はじめに
完全内視鏡脊椎手術(full‒endoscopic spine surgery: FESS)はこれまで percutaneous endoscopic discectomy (PELD),percutaneous endoscopic discectomy(PED)な どと呼ばれていた手術手技を含む脊椎内視鏡手術の総称 である.具体的には Fig. 1 aに示すような内視鏡を用い, 生理食塩水などの灌流下に行う閉鎖式脊椎手術のことで ある.「Percutaneous」は percutaneous vertebroplasty な どの経皮的 blind 操作をイメージさせるため,また microendoscopic discectomy(MED)や microendoscopic laminectomy(MEL)などの開放式 endoscope‒assisted
surger y
との違いをはっきりさせるため「full‒endo-scopic」という言葉が用いられるようになってきた. FESSの original のアプローチは Kambin の安全三角経由 の transforaminal アプローチであるが,その後さまざま なアプローチが開発されている.また,腰椎から始まり 頚椎・胸椎などすべての脊椎に適応が広がり,それとと もにさまざまな異なる名称が使われるようになってき た.著者はこの名称の広がりに警笛を鳴らしているが1), AOSpineからも新たな名称案が提唱されている2).詳細 は論文をみていただきたいが,approach corridor(ante-rior,posterior,interlaminar,transforaminal),spinal segment(cervical,thoracic,lumbar),procedure per-formed(eg,discectomy,foraminotomy)に依拠した名 称となっている.これが正式に採用されると,今後FESS という総称自体が変わる可能性もある.2016 年に本誌で FESSによる腰椎椎間板ヘルニア(LDH)の治療が詳細 に解説されているので3),本総説ではおもに FESS によ る脊柱管狭窄症の治療に関して解説したい.
1
.腰部脊柱管狭窄症に対する FESS
腰部脊柱管狭窄症は,狭窄の部位から中心性狭窄,外 側陥凹狭窄,椎間孔狭窄に分けられる.これまで work-ing channelのサイズが 4 mm 前後の内視鏡が日本ではお もに使われてきた.これでは中心性狭窄など広範囲の除 圧を要する例では多大な時間がかかり,FESS での治療 *1 岩井 FESS クリニック/Iwai FESS Clinic連絡先:〒133‒0056 江戸川区南小岩 8‒18‒4‒101 岩井 FESS クリニック 古閑比佐志〔Address reprint requests to:Hisashi Koga, M.D., Ph.D., Iwai FESS Clinic, 8‒18‒4‒101 Minamikoiwa, Edogawa‒ku, Tokyo 133‒0056, Japan〕
*2 岩井整形外科内科病院/Iwai Orthopaedic Medical Hospital *3 稲波脊椎関節病院/Inanami Spine and Joint Hospital
完全内視鏡脊椎手術
(full—endoscopic spine surgery:FESS)
の現状と今後の展望
Present Situation and the Future of
Full—endoscopic Spine Surgery(FESS)
古閑 比佐志
*1,2,3Hisashi Koga, M.D., Ph.D.*1,2,3
Key words:
lumbar disc herniation lumbar spinal canal stenosis radiculopathy
full‒endoscopic spine sur-gery
ossification of the ligamen-tum flavum Spinal Surgery 35(1)23‒30,2021
教
育
総
説
Review–Essentials
Fig. 1 国内で使用可能な FESS 用内視鏡 a : Working channel:4.1 mm の内視鏡の外観.有効長を示して いる. b :Working channel:6.4 mm の内視鏡の外観. c :Working channel の部分を正面から拡大して示している. 165 mma
74 mmb
c
4.1 mm 6.4 mmは現実的ではなかった.一方,外側陥凹狭窄や椎間孔狭 窄は骨切除の範囲がかぎられているため,これまでの内 視鏡でも 1 時間程度の手術が可能であり,FESS のよい 適応といえる.いずれにしても LDH の手術では必須で はなかったドリル操作が手術時間の大半を占めるので, LDHの手術で内視鏡下のドリルワークを学んでから試 みる手術手技と考える4).
2
.外側陥凹狭窄
まずは,FESS による外側陥凹の除圧に関して概説す る.通常 interlaminar でアプローチするが5~7),進入方向 は終板に平行ではなく尾側から頭側へ向けて進入する (Fig. 2 c).尾側から入って上位椎弓下縁を同定後,ファ セットの内側面に内視鏡を設置するようにする.上位椎 弓下縁をドリルで切除していくと関節面および上関節突 起(SAP)が現れるので,さらにこれらを術前計測して いた範囲で切除していく.SAP の直下には当該神経根が 存在するはずなので,ドリルで打ち抜かないよう注意す るとともに内側から外側へ向けて切除していく.そのた めには,皮膚切開は切除したい部分の直上ではなく,や や内側に設けるとよい.黄色靭帯の切除がworking chan-nelの小さな内視鏡ではいちばん手間のかかる操作だが, ドリルで下位椎弓上縁を切除後,尾側の付着部から黄色 靭帯を切離するようにしている5).たとえ頭側の靭帯が 一部残ったとしても,神経根の除圧は通常達成される. MELとの比較研究もあるが,FESS では手術時間が有意 に延長するものの同等の除圧効果が得られている7). Transforaminal に外側陥凹の除圧を行っているグルー プもあるが8,9),通常の外側陥凹狭窄は pedicle 内縁(椎 間板高より尾側)の黄色靭帯が狭窄に関与しているので, そこまで切除できるのかは疑問である.また,それを達 成しようとすると SAP の過剰な切除と partialpediclos-tomyが必要になることを考慮すると,術後の不安定性 の出現や術中の出血なども問題点になろう.進入サイド の椎間孔狭窄と同部の外側陥凹狭窄を併発している二根 障害であれば,検討すべきアプローチかもしれない.
3
.椎間孔狭窄
椎間孔狭窄は FESS が最も威力を発揮する脊椎狭窄性 疾患である.腰椎においては posterolateral または translaminarに ア プ ロ ー チ し て 当 該 椎 間 孔 の 拡 大 (foraminoplasty とも呼ばれている)を行う.椎間孔狭窄 は failed back surgery syndrome(FBSS)のおもだった 原因の 1 つとなっていて術前診断が非常に重要である が,術前診断に関しては他書を参照いただきたい10).本 稿ではその手術手技に関して概略する. Posterolateral approach(PLA)では正中から 50~90 mm程度外側から,translaminar approach(TLA)では正 中から 15 mm 程度外側に皮膚切開を設けて進入する. PLAはおもに椎間孔の外側寄りでの狭窄がメインで,椎 間孔外骨棘などの椎間孔外病変も原因と考えられる場合 に有効である.一方,TLA は椎間孔が長い L5/S1 や椎間 Fig. 2 Working channel:4.1 mm の内視鏡による外側陥凹狭窄の治療 a , b :術前 CT( a :矢状断, b :環状断). c , d : 術後 CT( c :矢状断, d :環状断).尾側から頭側に向けて骨切除が行われていることがわかる. e :術前 3D‒CT 画像. f :術後 3D‒CT 画像.a
b
C
d
e
f
孔部の内側寄りでの狭窄がメインの症例がよい適応であ る11,12). PLA では実際に椎間板操作を行うことはまれだが,イ ンジコカルミン入りの造影剤を椎間板に注入して線維輪 を染色しておくと,解剖学的オリエンテーションが明確 になる.造影後ガイドワイヤーに沿って obturator・外筒 と挿入していくが,上関節突起が肥厚しているので LDH で設定しているようには(pedicle 内側縁)内側まで obturatorを挿入することは困難である(Fig. 3 a). Obturatorに沿って外筒を挿入する際はベーベルの飛び 出している側を腹側にして SAP の外側にピタリと密着 させるようにして設置するとよい(Fig. 3 b, c).軟部組 織を処理して SAP の骨面がみえてきたら,ダイヤモンド バーで骨切除を進めていく.SAP 頭側部分の骨切除が進 むと,椎間孔部での肥厚した黄色靭帯が浮き上がってく るので,これを切除すると直下に神経根を確認すること ができる.内視鏡下の除圧確認と術中透視を使ったプ ロービング(Fig. 3 d),さらに当該神経領域での motor
evoked potential(MEP)モニタリングによる改善をもっ
て除圧の完了としている13). TLAは椎間孔部の内側寄りでの狭窄がメインの症例が よい適応であるが13,14),MRI 冠状断などで神経根の分岐 が頭側だったりガングリオンが椎間孔内側に位置してい る例などにも適応がある.骨切除は椎弓峡部を中心とす る部分なので,その同定は比較的容易である(側面透視 をみながら obturator を椎間孔の高さで終板に平行に挿 入すると,いちばん深く挿入できたと感じる部分).ただ し,高齢者では上位椎弓の下縁が峡部に覆いかぶさって いる例も多いので,峡部に到達する前に上位椎弓下縁の 切除が必要な場合もある.ドリルでの切除は 1 カ所を深 く切除するのではなく,広い範囲で薄くしていくのがよ い.椎弓内板まで到達したら,SAP のある位置でまず内 板を切除するとオリエンテーションもつき,安全に進め ることができる.頭尾側で黄色靭帯の付着部まで,外側 は術前計測していた幅で SAP を切除していけば必要な 除圧ができる.黄色靭帯の切除が前述したように手間の かかる作業だが,これが進むと神経根や椎間板が確認で きる(Fig. 4 c). 外側陥凹狭窄を含めここまでの手術手技では術後のド レーンが不要なため,手術翌日に退院を許可している. 問題点としては術後比較的早期の骨化があるが,黄色靭 帯の切除が適切に行われていると,骨化があっても神経 根症が必ずしも生じるわけではない.椎間孔狭窄の特殊 なタイプとしては,固定隣接椎間に生じたものや胸腰椎 Fig. 3 PLA による椎間孔狭窄の治療 a :術中 obturator を設置した段階での透視前後像,椎弓根内側縁(破線)に到達していないことがわかる. b :模型を使って外筒の設置位置を示している. c :術中外筒を設置した段階での透視側面像. d :黄色靭帯を切除後,剝離子でルートの背側を確認している. e , f :手術前(e)後(f)の CT 環状断.f で右 SAP が切除されていることがわかる.
a
b
c
d
e
f
圧迫骨折で生じたものがあるが,これらも FESS のよい 適応である14,15).頚椎神経根症など頚椎での椎間孔狭窄 (骨性や椎間板ヘルニアを含めて)に対しても FESS はき わめて有効である.手術術式に関してはすでに詳細に記 載してあるので文献を参照されたいが4,16),手術成績と しても従来法と遜色のないことを自験例ですでに証明し ている17). 両側性の椎間孔狭窄でも片側ずつ FESS で除圧し,両 側除圧を達成することは可能である.しかし,椎体高の 減少が著しく後方除圧だけでは不十分な例や,動的因子 の関与が強く除圧のみで症状の軽快が得られない例もあ る.このような症例には椎体高を上げる固定術が必要に なるが,2019 年からは固定術も FESS で行っている. Working channel 4.1 mmの内視鏡を用い PLA で SAP を 広く切除して cage 入口部を確保している(Fig. 5 c~e). 椎間板内の掻爬はドリルと鉗子類を用いて行っている が,この操作が FESS ではいちばん時間のかかる操作で ある.今後シェイバーのような機器の開発で,手術時間 の短縮が期待される.実際にcageを挿入する段階では内 視鏡を抜去して特製のスライダーに置換し,XLIF のよ うにスライダー越しに挿入している(https://www.mdpi. com/1648-9144/56/9/478)18).植骨の代わりに GraftonTM (Medtronic Sofamor Danek,Memphis,TN,USA)を用 いているが,1 年以上経過をみている例では骨癒合は得 られてきている.また,これまで 16 例しか経験していな いが,椎体高の増加も十分得られている(Fig. 5)16).1 椎間の手術時間は 2 時間弱で大きな合併症は認めていな い.やはり術後のドレーンは不要で,術後 5 日前後の早 期の退院が可能となっている.同様の FESS による椎体 間固定もさまざまな名称で呼ばれているが,われわれは この手術手技を full‒endoscopic lumbar interbody fusion (FELIF)と呼んでいる.FELIF は Youn ら19)の 2018 年の 論文に最初に使われた用語で,現時点で最も適切な名称 と考えている.
4
.馬尾症状を呈する中心性狭窄
筆者もこれまでに working channel のサイズが小さい 内視鏡で,広範囲の除圧を行ったことはある.しかし, ドリルの柄が細いためにしなり,バー先端部にしっかり と力が伝わらなかったり,前述した黄色靭帯切除が煩雑 だったりして大変時間がかかり,標準化できる手術では なかった. 海外では広範囲の除圧のための working channel の大 Fig. 4 TLA による椎間孔狭窄の治療 a :術後 CT 矢状断(左椎間孔部). b : 術後環状断.この症例では時期をずらして両側の椎間孔の除圧 が行われている. c :術中内視鏡画像で,除圧が終わり神経根(NR)と椎間板(D) が剝離子の頭尾側にみえている.a
b
D NR NR 剝離子 剝離子 Cranial Caudalc
Fig. 5 完全内視鏡下腰椎椎体間固定術(full‒endoscopic lumbar interbody fusion:FELIF)a , b :術前 CT( a :矢状断, b :環状断). c , d :術後 CT( c :矢状断, d :環状断).術後椎体高が 増しているのがわかる. e : 術後 3D‒CT 画像.矢印の指す部分は挿入した cage を示 している.その背側の部分で SAP が切除されている.
a
b
c
d
e
きな内視鏡がすでに存在していたが,国内では利用でき なかった.2019 年に出沢 明先生が,株式会社東機貿と 共同で working channel 6.4 mm,有効長 74 mm の内視鏡 を開発したため(Fig. 1 b),国内でも中心性狭窄の治療 が完全内視鏡下に標準化できる目途がついた.Working channelが 6.4 mm になったことで,シャフトの太いドリ ルが使用でき,回転数のみならず高いトルクで骨切除が できるようになった.また,大きなケリソンが挿入でき るため,黄色靭帯の切除もスムーズに行うことができ る.ケリソンに関しては東機貿から適切なサイズのもの が揃えられているので,切除部位に合わせて選んで使用 できる.骨からの出血に関しては working channel が 4.1 mmの場合はバイポーラでしか止血できなかったが,ケ リソンで出血している骨を圧壊して止血できるように な っ た( 論 文 で 動 画 も 提 供 し て い る )17). さ ら に elliquence社のダブル先端のバイポーラ〔製品名:トリ ガーフレックス クアッド(Trigger‒Flex Quad)〕を使え ば,軟部組織の処理などの時間がさらに短縮できる可能 性がある.問題点としては,working channel が大きいた め灌流している水が大きな穴からどんどん外に排出され て,大量の灌流水を準備しておかなければならない.ま た,黄色靭帯の切除を開始すると硬膜外脂肪などからか なり出血するので,その処理に難渋する場合がある. 以下,ステップワイズに基本手術手技を解説する. 1 ) 全身麻酔・MEP モニター下に腹臥位とし,椎弓間が ある程度開くよう 4 点支持器と前腸骨稜の間に pil-lowなどを入れて後弯をつける.筆者は尾側から頭 側に向けて内視鏡を挿入しているので,尾側に立っ て手術している.麻酔器は頭側にくるので,内視鏡 画像と透視画像,MRI などの術前画像所見が術者の 正面にみえるようにディスプレイも含めて全体の配 置を考慮する必要がある. 2 ) 皮膚切開は正中から 10 mm 程度進入側に 12 mm の 縦切開としている.通常,皮膚・筋膜をメスで切開 後,serial dilator で鈍的に椎弓から筋層を剝離する. Serial dilatorは長いほうが剝離操作が楽なので, MEDで使っているものを流用している.上位椎弓 下縁やファセットの交点,椎弓基部などを剝離した ら,serial dilator 越しに外筒を挿入する.さまざま なタイプの外筒が東機貿から提供されているが,約 45度にカットしたベーベルタイプの外筒を自作し て使用している. 3 ) 内視鏡を挿入後,剝離した筋層をバイポーラで凝固 して上位椎弓下縁を露出させる.軟部組織をドリル (Primado2,ナカニシ社製)で巻き込まない程度に 処理できたら,ここから頭側へ向かって骨切除して いく.椎弓間の軟部組織も浮き上がってきたらその つど鉗子やケリソンで切除する.進入側のファセッ ト周囲の軟部組織の処理がいちばん難しいが,外筒 を回転させながら軟部組織をよけて骨切除を進め る.SAP がみえたらさらに切除を進め,尾側の椎弓 上縁も切除していく.全周性に黄色靭帯の付着部を 露出するのがベストだが,頭外側の部分は骨から出 血しやすいので,止血に難渋する場合は付着部の手 前で留めてもよい.対側も椎弓基部から上位椎弓内 板,下位椎弓上縁と切除していき黄色靭帯を浮遊さ せていく. 4 ) 黄色靭帯がかなり浮遊してきたら,進入側の黄色靭 帯をまず摘出する.できるかぎり一塊で摘出すべき だが,ケリソンで頭側あるいは尾側端を掴んで線維 に沿って頭尾側に内視鏡ごと動かすと比較的大きな 塊として摘出できる.進入側の黄色靭帯が切除でき たら,神経根や椎間板の除圧を確認する(Fig. 6 e 上). 5 ) 次に対側の除圧に移るが,黄色靭帯が浮き上がって くると,深部の骨切除部位がよくみえない.そのた め外筒を回転させ最もよくみえる位置で,さらに内 板の切除を対側の SAP に向かって進める.その際, 切除面がみえなくなってきたら,手前の黄色靭帯を 適時切除して視野をよくする.黄色靭帯を切除しす ぎると硬膜管背側の脂肪を巻き込んで出血の原因と なるので,黄色靭帯を少し残しながら視野の確保だ けを目的として進めるとよい.これを繰り返しなが ら SAP まで到達する.SAP まで到達したら,剝離子 を椎間孔に挿入して狭窄の程度を確認する.SAP も ドリルで落として,残った外側の黄色靭帯も切除す れば除圧は完了である(Fig. 6 e 下).この時点で対 側のルート・椎間板も確認できることが多い. 6 ) 除圧が完了したら止血を確認して,ドレーンを留置 している.強く陰圧で引くと骨面からの出血がなか なか止まらないことがあるので,陰圧はかけず自然 落下として翌日抜去している. これらの一連の手術手技に関しては手術動画を東機貿 から配信しているので,ご参照いただきたい.これまで に 100 例以上経験しているが,①高度肥満では内視鏡が 届かない,②多椎間では従来法に対して時間がかかり過 ぎるなどの制限もある.同時期に当院で行ってきた 1 椎 間の MEL と FESS との術後成績を比較したが,手術時
間は FESS で明らかに長かったが,患者の術後疼痛や術 後満足度に差はなかった.術後血腫除去を要した例は 1 例のみだったが,FESS では遅発性も含め術後血腫に気
をつけねばならないことも明らかとなった20).
5
. 黄色靭帯骨化症(ossification of the
liga-mentum flavum
:OLF)
OLF は東アジアに多発する靭帯骨化症の一種であり, 脊髄症や神経根症を呈する場合がある.下位胸椎に特に 生じやすいが,海外からは FESS による良好は手術成績 の報告がある.しかしながら,それらの報告の詳細をみ ると,circular saw で骨切除をするものや術後のドレー ンの留置などがなく,その安全性を疑いたくなるものが 多い21,22).筆者はこれまで MEL で胸椎 OLF の治療を 行ってきたが術後血腫などの苦い経験もあり,骨切除面 の止血処理や術後ドレーンは必須と考えている23,24).し たがって,現時点で胸椎 OLF は FESS の適応としていな い.一方,馬尾症状や神経根症を呈する腰椎 OLF は,馬 尾に対する灌流圧の影響なども明らかにされているので FESSのよい適応と考えている5).骨化の範囲によって, working channel 4.1 mmと 6.4 mm を使い分けているが, 片側性の OLF では通常 4.1 mm で対応できる.ただし, 片側性でも beak type で硬膜の骨化や癒着が疑われる場 合は,6.4 mm で周囲を広く除圧しながら,硬膜との癒着 を剝がしていかないと硬膜損傷の危険がある.Fig. 7 に 片側性の beak type の症例を示す.骨化した黄色靭帯を 菲薄化し一部その腹側が解放された時点で,腹側の癒着 を確認しないまま,一気に菲薄化した部分を切除してし まいルートの硬膜を損傷してしまった.幸い術後これに 起因する神経症状は生じなかったが,癒着の確認を行え ば避けられた損傷である.内視鏡は2次元の画像なので, 奥行きを知るには斜視鏡を回転させた際の術野の変化 や,実際にプローブで触れたりしてそれを知るしかな い.慣れてくるとこの操作を怠りがちだが,しつこく確 認していただきたい.自責の念も含めて,この症例を報 告した.また,両側性の腰椎 OLF は 6.4 mm で除圧可能 だが,combined type は硬膜骨化や癒着が高頻度であり, 骨化切除の開始点である正中の骨化していない部分の同 定が困難であることから,現時点では適応外としてい る5).
おわりに
本稿では,uniportal な FESS による脊椎狭窄性病変に 関して現況を報告した.FESS による頚椎や胸椎の広範 Fig. 6 Working channel:6.4 mm の内視鏡による中心性狭窄の治療 a , b :術前 CT( a :矢状断, b :環状断). c , d :術後 CT( c :矢状断, d :環状断).左から進入し両側除圧が行われていることがわかる. e :術中内視鏡画像(上:左側,下:右側).上関節突起が切除され(SAP:関節の切除面),神経根(NR)と 椎間板(D)が確認できている.右側では硬膜管(DS)の圧排なしに,剝離子を椎間孔に挿入できている.c
d
a
b
Cranial Caudal SAP SAP 剝離子 剝離子 D DS DS NR NR SAP DSe
囲な除圧も一部では行われている.しかし,内視鏡自体 の把持機器がいまだ開発途上であること,術中の脊髄に 対する灌流圧の影響が明確でないことなどから,筆者は 現時点では頚椎や胸椎の広範囲な除圧は行っていない. また,硬膜内病変に対しても FESS を適応した報告はあ るが25),①硬膜切開後の灌流をどうするか,②内視鏡下 のかぎられた術野で硬膜縫合をどうするかなどの問題が 解決されないかぎり,現時点ではやはり適応に問題があ ると考えている.内視鏡手術による事故はマスコミも注 目しており,いったん事故が取り上げられれば個人の問 題に留まらず,日本における FESS の発展にも影響する. 本稿を読まれた認定医・指導医の先生方が安全第一の手 術手技の確立に寄与してくださることを期待する. 文 献
1) Koga H:Now is the time to standardize the terminology of full‒ endoscopic spine surgery. J Spine Surg 6:363‒365, 2020 2) Hofstetter CP, Ahn Y, Choi G, et al:AOSpine consensus paper
on nomenclature for Working‒Channel Endoscopic Spinal Pro-cedures. Global Spine J 10(2 Suppl):111S‒121S, 2020 3) 尾原裕康,水野順一,西村泰彦:経皮内視鏡下腰椎椎間板ヘ ルニア摘出術の現状と今後の展望.脊髄外科 30.152‒158, 2016 4) 稲波弘彦(監),古閑比佐志(編):若手脊椎外科医のための 内視鏡手術ガイド―岩井グループの技術の今.東京,日本医 事新報社,2018
5) Iwai H, Inanami H, Koga H:Full‒endoscopic spine surgery for the treatment of lumbar ossification of the ligamentum fla-vum:technical report. World Neurosurg 142:487‒494, 2020 6) Birjandian Z, Emerson S, Telfeian AE, et al:Interlaminar
endo-scopic lateral recess decompression―surgical technique and early clinical results. J Spine Surg 3:123‒132, 2017
7) Wu B, Xiong C, Tan L, et al:Clinical outcomes of MED and iLESSYS® delta for the treatment of lumbar central spinal
ste-nosis and lateral recess steste-nosis:a comparison study. Exp Ther Med 20:252, 2020
8) Sairyo K, Higashino K, Yamashita K, et al:A new concept of transforaminal ventral facetectomy including simultaneous decompression of foraminal and lateral recess stenosis:Tech-nical considerations in a fresh cadaver model and a literature review. J Med Invest 64:1‒6, 2017
9) Wu B, Xiong C, Huang B, et al:Clinical outcomes of transfo-raminal endoscopic lateral recess decompression by using the visualized drilled foraminoplasty and visualized reamed foraminoplasty:a comparison study. BMC Musculoskelet Disord
21:829, 2020
10) 岩井宏樹,古閑比佐志:特に残された椎間孔狭窄に対して, どのように対応すべきか.脊髄脊椎 34:131‒136,2021 11) Koga H:Improved percutaneous endoscopic translaminar
approach for lumbar foraminal stenosis at L5/S1. Mini‒inva-sive Surg 1:3‒5, 2017
12) Ishibashi K, Oshima Y, Inoue H, et al:A less invasive surgery
Fig. 7 Working channel:6.4 mm の内視鏡による腰椎 OLF の治療 a , b :術前 CT( a :矢状断, b :環状断). c , d :術後 CT( c :矢状断, d :環状断).Beak type の骨化部分を矢印で示す. e : 術中内視鏡画像(上:骨化部分が菲薄化し,一部腹側が解放された場面,下:骨化部分の摘出後).骨 化部分が切除され,神経根(NR)・椎間板(D)・硬膜管(DS)が確認できるが,神経根の硬膜は剝が れて神経がむき出しになっている.
a
b
c
d
Craniale
Caudal SAP DS D NRusing a full‒endoscopic system for L5 nerve root compression caused by lumbar foraminal stenosis. J Spine Surg 4:594‒ 601, 2018
13) 志保井柳太郎,古閑比佐志,稲波弘彦:腰椎椎間孔狭窄に対 する内視鏡下除圧における術中脊髄モニタリング振幅変化と 除圧効果の検討.関東労災誌 46:235‒239,2015
14) Iwai H, Oshima Y, Kitagawa T, et al:A less invasive treatment by a full‒endoscopic spine surgery for adjacent segment dis-ease after lumbar interbody fusion. J Spine Surg 6:472‒482, 2020
15) Philips GAC, Oshima Y, Inoue H, et al:Full‒endoscopic spine surgery for radiculopathy after osteoporotic vertebral com-pression fractures:a case report. J Spine Surg 6:466‒471, 2020
16) 岩井宏樹,藤田宗義,古閑比佐志:頚椎神経根症に対する Full‒endoscopic spine surgery(FESS).関節外科 39:1179‒ 1185,2020
17) Tonosu J, Oshima Y, Takano Y, et al:Degree of satisfaction following full‒endoscopic cervical foraminotomy. J Spine Surg
6:366‒371, 2020
18) Harakuni T, Iwai H, Oshima Y, et al:Full‒endoscopic lumbar interbody fusion for treating lumbar disc degeneration involv-ing disc height loss:technical report. Medicina(Kaunas)
56:478, 2020
19) Youn MS, Shin JK, Goh TS, et al:Full endoscopic lumbar
inter-body fusion(FELIF):technical note. Eur Spine J 27:1949‒ 1955, 2018
20) Iwai H, Inanami H, Koga H:Comparative study between full‒ endoscopic laminectomy and microendoscopic laminectomy for the treatment of lumbar spinal canal stenosis. J Spine Surg
6:E3‒11, 2020
21) Li X, An B, Gao H, et al:Surgical results and prognostic factors following percutaneous full endoscopic posterior decompres-sion for thoracic myelopathy caused by ossification of the liga-mentum flavum. Sci Rep 10:1305, 2020
22) An B, Li XC, Zhou CP, et al:Percutaneous full endoscopic pos-terior decompression of thoracic myelopathy caused by ossifi-cation of the ligamentum flavum. Eur Spine J 28:492‒501, 2019
23) Baba S, Oshima Y, Iwahori T, et al:Microendoscopic posterior decompression for the treatment of thoracic myelopathy caused by ossification of the ligamentum flavum:a technical report. Eur Spine J 25:1912‒1919, 2016
24) Baba S, Shiboi R, Yokosuka J, et al:Microendoscopic posterior decompression for treating thoracic myelopathy caused by ossification of the ligamentum flavum:case series. Medicina (Kaunas) 56:684, 2020
25) S¸entürk S, Ünsal ÜÜ:Percutaneous full‒endoscopic removal of lumbar intradural extramedullar y tumor via translaminar approach. World Neurosurg 125:146‒149, 2019