契約外の第三者による情報責任根拠と信頼責任法理 : ドイツ民法典における専門家情報責任論の新たな 動向
著者 上田 貴彦
雑誌名 同志社法學
巻 60
号 7
ページ 727‑782
発行年 2009‑02‑28
権利 同志社法學會
URL http://doi.org/10.14988/pa.2017.0000011653
契約外の第三者による情報責任根拠と信頼責任法理七二七同志社法学 六〇巻七号
契約外の第三者による情報責任根拠と信頼責任法理 ―ドイツ民法典における専門家情報責任論の新たな動向―
上 田 貴 彦
(三七四五)
第一章 はじめに第二章 古典的責任モデルと債務法現代化 第一節 虚構としての契約構成 第二節 判例における変化の兆し 第三節 債務法現代化による﹁契約締結上の過失﹂の制度的変革第三章 BGB三一一条三項二文に基づく代替的責任モデル 第一節 信頼要件詳論 第二節 BGB三一一条三項二文に基づく規範の射程 第三節 新債務法体系における専門家情報責任フィギュア 第四節 小括
契約外の第三者による情報責任根拠と信頼責任法理七二八同志社法学 六〇巻七号
第四章 契約構成からの離脱と信頼責任構成への転換 第一節 信頼責任構成に対する躊躇の背景 第二節 解釈学的転換を可能にした法基盤 第三節 果てしない情報責任への歯止め 第四節 小括第五章 おわりに
第一章 はじめに
契約債務による拘束は、意思の合致に基づく契約の成立によって生じるものであり、かつそれは債務者以外の第三者 に効力をもたない相対的なものであるから、他者を害するおそれはない (
。るいてめ 則始え見がび綻に原。大の法民代近のこ、年近 1)
合意原則における徴候は、早くから﹁契約締結上の過失﹂の領域で生じていた。周知のとおり、そこでは、契約前の交渉当事者間に信義則上の義務を課すことで、契約相手方に対する情報提供義務や契約交渉の不当破棄等の責任を導き
出すべく、契約責任(契約類似の責任)の時的拡張が図られてきた。今日では、それは判例および学説の双方において我が国の民法学上の一法理として確立されるに至っている。
他方で、契約債務の相対効原則における徴候もすでに一部で露呈し始めていた。契約締結上の過失と同じく、ドイツ民法から多大な示唆を得るかたちで解釈学的に持ち込まれた﹁第三者のための保護効を伴う契約﹂法理は、当事者間で 締結された契約上の狭義の保護義務を契約外の第三者にも拡張することを企図する (
主契買が主売の約買。売、ばえとた 2)
(三七四六)
契約外の第三者による情報責任根拠と信頼責任法理七二九同志社法学 六〇巻七号 に対して負っている買主の生命、身体、財産上の法益を害しないように配慮すべき注意義務は、単に買主だけでなく、信義則上その目的物の使用、消費が合理的に予想される買主の家族や同居者に対しても負うとするのである。そうした
契約規範の人的拡張原理は、我が国の不法行為法要件の柔軟性を理由にその必要性に一部で疑問の声もあがる一方で、債権債務の基礎理論面に対する有用性が強く説かれながら現在に至るまで研究が進められてきており、現に下級審のみ
ならず最高裁判例においてもその法理の肯定例が散在している (
。 3)
契約規範はこのように二方向への拡張を迫られており、それは思いのほか我が国の民法学にも浸透の兆しを見せてい る。最近の最高裁判例における契約締結上の過失責任の重畳的(時的人的)拡張事例の登場もまさにそのことを物語っている (
。るつつある﹁第三者によ情展報責任﹂の問題であるし進、そて稿で採り上げるのはの。更なる拡張ケースとし本 4)
契約当事者間の情報提供責任に関して従来から繰り広げられてきた論争は、規範論と効果論の接続という大きな課題を残しつつも、概ね一定の落ち着きを見せている。契約を締結した当事者は、その契約に付随する義務として(あるいは
補充的契約解釈を介した契約内容としての義務として)説明義務ないし情報提供義務を負う。また、同規範は、契約準備交渉段階で課される信義則上の注意義務ないし保護義務の一貫として(あるいは当事者間の情報格差を是正し自由な
意思決定の基盤を提供するための独自の義務として)、未だ契約を締結していない潜在的契約当事者間にも及ぶものと
されてきた。そして、その規範はいまや潜在的契約関係にもない契約外の第三者に拡張されるところにまで来ているのである。
この第三者による情報責任の問題は、主として次の二局面において顕在化している。第一に、変額保険や不動産取引の提携型融資における銀行の情報責任事例が挙げられる (
。的るす場登が約契のつ二はに式。形はにムテスシ資融型携提 5)
顧客は保険会社や不動産販売業者との取引にあたって提携銀行から融資を受ける。このとき、銀行は少なくとも形式上
(三七四七)
契約外の第三者による情報責任根拠と信頼責任法理七三〇同志社法学 六〇巻七号
は融資契約の当事者ではあるが、変額保険契約や不動産売買契約の当事者ではない。変額保険契約ないし不動産売買契
約を中心に据えて見たとき、契約外の第三者にあたることになる銀行が、融資契約上の説明義務のみならず、投資リスクや不動産目的物に関する説明義務を負うのか。こうしたケースはバブル崩壊後から下級審レベルで度々見られたが (
、 6)
最近では最高裁判決にも一部あらわれてきており、そこでは﹁特段の事情﹂がある場合には信義則上の義務として潜在的契約関係にもない第三者にも情報提供義務が肯定される兆しにある (
。 7)
第二の問題局面は、いわゆる専門家による情報責任事例において顕在化する。たとえば、不動産鑑定士が依頼を受けて担保不動産について価額鑑定を行ったが、鑑定の評価額に誤りがあった場合、その鑑定士は鑑定の依頼人に対してだ けでなく、鑑定評価に基づいて担保不動産の抵当証券を購入した者(非契約当事者)に対しても情報責任を負うのか (
記た偽の確定申告書を作成し場の合、当該税理士は、その虚人と頼いは、税理士が依頼人のあ契約関係に基づいて依る 。 8)
載を真実と信じて依頼人に融資を行った銀行や、依頼人の保証人ないし物上保証人になった者などに対しても提供した情報の正確性について責任を負うのか (
る門、こうした専家ての第三者に対すはい門おれまでにも専家。責任の分野にこ 9)
責任根拠の問題が指摘されながらも、それは一般的に不法行為法領域固有の問題として扱われており (
す義といった不明確な基準で作為務期としての情報提供義務を捻出待割の度としての特別役高(なや的)社会務義意注 、家門専はでこそ 10)
ることで解決が図られてきている (
でるそ、ち立目がのも採反をチーロプア察考なの面論合下の件要るなかいに場、たっいうどは家門専的各にうよういと る士護弁、は察考やけおの説学、もかに税責動任責の士定鑑産不任、任責の士理。し 11)
第三者に対して責任を負うのかといった総論的アプローチからの詳細な研究は未だ不十分なままである。
このような契約外の第三者に対する情報責任の根拠はどこにあるのか。右に挙げた二局面においてはいずれも、信義
則上の義務ないし専門家としての特別の注意義務といった不明確な根拠をもとに責任が肯定されているが、これまでの
(三七四八)
契約外の第三者による情報責任根拠と信頼責任法理七三一同志社法学 六〇巻七号 研究においてその責任基準の曖昧さを克服するには至っていない。その背後には、良くも悪くも我が国の不法行為法の要件的柔軟性の影響があるのかもしれない。たしかに、我が国の不法行為法は法的根拠の面で第三者に対する情報責任 を肯定することに困難をもたらすものではない (
入社さ別区はと範規会般る一るいてし在存にれは常一に係関的会社の定はず範規報情。るあで的恒とくなが係関約契も 的済保益利的、経の者他をしか護と主たる目。する情報規範は、何らし 12)
ってはじめて具体化されるものであり、とりわけ契約関係にない第三者との関係ではその規範発生の要件が問題となる。
こうした観点から問題の二局面を見たとき、その中核にあるのは、形式的な責任根拠が契約責任なのか不法行為責任なのかではなく、いずれの責任根拠に基づこうとも、実質的にいかなる行為が契約外の第三者に対する情報規範を発生
させるのか、すなわち第三者に対する規範獲得場面の論証過程であることが分かる。専門家による第三者情報責任に関して言えば、特別な知識ないし専門性をもった専門家が他人の財産処分行為に介入した場合の責任をどのように構成す
るのかが問題なのであって、そうした特別な社会的接触場面における規範獲得要件の具体化こそが専門家責任論の終局的な目標となるはずである。さらに言うならば、そこにたどり着いたときには、そもそも﹁専門家﹂という括りの意味
合いは薄れ、むしろ﹁第三者の(情報)責任﹂という別の括りからの民事責任システムの構築を考えるほうが適切にな
ってくるかもしれない。
その実現のためにはいかなるアプローチからの研究が求められるだろうか。右に挙げた事例において、専門家たる不
動産鑑定士と抵当証券購入者との間に直接的な契約関係はなく、鑑定士は自らの鑑定情報によって他の当事者間の抵当証券購入契約に影響を与えたに過ぎない。一切契約関係にない者の責任を扱う以上、一見するとそれは不法行為法固有
の研究領域であるようにも思える。しかし、従来から展開されてきた契約締結前の情報提供義務も広い意味で(未だ)
(三七四九)
契約外の第三者による情報責任根拠と信頼責任法理七三二同志社法学 六〇巻七号
契約関係にない者の情報責任を論じていたことに着目する必要がある。そこでは契約規範を拡張することで潜在的契約
当事者間に情報提供義務を課していた。こうした観点から専門家による情報責任事例を見たとき、その行為規範の特質は、むしろ契約法領域において従来展開されてきた情報提供義務論との関連性が強いのではないか。本来であれば抵当
証券購入契約の交渉当事者間でのみ問題となるはずの情報提供義務を契約関係にない者(専門家)に拡張することを論じている。つまり、従来は契約を締結しようとしている潜在的契約当事者間への時的拡張のみであったのに対して、専
門家による情報責任においては契約類似規範の二重の拡張(すなわち時的人的拡張)が行われていると評価することも可能である。特殊な社会的接触関係における規範獲得という性質を有する情報責任の問題は、最終的にそれを契約責任
に委ねるか否かは別としても、規範獲得場面の検討アプローチとしては不法行為規範よりもむしろ契約規範としての色彩が強いのではないだろうか。
他方で、ドイツにおいては、こうした第三者の情報責任について古くから数多くの議論が繰り広げられていた。そこでは、経済的利益の賠償を制限するドイツ不法行為法の要件面における事情も相まって、契約法的観点から契約外の第 三者に情報提供義務を具体化する解釈学的構成が検討されてきた (
か年債たれさ行施に二法〇〇二はにこそ務現るをし。るいてえ与響代影な大多が法化。れに革論大きな変の動きが見ら こて来に三こ、しかイド者ツにおける第。情報責任し 13)
も、その変革の中心に位置するのは、先ほど第二局面として挙げた専門家による第三者情報責任事例なのである。
本稿では、我が国の民法学における﹁第三者による情報責任論﹂の構築という大きなテーマを前に、まずはその一研
究素材として、ドイツにおける情報責任の第三者拡張に関する古くからの解釈学的展開を整理したうえで、債務法現代化も踏まえた近年のドイツにおける議論の動向を考察したい。もちろん、第三者の情報責任の問題は他分野と複雑に連
関しているため、けっして一元的な考察から結論を導きだせるものではない。不法行為法領域や契約締結上の過失法理、
(三七五〇)
契約外の第三者による情報責任根拠と信頼責任法理七三三同志社法学 六〇巻七号 第三者のための保護効を伴う契約法理などはもちろんのこと、特に提携型融資契約事例に関しては契約の個数論などとの関係も考え合わせなければならないであろう。本稿は、まずその基礎研究の第一歩として、解釈学的転換期を迎えつ つあるドイツ民法における専門家情報責任論を中心に検討の光を当て、その実体を明らかにすることを試みるものである (
。 14)
なお、本稿で扱う問題領域においては、その事例内に登場するいずれの契約に着目するかによって、﹁第三者﹂という表現が責任主体を指す場合と保護客体を指す場合の双方がある。こうした﹁第三者﹂という言葉の持つ二義的な意味
合いに注意をして読み進めていただきたい。
第二章 古典的責任モデルと債務法現代化
第一節 虚構としての契約構成 契約外の第三者による情報責任をいかにして構成するか。ドイツでは、これに関して古くから実務的意義のある二つの問題類型の存在が具体的に指摘されている。第一の類型は、情報提供者が他の契約当事者間の契約交渉に関わり、他
方当事者との間には契約関係がないにもかかわらず、ある情報をその者に直接に提供することを通して、契約当事者間の交渉姿勢を強めたことに、第二の類型は、情報提供者がその職務のなかで依頼人に提供した情報を依頼人がその契約
相手方に伝えることによって、情報提供者が間接的に当事者間の契約締結を誘導したことに、その責任事例上の特徴がある。前者は﹁一度の接触(
E in m alk on ta kt
)﹂事例、後者は﹁第三者転送(D rit tw eit er ga be
)﹂事例と称され (、両類型 15)
においてはともに、本来的には情報提供義務のない第三者に誤った情報の責任を負わせる必要性が嘗てから強く説かれ
(三七五一)
契約外の第三者による情報責任根拠と信頼責任法理七三四同志社法学 六〇巻七号
てきた。こうした二類型の第三者情報責任の問題に対して、判例はこれまで二つの契約責任モデルを用いて対処してい
た (
。 16)
まず、情報提供者と受領者との間に直接的な接触が存している﹁一度の接触﹂事例ないし﹁情報コンタクト﹂事例(た とえば、銀行が顧客以外の者へ与信情報を提供する場合など)においては、その第一次的責任モデルは、情報提供者と受領者との間に﹁黙示の契約﹂を推論するという形で判例に姿を現す。一九〇二年に出されたライヒ裁判所の判例 (
では、 17)
公証人が依頼人からの依頼に基づいてその所有する土地の負担について依頼人の取引銀行に情報を伝え、銀行はその情報をもとに当該土地を担保にして依頼人に金銭の貸付けを行ったが、その情報が誤っていたために強制競売で債権回収
から抜け落ちたという事案で、公証人の銀行に対する責任が問われた。ライヒ裁判所は、﹁当該種類の業務において、他人に助言してその味方をすることを業とする者で、かつ他人がそのような事柄において信ずるに足る情報を必要とし
ていることを知らされていた者が、そのうえでその者に向けられた文書のなかで重大な点に関する情報を他者に与える場合には、彼はまさにそのことによって、問題とされている情報を伴う契約を、情報を求める者との間に締結している
のである﹂として、明確な情報契約を締結していたわけではない公証人と銀行との間に無償の黙示の契約の成立を認定し、銀行に対する公証人の責任を認めたのである (
手っむ込り取に範規約契を者三第てよに論推の約契の示黙たしうこ。 18)
法には、学説から恣意的な擬制であるとの批判が浴びせられるも、ライヒ裁判所は続く一九二一年の判例 (
く責判例において、さらにその任後メルクマールを具体化していののて責同判例を引用しそのそ任認定方法を継続し、 に、もていお 19)
こととなる。それらの判例によれば、黙示の契約を推論するにあたって、情報提供者が受領者から情報対価報酬を受け取っているか否かは必ずしも決定的要素ではなく (
否必かるいてし有を識知的門専な要てし関に報情のそが者供提報情、 20)
か (
引取のもるす属に内囲範のり業あ職の彼が報情のそたま、で 21)(
の情定決分処産財の己自を報のそが者領受報情にらさ、 22)
(三七五二)
契約外の第三者による情報責任根拠と信頼責任法理七三五同志社法学 六〇巻七号 重要な基盤にするつもりであることが情報提供者にとって認識可能であったか否か (
。る にいてれさ断判準基を素要のどな 23)
連邦通常裁判所も、こうしたライヒ裁判所による判例を踏襲し、﹁黙示の契約﹂の成立を介した第三者による情報責任の認定をさらに押し進めて行く (
契成、本来的な契約立て要件たる黙示のもみそてかしながら、の。論証に目を向けし 24)
約に関する﹁申込みと承諾﹂の存否は検討の土台に上げられておらず、判例はむしろ、情報提供者の専門性や職業上の地位、あるいは情報提供者自身の経済的利益などを総合的に判断してあらゆる状況から、黙示に取り決められた契約上
の義務の存在を推論するといった判断方法を採っていた (
。申合の諾承とみ込らががな然当も約契の致そ黙はいなもでまう言とのこるあで件要立成示。なととこるれさ晒に判る 、情約契報がたしうこ、杜のし撰な推論は。だいに多くの批だ 25)
このうち契約の﹁申込み﹂については、情報を問い合わせた情報受領者側にそれを肯定することは解釈的にそれほど困難なことではなかった。問題とされたのは、情報提供者(専門家)側の﹁承諾﹂である。情報提供者(専門家)は契約
上拘束され無報酬でその責任リスクだけを引き受けることを望んでおらず (
M ed ic us
言とっなにこしすか脅を則原の治て。まう的は、この事態を次のような自私るる推論すことは責任根拠に関す 思意な家うよの情を)報提供者(専門、にそ 26)葉で揶揄している。﹁専門家が責任を負うのは、もはや彼が望んでいるからではなく、そうすべきだからという理由か
らである。﹂と (
。 27)
他方で、情報提供者と受領者に直接的な接触がある情報接触事例とは異なり、依頼人を介して第三者に間接的に情報 提供が行われる﹁第三者転送﹂事例(弁護士や会計士、不動産鑑定士などの責任が典型)においても、当初の判例は黙示の情報契約を用いた解決を図っていた (
と第定を依頼人が三た者に提示するこ鑑し定。提に人頼依が人供鑑、ばえとた 28)
によって間接的に情報提供がなされたときに、鑑定人と第三者との間に黙示の情報契約が締結されていると解釈するの
(三七五三)
契約外の第三者による情報責任根拠と信頼責任法理七三六同志社法学 六〇巻七号
である。その法的構成として学説は、関係したことによる契約論や依頼人を使者ないし代理人と考える構成などを挙げ
ていたが、どうしても本類型における黙示の契約の推論には情報接触事例よりもなおさら大きな困難が伴っていた。というのも、情報提供者たる専門家は、依頼人を通して鑑定が間接的に第三者に示されるのか否かも、その提示先である
第三者の具体的人物像も必ずしも知っているわけではなく、そうした契約の確定性に欠けた状況下で意思の推論を行わなければならないからである。
黙示の契約の推論に関する右のような事情は、判例および学説に、その第二次的責任モデルとして﹁第三者のための保護効を伴う契約﹂法理を用いた解決アプローチを顧慮させることになる。すなわち、専門家と依頼人との間に締結さ
れた情報契約に付随して専門家に発生する相手方の経済的利益に配慮すべき保護義務は、依頼人に対してだけでなく、依頼人を介して情報提供される第三者に対しても及んでいると考えることで、第三者を専門家と依頼人の情報提供契約
の保護範囲に取り込み、専門家の第三者に対する保護義務を肯定しようと言うのである。しかしながら、こうした﹁第三者のための保護効を伴う契約﹂法理を用いた解釈学的構成は、同法理に関する幾つかの要件上の制約から判例上それ
が長らく肯定されることはなかった。
当事者間の契約上の保護義務を一定の関係にある第三者に拡張することを内容とする﹁第三者のための保護効を伴う 契約﹂法理の原型は、一九一七年一〇月五日のライヒ裁判所の判例にまでさかのぼるものであるが (
未物されていた。たとえば、買いの把際に母親に付き添って行った握てす的命身体に関っ積極る損法よ害理に同がみの 、生の者三第は初当 29)
成年の娘がスーパーマーケットで野菜の葉を踏んで滑って転び怪我をしたといった場面がドイツ債務法の教科書等で挙げられる典型例である (
方とーパーマーケット母る親間に課される相手スあにでこでは、本来的は。潜在的契約当事者そ 30)
の身体保護に関する契約上の保護義務を契約当事者ではない娘にも拡張することで、怪我をした娘自身にその身体損害
(三七五四)
契約外の第三者による情報責任根拠と信頼責任法理七三七同志社法学 六〇巻七号 に関する固有の賠償請求権を契約法上観念することになる。これまで我が国の判例および学説で扱われてきた﹁第三者のための保護効を伴う契約﹂法理に関する問題も、ドイツ法の紹介として公表されている文献において議論されてきた のも、そのほとんどがこうした生命身体に対する狭義の保護義務の拡張事例である (
ゆのつに任責業職士て護弁。るなとい争こ七わいの日六月年わ五六九一たれとる損損れ(純粋経済害害にまで広げら) はれがドイツで例後の判で財産。そ 31)
る﹁遺言判決﹂において連邦通常裁判所は初めて純粋経済損害への拡張を認めた (
か失相被てっよに過人の士護弁、が続のし作なら至はに成の死言遺にでま亡た頼定言依する内容遺のの作成を弁護士に 娘相続人が彼の指を単独相続人に。被 32)
ったため、娘は法定相続分の相続しかできなかった。そこで、相続人である娘が弁護士に対して損害賠償を求めたのであるが、連邦通常裁判所は﹁第三者のための保護効を伴う契約﹂法理を用いて、被相続人と弁護士との間の遺言作成契
約に伴う相手方の経済的利益の保護に向けられた契約規範を被相続人の娘にも拡張することによって、遺言作成の不履行を理由に契約当事者ではない娘自身に対する弁護士の契約責任を肯定した (
こるとこう倣にれもな例判の後のそ。と 33)(
。 34)
さらに、着目すべきもう一つの点は、それら﹁第三者のための保護効を伴う契約﹂法理に関する判例においては、従来から一致して契約債権者と第三者間のある種の関係が拡張要件とされていたことである。それはのちに﹁禍福(
W oh l- un d- W eh e
)﹂関係と呼ばれることになる。判例の表現によれば、﹁父親が家族の構成員に対するように、また経営者が 彼の被用者に対するように、債権者が彼の側で第三者に対して保護および扶助の義務を負うべきであるがゆえに、その(第三者の)健康状態が債権者に通じている (る保者間の契約の護当効が拡張され事、意﹂まつ。るす味りを係関なうよ 35)
第三者の範囲はその契約債権者と幸不幸を共有するような関係にある者だけであるとすることで、当事者間の契約規範による保護範囲の際限ない拡張を制限していたのである。たとえば、先ほどの弁護士の職業責任に関する判例において
も、契約債権者である被相続人と第三者たる娘の関係はそうした禍福関係にあったと言える。
(三七五五)
契約外の第三者による情報責任根拠と信頼責任法理七三八同志社法学 六〇巻七号
本稿で扱っている専門家による第三者情報責任事例において、第三者のための保護効を伴う契約法理による解決アプ
ローチが長らく採られて来なかった背景には、純粋経済損害への拡張可能性に関する問題のほかにも、大半の事例においてこうした禍福関係の不存在という大きな壁が立ちはだかっていたのである。
第二節 判例における変化の兆し ところが、時の経過とともに連邦通常裁判所の判例にも変化が表れ始める。連邦通常裁判所は、弁護士の情報責任について争われた一九七八年の判例において早くも、黙示の契約の成立を性急に認めることは差し控えるべきとする傾向
を示す (
状い情らか地見的観客。るて提れさ調強がとこるれら報供に導的体具るきでがとこくを者思意の諾承の)家門専(限合 認定か的外例はのるれさ肯場が約契の示黙、はでこつ定。のるれらめ認が思意束拘家さ門専らか況状実事たれそ 36)
況として、連邦通常裁判所はとりわけ情報提供に際する専門家の行為に着目する。たとえば、情報提供者たる専門家が独立の助言者として信頼を要求しようと試みたこと (
でとしを束約の査調の自独んこ進ら自にのいなれま頼、た 37)(
、あるい 38)
は保証引受に匹敵するほどの確約を行ったこと (
、﹁の論為行律法はへらか場立向はの地の説価で方一るけ受を評帰のとるあで﹂還学 ( い傾が挙げられる。責任判断におてな意思に着目する判例のこうしたど 39)
う黙いと約契の示に時同はれそ、 40)
法的フィクションの限界を象徴するものでもあった。
その一方で、判例における﹁第三者のための保護効を伴う契約﹂法理の適用範囲は拡張の一途をたどり、それはつい に﹁禍福﹂要件が放棄されるところにまで至る。その契機となったのは、連邦通常裁判所による一九八三年一一月二日のいわゆる﹁買主グループ事件﹂判決 (
予で人)が専門家あ依る鑑定人に購入頼(購者る。家屋敷の入でを考えているあ 41)
定物件の価格鑑定を依頼し、鑑定人は依頼人にその鑑定情報を伝えた。しかし、実際には依頼人とは別の買主グループ
(三七五六)
契約外の第三者による情報責任根拠と信頼責任法理七三九同志社法学 六〇巻七号 が依頼人からその鑑定情報を聞いたうえで当該物件を購入したが、その鑑定が誤っていたために買主グループが減損分の財産上の損害を被った事件である。なお、依頼人が専門家と鑑定契約を締結する際、買主グループはそこに同席して
おり、家屋敷を購入するのは依頼者自身かその背後にいる買主グループのどちらかであることも明示していた。本件で、連邦通常裁判所は禍福要件の問題に正面から取り組んだ。契約債権者(依頼人)と禍福関係にない買主グループ(第三
者)にも鑑定人の保護義務は基礎づけられうるのか。焦点はまさにそこにあった。これに関して、連邦通常裁判所は次のような論拠を示すことでそれを肯定している。すなわち、私的自治の観点から契約当事者は任意の方法で誰を契約の
保護範囲に含めることにするのかを定めることができるはずであるから、当事者は契約債権者と禍福関係にない者にも保護範囲を拡張しうると言うのである。たしかに、(通常の保護義務が意思に基づいて発生するものかは別として)当
事者による意思の合致があれば第三者を契約の保護範囲に取り込むことはできそうである。しかし、もちろん本件において明示的にそうした取り決めがあったわけではない。そうすると、この理由づけが行き着く先は、﹁第三者のための
保護義務の黙示の取り決め﹂であり、本判決はまさにその成立を認めたのである。もっとも、専門家の責任リスクの増大を顧慮し、第三者に発生しうる潜在的な損害が依頼者個人の潜在的損害よりも大きくないことが必要条件とされてい
た。
買主グループ事件判決における最大の着目点は、連邦通常裁判所が当事者意思を拠りどころとして、第三者のための保護効を伴う契約法理における禍福要件を放棄したうえで第三者に対する専門家の責任を認めたことにある。保護義務
論というものは本来、当事者意思とは切り離して、社会的に一定の関係に入ったことで発生する義務として観念することにその法理論的意義があったはずである。専門家による情報責任の問題領域においても、第三者のための保護効を伴
う契約法理という解決アプローチのメリットは、黙示の契約とは異なり、無理な意思の推論をしなくても良いというと
(三七五七)
契約外の第三者による情報責任根拠と信頼責任法理七四〇同志社法学 六〇巻七号
ころにあった。しかし、判例は、何とかして禍福関係の要件を克服しようとした結果、禍福関係にない第三者への拡張
根拠として再び当事者意思をその拠りどころとしてしまったのである。
連邦通常裁判所は続く一九八五年一月二三日のいわゆる﹁領事事件(休暇村事件)﹂判決 (
においても、仮定的当事者 42)
意思を根拠に第三者を契約の保護範囲に含めている。買主グループ事件判決では、たしかに禍福関係にない第三者に保護義務が拡張されていたものの、その事案は捉え方によっては当事者概念自体を操作することでも対処が可能であった
ようにも思われるし、少なくとも契約債権者と第三者の利益は共通していたと言える。だが、それとは異なり、本判決において保護効の拡張が認められた第三者は、鑑定依頼人とは反対方向の利益を有する、依頼人の契約相手方であった。
その事案は以下の通りである。自己所有の土地に大規模な休暇村を建設することを予定するP会社は、その所有地の価格鑑定を鑑定士Yに依頼し、Yはこれを二〇〇〇万ドイツマルクと見積もる鑑定をP会社に提出した。P会社はデンマ
ークのN会社との間にプレハブ家屋の提供をする代わりに、当該鑑定を盾に取って一五〇〇万ドイツマルクの貸付けをしてもらう約束をしており、N会社は、貸付金の国家保証を実現するために、その鑑定を貿易省(
H an de lsm in ist er iu m
) に提出した。貿易省はさらにその鑑定を後の原告にあたるX銀行に転送するとともに、デンマークの輸出信用官(E xp or tk re dit ra t
)は、ミュンヒェン在住のデンマーク領事Aに専門家およびのちの被告に情報を照会することを頼んでいた。輸出信用官と原告の間には、デンマーク領事Aの行動は原告のためでもあるという対話が交わされており、また領事Aは被告である鑑定士Yに対して、デンマークの企業が保証ないし信用を許すことによって建設計画に関与する
つもりであることを明示していた。他方で、P会社はX銀行に休暇村建設資金の貸付けを申し入れており、X銀行は貿易省から転送された鑑定情報をもとに本件土地を担保として資金の融資を行った。しかし、当初の鑑定価格が誤ってお
り、実際の競落価格は予想以上に低かったため、X銀行は第三者のための保護効を伴う契約法理を根拠に鑑定人Yに対
(三七五八)
契約外の第三者による情報責任根拠と信頼責任法理七四一同志社法学 六〇巻七号 して欠損額の賠償を求めたものである。多少複雑な経緯を辿っているが、簡単に言えば鑑定人Yが依頼人であるP会社のために作成した鑑定情報のX銀行に対する責任が問われており、そこでのP会社とX銀行は禍福関係にあるどころ
か、むしろ利益の共通性すらない相対立する融資契約の両当事者だったのである。
本件は、差し戻し審判決に対する再度の上告によって連邦通常裁判所に上がってきた事件であるが、一度目の上告審
判決 (
行とでけだたいてれさ示がこっきべるれら図が決解るあたに間銀Xを効護保の約契の者。事当のど、かりかばれそよ理 な益特のていつに性反相の利法びよお係関福禍はてい別叙にた約契う伴を効護保のめの述者三第、ずらた当見はお 43)
に拡張するのかという最も基本的な論証プロセスさえも抜け落ちていたのである。その不明確な帰責根拠は、二度目の上告審である本判決によって裏書されている。本判決がX銀行に対する保護効拡張の基礎として着目したのは、鑑定士
Yと依頼者Pとの間の鑑定契約ではなく、鑑定士Yと領事A(厳密に言えば、領事Aを代理人としたデンマーク市)との間の黙示の情報契約であった。つまり、鑑定士Yとデンマーク市との間に締結された黙示の情報契約を推論し、その
保護効を第三者のための保護効を伴う契約法理を用いて第三者たるX銀行に拡張するという二重の構成を採ったのである。連邦通常裁判所は、まず鑑定人Yと領事A間の黙示の契約の推論にあたって、情報が受領者にとって決定的な意味
を持っており、彼によって経済的、法的、または事実上の分野における基本的な措置の基盤として用いられることにな
るということが情報提供者にとって認識可能であったことや、情報提供者が特別な専門知識を持っていることをその理由として挙げる。さらに、その黙示の契約の保護効をX銀行に拡張することについては、まさに彼の鑑定上の活動によ
って異なった利益方向を持ったさらに多くの人々に対する注意義務(
So rg fa lts pf lic ht en
)を守らなければならない立場に至りうるであろう公的に選定された専門家の職業上の地位を根拠にする。こうした二重の解釈によって、相対立する契約相手方への保護効の拡張の議論を正面から扱うことを回避する目的が連邦通常裁判所にあったのか否かは定かでは
(三七五九)
契約外の第三者による情報責任根拠と信頼責任法理七四二同志社法学 六〇巻七号
ないが、P会社とX銀行の関係のみならず領事AとX銀行の関係も利益が共通しているとは言い難く、少なくとも事実
上は結果として鑑定依頼人であるP会社と対立利益を有する第三者に契約の保護効を拡張するに至ったことは間違いない。
その後も連邦通常裁判所による﹁第三者のための保護効を伴う契約﹂法理の拡張は続く。一九八六年一一月二六日のいわゆる﹁ハウスバンク事件﹂判決 (
)対関係にない者(立禍利益を有する者福にく拠いては、同じ当に事者意思を根お 44)
への保護効の拡張が再確認されるとともに、契約債権者たる依頼人の取引相手方(第三者)のみならず、その取引相手方の取引銀行(いわば第四者)までもが原鑑定契約の保護範囲に包含されることが認められる (
。さらに、従来は契約当 45)
事者よりも広範な請求権が第三者に与えられることはないとされていたが、その原則さえも撤廃する判例が登場する。﹁屋根裏部屋事件﹂と称される連邦通常裁判所一九九四年一一月一〇日判決 (
のて己自に家門専築建しと的目を却売、は 46)
家屋の価格鑑定を依頼した者が、その家屋の屋根裏に重大な瑕疵があることを専門家である鑑定人に故意に隠し通したために、専門家は誤った鑑定を作成するに至り、その鑑定内容を信頼して当該家屋を購入した買主が損害を被ったとい
う事案であった。本判決でも、鑑定契約の推論されうる当事者意思および公衆において彼の鑑定作成の信頼性による期待責任を呼び起こす専門家の特別な専門知識などを根拠にして、依頼人と禍福関係にない(利益の相対立する)家屋購
入者が鑑定契約の保護範囲に取り込まれている (
あての身自が人頼依はい意おに件本、ちわな悪の。定でのもたし発誘を鑑行たっ誤てっよに為するで係関の権求請償あ 償た第、はの問っなと題者なた三請の損害賠。求権と依頼人の損害賠新 47)
り、依頼人が鑑定の誤りを理由に専門家に損害賠償を求めることはできないにもかかわらず、第三者からの損害賠償請求を認めてよいのかといった問題が生じた。控訴審は、契約債権者たる依頼人が自身の隠匿行為により損害賠償請求権
を有しない以上は、専門家はそのことをもって原告にも対抗することができ、第三者には契約債権者を超える権利が与
(三七六〇)
契約外の第三者による情報責任根拠と信頼責任法理七四三同志社法学 六〇巻七号 えられないとしていた (
をせでのるきでがとこるさり効失ばれよに思意のあ、人も解見のとるあで能可てそっよに約契の示黙はれ)頼依と家門 裁にかした、は所判し常通そ連、てし対にれ邦たう、専(者事当はれそが。るす在存は則原法こ 48)
示したうえで、第三者たる買主からの損害賠償請求を認めた。そこでは、黙示の契約の推論根拠として、通常は専門家の信用性や専門知識ならびに鑑定の正確性に購入利益を有している買主(第三者)の特別な信頼が挙げられている。つ
まり、第三者たる買主は専門家の信用性や専門知識ならびに鑑定内容の正確性を信頼して目的物を購入するかどうかを決定するのが通常であり、第三者への売却目的で家屋の価額鑑定を行うことを承知していた両当事者は、そのような特
別な信頼を有している第三者に依頼人よりも広範な請求権を与えることを容認していたはずだと言うのである。このような保護される第三者の範囲およびその請求権の範囲における二元的な拡張はいずれも、後の判例によっても追認され
ることとなるが (
も説言える解釈には学かとら強い批判があてたたれシ、その法的フィクョしンの限界を通り越ら 49)(
。 50)
こうした潮流のなか、二〇〇〇年九月二六日には、これまでとは全く違った視点からの判例が登場する (
。連邦通常裁 51)
判所は、本判決において、第三者情報責任の解決アプローチとして急速に拡張を続けていた﹁第三者のための保護効を伴う契約﹂法理ではなく、これまで主に潜在的契約当事者間の責任規範として用いられてきた﹁契約締結上の過失﹂法
理にその拠りどころを求めたのである。
事案は以下のとおりである。原告XはP有限会社によって発足された投資モデルに参加していたが、その際P有限会社によって発行されたプロスペクトでは、投資者からブローカーへの資金の流れにおいては弁護士および公証人が管理
に介入しており、さらに独立の公認会計士Yによっても資金の流れがチェックされていることが強調されていた。現に会計士Yは一九九〇年から一九九五年にかけて資金が適正に利用されていることを証明していたが、実際には、資金は
投資者の会社から直接にブローカーへ送られていたのではなく、差し当たっては他の様々な会社へ流れており、Yもそ
(三七六一)
契約外の第三者による情報責任根拠と信頼責任法理七四四同志社法学 六〇巻七号
のことを知っていた。そのシステムが一九九五年に崩壊するまでに資金の大半が消失したため、原告XらはYに損害の
賠償を求めたものである。XはYのプロスペクト責任を第一に引き合いに出したが、会計士Yは発行者でもプロスペクトの作成にかかわる共同責任者でもないことを理由に、連邦通常裁判所は従来の判例に倣ってその責任を否定する。そ
の意味では本件は投資家保護のためのドイツ特有の事情に基づいて発展してきた特殊なプロスペクト責任の肯定判例ではないことを強調しておきたい (
契者会計士Yの第三情外報責任根拠としてで枠はの邦通常裁判所プ。ロスペクト責任連 52)
約締結上の過失法理を持ち出したのである。本判決は、これまでの﹁第三者のための保護効を伴う契約﹂法理を用いる専門家責任事例に関する判例と信頼責任を根拠基盤とするプロスペクト責任事例に関する判例を比較参照し、それらは
ともに﹁取引のなかで出された陳述については、彼によって惹起され、かつまた彼に寄せられている信頼によって資本投資者の意思決定に影響を与えた者は誰しもが責任をもたなければならない﹂という共通した法思想に根ざしていると
の理解を示す。そのうえで、Yの証明書が契約前にP有限会社によって投資者を募るために用いられており、Yもそのことを顧慮すべきであったにもかかわらず、それによって作出された信頼状態を取り除くためにYは適切な措置を講じ
ていなかった点において、Yは契約前(XP間の投資契約前)の説明義務に違反していたとして契約外の第三者たるYに契約締結上の過失責任を認めたのである。
本判決が採る責任システムの理解には、これまでの第三者に対する保護効を伴う契約法理の責任システムとの視点の違いに着目する必要がある。第三者のための保護効を伴う契約法理は、専門家と依頼人間の情報契約の保護効を第三者
に拡張しようとするのに対して、第三者による契約締結上の過失法理は、依頼人とその契約相手方との契約締結に第三者たる専門家が情報提供者として関与し誤った情報を与えた点で、他者間の契約締結前の説明義務を第三者(専門家)
に負わせようとするのである。本判決は、契約締結上の過失法理の第三者拡張という途を示唆することで、これまで黙
(三七六二)
契約外の第三者による情報責任根拠と信頼責任法理七四五同志社法学 六〇巻七号 示の契約や第三者のための保護効を伴う契約法理を用いて解決が図られてきた第三者情報責任論の分野に一石を投じた。しかしながら、それが判例の専門家責任に関する根拠基盤の転換につながることはなく、その後の判例においては またもや﹁第三者のための保護効を伴う契約﹂法理による解釈学的アプローチへと逆行する傾向が見られる (
れ性は、その法的フィクションを拡保持できる限界ないしはそ張るの護約や第三者のためな保効を伴う契約法理の度重 。契の示黙 53)
以上のところにまで達していたが、判例は必要性に駆られるままにそれらに第三者の情報責任根拠としての役割を与え続けていたのである。
第三節 債務法現代化による「契約締結上の過失」の制度的変革 ドイツにおいて二〇〇二年から施行された一連の債務法現代化法は、古くから判例法理として定着していた﹁契約締結上の過失﹂法理の法制度的構築もその改革内容の一つにしていた。従来から具体化していた潜在的契約当事者間にお
ける﹁契約締結上の過失﹂法理の立法化については、ここであえて再度紹介するまでもないが、注目すべきはそこに、これまで﹁契約締結上の過失﹂法理の発現ケースとは必ずしも捉えられていなかった契約外の第三者による信頼責任規
範が追加的に包含されていることである。BGB三一一条は次のように規定する。
BGB三一一条(法律行為上および法律行為類似の債務関係)
⑴
法律行為による債務関係の発生および債務関係の内容の変更は、この法律に別段の定めがない限り、当事者間の契約を要する。⑵
二四一条二項の義務を伴う債務関係は、次の各号のいずれかによっても発生する。(三七六三)
契約外の第三者による情報責任根拠と信頼責任法理七四六同志社法学 六〇巻七号
1
契約交渉の開始
備可、え与を性能すたぼ及を響影にまは益、準の渉交約契る彼ね委をれそに
2
方よ律法るうじ生はてっに為合場、が方一の者事当行上当法事者に、自他の権利、益の、利、てし慮考を係関己
ないなのずはる関者者事当約契がとに自も発生しうる。そのような債務ら、四義は一条二項の務
⑶
を伴う債務関係二3
触接の上引取るす似類とれこ係は、とりわけ当該第三者が特別な程度に自らへの信頼を惹起し、それによって契約交渉または契約締結に重大な影響を及ぼすときに発生する。
BGB二四一条(債務関係に基づく義務)
⑵
債務関係は、その内容に応じて各当事者に相手方の権利、財産および利益に配慮することを義務づけうる。 債務法現代化法は、契約締結上の過失を独自の責任設定根拠として擁立するのではなく、保護義務の発生に関する特段の定めを置くかたちで行為規範的側面から具体化した。本稿で扱う第三者の情報責任の問題との関係でとりわけ着目すべきは、右のBGB三一一条三項である。同項一文は、契約外の第三者に対してもその権利、財産および利益に配慮する義務が発生しうることを定め(第三者のための保護効を伴う契約法理の立法化およびその他第三者責任に関する一
般規定)、さらに同項二文は例示的に信頼を基礎とした第三者に対する保護義務の発生場面を規定する(信頼責任の第三者拡張 (
同に範とともに同一規定内任包されることになった規責い失務法改正のなかで、わ)。ゆる契約締結上の過債 54)
条三項の趣旨はなにか。そして、同条は専門家による第三者情報責任事例にどのような影響を与えるのであろうか。
(三七六四)
契約外の第三者による情報責任根拠と信頼責任法理七四七同志社法学 六〇巻七号 BGB三一一条三項二文に関する連邦政府草案理由は以下のように述べる。すなわち、﹁主要な事例群は、ある者が自らへの特別な信頼を惹起する場合である。その事例群を二文が典型として請け負っている。特別な信頼は、標準的な 交渉信頼を超えるものでなければならない(
B G H , N JW -R R 19 91 , 12 42
)。そのためには、ある者が自身の専門性を指摘し、または代弁者であるということでは十分でない。しかし、たとえば、契約相手方ないしそれに類似する者を保証することの表明はそれに足りうる。
それゆえ、仲介者の責任(
Sa ch w alt er ha ftu ng
)も請け負われる。問題となっているのは、契約の締結によってそれ 自身としては自己の利益が存しないけれども、契約の相手方がその客観性および中立性を信用しているがゆえに、その者の発言によって決定的に契約締結に寄与している専門家あるいはその他の﹃情報者(A us ku nf ts pe rs on en
)﹄の責任である。これに関しては、仲介者(
Sa ch w alt er
)の観念が一般的に取り入れられた。かかる事例は、現在のところ、一貫して契約締結上の過失制度の適用事例であると理解されているわけではない。専門家または情報者と契約当事者の一方(または双方)との間に情報契約ないし助言契約が行われていた場合に限って、一部で責任が認められているにすぎず、そのことは論理的に一貫した態度からも起こりうることである(
da zu S ut sc he t, D er S ch ut za ns pr uc h zu gu ns te n D rit te r, 19 99 , S . 13 4 f. un d 13 7 f.
)。しかし、一部では、この事例は契約締結上の過失の適用事例とも解されている。それは、本事例においてはしばしば容易には肯定されえないところの、契約上の結びつきを直接には要件としない。契約締結上の過失の適用にあたっては、信頼が惹起されていたのか否かが決定的に重要となる。本規定は、判例にその事例がこの方
法を用いても解決可能であることを指摘することとなるものである。 (
﹂と。 55)
C an ar is
は、以前からすでに第三者の情報責任根拠に関して以下のことを主張し続けていた。﹁情報責任を信頼責任に 取り入れ、契約締結上の過失に依拠して解決するには良い時期だ﹂と (頼法信、でかなの化代現務債、は者法立にさま。 56)
(三七六五)
契約外の第三者による情報責任根拠と信頼責任法理七四八同志社法学 六〇巻七号
責任法理が契約外の第三者にも拡張される可能性を開くことによって、第三者の情報責任事例を契約締結上の過失法理
の枠内に取り込んだ。契約締結上の過失法理の人的拡張、これこそが債務法現代化による同法理の最も大きな制度的変革であり、立法者は将来的な解釈の余地を多分に残しながらもそれを実現したのである (
。 57)
第三章 BGB三一一条三項二文に基づく代替的責任モデル
嘗てから黙示の契約ないし﹁第三者のための保護効を伴う契約﹂法理の度重なる拡張によって、著しい法的フィクシ
ョン性を否めない契約構成からの解決アプローチが採られてきた専門家による第三者情報責任事例であったが、債務法現代化はその責任根拠に関する代替的構想を提案した。契約構成から信頼責任構成への針路変更である。BGB三一一
条三項二文による新たな責任モデルはいかなるものか。本章では、個別的な規範発生要件の検証と帰責構造の具体的把握を通して、その全体像を明らかにしたい。
第一節 信頼要件詳論 BGB三一一条三項二文は、﹁第三者が特別な程度に自らへの信頼を惹起し、それによって契約交渉または契約締結に重大な影響を及ぼす﹂ときに、契約外の第三者との間に保護義務を伴う債務関係が発生することを定める。そこには
解釈学的検討を要する五つの規範発生要件の存在が見出される。すなわち、①第三者概念、②自己に対する信頼、③特別な程度に、④惹起したこと、⑤契約交渉または契約締結に対する重大な影響である。本節では、まずこれらの要件の
内容を個別に検証することにしたい (
。 58)
(三七六六)
契約外の第三者による情報責任根拠と信頼責任法理七四九同志社法学 六〇巻七号
Dritter 1
第三者()概念 BGB三一一条三項二文が債務関係発生要件上の行為主体とするのは、契約当事者以外の﹁第三者(D rit te r
)﹂である。 いかなる者が本条における﹁第三者﹂となりうるのか。連邦政府草案理由は、その具体例として第一に﹁仲介者(Sa ch w alt er
)﹂を挙げる (ch Sa w alt er ha ftu ng
)﹂事任および﹁代理人責例(い任例は従来から、わ。ゆる﹁仲介者責判 59)(
V er tr et er ha ftu ng
)﹂事例を第三者による信頼責任法理の発現ケースとして捉えており (るいながら、立法理由の大部分におてかはよに家門専、の述るいてれらべしし条こ本。射程に入るのと明らかにするを そ法者はまず事れらの例が、立 60)
第三者情報責任事例に関する内容である。立法者は、まさにこれまで無理な契約構成によるアプローチが採られてきた鑑定人等の専門家による情報責任を本条の中心的対象に据えていると言える。もっとも、﹁第三者﹂概念を専門家や仲
介者に限定しようとする意図は少なくとも立法者には見受けられない。それゆえ、形式的には本条に言う﹁第三者﹂は、旧法下の判例によって信頼責任法理の主体とされていた者に限られず、今後の解釈学的展開によってあらゆる第三者が
本条の主体になりうる可能性が充分に開かれている (
。 61)
Vertrauen für sich 2
自己に対する信頼() 債務関係の発生という効果をもたらす第三者側の行為は、﹁自己に対する(fü r sic h
)﹂信頼の惹起である。本条に言う﹁自己に対する﹂信頼とはいかなるものか。連邦政府草案理由には、﹁問題となっているのは、契約の締結によってそれ自身としては自己の利益が存しないけれども、契約の相手方がその客観性および中立性を信用しているがゆえに、その者の発言によって決定的に契約締結に寄与している専門家あるいはその他の﹃情報者﹄の責任である﹂という叙述
が見られる (
者中報提供者の客観性や立の性、すなわち情報提供情他信のの表現からすると、頼。の対象は専門家やそこ 62)
(三七六七)
契約外の第三者による情報責任根拠と信頼責任法理七五〇同志社法学 六〇巻七号
の職業的地位ないし役割に置かれているようにも思える。しかし、この﹁自己に対する﹂信頼という文言の起源を辿る
と、その信頼の内容は、専門家ないし情報提供者の役割に対する抽象的信頼ではないことが分かる。その文言は、従前からの仲介者責任(
Sa ch w alt er ha ftu ng
)に関する連邦通常裁判所の判例に由来しており、そこでは単なる専門性や客 観性ないし契約遂行に対する影響力への抽象的信頼だけではなく、具体的にその者に対する人的信頼が必要であるとされていた (己起に対する﹂信頼の惹と自いう要件の本質的要素り﹁あ者。こうした情報提供のが人物に対する人的信頼で 63)(
、 64)
提供された情報の正確性に対する信頼はその人的信頼からもたらされる副次的効果にすぎない (
やれは親しかったことでもたらさるま信頼関係(たとえば、友人関係た、、情の関連でり人的に個報供者を知ってお提 のた、こと人的信頼。ま 65)
親戚関係など)は、それ自体としては本条に言う信頼にはあたらないとされる (
。 66)
その他にも、信頼概念を独自の責任根拠として結実力あるものにしようとする試みは債務法改正の前からすでに広く 信頼責任法理の主張者によって着手されていた (
すと念を定義そるこのの困難さにあった概 ( た、は由理る最導の般的に信頼責任法理を入。することに対する異論一 67)
たてに信頼と言っも一、ちょっとし口。は。なし在存上律法い義定のそに現 68)
期待から確信に至るまでその程度は様々であるが、その信頼スペクトルのどの位置に属するものが本条に言う﹁信頼﹂に当たるのか。
C an ar is
は、信頼責任における信頼を﹁不信感の欠如﹂と定義していた (。そこでは意識的な信頼である 69)
か無意識的な信頼であるかは問われていない。したがって、信頼スペクトル上の信用と不信との間に位置する﹁無関心﹂も信頼概念のなかに含まれることになる。なお、後述する﹁特別な程度に﹂という要件は、この信頼の強さ(たとえば
確信に至る程度にという意味合い)に向けられた要件ではないことにも注意を払う必要がある。
(三七六八)