はじめに
「側副血流=collateral」は「時間」とともに,虚血に 陥った脳組織の運命を決定している.近年,急性脳主 幹動脈閉塞(emergent large vessel occlusion: ELVO)に対 する血管内治療(endovascular therapy: EVT)の有効性が 証明されたが,その成功を左右する重要な因子はやは り collateral である1).良好な collateral は再開通率を上 昇させ2),出血性合併症を減らし3),time window を延 長する4).Collateral はペナンブラ血流を維持すること によりコアの拡大を防ぎ,転帰良好となる可能性を高 める.それゆえ,その把握は EVT のよりよい適用に つながる5). 現在,EVT の適応決定のための術前評価として,そ の迅速性と簡便性から CTA が広く普及しているが, collateralの詳細な評価は困難であった.最近,CTA に 時間軸を組み込み,各種病態の flow dynamics を評価 しようとする試みが行われているが,中でも 4D-CTA は,ELVO における collateral 評価の有力なツールとし て注目されている6). 当施設ではおよそ 3 年前から,4D-CTA を ELVO 評 価の画像モダリティとして使用しており,その実際と 有用性を提示する.
4D-CTA と当施設の撮像プロトコル
4D-CTA は,造影剤の脳への到達から wash out ま で,全時相の CTA を撮影するもので,CTA の迅速 性・非侵襲性に,DSA の flow dynamics の解析力を併 せ持つモダリティとして開発された.Dynamic CTA, time-invariant CTAとも呼ばれるこの CTA のスキャン 方法には,volume mode,toggling-table,shuttle mode の 3 つがある.このうち shuttle mode は,患者テーブ ルが前後に動く間に helical scan を行うもので,256 列 あるいは 320 列といった多列 detector でなくとも全脳 をカバーする 4D 画像を得ることができる6). 当施設では,64 列の GE 社製 MDCT と shuttle mode を用い ELVO の急性期評価を行っている.カバーレッ ジ エ リ ア は 11.5 cm.40 cc の 造 影 剤 を 毎 秒 4 cc で bolus投与した後,5 秒後に撮影開始し,撮影時間は 48.7秒.患者 table はこの間 32 回前後に移動を繰り返 す.ポストプロセッシングは,ワークステーション上● シンポジウム 1 急性期虚血病態を治す/急性期脳虚血病態を診断する
4D-CTA
が開く急性脳虚血病態解析の新たな地平
柴田 益成
要 旨4D-CTA は,造影剤の脳への到達から wash out まで全時相の CTA を撮像するもので,CTA の迅速性・非侵 襲性に,DSA の flow dynamics の解析力を併せ持つモダリティとして開発された.従来,4D-CTA は,頭蓋内 シャント疾患や出血性疾患の病態解析に用いられてきたが,近年それ以上に期待されるのは急性脳主幹動脈閉 塞(ELVO)の病態解析である.当施設では,64 列の MDCT と shuttle mode を用い ELVO に対する再開通療法の 成否に関する以下の決定的情報を得ている.(1)血管閉塞部位,(2)collateral の様式と程度,(3)ペナンブラと コアの推定,(4)血栓の位置,範囲,性状.本稿では,2015 年 2 月~2017 年 5 月,当施設で施行した 432 件の 緊急 4D-CTA 施行例をもとに,急性期脳虚血病態評価における本モダリティの有用性と可能性を提示する.
(脳循環代謝 30:89~94,2018)
キーワード : 4-dimensional computed tomography (4D-CTA),急性期脳梗塞,急性脳主幹動脈閉塞症,側副
血行分析,血栓回収療法 伊勢赤十字病院脳卒中センター脳血管内治療科 〒 516-8512 三重県伊勢市船江一丁目 471 番地 2 TEL: 0596-28-2171 FAX: 0596-28-2965 E-mail: [email protected] doi: 10.16977/cbfm.30.1_89
のソフトウエアでほぼ自動的に行われ,血管撮影室に もデータ転送し,術中は 4D-CTA 画像を参照しながら 手技を施行している.
4D-CTA で得られる情報
(1)閉塞血管部位:ワークステーション上のソフト ウエアにより bone subtraction と motion artifact の補正 が瞬時に可能となり,容易に 4D 画像を構成できる. Bone subtractionを終えた MIP(maximum intensity pro-jection)画像は「DSA-like」な画像として閉塞部位と col-lateralを同定できる(Fig. 1A).また VR(volume render-ing)画像は,collateral により描出される閉塞部以遠の 血管走行も含めて血管構築を詳細に描出することがで きる(Fig. 1B).Smit らは,256 列の MDCT を用いた 4D-CTAにおいて,感度 98%特異度 100%をもって閉 塞部位を同定でき,3D-CTA と変わらない診断精度で あったことを報告している7). (2)Collateral 評価:4D-CTA は,全ての血管系から の collateral を全時相にわたり詳細に観察することがで きるため(Fig. 1C),通常の CTA と比べ強力な
collat-eralの評価ツールである.Smit らの 40 例のコホート 研究において,通常の CTA で collateral 不良と判断さ れた例の 3 割は転帰良好であり,これらの例では全例 で 4D-CTA にて良好な collateral が確認された.逆に 4D-CTAで collateral 不良と判断された全例が転帰不良 であった8). (3)ペナンブラとコアの推定:全脳の 4D-CTA が得 られれば,それを再構成することで,全脳の perfusion CTが得られ(Fig. 1D),ペナンブラとコアを推定する ことができる. (4)血栓の位置,範囲,性状:血栓の位置と範囲を 術前に把握しておくことは,効果的な EVT を行うた めに極めて重要である.Flölich らは,通常の CTA よ りも血栓の範囲をより正確に同定できることを報告し ているが9),これは 4D-CTA がより遅れて到達する
collateralまで観察できるためである(Fig. 2A).血栓に よる不完全閉塞あるいは透過性の高い血栓よる,閉塞 部以遠が遅れて順行性に造影される所見も稀ならず観
察することができる10).血栓に関するこれらの情報
は,EVT を行ううえで極めて重要である(Fig. 2B, C).
4D-CTA を用いた ELVO の collateral 分析
前述のとおり collateral は ELVO に対する EVT の成 否を左右する重要な因子であるが,その評価の方法とFig. 1.ELVO(左 M1 近位閉塞)に対する 4D-CTA 解析
Bone subtractionを終えた MIP 画像(A)は,まさに「DSA-like」な画像となり,閉塞部位と collateral に関する情報が,VR 画像(B)では血栓の範囲と遠位血管の走行に関する情報が得られる.各時相 の MIP 画像(C)を fusion することで側副血流を詳細に解析することも可能である(C-4).また全脳 の 4D-CTA 画像が得られれば,CTP 画像(D)を容易に構成できる.
4D-CTAが開く急性脳虚血病態解析の新たな地平
タイミングについては不明であった.そこで,我々 は,4D-CTA で観察される軟膜動脈吻合を介する col-lateral(pial collateral)と EVT の成否との関係を自験例 で調査した.
方法:2015 年 2 月~2017 年 5 月,当施設にて ELVO が疑われ 4D-CTA を施行された 432 例のうち,EVT が 施行され TICI2B 以上の再開通を得た M1 および M2 単独閉塞 74 例を対象とした.Pial collateral の程度 は,独自の Regional Pial Collateral Score(rPCS:0~16 点)を用い,早期動脈/中期動脈/中期静脈/後期静脈相 の 4 時相の MIP 画像と全時相の fusion 画像について スコア化した(Fig. 3).EVT の著効は,3 日後 NIHSS
10点以上改善または 5 点未満と定義し,著効群と非著 効群の rPCS を比較するとともに,受信者動作特性 (ROC)分析により EVT 著効の予測能を評価した. 結果:EVT 著効群 vs. 非著効群の rPCS(平均±SD) は,M1 閉 塞 に お い て, 早 期 動 脈 相 4.1±1.9 vs. 3.7±1.5,中期動脈相 8.0±2.7 vs. 6.7±1.9,中期静脈相 13.1±1.9 vs. 9.7±2.7,後期静脈相 13.6±1.5 vs. 10.5±2.8, 全時相 14.5±1.2 vs. 10.5±2.5 であり,中期/後期静脈相 および全時相における rPCS 値が EVT 著効にとくに相 関していた(P<0.001, Table 1).各時相の rPCS の EVT 著効を予測する ROC 曲線下面積は,全時相の fusion 画像の rPCS が最大となった(Az 値 0. 90,Fig. 4). 以上より,ELVO においては動静脈相から後期静脈 相にかけての pial collateral が EVT への良好な反応性 に関与しており,4D-CTA による全時相の collateral の 把握は EVT 適応決定に有用と考えている.
おわりに
4D-CTA は,ELVO の治療に不可欠である血管閉塞 部位の同定のみならず,collateral imaging と penumbra
imagingによる EVT への反応性の予測を可能とする. 閉塞部以遠の血管構築,血栓の位置,範囲,性状等の 情報も迅速かつ非侵襲的に得られ,機械的血栓回収時 代における画像モダリティとして極めて有望と考えら れる. 本論文の発表に関して,開示すべき COI はない. Fig. 2.4D-CTA による血栓の同定
上段:左 M1 近位閉塞:血栓の近位端(△)とともに,pial collateral による back filling(矢印)により 血栓の遠位端(▽)が推定される.中段:左 M1 遠位閉塞:M2 inferior trunk には閉塞部(△)を超え た遅い順行性血流(黒矢印)が,superior trunk には collateral からの逆行性血流(白矢印)が確認さ れ,血栓の本体は superior trunk にあることが推定される(破線).下段:左 M2 遠位閉塞:parietal artery(黒矢印)と central artery(白矢印)の遅い順行性血流にて両血管の分岐部(○)に騎乗する血栓が 確認される.本例ではその後この順行性血流がさらに減少,症状増悪したため血栓を回収した.
Table 1.M1 単独閉塞における EVT 著効群と非著効群の画像パラメーター EVT著効 N=25 著効なしN=17 P値 ASPECTS(mean±SD) CT 8.8±1.2 8.9±1.3 0.75 MTT 3.8±1.3 3.6±1.0 0.68 CBF 3.6±1.3 4.2±1.2 0.25 CBV 8.2±2.0 6.9±2.2 <0.05< ΔASPECTS(mean±SD) CBF-MTT 1.3±1.6 0.8±1.6 0.68 CT-MTT 6.0±1.2 5.2±2.5 0.25 CBV-MTT 5.1±1.1 3.9±1.5 <0.05< rPCS(mean±SD)
Early arterial phase 4.1±1.9 3.7±1.5 0.54 Peak arterial phase 8.0±2.7 6.7±1.9 <0.050 Mid venous phase 13.1±1.90 9.7±2.7 <0.001 Late venous phase 13.6±1.50 10.5±2.80 <0.001 Fusion 14.5±1.20 10.5±2.50 <0.001 EVT著効群で CBV-ASPECTS, CBV と MTT の ASPECTS の差,早期動 脈相を除く rPSC が有意に高く,とくに中期・後期静脈相,全時相の fusion画像の rPSC が EVT の成否に強く相関していた.
ASPECTS: Alberta Stroke Program Computed Tomography Score, ΔASPECTS: 各 CT 画像における ASPECTS の差,rPCS: Regional Pial Collateral Score(0~16 点),Fusion: 全時相の fusion 画像
Fig. 3.当施設の Regional Pial Collateral Score(rPCS)
10 mm厚の Axial MIP 画像にて ASPECT スコアに準ずる MCA の
7領域で評価:スコア 0=表在動脈が造影されない,1=対側の同
部位と比し弱い造影,2=対側と同じかそれ以上の造影動脈が確 認される,ただしシルビウス裂のみ,それぞれ 0, 2, 4 点でカウン トする.合計 0~16 点.
4D-CTAが開く急性脳虚血病態解析の新たな地平
文 献
1) Shuaib A, Butcher K, Mohammad AA, Saqqur M, Liebes-kind DS: Collateral blood vessels in acute ischaemic stroke: a potential therapeutic target. Lancet Neurol 10: 909–921, 2011
2) Bang OY, Saver JL, Kim SJ, Kim GM, Chung CS, Ovbiagele B, Lee KH, Liebeskind DS: Collateral flow pre-dicts response to endovascular therapy for acute ischemic stroke. Stroke 42: 693–699, 2011
3) Christoforidis GA, Karakasis C, Mohammad Y, Caragine LP, Yang M, Slivka AP: Predictors of hemorrhage follow-ing intra-arterial thrombolysis for acute ischemic stroke: the role of pial collateral formation. AJNR Am J Neurora-diol 30: 165–170, 2009
4) Ribo M, Flores A, Rubiera M, Pagola J, Sargento-Freitas J, Rodriguez-Luna D, Coscojuela P, Maisterra O, Piñeiro S, Romero FJ, Alvarez-Sabin J, Molina CA: Extending the time window for endovascular procedures according to collateral pial circulation. Stroke 42: 3465–3469, 2011 5) Bang OY, Goyal M, Liebeskind DS: Collateral Circulation
in Ischemic Stroke: Assessment Tools and Therapeutic Strategies. Stroke 46: 3302–3309, 2015
6) Kortman HG, Smit EJ, Oei MT, Manniesing R, Prokop M, Meijer FJ: 4D-CTA in neurovascular disease: a review. AJNR Am J Neuroradiol 36: 1026–1033, 2015
7) Smit EJ, Vonken EJ, Meijer FJ, Dankbaar JW, Horsch AD, van Ginneken B, Velthuis B, van der Schaaf I, Prokop M: Timing-invariant CT angiography derived from CT perfu-sion imaging in acute stroke: a diagnostic performance study. AJNR Am J Neuroradiol 36: 1834–1838, 2015 8) Smit EJ, Vonken EJ, van Seeters T, Dankbaar JW, van der
Schaaf IC, Kappelle LJ, van Ginneken B, Velthuis BK, Prokop M: Timing-invariant imaging of collateral vessels in acute ischemic stroke. Stroke 44: 2194–2199, 2013 9) Frölich AM, Schrader D, Klotz E, Schramm R, Wasser K,
Knauth M, Schramm P: 4D CT angiography more closely defines intracranial thrombus burden than single-phase CT angiography. AJNR Am J Neuroradiol 34: 1908–1913, 2013
10) Frölich AM, Psychogios MN, Klotz E, Schramm R, Knauth M, Schramm P: Antegrade flow across incomplete vessel occlusions can be distinguished from retrograde collateral flow using 4-dimensional computed tomographic angiography. Stroke 43: 2974–2979, 2012 0 0.2 0.4 0.6 0.8 1 Sensi ti vi ty 1-Specificity
early arterial phase peak arterial phase midvenous phase latevenous phase total rPCS(fusion)
Fig. 4.各時相の rPCS の EVT 著効を予測する ROC 曲線