博 士 ( 医 学 ) 太 田 薫 里 学 1tL 論 文 題 名
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Association Between a Variant of the Glutathione S‑transferase Pl (GSTPI) gene and Hypertension in Pregnancy in Japanese; Interaction with Parity, Age and Genetic Factors.
( 日 本 人 に お け る グ ル タ チ オ ンS− ト ラ ン ス フ ェ ラ ー ゼPl (GSTPl) 遺 伝 子 多型 と 妊 娠高 血 圧症 の 関 連; 経産回数、 年齢、遺 伝的要因 との交絡 )
. 学 位 論 文 内 容 の 要 旨
妊娠中毒症 は、妊娠 中に高血 圧、蛋白尿、浮腫のいずれか1っあるいは2つ以上を発症 する、周産期医学・母子保健学における主要な対策疾患である。近年、その症状の中でも 高血圧の母児に与える影響が大きいため、高血圧を主症状とした妊娠高血圧症(HP)の概 念が提唱さ れている 。HPは、複 数の遺伝要因と環境要因が絡み合って発症する「多因子 疾患」である。すなわち、母体の妊娠に対する適応性、胎盤の生理、母児間応答、免疫系 などの妊娠時に特有な因子が、昇圧系、降圧系、脂質代謝、薬物代謝、血管内皮系、凝固 系などに複雑に修飾を加えた結果発症すると考えられている。
日 本 人 のHPに 関 連 す る 遺 伝 要 因 と し て は 、 近 年 の 分 子 生 物 学 の 進 歩 に よ り 、 Angiotensinogen (AGT)遺伝 子Met235Thr多型、Endothelial Nitric Oxide Synthase (NOS3)遺伝子多 型Glu298Asp多型が報告され、病因・病態の解明、予防医学への応用が 期待されている。一方、最近オランダにおいてGlutathione S‑transferase Pl (GSTP1)遺 伝子Ile105Val多型とpreeclampsiaとの関連 が報告さ れた。Va1105のホモ(Val/Val)の 頻度が、対照の5%に対してpreeclampsiaでは14%と有意(pく0.05)に高かった。GSTP1 遺伝子Ile105Val多型では、Va1105アリルを持つ者は解毒能カが弱いことが報告されてい る。しかし、日本人においては、今までに本症と薬物代謝酵素遺伝子多型との関連は報告 されていな い。本研 究では、 (1)日本 人のHPとGSTP1遺 伝子Ile105Val多型との関連、
およ び(2)初産重 症HPにおけ るGSTP1遺伝子 多型と他 の要因との 交絡・共 同作用を 検 討することを目的とした。
対象は、1995‑2001年までの間に、北海道大学医学部附属病院及びその関連病院におい て妊娠・分 娩管理を 受けたHP131例 (初産80例/経産51例、母体年齢;29.9土0.5歳)、
(重症HP110例( 初産69例/ 経産41例、母体年齢:29.9土0.5歳)を含む)、正常妊娠対 照327例(初産191例/経産136例、母体年齢:29.1土0.3歳)であった。腎疾患、糖尿病、
羊水量異常、先在する高血圧、胎児奇形合併例は除外した。HPの診断は、National High Blood Pressure Education Program Working Group(1990)の基準に従い、高血圧は@
妊娠 に より 収 縮 期血 圧 が30mmHg以 上上 昇 、◎ 拡 張 期血 圧 が15mmHg以 上上昇、 ◎妊娠 20週 以 後140/9 0mmHg以 上 を示 し た 場合 と し、 蛋 白 尿は24時 間 尿 で0.3g( 随 時尿 で
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30mg/dl)以上、浮腫は体重増加が500g/週以上とした。
遺 伝子 タイ ピン グは 、PCR‑RFLP法を 用い て行 った 。す なわ ち、 全血Imlか ら遺伝子 DNAを 抽出 した 後、GSTP1遺伝 子多 型は 、forward primer(5 ‑ACC CCA GGG CTC TAT GGG AA‑3 ) 、reverse primer(5 ‑TGA GGG CAC AAG AAG CCC CT‑3 )を用いて、
denaturationを94℃ で30秒 、annealingを56℃ で30秒 、polymerizationを72℃で30 秒 と し て 、40サ イ ク ル のPCRを 行い 、そ の産 物を 制限 酵素Bsm Alで55℃、4時 間の 反 応の 後、 切断 の有 無(Ileは176bp、Valは85bpと91bpのバ ンド の出 現) を10%アクリ ルア ミド 電気 泳動 法で確認した。AGT遺伝子多型、NOS3遺伝子多型の遺伝子タイピング も、 従来 報告 され てい るPCR‑RFLP法、 すな わち それぞれの多型部位を挟むプライマー を 設 計 し 、AGT遺 伝 子 多型 はTthlll1、NOS3遺 伝子 多型 はBan IIによ る酵 素反 応の 結 果により行った。
統 計 解 析 方法 は 、HPと 対照 におけ るGSTP1遺伝 子Ile105Val多 型の 頻度 をそ れぞ れ Ile/IleとIle/Val+Val/Valの2群に分け、ズ2検定(自由度1)を用いて行った。また、初 産 重 症HPとGSTP1遺 伝 子多 型と の関 連を 、高 年妊 娠、 高血 圧の家 族歴 、妊 娠前 のBMI
≧24、 AGT遺 伝 子TT型 、NOS3遺 伝 子 GA十 AA型 の 有 無 ご と に 検 討 し た 。 HPと対照におけるGSTP1遺伝子Ile/Val+Val/Val型の頻度は、HP 26%、重症HP 28%、
対照28%と、有意差はみられなかった。初産重症HPと初産対照における検討では、母体 年 齢 が35歳 以上 で は 、 初 産 重 症HP 63% 、初 産 対 照18%、AGT遺 伝子MM+MT型 では 、 初 産 重 症HP 50% 、 初 産 対 照26% 、NOS3遺 伝 子GA+AA型 で は 、 初 産 重 症HP 42% 、 初産 対照13% と、GSTP1遺伝 子Ile/Val+Val/Val型の頻度にそれぞれ有意差(pく0.05) がみられた。
今 回の 結果 あゝ ら、 日本人 のHPおよ びpreeclampsiaとGSTP1遺伝子Ile105Val多型と の間 には 、全 体と して は関連 がみ られ なか った が、 初産 の重 症HPにお いて は、GSTP1 遺 伝 子Ile/Val十Val/Val型 が 、AGT遺 伝 子TT型 と は 独 立に 、ま たNOS3遺 伝子GA十AA 型と は共 同作 用に より関連することが初めて明らかになった。GSTP1遺伝子Va1105型は 薬 物 代 謝 系 に お け るN02か らNOへ の 代 謝 能 カ を 弱 め 、NOS3遺 伝 子Asp298型 はNO 産生 を低 下さ せる こと から、 両者 は共 同し てNO産生を低下させることを通じてHPの発 症に 関わ って いる 可能性がある。また、AGT遺伝子T235型は、妊娠初期のトロホブラス ト不完全侵入およびらせん動脈狭小化など、NO産生低下とは異なった病態で発症に関わ ることが推測される。
今後は、このように、疾病の発症における複数の遺伝子多型の交絡・共同作用および関 連の独立性を詳細に検討していくこと、さらには、これらの遺伝要因と環境要因の交絡・
共同作用の検討が課題と考えられる。
学位 論文審 査の要旨
Association Between a Variant of the Glutathione S‑transferase Pl (GSTPl) gene and Hypertension in Pregnancy in Japanese; Interaction with Parity, Age and Genetic Factors.
(日 本人におけるグルタチオンS―トランスフェラーゼPl (GSTPl)´ 遺伝子多型と妊娠高血圧症の関連;経産回数、年齢、遺伝的要因との交絡)
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日本人の妊娠高血圧症(HP)に関連する遺伝要因としては、近年の分子生物学の進歩 に より 、Angiotensinogen (AGT)遺伝子Met235Thr多型、Endothelial Nitric Oxide SynthaseくNOS3)遺伝子多型Glu298Asp多型が報告され、病因・病態の解明、予防医学 への応用が期待されている。一方、最近オランダにおいてGlutathioneS−transferase Pl (GSTPl)遺 伝子Ile105Val多 型とpreeclampsiaとの関連が報告された。Va1105のホモ (Val/Val)の頻度が、対照の5%に対してpreeclampsiaでは14%と有意(pくO.05)に 高かった。GSTP1遺伝子Ile105Val多型では、Va1105アリルを持つ者は解毒能カが弱い ことが報告されている。しかし、日本人においては、今までに本症と薬物代謝酵素遺伝子 多 型 と の 関 連は報 告さ れて いな い。本 研究 では 、(1) 日本 人のHPとGSIP1遺伝 子 Ile105Val多型 との関 連、 およ び(2)初 産重 症HPに おけ るGSTP1遺伝子多型と他の要 因との交絡・共同作用を検討することを目的とした。
対象は、1995−2001年までの間に、北海道大学医学部附属病院及びその関連病院にお い て妊 娠・分 娩管 理を 受け たHP131例(初 産80例/経産51例 、母体年齢:29.9+0.5 歳)、(重症HP110例(初産69例/経産41例、母体年齢:29.9土0.5歳)を含む)、正 常妊娠対照327例(初産191例/経産136例、母体年齢:29.1土0.3歳)であった。腎疾 患、糖尿病、羊水量異常、先在する高血圧、胎児奇形合併例は除外した。HPの診断は、
National High BloodPreSSureEduCa.tionPI.ogramWOrkingGroup(1990)の基準に 従 い、 高血圧 は@ 妊娠 によ り収縮期血圧が30mmHg以上上昇、◎拡張期血圧が15mmHg 以 上 上 昇 、 ◎妊娠20週 以後140/90mmHg以上 を示 した 場合と し、 蛋白 尿は24時間 尿 でO.3g( 随 時 尿 で30mg/d1) 以 上 、 浮 腫 ほ 体 重 増 加 が500g/週 以 上 と し た 。 遺伝子夕イピングは、PCRllRFIP法を用いて行った。すなわち、全血1m1から遺伝子
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藤
水
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教
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査
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主
副
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DNAを 抽出した後 、GStIPl遺伝子多型は、forward primer(5 ‑ACC CCA GGG CTC TAT GGG AA―3 )、reverse primer(5 ‑TくJ:A GGG CAC AAG AAG CCC CT‑3 )を用いて、
denaturationを94℃ で30秒 、annealingを56℃ で30秒、polymerizationを72℃ で 30秒 と し て 、40サイ ク ルのPCRを 行 い、 そ の産 物 を制 限 酵素BsmAlで55℃ 、4時 間 の 反応 の 後、 切 断の 有 無(Ileは176bp、Valは85bpと91bpのパ ンドの出現 )を10% アクリ ルアミド電 気泳動法で 確認した。AGT遺伝子多型、NOS3遺伝子多型の遺伝子夕 イピン グも、従来 報告されているPCR‑RFLP法、すなわちそれぞれの多型部位を挟むプ ラ イマ ー を設 計 し、AGT遺 伝 子多 型 はTthlll1、NOS3遺 伝子 多型はBan IIによる酵 素反応の結果により行った。
統計解 析方法は、HPと対照にお けるGSTP1遺 伝子Ile105Val多型 の頻度をそ れぞれ Ile/IleとIle/Val十Val/Valの2群に分け、X2検定(自由度1)を用いて行った。また、
初産重症HPとGSrI、Pl遺伝子多型との関連を、高年妊娠、高血圧の家族歴、妊娠前のBMI
≧ −24、AGT遺 伝 子 ′rT型 、NOS3遺 伝 子GA十AA型 の 有 無 ご と に 検 討 し た 。 HPと 対 照 に お けるGSTP1遺伝 子Ile/Val+Val/Val型の 頻 度は 、HP 26% 、 重症HP 28%、対 照28%と、有意差はみられなかった。初産重症HPと初産対照における検討で は、母 体年齢が35歳 以上では、 初産重症HP 63%、初産 対照18%、AGT遺伝子MM十Mr 型 で は 、 初 産 重 症HP 50% 、 初 産 対 照26% 、NOS3遺 伝子GA+AA型で は 、初 産 重症 HP 42% 、初産対照13%と、GSTP1遺伝子Ile/Val十Val/Val型の 頻度にそれ ぞれ有意 差(pく0.05)がみられた。
今 回 の 結果 か ら、 日 本人 のHPお よびpreeclampsiaとGSTP1遺伝子Ile105Val多型 との間には、全体としては関連がみられなかったが、初産の重症HPにおいては、GSTP1 遺伝子Ile/Vaユ十VaユノVal型が、AGT遺伝子rr型 とは独立に 、またNOS3遺伝子GA十 AA型と,は共同作用により関連することが初めて明らかになった。GSTP1遺伝子Va1105 型 は 薬 物 代 謝 系に お けるN02か らNOへ の代 謝 能カ を 弱め 、NOS3遺伝 子Asp298型 は NO産生を 低下させる ことから、 両者は共同 してNO産生を 低下させる ことを通じ てHP の発症 に関わって いる可能性 がある。ま た、AGT遺伝子T235型は、妊娠初期のト口ホ ブラスト不完全侵入およびらせん動脈狭小化など、NO産生低下とは異なった病態で発症 に関わることが推測される。
公開発表 に際し,副 査の藤田教 授から,GSTP1遺伝子多 型がGSTP1蛋白の構造に及 ぽす影響とそれによる基質結合能や活性の変化について質問があった.副査の水上教授か らは,preeclampsiaにおける血中NOレベルの上昇に関する従来の報告と今回の研究結 果との関係、早期発症型および妊娠33週未満でターミネーションとなったものの例数と 各群における遺伝子型の分布、研究結果の今後の臨床応用の可能性について質問があった.
副査の玉城教授からは,症例・対照の集め方と今後の調査研究の方向性についての質問が あった.主査の櫻木教授からは,口ジスティック回帰分析を用いなかった理由、研究結果 から算出されるGSTP1遺伝子多型と初産重症妊娠高血圧発症のオッズ比について質問が あった.これらの質問に対して,申請者は自身のこれまでの研究成績や文献的情報をもと に概ね妥当な回答をなしえた・
審査員一同は,これらの成果を高く評価し,大学院課程における研鑽や取得単位など も併せ申請者が博士(医学)の学位を受けるのに十分な資格を有するものと判定した.