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呼吸法を実施した公開講座参加者のリラックス感の検討 : 生理的および心理的変化の視点から

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Ⅰ.はじめに 「睡眠」は生命を維持するうえで欠かすことができ ないものであり、不適切な睡眠習慣や睡眠障害が、食 事や運動の問題(過食、肥満、運動不足)と同様に 生活習慣病の発症や悪化と関連が認められた(三島, 2011)。また、不眠が抑うつなどのこころの不健康につ ながる(厚生労働省,2014)など健康上の問題や生活 への支障が生じる。しかし、近年情報通信技術の進歩 や生活環境やライフスタイルの多様化により睡眠を規 則的にとることが難しく、睡眠時間の減少や睡眠の質 の低下が認められている(西野,2011)。また、60 歳以 上になると入眠障害、途中覚醒、早朝覚醒などの不眠 が若年成人や中年と比べ頻度が高くなり、特に途中覚 醒や早朝覚醒の訴えは若年成人のほぼ倍になる(内山, 2011)と報告されていて、高齢者の睡眠の質は低下し ていることが考えられる。厚生労働省(2014)は、「健 康づくりのための睡眠指針 2014」(以下、指針)を公表 し、睡眠の重要性について普及啓発を行っている。現 在、睡眠への注目度はますます高まっていると言える。 指針をみると、スムーズに眠りへ移行するには、就 寝前の脳の変化を妨げないように、自分にあったリ ラックスの方法を工夫することを推奨している。リ ラックスに関連する研究はいくつかの報告がされてい て、リラクセーション反応は副交感神経反応とみなす ことができる(荒川.小板橋,2001)。リラックス状 態になるには副交感神経優位の状態に誘導することが 大切であり、その方法として「足浴」(吉永,2007; 橋本.松本.高橋,2008)、「呼吸法」(柳.小池.小 板橋,2003;佐藤,2009)、「アロマテラピー」(河野, 2011;森木.山中,2013)などがある。しかし、準備 物品が必要であったり、一定のマニュアルを有してい たりして手軽に行えるものばかりではない。その中で も、「呼吸法」は特殊な道具を必要とせずいつでもど こでもできる。就寝前に行うリラックス方法として、 簡易に行うことができると考えた。 「呼吸法」と「リラックス」を取り上げた報告は多 くなされており、その効果も認められているが、多 くの呼吸法の介入は操作された環境下で実施されて 研究報告

呼吸法を実施した公開講座参加者のリラックス感の検討

― 生理的および心理的変化の視点から ―

石田  咲1 大野 晶子2 中村 裕美1 酒井喜久子1 東野 督子1 要旨 地域住民を対象とした公開講座において「生活習慣を見直そう!∼質の良い睡眠を促す工夫∼」をテーマに睡眠と共 にリラックスにも注目した健康教育を実施した。本研究の目的は、呼吸法による生理的、心理的変化および集団教育の 効果を明らかにすることである。公開講座参加者 14 名に腹式呼吸を 5 分間実施した。呼吸法前後の深部体温、脈拍数、 血圧に有意な変化は見られず、手掌温度、手背温度は有意に上昇した。心理的指標のリラックス感は有意に増加した。 1 ヶ月後の自宅での呼吸法実施状況では、12 名が呼吸法を自宅で実施した。そのうち 9 名(75.0%)に不眠・イライラ・ 不安の改善がみられた。地域住民を対象とした公開講座中の一回の体験においても、概ね腹式呼吸法を習得し、一定の リラクセーション効果を得られることが示唆された。 キーワード 公開講座 呼吸法 リラックス 1 日本赤十字豊田看護大学 2 日本福祉大学 看護学部

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いる(柳.小池.小板橋,2003;大平.斉藤.村本, 2007;佐藤,2009)。しかし、地域住民を対象とした 睡眠や呼吸法について講義した報告はあるものの(西 野,2011;稲冨,2013)、呼吸法を集団的に実施し、 リラックス効果の評価をしているものはみあたらな かった。また、介入後どの程度呼吸法を活用するのか の調査はみられなかった。 そこで、今回、地域住民を対象とした公開講座にお いて、睡眠導入のためのリラクセーションとして、簡 単に習得できる「腹式呼吸法」をとりあげ、健康教育 を行うこととした。呼吸法のリラックス反応の効果が 確認できれば、より簡単に睡眠の質の向上および健康 の維持増進に貢献できるものと考える。 本研究の目的は、腹式呼吸法による生理的、心理的 変化および集団教育の効果を明らかにすることである。 Ⅱ.公開講座の概要 1.開催日時 平成 27 年 3 月 12 日(2 時間) 2.テーマ 日本赤十字豊田看護大学公開講座 2014「生活習慣 を見直そう!∼質の良い睡眠を促す工夫∼」 3.公開講座の内容 1)講義 講義内容は①睡眠について、②リラクセーションに ついてである。講義時間は、35 分間であった。 2)体験(呼吸法の実施) 呼吸法は、参加者がリラックス状態になる 1 つの方 法を得る目的として行った。腹式呼吸法のリラックス 効果および呼吸法の手順について説明した後実施し、 呼吸法実施前後でアンケートと生理的指標を使って評 価した。体験時間は、40 分であった。 Ⅲ.研究方法 1.対象:公開講座に参加した地域住民 20 名のうち、 本研究への参加協力に同意し、呼吸・循環に既往歴が ない、または、既往歴があった場合は症状が安定して いるものを条件とした。 2.研究日時:平成 27 年 3 月 12 日(2 時間) 3.腹式呼吸の方法 対象者は、背もたれのある椅子に座って閉眼し、腹 式呼吸(吸気 2 拍 ‐ 止息 1 拍 ‐ 呼気 4 拍のリズム) を行った。不快感を抱かない限り呼吸法は、吸気 2 拍 ‐ 止息 1 拍 ‐ 呼気 4 拍が最もリラクセーション効果 がある(佐藤,2009)という先行研究を参考にした。 呼吸の 1 回目は、「吸って」「止めて」「吐いて」とい う研究者の声かけに従って腹式呼吸をしてもらった。 2 回目以降の呼吸は、自分のペースで腹式呼吸をする ように声をかけた。腹式呼吸は 5 分間実施した。 4.手順 講義資料や荷物があると注意がそれる可能性がある ため、同室ではあるが、講義用座席の後方に呼吸法用 の机と座席を用意し、そちらへ移動してから呼吸法を 実施した。 図 1 のパンフレットを用いて、腹式呼吸の方法を説 明後、上記の方法で練習を 1 回行った。練習の効果が 体験時に影響する恐れがあるため、練習後休憩時間を とった。実施前に排泄を促した。手順としては、ⅰ. 部屋を消灯し、直射日光が当たらないようカーテンを 閉め、電気を消す、ⅱ.背もたれのある椅子に深く腰 掛け、楽な姿勢を取る、ⅲ.両下肢を地面につけ、手 は軽く大腿部の上に置き、膝は肩幅程度に開いた状態 にする、ⅳ.肺を大きく膨らませ、ガス交換をしてい る自分の体に意識を向けるように伝える、ⅴ.周囲の 音などは気にかけなくてよいことを伝える、ⅵ.参加 者自身に落ち着いたゆっくりした呼吸を行ってもら う。ゆっくり腹部に息を入れていくように話す、ⅶ. 参加者全体が落ち着いたゆっくりした呼吸になった ら、落ち着いた声で吸気 2 拍 ‐ 止拍 1 拍 ‐ 呼気 4 拍 のリズムについて説明する、ⅷ.慣れてきたら自分に 合ったリズムで呼吸を行うこととした。 5.調査の内容 腹式呼吸法の生理的・心理的変化は、生理的指標 (深部体温、脈拍、血圧、皮膚表面温)とリラックス に関するアンケートで評価した。健康教育の効果につ いては、腹式呼吸法体験後のアンケートおよび 1 か月 後の公開講座参加後のアンケートを使って、腹式呼吸 法の習得状況や公開講座後の実施状況を評価した。調 査内容について、表 1 に示す。

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図 1 .呼吸法パンフレット 表 1 .調査内容 調査時期 調査項目 ①睡眠状況に関する  アンケート(選択式) 講義中 就寝時間、寝床についてから就寝までの時間 起床時間、途中覚醒状況、眠剤の服用状況 ②生理的指標 呼吸法前後 鼓膜温度、血圧、脈拍、手掌温度、手背温度 ③リラックス感に関する  アンケート(選択式) 呼吸法前後 落ち着いている、体の力が抜けてきている、心地よい 安心している、開放的な気分である ④呼吸法体験後  アンケート(選択式) 呼吸法終了後 リラックス効果、習得状況、有用性、自宅実施の可否 ⑤呼吸法の実施状況  アンケート(選択式) 公開講座1ヶ月後 自宅での睡眠状況、自宅での呼吸法の実施の有無 呼吸法実施時の状況、呼吸法の効果

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1)リラックス感に関するアンケート 腹式呼吸法の実施前後にリラックス感に関するアン ケートを実施した。根建らが開発したリラックスの程 度に関する質問紙(根建.上野,1984)を参考に作成 したものを用いた。5 項目(落ち着いている、体の力 が抜けてきている、心地よい、安心している、開放的 な気分である)について、全くそうでない(0 点)∼ 全くそうである(10 点)とする 11 段階で評価し、各 項目の合計得点(0 ∼ 50 点)をリラックス感の総得 点とした。リラックス感に関するアンケートは、得点 が高いほどリラックス感が得られていることを表す。 なお、アンケートは参加者が座っている椅子の前の机 で記入してもらった。 2)生理的指標 腹式呼吸法の実施前と終了時に、深部体温、脈拍、 血圧、皮膚表面温度の測定を行った。①深部体温は、 耳式温度計 CT820(シチズンシステム(株)製)に より鼓膜温度を測定した。②脈拍は、パルスオキシ メーターパルソック 300(アムコ(株)製)および電 子血圧計デジタル自動血圧計フィジ(omron(株)製) にて測定した。③血圧は、電子血圧計およびアネロイ ド血圧計ディラショックTM DS45 ゲージ一体型(ウェ ルチ・アレン・ジャパン(株)製)にて測定した。2 種類の血圧計を使用しているが、腹式呼吸法前後で同 一の対象者に同一の血圧計を使用した。④皮膚表面温 度測定は、非接触型赤外線温度計サーモピッパー(佐 藤商事(株)製)にて手掌皮膚表面温度(以後、手掌 温度)および手背皮膚表面温度(以後、手背温度)を 測定した。測定および記録は、看護師資格をもつ教員 複数で実施し、所定の記入用紙に記載した。 3)呼吸法体験後アンケート(公開講座終了時) 呼吸法体験後アンケートは、自作し、①リラックス 効果、②習得状況、③呼吸法の有用性、④自宅での呼 吸法実施の可否について質問した。公開講座終了時に 実施した。 4) 公開講座参加後のアンケート(公開講座終了 1 か 月後) 公開講座参加者のアンケートは、自宅での腹式呼吸 法実施状況を調査するために作成した。①自宅での睡 眠状況、②自宅での呼吸法の実施の有無、③呼吸法実 施時の状況、④呼吸法の効果について質問した。公開 講座終了 1 か月後に郵送し、調査票は同封の封筒にて 郵送回収した。 6.分析方法 腹式呼吸法実施後アンケート、公開講座参加後のア ンケート(公開講座終了 1 か月後)の各データについ ては単純集計を行い、分布の特徴を概観した。 リラックス感に関するアンケート(「全くそうでな い」∼「全くそうである」の 11 段階評価の項目と総 得点)、生理的指標(深部体温、脈拍、血圧、手掌温 度、手背温度)の各データについては、Wilcoxon の 符号付順位検定を行った。有意水準は <0.05 とした。 データの分析は、IBM SPSS Statistics Ver.23 を用い た。 7.倫理的配慮 本研究は、日本赤十字豊田看護大学倫理審査委員会 の承認を得て行った(承認番号:2609 号)。参加者に 講義終了後に本研究の趣旨、目的、方法などについ て、文章および口頭にて説明して同意書への署名を得 た。特に、本研究への参加/不参加は個人の自由意思 によるものであり、不参加もしくは後日撤回しても何 ら不利益を被らないこと、各アンケートおよび生理的 指標測定は、調査への参加者と不参加者に不利益が生 じないよう、公開講座参加者全員に実施すること、得 られたデータはすべて個人が特定できないようにナン バリングして連結可能匿名化をすること、対応票は研 究代表者が別に保管することを説明した。また、同意 書の提出は公開講座終了後とし、調査者から見えない 場所に提出場所を設けて自由意思を保障した。 Ⅳ.研究結果 1.対象の属性 公開講座の参加者 20 名のうち、本研究への同意 が得られたのは 15 名であった(75.0%)。対象者 15 名の内、自記式質問紙への無効回答を除いた 14 名 (93.3%)を分析対象とした。1 か月後のアンケートは 15 名に郵送し、14 名(93.3%)回収したが、そのう ちの前述の自記式質問紙への無効回答を除いた 13 名 の結果を示す。年齢、性別の割合について、表 2 に示 す。なお、対象者には、呼吸法実施前に、呼吸、循環

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器系の機能低下を伴うような既往歴がないか、もし あった場合は症状が安定しているかどうかを確認した が、申告はなかった。 回/分)、呼吸法後 67.0 回/分(49 − 92 回/分)で あり、呼吸法実施前後で有意差はなかった。 収縮期血圧および拡張期血圧の中央値は、呼吸法実 施前後で有意差はなかった。 手 掌 温 度 の 中 央 値 は、 呼 吸 法 前 31.2 ℃(27.8 − 34.5℃)、呼吸法後 32.5℃(28.8 − 34.8℃)であり、手 背温度の中央値は、呼吸法前 30.9℃(27.6 − 32.6℃)、 呼吸法後 32.8℃(28.1 − 33.7℃)であり、有意差が認 められ、呼吸法実施前より呼吸法実施後で増加した。 2)リラックス感 呼吸法前後のリラックス感の変化について表 4 に示 す。 「落ち着いている」、「体の力が抜けてきている」、 「心地よい」、「安心している」、「開放的な気分である」 は、呼吸法前後で有意差が認められ、呼吸法実施前よ り呼吸法実施後で増加した。「リラックス感の総得点」 は、 呼 吸 法 前 26.0(12―41)、 呼 吸 法 後 32.5(25 − 50)であり、呼吸法前後で有意差が認められ、呼吸法 実施前より呼吸法実施後で増加した。 2.呼吸法実施前後の変化 1)生理的指標 呼吸法前後の生理的指標の変化について表 3 に示 す。 鼓膜温度の中央値は、呼吸法実施前後で有意差はな かった。 脈拍の中央値は、呼吸法前 67.5 回/分(49 − 109 表 2 .対象の属性         =14 属性 区分 人数(割合) 年齢 40 歳代 3(21.4%) 50 歳代 1( 7.1%) 60 歳代 5(35.7%) 70 歳代 5(35.7%) 性別 男性 2(14.3%) 女性 12(85.7%) 注: 1 ヶ月後の「呼吸法の実施状況アンケート」は、70 代の女 性 1 名を除いた 13 名であった。 表 3 .呼吸法前後の生理的指標の変化        =14 項目 呼吸法前 中央値 (最小値 - 最大値) 呼吸法後 中央値 (最小値 - 最大値) Wilcoxon 検定 値 鼓膜温度(℃) 36.6(35.1-37.6) 36.7(35.5-37.8) 脈拍(回 / 分) 67.5(49-109) 67.0(49-92) 収縮期血圧(mmHg) 129.0(110-158) 123.0(108-156) 拡張期血圧(mmHg) 82.5(60-92) 78.0(67-91) 手掌温度(℃) 31.2(27.8-34.5) 32.5(28.8-34.8) <0.01 手背温度(℃) 30.9(27.6-32.6) 32.8(28.1-33.7) <0.05 表 4 .呼吸法前後のリラックス感の変化       =14 項目 呼吸法前 中央値 (最小値 - 最大値) 呼吸法後 中央値 (最小値 - 最大値) Wilcoxon 検定 値 落ち着いている 5.0(3-8) 7.5(5-10) <0.01 体の力が抜けてきている 5.0(3-7) 7.5(3-10) <0.01 心地よい 5.0(2-10) 7.0(5-10) <0.01 安心している 5.0(2-10) 7.0(5-10) <0.05 開放的な気分である 5.0(2-9) 6.5(4-10) <0.01 上記 5 項目の総得点 26.0(12-41) 32.5(25-50) <0.01

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3.呼吸法体験後の効果 呼吸法体験後の効果について図 2 に示す。 「呼吸法でリラックスできたか」が、「はい」12 名 (85.7%)、「呼吸法が習得できた」が、「はい」12 名 (85.7%)であった。「呼吸法の有用性があった」が、 「 は い 」13 名(92.9 %)、 で あ り、「 呼 吸 法 を 自 宅 で 実施しようと思った」が、「はい」13 名(92.9%)で あった。 4.1 か月後の自宅での呼吸法実施状況 1 か月後の自宅での呼吸法実施状況について図 3 に 示す。 「公開講座参加後の睡眠が得られない日の有無」が、 「はい」6 名(46.2%)であった。 「呼吸法を自宅で実施した」のは 12 名であり、そ のうち「眠れなかった時」4 名(33.3%)、「イライラ した時」1 名(8.3%)、「不安だった時」4 名(33.3%) に実施していた。「呼吸法の効果」では、「あり」9 名 (75.0%)であった。 Ⅳ.考察 本研究への同意が得られた 15 名(有効回答 14 名) を対象に呼吸法を実施し、呼吸法前後の生理的指標、 心理的指標を比較した。生理的指標の鼓膜温度、脈拍 数、血圧に有意な変化は見られず、手掌温度、手背温 度は有意に上昇した。心理的指標のリラックス感は有 意に増加した。1 か月後の自宅での呼吸法実施状況で は、12 名が呼吸法を自宅で実施した。そのうち 9 名 (75.0%)が「眠れなかった時」、「イライラした時」、 「不安だった時」に呼吸法を実施し、改善がみられた。 1.呼吸法実施前後の生理的指標の変化 1)脈拍の変化 腹式呼吸の実施前後で、脈拍数は減少したが、有意 な変化は見られなかった。田中・長坂・矢野(2008) は、腹式呼吸を実施し、心拍数は腹式呼吸法群とコン トロール群ともに低下したが有意な変化はなかったと 報告している。熊倉・小林(2015)は、手術患者に入 院一週間前より 1 日 1 回在宅で呼吸法を実施し、手術 前日の調査で、心拍において呼吸法実施前・実施中・ 実施後に有意な差はなかったと報告しており、同様の 結果であった。 しかし、多くは、呼吸法によって副交感神経が優 位になり、脈拍数は減少する(柳.小池.小板橋, 2003;片岡.渋谷,2002:佐藤,2009)と報告してい る。本調査では、60 70 代が多く参加していた。柳ら は、19 ∼ 26 歳の健康女性、片岡らは、20 ∼ 22 歳の 健康な女子大生、佐藤は、20 ∼ 60 歳(平均年齢 42.9 歳)の健康に特段の問題がない男女の職業人を対象と しており、本調査の年齢層とは違いが見られる。ま た、早野(2002)は、安静時の心臓迷走神経活動は加 齢とともに減少すると述べており、対象の年齢が影響 していると考える。 一方、田中・長坂・矢野(2011)らは、高齢者を対 象にした呼吸法の比較研究では、呼吸法実施後心拍数 の有意な減少が見られたと報告している。田中らは、 リクライニングソファの背もたれを倒し、仰臥位に近 い状態で臥床し調査を行っていた。循環器系の自律神 経活動は体位によって変化する(中尾.熊野,1995) ため、呼吸法時の体位も影響要因になると考える。 片岡・渋谷(2002)は、腹式呼吸の呼息 6 秒対吸 息 4 秒は、呼息 5 秒対吸息 5 秒の場合より副交感神経 が優位になったと報告している。佐藤(2009)は、呼 吸パターンとして吸息 2 −止息 0 −呼息 4 あるいは同 2 − 1 − 4 がより効果的であると述べており、呼吸法 はゆっくり呼吸を行い、吸気より呼気を長くすること で、副交感神経が優位になると考えられる。本調査で は吸気 2 拍 ‐ 止拍 1 拍 ‐ 呼気 4 拍のリズムについて 説明し 1 回練習を行っているが、2 回目以降の呼吸は、 自分のペースで腹式呼吸をするように声をかけた。そ のため、リズム通りの呼吸を行っているか、吸気より 呼気の方を長く行っているかの確認ができていなかっ た。那須・福永(2011)らは、短期大学 2 年生を対象 に腹式呼吸法を実施し、実施後「方法が難しい」、「息 をいったん止めることで、息苦しさが増した」と否定 的な反応が少なくなかったと報告している。また、入 野・小板橋(2009)は、呼吸法を 6 ヶ月実施し、長期 的なリラクセーション反応の変化を調査したところ、 確実な脈拍や血圧の変化がみられたのは開始後 4 週間 以降であったと報告している。今回の結果は、呼気延 長呼吸であったか、また呼吸法の習得状況が十分で あったかが影響していると考える。

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2)血圧の変化 腹式呼吸法実施前後での収縮期血圧および拡張期血 圧で有意な差は認められなかった。本調査では高齢者 が多く参加しており、安静時の心臓迷走神経活動は加 齢とともに減少することに加えて、呼吸法開始前に血 圧が高値でなかったため、血圧に変化がなかったと考 える。 3)手掌・手背皮膚温の変化 腹式呼吸法実施前後で手掌温度、手背温度には有意 な差が認められた。冨重・山下(2009)らは、意識下 手術を受ける患者に対して呼吸法を実施し、末梢皮膚 温は穏やかに上昇し副交感神経の反応が出現したと述 べている。また、小板橋・大野(1996)らは、健常者 に筋弛緩法と腹式呼吸法を行い、30 分後の末梢皮膚 温が開始時に比べ有意に上昇すると述べており、本調 査でも末梢皮膚温は有意に上昇しており、同様の結果 が得られた。人間の体はリラックスしていると感じる 図 2 .呼吸法体験後の効果 図 3 .自宅での睡眠状況と呼吸法実施状況 注: 「呼吸法実施時の状況」と「呼吸法の効果」は、「自宅での呼吸法実施の有無」の枝分かれ質問であり、呼吸法を実施した 12 名の回 答である。 䛿䛔䠈13ྡ䠄92.9%䠅 䛿䛔䠈13ྡ䠄92.9%䠅 䛿䛔䠈12ྡ䠄85.7%䠅 䛿䛔䠈12ྡ䠄85.7%䠅 䛹䛱䜙䛸䜒䛔䛘䛺䛔䠈 1ྡ䠄7.1%䠅 䛹䛱䜙䛸䜒䛔䛘䛺䛔䠈 1ྡ䠄7.1%䠅 䛹䛱䜙䛸䜒䛔䛘䛺䛔䠈 2ྡ䠄14.3%䠅 䛹䛱䜙䛸䜒䛔䛘䛺䛔䠈 2ྡ䠄14.3%䠅 0% 20% 40% 60% 80% 100% 䝸䝷䝑䜽䝇 䛷䛝䛯 ᭷⏝ᛶ䛜 䛒䛳䛯 ⩦ᚓ䛷䛝䛯 ⮬Ꮿᐇ᪋䛧䜘䛖 䛸ᛮ䛳䛯 n㻩㻝㻠 䛒䜚䠈9ྡ(75.0%) ╀䜜䛺䛛䛳䛯᫬䠈 4ྡ(33.3%) ᐇ᪋䛧䛯䠈12ྡ(92.3%) 䛒䜚䠈6ྡ(46.2%) 䜲䝷䜲䝷䛧䛯᫬䠈 1ྡ(8.3%) ᐇ᪋䛫䛪䠈1ྡ(7.7%) 䛺䛧䠈6ྡ(46.2%) 䛹䛱䜙䛸䜒䛔䛘䛺䛔䠈 3ྡ(25.0%) ୙Ᏻ䛰䛳䛯᫬䠈 4ྡ(33.3%) 䛹䛱䜙䛸䜒䛔䛘䛺䛔䠈 1ྡ(7.7%) 䛭䛾௚䠈 3ྡ(25.0%) 0% 20% 40% 60% 80% 100% ⮬Ꮿ䛷䛾 ࿧྾ἲ䛾ᐇ᪋ 䛾᭷↓ ⮬Ꮿ䛷䛾 ࿧྾ἲ䛾ᐇ᪋ 䛾᭷↓ ࿧྾ἲᐇ᪋᫬ 䛾≧ἣ ࿧྾ἲ䛾 ຠᯝ ࿧྾ἲᐇ᪋᫬ 䛾≧ἣ ࿧྾ἲ䛾 ຠᯝ ╧╀䛜ᚓ䜙䜜䛺䛔 ᪥䛾᭷↓ 䠄n㻩㻝㻟䠅n㻩㻝㻟䠅n㻩㻝㻞䠅n㻩㻝㻞䠅

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と副交感神経が優位となり、自律神経系の働きによ り、血管を拡張させ皮膚の血流が良くなる(鵜飼.吉 武,2010)と言われており、呼吸法を実施することに よりリラックスしていると感じ、副交感神経が優位に なり、末梢皮膚温が上昇したと考えられる。 2.呼吸法実施前後の心理的指標の変化 腹式呼吸法実施前後でのリラックス感尺度の各項目 の得点および総得点で有意な差が認められた。大平・ 斉藤・村本ら(2007)は、健康女性を対象に、心電 図 RR 間隔の心拍変動解析および根建ら(1984)のリ ラックス感尺度を使用して呼吸法のリラクセーション 効果を検討し、副交感神経活動の指標である HF(高 周波領域)の有意な増加およびリラックス尺度の「の んびりしていた」「体の力が抜けていた」の項目で有 意な増加量が見られたと報告している。腹式呼吸に よって、のんびりした感じを増加させ、体の余分な力 が抜け筋肉の緊張感を和らげる効果が得られるといえ る。 3.呼吸法体験後の効果および自宅での呼吸法実施状況 腹式呼吸法体験後、多くの参加者が呼吸法でリラッ クスを得ることができ、呼吸法の手順が習得でき、有 用性があったという意見であった。睡眠とリラックス についての関係など知識を深めたうえで体験すること で、より興味を持って呼吸法を体験することができた ため有用性があったと感じたと考えられる。 公開講座実施 1 か月後自宅で呼吸法を実施した方 が 12 名おり、眠れなかった時、不安だった時、イラ イラした時に呼吸法を自主的に実施し、9 名(75.0%) の方が効果を得られていた。公開講座中の 1 回の体験 であったが、自宅にて呼吸法が実施できており、呼吸 法を概ね習得できていたと考えられる。 今回、公開講座参加者 14 名を対象に、腹式呼吸を 行い、生理的・心理的変化を評価した。腹式呼吸に よって脈拍・血圧には有意な変化はみられなかった。 対象の年齢、実施時の体位、呼気延長呼吸の有無、呼 吸法の習得状況が影響していると考える。一方、手 掌・手背表面温度は有意に上昇し、リラックス感も有 意に増加した。意識的に呼吸をすることである一定の リラクセーション効果は得られることがわかった。ま た、地域住民を対象とした公開講座においても、簡便 な方法である呼吸法は教育効果が得られると考える。 4.本研究の限界 公開講座で呼吸法を実施したため、前後 1 回の測定 による評価である。また同時に生理的指標を測定する 必要があり、複数の者が個別の機器を使用して測定し た。多くの先行研究では心電図を用いて心拍変動解析 している場合が多いことを考えると、自律神経活動を 評価するには限界がある。症例数も少なく、年齢の幅 も広いため今後は症例数を増やして検討する必要があ る。 今回の研究では集団教育で呼吸法を実施したが、対 象者は健康の維持・増進への関心が高い集団と考えら れるため、一か月後の呼吸法実施状況が高い結果と なった可能性がある。また、一か月後のみの追跡調査 となっており、長期的に見てどれくらい教育効果があ るのかは不明である。今後どれくらい教育効果が継続 されるかを把握する必要がある。 Ⅴ.結果 公開講座にて本研究への同意が得られた 15 名(有 効回答 14 名)を対象に呼吸法を実施し、その効果を 検討した。その結果、以下のことが見出された。 1)生理的指標では、脈拍数は減少したが、有意な差 は見られなかった。血圧に変化は見られなかった。末 梢皮膚温は優位に上昇し、副交感神経が優位になった ため、リラックス感を得られた。 2)心理的指標では、リラックス感尺度の各項目の得 点および総得点で有意な差が認められ、コントロール された状況下でなくても、集団で呼吸法を行うことに よってもリラックス感を得ることができた。 3)公開講座にて呼吸法の有用性を感じ、公開講座実 施 1 か月後自宅でも呼吸法を自主的に実施し、効果が 得られた。 Ⅵ.謝辞 日本赤十字豊田看護大学公開講座 2014「生活習慣

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を見直そう!∼質の良い睡眠を促す工夫∼」に参加い ただき、本研究にご協力いただいた皆様に、感謝申し 上げます。 文献 荒川唱子・小板橋喜久代(2001).看護にいかすリラ クセーション技法ホリスティックアプローチ.東 京:医学書院 土井由利子・簔輪眞澄.内山真 他(1998).ピッツ バーグ睡眠質問票日本語版の作成.精神科治療 学,13(6),755-763. 橋本知子・松本明美.高橋マツ子 他(2008).足浴 が睡眠に与える効果.足利短期大学研究紀要, 28,97-100. 早野順一郎(2002).循環器領域でみられる高齢者心 身症.Geriatric.Medicine,40(10),1391-1396. 稲冨惠子(2013).息することは生きること 良い呼 吸で健康づくり.順天堂保健看護研究,2(1), 68-74. 入野規子・小板橋喜久代(2009).長期的なリラク セーション呼吸法の精神的健康度にもたらす効 果.日本看護研究学会雑誌,32(3),351. 片岡秋子・渋谷菜穂子(2002).腹式呼吸における呼 息―吸息時間の変化が及ぼす自律神経系への影 響.日本看護医療学会雑誌,4(1),14-18. 河野貴美子(2011).各種香りの生体への影響の差 異  脳 波 に よ る 検 討.Journal of International Society of Life Information Science,29(1),71-75. 小板橋喜久代・大野夏代(1996).漸進的筋弛緩法の 指導によるバイタルサインの変化.埼玉県立衛生 短期大学部紀要,21,43-50 厚生労働省(2014).健康づくりのための睡眠指針 2014 熊倉(小林)美咲・小林たつ子(2015).開腹による 子宮筋腫手術患者への呼吸法.日本看護技術学会 誌,14(3),248-256. 三島和夫(2011).睡眠と生活習慣病.公衆衛生,75 (10),755-759. 森木美帆・山中龍也(2013).アロマテラピーが睡眠 に及ぼす影響についての文献的考察.京都府立医 科大学看護学部紀要,23,79-87. 中尾睦宏・熊野宏昭・久保木富房 他(1995).呼吸 回数が心拍変動に与える影響について.心身医, 35(6),456-462. 那須実千代・福永ひとみ.佐々木三和(2011).精神 看護学の授業におけるリラクセーション技法を試 みた学生の反応.川崎市立看護短期大学紀要,16 (1),121-127. 根建金男・上里一郎(1984).生理的反応の認知と実 際の生理的反応が情動に及ぼす影響.行動療法研 究,9(2),33-39. 西野弘員(2011).平成 22 年度名古屋市立大学市民公 開講座「 安眠確保 の知恵 良質の睡眠を得る ために」を実施して.名古屋市立大学看護学部紀 要,10,57-63. 大平肇子・斉藤真.村本淳子(2007).卵胞期におけ るリラクセーションを目的とした呼吸法とその 生理心理的効果.日本生理人類学会誌,12(1), 11-17. 佐藤和彦(2009).リラクセーション手法としての呼 吸法.心身健康科学,5(2),33-41. 志自岐康子・松尾ミヨ子・習田明裕(2013).ナーシ ンググラフィカ 基礎看護学 3 基礎看護技術 5 版.大阪:メディカ出版.358 田中美智子・長坂猛.矢野智子 他(2008).健康成 人女性を対象とした腹式呼吸による自律神経反応 と尿中ホルモンの変化.日本看護研究学会雑誌, 31(4),59-65. 田中美智子・長坂猛.矢野智子 他(2011).意識的 腹式呼吸がもたらす高齢者の自律神経反応及びホ ルモン変化.形態・機能,10(1),8-16. 冨重佐智子・山下文子(2009).腹式呼吸法が意識下 手術を受ける患者の血圧・心拍数・末梢皮膚温に 及ぼす影響.オペナーシング,24(6),99-105. 内山真(2011).高齢者の睡眠.公衆衛生,75(10), 779-783. 鵜飼沙緒吏・吉武幸恵(2010).アロマオイルを用い た足浴におけるリラックス効果の検証―香りの好 みによる効果の比較―.日本看護学会論文集 第 41 回成人看護Ⅱ,190-193. 柳奈津子・小池弘人・小板橋喜久代(2003).健康女 性に対する呼吸法によるリラックス反応の評価. The Kitakanto Medical Journal,53(1),29-35.

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吉永亜子(2007).睡眠を促すケアとしての足浴の可 能性.臨床看護,33(14),2107-2113.

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Sense of Relaxation in Participants who Practiced Breathing

Exercises in a Public Program̶

From the Perspective of Physiological and Psychological

Changes

ISHIDA Emi1, OHNO Akiko2, NAKAMURA Hiromi1, SAKAI Kikuko1, HIGASHINO Tokuko1

1

Japanese Red Cross Toyota College of Nursing

2

Faculty of Nursing, Nihon Fukushi University

Abstract

We conducted health education focused on relaxation with sleep in a public program for community residents entitled Re-examining Lifestyles̶Modifications to Encourage Quality Sleep. The purpose of this study was to clarify the physiological and psychological changes that occurred with breathing exercises and the results of group education. The 14 participants of the public program practiced abdominal breathing for 5 minutes. No significant diff erences were seen in core temperature, pulse rate, or blood pressure before and after the breathing exercise, but the temperatures of the palm and back of the hand rose signifi cantly. The psychological index of sense of relaxation increased signifi cantly. On examining the use of the abdominal breathing technique at home 1 month after the lecture, it had been continuously used by 12 participants, and had reduced sleeplessness, irritation, or anxiety in 9 (75.0%) of them. This suggests that the general abdominal breathing method can be learned with even a single experience in a public program targeting community residents, and a certain relaxation eff ect is obtained.

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図 1 .呼吸法パンフレット 表 1 .調査内容 調査時期 調査項目 ①睡眠状況に関する  アンケート(選択式) 講義中 就寝時間、寝床についてから就寝までの時間起床時間、途中覚醒状況、眠剤の服用状況 ②生理的指標 呼吸法前後 鼓膜温度、血圧、脈拍、手掌温度、手背温度 ③リラックス感に関する  アンケート(選択式) 呼吸法前後 落ち着いている、体の力が抜けてきている、心地よい安心している、開放的な気分である ④呼吸法体験後  アンケート(選択式) 呼吸法終了後 リラックス効果、習得状況、有用性、自宅実施の可

参照

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