小腸平滑筋肉腫と肺癌の同時性重複癌の1手術例
国立療養所富士病院 呼吸器外科大沢宏 霜多広 中原和樹 山崎明男
堤正夫 石原重樹 石川創二
はじめに 小腸平滑筋肉腫は比較的まれな疾患である。また、肺癌と他臓器の同時性重複癌では、 診断方法と転移性肺腫瘍との鑑別、どちらの癌を先に治療すべきか、一期的または二期的 に治療するのか、など多くの問題を含んでいる。今回われわれは小腸平滑筋肉腫と肺癌の 同時性重複癌に対し二期的に手術を行ない、良好に経過した症例を経験したので文献的考 察を加え報告する。 症例 患者:77歳男性。 主訴:右肺異常陰影。 家族歴、既往歴:特記すべきことなし。 現病歴:平成6年9月検診で右肺異常陰影を指摘され、10月近医を受診し右肺腫瘍と 診断され、11月2日当院入院となる。職業は農業で、喫煙歴は20本×25年、Bl =500。 入院時現症:身長162cm、体重57kg、血圧140/90mmHg、貧血、黄疸なく、表在リ ンパ節は触知せず。胸部は聴診上異常なく、腹部腫瘤は触知しなかった。 入院時検査所見:血算、生化学検査は特に問題なく、腫瘍マーカーはCEAとSLXが上 昇していた。血液ガス分析、呼吸機能は特に問題なかった(Table 1)。 胸部X線:右下肺野に3.O×2.5×2.Ocmの辺縁不整な腫瘤陰影を認めた(Fig.1)。 胸部CT :右下葉に3.3×2.5cmの腫瘤を認めた。肺門、縦隔リンパ節の腫脹は認め なかった(Fig.2)。 術前のルーチン検査として施行した腹部CT検査で偶然、腹腔内に5.5×5cmの内部不 均一な腫瘤を発見した(Fig.3)。腹部超音波検査でもCTと同様な可動性のある腫瘤を認 め、精査のため上部消化管内視鏡、注腸造影、DlPを行ったが異常を認めなかった。とこ 一6一うが、注腸造影の翌日より下血が出現し、Hbが7.2まで低下した。 小腸造影でoral側より約10cmの空腸を圧排する 6×5cmの腫瘤を認めた(Fig.4)。 血管造影では上腸間膜動脈造影で空腸動脈末梢に hypervascular な腫瘍像を認 め、小腸平滑筋肉腫が強く示唆された(Fig.5)。 肺腫瘍に対しては、気管支鏡で可視範囲に異常を認めず、TBLBでも確定診断がつかな かったこともあり、肺原発の腫瘍より小腸腫瘍の転移を考えた。以上より小腸腫瘍が下血 の原因と考え、下血を繰り返すことから肺腫瘍の治療よりも小腸腫瘍の治療を優先すべき と判断し、平成6年12月13日空腸切除術を施行した。
第1回手術所見:腫瘍はTreitz靭帯より8cm肛門側の部位にあり、大きさは鶏卵大
で、表面の血管の怒張を認めた。第1空腸動脈を切離しその範囲の空腸を切除し端々吻合 にて再建した。 切除標本:腫瘍は空腸壁より腸間膜側へ壁外性に発育し、大きさは 5.0×4.5×4.Ocm で、粘膜面に出血点を認め、割面ではcystic hemorrhageを認めた(Fig.6a)。 組織学的所見:腫瘍は核異型の強い大型の核を持つ紡錘形細胞からなり、一部に核分 裂像が認められ平滑筋肉腫と診断された(Fig.6b)。 腹部手術後の経過は良好であったが、胸部X線所見で空腸切除後、急激に肺腫瘍の増大 を認めた。腫瘍マーカーは空腸切除後もCEAとSLXが依然として高値であり、気管支鏡検 査を再施行しましたが前回と同様に可視範囲の気管支に異常なく、TBLBでも確定診断は 得られなかった。そのため、小腸平滑筋肉腫の肺転移、あるいは小腸平滑筋肉腫と肺癌の 重複癌と診断し、平成7年1月24日中下葉切除を施行した。 第2回手術所見:腫瘍は S6に存在し、大きさはクルミ大で、中葉に直接浸潤してい たため中下葉切除を行った。 切除標本 :腫瘍はB6−aより発生した肺門型であり、大きさは3.3×2.4×4.Ocmで、 S6よりS5−aに葉間を越えて浸潤していた(Fig.7a)。病理学的所見:高分化腺癌で肺門縦隔リンパ節に転移を認めず、術後病期はp−
T2NOMO stage lであった(Fig.7b)。 術後経過は良好で、化学療法 1クール施行後、肺癌術後第72病日退院となった。術後 5ヵ月現在、良好に経過している。 −7一考察 小腸原発平滑筋肉腫はまれな疾患であり、われわれの調べた限りでは本邦での小腸平滑 筋肉腫報告例は497例で、そのなかで小腸平滑筋肉腫と肺癌の同時性重複癌の報告はな かった。 また、肺癌と他臓器の同時性重複癌では、その治療方針が問題となる。文献的には甲状 腺癌のような手術侵襲の少ない場合は一期的に手術を行い、腹部の癌のように一期的手術 では侵襲が大きい場合は二期的に手術すべきとされ、その際進行度、症状の程度により、 どちらを優先するかを決定すべきと考えられた。 また、肺癌を含む重複癌臓器は胃が最も多く、そのため肺癌術後のfollow−up中にも 重複癌臓器として多い上部消化管の精査を定期的に施行する必要があると考えられた。 まとめ 小腸平滑筋肉腫と肺癌の同時性重複癌に対し二期的に手術を施行し良好に経過している ので、文献的考察を加え報告した。 Hemato|ogy RBC 509x104/mm3 Hb 12.4g/dO Ht 42.3% Biochemistry T.P 7.8g/dO AIb 4.9g/dO T−Bil O.4㎎/dO GOT 181U/O GPT llIU/O LDH 2561U/O Amy 1381U/O TG 51㎎/dl WBC 4300/mm3 Plt 22.4 x 104/mrn3 T−CHO 168㎎/(坦 FBS 81㎎/dO BUN 24.4㎎/dO Crtn O.9㎎/dO Na 147 mEq/O K 4.5mEq/O CI 110mEq/O Ca 8.6mEq/0 Tumor markers CEA 32.4ng/m@ SCC O.8ng/m@ SLX 65 U/mO CA 19−9 10U/m@ Blood gas analysis pH 7.432 PaO2 98.OmmHg PaCO2 39.6mmHg Respiratory function VC 2620mO o/oVC 84.8% (Table 1) AFP 2.2ng/mO NSE 7.O ng/mO TPA 77.7U/mO BE 2.7 mmol/O SaO2 98.0% FEVI.0 2050m@ FEV 1.0% 78.2% 一8一
Fig.1 Fig.2
勲
Fig.3 Fig.4 −9一Fig.5 Fig.7b
Fig.6a
露
F}g.6b 一ユ0一