共同相続された普通預金債権、通常貯金債権及び定 期貯金債権の遺産分割対象性
著者 竹治 ふみ香
雑誌名 同志社法學
巻 70
号 2
ページ 807‑832
発行年 2018‑07‑31
権利 同志社法學會
URL http://doi.org/10.14988/pa.2019.0000000343
( ) 共同相続された普通預金債権、通常貯金債権及び定期貯金債権の遺産分割対象性 同志社法学 七〇巻二号三九五八〇七
共 同 相 続 さ れ た 普 通 預 金 債 権 、 通 常 貯 金 債 権 及 び 定 期 貯 金 債 権 の 遺 産 分 割 対 象 性
最 高 裁 平 成 二 八 年 一 二 月 一 九 日 大 法 廷 決 定 ( 平 成 二 七 年 ( 許 ) 一 一 号 ・ 遺 産 分 割 審 判 に 対 す る 抗 告 棄 却 決 定 に 対 す る 許 可 抗 告 事 件 ) 民 集 七 〇 巻 八 号 二 一 二 一 頁 ・ 判 時 二 三 三 三 号 六 八 頁 ・ 判 タ 一 四 三 三 号 四 四 頁 ・ 金 法 二 〇 六 一 号 六 八 頁 ・ 金 商 一 五 一 〇 号 三 七 頁 ・ 金 商 一 五 〇 八 号 一 〇 頁 ・ 家 庭 の 法 と 裁 判 九 号 六 頁 ・ 裁 時 一 六 六 六 号 一 頁
竹 治 ふ み 香
【 事 実 の 概 要 】
⑴ 本件は、Aの共同相続人であるXとYとの間における遺産分割申立事件である。⑵ 平成二四年三月に死亡したAの法定相続人は、Aの弟の子でありAの養子であるX(申立人、抗告人=相手方、抗告人)と、Aの妹でありAと養子縁組をしたB(平成一四年死亡)の子Y(相手方、相手方=抗告人、相手方)である。( )
( )同志社法学 七〇巻二号三九六 共同相続された普通預金債権、通常貯金債権及び定期貯金債権の遺産分割対象性 八〇八
⑶ Aは、不動産(価額合計約二五八万円。以下「本件不動産」という)のほかに、預貯金債権(原決定時の価額は合計四〇〇〇万円以上。以下「本件預貯金」という)を有していた。本件預貯金には、普通預金、外貨普通預金、ゆうちょ銀行の通常貯金と定期貯金が含まれていた。また、BはAから約五五〇〇万円の贈与を受けており、これはYの特別受益に当たる。⑷ 原々審 )(
(は、預貯金については、遺産分割の対象とすることについての合意がないので、本件審判において分割することはできないとした。また、「Aの相続においては、……AからBに対する特別受益にあたる生前贈与」があったことを認め、その金額を五五〇〇万円程度とし、「本件審判において分割の対象となるAの遺産は、本件不動産のみであり、その価額は約二六〇万円である。そうすると、Bが、いわゆる超過受益者であることは明白であり、本件不動産にかかるBの具体的相続分は〇である」こと、「Yは、Bにおける特別受益後のBの代襲相続人であるから、遺産分割においては、相続の公平上、YもBの特別受益を引き受けるものとすることが相当である」ことを述べ、「Yの具体的相続分は〇であり、本件不動産をXに取得させ、YはAの遺産を取得しないとする方法により、遺産を分割することとなる」とした。⑸ 原審 )(
(は、原々審を相当と判断した。Xの抗告については、「Xは、遺産の大半が預貯金であり、かつ相続人の一部の者に特別受益が認められ、持戻計算をすればその相続人の具体的相続分がゼロになるケースでは、相続人間の公平の点から、相続人全員の合意がなくても預貯金を遺産分割の対象とすべきである旨を主張する。」「しかし、可分債権である預貯金については、預金者の死亡によって法定相続人が法定相続分に応じて当然に分割承継し、相続人全員の合意がない限り、これを遺産分割手続において分割の対象とすることはできないと解すべき」として、棄却した )(
(。
これに対し、Xが抗告許可の申立てをし、原審はこれを許可した。
( ) 共同相続された普通預金債権、通常貯金債権及び定期貯金債権の遺産分割対象性 同志社法学 七〇巻二号三九七八〇九
【 決 定 要 旨 】
破棄差戻し。
。る にの割分産遺を産財るす資整象調のてった当にるめを法対定と存すれがかうがとこるす在わくも請要るす対にとるこ広 現は、に金のよう、ら務か点観の上実う行を続価手評くに具分方の割分産遺な的体、つな少が素要定確不のてい割産遺 こ分人続相被はていおに割遺産財、はに的般一、らかとの産ある、たま、くしま望がとこすをと象対く広幅り限るきでる 「で続に継承の務義利権の人相た被、はみ組仕の割分産当りのをもるすと旨をとこる図平共公的質実の間人続相同遺 ところで、具体的な遺産分割の方法を定めるに当たっての調整に資する財産であるという点においては、本件で問題とされている預貯金が現金に近いものとして想起される。」預貯金が決済手段としての性格を強めてきていること、預貯金債権の存否及びその額が争われる事態は多くなく、預貯金債権を細分化することによってその価値が低下することはないと考えられることから、「預貯金は、預金者においても、確実かつ簡易に換価することができるという点で現金との差をそれほど意識させない財産であると受け止められているといえる。
共同相続の場合において、一般の可分債権が相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されるという理解を前提としながら、遺産分割手続の当事者の同意を得て預貯金債権を遺産分割の対象とするという運用が実務上広く行われてきているが、これも、以上のような事情を背景とするものであると解される。」
。」遺象対の割分産をすれこずらわかかとる無にるす討検ていつかこ否かるきでがとに 「つを件本てめ改、てえま踏点貯観なうよの上以、でこ預金つ有、相続人そ員の合意のみのに細子を質性び及容内全 まず、普通預金及び通常貯金について、「普通預金債権及び通常貯金債権は、いずれも、一個の債権として同一性を
( )同志社法学 七〇巻二号三九八 共同相続された普通預金債権、通常貯金債権及び定期貯金債権の遺産分割対象性 八一〇
保持しながら、常にその残高が変動し得るものである。そして、この理は、預金者が死亡した場合においても異ならないというべきである。すなわち、預金者が死亡することにより、普通預金債権及び通常貯金債権は共同相続人全員に帰属するに至るところ、その帰属の態様について検討すると、上記各債権は、口座において管理されており、預貯金契約上の地位を準共有する共同相続人が全員で預貯金契約を解約しない限り、同一性を保持しながら常にその残高が変動し得るものとして存在し、各共同相続人に確定額の債権として分割されることはないと解される。……預貯金債権が相続開始時の残高に基づいて当然に相続分に応じて分割され、その後口座に入金が行われるたびに、各共同相続人に分割されて帰属した既存の残高に、入金額を相続分に応じて分割した額を合算した預貯金債権が成立すると解することは、預貯金契約の当事者に煩雑な計算を強いるものであり、その合理的意思にも反する」とした。
次に、定期貯金債権について判断を示す。定期貯金の前身である定期郵便貯金について、「郵便貯金法は、一定の預入期間を定め、その期間内には払戻しをしない条件で一定の金額を一時に預入するものと定め(七条一項四号)、原則として預入期間が経過した後でなければ貯金を払い戻すことができず、例外的に預入期間内に貯金を払い戻すことができる場合には一部払戻しの取扱いをしないものと定めている(五九条、四五条一項、二項)。」郵便貯金法が、その分割払戻しを制限する趣旨は、「定額郵便貯金や銀行等民間金融機関で取り扱われている定期預金と同様に、多数の預金者を対象とした大量の事務処理を迅速かつ画一的に処理する必要上、貯金の管理を容易にして、定期郵便貯金に係る事務の定型化、簡素化を図ることにあるものと解される。」
定期貯金の基本的内容は、郵政民営化法の施行前の「定期郵便貯金と異なるものであることはうかがわれないから、定期貯金についても、定期郵便貯金と同様の趣旨で、契約上その分割払戻しが制限されているものと解される。そして、定期貯金の利率が通常貯金のそれよりも高いことは公知の事実であるところ、上記の制限は、預入期間内には払戻しを
( ) 共同相続された普通預金債権、通常貯金債権及び定期貯金債権の遺産分割対象性 同志社法学 七〇巻二号三九九八一一 しないという条件と共に定期貯金の利率が高いことの前提となっており、単なる特約ではなく定期貯金契約の要素というべきである。しかるに、定期貯金債権が相続により分割されると解すると、それに応じた利子を含めた債権額の計算が必要になる事態を生じかねず、定期貯金に係る事務の定型化、簡素化を図るという趣旨に反する。他方、仮に同債権が相続により分割されると解したとしても、同債権には上記の制限がある以上、……単独でこれを行使する余地はないのであるから、そのように解する意義は乏しい」とした。
前述の預貯金一般の性格や、以上のような各種預貯金債権の内容及び性質をみると、「共同相続された普通預金債権、通常貯金債権及び定期貯金債権は、いずれも、相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはなく、遺産分割の対象となるものと解するのが相当である。」
。」、異なる当裁判所の判例はい解ずれも変更すべきであると 「小六二月四年六一同号〇七第日)受(年五一成平裁高〇第法一廷判決・裁判集民事最四三号一三頁その他上記見二 以上により、本決定は、本件預貯金が遺産分割の対象とならないとした原決定を破棄し、さらに審理を尽くさせるため、本件を原審に差し戻すとした。
本決定には、補足意見と意見が付されている。
【 検 討 】
一 本 決 定 の 意 義
本決定は、本件預貯金債権は共同相続人の合意がなくとも遺産分割の対象となるとしたものであり、預貯金債権が各( )同志社法学 七〇巻二号四〇〇 共同相続された普通預金債権、通常貯金債権及び定期貯金債権の遺産分割対象性 八一二
共同相続人に当然分割帰属するとしてきた従来の最高裁の判例を変更した。本決定は、裁判官全員一致での原決定破棄差戻しの判断であるが、本件預貯金債権を可分債権でないとしたことについて反対する大橋裁判官の意見も付されている )(
(。また、本決定後、最高裁平成二九年四月六日判決(判時二三三七号三四頁。以下「平成二九年判決」という)は、定期預金債権及び定期積金債権についても、相続開始と同時に当然分割されることはないと判断している。また、平成二九年判決は、相続人の一部の者から金融機関に対して法定相続分に応じた払戻しの請求があった事案で、請求を棄却したものであり、本決定では判断が示されていなかった、預貯金債権の当然分割帰属否定の対外効を認めたという意義もある。
本件では、相続人の一人に特別受益が認められ、遺産は不動産と預貯金債権であって、預貯金が遺産分割の対象となると解する場合、超過特別受益がより小さくなる。すなわち、本件は、預貯金債権を遺産分割の対象とすることで、より相続人間の公平が保たれることになる典型的な事案であった。
従来、可分債権を遺産分割の対象とすることにより、相続人間の実質的公平を図ることができ、また、遺産分割を行う際の調整にも役立つことが指摘されていた。預貯金債権は相続財産において一定の割合を占めており )(
(、公平な遺産分割の実施のために本決定が果たした役割は大きいといえるだろう。
しかし、本決定が、本件預貯金債権は当然分割帰属せず遺産分割の対象となると判断したことにより、新たな課題も残されることになった。以下では、従来の判例や議論状況を参照したうえで、本決定の分析を試み、残された課題を確認したい。
( ) 共同相続された普通預金債権、通常貯金債権及び定期貯金債権の遺産分割対象性 同志社法学 七〇巻二号四〇一八一三
二 遺 産 分 割 に お け る 可 分 債 権 と 預 貯 金 債 権 の 従 来 の 取 扱 い
⑴ 可分債権の当然分割帰属と預貯金債権 相続が開始すると、相続財産は相続人らの共有に属する(民法八九八条)。最高裁昭和二九年四月八日判決(民集八巻四号八一九頁。以下「昭和二九年判決」という)は、不法行為を理由とする損害賠償請求事件の訴訟中に、被害者であるAが死亡し、その共同相続人らが訴訟手続を受継した事案であり、損害賠償請求権が当然分割承継するかが問題となったが、「相続人数人ある場合において、その相続財産中に金銭その他の可分債権あるときは、その債権は法律上当然分割され各共同相続人がその相続分に応じて権利を承継する」とされた。これは、民法四二七条が、複数の債権者が存在する場合、債権は各債権者に分割されることを定めていることから、民法二六四条但書により、共有に関する規定が適用されないことによるものと捉えられてきた
)(
(。
さらに、最高裁平成一六年四月二〇日判決(判タ一一五一号二九四頁。以下「平成一六年判決」という)は、被相続人Aの死亡後に共同相続人の一人であるYがA名義の郵便貯金を解約した場合について、他の共同相続人Xは、相続分に応じて貯金を取得したとして、Yに対して不当利得返還を請求した事案であり、ここでも、「相続財産中に可分債権があるときは、その債権は、相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されて各共同相続人の分割単独債権となり、共有関係に立つものではない」こと、「共同相続人の一人が、相続財産中の可分債権につき、法律上の権限なく自己の債権となった分以外の債権を行使した場合には、当該権利行使は、当該債権を取得した他の共同相続人の財産に対する侵害となるから、その侵害を受けた共同相続人は、その侵害をした共同相続人に対して不法行為に基づく損害賠償又は不当利得の返還を求めることができる」ことを判示した。平成一六年判決は、預貯金債権が可分債権であり各共同相続
( )同志社法学 七〇巻二号四〇二 共同相続された普通預金債権、通常貯金債権及び定期貯金債権の遺産分割対象性 八一四
人に当然分割帰属することを明らかにしたものであると捉えられてきた。
なお、現金については、従来、被相続人の死亡により相続人らの共有財産となり、相続人らは、相続分に応じて分割された額を当然に承継するものではなく、遺産分割の対象となるとされてきた )(
(。
⑵ 従来の判例に対する批判 可分債権が相続開始と同時に「相続分に応じて」分割されるという場合の相続分とは、特別受益や寄与分を考慮して算定された具体的相続分ではなく、法定相続分または指定相続分と解されている。これは、具体的相続分は遺産分割前には定まらないこと )(
(などから )(
(、具体的相続分は実体的権利ではないと解されていることによる )((
(。可分債権が相続開始により当然に分割承継され、遺産分割の対象とならないとすると、遺産の大部分が可分債権である場合、可分債権は特別受益や寄与分を考慮せずに法定相続分または指定相続分に従って分割承継されるため、相続人間の実質的公平を図ることができないことが指摘されてきた )((
(。
また、共同相続人間の実質的公平を図るために遺産分割においては被相続人の財産をできる限り幅広く対象とすることや、評価についての不確定要素が少なく、具体的な遺産分割の方法を定めるに当たっての調整に資する財産を遺産分割の対象とすることに対する要請も存在していた。
加えて、被相続人の死亡時の金銭保有方法が預金であったか現金であったかは偶然の事情であることなどから、現金と預貯金債権で当然分割帰属するかどうかが区別されることになる従来の判例の扱いは、合理的でないとも指摘されてきていた )((
(。
( ) 共同相続された普通預金債権、通常貯金債権及び定期貯金債権の遺産分割対象性 同志社法学 七〇巻二号四〇三八一五 ⑶ 可分債権の当然分割性と遺産分割対象性に関する見解 次に、可分債権が相続開始と同時に当然分割されるか、遺産分割の対象となるかという問題に関して、本決定に至るまでの間に主張されてきた見解を、簡潔に紹介しておきたい )((
(。《1》 まず、可分債権は当然に分割して帰属するとして、共同相続人間での共有状態が生じていないことから、共有物分割訴訟の特別手続として設けられた遺産分割審判は不要であるため、可分債権は遺産分割の対象とならないとする見解がある。昭和二九年判決や平成一六年判決は可分債権・預貯金債権の当然分割帰属を判断したものであり、遺産分割対象性までは判断していないものの、遺産分割の対象とならないとするのが両判決の論理的帰結であると指摘されてきた )((
(。一方で、実務においては、相続人間の公平を図るため、共同相続人全員の合意があれば、可分債権も遺産分割の対象としうるとされてきた )((
(。なお、どのような基準で、ある財産を可分債権に分類するかは、検討の余地がある(後述三参照)。《2》 可分債権は相続開始とともに共同相続人に分割承継されるが、遺産分割の際にはもう一度遺産分割の対象になるとする見解もある )((
(。この見解は、遺産分割による財産の公平な分配のために、可分債権も遺産分割の対象とすることを目的として主張される )((
(。そのための理論構成としては、遺産分割によって、いったん分割された債権を有していたことが否定されると解することで、当然に分割された可分債権も遺産分割の対象となるなどと説明される )((
(。《3》 以上の見解とは異なり、可分債権の当然分割帰属を否定し、準共有となるとする見解もある )((
((可分債権準共有説)。この見解は、民法二六四条但書にいう「特別の定め」とは、民法四二七条ではなく相続法の規定であって、相続財産を共有とする民法八九八条や遺産分割に関する民法九〇六条などであるとする。相続関係に適合した規定を用意している相続法が、債権法に属する民法四二七条よりも優先して適用されるべきであると考え、民法四二七条は一般法、相続法
( )同志社法学 七〇巻二号四〇四 共同相続された普通預金債権、通常貯金債権及び定期貯金債権の遺産分割対象性 八一六
は特別法であると捉えている )((
(。遺産共有の暫定性といった遺産共有の特殊性や、民法の用意している相続法の諸規定に適合した処理が可能になることが、この見解の利点である。《4》 契約上の地位の相続を重視する見解もある(契約上の地位の準共有説) )((
(。この立場は、例えば預金については、預金債権の帰属と預金契約上の地位の帰属を分離させるべきではないと主張する。相続が開始すると、預金債権だけでなく預金口座も相続される。預金契約上の地位は預金口座として具現化されており、預金契約上の地位が準共有されることから預金口座も準共有となるという。そして、預金口座に入金されている預金債権も準共有になるとする。この立場によれば、契約上の地位の準共有を問題とするため、賃料債権など契約に基づいて発生した債権は準共有されることになろう。
三 判 例 に よ り 当 然 分 割 が 否 定 さ れ た 相 続 財 産
本決定以前にも、相続財産に含まれる権利が可分債権として相続により当然分割されることになるのかが争われた判例はあり、最高裁は、以下の相続財産につき、相続による当然分割を否定していた。定期貯金の前身である定期郵便貯金の払戻制限の趣旨を説明する際に本決定でも言及された定額郵便貯金について、最高裁平成二二年一〇月八日判決(民集六四巻七号一七一九頁。以下「平成二二年判決」という)が判断している。本件では、定額郵便貯金債権が遺産分割の対象となるものとして、同債権が遺産に属することの確認の利益があるかが争われた。平成二二年判決は、郵便貯金法が、定額郵便貯金につき、「一定の据置期間を定め、分割払戻しをしないとの条件で一定の金額を一時に預入するものと定め(七条一項三号)、預入金額も一定の金額に限定している(同条二項、
( ) 共同相続された普通預金債権、通常貯金債権及び定期貯金債権の遺産分割対象性 同志社法学 七〇巻二号四〇五八一七 郵便貯金規則八三条の一一)」趣旨は、多数の預金者を対象とした大量の事務処理を処理する必要上、定額郵便貯金にかかる事務の定型化、簡素化を図ることにあるとする )((
(。そのうえで、定額郵便貯金債権が相続により分割されると解すると、事務の定型化、簡素化を図る趣旨に反すること、相続により分割されると解しても、分割払戻しをしないとの条件が付されている以上、単独で同債権を行使する余地はないため、そのように解する意義は乏しいことから、同法は同債権の分割を許容せず、相続開始により当然分割帰属するものではなく、その最終的な帰属は遺産分割の手続において決せられるべきとして、同債権が遺産に属することの確認を求める訴えの確認の利益を認めた。本決定の定期貯金債権についての判断においては、平成二二年判決の定額郵便貯金債権の判断と同様に、一定期間払戻しが制限されるものであるという債権の内容及び性質とその趣旨から当然分割帰属を否定し、遺産分割の対象性を肯定している )((
(。
最高裁平成二六年二月二五日判決(民集六八巻二号一七三頁。以下「平成二六年二月判決」という)は、委託者指図型投資信託の受益権(投資信託法二条一項)について、「口数を単位とするものであって、その内容として、法令上、償還金請求権及び収益分配請求権(同法六条三項)という金銭支払請求権のほか、信託財産に関する帳簿書類の閲覧又は謄写の請求権(同法一五条二項)等の委託者に対する監督的機能を有する権利が規定されており、可分給付を目的とする権利でないものが含まれている」として、権利の内容及び性質に照らし、相続開始と同時に当然分割されることはないとした。
同判決は、個人向け国債についても、「個人向け国債の額面金額の最低額は一万円とされ、その権利の帰属を定めることとなる社債、株式等の振替に関する法律の規定による振替口座簿の記載又は記録は、上記最低額の整数倍の金額によるものとされており(同令〔筆者注:個人向け国債の発行等に関する省令〕三条)、取扱機関の買取りにより行われる個人向け国債の中途換金(同令六条)も、上記金額を基準として行われるものと解される。そうすると、個人向け国
( )同志社法学 七〇巻二号四〇六 共同相続された普通預金債権、通常貯金債権及び定期貯金債権の遺産分割対象性 八一八
債は、法令上、一定額をもって権利の単位が定められ、一単位未満での権利行使が予定されていない」として、個人向け国債の内容及び性質に照らし、相続開始と同時に当然分割されることはないとした。
また、株式について、「株式は、株主たる資格において会社に対して有する法律上の地位を意味し、株主は、株主たる地位に基づいて、剰余金の配当を受ける権利(会社法一〇五条一項一号)、残余財産の分配を受ける権利(同項二号)などのいわゆる自益権と、株主総会における議決権(同項三号)などのいわゆる共益権とを有するのであって」、「このような株式に含まれる権利の内容及び性質に照らせば、共同相続された株式は、相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはないものというべきである」とした。
さらに、最高裁平成二六年一二月一二日判決(判タ一四一〇号六六頁。以下「平成二六年一二月判決」という)は、委託者指図型投資信託の受益権について相続開始後に発生した元本償還金や収益分配金について、その交付を受ける権利は、相続開始と同時に当然分割されることのない委託者指図型投資信託の受益権の「内容を構成するものであるから、共同相続された上記受益権につき、相続開始後に元本償還金又は収益分配金が発生し、それが預り金として……被相続人名義の口座に入金された場合にも、」預り金の返還を求める債権は当然分割されることはないとした。
本決定以前に出された以上の裁判例は、昭和二九年判決にいう「可分債権」は当然分割帰属となることを前提として、各相続財産が「可分債権」に当たらないとしたものであると考えられる。
四 本 決 定 の 射 程
本決定は、遺産分割の仕組みは共同相続人間の実質的公平を図ることを旨とするものであって、遺産分割においては( ) 共同相続された普通預金債権、通常貯金債権及び定期貯金債権の遺産分割対象性 同志社法学 七〇巻二号四〇七八一九 被相続人の財産をできる限り広く対象とすべきこと、遺産分割の調整に資する財産を遺産分割の対象とすることへの要請があること、さらに、具体的な遺産分割の方法を定めるに当たっての調整に資する財産として、預貯金が、判例によって遺産分割の対象とされる現金に近いものとして想起されることを指摘する。
そのうえで、普通預金債権・通常貯金債権について、一旦契約を締結して口座を開設すると、口座に入金が行われる結果発生する預貯金債権は、既存の預貯金債権と合算され、一個の預貯金債権として扱われ、共同相続人が全員で預貯金契約を解約しない限り、同一性を保持しながら常にその残高が変動しうるものとして存在し、各共同相続人に確定額の債権として分割されることはないと指摘し、預貯金一般の性格とこれらの性質から、当然分割帰属を否定し、遺産分割の対象となるとする。
定期貯金債権については、定期貯金債権が相続により分割されると、事務の定型化・簡素化を図るという趣旨に反するとして、契約上分割払戻しが制限されていることが、単なる特約ではなく定期貯金契約の要素というべきであるとし、当然分割帰属を否定し、遺産分割の対象となるとする。
本決定は、昭和二九年判決にいう可分債権の範囲を縮小するこれまでの判例の流れを、本件預貯金債権について一歩進めたと評価できる。ただし、本決定は昭和二九年判決を維持していると考えられるため )((
(、可分債権は遺産分割の対象とされないことには変わりはない。したがって、今後は、まずは可分債権の範囲の判断基準や、他にいかなる債権が遺産分割の対象となるかが問題になると思われる )((
(。その検討のためにも、本決定がどのような基準で本件預貯金債権の遺産分割対象性を肯定したのかを分析する必要があるだろう。
本決定は、預貯金債権を遺産分割の対象とすべき要請について述べたうえで、預貯金債権の当然分割の否定を論理的に根拠づけるため、各預貯金の内容と性質を検討している。本決定には、〈1〉遺産としてみた場合の金銭と預貯金と
( )同志社法学 七〇巻二号四〇八 共同相続された普通預金債権、通常貯金債権及び定期貯金債権の遺産分割対象性 八二〇
の同質性、〈2〉預貯金契約上の地位の承継としての側面、〈3〉個々の預貯金債権の内容・属性というニュアンスの異なる理由付けが混在していると指摘されている )((
(。三で紹介した判例により当然分割が否定された相続財産も、契約上の地位という側面や、権利の内容・性質という側面から理由付けされているように解され、どの要素をどの程度強調して判断されているかにつき、判例を一貫して説明できるかは未だ明らかでないように思われる。本決定に関しては、なかでも、預貯金契約上の地位がどの程度考慮されているかが、捉え方の分かれる点であろう。
平成二六年二月判決は、投資信託受益権、換言すると投資信託受益権を有する者としての地位が、当然分割帰属しないことを判断したにとどまるという指摘もあった )((
(。加えて、同判決は、株式が法律上の地位を意味し、そこには自益権や共益権が含まれるという内容や性質から、株式は分割できないとしており、こちらも法律上の地位の当然分割について判断していると捉えることもできる )((
(。
一方、本決定は、判旨の文言上、本件預貯金債権について判断しているものであるが、その判断の際に、契約上の地位の承継という要素がどのように考慮されているのかは、明らかでない部分が残る。
普通預貯金債権について、その本質的な特殊性を捉えて当然分割帰属を否定する多数意見の見解は、契約上の地位が準共有されることを根拠に預貯金債権も準共有となるというアプローチ(契約上の地位の準共有説)とは異なるとも指摘されている )((
(。しかしその一方で、口座内で一個の債権として同一性を維持しているという多数意見の立場が、契約上の地位の準共有をその前提としているとして、本決定は、契約上の地位の準共有という視点からの判断であると評価するものもある )((
(。さらに、岡部裁判官は、補足意見において、普通預金契約の本体は消費寄託契約ではあるが、「付随して口座振替等の準委任契約が締結されることも多いのであって、普通預金が決済手段としての性格を強めている」、「そうすると、普通預金債権を共同相続した場合には、共同相続人は同時に準委任契約上の権利義務もまた相続により承継
( ) 共同相続された普通預金債権、通常貯金債権及び定期貯金債権の遺産分割対象性 同志社法学 七〇巻二号四〇九八二一 することになる。例えば口座振替契約の解約を行う場合は、それは性質上不可分な形成権の行使であり、かつ、処分行為であるから民法二五一条により相続人全員で行わなければならない」として、預貯金債権が当然に分割され各人の権利行使が認められるとすると、預貯金契約自体や口座振替契約等についての処理に支障が生ずるなど、一個の債権として存続するという普通預金債権の性質に反する状況になりうると述べており、この見解には契約上の地位の承継という要素がとりわけ強く表れていると指摘されている )((
(。
口座内で一個の債権として同一性を維持しているという多数意見の理由付けや、基本となる消費貸借契約に付随して締結される契約から発生する権利義務があることを考慮する見解、共同相続人間で準共有されている口座内の預貯金債権は準共有される、あるいは準共有されている預貯金契約上の地位から生じた預貯金債権は準共有されるという見解は、いずれも、契約上の地位の承継を考慮するものということもできるが、それぞれその他の債権をどのように可分債権に分類するかは異なりうる。契約上の地位の承継をどの程度強調するかという視点は、契約から生ずる債権すべての分割を否定する契約上の地位説に近づくか、それとも契約によって与えられた性質を考慮しつつも契約上の地位の準共有には拘らず個別の債権の性質を子細に見て判断することになるのかに影響を与えると思われる。
なお、本決定は、相続開始後の預貯金債権を不可分債権と解するか、準共有と解するかには言及していない。この点について、補足意見は多数当事者の債権関係に関する不可分債権の規定(民法四二八条)を適用しないことを前提としていることなどから、単なる準共有と解している可能性もあることが指摘されている )((
(。
( )同志社法学 七〇巻二号四一〇 共同相続された普通預金債権、通常貯金債権及び定期貯金債権の遺産分割対象性 八二二
五 今 後 の 検 討 課 題
以上をふまえて、残された課題をいくつか確認しておきたい。⑴ 遺産分割前の払戻し 本決定により、預貯金債権は、遺産分割までの間は共同相続人全員が共同して行使しなければならないこととなった。このように解する場合、例えば、被相続人から扶養を受けていた相続人が生活に窮する、被相続人が負っていた債務の弁済に窮するといった事態が生じうる。補足意見はこのような事態への現行法での対処方法として、仮分割の仮処分(家事事件手続法二〇〇条二項)等の活用の可能性を指摘していたが、容易に採れる措置ではない保全処分という法的措置を待って対応するこのような対処方法に対しては、課題も指摘されていた )((
(。
そこで、民法(相続関係)等の改正に関する要綱案は、預貯金債権の仮分割に限り家事事件手続法二〇〇条二項の要件を緩和する方策を提案し、さらに、裁判所の判断なしに預貯金の払戻しを認める方策も必要であるとして、金額や割合に上限を設けて、単独で預貯金債権について権利を行使することができる制度も提案している。
⑵ 差押えと相殺の可否 本決定は、預貯金債権の持分の差押えや相殺の可否に触れておらず、これらの点は今後問題になりうる。 本決定の評釈は、預貯金債権を差し押さえることはできないが、各相続人の預貯金債権の持分を差し押さえることはできると指摘している。このとき、差押債権者による取立てを認めれば、単独での払戻しを認めることに等しいため、
( ) 共同相続された普通預金債権、通常貯金債権及び定期貯金債権の遺産分割対象性 同志社法学 七〇巻二号四一一八二三 取立てをすることはできないとされているが )((
(、被相続人の債権者が共同相続人全員の準共有持分を差し押さえれば、持分権の行使の制約はなくなり、合わせて一つの預貯金債権を差し押さえたことになるため、取立てをすることができ、払戻しを受けることも可能と指摘される )((
(。また、差押対象は法定相続分と考えられるとされるが )((
(、遺産分割協議により具体的相続分が決まった場合は、ケースによっては差押えに影響が及ぶ可能性があることが指摘されている )((
(。加えて、預金債権の準共有持分への強制執行は、その他財産権(民執一六七条一項)によるべきとする立場 )((
(と、金銭の支払いを目的とする債権(民執一四三条)によるべきとする立場 )((
(があるが、具体的な事案の処理に違いが生ずるとは当然にはいえないともいわれている )((
(。
相殺に関しては、理論上は、預貯金債権上に各共同相続人が有する持分と、金融機関が有する各共同相続人に対する債権(被相続人への貸付金との相殺にあたっては相続により分割承継された相続債務(金融機関が有する債権)、相続人への貸付金との相殺については相続人に対する債権)の相殺の可否が問題となる。この点、組合の債務者による相殺の禁止を定める民法六七七条の反対解釈から金融機関側の相殺権を認め )((
(、あるいは、各共同相続人は一個の預貯金債権の上に持分を有し、また各共同相続人は各自の持分割合に相当する額の価値を把握しているから、当該相続人と金融機関は互いに同種の目的を有する債務を負担しているといえ(民法五〇五条一項)、金融機関の債権と、預貯金債権のうち当該相続人の相続分相当額との対等額において消滅する )((
(という説明から、弁済期が到来していれば、理論上は相殺可能とする指摘もあるが、相殺することが適切かという観点から、次のように、一定の場合にこれを否定する見解もある。
金融機関による被相続人への貸付金債権と相続預金との相殺については、相続開始前に形成されていた相殺に対する期待の観点から )((
(、相殺が許容されるという見解がある。他方、相続人への貸付金債権と相続預金との相殺については、相続を期待して与信をしていたという理由が金融機関に認められないため相殺は難しいという立場と )((
(、信用不安状態に
( )同志社法学 七〇巻二号四一二 共同相続された普通預金債権、通常貯金債権及び定期貯金債権の遺産分割対象性 八二四
ある貸付先が相続により預貯金債権を取得した場合、金融機関がこの資産から回収を行うことは自然であるなどとして、相殺可能と考える立場がある )((
(。相続人への貸付金債権との相殺については、金融機関が受働債権として相殺できるのは法定相続分か具体的相続分かについても争いがあり )((
(、遺産分割後に相殺すべきとも指摘される。
また、本決定により一部の相続人による預貯金の払戻しは認められなくなったことを根拠に、単独での払戻しを認めることに等しい相殺についても、遺産分割が成立する前には認められないとする見解もある )((
(。
なお、共同相続人の側からする相殺については、預貯金債権の変更(民法二六四条本文、二五一条)にあたることから、共同相続人全員による必要があるという指摘がある )((
(。
⑶ 相続開始後の入金と具体的相続分算定 鬼丸裁判官の補足意見は、本決定の考え方によれば、相続開始後に被相続人名義の預貯金口座に入金が行われた場合について、共同相続人は、入金額が合算された一個の預貯金債権を準共有することになるから、預貯金債権の全体が遺産分割の対象となることを指摘している。さらに、そのように解する場合、具体的相続分の算定の基礎となる「相続開始の時において有した財産」(民法九〇三条一項、民法九〇四条の二 一項)の価額算定の際の預貯金の評価を、①相続開始時の預貯金債権の残高とするか、②当該入金額に相当する相続開始時に存在した財産の価額も加えるかが問題となることも指摘している。例えば可分債権が弁済されて被相続人名義の口座に入金されるなど、相続開始時には遺産分割の対象にならないと解される財産だった財産が、形を変えて預金口座に入金された場合に、入金額も含めた預貯金債権が遺産分割の対象となるが、入金額に相当する財産は相続開始時にも別の形で存在していたことから、当該入金額に相当する相続開始時に存在した財産の価額を、具体的相続分算定の基礎となる相続開始時の相続財産の価額に加えるべ
( ) 共同相続された普通預金債権、通常貯金債権及び定期貯金債権の遺産分割対象性 同志社法学 七〇巻二号四一三八二五 きかが問題となりうるのである。
①の立場をとる場合、特別受益や寄与分が過大に評価され )((
(、②の立場をとる場合、相続開始後も預貯金残高が変動することから具体的相続分の確定が遅れかねな )((
(い )((
(。
銀行実務においては、相続開始により預貯金口座が凍結され、入金されないのが一般的であるから、相続開始後の入金・引き落としは多くないとされる一方で )((
(、相続開始から金融機関が相続開始を知るまでに時間が生じうることなどから、想定する必要はあるとも述べられている )((
(。この問題は今後検討が行われるべき課題であることが指摘されている。
六 今 後 の 展 望
定期貯金債権に関する本決定の判示は、定額郵便貯金債権をはじめ、分割して行使されることが予定されていないことを根拠に当然分割帰属を否定するこれまでの判例の理由付けの延長線上に位置づけられるように思う。他方で、普通預金・通常貯金に関する本決定の判示は、必ずしも明確ではない。この部分が、準共有された契約上の地位に基づいて発生する預貯金債権が準共有されることを根拠としているのかどうか、判然としないのである。そこには、射程を限定しようとする最高裁の意図が垣間見られるような印象すら受ける。預貯金債権の当然分割帰属を否定する本決定の影響が、契約に基づく債権一般に及ばないよう配慮した結果、このような判示にとどまったのではないかと思われる。本来、共同相続人間の公平を図る分割をするためには、被相続人の遺産全てを遺産分割の対象とすることが理想である。しかし他方で、額に争いのある財産を遺産分割の対象とすることにより、遺産分割の長期化が懸念され、その点が足かせになっているという葛藤がある。本決定が、評価についての不確定要素が少ない点における現金との類似性に言
( )同志社法学 七〇巻二号四一四 共同相続された普通預金債権、通常貯金債権及び定期貯金債権の遺産分割対象性 八二六
及したのは、この点に配慮したものであり、ここでも射程の広がりに歯止めをかけようとしているようにも見える。
とはいえ、本決定は、預貯金債権を遺産分割の対象となるとした点で大きな意義を有しており、今後の展開としては、可分債権に当たらないとする債権の範囲が拡大し、さらには、昭和二九年判決を変更して可分債権一般が遺産分割の対象となるとする動きに発展する可能性は否定できない。まず、四で触れた〈1〉から〈3〉のような要素を検討して債権の遺産分割対象性を個別に判断する方法は、相続人や債務者の予測可能性を損なうものであるともいえるだろう。個別の財産の遺産分割対象性について裁判所による判断が必要になるのであれば、そのことは、結局当事者らの負担になろう。多様な金融商品を扱う金融機関は、その度に争いに巻き込まれるリスクがある。加えて、遺産分割の長期化を招く債権であることを遺産分割の対象から外す基準とすることの理論的な根拠づけは困難であるようにも思われ、また、遺産分割の長期化の回避を共同相続人間の公平よりも優先すべきかどうかは検討の余地もあろう。金融商品が多様化する中、債権ごとに扱いを区別することによる不公平や、金融機関や相続人にとっての予測可能性の点を考えると、いずれは、可分債権を遺産分割の対象に含める構成をとる可能性を検討する必要もあるように思われる。
あるいは、昭和二九年判決を変更しないにせよ、当然分割された可分債権も被相続人が相続開始の時において有した財産に算入するという対応により、共同相続人間の実質的公平の実現に寄与することはできるだろう。岡部裁判官や大橋裁判官が主張するように、分割された可分債権の額をも含めた遺産総額を基に具体的相続分を算定し、当然分割による取得額を差し引いて各相続人の最終の取得額を算出して遺産を分割するのであれば )((
(、可分債権を遺産分割の対象外とする判例の立場を維持しつつ、相続人間の公平を図ることができる。遺産分割時の調整に当たって、共同相続人の無資力のリスクがあるため、不公平の完全な解消は望めないかもしれないが、この方法により解決される場面も多くあるように思われる。
( ) 共同相続された普通預金債権、通常貯金債権及び定期貯金債権の遺産分割対象性 同志社法学 七〇巻二号四一五八二七 本決定の判示でもう一点問題となりうるのは、相続開始後の入金の遺産分割対象性である。預金者が死亡しても、普通預金・通常貯金債権は、一個の債権として同一性を保持しながら、常にその残高が変動し得るものであるという最高裁の考え方によれば、鬼丸裁判官が指摘するように、代償財産や、相続開始後に遺産から生じた果実が入金された場合も含め、相続開始後の入金額が合算された預貯金債権が遺産分割の対象となる可能性がある。他方、代償財産や果実は、その判例から )((
(、遺産分割の対象とならないとも解されている。これらの整合性について、「振込依頼人から受取人の銀行の普通預金口座に振込みがあったときは、振込依頼人と受取人との間に振込みの原因となる法律関係が存在するか否かにかかわらず、受取人と銀行との間に振込金額相当の普通預金契約が成立」するという判例 )((
(の考え方を推し及ぼせば両立しうると説明されている )((
(。入金先を被相続人の口座とは別にしていた場合と被相続人の口座に振り込まれた場合で遺産分割の際の扱いが異なること、相続開始時には存在しなかった財産も入金により遺産分割の対象となること、一旦は分割単独債権として各相続人が取得した債権が、被相続人の口座に入金されることで遺産分割の対象となることなどについて、相続人らは注意が必要になるだろう。
本決定に対しては、預貯金債権を遺産分割の対象とした点について、これを評価するものも多い。ただし、本稿で紹介したように、その理由付けから射程については明らかでない部分があり、本決定により生じることになった課題も多数指摘されている。債権の遺産分割対象性は、本決定後も、一層着目していく必要のあるテーマであると言えよう。
(
( (大判。頁二二号八〇五一商金・審阪) 五月二一年六二成平裁家日
( (大定。頁一二号八〇五一商金・決阪) 四二月三年七二成平裁高日
(す代襲者が取得すべき遺産を取得る、ものであるから、被代襲者が特被く) 権なお、代襲相続人は自己固有の利なとして遺産を取得するものでは別
( )同志社法学 七〇巻二号四一六 共同相続された普通預金債権、通常貯金債権及び定期貯金債権の遺産分割対象性 八二八
受益を費消したとしても、この事実を代襲相続人の具体的な相続分の算定に反映させなければならないとすべき根拠は見当たらないとし、また、本件は特別受益が一身専属的性格を持つ事案とは異なるとして、本件においてはYに持戻義務はないと主張するYによる抗告も棄却している。(
( 可し限制を囲範の権債分に扱うのそは摘指のこ、がてよいうを。うろだるいとのもえ問と区を別するこの妥当性 主いと張して後る。本決定べはき権す金各貯金債預貯債と権を可分債権、る財囲るうりなと題問がかのれさ産外と範基がどのよのなう準で可分債権 金常通び及権債預上損他たっいと権求請償賠害の種通法償賠家国、と合場たっの類で異普、てしと問疑をとこるながの論結でと合場たっあで権債あ (大さ範の」権債分可「てしとるれ有橋共準が権債金貯預、は官判を裁囲) 制相権債金預がのたいてし有が人続被限、てし関に場立の見意数多るす貯
( 。))日八二月三年八一〇 .nta.go.jp/kohyo/press/press/2017/sozoku_shinkoku/index.htmhttps://www:告「平成二八年分の相続税の申状ス況について」税二(最終アクセ庁 (続にと金現、とるよに料資のていつ況金状告申の税続相の分年八二成平預を財占産の金額において) 一・二%をめ合る(国相、がるあで率比たせわ三
( (潮、。どな頁〇〇一)年四一〇二版見) 第、堂文弘』(法続相『男佳五
( (最月。照参)頁六一号八巻四四家高) 決判日〇一月四年四成平裁(
( (高、。頁九七一)年八八九一堂木) 成』(法続相述口『男喜多文
( 〇紛、は)年五〇の二、版出代千八争蒸頁あ。るす摘指とるもし味意ぐ防をし返( (生手べるれわ扱り取にかい上き続割か分産遺は権債分可「子代喜部岡き」古の稀祝賀論文集『市民法と) 業法現浅在と展望』三五―三六先司裕野企
(てこの問につい題は岡部・前掲注、 てのであっ体、それ自をるも対す味意を合割るす体に額総の実あ法は。るいてしと」、……ずきでと上こういとる遺で係関利権の産の額価価のそは又額 (0も)(頁三二五号二巻四五集民四決判日具二月二年二一成平裁高最、「) 体分の上算計きべるなと提前の配る的けおに続手割分産遺……、は続相分
( (三め。るいてれらべ述くし詳、含二)開展の説学、で頁六三―を
(() 岡部・前掲注(
( 年かほ一陽田前、頁〇六)一民〇二(号三〇五一トスリュジ『七法閣Ⅳ。))年七一〇二版四第、、斐三親族・相続』一五頁(有 ならえ考といるきでもとこすてれ定いる(窪田充見「判批(本決)」請求をこもる還とから、このような場合に、て当返てしと得利不共、は人続相同い (三有七一〇二、版三第、閣斐』(一法族)家『見充田窪、頁年)四実れさ解といなはで利権体は四分続相的体具、おな。頁四的
( ((川四集二五四号(二〇一年政)九三〇―九三一頁。論法地る宏行「共同相続におけ預) 貯金債権の帰属と払戻」 れ遺しかし。るなと象対の割分産も判権債金貯預、らかだのるなにと、例る説さ加追が書但に条九〇九法民は有は合、たま、りおてっとを説有共こ (() を前割分産遺、ばれす解と有合有持共産遺るよに人続相同共、おなはちさよ属帰に人続相各を産財の々個りに分割分産遺、ずせ属帰に的定確がせ
( ) 共同相続された普通預金債権、通常貯金債権及び定期貯金債権の遺産分割対象性 同志社法学 七〇巻二号四一七八二九 た現行法に適合しないことなどから現在では合有説を支持する学説は少ない。(
( ((齋年号(二〇一七)〇七七頁参照。三五藤決毅「判解(本定) )」ジュリスト一
( ((東判決平成八年八月二〇日(時岡一五九六号六九頁)など。高福京五家審昭和四七年一一月一日) (家月二五巻九号一〇七頁)、
( マ〇二(号六ンヌ二ントータ誌学法〇雑年い。るあが判)う批と)頁九二―五二 ことが許され明るのか(米倉する的と制銀判により強に象遺産分割の対「債行割相続―当然分帰共属なのか―預同」のと権権を中心金しみた可分債て の題点は残るこに、のようたな問だっを雑総合的分割そいれけ害すると複、な人処、もに合場いなが意合の員全審続実相方法をと理る益がない共同 遺産分割前払に債務者からは戻、のてな九を六〇年)どし。こ見解に対し合受度の産遺、めたうましけし滅消でて限いの相続人がたた、債権はそ場 頁七〇閣(有斐、一)』一(一産之善川中」質性的法の財教相同共「馨木柚、下以助続授会還続相Ⅵ系大族家『編法員法暦委記念家族大系刊行 九七年五)一頁二―一七三一、九郎、閣斐有』(Ⅴ習演法民『編一藤田山年誠四一一八九)年七八九一(号六巻頁〇二一判批(昭和「九判決)」法協 講家事審判法二座(例)』(判学『年垣九イ巻九号(一九岡三)一四頁、タ産ム太平知口谷」ズ財続相同共「郎道加斐甲、頁五八)年五六九一、社= ((五ほ有』(系大法約契代現『修監か浩閣藤遠」続相と引取金預「徹部阿斐、四「月家」務債、権債と割分産遺) 一地有、下以頁五八一)年四八九亨
(転分割ができないのは本末倒遺であること(有地・前掲注産 ((、同全なは有共産遺るよに人続相共て、はてしと拠根るとを場立のこ十れ遺し産分割までの暫定的な共有でかわな) のに、「共有」の性格にとらい
(とすべきでるこあ(岡垣・前掲注 た一め含も権債分可っし属帰割分んたとい体念しべと象対の割分をてすて、しら観てしと産遺、か再帰る分配し、終局的属的を確定するものであに ((一は体全ともとも割四分総産遺)、頁的)合産理合つか平公財的続相たし握把にを
( ((八五頁)などが)げられている。挙
(() 山田・前掲注(
( (()九七二頁参照。
(()号(一九六一年九二頁、米倉・前掲注一一) 共品川孝次「遺産『有タ』の法律関係」判(
( 九(斐閣、改訂増補版、一九一有年の。るとを立場こも頁四五四) 。く、古たま場るす持支を、仁は族井田益太郎『親法相続法論』の立こ野『法立の法続相編課子紀も水」続的題同閣)年六一〇、二斐』有(頁六六一相 ((共充三八―四七頁。窪田見の「金銭債務と金銭債権)
(二規の下以条七四が法民、はてい定適に(注掲前・川品場用立るすとるれさつ (0、あ求請の権債有共、らかとこるで弁係関同共の権債は有共準の権債・済一の人の債権者について生じた) 由他関の債権者に及ぼす影響などや係事
(()八―九頁)と、品川・前掲注(
(用使面についても、共有規定を準すのべきとする立場(米倉・前掲注行権七定二債条以下の規が法類推適用される四 ((民とるよに場立の頁九―八)
( (()三八―四七頁)がある。
(() 川地・前掲注(
((同、可分債権は相続開始と時策に共同相続人に準共有されは方)本九三〇―九三四頁。なお、決の定に対する評釈では、最善る
( )同志社法学 七〇巻二号四一八 共同相続された普通預金債権、通常貯金債権及び定期貯金債権の遺産分割対象性 八三〇
と解することであるとしており、契約上の地位の構成は、次善の策としている(川地宏行「判批(本決定)」民商一五三巻五号一二〇―一二三頁)。(
( そ定額郵便貯金については、なおのすと。るいてれさの効もるす有を力る ((律施に等備整の律法係関う伴に行のす等法化営民政郵、は法金貯便郵関るに一より廃止されたが、平成一九) 〇法月一日の同法施行の際、現に存年
(い注掲前・田窪(る ((成き張したものだという見方もでるもと評されて平、は定決本、たま拡に二割二年判決の延長にあり、遺産分の等対象となるものを普) 預金債権通
( ((ジュリスト一)〇三号六一頁)。五
(() 窪田・前掲注(
( 」すといならた当に権も債分可「ういに決判るの九で。るいてれさとるきがでとこるす解理とるあ年 ((通。見意の官判裁橋大、たま頁も〇六号三〇五一トスリュジで、常権預金債)は、昭和二び及債多金預通普、は場立の見意数権
( 定庭家」てっぐめを廷決法法大会談座―決日の定と四裁。言発岡片〔頁八〕))七一〇二(号判九年 かほ金「預貯債明る正原松(あが摘指とう権平遺二と九一月二一年八成産廷法大裁高最―割分いる期かが長な化することら紛、本決定の射程外に争 ((のそ、どな権求請還不返得利当にやづ不法行為否基く権損害賠償請求存) や象ずせ了終が割分産遺、とるすと対金の割分産遺のもるうれわ争が額を
( ((潮号。頁九一―八一)年七一〇二(八見本佳男「判批(決) 定)」金法二〇五
( ((潮判。頁六五号五二〇二法金)」決月見) 一年六二成平(批判「男佳二
( 捉批判「樹大田村、きつにかるう平どていおに属帰と継承るけお(え成八二。照参も下以頁五八号七巻九六決六一二月判年)」志社法学同 合判例との整題性も問とされこの権、けこの帰属を分てめ捉えているたる相とがに続、を係関のと利権るれま含にこ、ある。また法そ律上の地位と 金債預金口るめ求を示開の過経引取の座と利預、てしとるす属帰に員全人権を相し属帰の位地の上約契、りおて解単とるきでがとこるす使行で独続 ((本二二二号一巻三六集民(決判日二頁月一年一二成平裁高最の前定決八) )を同は位地の上約契金預、に提前とはこるれさ継承割分が権債金預、共
(() 齋藤・前掲注(
( (()八〇頁。
( (0atchW二一号(二〇鈴一年)八三頁。七説木本尊明「判批(決) 定)」新・判例解
(() 松原ほか・前掲注(
( (()二九頁〔潮見発言〕。
( よ求をし戻払が人続相同共各りにる釈解の条八二四法民、りおてしめこ当の。るいてじ論もていつに護保関と機融金、し討検を合場るきでがと (() 三九―八)年七一〇二(号六三二。時判)」定決本(批判「光久内山頁当がはのるす解とるなに権債分可不権該債金貯預の後始開続相、は献文相
(() 山内・前掲注(
〕。二言発田浅・松平〔頁 ((一七事情二〇六三号(二〇一年法)三一「かほ隆田浅、頁六務融の大事例から考える相続預金法金廷決定と今後の)融実務」金
( ) 共同相続された普通預金債権、通常貯金債権及び定期貯金債権の遺産分割対象性 同志社法学 七〇巻二号四一九八三一 (
(() 浅田ほか・前掲注(
( )」六七)年七一〇二(号四四教法定、決本(批判「子代希西、頁三五頁〇佐八。頁五藤)年七一〇二(号〇一一一決二亮「批(本判定務銀行法)」 決判年九平二成・定金決)」二法二〇七一号(〇一七年)(本批へ」六義正と由自待巻期の々方の士護八七判号「男佳見潮、頁二三)年七一〇二(弁 ((七特貯預るけおに続相の集「頁隆田浅〕、言二発道圓〔金)扱てと務実融金たけを定決)けい受を定決廷法大裁高最(受
(() 浅田ほか・前掲注(
((融法的諸課題(金法ぐ学会代三四回大るめ)言二七頁〔圓道発〕、を阿多博文「預金会
ンポジウムⅡ< シ
( 巻藤毅「判解(本決定)」曹時六九一、〇号(二〇一七年)三三一頁。斎頁金法事執行を巡る諸問題」八二〇七一号(二〇一七年)六 預)料金と民> 資
(() 浅田・前掲注(
(()三二頁、潮見・前掲注(
( (()五三―五四頁。
(() 浅田ほか・前掲注(
( ((二、。るいてれさ討検くし詳で六)〇一例事【の頁〇三―】
(() 浅田ほか・前掲注(
((発注掲前・田浅〕、言道)圓・田浅〔頁七二(
( (()三二頁。
(() 阿多・前掲注(
( (()六七―六八頁。
(0) 斎藤・前掲注(
(()三五三頁(注
( (()。
(() 浅田ほか・前掲注(
( (()二一―二四頁〔圓道発言〕。
(() 斎藤・前掲注(
( (()三三二―三三三頁。
(() 浅田ほか・前掲注(
((発注掲前・見潮〕、言松)平〔頁四二―二二(
(()五四頁。斎藤・前掲注(
( られすいとも考えやれとしている。る 相るす対に人続点、らかるれさ権債りともらめ認が殺相とのよ合場の殺相解た務可いた債しとの間で相殺される能し性を伴って預貯金債権を承継て ((担同三三二頁は、共相負続人は被相続人が)
(() 浅田ほか・前掲注(
( 的に程過るす定決が分続相体害具はいるあ、ばれあで当詐的がし。るいてしとるす応対で消行取為行害詐、ばれあが為不議協 ((二務法行銀)」定決本(批判「亮藤佐〕、言発松平〔頁五二一)一こ割分産遺、は場立のられ。〇頁五一)年七一〇二(号八
(() 浅田ほか・前掲注(
((〕。注掲前・田浅言)発田浅〔頁五二(
( (()三二頁も参照。
(() 浅田ほか・前掲注(
( 。るいてれさ案 とはないか遺して、の産で優るれさ先割が分続相的体具、分が協を提も応対ういとるす施実殺議相てっ待でまるす立成る等とえをどな性能可いな考 ((はそこで同、他の共る。論いてれさ続議で頁六二―五二相)人をれさ済救で力資無もてし償が求のへ人続相同共たさ殺相れ
(() 西・前掲注(
(()七六頁。佐藤・前掲注(
。いるいてしと ((続殺この点も根拠に相をみ認めな相、は頁五一、の人相への貸付金債権と続て預金との相殺)ついに