近代信託の進展と信託受益権の本質について
著者 浅野 裕司
学位授与大学 東洋大学
取得学位 博士
学位の分野 法学
報告番号 乙第159号
学位授与年月日 2004‑12‑20
URL http://id.nii.ac.jp/1060/00003979/
弥合二信拍進展z僑追薑遥養'1湖ごう、』て
〜 − ゞ ‐ J学 位 請 求 論 文 要 旨
差野誌司
この小論は、「近代信託の進展と信託受益権の本質について」と題し、第1章を「近代信 託へのいざない」とし、第2章を「現代信託の諸相」として構成した。
近代信託(ModernnPust)からなぜ書き進めたか、これは、信託法史上、重要な意義を 有するからである。信託は、その発生について、メイトランドをはじめ多くの英法学者の 諸説と研究があり、今日なお英米信託法における大きな課題となっている。この点につい ては、宗教と信託法理につき、従来の諸説から一歩進めて、佛教、キリスト教、神道、イ スラームのなかから源流を各宗教に求め簡略に触れた。イギリスの信託法がアメリカ信託 法に継受され、わが国の信託法も全般的に法制が大陸法体系にありながら、英米信託法の 流れを汲んでいる。
近代信託は、1634年のサンバッチ対ダルストン事件から始まったとされ、「二重信託」が 契機であるとするのが定説となっている。それは、同事件の判例が、従来のuse(古信託)
からnust(近代信託)に用語が変化しているからである。しかし、同事件の内容を検討す ると極めて暖昧なことに気づくし、信託受益権をめぐる二重信託は、定説より時期的にそ れ以前の事件にも存在したことを指摘しておいた。近代信託の基盤は、中世のイギリスに おけるユースからトラストの変遷期にあることに異論はない。
信託法も基礎理論が重要であることは、他の法分野と同様である。近代信託への道程に おいて、「宗教と信託法の基礎理論」は極めて重要である。従来、仏教は信託法の素地との 関係につき、ほとんど論究されていなかった。信託思想は、どの宗教にも存在するが、仏 教のそれは近代信託においても、「秋田感恩講」として結実し、現代の公益信託として児童 育英施設や団体活動に立派に受け継がれている。
信託の起源として論争のあるイスラームのワクフの制度は、慈善的ワクフが対象および 効果からみて英米信託法における公益信託に共通するところが多い。家族ワクフも受益権 が直系卑属に限定される点では、その目的のみからみれば信託により設定されたイギリス の限嗣的権利と歴史的に軌を同じくするといえよう。ワクフの法的定義は、委託者が財産 を慈善を目的として神に寄進し、その収益および用益権を公益の用または特定人のために 供すべくこれを管理する受託者を指定する法律行為あるいは寄進財産そのものをいう。こ のワクフが近代信託とどのように関係しているかについて、論究したものはほとんどなか ったので、現在のエルサレムにおけるワクフの管理権と公益信託と同様なものに基づく管 理・運営について触れた。
わが国ではみられない「秘密信託jがある。これには、完全秘密信託と半秘密信託があ り、完全秘密信託は、遺言者が財産を外見上は絶対的に受遣者に遺贈し、しかも実質的に は当該財産が他人のためである旨を遺言者がその生存中に受託者に通知し、受遺者が遺言 者の意図を効果あらしむくく約束する場合に発生する信託である。半秘密信託はこれと異
ー ー
な り 、 遺 言 に よ れ ば 、 財 産 が 絶 対 的 に で は な く 受 託 者 と し て の 資 格 で 受 遺 者 に 付 与 さ れ る 旨の記載はあるが、その信託の内容はなかんずく受益者が明示されず、しかも遺言者によ
りその生存中に別の方法で受遺者に内容が伝達される場合に成立する信託をいう。
秘 密 信 託 と く に 完 全 秘 密 信 託 に つ い て は 、 英 国 で は 遺 言 者 の 意 図 が 受 遺 者 に 伝 達 か つ 黙 認 さ れ る こ と を 根 拠 に 設 定 信 託 と 解 す る の が 通 説 と い え る が 、 米 国 で は 遺 言 の 外 部 で 受 遣 者に課せられる衡平法上の義務を中心に、これを構成信託とみなす説の方が多い。これら の学説上の論争についても、第1章、第2章を通して触れた。
第2章は、「現代信託の諸相」として、現代法のなかの信託法理とその活用および応用に ついて触れた。「米国における信託法の発展について」(第1節)において詳述したが、メ イ ト ラ ン ド も 強 調 し た よ う に 、 信 託 は 英 国 衡 平 法 の 歴 史 的 所 産 で あ り 、 長 い 年 月 に わ た る 大 法 官 の 労 苦 の 結 晶 と も い え る 。 そ の 英 国 の 信 託 を 継 承 し ビ ジ ネ ス と し て 開 花 し た の が 米 国の信託であり、米国に信託法理は渡って米国の信託法として独自の発達をなし、信託業 のめざましい発展をして、米国経済の基礎に大きく貢献した。米国の市民生活に定着して いった信託制度は、労働法規のなかにも浸透している。
英米の衡平法の3分の2は、信託に関する規定となっている。米国においては、信託が 国民も企業も豊かにしたことに異論はない。
米 国 に お け る 信 託 制 度 の 利 用 の 特 色 は 、 英 国 で は 封 建 的 諸 負 担 の 回 避 や 国 王 か ら の 財 産 没収を回避するなど、財産の保護のために利用されたのに対し、財産の形成に変質したこ とに注目すべきである。そして、現在では数多くの州が遺言法・遺言検認法典のなかに信 託に関する規定を設けているように、遺言による信託が圧倒多数のようである。わが国と 比較すれば、財産の形成という面では共通するが、生前信託が圧倒多数というのがわが国 の特色と云い得るであろう。
信託は、時代の発展に従って、自らビジネス化かつ社会共有化する宿命を負っている。
それに応じて、英米信託法も裁量信託化ないし指名権化する傾向が今後ますます顕著にな るものと推測される。
信託財産と管理問題については、多岐にわたるので、全般を通して論述した。
近代信託法は、わが国に明治時代後半にインF信託法、米国のカリフォルニア州法典の なかの信託法規が導入され、定着していき、大正11年に信託法、信託業法の制定をみるこ と と な っ た 。 既 に 大 陸 法 系 の 民 法 を 有 し て い た わ が 法 制 に 、 英 米 法 系 の 信 託 法 を 導 入 し た 当時の法律学者の器用さと熱意には敬意以外のなにものもないが、それ故に、信託受益権 や信託財産の性質をめぐり極めて魅力ある難解な論争をもたらすことになった。
このような経緯などもあってと思慮されるが、わが国では信頼できる友人や兄弟姉妹な どの個人を受託者とする民事信託は、ほとんど利用されず、信託銀行が受託者となる営業 信託を中心に発展してきた。
英国信託法から米国信託法、さらに両者を巧みに融合して独自の発展をみたのがわが国 の 信 託 に ほ か な ら な い 。 し か し な が ら 、 わ が 国 の 信 託 理 論 は 、 こ の よ う な 沿 革 を 離 れ て む
しる大陸法的な概念論をもって構成され、いわゆる信託法における通説も民法および商法 にもとづく解釈論が主流を占めている。したがって、信託法制定後から今日まで、信託法 に関する文献資料は枚挙にいとまがないほど数多くみられるが、その対象ないし内容は、
伝統的な英米信託法とはかなり離れたいかにも日本的な信託法理に終始するものが圧倒的 に多く、なかには、本来の信託の理念ないし制度を全く誤解もしくは曲解していると思わ れる著書論文も決して少なくない。
設備信託(equipmenttrust)についても論究してきたが、米国で発展したこの信託は企
業の発展に寄与し、わが国でも車両信託に代表される信託となった。これを今後、高齢者 福祉施設の建設に活用し、建物信託に利用したり、医療機器、器具などの購入に利用する と、福祉施設は一時的に多額の借入を行う必要はなく、経営しながらその収入で購入代金 を支払うことができるので、経営の安定に役立ち、入居した高齢者の資産保護にもつなが る。わが国の信託法の改正案では、第2章第2節第4項の「財産管理と浪費者信託および 保護信託」で論述した。しかし、わが国でも、最近定着してきた特別障害者信託あるいは 高齢者信託などにみられるように、信託の福祉もしくは公共化が進展するに伴って、さら に、制限能力者制度を補う手段の一つとしても、英国の保護信託および米国の浪費者信託 の制度は、検討されるべき時期にある。第2章第4節「財産形成計画と投資信託法jで触れた投資信託法も実務上、重要である。
平成10年に証券投資信託法が改正され、会社型投信(証券投信法人)および私募投信の利 用が可能となったが、投資信託の運用対象としての特定財産の範囲を有価証券から不動産 などに拡大した。平成12年「特定目的会社により特定資産の流動化に関する法律等の一部 を改正する法律(流動化改正法、平成12年法律97号)」が施行された改正SPC法が誕生 した。平成10年のSPC法の目的は、特定目的会社が業として特定資産の流動化を行う制 度を確立することにあったが、スキーム上の制約が多く、法施行直後から制度改善の必要 性が指摘されていた。改正SPC法は、SPCの流動化対象資産をこれまで指名金銭債権、不 動産、これらの信託受益権から財産権一般に拡大した。
第2章第5節の「信託制度の現代的機能」、第6節の「現代信託法における不動産投資信 託」、第7節の『企業担保法の改正問題と信託法理」、第8節の『不良債権の法的処理と信 託法理」で触れた問題は、それぞれ今後も検討すべきであると考え論究した。
かねてから、企業関係者にかかわりあるものとしては、適格退職年金信託、調整年金信 託や財産形成信託、従業員持株信託などがあり、一般個人に馴染みあるものとしては貸付 信託などがあるが、これとても預金類似のものと意識され、合同金銭信託契約との認識が なされているかどうか問題である。
しかしながら、時代の変化は税制改正や規制緩和などがあいまって、多種の信託が活用 されるようになった。特別身障者を受益者とする特定贈与信託、制定から半世紀を経て規 定が生かされた公益信託、高齢社会における遺言信託・遺言代用の生前信託、土地の有効 利用を目的とした土地信託、確定拠出年金における資産管理契約としての信託、年金信託
ー ー
の資産管理の一元化をはかる日本版マスタートラスト、不良債権処理または資金調達を目 的とした資産流動化のための信託などが出現し、関連法規も整備され、米国のリートに範 をとった不動産投資信託が生み出された。
わが国の信託は、そのほとんどが営業信託すなわち信託を業とする営業信託会社が受託 者 と な っ て 行 わ れ て お り 、 非 営 業 的 信 託 す な わ ち 一 般 私 人 が 個 別 的 ・ 非 営 業 的 に 行 う 信 託 は、実際上ほとんど存在していない。これは、信託制度が信託業法の制定を通して信託会 社による営業信託・商事信託として発展を遂げてきた顕著な事実となっている。こうした なかで、受託者の役割が財産の管理・処分を超える商事信託について新たな立法の必要性 も強まっている。最近の信託の実情は、ともすれば営利追及者にとっての営業の道具とし て、信託が利用され、財産管理保全型から営利追求型へ移行しつつあるようにも見える。
高齢化社会における信託の活用については、信託利用不動産担保年金式融資、遺言信託 に触れ、さらに、平成11年の任意後見法の受けⅢとしての信託を重視する必要があること も指摘した。任意後見制度を積極的に活用して、それを信託と結び付け、信託受託者は信 託財産の管理処分に専念し、任意後見人は本人の意思決定を代行することになる。信託受 託者と任意後見人がそれぞれを得意とする職務分担をはかりながら、結果として裁量信託 の機能をわが国にも出現させようとするものである。このようなスキームによって、信託 は受益者の身上監護をも十分に配慮しうる財産管理制度として再生できるのではなかろう か。
特定贈与信託は、昭和50年度の相続税法の一部改正により創設された「特別障害者に対 する贈与税の非課税」(相続税21条の4)に基づく制度であり、重度の心身障害者(特別障 害者)の生活の安定に資することを目的としている。この制度の最大のメリットは、法律 上の要件を具備することと特定贈与信託を設定するための贈与については6000万円を限度 として贈与税が非課税になることである。特定贈与信託の最大の問題は、受益権の差押さ え可能性である。民事執行法152条1項1号は、「生計を維持するために支給を受ける継続 的給付に係る債権jについては一定の範囲で差押さえが排除される旨を規定しているが、
特定贈与信託の受益権についてもそれに準じて考慮すべきである。
わが国における銀行破綻の法的処理と不良債権問題については、米国における銀行破綻 に際して活用された整理信託公社(RTC)による成功実績がお手本となっている。また、
振替国債を信託財産とする信託受益権と質権の設定などに関連して裁判例も散見されるよ うになった。第2章第9節の「国際私法におけるハーグ信託条約について」で論究した国 際信託の問題は、欧米では既に条約が必要となっているから、わが国でも国際信託を早急 に検討する時期にきている。1984年には、ハーグ国際司法会議で「信託の準拠法および承 認に関する条約jが採択された。この信託条約は、信託の法的構成そのものの国際的統一 を目的としたものではなく、国際間にまたがる信託にはいずれの国の法律を適用すべきか、
また、ある国で法的に信託であると認められた信託は他の国でも信託としての効力を認め るか、という点につき国際的な統一ルールを作ることを目的としている。国際私法におけ
る重要な条約である。各国の法制は統一されていないから、国際間の取引には多かれ少な かれ法の抵触が生じ、準拠すべき法、裁判管轄、強制執行などに問題が生じる。条約は、
信 託 の 法 的 構 成 そ の も の の 国 際 的 統 一 を 目 的 と し た も の で は な く 、 国 際 間 に ま た が る 信 託 に は い ず れ の 国 の 法 律 を 適 用 す べ き か 、 ま た 、 あ る 国 で 法 的 に 信 託 で あ る と 認 め ら れ た 信 託 は 他 の 国 で も 信 託 と し て 効 力 を 認 め る か 、 と い う 点 に つ き 国 際 的 な 統 一 ル ー ル を 目 的 と
している。条約は、国際私法上、重要なものであり、33カ国が調印した。わが国も国内の 関連法を整備して批准し、国内法化すべきである。1999年にはEU域内で統一信託法の基
礎となる「欧州信託法原貝リ(PrinciplesofEuropeannfustLaw)」が公表されている。
第2章第10節で「リバース・モーゲージと高齢者の財産管理のための信託」を論究した のは、高齢化社会は、中高年の財産管理が重視され、リバース・モーゲージと財産管理の ための信託が地方公共団体において福祉政策からも注目されるからである。
第11節の「知的財産と信託について」は、現今大きな問題となっている。
知的財産の保護と信託についても政府は力を入れ、信託業法の改正に対する要望も高ま っている。わが国における信託業は、法制度的にみると、私法である信託法と業法である 信託業法および「金融機関の信託業務の兼営等に関する法律」(以下「兼営法」と略す)と に基づいて行われてきた(このほか、貸付信託法、投資信託及び投資法人に関する法律(以 下「投資信託法」と略す)、資産の流動化に関する法律(以下『資産流動化法」と略す)な
どの特別法がある分野がある)。
信託法1条・4条は、受託者が信託財産の『管理または処分」をするのが信託であると定 義しているが、一般には、信託の引受けが業として行われる場合(信託法6条参照)を『営 業信託」と呼んでいる。わが国で信託の引受けを業として行うためには、原則として、信 託業法に基づく免許を得るか(信託会社となる)、または金融機関が兼営法による認可を受
ける必要がある(信託兼営金融機関などと呼ばれる)。
信託法と信託業法は大正11年に制定され、兼営法は昭和18年に制定されているが、戦 前に存在した信託会社について、昭和23年にその普通銀行への移行政策が採られて以来、
現在に至るまで、信託業法に基づき免許を受けて信託業を営む信託会社は、存在しない。
わが国で現在、信託業を営んでいるのは、若干の特別法に基づく例外を除くと(たとえば、
著作権管理事業法に基づく著作権管理事業信託。同法2条1項1号、26条1項参照)、す べて兼営法に基づき信託業務の認可を得た金融機関である。
現在の業法的規制は、信託法(および信託法が想定する民事信託の法理)を受けて、信 託関係が成立する「入口」で受託者に移転される財産をとらえて、そのような信託財産に ついて、信託銀行が受託することができる財産(受託可能財産)を限定列挙している。す なわち、信託業法4条は、信託会社が信託の引受けをすることができる財産を、①金銭、
②有価証券、③金銭債権、④動産、⑤土地およびその定着物、⑥地上権をよび土地の賃借 権の6種類に限定している。
このような信託業における受託可能財産については、適切な信託業の担い手の確保を前
ー ー
提として、知的財産を含めてその範囲を拡大することが妥当である。具体的な受託可能財 産の限定列挙を維持した上で知的財産権などを新たに追加する方法がありうる。しかし、
この方法では、受託可能財産に関する新たなニーズに柔軟かつ迅速に対応できないという 問題がある。
80年振りに信託業法の抜本改正作業が始まる。公表された「信託業のあり方に関する中 間報告書」が示唆するように、80年前同時制定された信託法は勿論のこと、関係諸法律の 見直しが2〜3年の視野に入ってきている。したがって、「中間報告書」は、信託業法4条 による受託可能財産の制限を撤廃し、信託法1条に規定する財産権であればすべて業務上 も受託可能であることとすることを提言しているので、この点も解説し、論究した。そも そも現行の業法規制が「入口」における信託財産にこだわりすぎており、また、信託受益 権の性質の決定についても信託財産の性質にこだわっていることには問題があると考えて いる。
第12節の「信託法理の応用による文化遺産と自然環境の保護jは、実際面も重視し、ま た、ナショナル・トラスト法制定までの法律上の論争も含め論述した。信託法理の応用に よる文化遺産の保護と自然環境の保全は、英国で始まったナショナル・トラストや都市の 美観改善につき企業がその社会的責任を果たす目的のシヴイック・トラストの進展に大い
なる意義を見出すことができる。
信託の本質と信託受益権の法律上の性質については、小論の全般を通して触れてきた。
信託の本質は、信託の委託者と受託者との間の信認関係(丘赴uciaxyrelaiZon)と専門家
の責任との関係が重要である。さらに、信託営業に携わる者は、受託者と受益者との間のfiduciaryrelationshipに信託の本質的特色があることを自覚する必要がある。法の分野で
英国人が成し遂げた最大にして最も独特なものは「信託の思想」であるといわれ、単に英 法の発展、ことに衡平法の発展に貢献したことのみならず、信託法理をもって封建体制を 打破した英知と誇りがある。わが国の信託にあっては、商事信託の発達のゆえに団uciaryの心が忘れがちである。英 国の髄uCiaxyrelatiCnSllipの根幹には宗教がある。米国の法人受託者の利用による信託の
発 達 か ら そ の 法 理 を 導 入 、 制 度 と し て 発 展 さ せ つ つ あ る わ が 国 の 信 託 は こ う し た 点 を 不 断 に戒めなければならない。信託受益権の法律上の性質については、わが国においては多くの学説の対立がある。そ の よ う な 区 別 を す る こ と が 必 要 な の で あ ろ う か と の 疑 問 が 生 ず る 。 信 託 は 衡 平 法 理 論 に よ って発展せしめられたのであって、英国では普通法でさえ大陸法に比べた場合、学究者の 法理論的体系によって組立てられるものではなく、裁判官の主観的判断に従って形成せら れる判例法理によって発展せしめられるものであり、衡平法にいたっては、さらに一層そ の傾向が強いことは改めてここに云う必要もない。信託受益権を特定の権利観念を以て切
り縮めようとする考え方は大いに反省すべきであろう。
わが国は既に、信託法と民法、商法および倒産諸法などとの関係の検討が進んでおり、
今後は法改正も視野に入れながら、民事信託と商事信託に共通する法理と商事信託に特有 な法理との関係が、より一層明確にされると考えられる。信託を利用しようとする場合、
よりわかりやすい信託法理が確立されることが重要と思われるので、現代信託として発展 していくことを想定しながら書き進めた。