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はじめに
われわれは日常活動であたりまえのようにデジタル技術の結晶であるインターネット(コン ピュータネットワーク)を使い,データや情報を得ることができる.今やデジタルは仮想的な もの,単なる0と1のデータ列ではなく,実生活に結びついたモノであり,柔軟なコトを実現・ 支援している.携帯型のスマートフォン ,書籍大に近いタブレット端末,膝にのるノートPC, そして ,デスクトップPCと個人でさえも多様な端末を使用している.そのデータや情報をも とに行動の信念となる知識をつくり,社会活動を行うようになってきている.このようにイン ターネットは ,知識の創造・普及( 実践)を促進する環境として成長している.つまり,イン ターネットは知識基盤社会のためのイノベーション環境といえる. このようなイノベーション環境としてのインターネットを理解・運用するためには ,知識の 創造・普及のための技術として「アイデア発想法」と「協同作業支援」のためのグループウェ アが必要とわれわれは考える. もともとグループウェアは人間の知識の拡大など ,いわば人間の知性を拡張することを目的 として研究が進められてきた .グローバル・多様化が進む社会において ,グループ・組織を継 続・発展させるためには ,新しい知識( 新サービス,新製品,新組織の種),人々の協力を作り 出すことが重要である.この創造活動を支援する科学技術として ,アイデア発想法( 知識創造 理論・技法)を踏まえた協同作業支援(グループウェア)の研究が1990年代より進められて いる.その成果が発展・成功し ,インターネット上に展開されれば ,われわれの知識拡大やイ ノベーションにつながる可能性をもっている. ここで計算機(コンピュータ)の理解を踏まえた計算機活用の歴史について述べる.計算機 の記号モデルであるアラン・チューリング(Alan Turing)の普遍機械は1936年に発表されて いる.その普遍機械は ,数学者ダフィット・ヒルベルト(David Hilbert)が20世紀初頭に取 り上げた基本的問いの一つである決定問題(簡単に説明すると,「あらゆる数学問題を証明でき るかど うかを決定できる手続きを導きなさい」)を解くためのモデルとして考案され ,それを否 定的に解いた成果から生まれた機械モデルである.チューリングは数学的処理を行う人間の知 的作業をモデル化したチューリングマシン上では計算が停止することを判断する手続きを構成 できないという反例を示した .これはネガティブな結果に見える.しかし ,同時にチューリン グは ,普遍機械をモデルとして仕様を記述できる機械は何でも実現できるというポジティブな 面を見いだした .この結果をもとに ,ジョン・フォン・ノイマン(John von Neumann)は実main : 2014/5/8(11:49) iv ◆ はじめに 際の科学計算( ミサイルの弾道計算や天気予報)を計算機で行う計画を具体化し ,計算機の有 用性を広く知らせた .いわば計算機の表の歴史のスタートである. 一方,1960年になると,この記述されたものであれば ,いかなる機械にもなるという計算機 を ,あらゆる人間の能力( 特に知性)拡張に用いるビジョンがあらわれた .いわば計算機の裏 の歴史のスタートである.特に ,有名なものは ,人間の知性増幅に用いるというダグラス・エ ンゲルバート(Douglas Engelbart)のビジョンであり,彼は ,現在のインターネットにつなが る世紀のデモンストレーションを1968年に行った .そのデモではマウス,ハイパーテキスト , 遠隔会議などを含んでおり,計算機の未来を予感させるものであった .これにより,計算機は 計算するための機械としての役割を超えて ,人間の社会活動を支えるメデ ィアとしての役割を 担うことを多くの研究者に確信させ ,現在に至る. 本書は ,このいわば計算機の裏の歴史の成果であったが ,今や計算機活用における正統な流 れの一つである人間知性を支援するグループウェア技術に必要な2つの側面,「アイデア発想 法」と「協同作業支援」について解説する. まず最初に ,それぞれの基礎知識を説明し( 第2章から第6章),次にアイデア発想法の実 践知識としてアイデア発想法の実習・評価( 第7章から第9章)を説明する.最後にグループ ウェア技術の実装・評価について説明し(第10章から第13章),将来動向について述べる(第 14章).よって ,各自の興味や状況に応じてアイデア発想法の学習,協同作業支援の学習に使 用できる. 本書の対象者は ,アイデア発想法と協同作業支援に興味をもつ人すべてである.情報系,知 識系の大学生もしく大学院生の教科書として使えるようにした .また企業人も対象とし ,興味 に応じてアイデア発想法または協同作業支援に絞った読み方を可能としている.この教科書を きっかけとして ,デジタル技術を用いた人間知性の支援,知的生産の技術,イノベーション環 境,知識労働・創造的労働支援に対する知識の体系化・実践が少しでも進むことが望みである. なお,本書は3名の専門家により,以下のように執筆を分担している. 宗森 純 : 1章,4章,5章,7章,8章,9章,10章,12章,14章 由井薗隆也: 1章,2章,3章,8章,9章,10章,11章,13章,14章 井上智雄 : 4章,6章,13章 最後に ,本書を企画しまとめるにあたって ,大変ご協力を頂きました ,デジタル系教科書シ リーズ編集委員長の白鳥則郎先生,編集委員の水野忠則先生,岡田謙一先生,および ,共立出 版編集部の島田誠氏,大越隆道氏,他の方々に深くお礼を申し上げます. 2014年4月 執筆者 宗森 純,由井薗隆也,井上 智雄