早稲田大学大学院国際情報通信研究科
博 士 論 文 概 要
論 文 題 目
通信放送融合におけるマルチメディアコンテンツの適応的配 信方式に関する研究
Study on Adaptive Multimedia Content Distribution Method in Telecommunication and Broadcasting Convergence
申 請 者
三代沢 正
TADASHI MIYOSAWA
国際情報通信学専攻 マルチメディア表現研究Ⅱ 専攻名・プロジェクト名
(課程内のみ)
2 0 0 9 年 2 月
情報通信技術の進展に伴い,PC をはじめとする,ディジタル機器がオフィス環境のみ ならず,家庭環境にも浸透し,ディジタルテレビを筆頭とする情報家電が急速に普及した.
ホームネットで各端末を有機的に結合し,ディジタルコンテンツを相互利用可能とする環 境は整いつつある.また,コンテンツプロバイダにとってはワンソース・マルチユースが 実現できれば,巨額なコンテンツ制作費を早期に回収でき,次の新たなコンテンツ制作に かかれるというメリットもあり,コンテンツ利用者,コンテンツ製作者双方にとっての通 信・放送の融合のメリットは容易に理解される.しかしながら,通信と放送の融合と言わ れて久しいが,いまだ具体的なイメージが定まっていないのが現実である.現在のレベル としては,通信・放送の連携が可能となり,通信・放送融合の初期レベル(レベル1)に 到達できた段階といえる.今後は,NGN のオープンなインタフェースを使用し,横串的 サービス・アプリケーションプラットフォームが実現されれば,メディア横断的融合サー ビスが構築可能となり,通信・放送融合サービスの拡大・普及期に入ると思われる(レベ ル2).さらには,NWGNが導入されれば,通信・放送などの伝送路,ユーザニーズやネ ットワーク環境,さらにはコンテンツの内容に応じて適応的,動的に選択・最適化され配 信可能となることが期待され,本来の通信・放送融合レベル(レベル3)に到達する.こ のような,将来の通信放送融合レベル2,レベル3に必要な要素技術の開発が進められて いる.
以上のような背景の中,本論文では,通信・放送融合環境における,円滑で最適なマル チメディアコンテンツの利活用の実現に向け,マルチメディアコンテンツの最適配信シス テムの構築に必要な要素技術のうち,伝送路によらない,あるいは両者を最適かつ適応的 に利活用するサービス/コンテンツ/配信システムを実現することを目的とし,マルチメデ ィアコンテンツの通信・放送融合適応的配信手法,利用者の満足度を最大化するための通 信・放送融合 QoE 評価手法,また増加し,複雑化するネットワーク端末管理,運用の円 滑化のための遠隔支援手法について検討している.本論文は,これらに関する一連の研究 成果をまとめたものであり,以下の6つの章より構成されている.
第1章「序論」では,本研究の背景及び目的を明らかにし,本論文の構成を述べている.
第2章「通信・放送融合マルチメディアコンテンツ配信方式と本研究の位置づけ」では,
今日の通信・放送分野における環境について述べ,それに基づき,本研究の背景と必要性 を述べている.また既存のあるいは現在進行しつつある研究開発動向を,それぞれ,通信 側と放送側からのアプローチとして整理し,今後のマルチメディアコンテンツの最適配信 実現のために必要となる検討課題を整理し,その中における本論文の位置づけを示してい る.
第3章「放送印刷サービスにおける適応的配信方式」では,放送印刷の提案を例題とし て用い,通信,放送のそれぞれの特質を最大限に生かした通信・放送融合における適応的 配信手法の提案を行っている.現在の日本におけるディジタル放送規格ISDB-Tの放送規 格を拡張し,放送で印刷コンテンツを送出する方式と,印刷コンテンツのみを通信から取 り込む方式が新たに規格化されたが,それをさらに拡張した通信・放送連携方式ともいえ る方式を提案し,評価を行うことによって,より一般的に,同報性を持つが個別にデータ
を送るには適さない放送メディアと,同報性は低いが個別にデータを送出できる通信メデ ィアを適応的に連携させながら利用する手法を提案している.
今回は放送番組連動印刷サービスを一つの例として取り上げ,同環境下における検討,
開発,実施と評価を行い,ロジックの実証を行っているが,放送印刷番組に限らず,より 一般的な通信・放送連携番組でもこの通信・放送融合における適応的配信手法は適用可能 なことを示している.
通信・放送融合環境下でのマルチメディア配信の最適化手法として,前述した通信・放 送融合レベル 1 の現在の環境下でも,ディジタル放送(ISDB-T)規格のデータ放送におけ る放送規格を拡張することにより,放送印刷サービスにおいて,端末側が適応的に通信・
放送の伝送路を選択して配信可能となることを示している.これによって,次世代の通 信・放送融合レベル2の環境下では,送出システム側にSmart Media Serverとも言うべ きよりインテリジェントなロジックを組み込むことにより,ダイナミックに適応的配信を 行えることを確認している.さらにはレベル3の環境下においては,ネットワークにこの ような適応技術を埋め込み,ユーザとプロバイダの両者ともに意識することなくこのよう な適応技術が自律的に動作するようになることを指摘している.
トライアルと評価の実施に当たってはディジタルBS放送局と共同し,ディジタルBS 放送で生活に役立つ情報を番組と連動して印刷できる番組を制作し,実放送でトライアル と評価を行っている.さらに,実放送を使って実験できない部分については実験室でのシ ミュレーション環境を構築し,通信・放送融合方式による放送印刷データ適応的配信方式 の提案と開発をおこない,本提案方式の有効性を確認している.
第4章「通信・放送融合配信システム最適化のためのQoEモデル」では,通信・放送 融合環境下における,マルチメディアコンテンツ配信に対する統合QoEモデルの提案を 行い,シミュレーションによりその評価を行っている.
モデル化するに当たっては,通信・放送融合サービスモデルを定義し,その中のSmart
Media Server機能というべきアルゴリズムによって,マルチメディアコンテンツが伝送
路に対して最適にコンテンツを分配して送出されるモデルを想定している.また,コンテ ンツは階層化されたBMLの構造を仮定し,ダウンロード系のサービスについてモデル化 を行い,評価を行ったが,ストリーミング系のサービスに関しては新たな検討が必要であ ることを指摘している.
通信と放送それぞれに送出されたコンテンツに対して,顧客視点でそれぞれの広義の意 味でのQoEを定義し,さらに両者を統合したQoEを導出している.これによって伝送路 としての通信と放送の利用比率により,どのように統合QoEが変化するか,そして統合 QoE を最大化させる,最適配信バランスがシミュレーションによって導出可能であるこ とを確認している.
このような手法により,上述の,通信・放送融合レベル1の現在の状況においても,デ ィジタル放送(データ放送)と通信との連携による放送サービスが開始されているが,そ のようなサービスのQoEを評価し,最大化を図るための手法として有効であることを確 認している.
次にNGNサービスがより普及し,通信・放送融合レベル2の環境が実現すれば,伝送 路によらない最適配信サービスシステムの構築が進み,さらに,今後は通信・放送融合レ ベル3時代に向けて,コンテキスト・アウエアな最適配信技術の開発により,様々な状況 に応じて,多様な伝送路の中で最適な伝送路をネットワークが適応的に選択する適応型品 質制御機構というべき技術が開発される.このような技術開発に伴い,品質を評価し最適 化を行い,ユーザ満足度を最大化する本手法へのニーズは高まることを指摘している.
第5章「通信・放送融合サービスを支えるセキュアな遠隔支援技術」では通信・放送融 合環境において複雑化するシステム運用管理を,遠隔地から可能とするリモートアクセス,
リモートマネージメント技術について述べ,リモートアクセスサービスに必要なVNCと 追加されたユーザ管理機能について述べ,リモートアクセス・サービスプラットフォーム を開発し検証を行っている.
技術的には端末側とリモートアクセスサーバ側とのコネクションをどうやって,セキュ リティを確保しながら作るかが重要な課題であったが,数回のモデル構築実験を繰り返し ながら検証を行っている.
モデル1では SSH のポート転送機能,モデル2では SSH リモートポート転送機能,
モデル3ではSSHで中継サーバを使ったモデル構築実験を行っている,モデル4ではプ ロキシサーバに対応している.最終的にはモデル4をベースにユーザと支援者間のコミュ ニケーションはSSLで暗号化して実現することが一番合理的であることがわかり,この 中継サーバを“リレイ”として使い通信路はSSL で暗号化した遠隔支援システムを本研 究の提案方式とした.
この遠隔支援プラットフォーム開発では,アプリケーションとしてのVNCには大規模 なユーザ管理機能が実装されていないため,ユーザ管理機能の追加実装を行った.これに より大規模ユーザの実使用に耐えうるプラットフォームが実現できたことを確認してい る.
現在,NGN環境の中で,特にFG IPTVの中では,Remote Managementの標準化な どの議論が行われているため,今後は,NGN時代のリモートアクセス・サービスプラッ トフォームとしての提案として検討し,展開していくことが必要であることを指摘してい る.
第6章は「結論」であり,本論文で得られた成果をまとめ,考察するとともに今後の課 題について述べている.