne
(飽 きる)、r ak' al de kk e z e
(思 う)、r a k' a l des hs hwe z e
(思い出す)などの述語では経験者が所格( Ⅰ )
で現われ る。被経験者は常にS
(絶対格 )として現われ る。( 1 0)
は経験 者が与格で現われている例であ り、( ll )
は経験者が所格( Ⅰ )
で現われている 例である。( 1 0) T a l i e Pa t ' i ma t j ot 壬 ' ul a・
Al i・DATPa t i ma t・ABS
気に入っている・PRS
「 Al i
にPa t i ma t
が気に入っている。 」 ( ll ) T al i da Pa t ' i ma t J I G ana.
Al i・LOC( Ⅰ )Pa t i ma t・ABS
見 る/見える・PST
「 A
liがPat i ma t
を見た/A
liにPa t i ma t
が見えた。 」
次の
( 1 2)
は、イタリア語の与格経験者述語文であるが 、与格経験者がS
の位置にあ る再帰代名詞の先行詞になっている。( 1 2)A M a r i o pi ac es ol os 6s t es s o・
t oMar i ol i ke sonl ys e l f く Ma r i ol i ke so nl yhi ms e l f . ' ( Ro s e n1 9 88:27 )
Ros e n( 1 98 8:2 7) 、AI s i na( 1 996:25 4)
によると、イタリア語の与格経験者 述語文では、( 1 2)
の ように、経験者である二次的ア クタン トはS
の位置にアバ ール語の相互代名詞 t s o t s a ‑ の分布 4 3
ある再帰代名詞の先行詞になることがで きるが 、反村に、Sは経験者である 二次的アクタン トの位置にある再帰代名詞の先行詞 になることがで きない。上述の点において、アバ ール語の相互代名詞の分布は イタリア語の再帰 代名詞の分布 とは異なる。アバール語の斜格経験者述語では、他の自動詞 と 同様に、S(絶対格 )は二次的アクタン トの位置にある相互代名詞の先行詞 になることがで きるが 、反対に、二次的アクタン トは
S(
絶対格 )の位置に ある相互代名詞の先行詞になることがで きない。( 1 3a)
は、被経験者であるS(
絶対格 )が与格経験者である相互代名詞の先行詞になっていて、適格な 文である。それに対 し、( 1 3 b)
は、与格経験者が被経験者であるS
(絶対格 ) の位置にある相互代名詞の先行詞になっていて、不適格な文である。また、( 1 4a)
は、被経験者であるS
(絶対格 )が位格( Ⅰ )
経験者である相互代名詞の 先行詞になっていて、適格な文である。それに対 し、( 1 4b)
は、位格( Ⅰ )
経 験者が被経験者であるS
(絶対格)の位置にある相互代名詞の先行詞になっ ていて、不適格な文である。( 1 3)a ・He l t s ot s aze
rot 壬 ' ul a.
彼 ら
・ABSお互い ・DAT
気に入っている・PRS
「彼 らがお互いに気に入っている。」
b.
*He z i e t s ot s al r ot 4 ' ul a.
彼 ら
・DAT
お互い・ABS気に入っている ・PRS
「彼 らにお互いが気に入っている
。」
( 1 4)a ・He l t s ot s azda r l G a na.
彼 ら
・ABSお互い ・LOC( Ⅰ )
見る/見える・PST
「彼 らをお互いが見た/彼 らがお互いに見えた。」
b・*He z d a t s ot s a l r l G a na・
彼 ら
・LOC( Ⅰ )
お互い・ABS見る/見える ・PST
「彼 らがお互いを見た/彼 らにお互いが見えた。」
4. 1. 2A
と二次的アクタン トの場合アバ ール語では、A (能格 )は二次的ア クタン トの位置にある相互代名 詞の先行詞になることがで きるが 、反対に、二次的アクタン トは
A
(能格 )山 田 久 就
の位置にある相互代名詞の先行詞になることがで きない。以下に例 を示す。
( 1 5 a ) 、( 1 6 a )
は、A
(能格 )が二次的アクタン トの位置にある相互代名詞の 先行詞になっていて、適格な文である。それに対 し、( 1 5 b) 、( 1 6 b)
は、二次 的アクタン トがA
(能格)の位置にある相互代名詞の先行詞になっていて、不適格な文である。
( 1 5 )a . He x s ua l a l t s ot s az e t 壬 ' una .
彼 ら・ERG
質問・PL, ABS
お互い・DAT
与える・PST
「彼 らがお互いに質問を与えた
。 」
b.
*He z i e t s ot s a t s a s ua l a l t 壬 ' una .
彼 ら・DAT
お互い・ERG
質問・PL, ABS
与える・PST
「彼 らにお互いが質問を与えた
。」
( 1 6 )a . He z he b t s ot s a2 : ukxa ba k xa na .
彼 ら・ERG
それ・ABS
お互い・ABL( Ⅰ Ⅰ )
奪い取 る・PST
「彼 らがそれ をお互いか ら奪い取 った。」
b.
*He z uk x a he b t s ot s a t s a ba k xa na.
彼 ら
・ABL( Ⅰ Ⅰ )
それ・ABS
お互い・ERG
奪い取 る・PST
「彼 らか らそれをお互いが奪い取 った。」
4. 1. 3
0 と二次的アクタン トの場合アバール語では
、0(
絶対格 )は二次的アクタン トの位置にある相互代名 詞の先行詞になることがで きるが 、二次的アクタン トは0(
絶対格 )の位 置にあ る相互代名詞の先行詞 になることがで きない。( 1 7 ) ‑ ( 1 9 )
の各a
は、o(
絶対格 )が二次的アクタン トの位置にある相互代名詞の先行詞になって いて、適格な文である。反対に、( 1 7 ) ‑ ( 1 9 )
の各b
は、二次的アクタン トが0(
絶対格 )の位置にある相互代名詞の先行詞になっていて、不適格な文で ある。( 1 7 )a.He § he l t s ot s a2 : da r uG a na .
彼・ERG
それ ら・ABS
お互い・L
OC( Ⅰ )
結ぶ・PST
「彼が それ らを互いに結んだ
。 」
アバール語の相互代名詞 t s o t s a‑ の分布
b・* He s h e z d a t s ot s al r uG a na.
彼
・ERG
それ ら・LOC( Ⅰ )
お互い・ABS
結ぶ・PST
「彼がそれ らに互いを結んだ。」
45
( 1 8)a ・ T al i t s a h e l t s ot s a2 ; de hus ana.
Al i・ERG
彼 ら・ABS
お互い・ALL( Ⅰ )
けしかける・PST
「 A
liが彼 らをお互いに対 してけしかけた。 」
b. * T al i t s a h e z d e t s ot s a l hus a na.
Al i・ERG
彼 ら・ALL( Ⅰ )
お互い・ABS
け しかける・PST
「 A
liが彼 らに対 してお互いをけしかけた。 」
( 1 9) a・He s h e l t s ot s a2 ; das a r a t ' a har una.
彼
・ERG
それら・ABS
お互い・ABL( I )
離れた( Ad j )
する・PST
「彼がそれ らを互いか ら離 した。」
b.* He s h e z d as a t s ot s al r at ' a ha r una.
彼
・ERG
それら・ABL( Ⅰ )
お互い・ABS
離れた( Ad j )
する・PST
「彼がそれ らか ら互いを離 した
。 」
ここで 、二次的アクタン トが 0 より意味役割の階層で高い位置にある場 合について考えてみる。多 くの言語は
、
0 の意味役割が 「対象物」、二次的 アクタン トの意味役割が 「受け手」とい う型の動詞や 0 の意味役割が 「被 経験者」、二次的アクタン トの意味役割が 「経験者」とい う型の動詞 を持 っ ている。例 を挙げ ると、日本語の 「与える」、「売 る」、「紹介す る」、「見 せ る」や英語の̀ gi ve' 、̀ s e l l
'、̀ i nt r oduc e' 、̀ s ho w'
などである。「受け手」、「経験者」は 「対象物」、「被経験者」より意味役割の階層で高い位置にある と考えられている。アバール語では
、
0の意味役割が 「対象物」、二次的ア クタン トの意味役割が 「受け手」 とい う型の動詞には、t壬 ' e z e(
渡す、与え る)、‑ i c hi z e(
売る)などがあるが、
0の意味役割が 「被経験者」、二次的ア クタン トの意味役割が 「経験者」とい う型の動詞はないように思われ る。下 の( 2 0)
では、述語に‑ i c hi z e(
売る)が用いられていて、「対象物」である0
と 「受け手」である二次的アクタン トが相互代名詞で結び付けられている。( 2 0)
は、意味の観点か らかな り不 自然な文である。しか し、(2 0)
の ような文以外 、二次的アクタン トが 0 より意味役割の階層で高い位置にある文 を 作 ることがで きない。
( 2 0)a.? /? ? He s l ayz al ・ t s ot s az e r i c ha na.
彼
・ERG
奴隷・PL, ABS
お互い・DAT
売る・PST
「彼が奴隷 をお互いに売った。」
b.* He s l a yz ade r i e t s ot s al r i c hana.
彼
・ERG
奴隷・PL, DAT
お互い・ABS
売 る・PST
「彼が奴隷にお互いを売 った。」
( 2 0a)
は、意味の不 自然 さのためぎこちないが 、容認 される文である。一方、( 2 0 b)
は容認 されない文である。4. 1. 4
まとめ4. 1 . ト 4. 1. 3
をまとめると次の ようになる。アバール語では、S
(絶対格)、A (能格 )
、
0 (絶対格 )と二次的アクタン トを相互代名詞で結び付ける場 合、
S (絶村椿 )、A
(能格)、
0 (絶対格 )が二次的アクタン トよ り意味役 割の階層で高い位置にあるか 、低い位置にあるかに関係な く、
S (絶対格)、A (能格 )、0 (絶対格 )は二次的アクタン トの位置にある相互代名詞の先 行詞になることがで きるが 、反対に、二次的ア クタン トは
S
(絶対格)、A
(能格)、0 (絶対格)の位置にある相互代名詞の先行詞になることがで きな い。この一般化は、アバール語の相互代名詞が文法関係の階層( 7a) ‑( 21 )
に 基づ く制約( 22 )
を持 っているとい う形で理論的に説明することがで きると 思われ る。( 21 )
主要文法関係>二次的文法関係( 22)
先行詞が相互代名詞 よ り文法関係の階層で高い位置にな くてはなら ない。4. 2 A
と 0の照応関係4. 1
では、アバール語で、S、A、0は二次的アクタントの位置にある相互 代名詞の先行詞になることがで きるが 、反対に、二次的アクタン トはS、A
、 0の位置にある相互代名詞の先行詞になることがで きないことを示 した。こアバール語の相互代名詞 t s ot s a‑ の分布 4 7
こでは、Aが 0の位置にある相互代名詞の先行詞になることがで きるのか 、 また、逆に、0が Aの位置にある相互代名詞の先行詞になることがで きる のか を問題にする。Aが 0 の位置にある相互代名詞の先行詞になることが で き、0がAの位置にある相互代名詞の先行詞になることがで きないなら、
アバール語の相互代名詞の分布は統語的対格性 を示すことにな り、反対に、
Oが Aの位置にある相互代名詞の先行詞になることがで き、Aが 0の位置 にある相互代名詞の先行詞になることがで きないなら、アバール語の相互代 名詞の分布は統語的能格性 を示すことになる。
Di xo n( 1 9 94) 、Ma nni ng( 1 99 6)
は、世界の全ての言語で照応詞の分布は 統語的対格性を示す と予測 している。英語 とロシア語の相互代名詞を例にす る。英語の相互代名詞e ac hot he r
の分布 もロシア語の相互代名詞 drugdru9‑の分布 も統語的対格性 を示す。英語で もロシア語で も
、S、A、
0は二次的ア クタン トの位置にある相互代名詞の先行詞 になることがで きるが 、反対に、二次的アクタン トは
S、A、
0 の位置にある相互代名詞の先行詞になること がで きない。そして、英語の例( 2 3)
とロシア語の例( 2 4)
が示す ように、英 語で もロシア語で もAは 0の位置にある相互代名詞の先行詞になることが で きるのに対 し、
0 はA
の位置にある相互代名詞の先行詞になることができない。
( 23)a ・Jo hnandMar y kno weachot her・
b.* Eachot herk no w Jo hna ndMa r y .
( 2 4)a・7 7 a n j a i
Olja poni ma j ut drugdr uga・
Ta n j a・NOM
と01 j a・NOM
理解する・PRSお互い ・ACC
「 Tan j a
とOl j a
がお互いを理解 している。」b.*7 7
anjui
Oljuponi ma e t dr ugdr ug.
Tan j a・ACC
と01 j a・ACC理解する ・PRSお互い ・NOM
「 Ta n j aと Ol j a
をお互いが理解 している。」Ma nni ng( 1 996)
は形態的能格性 を持つ言語であるバ スク語の例 (Or t i z
deUr bi na1 9 89:111
か ら引用 )を出している。バ スク語の相互代名詞の分 布 も統語的対格性 を示す。バ スク語で も、S、A、0 は二次的アクタン トの 位置にある相互代名詞の先行詞になることがで きるが 、反対 に、二次的アクタン トは
S、A、
0の位置にある相互代名詞の先行詞になることがで きな い。そして、( 25a)
が示す ように、A
は 0の位置にある相互代名詞の先行詞 になることがで きるが、逆に、( 2 5 b)
が示す ように、
0はA
の位置にある相 互代名詞の先行詞になることがで きない。( 25) a ・Gud a r i ‑ e k el kar hi l t r e nz ut e n s ol di e r s ‑ ERG RECI P. ABSki l l AUX
̀ Thes ol di e r ski l l e de a c hot he r . チ
b.
*Guda r i ‑ a k e l k n r r ‑ ek hi l t r e nz i t ue n/ z i t uz t e n s ol di e r s ‑ ABSRECI p‑ ERGki l l AUX
̀ Thes ol di e r ski l l e de ac hot he
r.ラ( Ma nni ng1 9 96‥5)
照応詞の分布が言語普遍的に統語的対格性 を示す とい う
Manni ng( 1 99 6)
の類型論的一般化は、英語の( 23)
やバ スク語の( 25)
のMa nni ng( 1 9 96)
の 理論的分析 と結びついている。Ma nni ng( 1 996)
は、言語普遍的に統語的対 格性 を示す統語現象は意味役割 と関係 していると考 え、( 2 3a) 、( 25 a)
が適 格な文であ り、( 2 3 b) 、( 25 b)
が不適格な文であることを、「先行詞が相互代 名詞 より意味役割の階層で高い位置にな くてはならない」とい う制約 を用 いて、説明することを試みている。Dal r ympl e( 1 993 )
も同様の説明を提案 している。これ らの研究 と異な り、Po l l ar da ndSa g( 1 992)
やDal r ympl ee t a l .( 1 9 95)
は、「先行詞が相互代名詞 より文法関係の階層で高い位置にな く てはならない」 とい う制約で説明す ることを試みている。ここで、アバール語の分析に移ることにすると、アバール語の相互代名詞 の分布は統語的能格性 を示す。アバール語では
、
0 (絶対格 )は A (能格 ) の位置にある相互代名詞の先行詞になることがで きるが 、反対に、A (能格) は 0 (絶対格 )の位置にある相互代名詞の先行詞になることがで きない。以 下に例を示す。( 2 6a) 、( 27 a)
は、
0 (絶対格)がA
(能格)の位置にある相互 代名詞の先行詞になっていて、適格な文である。それに対 し、( 26 b)、( 27 b)
は、A
(能格 )が 0 (絶対格)の位置にある相互代名詞の先行詞になってい て、不適格な文である。アバール語の相互代名詞 t s o t s a ‑ の分布 4 9 ( 2 6)a. He l t s ot s at s a h
lkx' a na.
彼 ら
・ABS
お互い・ERG
傷つける・PST
「彼 らをお互いが傷つけた。」
b.
*He z t s ot s al l ukx' a na.
彼 ら
・ERG
お互い・ABS
傷つける・PST
「彼 らがお互いを傷つけた
。 」 ( 2 7 )a. He l t s ot s at s a k a k a na.
彼 ら
・ABS
お互い・ERG
けなす・pST
「彼 らをお互いがけなした
。 」 b. * He z t s ot s al k a k a na.
彼 ら
・ERG
お互い・ABS
けなす・pST
「彼 らがお互いをけなした
。」
この事実は、全ての言語で照応詞の分布が統語的対格性 を示す とい う
Di xo n ( 1 9 9 4)
やMa nni ng( 1 9 9 6)
の予測が正 し くか 、ことを示 している。( 2 6 a)
と( 2 7 a)
が適格な文であ り、( 2 6 b)
と( 2 7 b)
が不適格 な文であるこ とは次の ような形で説明することがで きると思われ る。アバール語では、S
(絶対格 )と 0 (絶対格 )が主要文法関係1を担 っていて、A(能格 )が主 要文法関係2
を担 っている。アバ ール語は、文法関係の階層( 7 b) ‑( 2 8)
に 基づ く制約( 2 9 )
を持 っている。( 2 8 )
主要文法関係1>
主要文法関係2
( 2 9 )
先行詞が相互代名詞 よ り文法 関係の階層で高い位置 にな くてはなら ない。( 2 6 a )
と( 2 7 a )
は、制約( 2 9)
を守 っているため 、適格であ り、一方、( 2 6 b)
と( 2 7 b)
は、制約( 2 9 )
に違反 しているため、不適格である。4. 3
二次的アクタン ト間の照応関係最後に残ったのは、相互代名詞 とその先行詞が共に二次的アクタン トの位置 にある場合である。次の
( 3 0 a)
では、与格のアクタントが後置詞ha kx' a 壬 ut ( 〜
について)を伴 うア クタン トの位置にある相互代名詞の先行詞になっている。逆に
、( 3 0 b)
では、後置詞ha kx' a ヰ u
4(
〜について)を伴 うアクタン トが 与格の相互代名詞の先行詞になっている。( 31 a )
では、位格( Ⅰ )
のア クタン トが後置詞ha k x' a 壬 u
l(
十 について)を伴 うアクタン トの位置にある相互代名 詞の先行詞になっている。逆に、( 31 b)
では、後置詞ha kx' a h
l(
‑について) を伴 うアクタン トが位格( Ⅰ )
の相互代名詞の先行詞になっている。( 3 0 )a.Di t s a he z i j e t s ot s a2 ; ul ha kx' a hl t
私・ERG
彼 ら・DAT
お互い・GEN
についてs ua l a l t 壬 ' una.
質問
・PL, ABS
与える・PST
「私が彼 らにお互いについて質問をした
。 」 b・( ? ) Di t s a he z ul ha k x' a ヰ 山 t s ot s az e
私
・ERG
彼 ら・GEN
について お互い・DAT s ua l a l t i ' una.
質問
・PL, ABS
与える・PST
「私が彼 らについてお互いに質問をした
。 」
( 31 )a.T a l i t s a he z d a t s ot s az ul ha kx' a 壬 uihi kx' a na.
Al i・ERG
彼 ら・LO C( Ⅰ )
お互い・GEN
について 尋ねる・PST
「 Al i
が彼 らにお互いについて尋ねた。」b.( ? ) T a li t s a he z ul ha kx' a t ult s ot s a2 ; da hi k x' a na
.Al i・ERG
彼 ら・GEN
について お互い・LOC ( Ⅰ )
尋ねる・PST
「 A
liが彼 らについてお互いに尋ねた。」( 3 0 a ) 、( 3 0 b) 、( 31 a ) 、( 31 b)
は、全て適格な文である。しか し、( 3 0 a ) 、( 31 a )
と( 3 0 b) 、( 31 b)
を比べ ると、明らかに前者が後者 より好 まれ る。ここで 、アバール語の
( 3 0) 、( 31 )
に対応するような英語の文( 3 2 )
とロシ ア語の文( 3 3 ) 、( 3 4)
について考えてみる。( 3 2)a.
Is po k et o t heme n a bo uteac hot her.
b・* Is po k ea bo u tt heme n t oeac hot her・( Cho ms k y1 9 81 :2 2 5 )
アバール語の相互代名詞 t s ot s a ‑ の分布 5 1 ( 3 3 )a .Na t a s ha r a s s k a z a l a i m dr ugodr uge.
Na t a s ha・NOM
語 る・PST
彼 ら・DAT
について+お互い・LOC
「 Na t a s ha
が彼 らにお互いについて語 った。 」
b・* Na t a s ha r a s s k a z a l a o ni x dr ugdr ugu・
Na t a s ha・NOM
語 る・PS T
について 彼 ら・LOC
お互い・DAT
「 Na t a s ha
が彼 らについてお互いに語 った。」( 3 4 )a .Ta n j a s p r o s i l a u nw
T叫j a・NOM
尋ねる・PS T
か ら 彼 ら・GEN dr ugodr uge.
について+お互い
・LOC
「 Ta n j a
は彼 らにお互いについて尋ねた。」b.* Ta n j a s pr o s i l a o ni x
T叫j a・NOM
尋ねる・PS T
について 彼 ら・LOC dr ugudr uga.
か ら+お互い
・GEN
「 Ta n j a
は彼 らについてお互いに尋ねた。 」
( 32 a) 、( 33a) 、( 3 4a)
は適格な文であるが、( 32 b) 、( 33b) 、( 34b)
は不適格 な文である。この適格性の差は、一般に、意味役割の階層に基づ く制約( 35)
を用いて説明 され る( J a c k e n d o 庁1 9 7 2 , Da l r y mp l e1 9 9 3 )
0( 35 )先行詞は相互代名詞 よ り意味役割の階層で高い位置にな くてはな ら
ない。仮に
「
〜について」が表す意味役割を 「情報内容」 と呼ぶ ことにすると1
0、意味役割 「受け手」、「渡 し手」 と意味役割 「情報内容」の相対的優位性は、
一般に、次の ように考えられている。
10
ト について」が表す意味役割 を Jac ke ndof f ( 1 972) などは、対象物の一種 とみなしている。
( i ) の ような文について考えてみ る。
( i ) 太郎が次郎について三郎 に重要なことを話 した。
( i ) で対象物は明らかに 「重要なことを」であ る。したが って 、「次郎について」を対象物 とす
るのは問題がある 。( 31 ) ‑ ( 34) では、意味役割 「対象物」のア クタン トが明示的には現れてい
ない と考え られ る。
( 3 6 )
受け手 、渡 し手>情報内容ここで 、アバール語に戻 ると、アバール語の
( 3 0 a) 、( 31 a )
は、上の制約( 3 5 )
を守っていて、適格な文である。一方、( 3 0 b) 、( 31 b)
は制約( 3 5 )
に違 反 している。しか し、( 3 0 b) 、( 31 b)
は、人によって容認度が少 し低 くなるぐ らいで 、適格な文である。これは、アバール語に も制約( 3 5 )
があるが 、英 語やロシア語において よりも弱い制約であると考えることがで きる。しか し、アバール語に も、制約
( 35 )
に違反 して、不適格になる文 もある。次の
( 3 7 ) 、( 3 8)
を見てみ よう。( 37 ) 、( 3 8 )
で も、相互代名詞 と先行詞が共に 二次的アクタン トである。( 3 7 )a. fal i d a‑ gi f i s ad
a‑git s ot s a2 ; ul ha k x' a 壬 山 Al i・LOC
(Ⅰ)‑もI s a・LOC
(Ⅰ)一も お互い・GEN
について壬 i k' 壬 a l a.
よ く 知 っている
・PRS
「 Al i
とI s a
がお互いについて よ く知っている。 」 b.* fal i l ‑ gi f i s al ‑ gi ha k x' a l ult s ot s az da
Al i・GEN‑
もI s a・GEN‑
も について お互い・LOC( Ⅰ ) 壬 i k' 壬 a l a.
よ く 知 っている
・PRS
「 A
liとI s a
についてお互いが よ く知っている。 」
( 3 8) a.He z d a t s ot s azul ha k x' a 壬 ul
彼 ら・LOC( Ⅰ )
お互い・GEN
についてs hi bni gi r a k' a l des hs h we c h' O.
何 も
・ABS
思い出す・pST, NEG
「彼 らがお互いについて何 も思い出さなかった
。 」
b.* He z ul ha k x' a 壬 uit s ot s a2 ; da
彼 ら・GEN
について お互い・LOC( Ⅰ ) s hi bni gi r a k' a l des hs h we c h' O.
何 も
・ABS
思い出す・PST, NEG
「彼 らについてお互いが何 も思い出さなか った
。 」
アバール語の相互代 名詞 t s ot s a ‑ の分布 5 3 ( 37 a) 、( 38a)
では、先行詞の意味役割が 「経験者」であ り、相互代名詞の意 味役割が 「情報内容」である。他方、(37 b) 、( 3 8b)
では、先行詞の意味役割 が 「情報内容」であ り、相互代名詞の意味役割が 「経験者」である。意味役 割 「経験者」と意味役割 「情報内容」の相対的優位性は、一般に、次の よう に考えられている。(39)経験者>情報内容
これに基づ くと、適格な文である
( 37 a) 、( 38 a)
は制約( 35)
を守っているが 、 不適格な文である( 37 b) 、( 38b)
は制約( 35)
に違反 していると説明される。( 30 b) 、( 31 b)
が適格な文であ り、( 37 b) 、( 3 8b)
が不適格な.文であること を説明するためには、例えば 、次のような方法が考えられる。同一節内のア クタン トを、意味役割の階層で高い順に、Al、A 2 、A 3
.. .A
nと分類する。A
l、A 2 、A 3 . . .An
の間に次の( 40)
の優位性の階層 を仮定す る。この階層( 40)
をA‑
階層 と呼ぶ ことにする。( 40)Al> A 2 > A 3
> ・・.>Anここで
、Ak
とA k+
1の相対的な優位性の差はAk +
1とA k+2
の相対的な優 位性の差 よ り大 きいと仮定 してみる.すなわち、Ak
とAk +
1の相対的な優 位性の差 をd k
とすると、d k > d k +
1となる。さらに、次の制約( 41 )
を仮定 する。( 41 )
先行詞が相互代名詞 よりA‑階層で gポ イン ト以上低い位置にあっては ならない。制約 (
41 )
のポ イン トのl
の値について考える。(3 0) 、( 31 )
では、意味役割「動作主」のアクタン トが
A
lで 、「受け手」、「渡 し手」のア クタン トがA 2
で、「対象物」のア クタン トが
A 3
で、「情報内容」のアクタン トがA 4
であ る。それに対 し、( 37) 、( 38)
では、「経験者」のアクタン トがA
lで、「被経験 者」のアクタン トがA 2
で、「情報内容」のアクタン トがA 3
である。(30b)
、( 31 b)
では、先行詞が相互代名詞 よりA‑階層でd 2 +d 3
ポ イン ト低い位置に ある。(37 b) 、( 38b)
では、先行詞が相互代名詞 よりA一階層でd l + d 2
ポ イ ン ト低い位置にある。d k >d k+
1であるか ら、dl+d 2 >d 2
+d 3
である。( 30b) 、( 31 b)
は適格文であ り、( 37 b)、( 3 8b)
は不適格な文であるか ら、制約( 41 )
が これ らの文の適格性の違いを説明するためには、dl+d2 > l > d 2 +d 3
でな くてはならないことになる。
5.
まとめ本稿では、アバール語の相互代名詞
i s o t s
a‑の分布 を考察 した。4.1
では、アバール語で主要アクタン ト (S、A、0)は二次的アクタン トの位置にあ る相互代名詞の先行詞になることがで きるが 、反対に、二次的アクタン トは 主要アクタン ト (S、A、0)の位置にある相互代名詞の先行詞になること がで きないことを示 した。4.
2
では、アバール語で 0がAの位置にある相
互代名詞の先行詞になることがで きるが 、反対 に、Aは 0 の位置にある相 互代名詞の先行詞になることがで きないことを示 した。このことによって、アバール語の相互代名詞
t s o l s
a‑の分布がDi xon( 1 99 4)
やManni ng( 1 9 96)
の 予測に反して、類型論的にめず らしい統語的能格性 を示すことを明らかにし た。4.1と 4. 2
で示 したアバール語の事実を、アバール語では、Sと 0が主 要文法関係1、Aが主要文法関係 2、S、A、
0 以外のアクタン トが二次的 文法関係を担っているとい う仮定 と、主要文法関係1>
主要分布関係2>
二次的文法関係 とい う文法関係の階層があるとい う仮定の もとで、「先行詞が 相互代名詞 より文法関係の階層で高い位置にな くてはならない」とい う制約 (制約
1
と呼ぶ)を用いて説明することを提案 した。4. 3
では、先行詞 と相互代名詞の両方が二次的アクタン トの位置にある辛 例 を検討 した。英語やロシア語などが持 っていると考えられ る 「先行詞が相 互代名詞 より意味役割の階層で高い位置にな くてはならない」とい う制約は アバール語には強すぎることを示 し、「先行詞が相互代名詞 よりA‑階層でg
ポイン ト以上低い位置にあってはならない」とい う制約 (制約2
と呼ぶ)を 用いてアバール語の文の適格性を説明することを一つの可能性 として提案し た。A‑階層 とは、同一節内のアクタン トを、意味役割の階層に従って、Al、A
2
、A3
.. .An
と分類 し、Al、A2
、A3
.. .An
の間に仮定 した優位性の階層 である。アバール語では制約
2「
先行詞が相互代名詞 よりA一階層でl
ポ イン ト以 上低い位置にあってはならない」は先行詞 と相互代名詞の両方が二次的アク タン トの位置にある場合にだけ有効である。したが って、アバール語では制アバ ール語 の相 互代 名詞
I s o t s
a‑の分 布5 5
約1
「先行詞が相互代名詞 より文法関係の階層で高い位置にな くてはならな い」が制約 2より優勢な制約であると考えるべ きであ り、ある文が制約 1に 違反 している場合にだけ、制約2
が発動 され ることになる。参照文献