博 士 ( 医 学 ) 大 滝 憲 一 学位 論 文 題名
左 心 補 助 人 工 心 臓 (LVAD) に よ る 心 筋 梗 塞 領 域 に 対 す る 補 助 効 果 とく に 再 梗塞 モ デル に おける 検討
学 位 論 文 内 容 の 要 旨
Iはじめに
補助人工心臓(ventricular assist device. VAD)と,不全に陥った心臓に対して,心臓ポ ン プ機能の一部または大部分を代行する機械的なポンプシステムである。左心補助人工心臓 (LVAD)による左心バイパスは ,急性心筋梗塞にみられる重 症心原性ショックに対して有効 な補助手段として,動物実験並びに臨床例において虚血心筋の回復も示されている。一方,急性 冠 動脈閉塞に対してPTCA, PTCRの施行例が増加しており, その救命率の上昇と共に,今後 は 再梗塞例が増加するものと考えられる。本研究では,犬を用いた再梗塞モデルにおいて,
LVADの 左 心 補 助 効 果 及 び 心 筋 梗 塞 範 囲 の 縮 小 効 果 に っ い て 検 討 し た 。
II実験方法
雑種成犬10頭を用い,静 脈麻酔下に左第5助間開胸にて心臓ヘ到達し,左冠動脈前下行枝 (LAD)の 灌流 域の 中心 部に1対の5MHz titanate―piezoelectric erystalを総着し,seg‑
ment lengthを持続的にモニ ターした。この方法によっ て,End―diastolic length (EDL) とEndーsystoliclーength (ESL)が同定され,segmental motionを示す%shortening は次のように算出した。
%shortening(%)二二 ニ(EDL→ESL)/EDL xi00
LAD第1対 角枝 より 中 枢側 にてター ニケットを装着し,LADを1時 間閉塞した後に再灌流し た。
次いで2週間後に再び同じ麻酔下に,前回と同様,左第5肋間開胸にて心臓ヘ到着した。左心
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房と下行大動脈間 に空気駆動ダイア フラム型ポンプを 装着した。
2回 目 の 実 験 は2群 に 分 け て 検 討 し た 。I群(5頭 ) は ,LADを120分 間 閉 塞 し , こ の 間 ポ ン プ は 駆 動 せ ず120分 後 に 再 灌 流 し た 。H群(5頭 ) はLVAD施 行 群 で ,LAD閉 塞15分 後 よ ル ポ ン プ の 駆 動 を 開 始 し ,LAD閉 塞120分 後 に ポ ン プ を 停 止 し ,LADを 再 灌 流 し た 。I群 ,H 群と も再 灌 流30分に て 犠牲 死させた。心臓を 摘出後,摘出心よ り両側心房と右心室 を除去し,左 心室のみとした。 これを房室間溝と 平行な1.O cmの切片標本に し,標本をNitro blue tetrzolium 溶 液(NBT)に 浸 し た 。 標 本 を 写 真 撮 影 し , プ ラ ニメ ータ で 求め た梗 塞 部の 面積 か ら梗 塞部 の 重量 を算 出 し, 全左 心 室重 量に 対 する 比(weight ratio)を百 分率 で 算出した。さ らに心内膜か ら 心 外 膜 ま で の 間 に お け る 梗 塞 部 の 割 合 を transmuralityと し て 求 め た 。
m実験結 果
1.初 回冠動脈閉塞の実験 成績
冠 動 脈 閉 塞時 のischemic segment lengthの 変化 とし て ,急 性心 筋 虚血 によ っ て,early systoleの 拡 大(bulging)お よ びmid―systoleにか け てゆ っく り した 短縮 ,early diastole に おけ る 急速 な短 縮 ,続 くdiastoleにゆ っ くり した 短 縮が みら れ た。 これ らischemic seg‑
ment lengthの 変 化 は , 再 灌 流 後 も 認 め ら れ た 。 冠 動 脈 閉 塞 後 に はsegment lemgthそ のも のの増大が認めら れ,再灌流後には 更に増大した。
2.冠 動脈再閉塞の実験成 績
%shorteningは,I群で は6.2土1.6%か ら冠動脈閉塞15分 後には1.9土1.8% に減少し,そ の後も漸減し,120分後に は0.4土1.5%と なり,再灌流30分後ではO.3土0.9%まで減少した。
皿群では7.7土1.9%から15分後には2.6土3.1%に減少し,120分後には2.7土1.9%となり|再 灌流30分 後 では3.6土1.9%で あ った 。再 濯 流30分後 に おい てI群 はH群に 比し有意に低下して いた。
EDLは ,I群 で冠 動 脈閉 塞15分 後に は102.7土2.5%に なり,その後漸増 し120分後 には105.1 土1.8%,再灌 流30分後において105.7土2.3%であった。皿群は冠動脈閉塞15分後に102.1土1. 64% にな り ,そ の後 ポ ンピ ング の 間は 冠動 脈 閉塞 前と ほ ば同 じ値を維持し たが,再灌流後増大 し ,再 灌 流30分後 において102.2土1.0%まで あった。再灌流30分 後において,I群と矼群間に 有意差はなかった 。
Area of infarctionはweight ratioおよ びtransmuralityで 評価 した が ,weight ratio では,I群10.9土3.6%,u群11.3土1.4%であり,両 群の間に有意差はなかった。Transmurlity
では,I群81.2土8.9%,II群61.O土5.1%で,両群の問に有意差がみられた。
W考 察
VADは , 重 症 心 不 全 に 対 し 有 効 な 治 療 法 で あ る が, 特 にLVADに よ る 左心 バ イ パ ス は, 急 性 心 筋 梗 塞 後 の重 症 心 原 性 ショ ッ ク に 対 して 有 効 に 補 助手 段 で あ る 。LVADによる 虚血心 筋の 回 復は ,動物 実験並 びに臨 床例 におい ても示 されて いるが ,こ れらの 研究の 多くは,循環状態の 維 持 を 心 拍 出 量と 動 脈 圧 によっ て評 価し, 心臓の‑unloadingは ,心筋 の酸素 消費 量や左 室圧の 減 少に よって 評価さ れてい る。 全心機能を反映するこ、れらのパラメータでは,補助循環によって 虚 血心 筋の心 機能が 正常に 保た れてい るかど うかは ,明ら かに できな い。補 助循環による虚血心 筋 の 回 復 は , 局 所 心 筋 の 動 き と 代 謝 か ら 正 し く 評 価 さ れ ね ば な ら な い 。 本 研 究 で は , 虚 血 心 筋 に対 す る 左 心 バイ パ ス の 効 果を %shoteningやEDLの局 所 心 筋 の 動 態 を 示 す パ ラ メー タ と ,Tetrazolium法で 示 さ れ る 心筋 梗 塞 範 囲 から 評 価した 。2回目の 冠動 脈 閉 塞で は,%shorteningはI群 で6.2土1.6% から1.9土1.8%ヘ低 下し, その 後akinesisの 状 態が 続き, 再灌流 によっ ても 殆ど変化しなかった。u群では7.7土1.9%から2.6土3.1%ヘ低下 し たが ,その 後はほ ば同じ 値が 続き,再灌流後は若干増大し,3.6土1.9%まで回復した。すなわ ち , 左 心 バ イ パス に よ っ て 虚血 部 心 筋 の 収縮 能 は 保 た れて い た と 考 えら れる。EDLはI群 で10 2.7土2.5%へ 増大し ,その 後徐々 に増大を続け,再灌流は105.7土2.3%となった。H群では102.
1土1.6%ま で増大 したが ,左心 バイ パスに よって 初期値 とほ ば同じ 値で推 移し,再灌流後102.2 土1.O% まで 増 大 し た が,I群 よ り は有 意 に 低 値で あっ た。局 所心筋 の動態 からみ ると ,LVAD に よ る 左 心 バ イパ ス に よ って虚 血領 域の心 筋収縮 能は保 たれて いた と考え られ, 左心バ イパ ス の 有効 性が示 された 。
急性心 筋梗塞 に対す る左 心バイ パスの 有効性 にっ いては ,循環 動態の 維持のみならず,梗塞範 囲 の 縮 小 効 果 に対 し て も 多 くの 研 究 が な され ,Epicardial ST mapping,心 筋酸素 消費量 ,心 筋pHの 変 化 ,Tetrazolium法 , 左 室 造 影等 に よ っ て 有効 性 が 証 明 され て い る 。 今回 の 実 験 で は ,LVADに よ る 梗 塞 範 囲 の 縮 小 効 果は ,weight ratioで みる とI群 とH群 に 差 は 認 めな か っ た 。こ れは冠 動脈の 灌流域 に差 があり ,冠動 脈閉塞 による 虚血 領域に バラツ キがあるためと考え ら れ た 。 し か し ,transmuralityで み る とI群 よ りH群 の 方 が 低値 を 示 し て おり ,LVADに よ る 梗塞 領域の 縮小効 果は明 らか であっ た。
左 心 バ イパ ス の 有 効 なメ カ ニ ズ ム は ,左 室decompressionによ る仕事 量の減 少であ り,新 た な 副 血 行 路 を 開 き 虚 血 領 域 へ の 血 流 が 再 分 布 さ れ る も の と 考 え ら れ る 。
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IV結 語
1.雑 種 成 犬 を 用い て 心 筋 梗 塞モ デ ル を 作 成 し,LVADに よ る 梗 塞 領域 に 対 す る 補助効 果に っ い て 検 討 した 。
2.I群 (対 照群) では, 再灌 流30分に おいて 虚血 部心筋 の収縮 カは回 復を 示さな かった が,
H群 (LVAD群) で は , 収 縮 カの 低 下 は 認 めら れ る が ,I群 と 比 べ て 有意 に 保 持 さ れて い た 。
3.NBT染 色 に て 求 めた 心 筋 梗 塞 範囲 は ,transmuralityで 検 討 す る とH群 の 方 が 小さ か っ た 。
4.LVADは , 再 梗 塞時 に お い て も 虚血 部 心 筋 の 収縮 力 保 持 と 梗塞 範 囲 の 縮 小に 有効と 考え ら れ た 。
学位論文審査の要旨 主査 教授 田邊達三 副査 教授 劔物 修 副査 教授 北畠 顯
左 心 補助 人 工 心 臓 (LVAD)は 急 性 心 筋 梗 塞に み ら れ る 心原 性 シ ョ ッ クに 対 し て 有 効な 機 械 的 補助手 段とナ ょっ てきて いる。 しかし再梗塞例に対する研究はほとんどない。本研究では,犬を 用 い た 再 梗 塞モ デ ル に おい て,LVADの左心 補助効 果及 び心筋 梗塞範 囲の縮 小効果 にっ しゝて 検 討 した。
初 回 実 験 に お い て , 左 冠 動 脈 前下 行 枝(LAD)を1時間 閉 塞 し た 後 に再 灌 流 し , 再梗 塞 モ デ ル を作成 した。
2回 目 の 実 験 は2週 間 後 に ,2群 に 分 け て 検 討 し た 。I群 ( 対 照 群 :5頭 ) は ,LADを120 分 間 閉 塞 し , こ の 間 左 心 房 と 大 動 脈 の 間 に 装 着 し たLVADは 駆 動 し な か っ た 。u群 (LVAD 群 :5頭 ) は ,LAD閉 塞15分 後 にLVADを 駆 動 し ,LVD閉 塞120分 後 に 停 止 し ,LADを 再 灌 流した 。
左 心 室に1対 の5 MHz titanate・piezoelectric crytalを 装着し ,局 所の心 筋長を 連続的 に モ ニ タ ー し た。 こ の 方 法 によ っ て ,End−diastolic length (EDL) とEnd―systolic length
(ESL)が 同 定 さ れ ,segmental motionを 示 す %shorteningは 次 の よ う に 算 出 し た 。 %shortening(%) 二ニ(EDL ‑ ESL)7EDL xi00
I群 ,II群と も 再灌 流30分に て犠 牲死さ せた。 心臓を 摘出後 ,左 心室の みとし ,1.0cmの切片 標 本にし た。
こ れ ら をNitro blue tetrazolium溶 液(NBT) に 侵し , プ ラ ニ メ ータ で 求 め た 梗塞部 の面積 から 梗 塞 部 の 重量 を 算 出 し ,全 左 心 室重量 に対 する比(weight ratio)を 百分 率で算 出した 。さ ら に 心 内 膜 か ら 心 外 膜 ま で の 間 に お け る 梗 塞 部 の 害 ゛ 合 をtransmuralityと し て 求め た 。 実験結 果は, %shorteningは,I群で は6.2土1.6% から 冠動脈 閉塞15分後には1.9土1.8%に 減少し ,その 後も漸 減し,120分後にはO.4土1.5%となり,再灌流30分後ではO.3土O.9%まで減 少した 。H群では7.7土1.9%から15分後には2.6土3.1%に減少し,120分後には2.7土1.9%とな り,再 灌流30分 後で は3.6土1.9% であっ た。再 灌流30分後に おいてI群 はH群に比 し有意に低下 して い た 。EDLは ,I群で 冠 動 脈 閉 塞15分 後 に は102.7土2.5% にな り , そ の 後漸 増し120分 後 に102.1土1.64%に なり ,その 後ポン ピング の間は 冠動 脈閉塞 前とほ ぼ同じ 値を 維持したが,再 灌流後 増大し ,再灌 流30分 後にお いて,102.2土1.O% まであ った 。再灌 流30分後 にお いて,I群 とH群 間 に 有 意差 は な か っ .た 。Area of infarctionはweight ratioお よ びtransmuralityで 評価 し た が ,weight ratioで は,I群10.9士3.6% ,II群11.3土1.4%であ り,両 群の 間に有 意 差は な か っ たdTransmuralityで は,I群81.2土8.9% , 皿 群61.0±5.1% で , 両 群の間 に有意 差がみ られた 。
本 研 究 で は ,LVAD応 用 に よ る 再 梗塞 虚 血 心 筋 に対 す る 効 果 を 検討 し , %shorteningで 示 され る 心 収 縮 性は 保 た れ 梗 塞範 囲 の 縮 小 も認 め た 。 こ れ らの 結 果 か ら みてLVADは 再梗 塞時に おいて も循環 動態の 維持の みな らず, 心筋虚 血によ る心 筋障害 を滅少 させる ものと 考えられた。
左心 バ イ パ ス が有 効 な メ カ ニズ ム は , 左 室decomperssionによ る仕事 量の減 少であ り, 新たな 副血行 路を開 き虚血 領域へ の血 流が再 分布さ れるも のと 考えら れた。
口頭発 表にお いて ,劔物 教授よ り再灌 流の循環動態,モデルの選択,臨床応用に向けての展望,
北畠 教 授 よ り 実験 条 件 の 設 定, 古 舘 教 授 より 重 量 比 で の 成績,EDLの成績 などに っいて 質問が あった が,申 請者は おおむ ね妥 当な回 答をな した。 また 劔物, 北畠両 教授に は個別 に審査を受け 合格と 判定さ れた。
機械的 心臓補 助手 段を心 筋梗塞 側に応 用して ,そ の有用 性を確 かめた 本研 究は臨 床的意義が大 きく学 位授与 に値す ると考 える 。
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