九州大学学術情報リポジトリ
Kyushu University Institutional Repository
カンセイ カチ ニ チャクモク シタ デザイン ヒョ ウカ システム コウチク ニ カンスル ケンキュウ
曽我部, 春香
九州大学大学院芸術工学研究院
https://doi.org/10.15017/13946
出版情報:Kyushu University, 2008, 博士(芸術工学), 論文博士 バージョン:
権利関係:
第 1 章 序論
1.1 はじめに 1
4
7
11 1.2 研究の目的と背景
1.3 研究の方法
1.4 本論文の構成
1.1 はじめに
私たちが生活する現代には、人工的に創造された製品やそれらで 構成される空間が溢れている。デザインは、18 世紀後半に、形状 創造行為として位置づけられるようになり、物事の色や形などを取 り扱う行為として確立した(注 1)。産業革命によって、製品など の製造工程が機械化されたことにより、粗悪品が製造されるように なった時、この粗悪品の醜い部分を、美術を応用し美しい製品とし て、販売を促進しようとしたことから、近代デザインの意味が生ま れたといわれている(注 2)。これは、職人によって丁寧に作られ ていた製品に代わる製品価値として、美しさを付加し、使用者たち に新たな価値の提供を行った行為といえる。したがって、時代の移 り変わりととともに、社会が複雑化し、人工的に創造される製品 が大量に存在する現在においての、デザインが果たすべき役割は、
色や形のみでなく複合的に、価値の提供を行うことのできる手段と いえる(注 3,4)。以上のことから、本論でのデザインの定義を「も のごとを介して、人々へ価値の提供を行う手段」と位置付け本研究 を展開する。本論は、製品などのプロダクト製品におけるデザイン の評価について言及するものであり、グラフィックなどの他のデザ イン分野については、除くものとする。
色や形だけを取り扱うのではなく複合的な領域を概観し、人々の 生活にとって価値あるものを提供しようとする行為が、デザインと 呼べるようになっていると考えられる一方で、その言葉の指す範囲 が、未だ明確化されていないことも事実である。したがって、デザ イナーに課される役割も色や形だけを作り出す存在として受け止め られているのか、複合的な「ものづくり」における工程を概観し、
的確な方針を決定する役割を求められているのかなど、不明確な状
第 1 章 序論
況があるといえる。筆者は、こういった状況下でその能力を発揮し なければいけないデザイナーにとって必要なことは、各デザイナー が、つくり出したものに対して客観的な評価を受け、その結果を真 摯に受け入れ、デザイナー自身が考察し、新たな活動の礎を築くこ とであると考える。
デザインの評価については、現在、確固たる基準や方法が確立さ れているわけではない。各人の嗜好や感性に大きく左右されるデザ インに対しての判断は、一側面のみをみて判断できるものではない ため、非常に難しいと考えられる(注 5)。こういった前提の下に、
デザインの評価活動のひとつとして、賞を授与する形で、その優秀 さを広く一般の人々に知らしめるといった、デザイン賞表彰制度が 存在する。これは、有識者で構成される審査員たち数名が、成果品 に対して、ある一定の基準のもとに評価を行い、その善し悪しを判 断するといった方法で、半世紀にわたり続けられている制度である
(注 6)。
また、製品開発などの「ものづくり」に関わる分野においての評 価については、さまざまな調査や研究が行われている。「ものづくり」
には、必ずデザインが関与しているといえることから、これらも、
デザインの評価の1つとしてとらえることができる。デザイン学分 野においては、ユニバーサルデザインに関わる内容や、物事がもち あわせているイメージに関して、数多くの研究報告がなされている。
また、感性工学分野においては、製品開発過程における、顧客の感 性部分に関するニーズの増大をとらえ、これに対応する調査及び評 価研究が頻繁に行われている。これは、人々の感性に、製品などの 人工創造物がもたらす価値に着目した研究であるといえる。ここで、
生活者の感性に働きかけ、生活者から共感や感動を導出する製品に 備わる価値を感性価値と定義し、この感性価値を含めた製品に備わ る価値を、本論では価値と記述する。既往の研究に関する詳細につ いては、第 2 章において述べることとする。
このような「ものづくり」における調査や評価の取組みについて は、近年、実践的な製品開発の場面でも、用いられるようになって
いる。例えば、ユニバーサルデザインの視点に基づいた、使いやす さなどの評価項目については、大手企業が独自に所持している例が、
頻繁に見受けられる(注 7)。また、製品開発の結果、つくりださ れた成果品を判断する目安である市場の反応について市場調査も行 われている。ここで、市場調査を市場の分析を目的に、消費者のニー ズや動向を調査することと定義する。一般的に製品開発を行う際に は、市場調査が頻繁に行われる。その目的は、消費者の動向を知り 市場の分析を行うことであり、この調査結果が、ひとつの判断基準 として、製品開発の過程に強く影響を及ぼしている。
ここで、整理しておきたいのは、市場調査とデザインに主体をお いた評価調査の目的の違いである。市場調査の目的は、製品やサー ビスなどに対しての消費者の動向を探り、市場を分析することであ る。これは消費という視点で、消費者に区分される人々の反応のみ をとらえるものであるといえる。ここで消費者を、対象となる商品 を消費する人と定義する。一方で、デザイン評価の目的とは、製品 などのモノを、消費という視点だけでなく、人々の生活や文化、社 会的な側面から総合的に判断し、その価値について判断することで ある。市場調査とデザイン評価の目的にこのような大きな違いがあ るにも関わらず、この2つの違いが明確にされる機会は無い。した がって、製品開発の場面において行われる市場調査の結果によって、
製品づくりが影響を受け、結果的にデザインに携わるデザイナーた ちが、市場調査の結果に基づいた、製品開発を強いられる状況が生 まれている。
筆者は、こういった状況を改善するひとつの手段として、デザイ ンの効果が理解できたり、新たなデザインを行う際の思考のきっか けとなるような調査結果を導きだしたうえで、調査結果を製品開発 に関わる人々が考察する場を作り出すことが、デザインに主体をお いたひとつの評価システムの構築につながるのではないかと考え た。あらゆる分野において、同一ジャンルに数多くの製品が存在す る現在、その製品間の差を明確にすることは、非常に難しい。似 通った製品群の中で、その微妙な差を使用者に伝えるためには、も
のづくりの各段階で感性に基づく思考が行われていることが重要で あり、そのきっかけをつかむ機会が必要だといえる。デザイン評価 とは、人工的な創造物に必ずといっていいほど関与しているデザイ ンに対して、本来その効果を明確に関係者に示す為の方法として存 在すべきであり、デザイナーたちがデザイン立案を行う際のきっか けを広げることができる方法となりえれば、実践的な製品開発の場 面で役立つといえる。以上のことから、デザインによる価値提供の 効果を評価し、開発の方向性を示唆できるデザイン評価システムの 構築に着手することとした。
1.2 研究の目的と背景
現代社会は、製品の存在自体に価値があった時代とは違い、多様 な生活者が多くの製品やサービスの中から自分の気に入ったもの、
自分にとって本当に必要なものだけを選択し購入する時代であると いえる。各自がより良いと感じる製品やサービスを、一般生活者は 求めるようになっている(注 8)。したがって、近年市場において 多くの人々から支持を受けることのできる製品の開発を行うこと は、非常に困難だといわれている。このような個人の価値観の多様 化については、多様なものごとの中から個人が各自の価値観に見合 うものを選択できる状態、つまり人々の生活が物質的に充足した、
社会が成熟したことが要因であると考えられる(注 9)。
またさらに、一般生活者が各自の価値観に見合う製品を選択する 傾向を加速させている要因のひとつとして、各個人が入手できる情 報量の膨大化を挙げることができる。以前は、新聞、雑誌、テレビ、
ラジオなど情報媒体が限られていたが、近年ではインターネットの 普及とともに、急速にモバイル機器が普及し、各個人が何処でもさ まざまな情報を簡単に入手できるようになっている。毎年、総務省 が発表している「通信利用動向調査」の平成19 年度末時点におけ る世帯、企業及び事業所における情報通信サービスの利用状況、情 報通信機器の保有状況等についての結果(注 10)では、インター
ネットの人口普及率は 69%となっている。したがって、各個人が さまざまな情報を簡単に、能動的に入手することが可能だと考えら れ、入手した情報は各個人のレベルで判断され、各個人なりのもの ごとの判断基準を形成する源となっていると考えられる。こうして 形成された個人の価値観は、非常に複雑であるといえる。
前述したように、現在、製品開発などに強く影響を及ぼしている 市場調査は、消費者の複雑な価値観の一端を、ニーズという形で取 り出し、このニーズに対応した、多くの人々に受け入れられるモノ を開発しようとする行為である。筆者は、この消費という観点から、
消費者を一般生活者ととらえ、彼らのニーズを抽出し、製品開発に 活かそうとする方法には、限界があると考える。一般生活者から得 られるニーズに対応するかたちで開発される製品とは、一般生活者 の想定の範囲内でしかないといえる。
そこで、多様化する価値観を比較することで、新たな開発に向け たきっかけとなる評価調査結果を導くことが出来るのではないかと 考えた。しかしながら、各個人の価値観をとらえ比較したのでは、
現実味がなく、実践的に役立つデザイン評価としては、不十分だと いえる。したがって、ある一定の条件のもとに、生活者をグループ 化し、グループ間での比較を行うことにした。生活者を一定条件に よりグループに分け、グループ間における比較を行うといった分析 視点を、本論の「感性価値に着目したデザイン評価システム構築に 関する研究」の基本とする。
生活者は、さまざまな人々の集合体であることから、グループ化 については、その条件について、いくつかの検討を重ねた。人は多 様な趣味や嗜好を持っている。そして、性別や年齢も異なる。従来 の調査においては、年齢や性別などのデモグラフィックス要因をも とにしたグループ化が行われている。そして近年では、生活者の考 え方や性格などの感性特性に関わるサイコグラフィックス要因での グループ化や特定商品の所有の有無や調査テーマとの関わりや経験 などを問うエキスペリエンスグラフィックス要因でのグループ化も 行なわれ始めているといわれている(注 11)。以上のような、グルー
プ化要因以外で、生活者をグループ化する条件を考える際に、有効 な条件として、製品などの評価の対象を中心に、どういった人々が 関わりあうのかを整理した(図 1-1)。この対象との関わり方から、
生活者は大きく 3 つのグループに大別出来るといえた。
一つ目のグループは、製品やサービスなどを作り出す立場となる、
デザイナーや技術者などの「作り手グループ」である。次に、製品 を流通させるかどうかの判断を行う経営者や使用者へ届ける販売者 や営業者といった立場の「送り手グループ」である。そして三つ目に、
購入や消費の判断を行うエンドユーザーといわれる、主に一般生活 者たちで構成される「受け手グループ」である。これらのグループ 間には、対象との関わり方の違いから、その判断の基準も異なるこ とが予測される。よりよいものを一般生活者に提供することを考え る作り手グループとさらに売上げも気にしなければいけない送り手 グループ、そして多様な価値観で提供されるものを判断する受け手 グループの間では、デザインに対しての評価の違いが存在している と考えられる。そこで、どういった点において違いが生じているの かを明確にすることができれば、売上げを上げるために強化しなけ ればいけない部分、価値の提供が行えていない部分、価値の存在が 気づかれていない部分などを明確にできるため、新たな発想のきっ かけに結びつけることのできる、デザインの評価システムを構築で きると考えた。ここで注意しなければいけない事項として、作り手、
送り手、受け手の分類ルールがある。対象がおかれる状況や対象の とらえかたによっては、作り手、送り手、受け手の区別が明確でな
対象
図 1-1 評価の対象とそれに関わりあう人々の関係
いケースが存在すると考えられる。したがって、前述の3者に区分 することを基本的な考え方とし、「具体的な状況に則して分類を行 う」というルールを前提条件とする。
以上のことから、本研究の目的を、デザインの感性価値提供の効 果を評価者間の立場の違いに起因すると考えられるデザイン評価の ズレを明確化することで分析し、新たな開発の方向性を示唆できる デザイン評価システムを構築することとする。
1.3 研究の方法
本研究では、デザインの価値提供の効果を評価するために、デザ イン評価を行うための指標を構築する。物事の印象やイメージの評 価においては、心理物理学を出発点とした心理測定法が通常使用さ れている。ものごとの開発行為を行う上で、人の心の働きをとらえ ることは必要不可欠である(注 12)。したがって、デザイン学分野 や感性工学分野においてもこれらの手法が用いられ、調査を行って いる事例が多く見受けられる。具体的には、形容詞対を用いたSD 法などにより、評価の対象が被験者に対し、どういった印象やイメー ジを与えているかを分析した研究(注 13, 14)、SD法に使用する 印象語の個人的なとらえ方の差異を明確にするといった研究である
(注 15)。これらの研究においては、評価の対象が持つイメージを 明確にすることはできる。しかし、人々に価値提供が行えるデザイ ンとは、人々の生活を物心両面から豊かにすることの出来る手段で あるともいえる。日常のあらゆるものに関与しているデザインに対 し、生活者は、強度などの物性的な面、審美性などの情緒的な面、
使用感などの使いやすさといった多方面の印象から複合的に、もの ごとをとらえている。したがって、その一旦であるものごとのイメー ジが形容詞などのキーワードで明確になったとしても、それを実践 的な製品開発などに結び付ける際には、開発に携わる人々の解釈に 大半がゆだねられる事になる。そこで、形容詞などのキーワードで はなく、具体的な短い文章で構成されるデザイン評価の指標を構築
することが有効ではなかと考えている。そして、構築したデザイン 評価指標を用いて、具体的な対象に対する調査を行い、作り手、送 り手、受け手の比較分析を行うことによって、どういった内容につ いてズレが生じているのかを明確にする。この評価のズレについて は、評価調査により得られたデータを便宜上、数値化し、作り手、
送り手、受け手の各グループの平均値を統計ソフトを用いて比較す る。分析の方法としては、一元分散分析を用い、Tukey HSD によ る多重比較によって、いずれのグループ間に統計的に有意といえる 差がみられるかを確かめる。そして、この統計的に有意といえる差 のみられたものを、評価のズレとしてとらえることにする。
方法としては、まず既往の「ものづくり」に関わる評価や調査の 研究を調べることで、本研究の位置付けを明確化する。調査には、
書籍や既往の研究論文を用いる。そして、本研究の位置付けを明確 化した上で、具体的なデザイン評価指標の構築に取りかかる。デザ イン評価指標は、わが国のデザイン賞表彰制度であるグッドデザイ ン賞の審査講評を基に構築する。優れたデザインに対して、賞を授 与する形式をとるこのデザイン評価は、1950 年代に世界各国で行 われ始め、わが国のグッドデザイン賞も 1957 年に発足している(注 16)。これらの制度は、現在もなお継続的に行われており、半世紀 以上続くこれらの制度に関しては、その評価が多くの人々から受け 入れられていることが、長期の存続につながっているものと判断で きる。ゆえに、これらの審査講評には、デザインを評価するための キーセンテンスが内包されていると考えられる。
ここで、デザイン賞に対する考え方や審査基準に、国などによる 偏りがあってはいけないため、主にデザインに関わる歴史の深い欧 州のデザイン賞について予備調査を実施する(注 17)。予備調査か らは、デザイン賞に対する考え方や審査基準に、国による大きな偏 りが無いかを確認する。
わが国のグッドデザイン賞の審査講評から、デザイン評価指標の 基礎となる評価箇所をセンテンスで抽出する。次に、抽出したセン テンスを整理し、プロトタイプとなるデザイン評価指標を構築する。
このプロトタイプ指標を用いて、具体的な対象を評価する評価実験 を実施し、多くの人々から、指標の内容のわかりやすさや調査の方 法に関する意見を抽出する。そして、実験により抽出した意見は、
指標の修正を行う際に、参考にする。実験、意見抽出、指標の修正 といった作業を繰り返すことで、デザイン評価指標とその調査の方 法を確立する。
次に構築した指標を用いて評価調査を実施する。1つ目の調査 は、単機能で誰もが使用方法を理解できるという点で、任意に選定 した椅子 10 脚を対象とする調査である。この調査では、一室に椅 子 10 脚を設置し、回答者が自由に触れ、座るなどし、よく観察し た上で、作成した調査シートに回答するよう指示する。2つ目の調 査は、グッドデザイン賞の過去の受賞作品の中から任意に選定した 5点を対象とした調査である。グッドデザイン賞は、2006 年度に 50 周年を迎え、その記念として「Gマーク50年、時代を創った デザイナーと 100 のデザインの物語 」と称する展示会が、国内4 都市5会場で開催された。この展示会では、グッドデザイン賞の過 去の受賞作品のうち代表的なもの 100 点が展示された。この中か ら任意に5点を選出し、展示会来場者に調査協力依頼を実施する。
本調査は展示会場内で実施するため、対象の観察は、目視のみによっ て実施するよう回答者に指示を与え、調査シートへの回答を促す。
3つ目の調査は、ジャパンブランド育成事業の一つとして推進され ている、福岡県大川市の家具開発事業によって開発された家具ブラ ンド「SAJICA」を対象とする調査である。本調査は、福岡市 にあるアクロス福岡において展示を行い、1つ目の調査と同様に触 れ、座るなどしてよく観察を行った上で、調査シートに回答するよ う、回答者に指示する。以上3つの事例調査から得られた結果につ いて、それぞれ考察を行い、構築したデザイン評価指標を用いて実 施した調査により得られる調査結果の傾向の考察を行う。
次に、上記の3つの調査のうちグッドデザイン賞受賞作品を対象 とした調査と大川市の家具ブランドである「SAJICA」を対象 とした調査を取り上げ、これらの結果をデザイナーとして活躍する
図 1-2 本デザイン評価システム研究のフロー
指標の修正 開始
デザイン評価に関する既往研究 の調査
本研究の位置付けの明確化
デザイン評価指標プロトタイプの 構築
プロトタイプ指標 を用いた実験
デザイン評価指標の構築
調査
1
の実施 調査2
の実施 調査3
の実施分析・考察 分析・考察 分析・考察
評価のズレの存在を明確化し、その傾向を指摘
調査
2
のWS実施 調査3
のWS実施分析・考察 分析・考察
デザイン評価システムの構築 指標の修正
開始
デザイン評価に関する既往研究 の調査
本研究の位置付けの明確化
デザイン評価指標プロトタイプの 構築
プロトタイプ指標 を用いた実験
デザイン評価指標の構築
調査
1
の実施 調査2
の実施 調査3
の実施分析・考察 分析・考察 分析・考察
評価のズレの存在を明確化し、その傾向を指摘
調査
2
のWS実施 調査3
のWS実施分析・考察 分析・考察
デザイン評価システムの構築
人々に提示し、ワークショップにおいて、評価のズレが生じる要因 を考察する。ワークショップにおいて、作り手たちから導き出され た考察やグループごとの発表内容をもとに作り手の考察を整理し、
考察から具体策の立案に結びつくかのシミュレーションを行う。ま た、ワークショップ中の観察、ワークショップに対するアンケート 調査の結果から、評価のズレの考察が、作り手に及ぼす効果につい て検討する。以上の結果を総合的に判断して、最終的に調査、考察、
具体策の立案といった、感性価値に着目したデザイン評価システム の有効性を示し、その構築を行う。
本研究の以上のプロセスを図 1-2 にフロー図として示す。
1.4 本論文の構成
本論文は、序論である本章の他に、以下の 5 つの構成で展開する。
第2章
本章では、デザインの価値提供の効果を評価するデザイン評価シ ステムが、既往の「ものづくり」に関わる評価や調査に関する研究 において、どういった位置付けにあるかを明確にする。調査視点と しては、既往の研究では製品に対しどのような調査や評価が行われ ているのかを調べ、これらが、どのような分析視点を持ち、どのよ うに役立てられているのかを確認する。そして、現在の「ものづく り」に関わる評価や調査に関する研究の傾向を明らかにする。その うえで、筆者の考えるデザイン評価システムの有効性を示す。調査 は、主にデザイン学分野及び感性工学分野の研究を中心に行う。
第3章
本章では、デザイン評価システムに用いる、デザイン評価ツール を構築する。主に、デザインを評価するための指標の構築と、この 指標を用いた調査の方法を確立する。デザインの感性価値提供の効 果を評価するためには、デザインを評価する際の評価視点が豊富に
含まれるデザイン評価指標を構築する必要がある。有識者による評 価が行われ、その受賞理由が審査講評として明確に示されているデ ザイン賞の審査講評をもとにした、デザイン評価指標の構築プロセ スを示す。
第 4 章
本章では、第 3 章で構築したデザイン評価ツールを用いて実施 した評価調査を3事例あげる。それぞれの調査から得られた結果に ついて考察を行い、3事例の調査結果から、本評価ツールで得られ る調査結果の傾向を示す。事例は、任意に選定した椅子 10 脚を対 象とした調査、任意に選定したグッドデザイン賞受賞作品5点を対 象とした調査、任意に選定した大川家具ブランド「SAJICA」
の家具を 4 点を対象とした調査である。
第 5 章
本章では、第 4 章で実施した調査のうち、グッドデザイン賞受 賞作品と大川家具ブランド「SAJICA」の家具を対象とした2 事例の調査結果の一部を取り上げ、調査結果の考察を行うことが作 り手に及ぼす影響について、分析を行う。作り手による調査結果の 考察は、ワークショップにおいて行い、そこから得られた、考察や アンケート調査の結果を用いて、調査結果を作り手が考察すること の効果を示す。
第 6 章
本章では、本研究を統括し、まとめを行い、感性価値に着目した デザイン評価システムの構築に関する結論を述べる。そして、本研 究の今後の展望と課題について示す。
注および参考文献
1) 日本デザイン学会編,デザイン事典,朝倉書店,p394-395,2003
2) 飯岡正麻,白石和也,デザイン概論第三版,ダヴィット社,p10-31,1996 3) 井口博美,戦略的デザインマネジメントに求められる感性と理論性 - 感性 工学的視点によるデザイン&ビジネスへのアプローチ,日本感性工学会研 究論文集 Vol.7 No.2, p169-180, 2007
4) 和田精二,能力視点から見たデザイナーの新しい役割,日本感性工学会 研究論文集 Vol.7 No.2, p208-214,2007
5) 日本デザイン学会編,デザイン事典,朝倉書店,p652-655,2003
6) Sogabe, H., Morita, Y. and Ishibashi, S. Research on Design Evaluation Indicators Drawn from the Good Design Award Jury Members' Comments.
16th International Conference on Engineering Design (ICEDʼ07), pp. 27-28 (The Design Society, Paris, France, 2007).
7) 例えば、(株)INAX,コクヨ(株),TOTO(株),松下グループな どにおいては、各ホームページ上で、独自のユニバーサルデザイン指針を 公開している。
8) 小屋知幸,ポストモダンビジネスモデルの時代 - ポストモダン消費者とは 何か -,日経マネー DIGITAL,マル分かり最新ビジネストレンド,第 15,16 回
9) 間々田孝夫,第三の消費文化論 - モダンでもポストモダンでもなく,ミネ ルヴァ書房,2007
10) 総務省が Web 上で公開している「平成 19 年通信利用動向調査の結果」
を参照
11) 酒井隆,マーケティングリサーチハンドブック,日本能率協会マネジメ ントセンター,2005
12) (社)人間生活工学研究センター編:ワークショップ人間生活工学第 4 巻 快適な生活環境設計,丸善(株),2005
13) 山本佐代子,山本薫,平田良樹,田中美枝子,佐瀬幹哉,形容詞による 花き印象評価構造の検討,感性工学研究論文集 Vol.3 No.2, p23-30,2003 14) 伊藤恵士,桐谷佳恵,小原康裕,玉垣庸一,宮崎紀郎,日本酒 パッケージングがユーザーに与える印象,日本デザイン学会研究論文集 Vol.54,No.2,p19-26,2007
15) 小島輝之,山本康高,吉川大弘,古橋武,SD評点の相関に基づい た被験者間の印象語関係の可視化,日本感性工学会研究論文集 Vol.7, No1,p63-70,2007
16) http://www.g-mark.org/index.html,日本産業デザイン振興会HPより 17) デザイン賞は,欧州をはじめ,アメリカ,カナダ,オーストラリアなどの他,
近年では韓国,台湾,シンガポールなどでも開催が活発になっている。こ のうち,欧州での開催は特に活発でその数は,一時,主要 12 カ国で 112 賞存在している(European Design Guide, 1994)。また,欧州ではわが国 のグッドデザイン賞の発足と時期の同じ 1950 年代に創設された世界でも 広く認知されているデザイン賞が多く存在する。したがって,欧州の主要 国といえる,イタリア,ドイツ,フランス,イギリス,デンマーク,スウェー デン,ノルウェーにおけるデザイン賞について書籍とウェブサイトから調 査を実施した。出典は,以下のとおり。『QB(クオリティ・ブリテン)
2003 英国デザインを語ろう』英国大使館広報部,2003 年 /『2005 イタ リア・フェスティバル in 東京ドーム公式ガイドブック』読売新聞東京本社,
イタリア・フェスティバル事局,2005 年 /『イタリア・ミラノデザイン ゴールデン・コンパス賞 1954 − 1981』展覧会図録,イタリア文化会館,
1982 年 / 島崎信『デンマークデザインの国』学芸出版社,2003年 /Galleria del Design e dellʼ Arredamento Cantu, ʼdesign italiano Compasso dʼOro ADIʼ, 1998/ADI Assciazione per il Disegno Industriale, ʼCatalogue 20th ADI Compasso dʼOro Awardʼ,Milano 2004/APCI , ʻEuropean Design Guideʼ, Paris 1994,Reinhardt, Frank A,Wanninger, Claudia, ʻdie rote Linieʼ, Ludwigsburg, 2005/ 各種デザイン賞総覧(http://www.jidpo.or.jp/
worlddesign/,http://www.w-g-d.net/j/whatsnew/frame.html)/
工業デ ザイン協会(イタリア)(http://www.adi-design.org/)/ SMAU インダストリアルデザイン賞(イタリア)(http://www.smau.it/)/ 工業 デザイン振興会(フランス)(http://www.apci.asso.fr/)/ オブセルヴュー ル・ドゥ・デザイン賞(フランス)(http://www.japandesign.ne.jp/
HTM/REPORT/paris/29/index.html)/ ジャーマン・デザイン・カウンシル,
ドイツ連邦デザイン賞(http://www.german-design-council.de/)/
ノルトライン・ウェストファーレン・デザインセンター,レッドドット・
デザイン賞(http://www.red-dot.de/)/iF デザイン賞(http://www.
ifdesign.de/)/ フランクフルトメッセデザイン・プラス(http://ish.
messefrankfurt.com/frankfurt/de/)/ バーデン・ヴュルテンベルク州国 際デザイン賞(http://www.design-center.de)/ デザインカウンシル(イ ギリス)(http://www.designcouncil.org.uk/)/ イギリス通産省「イノベー ション・リポート」(http://www.dti.gov.uk/innovationreport/)/ ブリティッ シュ・デザイン・イニシアティブ(http://www.britishdesign.co.uk/)/
イギリス「デザイン・ディレクトリ」(http://www.designdirectory.org/)
/ デザイン・ビジネス・アソシエーション(イギリス)(http://www.dba.
org.uk/)/ デザイン・ミュージアム(イギリス)(http://www.
designmuseum.org/)/ R S A(http://www.rsa.org.uk/)/D&AD 賞(http://
www.dandad.org/about/)/ デザイン・イフェクティブネス賞(http://
www.dba.org.uk)/ ミレニアム・プロダクツ(http://www.designcouncil.
org.uk)/ 英国女王賞(http://www.queensawards.org.uk/)/ プリンス・フィ リップ・デザイナー賞(http://www.designcouncil.org.uk)/ デンマーク・
デザインセンター,デンマーク・デザイン賞(http://www.ddc.dk/)/
INDEX: 賞(http://www.index2005.dk/about̲index/index̲html/view)/
スウェーデン・クラフツ&デザイン・ソサエティー,エクセレント・ス ウェーデン・デザイン賞(http://www.svenskform.se/)/ ノルウェイ・
デザインカウンシル(http://www.norskdesign.no/english/)/ デザイン・
エクセレンス賞(www.noskdesign.no)/ フィンランド・デザイナー協会 (http://open.ornamo.fi /)/ デザインフォーラム・フィンランド(http://
www.designforum.fi /)
18) 森田昌嗣 , 曽我部春香 , 石橋伸介 , 池田美奈子 , 評価者間の評価のズレに着 目したデザイン評価・診断システムのあり方 , 日本デザイン学会研究論文 集 ,(公表予定)