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通常学級担任に対する授業改善をめざした特別支援教育のコンサルテーションの研究

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†障害児教育専攻 障害児教育専修 指導教員:黒田吉孝 原 著 論 文

通常学級担任に対する授業改善をめざした

特別支援教育のコンサルテーションの研究

Research of Consultation of Special Needs Education that Aims

at Class Improvement to Regular Class Teachers

Sanae OHHAMA

要 旨 特別支援教育の先進校の調査からその成果と課題を見出した。同僚性を生かした担任のバックアップ の有効性と,授業の中での支援の活かし方の課題が明らかになった。そこで,VTR 再生法と授業批評 の手法であるロマンプロセス法を用いたコンサルテーションの方針を立て,事例研究を行った。結果の 考察をもとに,授業改善をめざした特別支援教育のコンサルテーションの手引き書を作成した。 キーワード:通常学級,授業改善,特別支援教育,コンサルテーション 研究の目的 教育学で明らかにされた授業研究の在り方を, 通常学級担任とのコンサルテーションの方針に 取り入れ,特別支援が生かされた授業改善をめ ざそうと試みる。 本研究は,筆者が,発達障害の疑いがある 5 名の児童への教育支援で,問題を抱えている通 常学級担任に対して行った,コンサルテーショ ンに関する事例研究である。研究の目的の一つ 目は,アンケートによって,先進的な特別支援 教育の取り組みがされている学校においての, 通常学級担任の特別支援教育についての課題意 識を明確にすることである。二つ目は,筆者が 提唱するコンサルテーションの方法が有効であ るかどうかを検証することである。通常学級担 任がコンサルタントと共に,ビデオ撮影された 授業を視聴し,その文脈の中での事実を分析し, 視点を明確にして語り合うことが,担任の気づ きを高め,授業の改善に有効であるのではない か,といった仮説に基づきコンサルテーション の事例研究を行うのである。三つ目は,二つ目 の仮説に基づいた事例研究の結果を考察し,通 常学級の授業改善をめざした,コンサルテー ションの理論的な枠組みの開発を目的とした。 通常学級担任の課題意識 本研究の第一義は,通常学級の授業の改善で ある。授業者である通常学級担任が特別支援教 育の推進においてどのような課題意識をもって いるのか明らかにした。

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1.調査の方法 A 小学校 (全校児童数 595 人) の通常学級 担任 19 人を対象とした全数調査を行った。調 査方法は,自計式調査で配票調査であった。期 間は,2007 年 8 月 22 日 (配布日)〜2007 年 9 月 14 日 (回収日)。 2.調査の内容 ①回答者の属性②自学級で特別支援が必要で あると校内でリストにあがった児童について (人数,主訴,IEP の作成人数,心理検査を受 けた人数,医療機関を受診した人数) ③ LD, ADHD,PDD の疑いのある児童について (学 級での児童の様子で気になること,保護者との 関係で課題に感じていること,支援の参考にし ている事物,実際に行っている支援の内容) ④ 本校においてさらに必要だと思われる特別支援 教育の取り組み⑤特別支援教育の実践に関わり 望むサポート⑥本校の特別支援教育の成果と課 題 3.調査の結果 回答者の教職経験年数は,0〜5 年が 6 人, 6〜10 年が 2 人,11〜15 年が 3 人,16〜20 年 が 4 人,21 年以上が 4 人であった。 A 校で,「特別な支援が必要である」とリス トにあげられているのは合計 102 人で,1 学級 あたり平均 5.4 人であった。その内,PDD (疑 いを含む) は 27 人,ADHD (疑いを含む) は 17 人,LD (疑いを含む) は 13 人であった。 校内でリストにあげられた 102 人の児童の内, IEP を作成している人数は 64 人,心理検査を 行ったことのあるのは 49 人,医療を受診した のが 13 人であった。 これらの結果から,A 校では,学校として, 特別支援の対象児であると把握されている人数 が多いだけでなく,発達障害の視点が盛り込ま れ,検査や医療からの情報をもとに個別の指導 計画が作成されていることがわかる。なお,19 人の担任全員の学級に特別支援が必要な児童が 在籍しており,19 人全員が IEP の作成に関 わっていた。 通常学級担任が,特別支援対象児の様子で気 になることは,何よりも授業中の学習場面での 困難さであった。対象児が在籍する担任の中で, 記述の中に授業中の課題を挙げたものは 19 人 中 13 人であり多くを占めた。そして,担任が 実際に対象児に実施している支援を見ると,最 も多いのが,個別の声かけで 19 人全員が実施 している。ついで,学習課題の内容や量を考慮 した個別の支援,グループ学習のメンバーの配 慮,座席の配慮が 14 人である。それに比べ, 個別の教材,教具を準備している担任は 2 人, 1 人と少ない。よって,担任が実践可能な支援 は,準備に時間的負担がかからない支援であり, 授業時間内にできる支援であることもわかった。 発達障害の対象児だけのための特別な教材・教 具を準備しての授業でなく,特別支援の視点を 盛り込んだ全児童に力をつける授業のあり方を 考えていくことが課題であることがわかった。 A 校の特別支援教育の成果として最も多かっ たのが,校内委員会の機能が充実している 11 人で,具体的には,担任の相談,迅速な対応, 組織的な子どもの見取りが挙げられた。次に多 かったのは,職員の共通理解 7 人,個に応じた 支援の充実 7 人,ことばの教室 (身近な関係機 関) との連携 4 人であった。つまり,特別支援 教育を推進するにあたって,通常学級の担任を 支えているのは,校内委員会を中心とした組織 だったバックアップであることがわかった。校 内委員会は担任にとって,相談をかける場であ り,子どもの多面的な見取りをし,対応を示唆 してもらえる場であるのだ。これにより,担任 は一人で課題を抱え込む必要がない。また,対 象児に対して支援の参考にしていることで最も 多かったのは,支援コーディネーターの助言 18 人であり,ついで,前担任からの情報 17 人, 校内の研修会・学習会 17 人と続いた。担任は, 特別支援コーディネーターを始めとする校内の 同僚,併設されていることばの教室 (巡回相談 員),校内で開かれる研修会・学習会といった, 身近なところからの助言や情報を必要とし,生 かしていることもわかった。学級の個々の児童 に必要な支援を模索する担任にとって必要なの は,具体的なアドバイスがもらえる,身近な存 在であるということだ。これは,校内に特別支 援教育の知識と経験が豊かな人材が不可欠であ るともいえる。各校に配置された特別支援コー

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ディネーターの専門性を高め,特別支援コー ディネーターが,校内の通常学級担任をコンサ ルテーションする力をつけていくことが急務だ ろう。一方,課題は,対象児の増加による個別 支援の難しさ 4 人,取り巻く子どもや親の理解 4 人と最も多かった。次いで,教師の支援の力 量の差 2 人,教師の負担増 2 人,対象児以外の 子を伸ばせているか 2 人であった。いずれも学 校全体で対応を考えていかねばならない課題で ある。 この結果から,特別支援教育は学校組織全体 で取り組むべき教育課題であることがわかる。 組織の充実があってこそ,次の段階の,支援の 充実へと深まっていくものなのだろう。 通常学級担任へのコンサル テーションの方法の提案 通常学級担任が,コンサルタントと共に,ビ デオ撮影された自らの授業を視聴し,その文脈 の中での事実を分析し,視点を明確にして語り 合う。これにより,担任は,気づきの力を高め, その後の授業を計画・実践する中で,発達障害 児への特別支援を取り入れた授業の改善が促さ れるであろう。以上の仮説のもと,以下のよう にコンサルテーションを実施した。 1.実施方法 (1) コンサルタント (COT) 市立 A 小学校の教諭 (筆者)。通常学級担任 13 年,障害児学級担任 5 年 (内教育相談担当 4 年) を経て,大学院修士課程で障害児教育を専 攻。 (2) コンサルティ 2 年生の学級担任。教職経験 2 年。 (3) コンサルテーションの方法 COT がベースラインとなる授業をビデオで 記録する。1 台は担任を撮影し,もう 1 台は児 童を撮影する。担任には,「本時のねらい」と 「授業を振り返って」の記入用紙を渡しておき, 後日受け取る。そして,方針に基づき授業批評 を行う。授業批評の中で気づいたことを生かし 授業を計画する。 (4) コンサルテーションの方針 太田 (1997) は授業批評の最も重要な働きは, 授業者をアイデンティファイすることである1) と述べている。換言すると,第一義的には授業 批評者は,授業者の「本来ありたいと願ってい る方向」つまり,一時間の授業ではそこでの授 業者の意図やねがいなど,具体的には授業目標 にそってそれをよりよく実現する方向で批評す ることである。この理念を 5 つの段階に分けて, それぞれの段階での重要な視点を明確にしたも のが ROMAN プロセス法 (以下 RP 法) であ る2)。この RP 法の枠組みを参照して,具体的 な場面を見据え,対象とする学級担任へのコン サルテーションの方針を立てた。 第一に,コンサルテーションにかかる時間が, 担任の他の職務の負担にならないよう配慮した。 よって,担任との必要な話し合いは,主に,児 童の夏季休業中にもつこととした。よって, ベースラインとなる実態把握のため授業観察を 1 学期に行い,夏季休業中に,担任からの聞き 取り,ビデオ撮影された授業の分析,2 学期か らの授業の計画を行い,2 学期に,計画された 授業を実践するといった,スケジュールを組ん だ。これは,担任を支援するためのコンサル テーションが,無理なく実行できるための配慮 である。 第二に,授業批評のための手順として,RP 法の視点をもとに,コンサルテーションを行っ た。この授業批評の良さは,授業者の持ち味を 生かした,建設的な批評を行う点である。授業 の対象になっている児童にねらいに応じた力を つけるために,教師の授業意図を検討し,その 意図が実現されたかを分析するのである。この 視点は,担任教師の気づきの力を伸ばし,担任 教師の力量に応じた気づきを促すものであると 考える。 第三に,授業分析のコンサルテーションに VTR 再生法を用いる点である。授業の複雑な 事実を VTR の文脈の中で,COT と共に分析 することで,実践的な知識や即興的な思考を高 めることをねらう。 第四に,ニーズにあったコンサルテーション を行うことである。基本的には,担任が課題を 感じている,授業中の児童の様子についての改

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善をめざす。特に担任が困難であると感じてい る教科に絞って取り組む。あくまで,担任教師 を支えるためのコンサルテーションである。 よって,授業改善のためのコンサルテーション において,授業以外の場面や事柄 (保護者との 連携等) での困難さを COT に投げかけたとき には,そのことについても適宜助言を行う。 第五に,COT が担任と対等な関係でコンサ ルテーションを行うことである。具体的には, 第 1 の読み取りの段階では,まず,担任の児童 への思いを共感的に聞き取る。そして,COT は,授業を振り返る前に,対象児の心理検査の 結果を,本時の授業に照らし合わせて,担任と 共に読み取り,担任より情報を得る。第 2 の参 観の段階では,ビデオ撮影した授業を,COT と授業者が,共に見ながら振り返ることで「授 業者と参観者」といった立場から「共に参観 者」という同じ立場・目線になる。第 3 のメモ の段階では,互いの気づきをビデオを見ながら, 語り合うといった形をとる。第 4 の分析の段階 第 2 段階 参観 Observation ① COT と担任がビデオで授業を見ながら,気づいたこと を確認し合う ②児童 A,B,C,D,E の課題となる行動が見られたと きは,その前後にあった事実をビデオで確認する ・授業の「事実」をメモする・授業の 核を中心にそこまでの流れとそれ以 後の流れを関連的にメモする・参観 中の気づき,感想なども「事実」と 区別してメモする 第 3 段階 メモ Memorandum ①第 3 段階で確認された事実を,授業者の教授行為,教 材・教具,学習活動との関連で,授業者と COT が語る ②第 1 段階で確認した授業者の意図にそって,授業目標が 達成されているか,授業行為,教材・教具,学習活動と の関連で,授業者と COT が語る ③授業者の意図や学習目標が児童の実態に適していたか, 授業者と COT が語る ④①から③について,COT は発達障害の特性を考慮した 支援へ結びつける助言を行う ・授業の事実に基づいて,授業意図 (授業目標) と教授行為,教材・教 具,学習活動との関連性を分析す る・授業の「事実」に基づいて,授 業者の評価と授業意図との関連性を 分析する・授業の「事実」に基づい て,授業者の子どもの実態把握と自 分 (参観者) のそれを比較,分析す る 第 4 段階 分析 Analysis ①第 4 段階での授業者の気づきを,授業者自身がカードに まとめる ②授業者がカードに書いた気づき対して COT は敬意を表 し,次の実践への意欲を高める ③授業者が,新たに気づいたことを生かして,COT と共 に授業計画を立てる ・最初は,授業者の意図を肯定して語 る・建設的に語る・授業での「事 実」を挙げて具体的に語る・理由を 挙げて論理的に語る・授業者に敬意 を表した言葉で語る 第 5 段階 語り Narration RP 法の視点 筆者によるコンサルテーションの方法 プロセス 表 1 太田(1997)の授業批評の手順【ROMAN プロセス】を参照したコンサルテーションの方法 ①児童の実態把握の段階で,COT が特別支援の必要な児 童 A,B,C,D,E についての担任の思いを共感的に 聞き取り,授業場面で特に課題となる行動を確認する ②授業前に授業者が目標を立てメモに記し,COT と授業 を振り返る直前に「本時のねらい」をメモをもとに確 認する ③ COT は授業者の意図を尊重し,共通理解にとどめる ④ COT は授業後に担任が記入した「授業後の担任の振り 返り」を読み,授業者の授業分析の視点を確認する ⑤授業を振り返る前に,COT が心理検査の結果を教科の 特性 (本時の授業) との関連において読み取り,担任 と子どもを語る ・授業者の授業意図は何か,それはど のような授業目標になっているか・ 子どもの実態は,どのように捉えら れているのか・教材はどのようなメ リット,デメリットとして考えられ ているか・指導の手立てや学習活動 は,どのようなものが設定されてい るか・評価の基準は,具体的に明ら かにされているか 第 1 段階 読み取り Reading ①ビデオ撮影した授業を,COT と授業者が,共に見なが ら振り返ることで, (授業者と参観者) といった立場 から (共に参観者) という同じ立場・目線になる ② RP 法第 2 段階の 5 つの視点を表にしたカードをもとに して振り返ることで,授業を見る視点を明確にする ・子どもの実態に基づいて適切な授業目 標が設定されているか・授業行為は子 どもが学習活動を適切に行うようにな されているか・教材・教具は授業目標 を反映したもので,子どもの学習活動 を促すものであるか・学習活動は授業 目標にそった形でなされているか・授 業行為や教材・教具,学習活動は子ど もの実態から掛け離れたところで考え られたものではないか

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においても,ビデオ視聴によって明らかにされ た事実をもとに,語り合い,担任の気付きを確 かめながらコンサルテーションを行う。第 5 の 語りの段階においても主体は担任である。 最後に COT の立場についてである。先に述 べたように,COT は,担任を支え,共に授業 改善をめざして,コンサルテーションを行う。 ただし,第 3,第 4 段階では,ビデオによって 明らかにされた,教授行為,教材・教具,学習 活動の課題の改善点についての語りの中で,発 達障害の特性を考慮した支援について助言し, 授業者に語る。それにより,担任に新たな授業 の視点や気づきを促す。第 5 段階では,授業者 である担任自身が,語りの中で確かなものとし た支援について,まとめる。COT は,担任の 新たな気づきに対して,敬意を表し,次の実践 の意欲を高める。そして,担任と共に次の授業 を計画し実践を見取る。 以上コンサルテーションの方針に基づく方法 を RP 法と照らし合わせて,表 1 にまとめた。 2.方法の検証法 本研究のコンサルテーションの方法に基づき, 事例研究を行う。コンサルテーションの結果, 子どもの出す様々なサインに対する担任の気づ きを高めることができたか,授業の改善が見ら れたかを次の三点で検証した。 一点目は,特別な支援が必要であると,校内 でもリストにあげられた 5 人の発達障害児 (疑 いを含む) の授業中の様子に注目し,コンサル テーション後の授業に変化が見られたかどうか 質的に分析する。二点目は,担任が,授業後に 記述した「授業を振り返って」の内容を分析し たい。コンサルテーション前の授業と,コンサ ルテーション後の授業で担任が記述した「授業 を振り返って」の内容の変化を分析する。授業 を振り返る観点に,児童の様子からの気づきの 高まりが見られるか。三点目は,コンサルテー 図 1 授業コンサルテーションの方法と検証法の概念図

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ション前とコンサルテーション後の,チェック リスト3)による担任の特別支援の自己評価の変 化をみた。 以上,コンサルテーションの概念をまとめる と図 1 のようになる。 授業のコンサルテーションの実際 2007 年 8 月 1 日に授業事例 1 のコンサル テーションを行った。第 1 段階では,COT が 述べた検査結果からの読み取りを聞いた担任が, 実態と結びつけて振り返った発言があり,対象 児童の理解を促すことができたと思われる。検 査結果と実態から,対象児童の本時のねらいを どこに定めるのかの会話がなされた。ねらいが 定まることで,対象児童の個別の支援がいくつ か見えている。第 2 段階では VTR を見る中で, 担任の教授行為が生かされている場面やそうで ない場面に気づくことができている。第 3 段階 では,授業場面でみられた対象児童の不適切な 行動に対しての向き合い方について具体的にコ ンサルテーションしている。第 4 段階では, COT の助言に対して「ああなるほど」「確か に」「ああ」と対象児童の具体的な支援につい て理解を深めた様子が伝わった。さらに,第 5 段階では,担任から,新たな教授法や教具につ いての考えを述べるに到っている。COT は, 聞き手に回り,担任の考えを促したり,強調し たりしている。COT は,1 から 5 の各段階の 観点を意識してはいるものの,明確に区切りを つけて進めてはいない。自然な会話の流れで各 段階へ進めている。担任はどの段階であるかは 意識していないが,段階が進むにつれて支援策 が見えている。 2007 年 8 月 7 日に授業事例 2,3 のコンサル テーションを行った。最初に COT が,担任が 記述した「本時のねらい」と「授業を振り返っ て」を読み挙げ,確認し合った。その後 VTR を再生し,授業批評を行った。事例 2 では,学 級児童の様子から,準備した場面絵の教材が生 かされていないことに,担任が気づくことがで きた。また,発問に対しての学級児童の反応が よくないことより,COT が「発問の意味が捉 えられていないのではないか」と担任に投げか けたところ,「そうですね。子どもたち,ピン ときていない感じですね。」と教授法と児童の 実態とがかけ離れていることに気づく場面も あった。そして,ねらいに迫るための教授法や 教具について考えを深めている。読み取ったこ とを動作化する場面では,対象児童が全員,授 業に意欲的に参加したことや,黒板に担任が絵 を描きながら児童とやりとりをする場面で対象 児童の発言が活発になったことが確認された。 そのことより,説明文を読み取る場合に,特に 低学年では絵や動作化で理解を深めていくこと の大切さについて,担任が認識を深めることが できた。また,対象児童が,本時のどの場面で 活躍できるか,といった話が出た。「C 児はこ とばの理解力があるから,この場面は入ってい ける」「B 児には,この場面は難しいだろう。 絵で理解を促す場面で生かしていきたい」など である。事例 2,3 のコンサルテーション後半 には,「授業とは」「ねらいに迫るために,どん な教材・教具を用いて授業を展開するか」「国 語科における授業の動機付けをどのように設定 して,単元を考えるのか」「パターン化の良さ とは」「授業は指導書通りでなくてよい。指導 要録のねらいにいかにせまるか。それは目の前 の児童の実態を抜きには考えられない。」と いった,授業や教科の本質的な内容へと会話が 発展している。 本論におけるコンサルテーションの 方法の総合考察 「通常学級担任が,コンサルタントと共に, ビデオ撮影された自らの授業を視聴し,その文 脈の中での事実を分析し,視点を明確にして語 り合う。これにより,担任は,気づきの力を高 め,その後の授業を計画・実践する中で,発達 障害児への特別支援を取り入れた授業の改善が 促されるであろう。」とコンサルテーションの 一方法を提案した。具体的には,担任のニーズ に基づき,コンサルタントが担任と対等な関係 で,VTR 再生法を用いて,RP 法の視点をも とにコンサルテーションを行うことで,①担任 教師の気づきの力を伸ばし,担任教師の力量に 応じた気づきを促すものであったか。②担任教

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師が実践的な知識や即興的な思考を高めること ができたかについて,三点の検証法で比較・検 討する。 一点目の授業中の対象児童の様子の変化から 考察する。 A 児は,コンサルテーション前の授業事例 1, 2,3 では,担任やスクールカウンセラーが個 別に対応したときだけ授業に参加するものの離 席や私語が目立ち,ほとんど授業に参加できて いない。コンサルテーション後の授業事例 4 は 取り出し授業で不在であった。授業事例 5 では, 授業に関係のない虫かごを手にしながらも提示 された教材に目を向け気づいたことを発表した り話し合いで積極的に自分の考えを述べたりし ており,興味を持って授業に参加している。 B 児は,コンサルテーション前の授業事例 1, 2,3 で授業に参加しない場面が多いだけでな く,授業妨害も見られた。しかし,授業に参加 したい気持ちも見られる。事例 1,2 では,教 室からの飛び出しも見られた。コンサルテー ション後の授業事例 4 は,B 児の書字に対する 抵抗感を払拭する貴重な授業となった。この授 業が学習全般に意欲と自信を与えたといっても 過言ではない姿を見せた。 C 児は,コンサルテーション前の授業事例 1, 2 では,担任が個別に対応したときには学習に 向かうが,そうでないときは不適切な行動が多 い。授業事例 3 では,ふざけた発表があったも のの,読み取りのクイズに関心を示したり音読 したりできた。コンサルテーション後の授業事例 4 では,B 児が描いた教材に興味を示したりみん なと合わせて活動したり,みんなに知っているこ とを説明したりと積極的な授業参加である。 D 児は,授業事例 1 では,机上の整理,授 業の準備に課題がみられたものの,学習活動に は参加している。ところが,授業事例 2,3 で は学習活動に参加しているかのようで,形だけ まねて理解できていないようでもある。コンサ ルテーション後の授業事例 4 でめずらしく離席 したのは,B 児が描いた教材をじっくりと見る ためであった。学習活動に参加したり理解した ことをうなずきながら聞いたりする場面が見ら れた。授業事例 5 では,授業開始前に担任に次 時の教科を尋ね,「国語」と聞いて,喜んだり, 教材を黒板に提示するのを手伝ったりと意欲を 見せている。挙手や授業に関するつぶやきがた くさん聞かれ,主体的に授業参加できている。 E 児は,授業事例 1 は欠席であった。授業事 例 2,3 では,ほとんど席に着かず教室の飛び 出しが繰り返される。気が向いたときに突然自 分の意見を述べたことがあった。コンサルテー ション後の授業事例 4 では,B 児が描いた教材 に強い関心を示し活かされたことが分かる。授 業事例 5 では,場面絵の教材をもとに分かるこ とを発表したり自分の考えを述べたりしている。 この授業のねらいにせまっていることがわかる。 以上のように,コンサルテーション前の授業 とコンサルテーション後の授業を比べると,5 人の対象児童全員の様子にそれぞれ改善が見ら れたと言えるであろう。コンサルテーション後 の授業事例 4 で「B 児の自作の視覚教材を用い る」「C 児の言語理解力を生かす」といった, コンサルテーションで見つけられた対象児童の 良さを授業に生かした点が評価されるであろう。 対象児童の優位な能力を授業に取り入れたこと と共に,対象児童の自尊感情を尊重した支援で あったことが有効であったようだ。 授業事例 5 では,場面絵という視覚資料が対 象児童の理解の手助けとなっていて,学習参加 できている。さらに,話し合いの場面で取り出 しの授業にいった B 児以外の対象児童全員が 意見を述べていることから,この場面絵によっ て今後の学習展開のイメージを具体的に持つこ とができ,単元のねらいに向けた意欲につな がったことがわかる。 次に,二点目の担任が授業後に記述した「授 業を振り返って」の内容を考察したい。 コンサルテーション前の振り返りでは,対象 児童の困難さが気にはなっているものの,具体 的な支援策が見出せずに,担任自身の困難さの 記述にとどまっている。自らの教授法や教材・ 教具,授業展開の考察といった,授業の在り方 を振り返る視点はほとんどない。 コンサルテーション後は,対象児童の様子か ら授業のねらいを達成するための支援が適切で あったかといった視点で授業を振り返っている。 ときには,ねらいそのものが対象児童や学級児 童に適切であったかといった記述も見られる。

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良くも悪くも,ねらいに迫るための学習活動, 教材・教具,学習展開であったかの視点で授業 を振り返ることができている。これは,コンサ ルテーションの授業批評の観点と一致している。 コンサルテーションによって批評された授業そ のものだけでなく,担任が授業を考える視点に 変化を与えたといえるのではないだろうか。 三点目に,コンサルテーション前とコンサル テーション後の,チェックリストによる担任の 特別支援の自己評価の変化をみると,担任が実 践している特別支援は,13/68 から 28/68 へと 明らかに増えた。しかし,今回のコンサルテー ションの視点とは,直接,関連しないことや, コンサルテーションの語りの中で取り上げられ ることのなかった支援についても,新たに実践 されるようになっている。この点の分析は明確 にはし難いが,対象児童を念頭に置いた授業の 在り方を考えることで,特別支援教育の認識の 深まりが,担任に生み出されたのかも知れない。 以上の比較・検討から,特筆すべきは,対象 児童の授業での様子に明らかな改善が見られた ことである。「コンサルテーション」の在り方 や観点は様々であろうが,今回のコンサルテー ションの視点や方法が,これらの変化をもたら したことは間違いないと思われる。担任が実践 可能な特別支援が十分育ったかどうかは,明言 できないが,担任の授業の振り返りの記述から は,自らの実践と児童の様子を結びつけて考察 し,いかにねらいにせまる支援ができたかどう かの気づきが見られるようになったといえる。 授業に表れる子どもの姿から学ぶ視点は,実践 的な知識や即興的な思考を高めることができた といえるのではないだろうか。 本コンサルテーションは,RP 法の授業批評 の方法を取り入れたことにより,担任の授業お よび支援を考える視点が変化したことで,有効 に機能したと思われる。 RP 法では,児童の実態の把握,授業意図, 授業目標,教材・教具,教授行為,子どもの学 習活動と,実際の授業の関連性を具体的にとら え授業批評する。授業事例 2 のコンサルテー ションでは,場面絵という対象児に有効である と思われる教材を用いてはいるものの,VTR を見て,生かし方に問題があることに気づく語 りがあったり,逆に,担任が黒板に描いた絵が, 授業を活発にしたことを確認することができた りした。コンサルテーション後の授業事例 5 で は,場面絵という視覚資料をどんなねらいで生 かすのか,といった指導の意図が明確になって いる。この場面絵は,この単元の学習の中で, 見通しをもったり,イメージを共通理解したり するのに,その後の授業でも何度も使われてい る。そして,その有効性に担任が気づいている。 担任は,「視覚支援の有効性」について,今 までの研修会や検査結果の報告の際に何度も聞 いたであろうと思われる。しかし,今回のコン サルテーションによって,担任はその認識を深 め,実践化へと結びつけることができたといえ るのではないだろうか。授業において,教師の 意図するもの (授業意図,授業目標) に対する 達成の手段 (教材・教具,教授行為) の適切さ をコンサルテーションしたことによる成果であ ろう。特別支援の対象児を考慮しての支援を, 授業の意図や目的達成のための方策ととらえる 視点で授業を振り返ることで,担任の気づきを 高めたり,支援を生かした授業改善に結びつけ たりできたのではないだろうか。 次にコンサルテーションのプロセスについて 考察したい。コンサルテーションには 5 つの段 階を提示している。実際には,コンサルタント と担任のやりとりの中に,プロセスの段階を明 確にしたり,意識したりすることはなかった。 第 1 から第 5 の段階は自然に流れ,連続したも のであった。コンサルタントが,各段階のコン サルテーションの観点を明確にもつことで,5 つの段階を明確に区切る必要はないと思われる。 特に第 2,第 3,第 4 段階は,「VTR で,授業 の中の事実を『授業目標,教授行為,教材・教 具,学習活動,子どもの実態』の 5 つの観点で 確認し合い,語り合う」といったまとめ方がで きると思われる。 以上のことから,全コンサルテーションにか かる時間と内容,および授業のコンサルテー ションの段階をコンパクトにまとめてモデルを 示したい。

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教育現場での活用をめざしたコンサル テーションモデルの提示 考察をもとに,教育現場での活用をめざした, 特別支援教育のコンサルテーションモデルを提 示したい。なお,実際の活用をめざし,手引書 の様式で提示する。(はしがき等省略) 引 用 1 ) 太田正巳 (1997)「深みのある授業をつくる」 文理閣,p. 154 2 ) p. 156 3 ) 玉木宗久,海津亜希子,佐藤克敏,小林倫代 「通常の学級におけるインストラクショナル・ アダプテーションの実施可能性―小学校学級 担任の見解―」LD 研究 (2007) 第 16 巻,第 1 号,62-69 参 考 文 献 太田正巳 (1997)「深みのある授業をつくる」 文 理閣 太田正巳 (2006)「特別支援教育の授業づくり 46 の ポイント」 黎明書房 太田正巳 (2007)「特別支援教育の授業研究法―ロ マン・プロセス法詳説―」 黎明書房 児童心理 (2007) 第 61 巻,第 12 号,臨時増刊 特別支援教育「成功のカギ」学級経営・連携・親対 応 金子書房

「発 達」NO110, Vol. 28,2007,SPRING,ミ ネ ル ヴァ書房,特集「発達障害児の学びを支える」 清水貞夫,青木道忠,品川文雄編「通常学校の障害 児教育」「特別支援教育」時代の実践と課題を 問う 稲垣忠彦,佐藤 学 (1996)「授業研究入門」岩波 書店 佐藤 学 (1996)「教育方法学」岩波書店 上野一彦 (2007)「特別支援教育の取り組み 状況 と対応課題」教育開発研究所「教職研修」第 36 巻 4 号 34-37 図 2 図 3

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文部科学省「小・中学校における LD (学習障害), ADHD (注意欠陥/多動性障害),高機能自閉 症の児童生徒への教育支援体制の整備のため のガイドライン (思案)」2004 年 1 月 村瀬公胤 (2007)「授業研究の現在」日本教育学会 「教育学研究」第 74 巻 第 1 号 41-48 海津亜希子,佐藤克敏,涌井 恵 (2005)「個別の 指導計画における課題と教師支援の検討」― 教師を対象とした調査結果から―特殊教育学 研究 43(3) 159-171

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行ない難いことを当然予想している制度であり︑

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