焼戻炭素鋼の性質に就て(第.1報)焼戻しに伴’ふ比容積の変化
焼戻炭素鋼立性質に就て(第1報)
焼戻しに伴ふ比容積の変化
1.緒 言
焼入れせる炎素鋼が焼戻しに件つて生ずる内部の組
織変化については周知の通りである。焼戻宏素鋼の諸
性質を利用せんとするに当つては、色々な焼戻温度に
於ける組織の変化を的確に知る必要があり、その爲に
は勿論顯微鏡により組織を調べることが行なわれなけ
ればならないが、軍純な炭素鋼の場合はそれでも比較
的容易であるが、成分が複雑になつて來ると申々の熟
練を要して、特に組織変化の時期を知ることは顯微鏡
のみでは難かしいものである。その爲に他の色々な実
賦を併用してその変化の時期を確かめる必要に追られ
る訳である6焼戻しによる相変化に俘つてその比容積
或は比重は当然変化すると考へられ、その変化が大き
く且つ敏感に現われるならばその測定方法が比較的原
始的な方法丈に特別の装置を要することなく、手軽に
適用出來て便利である。依つて比容積試瞼或は比重試
験の利用の可能性があるかどうかを確かめるために行
つたのが本実験である。
財
満
鎮
雄
1表に示す様な成分のものを用ひた。夫々A3及A・m点
より上部に20分保持した后水にて急冷したものを、各
温度に20分保持して室中放冷して焼戻した。顯微鏡試
第 1 表
種類CIS・』P
sl⇒()u
No.1
No.2
No.3
No.4
No.5
No.6
i’ ・・?gl ・…1α33痕跡
095;
E
O.72
0.55
0.30i
0.18
0.25
α34
0.27‘
0.41
0.30
0.50
0.71
0,0281
0.031
0.0341
0.030
・…1 ・.・5・・371 …33α・i41 …4
0α∼0「 α42 −
o.025{_ _
O.019 0.09 0.26
0.06 0.250.033
。.。1、。」 ・o.3、
1
2.実験方法及びその結果
今試料の室中に於ける重さをw,それがξ゜Cの水中
に於ける重さをw’とし、水のt°Cに於ける比重をG,
その時の室温に於ける室気の密度をρとすれば、4°C
の水を標準とした場合の試料の比重γは次式で與へら
れる。
・=ひ,(G−・)+・㍉㌦・G−%鵠・…(・)
然るに宏素鋼の様な場合第1項に対して第2項は
10−5∼10−6のorderで影響を與へる丈である’ので無視
すれば
γ=w,G………・……一…………(2)
w−一%
又比容積砂は
v == 1/γ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・… 一一・・・… (3)
(2)、(3)式に從つて測定を実施した。
試料はユOmm×10mm×20mmの角嬉に仕上げた第
料を作る要領で各面をエメリ…一で磨き酸化クロムで仕
上げて、表面に気泡や汚れのつかない様にしておく。
精密天秤でw及びwtを0.0001g迄精密に測定するが、
その際試料を吊るのには婦人の毛髪(約0.0011g程度
のもの)を用ひて水中でも水をはじく檬にしておく。
1.29%炭素鋼については960°Cより水中に急冷した
ものを各温度につき夫々5∼8個の試料を焼戻し七測
定した。測定値の1例を示せば第2表の如くなる。表
は焼入したまi )・.の時のγ及Vの値であるが案外近接し
た値をとり、或る確率で分布してゐることが分る。焼
第 2 表
N・・wiwtt°CiG
7
1
2
3
4
5
6
7
19.8303
18.7287
19.7955
19.9366
185017
18.3773
16.8687
17.2S6s12α0
1
16.3252・16.0
17.25391 1t
ト
17.3757i 12.5
陶͡1
16.Ol60111.0
14.7003 tl
α;;1;;1;:;㌶:llll蓋
,1 7.7sossl O.12SS2S
l l
9994617.780790.128521
i
999277.780770.128521
999剛フ80810.128521
〃17・7S,・61 ・・12851フ
戻温度Tとγ,v友び硬度Hとの関係を示せば第1図
及び第2図の様になる。図中の○印は1個の測定値を
示し、硬度曲線の●印は夫々3∼4個の試料につき各
1個にて4∼5個所測定せるもの瓦干均である(以下
Sigeo Zaima On the Property of Tempered Carbon ・Steels(Report 1)Op the
Change of Specific Volume
一一P01一一一
第 1 図
ク3脚
/四%炭 ま鋼
き |
劇 %0θCよリスk焼入 o
出
〆
8
ク3ZO
8
ク800
o
o
o θ
o
グ
o
ク%o
焼炭蝕丁℃
o 200 400
第 2 図
‘00
o
2bO
仰9 600
loρ
70
⑳
10
同様)。0.95%炭素鋼の場合γ一T,v−T, H−T曲線
を求むれば第3図及び第4図の如くなる。以上は過共
第 3 図
第 4 図
90;
60
30
e
析鋼についてぱあるが、亜共析鋼については032%炭
素鋼の場合は第5図に示す通りとなb、腿5%宏素鋼
一・一一一一・
@102
焼戻炭素鋼の性質に就て(第1報)焼戻しに伴ふ比容積の変化
については第6図、0.30%炭素鋼については第7図、’
O.21% X素鋼については第8図の通りとなる。
o−tZgi
07z 97
P7Z83
0’IZ79
07z 7s
第 5 図
o
200
抑
第 6 図
6eo
79/θ
7’970
o’lz8i
07Z76
O ’ilク5
ク330
クηタ0 0ソZ7Z
7 7SO
o
200 400
第 7 図
o一
O’,fZク6
01274
07Z7Z
O’1Z71
’200
第 8
400
図
600
o .
鋼
4eo boθ
90
7ρ
蜘
之等の図を見て先ず見られる共通の現象は比容積〃
が100∼125°C附近に於て急激に減少し180°C附近ま
で減少の傾向は続くが、そこで一応最小値をとつた后
今度は260∼280°C附埠で急増してそこで最大値を
とり、再び400∼450°C前後まで急激な減少をした后
にゆるやかな曲線を辿ることが分る(比重γはその
逆)6、過共析鋼の場合にはその変化が激しく亜共析鋼
になるに從つて緩やかな様相をとることい260∼280
°C附近の最大値をとる温度が吹第に低下することが
云へる。 」
6ee
−一一103 一
3.結果の検討
(1)過共析鋼の場合
一般に炭素鋼をオーXテォィト状態より急冷すれば
過飽和の固溶体鋤の1種であるマルテソサイトを生
ずるが、之はオーステナイbの炭素濃度はそのまXで
結晶格子のみが変化したものであると考へられる。そ
して通普の場合全部マルテン化することはなく一部に
残留オ←ステナイトとして存在してゐるが、それは組
成はマルテンサイトになつたものと同一であると考へ
られる。その残留オーステナイトをマルテソ化する爲
には更に鎚打の如き衝撃を與へるとか温度を低下する
とかする必要があり、そこで所謂零点下処理(Sub−
zerotreatment)が行なわれる所以もある訳であるが、
何れにせよマルテンサイトと同様に安定な相ではなく
温度を低下或は上昇さぜれば容易に変化を生ずる。過
共析鋼に於ては残留オーステナイトは常に一部に存在
すると考へられる訳である。
さてそこで焼入した炭素鋼を焼戻しすればマルテン
サイトは不安定な相であり歪を多く受けてゐる部分や
局部的にCの濃度の大きい部分より、過飽和のCのた
めFe3Cを析出し始めその変化が第1∼4図を見れ
ば、100∼125°C附近に見られるvの急減及至はγの急
増となつて現われると思われる。そして150∼160°C
附近で一応その変化も落付き歪の少ない局部的にその
濃度の小さい個処を最后にその析出を完了するにつれ
て曲線は最小値をとる。その后温度が上昇すれば残留
オ・・ステナイトは焼戻しを受けてvは急上昇して260∼
280°C附近で最大値をとる。300°Cを越えると所謂ト
ルーズタイトの領域に入つて來た訳で析出した粒子が
境界へ向つて移動し集合せんとする組織の混乱する時
期になる。從つて硬度もFe3Cの析出で一度上昇した
ものが再び低く下つて來る。再び急降下を辿つて來た
v曲線も400∼450°Cにかけて粒子の移動も次第に終り
に近づき、組織はソルバイトに入つて來て曲線は緩か
な変化を保つて一定値に近ずいて行く。180∼280°C
附近の間の変化の高さが大体に於て残留オーステナイ
トの量を示すものであると考へてよく、1・29%宏素鋼
の場合非常に高いのは勿論焼入温度をAcm以上にと
つたため残留オーステナイトが増加したためである。
又他の実験で焼入温度が上昇すればVは低下すること
も知ったが、この際且は低下することは周知の通りで
ある。以上の様た案外敏感に内部組織の変化を示すの
である。
(2)亜共析鋼の場合
第5∼8図に見る様にすべて(1)の場合と同棲に
変化するが、その変化の度合が少なく低炭素鋼(第7
∼8図)に至っては各測定値のばらつきが全体の変化
に対して占める%が高炭素の場合に比べて大となり、
誤差も大きくはっきりとは到明し難いが大体同じ傾向
にあると云へる。(1)の場合とことなりFe3Cはパー
ライトの構成部分をなすのみの量であり、Fe3Cの析
出による変化も少なく全般に変化は激しくない。残留
オーステナイトも少ないのでその焼戻範囲も少なくて
すみ、從ってその終了期vの最大値は低下して220°C
附近になる。
(3)焼割れ及焼戻しの際の割れ
試料が第1表に見る様に宏素以外の成分量が夫々異
るので一・概に比べることは無理であるが、各試料の焼
鈍獄態の比容積をVo,焼入状態の比容積をVlとして、
(〃1一ρD/ρo邑口ち焼入れの際の変化の割合と宏素量と
の関係を求めて見れば第9図の様になる。図中過共析
第 9 図
d8’
・〆4
e
e グ4 グ8 1’2
例Z%:
o∫273
θノ270
鋼の場合値の低下してゐるのは、前述の様にA擁以
上の高温に加熱して急冷したためであるが、それでも
O.6%以上の容積変化をするたあ焼割を生じ試料の作
成に困難を感じた。更に内部と外部の組織のちがひ∀
或程度避けられないのでそれによる比容積の変化の%
も異り、特に炭素量が増加するとこの2っの原因が両
々相倹って焼割れの原因となるであろう。叉試料作成
のため過共析鋼の焼戻しの際160∼180°C或は260・∨
280°C加熱の際にもしばしば加熱による割れを生じた
が、之もVの急激な変化のために生ずる原因もあろう
かと思われるo
一一一一
P04一
焼戻炭素鋼の性質に就て(第1報)焼戻しに伴ふ比容積の変化
,
4.慮 用 例
Fe−C系でも成分の複雑なものの熱処理を調べる際
には、初めに述べた様に最も重要な顯微鏡による組織
検査は中々熟練を要し判定が難かしい事が多い。上記
の比容積試験を併用すれぱ比較的容易に組織の変化を
捉へることが出來る。今一例として第3表の様な成分
の
第 3 i表
T・c・ls・1 Mn
P
Cr
2.85 2・5・1・・7S 1…4 0.21
パー一一・ライト鋳鉄にっき吹の熱処理を施して比容積試瞼
をi適用して見た。即ち鋳放しのものを800°Cで焼準し
然る後に800°Cに20分保持した后0°Cの水中に急冷し
た。’
サの場合のv,γ,HとTの関係は第10図に示す様
P74a
焚
量
ρ738
∂β79
dl3 71
第 10 図
0 200 400 6ω
になる。黒鉛が存在するのでVの絶対値は炭素鋼と異
り非常に大きいが、100∼130°C及び180∼200°Cの変
化を始めその傾向は全く炭素鋼のそれと等しい。之よ
り見てもパーライト鐘鉄の熱処理ではその黒錯部分以
外の地は炭素鋼の場合と同じ変化をすることが顯微鏡
試験と併用して確かめられる。焼入れ温度rbS Acmと
Alの中間の800°Cであるのでオーステナイトが少なく
從ってvの最大値の温度が低下して來た原因の1つと
考へられる。借この場合650°Cを超えると黒鉛の成長
の問題が入って來るので比容積が増加し、又履歴が異
ると鋸鉄の場合比容積が非常に異って來ることも経験
した。鋳鉄の組織は理解が難しいと云われるのもうな
づける。
5.結 論
以上要約すれば、焼入れした炭素鋼の焼戻しに俘ふ
§組継化を調べる際に継行なわれて來てゐた他の試
験法と同様に、比容積試験或は比重試験は敏感に内部
組織の変化を追随するので利用すれば便利である。又
焼入れ或は焼戻しの際の割れの原因として比容積変化
も考へられる。
命從來160∼180°Cより260∼280°Cまでのこの変化
の過程を所謂βマルテソサイトと称し、その比容積は
αマルテソサイト〉βマルテソサイト〉パ{ライト
〉オーステナイトの関係にあると云われてゐるが1)、
この実験に於てはこの様な結果とは一致しなかった。
終りに臨み絶えず御指導御鞭燵をいたX’きました本
30学工学部長西川孝次郎先生、東京工業大学森永卓一先
生に深い感謝の念を表します。(3弓23日受理)
1)例へぽ機学会:機械工学便竃(昭12改訂版)
P.1794
一105 一“一