稲益英子 論文内容の要旨
主 論 文
Anticancer agent α-sulfoquinovosyl-acylpropanediol enhances the radiosensitivity of human malignant mesothelioma in nude mouse models
抗がん剤α-SQAPはマウス悪性胸膜中皮腫モデルにおいて放射線感受性を増強する
稲益英子,土谷智史,山内基弘,西 弘大,松田勝也,菅原二三男,坂口謙吾,
森 亮一,松本桂太郎,宮﨑拓郎,畑地 豪,土肥良一郎,渡邉洋之助,
朝重耕一,松田尚樹,樋上賀一,下川 功,中島正洋,永安 武
Journal of Radiation Research, in press
長崎大学大学院医歯薬学総合研究科医療科学専攻
(主任指導教員:永安 武 教授)
緒 言
悪性胸膜中皮腫は、主にアスベスト(石綿)吸引によって発生する悪性新生物であり、
放射線、抗癌剤、手術を併用した集学的治療によっても根治の難しい疾患である。ア スベストによる健康被害は社会問題になっており、今後も罹患数は増加していくこと が予想され、有効な新規治療法の開発が待たれている。
α-SQAP(α-sulfoquinovosyl-acylpropanediol)は、ウニ、海藻などの天然資源から分 離された SQAG(sulfoquinovosyl-acylglycerol)の類似体として合成された、グルコース 分子とステアリン酸分子からなる糖脂質である。α-SQAP は、ヒト肺癌、腎細胞癌の細 胞株を移植したヌードマウスを用いた実験において、癌細胞に集積し再酸素化を導く ことで、放射線照射の治療効果を増強する、生体にほぼ無害な放射線増感剤としての 特性を持つことが明らかとなっている。本研究では、ヒト胸膜悪性中皮腫移植マウス の放射線照射モデルを用いて、α-SQAP の悪性胸膜中皮腫に対する治療効果を検討した。
対象と方法
細胞と培養および薬剤について
実験にはヒト MPM(悪性胸膜中皮腫)細胞 MSTO-211H および MESO-4 を適切な環境で 培養し 90%コンフルエントな状態で使用した。
α-SQAP は生理食塩水に溶解し経静脈的にマウスに投与した。マウス1匹あたり約 60
μg(2mg/kg)を投与するため 0.6mg/ml に調整し 24 時間以内に使用した。
放射線照射
α-SQAP を投与したマウスおよびコントロールに対して、137 Cs ガンマ線照射装置
(TOYOMEDIC Co.LTD, Tokyo,Japan)を使用した。
コロニー形成試験
2種の MPM 細胞の放射線感受性を、0,2,4,6,8 Gy のガンマ線照射後のコロニー形 成率(PE; plating efficiency)を計測することによって評価した。
in vivo 異所性中皮腫および同所性中皮腫モデルマウスの樹立および治療実験 5−8 週齢の雄ヌードマウス(KSN/Slc) の皮下(異所性)または胸膜腔(同所性)に 5x106個の MPM 細胞を注射した。皮下に結節を作る異所性中皮腫モデルにおいては腫 瘍サイズが 200mm3に達してから、胸腔内に腫瘍が形成される同所性中皮腫モデルにお いては細胞移植後 14 日目に治療実験を開始した。
免疫組織学的評価
Ki-67 染色、TUNEL 染色、CD31/α-SMA 染色および HIF-1α染色を MPM 異所性中皮腫 モデルの全てのサンプルに対して評価した。
droplet digital PCR 解析
異所性中皮腫モデルの腫瘍組織から RNA を抽出し、HIF-1α mRNA について ddPCR XQ200system(Bio-Rad)を用いて解析した。
結 果
・MSTO-211H(二層型)および MESO-4(上皮型)細胞の放射線感受性は類似していた。
・胸膜腔に悪性胸膜中皮腫細胞を播種した MSTO-211H 同所性中皮腫モデルにおいて、
α-SQAP は担がんマウスの予後を有意に改善した。
・皮下に悪性中皮腫細胞の結節を作る MSTO-211H 異所性モデルにおいて α-SQAP の放 射線増感効果が認められたが、 MESO-4 モデルでは認められなかった。
・MSTO-211H 異所性中皮腫モデルにおいて α-SQAP は Ki-67 陽性率を低下させ、TUNEL 陽性率を増加させた。また CD31/α-SMA 染色の結果、α-SQAP 投与群は腫瘍血管の正常 化が認められた。同時に、HIF-1α染色により同タンパクの発現抑制が認められた。
・上記結果と同じようにα-SQAP はHIF-1α mRNA を有意にダウンレギュレーションし た。
考 察
今回我々は、α-SQAP が中皮腫モデルに於いて腫瘍組織の細胞増殖を抑制しアポトー シスを促進すると同時に腫瘍組織における再酸素化を誘導することを証明した。本実 験では、その詳細なメカニズムの解明までには至っていないが、HIF-1 を介した低酸 素応答システムの関与が強く示唆された。
α-SQAP は腫瘍組織の微小環境を変化させることで中皮腫細胞に対する放射線増感 剤としても有効である可能性があり、今後の更なる研究により、悪性胸膜中皮腫の実 臨床において有害事象の少ない有効な治療薬としての使用が期待できる。