• 検索結果がありません。

腫瘍内

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2022

シェア "腫瘍内"

Copied!
77
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

腫瘍内 18 F-fluorodeoxyglucose 最大取込み細胞の

細胞生物学的特性に関する研究

2021 年 9 月

岡山大学大学院 環境生命科学研究科

杉田 幸

(2)

目次

1. 略語一覧 ... 4

2. 要約 ... 6

3. 序論 ... 9

3.1 がん医療の課題 ... 9

3.2 がんの糖代謝 ... 10

3.3 糖代謝阻害剤の開発と癌微小環境 ... 11

3.4 18F-FDG-PET SUVmaxとがんの悪性度 ... 12

3.5 低酸素癌微小環境の糖代謝 ... 14

3.6 reverse Warburg Effect ... 15

3.7 上皮間葉転換とTGF-β及びHIF-1によるS100A4発現 ... 16

3.8 S100A4発現又はEMTと18F-FDG-PET SUVmax ... 18

3.9 腫瘍内で高い糖要求度を示す細胞の生物学的特徴に関する仮説 ... 19

3.10 癌微小環境と糖代謝の関係を探索するための技術的課題 ... 19

3.11 本研究の目的 ... 20

4. 18FのMARGの定量性検討 ... 30

4.1 緒言 ... 30

4.2 材料及び方法 ... 31

4.2.1 乳剤コーティングスライドの作製 ... 31

4.2.2 18F-FDG製造の概要 ... 31

4.2.3 MARG ... 31

4.2.4 グレイン測定 ... 32

4.2.5 統計解析 ... 32

4.2.6 結果と考察 ... 32

5. がん研究に使用するモデル動物の妥当性評価 ... 34

5.1 緒言 ... 34

5.2 材料及び方法 ... 34

5.2.1 A-431細胞 ... 34

5.2.2 A-431担癌マウスの作製 ... 35

(3)

5.2.3 A-431担癌マウスにおける18F-FDG-PETイメージングによる観察 ... 35

5.2.4 A-431 担癌マウスにおけるマクロオートラジオグラフィー及び MARG による観 察 ... 36

5.3 結果と考察 ... 37

6. 腫瘍内18F-FDG 最大取込み細胞の細胞生物学的特徴探索 ... 40

6.1 緒言 ... 40

6.1.1 腫瘍内18F-FDG集積への細胞分裂の関与 ... 40

6.1.2 腫瘍内18F-FDG集積への低酸素の関与 ... 40

6.1.3 腫瘍内18F-FDG集積へのグルコーストランスポーターの関与 ... 41

6.1.4 腫瘍内18F-FDG集積へのCAFsの関与 ... 41

6.1.5 腫瘍内18F-FDG集積へのEMTを生じた癌細胞の関与 ... 42

6.2 材料及び方法 ... 42

6.2.1 MARG-cIHC ... 42

6.2.2 グレイン測定 ... 44

6.2.3 統計解析 ... 45

6.3 結果と考察 ... 45

6.3.1 Ki-67陽性領域と18F-FDG分布 ... 45

6.3.2 低酸素領域と18F-FDG分布 ... 48

6.3.3 GLUT1陽性領域と18F-FDG分布 ... 50

6.3.4 CAFsと18F-FDG分布 ... 52

6.3.5 EMTを生じた癌細胞と18F-FDG分布 ... 55

7. 総括 ... 63

8. 謝辞 ... 66

9. 参考文献 ... 67

(4)

1. 略語一覧

18F-FDG-PET:18F-fluorodeoxyglucose-Positron Emission Tomography

18F-FMISO:18F-Fluoromisonidazole 5-FU:5-Fluorouracil

ARG:オートラジオグラフィー ATP:Adenosine Triphosphate BMP:Bone Morphogenetic Protein CAFs:Cancer Associated Fibroblasts CDK:Cyclin-Dependent Kinase CT:Computed Tomography

EMT:Epithelial-Mesenchymal Transition FAP:Fibroblast-activated protein

GLUT:グルコーストランスポーター HDAC:Histone deacetylase

HER2:Human Epidermal growth factor Receptor 2 HIF-1:Hypoxia-Inducible Factor 1

HRE:Hypoxia Response Element LDHA:乳酸デヒドロゲナーゼA

MARG:マイクロオートラジオグラフィー

MARG-cIHC:MARG-combined with Immunohistochemistry MCT:Mono-Carboxylate Transporters

MRI:Magnetic Resonance Imaging mTOR:mammalian Target of Rapamycin

PARP:Poly Adenosine Diphosphate Ribose Polymerase PBS:Phosphate Buffered Saline

PDH:ピルビン酸脱水素酵素

PDK1:ピルビン酸脱水素酵素キナーゼ1 PHDs:HIF-プロリン水酸化酵素

(5)

PSG:Proliferation Specific Glycolysis ROS:Reactive Oxygen Species rWBE:reverse Warburg Effect S100:S100 Calcium Binding Protein

SPECT:Single Photon Emission Computed Tomography SPF:Specific Pathogen Free

SUV:Standardized Uptake Value SUVmax:maximum SUV

SUVmean:mean SUV

TGF:Transforming Growth Factor TS:Thymidylate Synthase

VHL:von Hippel Lindau WBE:Warburg Effect

WHO:World Health Organization α-SMA:alpha Smooth Muscle Actin

(6)

2. 要約

癌は免疫細胞、繊維芽細胞、血管内皮細胞といった正常細胞の浸潤を受けており、

浸潤した細胞そのものや新生血管に代表される浸潤細胞が形作る構造と相互作用す る。その結果、癌内部には癌微小環境と呼ばれる多様なセグメントが構築される。糖 代謝亢進は多くの癌に共通する特徴の一つである。18F-fluorodeoxyglucose-positron emission tomography (18F-FDG-PET) は、全身の糖代謝を非侵襲的に可視化する検査方 法で、癌の診断、ステージ評価及び治療効果判定に利用されている。18F-FDG-PETで 描出される腫瘍内の糖代謝は、一様ではなく、糖要求度が高い細胞と低い細胞の存在 が示唆される。腫瘍内の最も高い18F-FDG取込みを示すmaximum Standardized Uptake

Value (SUVmax) は、複数の癌において予後不良と相関する。これらのことから、腫瘍

内で高い糖要求度を持つ細胞の生物学的特徴を特定することは、癌の新規治療標的探 索において非常に重要である。これまでの報告から、癌微小環境の一つである低酸素 環境下において、癌関連線維芽細胞 (CAF: Cancer-Associated Fibroblasts) 又は上皮間 葉転換 (EMT: Epithelial-Mesenchymal Transition) を生じた癌細胞は、高い18F-FDG 取 込みの担い手であるとの仮説があるものの、未だ特定に至っていない。CAFは正常繊 維芽細胞が癌細胞内に浸潤し、癌の増悪に関与するような性質を獲得したものだと考 えられている一方、上皮間葉転換は上皮系癌細胞が何らかの微小環境下において間葉 系の性質を獲得することで癌の悪性化に関与すると考えられている。したがって、

CAF は正常細胞に由来し、EMT は癌細胞に由来すると考えられる。このように、複 数の癌微小環境が癌の予後と相関することから、筆者らは、18F-FDG-PETで描出され る腫瘍内の糖代謝の不均一性と癌微小環境との関係に着目した。本申請研究で採用し

18F-FDG をはじめとするポジトロン核種標識化合物を用いたマイクロオートラジ

オグラフィー (MARG: MicroAutoradiography) は世界的にみてもほとんど実施されて いない。また、通常の MARG は薄切切片に乳剤を塗布することから、免疫組織染色 との併用が困難である。そこで本研究は、蛍光多重免疫組織染色と顕微鏡レベルの空 間分解能を持つ MARG を定量的に施し、複数の分子マーカー発現、癌微小環境及び

腫瘍内 18F-FDG 分布を同一切片上で同時可視化できるように大和らにより改良され

たMARGの方法 (MARG-cIHC: MARG-combined with Immunohistochemistry)を更に改

(7)

良することにより、ヒト扁平上皮癌を皮下移植した担癌マウスの腫瘍における 18F- FDG 最大取込み細胞の細胞生物学的特徴を探索することを目的として行った。

実験は、皮下移植レシピエントに由来するマウス正常細胞と移植癌細胞に由来する 細胞を識別するための異種移植モデルとして、EGFR強発現細胞株であるヒト扁平上

皮癌由来A-431 細胞を皮下移植したC.B-17/Icr-scid/scidマウスを用いた。これらマウ

スは 18F-FDG 単独又は 18F-FDG と低酸素マーカーである Pimonidazole の混合溶液を

覚醒下微静脈内投与し、45 分間のフリームービング後、麻酔下で PET 又は放血安楽 死処置された。腫瘍と周辺の皮膚組織は、マウスの安楽死処置後摘出され、薄切切片 を作製した。作製された薄切切片は、乳剤を塗布したスライドガラスに圧着しMARG に供した。MARGとは、放射性同位元素標識体を投与した動物組織の薄切切片に塩化 銀を含む乳剤を塗布し、一定時間後に現像することで、切片上に存在する放射性シグ ナルを銀粒子の密度により視覚化する手法で、放射性同位元素標識化合物の分布研究 に広く用いられている。ポジトロン核種のMARG定量性を確認するため、18F-FDG溶 液の凍結切片も同時に作製し、乳剤に塗布したスライドガラスに圧着し、現像処理を 行った。腫瘍薄切切片は、現像処理後、Pimonidazole(低酸素マーカー)、CD31(血管 内皮マーカー)、Vimentin(間葉系細胞マーカー)、EGFR(A-431細胞マーカー)、HER2

(A-431 細胞マーカー)、マウスS100A4及びヒト S100A4(間葉系細胞マーカー)に

対する抗体を用いて蛍光免疫組織染色を施した。試験に用いた動物は一次抗体の組み 合わせあたり3例とした。顕微鏡を用いて、これら切片の同一視野の明視野写真、蛍 光写真又は暗視野写真を撮影した。撮影した写真の各抗体陽性領域における銀粒子の 数を測定した。測定には画像解析ソフトウェアを用いた。

A-431 を皮下移植したC.B-17/Icr-scid/scidマウスの18F-FDG-PET において、不均一

な腫瘍内 18F-FDG 分布は、臨床像と同様に認められた。18F-FDG 溶液の MARG はお

よそ 5 MBq/g まで定量性を示した。蛍光免疫組織染色-マイクロオートラジオグラフ

ィー同時検出において、銀粒子の集積は Pimonidazole 陽性領域で高度に認められた。

Pimonidazole 陽性領域へのCD31 陽性細胞の浸潤は少なかった。これらのことから、

18F-FDGは血流不良によって低酸素となった領域へ集積することが示唆された。銀粒

子の密度はVimentin陽性領域に比べてPimonidazole陽性領域で有意に高く、正常酸素 濃度環境にある間葉系細胞よりも低酸素環境にある細胞への 18F-FDG 集積が示唆さ

(8)

れた。さらに、銀粒子の密度はEGFR陰性領域に比べEGFR 陽性領域で高く、EGFR

陽性且つPimonidazole陽性領域で有意に高かった。これらのことから、18F-FDGは低

酸素環境にある癌細胞へ集積することが示唆された。Pimonidazole 陽性領域について

ヒト S100A4 陰性領域とヒトS100A4 陽性領域の銀粒子密度を比較したところ、ヒト

S100A4 陰性領域に比べヒト S100A4 陽性領域で有意に銀粒子密度が高かった。この

ことから、A-431 移植を皮下移植した C.B-17/Icr-scid/scidマウス腫瘍内の 18F-FDG 最 大取込み細胞の生物学的特徴は、低酸素環境下のEMT を生じたA-431由来癌細胞で あると考えられた。

(9)

3. 序論

3.1 がん医療の課題

がんは本邦における死因順位第一の疾患で、死因の 30.1%を占める 1)。なお、本論 文では、悪性腫瘍すべてを「がん」と表記し、悪性腫瘍のうち上皮細胞に由来するも のを「癌」と記載する。がんの克服は間違いなく日本の保健課題の一つであり、これ までの膨大な医学・生命科学研究を通じてがんを克服するための様々なアプローチが 開発されてきた。世界保健機関(WHO:World Health Organization)は日本を含む高所 得国の成人(30~69才)の非感染性疾患による致死率が、2015年のおよそ7%から、

2030 年にはおよそ5%まで低下すると予測している 3)。世界の成人の非感染性疾患に よる死亡のうち、およそ30%ががんによる死亡であることを鑑みると、このWHOに よる非感染性疾患による致死率低下予測は、がん克服に向けた様々な研究が着実な成 果となって表れていることを意味している。しかしながら、人類は未だがんを完全に は克服できていないことから、今後、これまでの知見に基づいた更なる研究の進展が 求められる。世界においてもがんは主要死因を占める疾患で、2018年のがんによる死 者数は世界で年間およそ 960 万人と推計される 1)3)。がんの罹患率は母集団の年齢と 相関するが、世界人口の急速な高齢化を受けて、世界のがん罹患者数も急速に増加し ている。WHO は世界のがん罹患者数は 2018 年のおよそ 1800 万人から 2040 年には 2940 万人にまで増加すると予測しており、世界においてもがんは大きな保健課題の 一つになりつつある3)。しかしながら、世界のがんの課題を日本の課題と同じように 語ることはできない。なぜなら、低所得国においては、2030年における成人の非感染 性疾患による致死率が7%前後と予測されており、2030年における高所得国の成人の 非感染性疾患致死率予測である5%よりも高いからである(図 1)。このような予測結 果の背景として、経済格差による医療アクセスへの不平等の存在が示唆されている。

つまり、低所得国居住者は、高所得国居住者に比べて適切な医療を受ける機会が少な く、おなじ疾病であっても死に至る確率が高いということである。そこで筆者は、今 後のがん研究には、がんの克服と医療アクセスへの不平等解消という2方向の課題解 決が必要であると考えた。

がんの治療法は局所療法と全身療法の大きく2種類に大別される。局所療法は手術

(10)

療法と放射線療法からなり、全身療法は抗がん剤などの薬物療法と免疫療法からなる。

但し一部の免疫療法は薬物療法に含まれる(図 2)。医療費の概要として、手術療法は およそ 100 万円/回、放射線療法はおよそ 50 万円/クール、抗がん剤治療はおよそ 30 万円/年、薬物による免疫療法はおよそ15万円/月である4)5)。医療経済を考慮すると、

がん治療法は低分子医薬品による薬物療法が圧倒的に有利である。また、低分子医薬 品のがん治療は手術療法や放射線療法に比べて医療機関における設備コストがあま りかからないというメリットもある。したがって、低分子医薬品は他のがん医療に比 べて広く普及させることが可能で、医療アクセスの不平等を解消し得るものである。

これらの情報から筆者は、将来的にがんの克服と医療アクセスへの不平等解消という 2 方向の課題解決が可能な研究テーマとして、薬物療法又は将来的に薬物療法に応用 可能な生命科学研究が重要であると考えた。なお、先に述べた4つのがん治療法(手 術療法、放射線療法、化学療法及び免疫療法)は、がんの種類やステージに応じて組 み合わせて使用されたり、単独での使用に限定されたりするものであり、現在のがん の治療に最も有効な方法が選択されるべきであることを補足する。

3.2 がんの糖代謝

多くの癌に共通する特徴の一つとして、糖代謝における解糖・発酵経路の亢進が知 られている。糖代謝は、解糖系、ピルビン酸酸化、クエン酸回路、電子伝達系、発酵、

ペントースリン酸経路、脂肪酸合成及びβ酸化等からなり、その代謝産物及び反応経 路はヌクレオチド代謝、アミノ酸代謝、脂質代謝及びATP産生等と相互に交差する。

糖代謝におけるATP産生とは、グルコース分子が持つ686 kcal/molの自由エネルギー をアデノシン三リン酸(ATP:Adenosine Triphosphate)に変換することを意味し、細菌 から哺乳類まですべての細胞でよく保存されている。グルコースから ATP を産生す るには、解糖系、ピルビン酸酸化、クエン酸回路、電子伝達系及び発酵の5過程が重 要な働きを示す。酸素存在下では解糖系、ピルビン酸酸化、クエン酸回路、電子伝達 系の順に進行し、グルコース1分子からATPを36分子得る。酸素非存在下では、解 糖系、発酵の順に進行し、グルコース1分子からATPを2分子得る(図 3)7)。ワー ルブルグらは、がん細胞は生理的な酸素存在下であっても解糖系の次にピルビン酸酸 化を行わず、発酵を行っている可能性を示唆した 8)。この現象を Warburg Effect 又は

(11)

好気的解糖系と呼ぶ 89)。Warburg Effect仮説に従うと、がん細胞はグルコース1 分子 から最大36分子のATPを獲得できる環境下にありながら、グルコース1分子から最 大 2 分子の ATP のみを獲得するという、非効率的なエネルギー獲得様式を選択して いることになる。ワールブルグが好気的解糖系について最初に報告してから 90 年以 上が経過したが、がん細胞が酸素存在下で解糖後に発酵を行う機構は未だ解明されて いない。また、がん細胞がこのように非効率的なエネルギー獲得様式を選択する意義 も未だ明らかでなく、様々な議論が生まれている。一方、Warburg Effect 仮説に従え ば、がん細胞は大量の糖を消費する必要がある。ワールブルグらの報告において、が んを移植したラットの移植腫瘍から出た動脈の血液中グルコース濃度は大動脈弓の 血液中のグルコース濃度よりも低く、移植腫瘍から出た動脈の血液中乳酸濃度は大動 脈弓の血液中の乳酸濃度よりも高かった。この結果から、移植腫瘍が大量に糖を取り 込み、取り込んだ糖のほとんどを乳酸に変換した可能性を示している70)。このような 示唆に基づき、がんのイメージング技術として18F-fluorodeoxyglucose-Positron Emission Tomography(18F-FDG-PET、18F-FDG 陽電子放出断層撮影)が開発された。そして、

18F-FDG-PETによる生体がん糖代謝イメージングの成功によって、がんは周辺組織に

比べて多くの糖を取り込むことが明らかとなり、現象としてWarburg Effect の存在が 証明される形となった10)。なお、現在では細胞分裂中の正常細胞も生理的酸素存在下 で発酵によってエネルギーを得ていると考えられている11)12)。本論文では、細胞分裂 中に生じる生理的酸素条件下での糖代謝亢進をProliferation Specific Glycolysis(PSG)

と呼ぶ。

3.3 糖代謝阻害剤の開発と癌微小環境

がん薬物療法はがんの特徴を標的として設計されるものが多い。例えば、代謝拮抗

薬である5-Fluorouracil(5-FU)は、がん細胞の特徴である異常増殖を標的としている。

5-FU はウラシルの 5 位の水素を F に置換したアナログで、細胞内に取り込まれた後 代謝を受けて活性体となりThymidylate Synthase(TS)阻害を介してチミンの材料であ るdTMPを枯渇させDNA合成を阻害する13)。しかしながら、がんの特徴である糖代 謝を標的としたがん薬物療法は未だ上市されていない(図 2)。Amoedoらは、糖代謝 阻害剤の開発が成功しない要因のとして、薬効と全身毒性とのマージンが少ないこと

(12)

と、癌微小環境ごとの糖代謝を明らかにできていないことを挙げている72)

癌微小環境とは、癌内部に見られる癌細胞と宿主細胞が形作るネットワークをいう。

癌はその増殖過程で免疫細胞、線維芽細胞、血管内皮細胞といった正常細胞の浸潤を 受けており、内部は多様な細胞種で構築される94)。また、浸潤した細胞そのものや新 生血管に代表される浸潤細胞が形作る構造との相互作用を生じる。その結果、癌内部 には多様な状況にある小セグメントがモザイク状に構築される。さらに、これらの小 セグメントに、酸素濃度、pH、腫瘍内圧力などの物理的環境変化が加わり癌微小環境 を構成する。そして、細胞種と物理的環境が異なるそれぞれのセグメントごとに異な る糖代謝が営まれている。癌微小環境の構築には宿主の存在が必須であるため、研究

にはin vivoアプローチが必須である。したがって、in vivoにおける癌微小環境ごとの

糖代謝の測定を可能にする新技術の開発は、これまで成功していない糖代謝拮抗薬の 研究に応用可能であると考えられる。

3.4 18F-FDG-PET SUVmaxとがんの悪性度

PETとは、体外にリング状に配置した検出器を用いて、体内に投与された放射性同 位元素標識化合物の体内動態を非侵襲的に可視化するイメージング技術である。放射 性同位元素が放射線を出して科学的に異なる原子種になる過程を壊変といい、壊変の 際に出る放射線にはヘリウムの原子核であるα線、電子であるβ線、陽電子であるβ+

線及び電磁波の一種であるγ線がある。PETイメージングに使用する化合物の標識に は、陽電子(ポジトロン、Positron)を放出する放射性同位元素(陽電子放出核種)を 使用する。陽電子とは電子の反粒子であり、電子と全く等しい質量と電荷量を持ち、

正に荷電している。陽電子と電子が出会うと、それぞれの質量エネルギーは 180°対 向する二本のγ線(以下消滅γ線)に変換され、陽電子と電子は消滅する。消滅γ線

は511 kevという固有エネルギーを持つため、ほとんどの生体組織を透過する性質を

持つ。したがって、体内で消滅γ線が生じれば、体外に設置した検出器によってイベ ント発生頻度を検出することができる。このような陽電子の性質を利用することで、

陽電子放出核種で標識した化合物の体内動態を体外で検出することができる。検出し たデータは、陽電子が存在した部位の位置及び反応の発生頻度情報として取得され、

フーリエ変換を経て断層像として再構成することで、化合物の生体内分布を非侵襲的

(13)

且つ定量的に画像化することができる。陽電子放出核種である11C、18F、13N、15O等 は生体を構成したり有機化合物を構成する原子であることから、生体内の機能的反応 を捉えやすい。また、陽電子放出核種の半減期は2.04分~109.8分と短く、他の放射 性同位元素に比べ汚染管理が容易である 9)。このような特徴から、PET は Computed Tomography(CT)やMagnetic Resonance Imaging(MRI)などの非侵襲形態イメージン グとともに非侵襲的機能イメージングとして中枢やがんをはじめとする様々な分野 の臨床検査で活用されている。

18F-FDG はグルコースの 2-ヒドロキシル基を陽電子放出放射性同位元素である 18F

で置換した化合物で、臨床検査で最も汎用されるPETイメージング剤である。静脈内 に投与された18F-FDGはグルコースと同様に全身を循環し、グルコーストランスポー ター(GLUT)を介した受動輸送により細胞に取り込まれた後、ヘキソカイネースの リン酸化を受け 18F-FDG-6 リン酸となるが、その後は代謝を受けず細胞内に留まる

15)16)。したがって、組織内18F-FDG濃度は投与後一定時間に各組織に取に取り込まれ

た糖の総量、つまり糖要求度を代替する。このようなメカニズムで非侵襲的に腫瘍内 部の状態をモニターできる18F-FDG-PETは、今や癌の診断、ステージ評価及び治療効 果判定なくてはならない検査技術となっている。そして、18F-FDG-PETの普及に伴い、

膨大な臨床データが蓄積され、腫瘍の糖代謝について新たな知見が得られている。中 でも特筆すべきは、18F-FDGの腫瘍内分布は一様ではないという点である。CTやMRI といった形態イメージングでは均一な組織として画像化されていた癌内部が、18F-

FDG-PETによる機能イメージングでは、18F-FDGの集積が活発な部分とそうでない部

分が混在する組織として画像化された。

Standardized Uptake Value(SUV) は PET や Single Photon Emission Computed

Tomography(SPECT)などの核医学画像診断に用いられる放射性同位元素の集積レベ

ルを表す半定量的指標である。SUV は投与された放射能が被験者の体内に一様に分 布したと仮定した場合と比較して、注目する部位の放射能が何倍にあたるかを示すも ので、式(1)を用いて組織中放射能を投与放射能と被験者の体重で補正して算出され る:SUV = 組織放射能(Bq/g)/(投与放射能(Bq)/ 体重(g)) 式(1)。18F-FDG- PET診断においてもSUVが広く使用されている。がん18F-FDG-PETイメージングに よって得られた腫瘍内18F-FDGの不均一性は、腫瘍内にSUV高値を示す部分とSUV

(14)

低値を示す部分として表現される。腫瘍内のSUVの平均値はSUVmean、腫瘍内のSUV の最大値はSUVmaxと定義されている。腫瘍内のSUVと癌の予後等の関係はよく研究 されており、特に SUVmax と癌の悪性度や予後と正に相関することが既に明らかとな

っている18)-22)。なお、本論文では、癌の悪性度をがんの発育や増殖のスピード、周辺

臓器への浸潤能、転移の起こしやすさ及び治療抵抗性を加味した総合的ながんの性質 として述べる23)。例えば、限局型小細胞肺癌、腎細胞癌及び頭頚部扁平上皮癌では無 増悪生存期間及び5年生存率とSUVmaxが負の相関を持つと報告されている25)-48)(無 増悪生存期間とは、がん治療中又は治療後にがんが増悪しない期間をいい、5 年生存 期間とがん治療後 5 年間生存する人の割合をいう)。また、口腔上皮癌では転移及び 再発リスクと SUVmaxの相関が示されている21)。これらの研究結果から、癌内部には 糖要求度が高い細胞と低い細胞が混在し、糖要求度の高い細胞の糖取込みレベルと癌 の悪性度や予後の関係が強く示唆される。つまり、腫瘍内で高い糖要求度を示す細胞 の生物学的特徴の特定は、癌の悪性度に直結する細胞を標的とした新規の癌治療戦略 の構築に貢献すると考えられる。

3.5 低酸素癌微小環境の糖代謝

低酸素癌微小環境はがんの特徴の一つで、低酸素を生じたがんは化学療法抵抗性、

放射線治療抵抗性を示す。低酸素微小環境はがんの血管新生及び浸潤にも関与する24)。 癌細胞は無秩序に増殖するため、血管新生が追いつかずに血液の供給が滞り、低酸素 をきたしやすい。また、血液による酸素供給は血管からおよそ200~250 µmまで至る が、腫瘍内においてはその拡散範囲が正常組織よりも少ないため、低酸素に至るとす る仮説も存在する32)。低酸素環境に晒された癌細胞では、低酸素誘導性転写因子(HIF- 1:Hypoxia-Inducible Factor 1)を介した低酸素応答遺伝子の発現が誘導される。HIF-1 によって誘導される遺伝子発現のうち、癌の悪性度に関わるものとして、代謝関連因 子、血管新生関連因子、上皮間葉転換関連因子、細胞遊走及び浸潤関連因子、腫瘍内 アシドーシス関連因子及び炎症関連因子等が知られている 28)。HIF-1 は HIF-1α サブ ユニットと HIF-1β サブユニットからなるヘテロ二量体転写因子で、ほとんどの生物 に発現する低酸素応答機構である。生理的酸素下において、HIF-1αは、HIF-プロリン 水酸化酵素(PHDs)により恒常的にプロリル残基の水酸化を受け、続いてvon Hippel

(15)

Lindau(VHL)-E3 リガーゼによるユビキチン化を経てプロテアソームにおいて速や かに分解されている。低酸素下では、PHDsの活性が低下するため、HIF-1αはHIF-1β とヘテロ二量体を形成して核内に移行し、エンハンサー配列であるHypoxia Response

Element(HRE)に結合することでHRE制御下にある遺伝子群の発現を誘導する。HRE

制御下にある遺伝子群は低酸素環境への適応を担うものである28)。例えば、低酸素環 境では、少ない酸素消費量でエネルギーを獲得できるように細胞の解糖系亢進とクエ ン酸回路の抑制が起こる。解糖系亢進は、HRE制御下にあるホスホフルクトキナーゼ L、ヘキソキナーゼ、アルドラーゼA及び乳酸脱水素酵素Aなどの解糖系酵素の発現 亢進によってもたらされる。また、クエン酸回路の抑制は HRE 制御下にあるピルビ ン酸脱水素酵素キナーゼ1(PDK1)の発現亢進を介して、ピルビン酸脱水素酵素(PDH) を不活化し、ピルビン酸のアセチル CoA への変換を抑制することでもたらされる 33)

(図 4)。これらの知見から、腫瘍内低酸素環境が 18F-FDG-PET で観察される活性化 した糖取込みの担い手であることが示唆される。

3.6 reverse Warburg Effect

癌関連線維芽細胞(CAFs:Cancer Associated Fibroblasts)とは、ほとんどの癌におい て腫瘍内部に豊富に確認される線維芽細胞で、alpha Smooth Muscle Actin(α-SMA)、 S100 Calcium Binding Protein (S100)A4及びFibroblast-Activated Protein(FAP)とい った CAFs のマーカーを発現する。CAFs は機能的にも正常線維芽細胞とは異なって おり、癌細胞の浸潤能を高めるなどの癌の増悪に関与する性質を身に付けている 29)

Olumi らは、癌患者の腫瘍から採取したCAFs と不死化前立腺上皮細胞を混合すると

動物モデルで腫瘍が形成されるが、通常線維芽細胞と不死化前立腺上皮細胞を混合し ても腫瘍は形成されないことを明らかにしている30)。Transforming Growth Factor(TGF) -βは線維芽細胞の形質転換因子として発見され、その後、組織の線維化、細胞増殖抑 制、アポトーシス誘導、細胞分化、血管新生等多様な働きを持つ因子であることが明 らかとなった。TGF-β は、標的細胞の種類によって異なる役割を果たすが、例えば、

癌内部に浸潤した正常線維芽細胞を活性化し、CAFsへの分化を誘導する29)。Caveolin は細胞膜のフラスコ様凹構造カベオラ構成タンパク質で Caveolin-1、Caveolin-2、

Caveolin-3 が存在する。Caveolin-1は 2 タイプのTGF-β 受容体のうち、TGF-β typeⅠ

(16)

受容体のキナーゼ阻害作用を持つ 34)。Pavlides らは、臨床おいて、Caveolin-1 非発現 タイプの間質を持つ乳がんは予後不良であることから、Caveolin-1 ノックアウトマウ ス骨髄細胞を一定期間培養後にプロテオーム解析した結果、Caveolin-1 ノックアウト マウスの骨髄細胞では、野生型マウスに比べ線維芽細胞マーカーであるVimentin並び に解糖及び発酵関連タンパク質の発現が上昇していることを明らかにした。Pavlides らはこの結果から、reverse Warburg effect と呼ばれる新規癌糖代謝 2-コンパートメン トモデルを提唱した54)。このモデルは、癌細胞とCAFsの相互作用を仮定したモデル である。相互作用の起点は骨髄細胞や線維芽細胞といった宿主間葉系細胞の癌への浸 潤から始まる。なお、宿主間葉系細胞は血液を介して腫瘍内に入り込むため、浸潤場 所は血管に近く酸素は豊富である。浸潤した宿主間葉系細胞は腫瘍内に生じた活性酸 素種によりHIF-1発現が上昇し、Caveolin-1発現低下及びTGF-βの発現上昇が誘導さ れる。発現が上昇したTGF-βのオートクライン作用とCaveolin-1発現低下に伴うTGF-

β typeⅠ受容体のキナーゼ活性化により、TGF-β シグナルが増強する。結果、宿主間

葉系細胞はCAFsに形質転換する。形質転換した CAFsはHIF-1を介した糖代謝経路 変化を生じ、生理的酸素存在下であっても解糖及び発酵を優先して行い、代謝産物と して乳酸又はピルビン酸を産生する。CAFs は細胞膜上に発現した Mono-Carboxylate

Transporters(MCT)を介して乳酸及びピルビン酸を細胞外に放出する。癌細胞は細胞

膜上に発現したMCTを介してCAFsの代謝産物である乳酸及びピルビン酸を取込み、

クエン酸回路による酸化的リン酸化を介してエネルギーを得るというものである(図

5)40)-43)。なお、Pavlides らは Caveolin-1 ノックアウトマウスを用いた研究結果から

reverse Warburg effectモデルを仮定したが、その後の研究によって、癌細胞の代謝産物

である活性酸素種(ROS:Reactive Oxygen Species)が線維芽細胞のCaveolin-1発現低 下を誘導することが明らかとなっている95)。したがって、reverse Warburg Effectモデ ルは臨床においても起こり得る仮説として定着している。

3.7 上皮間葉転換とTGF-β及びHIF-1によるS100A4発現

上皮間葉転換(EMT:epithelial-mesenchymal transition)とは、上皮細胞が間葉系へ と分化していく過程であり、発生での形態形成プロセス、組織の再生・線維化及びが んの進行に関与している 39)。EMT を生じた癌細胞は、運動・浸潤能を獲得すること

(17)

で転移が可能となる。また、EMTを生じる過程でCAFsマーカーを発現する場合も多 い 42)。EMT を生じた癌細胞が CAFs マーカーを発現した場合の取り扱いについては 研究者に委ねられており、EMT を生じた癌細胞を CAFs とする文献もある。また、

EMT を生じた癌細胞のみならず、血管内皮細胞や脂肪細胞由来幹細胞が形質転換を 生じて CAFs マーカーを発現した場合もCAFs とする文献もある 29)。CAFs マーカー を発現する細胞を、その由来は問わずCAFs とする広義のCAFsと、正常線維芽細胞 に由来し、且つ CAFsマーカーを発現する細胞を CAFsとする狭義のCAFs が入り混 じって議論されている状況である。このような状況を受けて、2020 年、Sahaiらは、

CAFsに対する研究者の統一理解を進めるため、CAFsに関するフレームワークを提唱

した35)。Sahaiらは、このフレームワークの中で、CAFsを正常線維芽細胞に由来する

ものに限定している。筆者もこのフレームワークに則り、正常線維芽細胞に由来する ものを「CAFs」、癌細胞の EMT によって CAFs マーカー陽性を呈する細胞を「EMT を生じた癌細胞」と記載する。

TGF-βは、がんにおいても多様な作用を持つ。特に、初期の癌では細胞増殖を抑制

するが、進行したがんに対してはがんを悪化させるという TGF-β の 2 方向性が知ら れている。TGF-βが進行したがんを増悪する機構の一つとして、TGF-βによる癌細胞 の EMT 促進作用が知られている。TGF-β 受容体には TypeⅠと TypeⅡの 2 型が存在 し、TGF-β が細胞膜上の TGF-β TypeⅡ受容体に結合すると、TypeⅡ受容体 1 分子と

TypeⅠ受容体2分子がリクルートされ、ヘテロ4量体を形成する(リガンド-TGF-β)。

リガンドの結合によって活性化した TypeⅡ受容体が TypeⅠ受容体をリン酸化して活 性化する。活性化した TypeⅠ受容体は転写因子である Smad2/3 のカルボキシル基末 端SXSモチーフをリン酸化する。リン酸化Smad2/3は共役因子であるSmad4と複合 体を形成し、核内に移行し遺伝子プロモーターに結合することで、下流遺伝子の発現 制御を行う。また、リガンド-TGF-β受容体複合体は様々なたんぱく質と相互作用する ことで、Smad以外のシグナル経路を活性化する。例えば、リガンド-TGF-β受容体複 合体はBone Morphogenetic Protein(BMP)と相互作用し、MAPK経路及びPI3経路を 活性化する36)

S100A4はカルシウム結合タンパク質ファミリーに属する分子量約9000の酸性ポリ

ペプチドで、単層立方上皮であるラット乳腺癌細胞株に生じる筋上皮細胞様の細長い

(18)

細胞から産生される物質として知られている。S100A4 は他の S100 タンパク質と同 様、EF-ハンドモチーフをもち、カルシウムと結合すると立体構造変化を生じて標的 タンパク質と結合可能となる。S100A4 が結合する標的タンパク質は膨大にあり、未 だすべての機能は解明されていない。また、S100A4は他のCAFsマーカーと同様に、

CAFsマーカーとしての性質とEMTマーカーとしての性質を併せ持つ。

ほとんどのS100A4陽性間葉系細胞は骨髄細胞に由来する。したがって、非骨髄由 来細胞である線維芽細胞はS100A4を発現しない。ところが、腫瘍内線維芽細胞の一

部はS100A4を発現し、S1004を発現した線維芽細胞を持つ乳がんは肺転移を生じる。

このような背景から、S100A4 が CAFs マーカーとして認識されるようになった 37)

また、S100A4 は癌細胞の EMT を促進することでがんの転移を促す作用を持つ。

S100A4 発現にともなって癌の転移能が著しく向上することから、癌悪性度のマーカ

ーとしても使用されるとともに、薬物療法の治療標的としても注目されている56)

S100A4 遺伝子は HIF-1結合領域である HRE ドメインの下流にコードされている。

また、TGF-β シグナルもSmad経路、MAPK経路及びPI3経路を通してS100A4発現

を促進する(図 6)。つまり、低酸素によってS100A4を発現する可能性と、生理的酸 素条件下でTGF-βシグナルを介してS100A4を発現する可能性がある。

3.8 S100A4発現又はEMT18F-FDG-PET SUVmax

多くの癌で腫瘍内S100A4発現と予後不良が相関し、SUVmaxと予後不良が相関する ことから、S100A4発現とSUVmaxの関与が想像される。Shangguanらは大腸がん患者 の18F-FDG-PET検査のSUVmax18F-FDG-PET検査後摘出した癌組織のS100A4発現 に相関があることを報告している61)。参考文献61)において、S100A4は CAFsマーカ ーとして使用されているが、これは広義のCAFsである。したがって、参考文献61)

おいて S100A4 を発現した細胞は EMT を生じた癌細胞である可能性を含んでいる。

一方、Heidenらは、食道癌患者の18F-FDG-PET検査でSUVmaxが高いグループと低い グループについて、18F-FDG-PET検査後摘出した食道癌組織の遺伝子発現を比較した ところ、SUVmaxが高いグループでは、低いグループに比べて有意に低酸素関連遺伝子 及びEMT関連遺伝子の発現が高いことを報告している49)

(19)

3.9 腫瘍内で高い糖要求度を示す細胞の生物学的特徴に関する仮説

がんは、構成する細胞種と物理的環境が異なる癌微小環境を内包しており、癌微小 環境ごとに異なる糖代謝が営まれている。したがって、18F-FDG-PETによって画像化 される腫瘍内 18F-FDG 分布の不均一性は癌微小環境ごとの糖代謝の違いを反映して いる可能性がある。これまでの報告から、腫瘍内18F-FDG最大取込みの担い手と取込 み機構の組み合わせとして①がん細胞の Warburg Effect、②がん細胞の PSG、③がん 細胞の低酸素応答及び④CAFsによるreverse Warburg Effectが挙げられる。

ところで、腫瘍内のTGF-β量は、正常線維芽細胞がCAFsに形質転換するのに十分 な量と想像される。したがって、正常線維芽細胞の CAFs への形質転換のみならず、

癌細胞のTGF-βシグナルを介したEMTが生じる可能性も十分に考えられる。さらに、

血管からの浸潤を前提にしているCAFsと比べて、EMTを生じる癌細胞の周辺は既に 低酸素をきたしている可能性がある。低酸素は EMT マーカーである S100A4 発現誘 導因子であることから、腫瘍内には S100A4 を発現する EMT を生じた癌細胞が一定 数存在すると考えられる。そして、18F-FDG-PET検査のSUVmaxとEMT関連遺伝子発 現の相関を示す報告もある。これらを考慮すると、EMTを生じた癌細胞も腫瘍内18F- FDG最大取込みの担い手である可能性がある。そこで筆者は、腫瘍内18F-FDG最大取 込みの担い手と取込み機構の組み合わせとして、上述の 4 つに加えて、⑤EMT を生 じた癌細胞の低酸素応答及び⑥EMTを生じた癌細胞のWarburg Effectを想定した。ま た、CAFsの存在場所が生理的酸素条件下に限定されるとは限らないため、⑦CAFsの 低酸素応答も想定した(図 7)。

3.10 癌微小環境と糖代謝の関係を探索するための技術的課題

癌微小環境と糖代謝の関係を探索するにあたって、既存検出方法の空間分解能及び 検出可能な細胞機能に制限があることが課題である62)-64)。空間分解能とは、異なる位 置にある2つのシグナルを識別する能力をいう。空間分解能の評価方法は被評価測定 系によって異なるが、概略すると、18F-FDG-PET 検査はおよそ5 mmの距離にある 2 つの放射性シグナルを識別可能である。癌微小環境の構成単位は 10~200 µmである

ため、18F-FDG-PET検査による癌微小環境の詳細な描出は困難である。18F-FDGの分

布を評価するにあたって、PET の次に考えられる手法はオートラジオグラフィー

(20)

(ARG)である。ARGとは、放射性同位元素を含むサンプルを感光材に受光させるこ とでサンプル中の放射性同位元素の分布を二次元的に特定する測定手法の一種で、空 間分解能に応じてマクロオートラジオグラフィーとマイクロオートラジオグラフィ ー(MARG:Micro Autoradiography)に大別される。18F-FDGのマクロオートラジオグ ラフィーは、汎用される輝尽性螢光体を用いた方法の場合、およそ 200 µmの距離に ある2つの放射性シグナルを識別可能である44)。なお、輝尽性螢光体とは、光エネル ギーを一時的に蓄積する物質をいい、専用の読み取り装置を用いると、輝尽性螢光体 にトラップされたエネルギーの二次元位置情報を取り出すことができる。MARG は 使用する乳剤や検出する放射線などの試験条件によっては150~300の距離にある2 つの放射性シグナルを識別可能であり、癌微小環境と糖代謝の関係を探索するには最 もMARGが適している96)

MARG は放射性同位元素標識体を投与した動物組織の薄切切片に感光材である塩 化銀を含む乳剤を塗布し、一定時間後に現像することで、切片上に存在する放射性シ グナルを銀粒子(グレイン)の密度により可視化する手法で、薬物の分布研究や細胞 毒性研究に汎用される。しかしながら、通常の MARG は薄切切片に乳剤を塗布する ことから、免疫組織染等の細胞の生物学的特徴を可視化する手法との併用が困難であ る。また、理由は分からないが、世界的にみて18F-FDGをはじめとするポジトロン核 種標識化合物を用いた MARG はほとんど実施されていない。大和らは免疫組織染色 と併用可能な新規MARG(MARG-cIHC:MARG-combined with Immunohistochemistry)

を用いて、腸炎モデルラットの腸管上皮において最も18F-FDGを取り込む細胞の免疫 組織学的特徴を報告した65)。筆者は、蛍光多重免疫組織染色と光学顕微鏡レベルの空 間分解能を持つ MARG を定量的に施し、複数の分子マーカー発現、癌微小環境及び

腫瘍内 18F-FDG 分布を同一切片上で可視化できるようにさらに改良した MARG-

cIHCを用いることで、18F-FDG-PET検査におけるSUVmaxの本態を明らかにできるの ではないかと考えた(図 8)。

3.11 本研究の目的

がんの悪性度や予後因子である 18F-FDG-PET SUVmax 本態の特定は、新たな薬物療 法開発に応用可能である。これまでの報告から、癌細胞だけでなく、腫瘍内生理的酸

(21)

素条件又は腫瘍内低酸素条件下の CAFs 又は EMT を生じた癌細胞が高い糖要求度を 示し、且つ癌の悪性度に関連する可能性が考えられる。CAFs は線維芽細胞が癌細胞 と相互作用することによって特殊な性質を獲得したものであり、EMT は上皮系の癌 細胞が間葉系の性質を獲得したものであることから、2 者は由来を異にするものであ る。また、組織内酸素濃度も CAFs 及び EMT を生じた癌細胞の糖代謝に関係すると 考えられる。しかしながら、CAFs 又は EMT を生じた癌細胞が 18F-FDG-PET 検査に おけるSUVmaxの本態であるかは未だ明らかではない。

そこで本研究では、世界的にも例がない①18Fの定量MARGを確立し、②ヒト扁平 上皮癌由来細胞株A-431をC.B-17/Icr-scid/scidマウス皮下に移植した担癌マウスの腫 瘍を用いて 18F-FDG-MARG を実施する試験系の妥当性評価を行ったうえで、③本モ デルを用いた腫瘍内 18F-FDG 最大取込み細胞の生物学的特徴を探索することによっ

て、18F-FDG-PET SUVmaxを示す細胞の特性を明らかにすることを試みた。

(22)

図 1 成人の非感染性疾患による死亡率の推移と今後の予測3)

LIC:低所得国、HIC:高所得国、赤丸:Sustainable Development Goalsに基づく低 所得国成人がん死亡率達成目標、黒丸:Sustainable Development Goalsに基づく高所 得国成人がん死亡率達成目標

(23)

図 2 主な薬物療法6)

国内で使用される主な薬物療法の種類を示す。免疫療法には分子標的薬によるも のとそうでないものがある。mTOR:mammalian Target Of Rapamycin、HDAC:

Histone Deacetylase(ヒストン脱アセチル化)、CDK:Cyclin-Dependent Kinase(サイ クリン依存性キナーゼ)、PARP:Poly Adenosine Diphosphate Ribose Polymerase(ポリ ADP-リボースポリメラーゼ)、HER2:Human Epidermal Growth Factor Receptor 2。代 謝拮抗薬は主に核酸の生合成を阻害する。

(24)

図 3 酸化的リン酸化、解糖及び発酵並びにWarburg Effectの模式図7) 左:分化した細胞のグルコース代謝を示す。酸素存在下ではグルコースの解糖に よって得られたピルビン酸がミトコンドリア内膜を通過しピルビン酸酸化、クエン 酸回路、電子伝達系の順に代謝される。酸素非存在下ではピルビン酸がミトコンド リア内膜を通過せず、乳酸を生成する。右:分裂中の細胞又は癌細胞のグルコース 代謝を示す。酸素の有無にかかわらず、ピルビン酸がミトコンドリア内膜を通過せ ず、乳酸を生成する。

(25)

図 4 HIF1によって誘導される代謝変化 33)

左:生理的酸素条件下のグルコース代謝を示す。右:低酸素応答下でのグルコー ス代謝を示す。グルコースをピルビン酸に変換する解糖系酵素(ヘキソキナーゼ、

ホスホフルクトキナーゼ、アルドラーゼ)の発現が亢進し、ピルビン酸合成速度が 速まる。ピルビン酸を乳酸に変換する乳酸デヒドロゲナーゼA(LDHA)の発現が亢 進し、ピルビン酸の分解速度が速まる。ピルビン酸脱水素酵素キナーゼ1(PDK1)

の発現が亢進し、ピルビン酸をアセチルCOAに変換するピルビン酸脱水素酵素

(PDH)が不活化される。

(26)

図 5 reverse Warburg effectモデルの模式図 40)

正常線維芽細胞が酸化ストレスによるHIF-1発現上昇、Caveolin-1発現低下及び

TGF-β発現上昇によってCAFsとなり、血管近くの豊富な酸素環境下でも解糖及び

発酵を行い、MCT4を介して細胞内の乳酸を細胞外に放出する。血管から離れてい るがん細胞は低酸素応答として解糖及び発酵を行い、MCT4を介して細胞内の乳酸 を細胞外に放出する。がん細胞はMCT4を介して供給される乳酸を用いてクエン酸 回路及び電子伝達系によるグルコース代謝を行う。

(27)

図 6 S100A4遺伝子の発現制御 55)

S100A4発現はTGF-βシグナル、Wntシグナル及びHypoxiaによって制御される。

→は促進を示す。

(28)

図 7 腫瘍内で高い糖要求度を示す細胞の生物学的特徴に関する仮説の 模式図

血管からの距離に応じて酸素分圧が低下し低酸素状態となる。Normoxia(生理的酸 素条件)では、がん細胞のWarburg Effect、がん細胞のPSG、CAFsによるreverse Warburg Effect及びEMTを生じた癌細胞のWarburg Effectが生じる可能性がある。Hypoxia(低 酸素)では、がん細胞の低酸素応答、CAFsの低酸素応答及びEMTを生じた癌細胞の 低酸素応答及びが生じる可能性がある。PSG: Proliferation Specific Glycolysis、WBE:

Warburg Effect、rWBE: reverse Warburg Effect。

(29)

図 8 MARG-cIHCの手順の模式図

青色はスライドガラスに塗布した乳剤を示す。スライドガラスに乳剤を塗布し、

その後組織切片を圧着させることで、免疫組織染色における抗原性を維持する。

(30)

4. 18FMARGの定量性検討

4.1 緒言

腫瘍内18F-FDG 最大取込み細胞の細胞生物学的特徴探索に先立ち、投与放射能を決

定するために 18Fの定量 MARGを試みた。18Fは半減期 109.8分の短半減期陽電子放

出核種でβ+壊変する。β+壊変では、原子核内の陽子が中性子に壊変するとき、陽子が

軌道電子を捕獲して中性子に壊変する場合がある。これを電子軌道捕獲(EC 壊変)

という。EC 壊変では軌道電子が捕獲されるために空席が生じるので、エネルギーの 高い電子軌道の電子より空席が埋められる。この時にエネルギー差に応じて特性X線 又は特定エネルギーを持つ電子であるオージェ電子が発生する。β+壊変とEC壊変は 競合過程である46)18Fの場合、壊変様式は96.7%がβ+放出、3.3%がEC壊変である。

18Fから放出されるβ+の最大エネルギーは0.634 MeV、推定される平均エネルギーは

0.211 MeV であることから、その飛程毎のイベント発生頻度は飛程約 0.8 mm を最大

値とした 0~2.42 mm の放物線スペクトルを描くと考えられる。18F の β+のエネルギ

ーは、通常のMARGに用いられる3H、14C、35Sから放出されるβ−の最大エネルギー

である0.0186 MeV、0.156 MeV及び0.167 MeVと比べるとエネルギーが強く飛程が長

い。MARGの検出乳剤の厚さはおよそ0.2 mmのため、18Fから放出されるβ+のほと んどが乳剤を通過し、検出に寄与しない可能性がある。一方、EC 壊変で発生するオ ージェ電子は、由来原子によって 0~3 MeV までのエネルギースペクトルを持つが、

最大飛程が10 nm程度のため0.2 mm厚の乳剤による検出に寄与する可能性が高い。

しかしながら、想定される切片厚が 5 µmのため乳剤との接着面で発生するイベント しか捉えられない可能性もある。また、18F の壊変におけるEC 壊変割合が3.3%と低 く、更にオージェ電子発生頻度は 100%ではないことから、検出への寄与率は不明瞭 である。これらの情報から、MARGによる18F検出に必要なサンプルの放射能範囲を 決定し、放射性同位元素使用施設の使用上限及び実験者の被ばく上限の範囲内で 18F の存在を MARG によって検出可能かどうかを検討した。なお、本検討は独立行政法 人理化学研究所生命機能科学研究センターで実施した。

(31)

4.2 材料及び方法

4.2.1 乳剤コーティングスライドの作製

乳剤コーティングスライド作製は全て暗室、遮光下にて実施した。42°Cに加温した 16.25 mLのmilliQ水に8.75 mLのNTB2 Nuclear emulsion(イートマンコダック、ニュ ーヨーク州)を加え、42℃で 15 分間静置後転倒混和した。乳剤溶液をスライドガラ スコーティング用容器に移し、スライドガラスを乳剤に浸してコーティングした。コ ーティング後、30分程度送風して乳剤を乾燥させた。

4.2.2 18F-FDG製造の概要

本研究に使用した 18F-FDG は先端医療センター分子イメージング部門より提供を 受けた。製造方法の概要は、サイクロトロン(Cypris HM-18、住友重機械工業株式会 社、東京、日本)による 18O(p,n)18F 反応で得られた18F を Hamacher らの方法を改変 したプログラムを持つ自動合成装置(F-200、住友重機械工業株式会社、東京、日本)

を用いて標識合成した88)

4.2.3 MARG

2号包埋容器(サクラファインテックジャパン株式会社、東京、日本)に0.95 gの OTCコンパウンド(サクラファインテックジャパン株式会社、東京、日本)と生理食 塩水を用いて 400 MBq/mL に希釈調製した 18F-FDG 溶液 50 µL を入れよく混合して

20 MBq/g の 18F-FDG-OTC コンパウンド混合サンプルを調製し、−30℃で凍結した後

包埋皿から取り出し、クライオスタッド(サクラファインテックジャパン株式会社、

東京、日本)のサンプル台に接着させた。サンプルの18F-FDG濃度が10、5、2.5及び

1.25 MBq/gとなる時刻にそれぞれ暗室遮光下で5 µm厚の切片を作成し、3.2.1項で作

成したコーティングスライドに圧着し、−80℃でそれぞれ 4 時間露光した。露光後、

スライドガラスごと D-19 現像液(富士フィルム株式会社、東京、日本)に5 分間、

Fuji Fix固定液(富士フィルム株式会社、東京、日本)に15分間浸漬後、水道水に10

分間浸漬した。

(32)

4.2.4 グレイン測定

3.2.3 項で作成したサンプルの明視野光学顕微鏡写真を 256 階調で撮影し、画像上

で一辺が0.1 mmの正方形の関心領域(ROIs : Region of interests)を設定した。18F-FDG

濃度が 0 MBq/g のサンプルから得た画像のグレイン数が 0 となるような閾値を目視

で定め、定めた閾値で256階調画像を2階調画像に編集した(二値化)後、ROIsに含 まれるグレインを測定した。測定には ImageJ ソフトウェア(Version 1.48v, National Instisutes of Health、メリーランド州) を使用した。

4.2.5 統計解析

サンプル調製及び測定手技に由来するサンプルのばらつきを示すため、パラメトリ ックデータは平均値±標準偏差として表示した。散布図の作製には Excel ソフトウェ ア(Microsoft Office 2013、Microsoft)を使用した。グレイン密度とサンプル放射能濃 度の相関は散布図より目視で判断し、統計学的検定は行わなかった。

4.2.6 結果と考察

グレイン密度は18F-FDG濃度依存的な上昇を示した(図 9-A)。18F-FDG濃度とグレ イン密度の関係は特に18F-FDG濃度1.25、2.5、5 MBq/gの範囲において線形性を示し

たが、18F-FDG濃度10 MBq/gにおいて線形性を失った(図 9-B)。これらの結果から、

18FについてもMARGによる評価が可能であり、サンプルの放射能が5 MBq/gまで定 量的であることが示された。また、MARGによる18Fの検出効率はおよそ3.2%と低か った。本結果を根拠として、腫瘍内18F-FDG 分布に供するサンプルの放射能濃度が露 光開始時点で1.25~5 MBq/gの範囲となるよう投与放射能を試算したところ、1個体

あたり300 MBq~2400 MBqの範囲になると予想された。但し、実験者の被ばくを考

慮し、予想される最低放射能である300 MBqから実験を開始することとした。

(33)

図 9 MARG の定量範囲

a)様々な濃度の18F-FDG を含むサンプルの5 µm厚切片のマイクロオートラジオ グラフ。b)サンプルに含まれる18F-FDG濃度とグレイン密度の散布図(n = 4, mean

± S.D.)。

(34)

5. がん研究に使用するモデル動物の妥当性評価

5.1 緒言

腫瘍内18F-FDG 最大取込み細胞の細胞生物学的特徴探索に先立ち、使用するモデル

動物において腫瘍内に 18F-FDG 取込みの不均一を生じ、生じた不均一を定量 MARG で評価可能かどうか検討した。がん研究に使用するモデル動物には、同種モデル及び 異種モデルの2種類がある。同種モデルは自然発症又は薬物による誘発によって癌を 生ずるモデル並びにレシピエントの同種動物から得られたがんを直接又は培養細胞 として分散後に移植するモデルがある。異種モデルはレシピエントの異種動物(主に ヒト)から得られたがん細胞を免疫不全動物であるレシピエントに移植するモデルで ある。異種モデルはレシピエントが免疫不全であるため、移植したがん細胞とレシピ エントの免疫細胞との相互作用を評価することはできないが、ドナーとレシピエント が異種であることから、ドナー由来細胞(癌細胞)とレシピエント由来細胞の識別が 容易である。筆者は正常線維芽細胞が癌に浸潤して癌の増悪に寄与する性質を獲得す ると考えられている CAFs と上皮系癌細胞の EMT の識別が可能になると考え、異種 モデルを探索に用いることとした。一方で、異種モデルの癌内部で臨床同様に18F-FDG 取込みの不均一が生じるかどうかは不明である。そこで、MARG-cIHCによる18F-FDG の腫瘍内分布と免疫組織染色の同時描出に先立ち、異種モデルの腫瘍において臨床

18F-FDG-PET と同様の分布を示すこと及び MARG による検出可能性検証を行った。

なお、本検討は独立行政法人理化学研究所生命機能科学研究センターで実施した。

5.2 材料及び方法 5.2.1 A-431細胞

試験にはAmerican Type Culture Collection(バージニア州)より購入したヒト扁平上

皮癌由来株化細胞であるA-431(CRL-1555)を使用した。A-431細胞は10%牛胎児血 清 (Thermo Scientific、マサチューセッツ州) 、100 単位/mLペニシリン-100 mg/mL ストレプトマイシン混合溶液 (Thermo Scientific、マサチューセッツ州) を含む4.5 g/L グルコース含有ダルベッコ改変イーグル培地 (ナカライテスク株式会社、京都、

日本) で培養した。培養環境は37℃、5% CO2混合空気、湿度100%とし、対数増殖

(35)

期にPhosphate Buffered Saline (PBS(−)、ナカライテスク株式会社、京都、日本)及 び0.25% (w/v) トリプシン-1 mM Ethylenediaminetetraacetic Acid 混合溶液(ナカライテ スク株式会社、京都、日本)を用いて培養皿より剥離後適切な濃度で再度播種するこ とで維持培養を行った。

5.2.2 A-431担癌マウスの作製

異種モデル動物のレシピエントとして、4~6週齢、雌性のC.B-17/Icr-scid/scid Jclマ ウス(日本クレア株式会社、東京、日本)を試験に使用した。飼育は4~5匹/ケージ、

室温 22~23℃、湿度 50~60%、12 時間毎の明暗サイクル、自由飲水、自由摂餌、特 定病原体の存在しない(SPF:Specific Pathogen Free)環境下で行った。4.2.1項の手順 で培養した A-431細胞を 1×107 cells/ml 濃度としてPBS(−)中に懸濁し、1 個体あ

たり100 µL(1×106 cells)ずつマウスの右腹側皮下に覚醒下で投与した。投与1週間

後から3日に1回腫瘍径を測定した。すべての試験は移植腫瘍径が5~10 mmの間に 実施した。すべての動物実験の試験プロトコルは独立行政法人理化学研究所生命機能 科学研究センター動物実験倫理委員会の承認を得て実施した(承認番号 MAH-21-19- 8)。

5.2.3 A-431担癌マウスにおける18F-FDG-PETイメージングによる観察

A-431 担癌マウスに、A-431 細胞の移植 14 日後に 18F-FDG-PET イメージングを実

施した。A-431担癌マウスを1.5 %イソフルラン(アボットジャパン合同会社、東京、

日本)を含む医療用空気が充満した容器に入れ導入麻酔とした。A-431担癌マウスの 正向反射消失を確認した後、小動物用PET装置(MicroPET Focus 220、シーメンスヘ ルスケア株式会社、東京、日本)(図 10)内にA-431担癌マウス伏臥位で静置すると

ともに 1.5 %イソフルランを含む医療用空気が充満したホースでマウスの呼吸器を覆

い、維持麻酔とした。麻酔による体温低下を防ぐため、直腸温が37℃となるようヒー トパットで調整した。維持麻酔開始15分後に7.4 MBq/100 μLの18F-FDGをA-431担 癌マウスの尾静脈内投与し、投与30分後から30分間2Dリストモードでデータを収 集した。データはFiltered Back Projection法にて画像再構成を行った。画像再構成には ASIPro VMソフトウェア(Version 6.0; Concorde Microsystems)及びPMODソフトウェ

(36)

ア(Version 3.4; PMOD Technologies LLC)を使用した。

5.2.4 A-431 担癌マウスにおけるマクロオートラジオグラフィー及び MARG による

観察

A-431担癌マウスに、A-431細胞の移植14日後にマクロオートらジオグラフィー及

びMARGを実施した。A-431担癌マウスに300 MBq/100 µLの18F-FDGをA-431担癌 マウス覚醒下で尾静脈内投与した。マウスは18F-FDG 投与後45分間飼育ケージ内で 自由行動させた後、15 mg/kgのペントバルビタール(ソムノペンチル、共立製薬株式 会社、東京、日本)を腹腔内投与することで麻酔した。A-431担癌マウスからの腫瘍 採取は、四肢を鑷子で挟むなどして動物が深麻酔に至ったことを確認した後、開胸し て心臓を露出し、左心室に生理食塩液を充満させたカテーテルを留置し、心耳を切開 し、留置したカテーテルを介して生理食塩液を還流して放血致死するとともに組織内 の血液を十分に除去した後行った。採取した腫瘍を OCT コンパウンドに包埋し、ド ライアイス上に静置して凍結標本とし、クライオスタッドを用いて 5 µm厚の切片を 作製した。

マクロオートラジオグラフィー:作成した切片をスライドガラスに圧着し乾燥させ た後、イメージングプレート(BAS IP SR 2040E、GEヘルスケアジャパン株式会社、

東京、日本)に接着した。また、スライドガラスに張り付けたろ紙に、投与液を生理 食塩液で 200 倍、400 倍、800倍、1600 倍に希釈したものをそれぞれ 1 µL ずつ滴下 し、切片と同様にイメージングプレートに接着した。接着から 60 分後、イメージン グプレートの励起状態をバイオイメージングアナライザー(FLA-7000、GEヘルスケ アジャパン、東京、日本)で読み取り、Image Gauge ソフトウェア(Version 4.21、富 士フイルム株式会社、東京、日本)を用いてオートラジオグラフを取得した。

MARG:暗室遮光下で作製した切片を 3.2.1 項で作成した乳剤コーティングスライ

ドに圧着し、−80℃で6時間露光した。露光後、スライドガラスごとD-19現像液に5 分間、Fuji Fix固定液に 15分間浸漬後、水道水に10 分間浸漬した。浸漬後、ヘマト キシリンエオジン染色を施した。染色した切片は、蛍光顕微鏡(IX-71、オリンパス株 式会社、東京、日本)及びデジタルカメラ(DP-71、オリンパス株式会社、東京、日 本)を用いて明視野及び暗視野顕微鏡写真を取得した。なお、暗視野観察は広域観察

参照

関連したドキュメント

このうち糸球体上皮細胞は高度に分化した終末 分化細胞であり,糸球体基底膜を外側から覆い かぶさるように存在する.

本症例における IL 6 および IL 18 の動態につい て評価したところ,病初期に IL 6 は s JIA/ inac- tive より高値を示し,敗血症合併時には IL

肝臓に発生する炎症性偽腫瘍の全てが IgG4 関連疾患 なのだろうか.肝臓には IgG4 関連疾患以外の炎症性偽 腫瘍も発生する.われわれは,肝の炎症性偽腫瘍は

計算で求めた理論値と比較検討した。その結果をFig・3‑12に示す。図中の実線は

 6.結節型腫瘍のCOPPとりこみの組織学的所見

の多くの場合に腺腫を認め組織学的にはエオヂ ン嗜好性細胞よりなることが多い.叉性機能減

 局所々見:右膝隅部外側に栂揃頭大の腫脹があ

 人髄諸器官二護士スル腫瘍二比シ,睾丸腫瘍ノ比較的稀ニシテ,而カモ極メテ多種多様ナ