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完全大血管転位症根治術後に長時間の(384時間)

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日本小児循環器学会雑誌 14巻5号 663〜668頁(1998年)

完全大血管転位症根治術後に長時間の(384時間)

VA−ECMOを施行し生存した1例

(平成10年8月27口受付)

(平成10年10月21日受理)

東京都立清瀬小児病院心臓血管外科,同 循環器科*

鈴木 孝明  福田 豊紀  加島 一郎 佐藤 正昭* 村井 孝安*

key words:ECMO, LV wall stress,サーファクタント, lung rest

      要  旨

 完全大血管転位,心室中隔欠損,肺高血圧の5カ月女児に対し動脈スイッチ手術と心室中隔欠損閉鎖

術を施行した.術後に肺動脈圧の上昇と著しいAaDO,の離開を認めVA−ECMOを開始した.開始直後

からの両側肺の著明な含気量の低下を認めたため,サーファクタントの気管内投与を行った.NOガス吸

入併用下に384時間後にECMOから離脱した.離脱後の肺機能は順調に回復したが,重症LOSがその後 約2週間持続し,術後6カ月で退院となった.本症例の経験から以下のことが示唆された.1)ECMO中

は高めのAirway pressureで管理すべきと思われた.2)サーファクタントの気管内投与は,効果は一時

的であるが肺機能回復への契機となりうる.3)右心補助と肺の安静を目的としてVA−ECMOを採用し

たが,肺機能の回復の遅れから長時間にわたって左室の後負荷とwall stressの増大をしいることにな

り,左心機能の低下を招いたと考えられた.

         はじめに

 小児における膜型人工肺による呼吸補助(extracor・

poreal membrane oxygenation, ECMO)は,近年最 も進歩した治療手段の一つである.しかし,アンケー

ト調査結果によると本邦における小児の救命率は 35.6%と未だに低く,心補助,心肺補助を目的とした 症例と運転時間が長時間におよんだ症例において救命 率が著しく低いことが示唆されてきた1).今回われわ れは心肺補助を目的として384時間に及ぶ長期ECMO 施行後に救命できた症例を経験したので報告する.な お384時間は本邦における最長運転救命例と思われる.

         症  例  症例:5カ月,女児.

 主訴:チアノーゼ.

 既往歴,家族歴:特記すべきことなし.

別刷請求先:(〒204−8567)東京都清瀬市梅園1 3       1

     東京都立清瀬小児病院心臓血管外科        鈴木 孝明

 現病歴:4カ月検診にてチアノーゼ,多呼吸,体重 増加不良を指摘され,当院小児科を紹介され入院した.

 入院時現症:身長63cm,体重5,700g,脈拍120/分,

呼吸数60/分.全身にチアノーゼを認め,経皮的酸素飽 和度は80%であった.

 胸部X線写真(CXP):心胸郭比は64%で両側肺血 流の増大を認めた.

 超音波断層心エコー:心室中隔膜様部付近に径6 mmの欠損孔を認めた.大動脈は右前方に位置し,右 室より大動脈が,左室より肺動脈が起始しており,完 全大血管転位症と診断された.

 心臓カテーテル検査(Table I):肺体血流量比3.1,

肺体血圧比0.78,肺体血管抵抗比0.34で高肺血流と肺 高血圧を示した.バルーン閉塞による大動脈起始部造 影では,冠状動脈の走行はShaher分類1型であった.

 動脈スイッチ手術の適応と判断し入院後19日目に手 術を施行した.

 手術所見:中等度低体温体外循環下に手術を行い,

VSDはパッチ閉鎖した.Trap door法による冠状動脈

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664−(72)

移植後,Lecompte法による大血管の再建を行った.大 動脈遮断時間は140分,体外循環時間は260分であった.

 術後経過(Fig.1):術直後よりAaDO2が600〜620 torrと離開したが低心拍出量症候群(LOS)の改善と

ともに500torr前後まで改善した.第2病口に肺動脈 圧の上昇(Pp/Ps O.6)とともに再びAaDO2が離開し

たため,NOガス吸入を開始した.5〜10ppmのNO

ガス投与により肺動脈圧は低下しAaDO2も改善した

が効果は一時的で,第5病日にはCXP上RDS様の陰

影が出現し(Fig.2),再び肺動脈圧の上昇とAaDO、

600torr以上の離開を示した.肺高血圧症例に合併す る体外循環後肺障害で,人工呼吸管理の限界であるこ とからECMOの適応と判断した.術後早期で血行動 態的に不安定であり肺高血圧(PH)を伴うため,補助 循環効果,特に右心補助も期待してVA−ECMOとし

た.

Table I心臓カテーテル検査所見

部位 圧(mmHg) 酸素飽和度(%)

SVC

8/4(5) 60

IVC 9/6(6) 64

RA

10/5(6) 61

RV

66/EDP10、2 86

PA

52/24(39) 90

LA

66/EDPI6 97

Ao 67/48(57) 83

Qp/Qs=3.1 Pp/Ps=0.78 Rp/Rs=0.34 SVC:ヒ大静脈, IVC:下大静脈, RA:右房, RV:右室 PA:肺動脈, LV:左室, Ao:大動脈

日小循誌 14(5),1998  右総頸動脈と内頸静脈より各々送脱血カニューレを 挿入し,人工肺はクラレ製MENOX EL2000,回路お

よびローラーポンプはクラレ製ECMO装置KM−7800 を使用した.ECMO開始と同時にNOガス投与は中止 した.送血量は100〜110ml/kg/min(550〜600ml/

min)を維持し,人工呼吸器の条件はECMO開始前の FiO2:1.0, PIP:26cmH20, PEEP:8cmH,O,

IMV:32/minからFiO2:0.3, PIP:20cmH20,

PEEP:6cmH,O, IMV:10/minへ変更した. ECMO 開始後1日目のCXPにて両側肺野の透過性が著しく 低下し(Fig.3),その後も同様所見が持続したため サーファクタントの気管内投与を行ったところ含気量 の増加が得られた.肺機能が回復したものと判断し

ECMO開始後6日目に離脱を試みた.しかしAaDO、

は620torrに離開し,コンプライアンスも不良で

hypercapneaとなり肺動脈圧の上昇を示したため,離 脱を断念しECMOを続行した. ECMO開始後10日目 より再度離脱を開始した.今同はNOガス吸入を併用 し,左房圧カテーテルより適宜採血をして左房血の酸 素飽和度を調べ,95%以上を保つようにFiO2, PIP,

PEEP, IMVを徐々に増やしっっ送血量を減らし,離 脱のタイミングの指標とすることで開始後384時間で 離脱に成功した.離脱後,肺機能は肺動脈圧の低下と 共に順調に改善したが,心機能はECMO開始前より も低下し,大量のカテコラミンを必要とする重症LOS が約2週間持続した.ECMO離脱後52日目には人工呼 吸器からも離脱し,術後6カ月で退院となり,現在特 に合併症もなく元気に外来に通院中である.

{㌫)

Pa罵、.;:;

{mmH9)

BP PAP

{mmHg)

昌 一8

留:つ::::=ここ(で

    1.5ADR

(μgtkgfmin) 0.5

ECMO

(mlikg/mim)

POD  O  2   5 8 11   15 17   20 40

      Fig.1術後経過

NO:NOガス吸入濃度, BP:収縮期血圧, PAP:収縮期肺動脈圧, PaO、:動脈血中 酸素分圧,FiO,:吸入酸素濃度, ADR:アドレナリン持続静注量, ECMO:ECMO流 量,POD:術後病日

(3)

平成10年10月1日 665−(73)

a

遼ぐバ織議灘

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Fig.2ECMO開始時の胸部レントゲン写真

a:術後3日目.b:術後5日目. AaDO,の離開と肺動脈圧の上昇とともに,両側肺野 にRDS様の陰影が出現した.人工呼吸器管理の限界であり, ECMOを開始した.

       Fig.3 ECMO運転中の胸部レントゲン写真

a:術後6日目,ECMO開始後1日目.両側肺野の透過性が著しく減少し,いわゆるwhiteoutの状 態となった.b:術後9日目, ECMO開始後4日目. whiteoutの状態が持続したためサーファクタ ントの気管内投与を行ったところ含気量の増加が認められ,肺機能の回復への契機となった.c:術 後20日目,ECMO開始後15H目.両側肺の含気量は回復し,肺機能も改善したためECMOから離脱

した.

 ECMO期間は血小板を70,000/μ1以上に保つよう 濃厚血小板を適宜輸注し,合計20単位使用した.人工 肺および回路交換時の充填には新鮮血を用いた.抗凝 固療法にヘパリン25単位/kg/hr,メシル酸ナファモス タット(フサン)0.5mg/kg/hrを持続静注し,患者の 動脈血ACTを200〜250秒に保つように投与量を調節

した.ECMO中の水分調節は,尿量が不十分であった ために,腹膜透析により行った.また鎮静は塩酸モル ヒネと臭化ベクロニウムの持続静注にて行った.回路 と人工肺の交換は開始後6日目の離脱を試みた際に1 回行ったが,その後は交換せずに10日間連続で運転し

た.この間に人工肺の酸素化能の低下は認められな

かった.

      考  察

 小児における膜型人工肺による呼吸補助(extracor・

poreal membrane oxygenation, ECMO)は,近年最 も進歩した治療手段の一つである.膜型人工肺はガス 交換能や圧損失,充填量,耐久性などに改良が加えら れ,長時間の連続使用が安全に行われるようになって きている.しかし,アンケート調査結果によると本邦 における小児の救命率は35.6%と未だに低く,肺機能 補助を目的とした症例に比して心機能補助,心肺機能

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666−(74)

補助を目的とした症例の比率が高いことが原因の一つ となっている.また運転時間が延長するほど救命率が 低下し,169時間以上では僅かに8.7%であった1).今回 われわれは心肺補助を目的とした384時間という長期 運転後に救命できた症例を経験したが,以下にその経 過を検討し考察を加えた.

 適応は,最大限の内科的治療に反応しない重症呼吸 不全,心不全で,病態が可逆的である場合に限られる.

610以上のAaDO2が8時間以上続くと死亡率が79%

以上になるという報告があることから2),630以上の AaDO2が2時間以上続いた場合,620以上のAaDO2が

8時間以上続いた場合等とする適応基準がある3).し かし,実際にはわれわれの症例のように心機能の低下 を伴っている例が少なくなく,血行動態が悪化する前 に開始すべきと思われる.われわれの症例では術前よ り肺高血圧を合併した先天性心疾患に体外循環後の肺 機能障害を併発し,600以上のAaDO2が持続するとと

もに肺動脈圧が上昇してLOSに陥っていたため,

ECMOの適応と判断した.

 ECMOの目的は,肺あるいは心肺の負担を軽減する ことでその機能の回復を図る事である.肺に関しては,

病的肺を安静化することが病変の治療に必要である場 合に適応となり,いわゆるlung restの状態が必要とな る.lung restの基準としてBartlettら4)のFiO2=O.3,

IMV=10/min, Airway pressure=20/4cmH20が一 般的であるが,Keszlerら5)は8〜14cmH20という高 いPEEPで管理したほうがCXP上の含気量の低下,

いわゆるwhiteout, opacificationを軽減し,回復を早 めることができると報告している.今回の症例ではほ ぼBartlettらの基準で管理したところ,著しい含気量 の低下きたし,その回復に時間を要したことが長時間 ECMOを必要とした一因と考えられる.このwhite−

out, opacificationはコンプライアンスの低下した肺 にECMOを開始しAirway pressureを下げると,肺 胞が虚脱して肺胞内に間質より浸出液が移行すること

により生じるとされており,肺障害の重症度を反映す るとされている6).高めのAirway pressureで管理す べきと思われるが,高気道内圧による損傷等の問題点 もあり,今後さらに検討されるべきと考えられる.本 症例におけるサーファクタントの気管内投与は効果は 一時的であるが,回復への契機を作ることができたと 思われる.

 心臓外科手術後の循環補助としてVA−ECMOの有 用性が報告されているが,肺機能補助の場合に比して

日本小児循環器学会雑誌 第14巻 第5号

救命率は35〜61%と低い7)〜9).流量を増やすことによ り両心室の前負荷を軽減して心機能の回復を得ること が目的であるが,VA−ECMOでは酸素飽和度の低い血 液が冠動脈に流入し心筋虚血を起こす危険性がある.

従って安易なlung restは危険であり,左房内血液の酸 素飽和度をモニターして管理すべきとの報告もあ る °).本症例では左房内血液の酸素飽和度を95%以上 に保つようにしたにもかかわらず離脱時に大量のカテ コラミンを必要とし,その後重症のLOSが約2週間 続いた.VA−ECMOは左室の後負荷を増大し,左室の wall stressを増加するとの報告があり11}, Martinら

はwall stressの増加は心筋の酸素消費量を増加し,左 心機能が著しく低下するいわゆるventricular stunと なる場合があるため,可能な限り離脱は急ぐべきと報 告している.本症例は右心補助と肺の負担を軽減する 目的で,VA−ECMOを採用したが,肺機能の回復の遅 れから長期の運転時間となり,結果として左心機能の 低下を招いたと考えられた.

 長時間にわたるECMOでは人工肺の交換が必要と なる.291時間の連続運転の報告も有るが人工肺の寿命 を予測する良い指標がないのが現状である13).血漿漏 出は,我々の使用した緻密膜中空糸外部灌流式人工肺 では起こしにくいとされているがその予測は困難であ ることから,我々は7日間,168時間を目安とし,酸素 化能が低下した場合はより短時間でも交換するように している.今回の症例では離脱を試みた6日目に交換 後,連続10日間運転したが,酸素化能の低下は認めな かった.またECMOが長期化すると出血や溶血, SIRS 等の合併症の可能性が高まることも指摘されている.

今後は血液適合性に優れた人工肺および回路のコー ティング法やNO gasの回路内投与14},低流量を可能 とする遠心ポンプの開発等が期待されるところであ

る.

 本症例がECMOを必要とした病態は術後の肺機能 障害であった.近年,手術術式および体外循環装置の 進歩により新生児,乳児の開心術成績は向上してきた が,体外循環後の肺機能障害は今だに主要な合併症の 1つであり,特に肺高血圧を伴う症例においては予後 を左右する重要な因子となっている15).この肺機能障 害の原因については不明な点が多いが,体外循環にお いて血液が非生理的環境下を灌流することにより補体 の活1生化,各種サイトカインの分泌,接着分子の活性 化といった全身性の炎症反応が起こり,これが誘因と なって活性化された好中球が肺に集積し,血管内皮を

(5)

平成10年10月/日

障害して起こるとされている16).また体外循環中の肺 の虚血再灌流が誘因とも疑われている17).特に高肺血 管抵抗の症例では血管内皮に形態的変化が認めら れ15),体外循環後の肺機能障害を合併することが多く,

重篤化するとされている17)18).本症例は乳児期中期の 心室中隔欠損を伴う完全大血管転位症で,肺体血管抵 抗比0.34と高肺血管抵抗の症例であり,術後肺機能障 害が重篤化し,肺動脈圧の上昇も招いたと考えられた.

       結  語

 1.5カ月女児の完全大血管転位症根治術後に,384

時間におよぶ長時間ECMOを施行し生存した1例を

報告した.

 2.本症例の経験から以下のことが示唆された.

 1)ECMO中は高めのAirway pressureで管理すべ

きと思われた.

 2)サーファクタントの気管内投与は,効果は一時的 であるが回復への契機を作ることができる.

 3)右心補助と肺の安静を目的としてVA−ECMO

を採用したが,肺機能の回復の遅れから長時間となり,

左室の後負荷とwall stressの増大により左心機i能の 低下を招いたと考えられた.

       文  献

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Successful Veno−Arterial Extracorporeal Membrane Oxygenation Support for        384Hours Following Arterial Switch Operation

Takaaki Suzuki, Toyoki Fukuda, Ichiro Kasima, Masaaki Sato*

      and Takayasu Murai*

    Divisiorl of Cardiovascular Surgery, Division of Cardiology*,

      Tokyo Metropolitan Children s Hospital

   Afive months old female infant with transposition of the great arteries, ventricular septal defect(VSD), and pulmonary hypertension(Pp/Ps O.78)underwent a successful arterial switch operation along with patch closure of VSD. Progressive deterioration of the lung function ensued after surgery with the consequence that she required extracorporeal membrane oxygenation

(ECMO)support on postoperative day(POD)5. During the early period of ECMO support, her respiratory conditions were maintained at airway pressure of 20/6 cmH20, respiratory rate of 10 breath/min, and inspiratory oxygen fraction(FiO2)of O.3. Despite these meticulous manage−

ment, the chest roentgenogram on 6 POD revealed extensive opacification of both lung fields.

Surfactant therapy performed on 8 POD and conversion to a higher endexpiratory pressure(20/

10cmH20)were effective to regenerate the lung function and she was weaned from ECMO support 384 hours after its commencement. Although profound low cardiac output ensued thereafter, she made a progressive recovery and was discharged on l90 POD. This experience draws us to the following conclusion. Surfactant therapy is an effective therapeutic mean to improve aeration of the lung during lung rest . Since long term veno−arterial ECMO support may augment both after load and wall stress of the left ventricle, vigorous effort towards the accomplishment of early weaning is mandatory.

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