共立スマートセレクション5 オーストラリアの荒野によみがえる原始生命 xft0135-hjm.ps : 0001 : 2015/12/29(09:03:38)● はじめに 本書は筆者が西オーストラリアの荒野(「アウトバック」と呼ば れる)で発見した30億および34億年前の微化石の正体に迫るプロ セスと,それに関わる生命の起源,初期進化,地球環境と生物進化 などについてまとめたものである.最近「宇宙生物学」という学問 分野がかなり一般的に認知されるようになってきた.火星や土星の 衛星に探査機を飛ばして直接地球外生命やその痕跡をさがす研究は まさに宇宙生物学そのものであり,専門外の人たちにとってもわか りやすい例だ.しかしこの本で主題となる30億年以前の地球に存 在した太古の生命に関する研究 かなりマニアックであることは間 違いない も立派な宇宙生物学の一分野である. 1960年代以降,世界最古の化石を求めて数多くの研究者が西オー ストラリアの荒野や一年のほとんどが氷に閉ざされたグリーンラン ド,そして南アフリカの山岳地帯で調査を行ってきた.好運にも化 石らしきものを見つけた人は,世界最古の化石発見という論文を執 筆し科学雑誌に投稿したはずである.しかしその分野の大御所とそ の弟子ならいざ知らず,``普通''の研究者を待っていたのは厳しく も腹立たしいコメントの数々だっただろう.その化石が含まれる石 は本当に太古代(25億年以前の地質年代の名称)のものか? 後 から紛れ込んだ現生の微生物ではないのか? 鉱物の一種ではない のか? そして挙げ句の果てに論文は却下される.著名な研究者で あっても,少しでもミスを犯すと袋だたきにあいかねない.『ネイ チャー』や『サイエンス』に発表され,多くの教科書が取りあげた
共立スマートセレクション5 オーストラリアの荒野によみがえる原始生命 xft0135-hjm.ps : 0002 : 2015/12/29(09:03:38)● iv 研究成果が10年後に激しい批判にさらされることも珍しくない. なぜなら太古代の生命の痕跡ははかなく,自然の様々なトリックで その真の姿が隠されていることが多いからだ. 本書は初期地球における生命と地球環境について最新の研究成果 をなるべく取り入れながら解説する.そして筆者が西オーストラリ アで偶然発見し,十数年近くその実体解明に取り組んできた太古代 の大型微化石群を紹介し,その面白さを少しでも多くの人と共有し たいと思っている.重要な発見や論争となっている話題については 本文中に引用を明示し,その文献を各章末にまとめた.巻末には参 考にしたあるいは参考にしてもらいたい文献を関連するテーマごと に紹介したので役立ててもらいたい.なお本文中の敬称はすべて省 略した.悪しからずご了承頂きたい. 2015 年 12 月 杉谷健一郎