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博 士 ( 工 学 ) 熊 谷 純 学 位 論 文 題 名 Radical Ions of Polysilane

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Academic year: 2021

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博 士 ( 工 学 ) 熊 谷    純      学 位 論 文 題 名

Radical Ions of Polysilane

(ポリシランのラジカルイオン)

学 位 論 文 内 容の 要 旨

  ボリシランはSi‑Si結合で繋がった主鎖と有機官能基の側鎖とからなる1次元の高分 子の 総称 であ る。 その主 鎖のSi‑Siび結合から構成される価電子帯と伝導帯との間の バン ドギ ャッ ブは3〜 4eV程 度と 狭く 、バ ンド 幅も数eV程度と広いことから、1次元 半導 体や3次の 非線 形光 学材 料な ど、 ″共 役型 高分子 に似 た特 性を 有す る新 たな 機 能性 電子 材料 とし て脚光 を浴 びて いる 高分 子で ある 。しかしながら、期待されてい る こ れ ら の 機 能 が 発 現 さ れ る た め に は 、 価 電 子 帯 の 最 上 に あ る 最 高 被 占 軌道 (HOMO)あ る い は 伝 導 帯 の 底 に あ る 最 低 空 軌 道(LU MO)がSi‑Si主 鎖 に 沿 っ てげ 共 役 し た 電 子 構 造 を有 し て い る こ と が 前 提 に な る 。HOMOあ る い はLUMOの 電 子構 造は 、こ れま で主 に光吸 収・ 及び 発光 スベ クト ルを 基に議論されてきたが、両スベ ク ト ル と も基 底 状 態 、 励 起 状 態 間の 遷移 を観 測して いる ため 、HOMOの み、 また は LUMOのみの電子構造を観測することはできなかった。

本 研 究 で は、 低 温 固 相 中 の ポ リ シラ ンを 放射 線によ って1電 子還 元ま たは1電子 酸 化 す る こ とに よ り 、 中 性 ポ リ シ ラン のLUMOに 不対電 子が 入っ たラ ジカ ルア ニオ ン ある いはHOMOから 電子が1個 取れ て不 対電 子の 残った ラジ カ形 カチ オン をつ くり 、 そ の 電 子 スピ ン 共 鳴 (ESR)ス ベ クト ルお よび 光吸収 スベ クト ルか ら、 ラジ カル ア ニ オ ン お よ び カ チ オン の 不 対 電 子 軌 道(SOMO) の電 子 状 態 を 解 明 し た ふESRは、

同一 電子 軌道 内で の電子 スピ ン副 準位 間の 遷移 を観 測するため、光吸収スベクトル とは 異な って 基底 電子状 態の 情報 のみ を観 測す るこ とが でき る。 従っ て、1電子 還 元・ 酸化 され たボ リシラ ンをESRで観 測す るこ とによ り、 不対 電子 をプ ロー ブと し て 中 性 時 のHOMO. LUMOの 電 子 状 態 の 情 報 の み を 得 る こ と が で き る 。 本 博 士 論 文で は 、 先 ず 放 射 線 化 学的 ラジ カル イオン 作成 法が 安定 なポ リシ ラン ラ ジカ ルイ オン をつ くるの に適 した 方法 であ るこ とを 明らかにし、次に同手法によっ て低 温マ トリ ック ス中に 生じ たポ リシ ラン ラジ カル イオ ンのESRお よび 光吸 収ス ベ クト ルに 対す るポ リシラ ンの 主鎖 の長 さの 効果 から 、主鎖が長くなると不対電子が 主鎖 の一 部に 局在 化する よう にな るこ とを 明ら かに した。本博士論文の構成とその

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概要は以下の通りである。

  第1章では、ポリシランに関する研究の歴史、およびポリシランの基本的な電子構 造、電子伝導、非線形光学特性、放射線およぴ光レジスト材料への応用に関するこ れまでの研究成果をまとめた。また、これら過去の研究をふまえ、本研究の目的に ついて述ぺた。

  第2章では、ポリシランヘの放射線照射効果について研究を行い、ポリシランの放 射線に対する安定性について議論した。光によるポリシランの分解機構については これまでにいくつかの報告があるが、放射線照射による分解については殆ど研究例 がなく、その分解機構については未知のままであ、った。本章では脱気したボリシラ ンに77〜30 0Kの温度範囲でy線照射し、生成ラジヵルと照射後の分子量変化につ いてその温度依存性を調べた。その結果、ポリシランは175〜300Kでは―定の効率 で分解するが、143Kではその分解効率は下がり、77Kでは全く分解しないことがわ かった。このことによって、ラジカルイオンの生成法として放射線化学的手法が適 用できることが明らかになった。また同手法によって低温固相中につくったラジカ ルイオンは安定であるので、測定スベクト少に対するポリシランからの分解生成物 の影響は無視できることもわかった。次に、300Kにおけるy線照射線量とポリシラ ンの分子量変化について調べた。その結果、19kGy以上の照射線量では一定の効率 で分解が進行したが、それ以下の線量では約10倍の効率で分解が進行していること がわかった。これiまポリシラン主鎖中に切断されやすい箇所が存在し、主鎖に吸収 さ れ た 放 射 線 エ ネ ル ギ ー が そ の 箇 所 に 集 中 す る た め で あ る と 結 論 し た 。   第3章では、4〜6量体のオリゴシランとポリシランのラジカルアニオンの光吸収 およびESRスベクト ルを比較し、ラジカルアニオンのSOMOの電子構造について調 ぺた。光吸収スベクトルは分子量増大とともに低エネルギー側にシフトするが、高 分子で|まその分子量から予測されるほどにはシフ卜しないこと、およびrESRスベク トルのRの異方性は、不対電子の非局在化のため分子量増大とともに減少するが、高 分子ではその分子量から予測されるほどには減少しないことから、オリゴシランに おいては、過剰電子は主鎖中を非局在化しているが、ポリシランにおいては主鎖の 一部に局在化していることを明らかにした。ポ1Jシランの主鎖が枝分かれしている ようなdefectか、高分子の高次構造の歪みによってできたSi‑Si結合の延伸した箇所 の周辺に、過剰電子が局在化しているものと考えられる。また、オリゴシラン・ポ リシランラジカルアニオンのSOMOの軌道は、これまで考えられていたようなSi原 子のsp混成軌道から構成されるび゛ではなく、これに側鎖の反結合性のSi‑C軌道が加 わってできた、Si原子の3p軌道から構成されるps eu do‑汀型分子軌道になっているこ とをESRスベクトルの解析から明らかにした。

  第4章では、オリゴシランとポリシランのラジカルカチオンの光吸収およひESRス ベクトルを比較し、ラジカルカチオンのSOMOの電子構造について調べた。アニオ ンと同様、光吸収スベクトルは分子量増大とともに低エネルギー側にシフトするが、

高分子ではその分子量から予測されるほどにはシフトしないこと、および側鎖のプ

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ロトンによって生じるESRスベクトルの線幅は、不対電子の非局在化のため分子量 増大とともに減少するが、高分子では6個のSi上に局在化した不対電子に対応する線 幅を与えることから、アニオンと同様、カチオンにおいても不対電子は主鎖の一部 に局在化していることを明らかにした。

第5章は結論であって、本研究を総括すると共に、今後ポリシランに期待できる機 能性について言及した。

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学位論文審査の要旨 主 査    教 授    吉田    宏 副 査    教 授    横田 和明 副 査    教 授    山崎    巌 副査   助教授    市川恒樹

学 位 論 文 題 名

Radical Ions of Polysilane

(ポリシランのラジカルイオン)

  ボリシラ ンはSi−Siの主鎖結合からなる高分子で、そのa共役に基づく特異な性質の ゆえに、一次元半導体、非線形光学材料、光あるいは放射線レジス卜材料のような新し い機能性材料として興味を集めている。本論文は、このポリシランに対する放射綜照射 効果を明らかにし、さらに、放射線化学的手法によルポリシランのラジカルアニオンお よびラジカルカチオンを生成して、それらを通してポリシランの電子的性質を明らかに し、放射線レジス卜材料あるいは電子材料としてのポリシランを応用するための基礎を 得 る こ と を 目 的 と し た も の で 、 以 下 に 掲 げ る5章 か ら 構 成 さ れ て い る 。   第1章は序 論で、ポリシランに関する研究の歴史をまとめている。ポリシラン主鎖骨 格の電子構造、主鎖に沿った正孔移動による電気伝導、非線形光学特性、光あるいは放 射線照射による分解に関するこれまでの研究成果を検討し、さらに、これらの過去の研 究を踏まえた本研究の目的についても記述している。

  第2章は、 ポリシランへの放射綿照射効果についての研究結果をまとめており、ポリ シランの放射線に対する安定性について検討している。光照射によるポリシランの分解 機構にっいてはこれまでにいくっかの研究例があるが、放射線照射による分解機構につ いては殆ど研究例がなく、放射線分解の機構は未知のままであった。本研究おいては、

ボリシラ ンを真空下で77〜300Kの温度範囲において7縁照射し、生成するラジカルの構 造と生成 量および 照射によ る分子量 変化が調べられてた。また、300Kにおけるァ線照 射線量とボリシランの分子量変化との関係が詳細に調べられた。その結果、ポリシラン は放射線分解型の高分子で、照射により主鎖切断が起こるが、切断の効率が照射温度に 依存し、低温では分解が抑制されることが初めて明らかされた。また、照射初期では切 断効率が著しく高いが、照射線量が増加すると効率が低下して一定値に達することが見 いだされ た。ESR法により観測された生成ラジカルの挙動と併せて、ポリシランの放射 線分解っいてもっともらしい化学反応機構を提案している。

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  第3章は、ポリシランのラジカルアニオンの電子状態を明らかにした研究をまとめて いる。研究を進めるにあたっては、オリゴシランのラジカルアニオンの電子状態をあわ せ検討し、それとの詳細な比較によルポリシランアニオンラジカルの性質を明らかにし た。オリゴシランとポリシランのラジカルアニオンの光吸収スペク卜ルがよく似ている こと、ESRスペク卜ルのgの異方性の大きさが、過剰電子が非局在化するほど小さくなる という実験事実を基礎に、4〜6量体のオリゴシランにおいては、過剰電子が主鎖中を非 局在化しているが、ポリシランにおいては6個程度のSiからなる主鎖の部分に局在化し ている

ことを明らかにした。ボリシラン中において過剰電子が高分子主鎖の一部分に局在化し ていることは、今までの常識を破る新しい知見である。さらに、gテンソルの解析から、

オリゴシランおよびポリシランのラジカルアニオンにおいて過剰電子が占めるSOMO軌道 は、中性親分子のSi−Si結合の〇*軌道(Spy)ではなく、側鎖の反結合性Si−C軌道が混っ てできた疑似だ(pい)軌道であることを明らかにした。

  第4章は、ポリシランラジカルカチオンの電子状態を明らかにした研究をまとめてい る。ここでも、オリゴシランとの比較により検討を進めている。オリゴシランのラジカ ルカチオンの不対電子が占めるSOMO軌道は、主鎖と同じ方向に配向した3px軌道であり、

そのESRスペクトルは、側鎖のロ水素による超微細分裂の重なりによる幅広い1本線スペ ク卜ルであることを確かめた。そして、主鎖が長くなるにっれて、超微細分裂に寄与す るp水素 の数 が増 える とともに1個ごとの口水素の寄与は減少するため、スペク卜ル幅 は狭くなることを見いだした。ESR線幅を側鎖のロ水素の超微細分裂によるとするモデ ルにしたがって、2量体から6量体までのオリゴシランのラジカルカチオンの実測ESRス ペクトルの線形および最大半値幅のいずれをも統ー的に理論計算により再現した。これ より、4〜6量体のオリゴシランラジカルカチオンの正孔は主鎖中を非局在化しており、

その程度は最大半値幅の大きさで評価できることが明らかされた。ポリシランのラジカ ルカチオンから観測されるESRスペクトルついての同様の理論的解析から、ポリシラン ラジカルカチオンの正孔は、約6個のSi原子からなる主鎖の部分に局在化していること が明らかされた。このような電子あるいは正孔の局在化は、もとのポリシランにおいて 価電子がa共役により非局在化していることからの類推とは相容れない知見で、ポリシ ランの電気伝導性との関連できわめて興味深い新知見である。

  第5章は結諭で、本研究の成果を総括している。さらに、本研究の結果をもとに、機 能 性 材 料 と し て ポ リ シ ラ ン に 期 待 さ れ る 性 質 に つ い て に つ い て 言及 し て い る 。   これを要するに、本研究は、有望な新しい機能性高分子と目されているポリシランに 対する放射線照射効果とそれ電子的性質を明らかにしたもので、材料化学の発展に寄与 するところ大きいものと考えられる。

  よって、著者は、北海道大学博士(工学)の学位を授与される資格あるものと認める。

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