叡山文庫本『尊円親王詠法華経百首』翻刻──付、
校異・他出一覧──
著者
田口 暢之
雑誌名
鶴見大学紀要. 第1部, 日本語・日本文学編
号
58
ページ
59-112
発行年
2021-03
URL
http://doi.org/10.24791/00000931
Creative Commons : 表示 http://creativecommons.org/licenses/by/3.0/deed.ja叡山文庫本『尊円親王詠法華経百首』翻刻 五九
叡山文庫本『尊円親王詠法華経百首』翻刻
―付、校異・他出一覧―
田
口
暢
之
はじめに 『 尊 円 親 王 詠 法 華 経 百 首 』 は 尊 円 親 王( 一 二 九 八 - 一 三 五 六 ) が『 法 華 経 』 二 十 八 品 中 の 句 を 題 と し て 詠 ん だ 百 首 復 刻 版 』( 臨 川 書 店、 一 九 九 五 年 )、 井 上 宗 雄・ 田 村 柳 壹 編『 中 世 百 首 歌 六 』( 古 典 文 庫、 一 九 八 七 年 )、 『 新 編 (前掲『碧冲洞叢書3』 翻 刻 ) に よ り 補 う ほ か な か っ た。 こ れ は『 法 華 経 』 各 品 一 首 か ら 成 る 計 二 十 八 首 の 経 旨 歌 で、 『 尊 円 親 王 詠 法 華 経 首 』 に 脱 落 す る 一 首 を 除 く 二 十 七 首 が 同 百 首 所 収 歌 と 一 致 す る た め、 そ の 抄 出 か と 推 定 さ れ て い る( 『 新 編 国 歌 大 。 と こ ろ が、 渋 谷 亮 泰『 昭 和 現 存 天 台 書 籍 綜 合 目 録 増 補 版 』( 法 藏 館、 一 九 七 八 年 ) に「 建 武 丁 丑 仲 春 下 旬 叡 南 住 侶 と 推 定 し て い た も の の、 当 時 は 閲 覧 で き な か っ た 由 で あ る 1 。 し か し 現 在 は 閲 覧 可 能 で、 そ の 百 首 が た し か に 同 百 が 判 明 す る こ と を 以 前 に 報 告 し た( 以 下、 「 前 稿 」 と 称 す る ) 2 。 し た が っ て、 『 尊 円 親 王 詠 法 華 経 百 首 』 を 読 解 す六〇 る 際 は 叡 山 文 庫 本 を 底 本 と し、 内 閣 文 庫 本( お よ び『 法 花 経 和 歌 』) で 対 校 す べ き か と 思 わ れ る。 本 稿 で は 叡 山 文 庫 のご許可を得て同本を翻刻し、諸本の異同と他出一覧を付して前稿を補足する(一部、前稿の内容と重なる) 。 一、諸本の書誌 諸本の書誌は以下のとおりである。 ・叡山文庫本 所 蔵 番 号、 真 如 蔵 内 典 二・ 三 七・ 一 六 八 六。 袋 綴 一 冊。 縦 二 四・ 〇 糎 × 横 一 七・ 八 糎。 〔 江 戸 中 期 〕 写。 代 赭 色 無 地 表 紙。 表 紙 右 上 に「 山 門 東 塔 南 谷 浄 □ 〔 教 房 〕 □ 」、 中 央 に「 法 花 経 百 首 和 歌 」、 左 上 に「 □ 〔真〕 如 □ 〔蔵〕 四 十 九 剱 七 」 と、 い ず れ も 朱 で 打 付 書( 本 文 と 別 筆 で あ る が、 内 題 の 傍 記 と 同 筆 )。 内 題「 詠 法 華 経 百 首 和 謌 」( 本 文 同 筆 )、 右 に 「 山 門 東 塔 南 谷 浄 教 房 真 如 蔵 四 十 九 剱 」( 本 文 と 別 筆 で あ る が、 表 紙 の 字 と 同 筆 ) と 小 字 で 傍 記。 次 行 に「 叡 南住侶尊円親王」 (本文同筆) 。本文料紙は楮紙。見返しも同じ。墨付一五丁。遊紙なし。毎半葉七行。和歌一行 書、 字 高 約 二 〇・ 〇 糎。 詞 書 は 基 本 的 に 五 字 下 げ。 部 立 な ど を 記 す 場 合 は 基 本 的 に 一 字 下 げ( 部 立・ 『 法 華 経 』 各 品 の 名・ 歌 題 を 一 行 に 記 す )。 歌 数、 百 首。 本 文 末 尾 に「 建 武 丁 丑 仲 春 下 旬 叡 南 住 侶 尊 円 親 王 」( 本 文 同 筆 ) という識語がある。また、本文中には、本文と別筆と見られる傍記も散見する。多くは、判読しにくい文字を楷 書 で 書 き 直 し た も の で あ る が、 中 に は 文 字 を 訂 正 し た も の も 含 ま れ る。 蔵 書 印 な し。 な お、 二 三 番 歌「 急 雨 」 (むらさめ) 、五一番歌「さめ終よ」 (はて) 、五四番歌「求食」 (あさる)の漢字表記がやや注意されるか。 ・国立公文書館内閣文庫本
叡山文庫本『尊円親王詠法華経百首』翻刻 六一 請 求 番 号、 二 〇 一・ 〇 三 五 三。 袋 綴 一 冊。 「 三 十 六 首 題 」( 三 六 の 歌 題 と 和 歌 二 首 が 記 さ れ る )・ 「 後 鳥 羽 院 御 百 首 」( 実 は『 後 二 条 院 百 首 』) と 合 写。 す べ て 同 筆。 縦 二 六・ 八 糎 × 横 一 八・ 八 糎。 〔 江 戸 中 期 〕 写。 縹 色 無 地 表 紙。表紙左方の後補白題簽(縦一六・八糎×横三・七糎)に本文とは別筆で「尊圓親 王 後 鳥 羽 院 〔 御 百 首 〕 和歌百首 」( 「御百首」の 部分はかすれていて判読困難)と墨書。元の外題は打付書(本文とは別筆か)で、末尾の「和哥」が題簽の下方 に 見 え る が、 そ れ よ り 上 の 部 分 は 題 簽 が 貼 ら れ て い る た め 見 え な い。 内 題、 「 詠 法 花 経 百 首 和 哥 」( 本 文 同 筆 )。 本 文 料 紙 は 楮 紙。 見 返 し も 同 じ。 墨 付 三 五 丁( 一 オ ~ 一 七 オ が「 詠 法 花 経 百 首 和 哥 」、 一 七 ウ は 白 紙、 一 八 オ ~ 一 八 ウ が「 三 十 六 首 題 」、 一 九 オ に 和 歌 二 首( 『 新 編 国 歌 大 観 』 未 収。 一 首 目 に「 氏 宗 」 の 作 者 名 あ り )、 一 九 ウ ~ 三 三 オ が『 後 二 条 院 百 首 』、 そ の 後、 一 行 を 空 け て 三 三 オ ~ 三 五 オ に は『 増 鏡 』 や『 夫 木 抄 』 が 後 鳥 羽 院 の 作 とする歌三首( 『後鳥羽院御集』未収) 、および隠岐での後鳥羽院の述懐歌を思わせる『新編国歌大観』未収歌十 首を記す。三五ウは白紙) 。遊紙、前一丁(ただし、現在は見返しに貼られて一体となっている) 、後一丁。毎半 葉 一 〇 行。 和 歌 二 行 書 き( 上 句 末 で 改 行 )、 字 高、 約 一 八・ 〇 糎。 歌 数、 九 九 首( 本 来 の 五 三 番 歌 に 当 た る 一 首 が脱落) 。詞書は二字下げ。部立などを記す場合は一字下げ(部立・ 『法華経』各品の名を一字下げで記して改行 し、 二 字 下 げ で 歌 題 を 記 す )。 な お、 行 数 や 和 歌 の 書 式 な ど は 合 写 さ れ た ほ か の 作 品 に も 共 通 す る。 奥 書・ 識 語 なし。蔵書印、一オ右上「書籍/館印」 (朱・陽・方・単) 、その下「内閣/文庫」 (朱・陽・方・単) 、同中央上 部「日本/政府/図書」 (朱・陽・方・単) 、 同右下「和学講談所」 (朱・陽・方・双) 、 その左「浅草文庫」 (朱・ 陽・ 方・ 双 )、 三 五 オ 中 央 下 部「 内 閣 / 文 庫 」( 朱・ 陽・ 方・ 単 )。 な お、 国 立 公 文 書 館 デ ジ タ ル ア ー カ イ ブ で 「詠法花経百首和哥」として画像が公開されている。
六二 原 本、 未 見。 『 碧 冲 洞 叢 書 』 の 解 題 を 参 考 に 書 誌 を 記 す。 巻 子 装 一 軸。 縦 二 九・ 六 糎、 全 長 一 八 六・ 五 糎。 巻 頭 に二・五糎、巻末に四六・五糎の余白あり。和歌一行書き。巻軸の蔵書印により、鷲尾教導、篁園文庫旧蔵と判 明。 二、諸本の関係 叡山文庫本は百首が完存する点、内閣文庫本にない作者名や識語を持つ点などから、重要伝本であることに疑いは ない。しかし、転写本の常として独自の誤謬もあり、内閣文庫本や『碧冲洞叢書』所収『法花経和歌』と補完しあう 関係にある。たとえば、内閣文庫本が欠く五三番歌は叡山文庫本に次のように記される。 若於夢中 但見妙事 竹のはによはの霰を聞もうし妙なる法のさむるなこりは これは『法花経和歌』にも見えるが、五句は「さむるこりは」となっていて文意不通であった。それを叡山文庫本に よ り「 覚 む る 名 残 は 」 と 確 定 で き る わ け で あ る。 一 方、 叡 山 文 庫 本 の 四 句「 法 」 は『 法 花 経 和 歌 』 で は「 夢 」 で あ り、 「 若 於 夢 中 」 の 題 意 に 沿 う「 夢 」 が よ い。 ほ か に も、 二 十 番 歌 の 初 二 句 は 叡 山 文 庫 本 が「 今 そ 暮 ぬ る 春 の 」 と す る 一 方、 内 閣 文 庫 本 は「 今 そ き く 是 か ぬ る 春 の 」 と す る。 叡 山 文 庫 本 の 初 句 の 脱 字 を 内 閣 文 庫 本 で 補 え る の に 対 し、 内 閣 文 庫 本 で は 文 意 不 通 の 二 句 が 叡 山 文 庫 本 に よ っ て 校 訂 で き る わ け で あ る。 も っ と も、 『 法 花 経 和 歌 』 は 歌 数 が大きく異なるため、他の二本とは同列に扱えないが、現存伝本の数が限られている現状では、この本文も参考にす るのが有効であろう。
叡山文庫本『尊円親王詠法華経百首』翻刻 六三 この『法花経和歌』には不明な点が多い。百首から抄出して二十八首としたのか(二十八首を増補して百首にした 可 能 性 は な い の か )、 そ れ は 尊 円 親 王 自 身 の 手 に よ る の か、 そ れ と も 後 人 の 所 為 な の か。 ま た、 そ れ は い つ ご ろ 何 の ために行われたのか(なお、 『碧冲洞叢書』の解題に『法花経和歌』の書写年代は記されていない) 。こういった点は すべて不明である。 『尊円親王詠法華経百首』の勅撰入集歌三首はいずれも『法花経和歌』にも見える。 『法花経和歌』が『尊円親王詠 法華経百首』の秀歌撰であるならば、尊円親王自身(あるいは同時代の著名歌人など)が秀歌と見なした三首ゆえに 勅撰集に採られたとも、後人が勅撰入集歌ゆえに秀歌と見なして『法花経和歌』に収めたとも考えられる。本文を比 較すると、 『新後拾遺集』 (釈教・一五〇〇)の詞書「嘱累品、今一切衆生普得聞知を」の「今」は「令」の誤写であ ろうが、叡山文庫本・内閣文庫本・ 『法花経和歌』 、ともに「令」とする。ただし、もとより誤写しやすい文字である う え、 『 新 後 拾 遺 集 』 に も「 令 」 と す る 伝 本 が 少 な か ら ず 存 在 す る の で 3 、 注 目 す べ き 異 同 と は 言 え な い。 一 方、 和 歌 の 四 句「 は る か に 」 は 内 閣 文 庫 本・ 『 法 花 経 和 歌 』 に 一 致 し、 叡 山 文 庫 本 の「 は る / \ 」 と は 相 違 す る 4 。 し か し、 勅 撰 入 集 歌 の 異 同 は ほ か に な く、 『 尊 円 親 王 詠 法 華 経 百 首 』 諸 本・ 『 法 花 経 和 歌 』 と 勅 撰 集 と の 関 係 を 探 る 手 が か り は、これ以上得られない。 で は、 『 法 花 経 和 歌 』 の 本 文 は 叡 山 文 庫 本・ 内 閣 文 庫 本 ど ち ら に 近 い の か。 叡 山 文 庫 本 の 歌 番 号 を ア ラ ビ ア 数 字 で 示 し( 『 新 編 国 歌 大 観 』 と 異 な る 場 合 は、 そ の 歌 番 号 を 括 弧 内 に 示 す )、 叡 山 文 庫 本 は「 叡 」、 内 閣 文 庫 本 は「 内 」、 『法花経和歌』の本文が叡山文庫本のみと一致するのは次の二首二例である。 67( 66) ける(碧叡)―けり(内)
六四 69( 68) 見るめたに(碧叡)―みるたひに(内) 『 法 花 経 和 歌 』 の 本 文 が 内 閣 文 庫 本 の み と 一 致 す る の は 次 の 八 首 九 例 で、 表 記 の 相 違 と 捉 え ら れ る 最 後 の 例 も 加 え れば、九首十例となる。 28 やみや(碧内)―やみの(叡) 39 今きなくなり(碧内)―又来鳴らん(叡) 45 速(碧内)―即(叡) さとり(碧内)―盛(叡) 67( 66) 事は(碧内)―事の(叡) 81( 80) はるかに(碧内)―はる/\(叡) 86( 85) あはゝ(碧内)―あはて(叡) 97( 96) こゝろを(碧内)―心に(叡) 99( 98) 神は(碧内)―神そ(叡) 93( 92) おへは(碧内)―ほへは(叡) 四五番歌は「云何女身 速得成仏」の「速」を叡山文庫本は「即」とするが、 春日版『法華経』は「速」とし 5 、『大 正 新 修 大 蔵 経 』 に よ る と「 速 」 に 異 同 は な い。 ま た、 歌 意 に よ る と「 さ と り 」 が 良 く、 「 盛 」 は 叡 山 文 庫 本 の 誤 写 と 思われる。しかし、それ以外はいずれの本文も通意である。 『 法 花 経 和 歌 』 の 独 自 異 文 は 次 の 四 首 七 例、 五 三 番 歌 は 内 閣 文 庫 本 に 脱 落 し て い る の で、 こ れ を 除 く と 三 首 五 例 と なる。 21 なき(碧)―聞(叡内) きかぬ(碧)―しらぬ(叡内)
叡山文庫本『尊円親王詠法華経百首』翻刻 六五 53(欠) 夢(碧)―法(叡) こり(碧)―なこり(叡) 56( 55) そるとしみれは(碧)―そると思へは(叡内) とをさかるらむ(碧)―遠さかりけん(叡)―とをさかり行(内) 87( 86) なる(碧)―也(叡内) 三 番 歌 の 異 同 に つ い て は 前 述 の と お り、 「 夢 」( 碧 )、 「 な こ り 」( 叡 ) を 採 る べ き で あ ろ う が、 そ れ 以 外 の も の は い れ も 通 意 で あ る。 こ の よ う に、 『 法 花 経 和 歌 』 は 内 閣 文 庫 本 に 比 較 的 近 い 本 文 と い え よ う が、 独 自 異 文 も や や 目 立 三、他出 本 百 首 の 他 出 は 極 め て 少 な く、 勅 撰 集 で は『 新 拾 遺 集 』 に 一 首、 『 新 後 拾 遺 集 』 に 二 首 が 入 集 す る に 過 ぎ な い。 そ ほ か は 中 世 の 私 撰 集・ 類 題 集 は も と よ り、 近 世 の『 釈 教 題 林 集 』 や『 訳 和 和 歌 集 』、 あ る い は 現 代 の『 釈 教 歌 詠 全 名 な『 法 華 経 直 談 鈔 』 や『 法 華 経 鷲 林 拾 葉 鈔 』 に も 引 か れ て い な い 6 。 し た が っ て、 こ の 百 首 は ほ と ん ど 流 布 し な そ う し た な か、 時 代 は 下 る が、 『 類 題 法 文 和 歌 集 注 解 』 が 百 首 す べ て を 収 め て い る 点 は 注 目 さ れ る。 お そ ら く、 編 ど の よ う な 関 係 に あ る の か。 『 類 題 法 文 和 歌 集 注 解 』 の 本 文 が『 尊 円 親 王 詠 法 華 経 百 首 』 の ど の 伝 本 と 一 致 す る か
六六 をまとめると、次のようになる(具体例は【他出一覧】参照) 。『類題法文和歌集注解』の本文と一致する総数を上段 に、そのうち誤写などに起因する一致数を中段の括弧内に、それを総数から差し引いた数を下段に示す(伝本名の略 称 は 同 上 )。 た と え ば、 叡 山 文 庫 本 の み と 一 致 す る『 類 題 法 文 和 歌 集 注 解 』 の 本 文 は 全 三 〇 例、 そ の う ち 内 閣 文 庫 本 の誤写などが原因で叡山文庫本と一致した数が一一例、それを差し引いた数が一九例という意味である。 叡のみと一致 30 ( 11) 19 内のみと一致 29 ( 15) 14 碧のみと一致 2 (1) 1 叡内と一致 4 (1) 3 内碧と一致 8 (2) 6 叡碧と一致 2 (0) 2 独自異文 32 ( 16) 16 比較には下段の数字を用いるべきであろうが、特に大きな偏りはない。同時に『類題法文和歌集注解』の独自異文も ほぼ同数で、畑中多忠の見た本が現存伝本からやや距離のあるものであった可能性もあろう。実際、七二番歌(新編 国歌大観では七一番歌)の五句には次の異同がある( 『類題法文和歌集注解』は「類」と略称) 。 浅き深きは(叡)―あさゝふかさ に をイ (内)―あさゝふかさは(類) 叡山文庫本と『類題法文和歌集注解』の相違は「き」と「さ」のみで、字形の類似からどちらかの誤写が想定されよ う。一方、内閣文庫本の異本注記「を」を本文とする伝本は現存しない。もっとも、内閣文庫本の異本注記はこれの み で、 叡 山 文 庫 本・ 『 法 花 経 和 歌 』・ 『 類 題 法 文 和 歌 集 注 解 』 に 異 本 注 記 は 付 さ れ な い も の の、 多 忠 の 時 代 に 現 存 伝 本
叡山文庫本『尊円親王詠法華経百首』翻刻 六七 その際、現存諸本には『尊円親王詠法華経百首』の成立事情などが一切記されていないにもかかわらず、多忠がそ 『類題法文和歌集注解』 (一〇九六)の注に「此の歌 尊 円 法 親 王 の 七 日 の 程、 日 吉 に 参 籠 し た ま ひ て 法 華 の 句 を 題 に て 百 首 よ み て 手 向 け た ま ひ し 中 の 一 首 な り 」 と 見 し か し、 一 方 で 多 忠 の 類 推 に 過 ぎ な い 可 能 性 も あ る。 こ の 十 首 は『 尊 円 親 王 詠 法 華 経 百 首 』( 九 一 ~ 一 〇 〇 ) の 神 部 に 該 当 す る が、 百 首 歌 の 部 立 と し て 神 祇 に 十 首 を 割 く の は 異 例 で あ る。 そ の う え、 「 明 ら け き 神 は 日 吉 の 名 に し へ ば 」( 九 三 )、 「 唐 崎 の 松 の 梢 に 舟 よ せ て 」( 九 五 )、 「 七 の 神 垣 」( 九 六 )、 「 契 り あ り て 神 も 御 法 に あ ふ み 路 や 心 に (九七) 、「神垣や七のいらかを並べても」 (九八) 、「をひえ山麓の雲となりやせん細き煙を神にま せ て 」( 一 〇 〇。 叡 山 文 庫 本 の 初 句「 大 江 山 」 は 誤 写 か ) と、 十 首 の う ち 六 首 が 日 吉 社 を 明 示 す る の に 対 し、 日 吉 四、 百首の構成 経旨歌のみから成る百首歌の先蹤として、院政期の寂然による『法門百首』と、承久二年(一二二〇)頃の成立か
六八 と 推 定 さ れ る 慈 円 に よ る「 八 幡 百 首 」( 『 拾 玉 集 』 所 収 ) が あ る 7 。『 法 門 百 首 』 の 歌 題 は『 法 華 経 』 以 外 か ら も 撰 ぶ が、 「 八 幡 百 首 」 は『 法 華 経 』 の み に 基 づ き、 『 尊 円 親 王 詠 法 華 経 百 首 』 と 同 様 で あ る。 周 知 の よ う に、 『 拾 玉 集 』 は 嘉暦三年(一三二八) 、貞和二年(一三四六)の二次に亘って、尊円親王が編纂に深く関わった家集であり、 『尊円親 王詠法華経百首』の詠まれた建武四年(一三三七)はちょうどその間に位置する。 こ こ で は 百 首 の 構 成 方 法 を 比 較 し た い。 ま ず、 部 立 は『 尊 円 親 王 詠 法 華 経 百 首 』 が 春 20、 夏 10、 秋 20、 冬 10、 恋 15、 雑 15、 神 祇 10、 慈 円 の「 八 幡 百 首 」 は 部 立 を 設 け ず、 寂 然 の『 法 門 百 首 』 は 春・ 夏・ 秋・ 冬・ 祝・ 別・ 恋・ 述 懐・無常・雑に各 10首を配す。これらと比較しても、やはり『尊円親王詠法華経百首』の「神祇」重視の姿勢が窺え よう。 次に『法華経』各品に配分する歌数であるが、 『尊円親王詠法華経百首』は次のとおりである。 序品~薬草喩品各4(以上、春部) 授記品4・化城喩品3・五百弟子授記品3(以上、夏部) 人記品~勧持品各4(以上、秋部) 安楽行品3・湧出品3・寿量品4(以上、冬部) 分別功徳品~法師功徳品各4・不軽品3(以上、恋部) 神力品4・嘱累品3・薬王品4・妙音品4(以上、雑部) 普門品3・陀羅尼品1・妙荘厳王品3・勧発品3(以上、神祇部) 各品の歌数が均等となるよう機械的に3~4首を配分している(陀羅尼品はほとんどが陀羅尼から成るため、歌題に 適さなかったか) 。対して、 「八幡百首」は次のように配分する。
叡山文庫本『尊円親王詠法華経百首』翻刻 六九 序品6、方便品 14、譬喩品5、信解品5、薬草喩品3 授記品2、化城喩品5、 五百弟子品3 人記品1、法師品3、宝塔品6、提婆品3、勧持品2 安楽行品3、湧出品2、寿量品5 分別功徳品2、随喜功徳品1、法師功徳品4、不軽品2 神力品3、嘱累品3、薬王品6、妙音品2 観音品(普門品)4、陀羅尼品2、厳王品2、勧発品3 の 歌 数 に 大 き な 偏 り が あ る。 む ろ ん、 部 立 の 有 無 が 影 響 し て い る 可 能 性 も あ ろ う。 し か し、 『 尊 円 親 王 詠 法 華 経 百 ざ 探 し て い る の と 対 照 的 で あ る 8 。 つ ま り、 極 端 に 言 え ば、 尊 円 親 王 も「 八 幡 百 首 」 の ご と く 序 品 6、 方 便 品 14で 20を構成することも不可能でなかったはずである。その点、慈円の歌数の配分方法は尊円親王へ受け継がれてい で は、 歌 題 と さ れ た 句 は ど う で あ ろ う か。 上 段 に『 尊 円 親 王 詠 法 華 経 百 首 』、 中 段 に「 八 幡 百 首 」 の 歌 題 を 順 番 ど り に す べ て 挙 げ、 下 段 に は『 法 門 百 首 』 の『 法 華 経 』 題 を( 『 尊 円 親 王 詠 法 華 経 百 首 』 と 一 致 す る 場 合 は 掲 出 位 置 挙げる 9 。『尊円親王詠法華経百首』 の歌題と一致するものは四角囲みとし、 内容が類似するものには 「*」
七〇 『尊円親王詠法華経百首』 慈円「八幡百首」 寂然『法門百首』 春 序品 序品 序品 1眉間白毫 大光普照* 如是我聞 2栴檀香風 悦可衆心 照于東方* 栴檀香風(夏・一五) 3其声清浄 出柔耎音 入於深山 経行林中(秋・三〇) 4我見灯明仏 本光瑞如此 悉捨王位 未嘗睡眠(恋・六八) 其後当作仏号名曰弥勒 我見灯明仏 方便品 方便品十四首 5世尊黙然而不制止* 其智恵門 6唯有一乗法無二亦無三 諸法実相 7如我昔所願 今者已満足 止止不須説 8若有聞是法 皆已成仏道 五千人等郎従座起礼仏而退* 出現於世 開仏知見 唯有一乗法 如我昔所願 常自寂滅相
叡山文庫本『尊円親王詠法華経百首』翻刻 七一 乃至以一花 若有聞是法 知法常無性 世間相常住 聞是法亦難 譬喩品 譬喩品五首 9昔於波羅奈 転四諦法輪 必当得作仏 10於此火宅 宜速出来* 猶如火宅* 11但念水草餘無所知 等一大車 12譬喩言辞 説法無礙 悉是吾子 諸苦所因 信解品 信解品五首 信解品 13居僧之首 年並朽邁 無上宝聚* 即脱瓔珞細耎上服(冬・三一) 14無量珍宝 不求自得* 浄仏国土 捨父逃逝遠到他土(別・五三) 15傭賃展転 遇到父舎 止宿草庵 16其父憂念 四方推求 報仏之恩 以仏道声 薬草喩品 薬草喩品 薬草喩品
七二 17称其種性 而得生長 現世安穏 草木叢林随分受潤(春・四) 18於仏智恵 如海一滴 普皆平等 19潤於人華 各得成実 汝等所行是菩薩道 20汝等所行 是菩薩道 夏 授記品 授記品 21告諸大衆 唱如是言 無有魔事 22常出好香 散衆名華 心尚懐憂苦 23如以甘露灑 除熱得清涼 24其仏常処虚空為衆説法 化城喩品 化城喩品 25能得辺際 知其数不 観彼久遠 26従冥入於冥 永不聞仏名 従冥入於冥 27周帀有園林 渠流及浴池 願以此功徳普及於一切 以是本因縁今説法花経 権化作此城 五百品 五百弟子品 28身出光明 飛行自在 内秘菩薩行 29不覚内衣裏 有無価宝珠 其不在此会汝当為宣説
叡山文庫本『尊円親王詠法華経百首』翻刻 七三 30得少涅槃分 自足不求餘 不覚内衣裏 秋 人記品 人記品 31阿難常楽多聞 我願既満 32如今所聞 亦識本願 33我為太子時 羅睺為長子 34其意柔軟 寂然清浄 法師品 法師品 法師品 35繒蓋幢幡 法花最第一 於如来衣(夏・一一) 36須臾聞之 即得究竟 柔和忍辱衣 37漸見湿土泥 決定知近水 寂莫無人声 38寂漠無人声 読誦此経典 宝塔品 宝塔品 39又聞塔中 所出音声 有七宝塔 40釈迦牟尼仏 可就此座 移諸天人置於他土 41仮使有人 手把虚空 皆在虚空 42我即歓喜 諸仏亦然 諸宝樹下 担負乾草 是名持戒
七四 提婆品 提婆品 提婆品 43採薪及菓 蓏 随時恭敬与* 皆因提婆達多 拾薪設食(秋・三三)* 44無有如芥子許非是菩薩捨身命処 又聞成菩提 乃至以身而作床坐(秋・三二) 45云何女身 速得成仏※ 竜女成仏※ 経於千歳(祝・四六) 46我献宝珠 世尊納受 勧持品 勧持品二首 勧持品 47憍曇弥 何故憂色 何故憂色 何故憂色(恋・六二) 48及加刀杖者 我等皆当忍 我不愛身命 49常念世俗事 仮名阿練若 50我不愛身命 但惜無上道 冬 安楽行品 安楽行品 安楽行品 51菩薩有時入於静室* 在於閑処* 住忍辱地(恋・六三) 52王解髻中 明珠賜之 不可得聞 53(欠) 若於夢中 但見妙事※ 常有是好夢※ 涌出品 湧出品 涌出品 54( 53)地皆震烈而於其中有無量菩薩 我常遊諸国 如蓮華在水(夏・一六) 55( 54)単己無眷属 楽於独処者* 父少而子老 志楽於静処(述懐・七二)* 56( 55)仏昔従釈種 出家近伽耶 不染世間法(述懐・七一)
叡山文庫本『尊円親王詠法華経百首』翻刻 七五 寿量品 寿量品 寿量品 57( 56)雖近而不見 無有生死 寿命無数劫久修業所得(祝・四七) 58( 57)一心欲見仏 不自惜身命 常在霊鷲山 不自惜身命(恋・六六) 59( 58)現有滅不滅 寿命無数劫 作是教已至他国(別・五二) 60( 59)過阿僧祇劫 不聞三宝名 如医善方便 必当生於難遭之想(恋・六四) 得入無上道 心懐恋慕渇仰於仏(恋・七〇) 自惟孤露(述懐・七三) 我今衰老(述懐・七八) 恋 分別功徳品 分別功徳品 分別功徳品 61( 60)我説是如来寿命長遠 清浄之果報 繽紛而乱墜如鳥飛空下(春・一〇) 62( 61)得楽説無礙弁才 不久詣道場 63( 62)説得法利者 歓喜充遍身 64( 63)常在於其中 経行若坐臥 随喜功徳品 随喜功徳品 随喜功徳品 65( 64)随喜転教* 如是展転教* 66( 65)世皆不牢固 如水沫泡焔 世皆不 窂 固如水沫泡焔(無常・八五) 67( 66)言此経深妙 千万劫難遇 68( 67)面目悉端厳 為人所喜見
七六 法師功徳品 法師功徳品四首 69( 68)父母所生眼 悉見三千界 父母所生眼 70( 69)以此常耳聞三千世界声 唯独自明了 71( 70)如是諸色像 皆於身中現 皆与実相不相違背 72( 71)通達無量義 次第如法説 是人持此経 不軽品 不軽品 73( 72)経歴多年 常被罵詈 我深敬汝等 74( 73)於阿鼻地獄 受大苦悩 避走遠住 75( 74)世々値仏 疾成仏道 雑 神力品 神力品 76( 75)為悦衆生故 現無量神力* 現大神力* 77( 76)如風於空中 一切無障礙 即是道場 78( 77)如日月光明 能除諸幽冥 於我滅度後応受持斯経 79( 78)是人於仏道 決定無有疑 嘱累品 嘱累品三首 80( 79)流布此法 広令増益 如世尊勅 81( 80)令一切衆生 普得聞知 各還本土 82( 81)多宝仏塔還可如故 多宝仏塔還可如故
叡山文庫本『尊円親王詠法華経百首』翻刻 七七 薬王品 薬王品六首 薬王品 83( 82)我適曽供養 今復還親近 而自燃身* 如寒者得火(冬・三四) 84( 83)而今焼譬身不具足* 最為第一 85( 84)如炬除闇此法花経 如渡得船 86( 85)病即消滅不老不死 於此命終即往安楽世界 病即消滅不老不死(祝・四四) 広宣流布 病即消滅 妙音品 妙音品 87( 86)百千天楽 不鼓自鳴 衆宝蓮花 88( 87)而来詣此娑婆世界耆闍崛山 不鼓自鳴 89( 88)現種々身処々為諸衆生説是経典 90( 89)及衆難処皆能救済 神祇 普門品 観音品 91( 90)威神之力 便得離欲 92( 91)受此法施珍宝瓔珞 以種種形遊諸国土 93( 92)無垢清浄光 恵日破諸闇 施無畏者 心念不空過 陀羅尼品 陀羅尼品
七八 94( 93)為愍念衆生擁護此法師 無諸衰患 羅刹女等 妙荘厳王品 厳王品二首 95( 94)為現神変 願母放我等出家作沙門 96( 95)値仏復難是 善知識者 97( 96)宿福深厚 生値仏法 勧発品 勧発品三首 勧発品 98( 97)各現威徳神通之力* 成就四法 受持仏語作礼而去(別・五九) 99( 98)心意質直有正憶念 皆是普賢威神之力* 100( 99)亦於現世得其福報 作礼而去 以 上 を 整 理 す る と、 次 の よ う に な る。 『 法 門 百 首 』 の『 法 華 経 』 題 は 全 27首 な の で、 そ れ に 対 す る 割 合 を 括 弧 内 に 示す。 八幡百首 一致 14 類似 11 法門百首 一致5( 19%) 類似2(7%) 両 方 と 一 致 す る も の が 二 例 あ る の で、 「 八 幡 百 首 」 の み と 一 致 す る の は 12例、 『 法 門 百 首 』 の み と 一 致 す る の は 3 例 ( 11%) と な る。 「 八 幡 百 首 」 と の 一 致 率 は 類 似 分 を 含 め て 25%、 『 法 門 百 首 』 も ほ ぼ 同 じ 26% と な る。 そ れ が 多 い の か少ないのかを判断するには、さらなる比較材料が必要となろうが、少なくとも『尊円親王詠法華経百首』の歌題構 成が『法門百首』や「八幡百首」を規範としている、あるいは強い影響下にあるなどとは言えない。
叡山文庫本『尊円親王詠法華経百首』翻刻 七九 おわりに 以上、 『尊円親王詠法華経百首』の諸本や他出、また『法門百首』 ・「八幡百首」との関連について簡単に検討した。 先行する二種類の百首歌からの影響は、形式的な面においては必ずしも強くない。それは和歌の内容面でも同じなの か。 『尊円親王詠法華経百首』所収歌の詳しい読解・分析が今後の課題となる。 1井上宗雄 『中世歌壇史の研究 南北朝期 改訂新版』 (明治書院、一九八七年)三八七ページ。 2拙 稿「 二 十 八 品 歌 の 詠 法 ― 本 歌 取 り 作 を 中 心 に 」( 中 世 文 学 63、 二 〇 一 八 年 六 月 )。 こ の 時 点 で は 前 掲 の 井 上 氏 の 指 摘 を 見 落 と し て い た 。 お 詫 び 申 し 上 げ る 。 な お 、 百 首 の 作 者 を 尊 円 親 王 と す る 従 来 の 根 拠 は 、 内 閣 文 庫 本 の 外 題 (後補)と勅撰入集歌 (他出)の作者名のみであった。しかし、叡山文庫本には百首の冒頭と末尾に尊円親王の名が 記されており、その点も重要といえる。 3宮内庁書陵部蔵の吉田兼右本(五一〇・一三)を底本とする 『新編国歌大観』と書陵部本(四〇〇・七)は 「今」と す る が 、 書 陵 部 本 ( 五 〇 一 ・ 二 五 三 )、 同 ( 四 〇 三 ・一 二 )、 同 ( C 一 ・九 七 )、 同 ( 五 〇 八 ・二 〇 八 )、 濱 口 博 章 氏 本( デ ジ タ ル 請 求 記 号 : DIG-HMGC-40 )、 国 文 学 研 究 資 料 館 本 ( 和 古 書 タ 二 ・四 七 ・二 )、 同 ( 和 古 書 ア 二 ・ 一〇・四七)などは 「令」とする。以上、国文学研究資料館の日本古典籍総合目録データベースの画像参照。 4この部分は注3所掲の諸本もすべて 「はるかに」とする。
八〇 5駒澤大学図書館本(駒澤大学電子貴重書庫の画像)による。以下同。 6首藤靖子 「和歌索引―法華経鷲林拾葉鈔 ・法華経直談鈔」 (叙説9、 一九八四年十月) 。 7山 本 章 博『 歌 合 ・ 定 数 歌 全 釈 叢 書 14 寂 然 法 門 百 首 全 釈 』( 風 間 書 房 、 二 〇 一 〇 年 )、 石 川 一 ・ 山 本 一『 和 歌 文 学 大 系 58・ 59 拾玉集(上) (下) 』(明治書院、二〇〇八~一一年)参照。 8前掲 『寂然法門百首全釈』の指摘による。 9『法門百首』の出典は前掲 『寂然法門百首全釈』の 「題出典一覧」による。
叡山文庫本『尊円親王詠法華経百首』翻刻 八一 を施した。 ・内題の「謌」を除き、通行の字体に改めた。 ・ミセケチは「 」、補入記号は「・」 、二字以上の踊り字は「/\」で表した。 ・虫損などで判読できない文字は「□」とし、元の文字が想定される場合は右傍に〔 〕に括って示した。 ・丁の変わり目には丁数と表裏の別を 」(1オ) のように示した。 ・歌頭に歌番号を付した。五三番歌は『新編国歌大観』に脱落しているため、五四番歌以降は叡山文庫本の歌 番 号 の 下 に、 『 新 編 国 歌 大 観 』 の 歌 番 号 を( ) に 括 っ て 示 し た。 ま た、 『 碧 冲 洞 叢 書 』 所 収『 法 花 経 和 歌 』 に見える歌は、歌番号を四角囲みとした。 校 異 は 国 立 公 文 書 館 内 閣 文 庫 本( 略 称「 内 」) 、『 碧 冲 洞 叢 書 』 所 収『 法 花 経 和 歌 』( 略 称「 碧 」) を 対 象 し、 以 下 のとおり異同を掲出する。 ・異文は翻刻本文と上下段で位置が揃うよう掲出したが、長文となる場合は番号を付して注に回した。 ・原則として表記の相違はとらず、私に付す注は〔 〕に括って本文と区別する。 ・底本の傍記が本文と異なる場合は、ミセケチなどの有無にかかわらず、他本の本文を掲出する。 例)底本が「た て え 」、他本が「たえ」であった場合、念のため他本の本文を掲出する。 ・底本の傍記が本文と同じ場合や本文の振り仮名である場合は、煩雑さを避けて他本の本文は掲げない。
八二 例)底本が「 黙 黙 」・ 「 宜 ギ 」、他本が「黙」 ・「宜」であった場合、他本の本文を掲出しない。 ・詞書の書式は、それぞれ次のように異なる。 底本:和歌より一字下げで部立・歌数(小字) ・品名・歌題(句の間を一字あける)を一行に記す。 例)春 廿首 序品 眉間白毫 大光普照 内本:和歌より一字下げで部立・品名を記し、改行して二字下げで歌題(句の間はあけない)を記す。 例)春 序品 眉間白毫大光普照 碧本:和歌より四字下げで品名を記し、改行して二字下げで歌題(句の間はあけない。訓点を付す場合も ある)を記す。 例) 序品 我見灯明仏本光瑞如斯 右のうち、改行位置と字高の相違、および一字分の空白の有無は原則として掲出しない。 ・『法華経』の句に異同がある場合は、参考として春日版『法華経』 (駒澤大学図書館蔵。駒澤大学電子貴重書 庫の画像による。略称「春」 )の字を示す。ただし、訓点の有無のみの場合は示さない。 〔付記〕貴重な資料の閲覧・調査、また翻刻をご許可くださった叡山文庫に厚く御礼申し上げる。
叡山文庫本『尊円親王詠法華経百首』翻刻 八三 山門東塔南谷 浄教房 真如蔵 四十九 剱 詠法華経百首和謌 叡南住侶尊円親王 春 廿首 序品 眉間白毫 大光普照 1 春の色は天津空にやみちぬらん霞日影のさすにまかせて 栴檀香風 悦可衆心 2 梅かゝを袂にさそふ春風のあはぬなこりは心にそしむ 其声清浄 出柔耎音」 (1オ) 3 春やとき雪のふるすに鳴初てまた声わかき谷の鶯 我見灯明仏 本光瑞如此 4 今も又おなしかけにや霞らん見しは昔の春の夜の月 方便品 世尊 黙 黙 然而不 制 制 止 5 帰るへき習ひをしれは 雁 雁 かねの春の別は人もとゝめす 【校異】 〔内題―注1〕 叡南~親王―〔なし〕 (内・碧) 春 廿首 ―春 (内) ―〔なし〕 (碧) あはぬ―あかぬ (内) 耎(春) ―輭 (内) 〔注2〕 此(春) ―斯 (碧) 1詠法華経百首和謌 〔傍記 「山門~剱」 〕―詠法花経百首和哥 〔傍記なし〕 (内)―法花経和謌 〔傍記なし〕 (碧) 2「輭」は 「軟」の異体字。 「耎」と通用か。
八四 唯有一乗法無二亦無三 6 春は只花をそ思ふ二つなく三つなき物は心也けり」 (1ウ) 如 如 我昔所願 今者已満足 7 かねてより思ひしまゝに御吉野ゝおくまて花を尋ねつるかな 若有聞是法 皆已成仏道 8 山桜咲ぬときけはおしなへていつくも春に成にけるかな 譬喩品 昔於波羅奈 転四諦法輪 9 けふはまた思出てもしのかすよ昔の春の野へのあそひを 於此火宅 宜 ギ 速出来」 (2オ) 10 出てこそわかなもつまめも え え 初るとふ火ののへの春の里人 但念水草餘無所知 11 哀なり野へにいはゆる春駒も法のおしへにたかふ報は 譬喩言辞 説法無礙 12 さりとては雲とやいはん山桜また尋見ぬ人にかたらん 信解品 居僧之首 年並朽邁 13 思ひきや老の命のなからへて法の花さく春を見んとは」 (2ウ) 無量珍宝 不求自得 まゝに―ことゝ (内) 若有聞是法 (春) ―若 者 (ママ) 聞 是 (ママ) (内) きけは―聞は (内) しのかすよ―しのはすよ (内) 知(春) ―分 (内) かたらん―かたらは (内)
叡山文庫本『尊円親王詠法華経百首』翻刻 八五 14 日にみかく玉のひかりを我宿の庭の梢の花に見るかな 傭 傭 賃展転 遇到父舎 15 古郷の花の梢をいかにしてよその雲ゐをたとりきつらん 其父憂念 四方推求 16 五十あまり四方の山 鳥 (ママ) の呼子鳥とをきを人も哀とやきく 薬草喩品 称其種性 □ 〔而〕 得生長」 (3オ) 17 春雨のひとつ恵みをうけなから野への緑や千種なるらん 於仏智恵 如海一滴 18 一枝を手折る藤に田子の浦千里の浪の色を見る哉 潤於人華 各得成実 19 ときしあれは春のみ山の花も見つ秋のこのみも又やひろはん 汝等所行 是菩薩道 20 今そ (ママ) 暮ぬる春の夕日影したふもにしに行心哉」 (3ウ) 日―〔注3〕 雲ゐを―雲ゐに (内) 鳥 (ママ) ― 辺( 内 ) と を き を ― を ち こ ち( 内 ) 〔歌題―注4 〕 手 折 る ― 手 折 れ る( 内 ) 浦 ― う ら の( 内 ) 花 も ― 花 を( 内 ) ひ ろ は ん ― ひ ら か む( 内 ) 今そ (ママ) 暮ぬる―今そきく 是 (ママ) か ぬる (内) 哉―とは (内) 新編国歌大観、初句 「日」を 「目」と読むが、内閣文庫本の字は 「日」と読める。 称其種性 □ 〔而〕 得生長―称其種性而得生長 (内 ・春)― 称 カナテ 二其 ノ 種性 ニ 一而 モ 得 二生長 一 スルコトヲ (碧)
八六 夏 十首 授記品 告諸大衆 唱如是言 21 此里はけふ聞そむる郭公昔もしらぬことかたる也 常 出 出 好香 散衆妙華 22 吹風の匂ひをとめて橘の花ちる里をたつねつる哉 如以甘露灑 除 熱 熱 得清涼 23 急雨の過ぬる跡の草のはに涼しく結ふ野への夕露 其仏常処虚空為衆説法」 (4オ) 24 久堅の空に声してなる神の五月の闇をてらす稲妻 化城喩品 能得辺際 知其数不 25 いつくとも数そしられぬ五月雨のをやまぬ空の雲の隔は 従冥入於冥 永不聞仏名 26 五月闇木の下道はくらきよりくらきに迷ふ程そくるしき 周帀有園林 渠流及浴池 27 行なやむ野中の森の夕涼み心ありける道しるへ哉」 (4ウ) 夏 十 首 ― 夏( 内 )― 〔 な し 〕( 碧 ) 〔 歌題 ― 注 5 〕 聞 ― な き( 碧 ) し ら ぬ ― き か ぬ( 碧 ) 出 出 (春) ―山 (内) 妙―名 (内・春) 城(春) ―成 (碧) い つ く ― い く へ( 内 ) 五 月 雨 の ― 五 月 雨 に( 内 ) 従冥―従 レ 冥(碧) 仏名―仏名 一(碧) 帀(春) ―而 (内) 森―とり (内) 5告諸大衆 唱如是言―告 テ 二諸 ノ 大衆 ニ 一 唱 トナヘ玉ハク 如 レ キノ 是 クノ 言 コトハ ヲ (碧)
叡山文庫本『尊円親王詠法華経百首』翻刻 八七 五百品 身出光明 飛行自在 28 身を照す光さやかにとふ蛍心のやみの残らさるらん 不覚内衣裏 有無価宝珠 29 思出よ袖に蛍をつゝみても衣にかけし玉の光を 得少涅槃分 自足不求餘 30 涼しさは秋をもまたすうたゝねのさむる軒はの竹の下風 秋 二十首 人記品 阿難常楽多聞」 (5オ) 31 幾度もきかまほしきは荻原や露吹結ふ秋の夕風 如今所聞 亦識本願 32 聞は又今も身にしむ風の音に代々の昔の秋そしらるゝ 我為太子時 羅睺為長子 33 哀とはわきてもさこそ宮城野ゝ小萩か原の秋の夕露 其意柔軟 寂然清浄 34 つく/\と空をなかめて我か心しつかに成ぬ秋の夕暮」 (5ウ) 五百品―〔注6〕在―在 ニ 一(碧) やみの―やみや (内・碧) 思―とひ (内) 秋 二十首 ―秋 (内) ―〔なし〕 (碧) 聞 は ― き け は( 内 ・ 碧 ) 音 ― を と( 碧 ) 五百品―五百弟子授記品 (内 ・碧)―五百弟子受記品 (春)
八八 法師品 繒蓋幢幡 35 なかむれは空さへ法の手向して雲のはたての秋の夕暮 須臾聞之 即得究竟 36 我涙乱ておつる玉ゆふもた て え てや聞の秋の夕暮 漸見湿土泥 決定知近水 37 山里は枕の下に滝落て袖さへしめる秋のゆふ霧 寂漠無人声 読誦此経典」 (6オ) 38 ふくる夜の空に御法のこゑすみて人なき窓を照す月影 宝塔品 又聞塔中 所出音声 39 めくりあふ秋を忘ぬ契りにてとこよの雁も又来鳴らん 釈迦牟尼仏 可就此座 40 久かたの空ゆく友にさそはれて田のもの雁も今そ立なる 仮使有人 手把虚空 41 天津空手にとらすとも雲路行雁は御法の文字をつらねよ」 (6ウ) 我即歓喜 諸仏亦然 42 うき事を忘れてそ見るよはの月千里の人もおなし心に 繒 蓋 幢 幡 ― 繒 蓋 幢 幡 衣 服 妓 楽( 内 )〔 注 7 〕 玉 ゆ ふ ― 玉 ゆ ら( 内 ) た て え ― た え( 内 ) 聞 の ― き か ん( 内 ) 夕 暮 ― 夕 か せ( 内 ) 霧―つゆ (内) 漠(春) ―寞 (内・碧) 又来鳴らん―今きなくなり (内・碧) 釈迦牟尼仏 (春) ―釈迦牟尼 (内) 雁は御法の―雁たに法の (内) 7「繒蓋幢幡衣服妓楽」の句は春日版にも見える。
叡山文庫本『尊円親王詠法華経百首』翻刻 八九 提婆品 採薪及菓蓏 随時恭敬与 43 秋山の峯の椎柴折々につかへし道は身をもおします 無有如芥子許非是菩薩捨身命処 44 身にかへて妻恋わふるさをしかは野にも山にもねをや鳴らん 云何女身 即得成仏」 (7オ) 45 秋ふかき露にしほるゝをみなへしいかてひらけし盛なるらん 我献宝珠 世尊納受 46 わたつ海の底の玉藻もあらはれてちいろの浪を照す月かけ 勧持品 憍曇弥 何故憂色 47 哀とも月やてらさんさらしなやおは捨山の秋の心を 及加刀杖者 我等皆当忍 48 心なき賤かすまゐのさ夜衣千たひうつとも聞やしのかん」 (7ウ) 常念世俗事 仮名阿練若 49 我か心色もかはらて見るそうき入ぬる山の峰のもみちは 我不愛身命 但惜無上道 50 行秋は人のためまて惜けれはけふの別に身をやかへまし 〔詞書高さ、ママ〕 〔 詞 書 高 さ、 マ マ 〕 即 ― 速( 内・ 碧・ 春) 盛―さとり (内・碧) 藻も―もし (内) ちいろ―千ひろ (内) 月や―月そ (内) 刀 杖( 春 )― 杖( 内 ) す ま ゐ ― す さ ひ( 内 ) しのかん―しのはん (内) 〔歌題―注8〕 もみちは―もみち ば (ママ) (内) けふ―いろ (内) 常念世俗事 仮名阿練若―常 ニ 念 二世俗 ノ 事 ヲ 一仮 テ 二名 ヲ 阿練若 ニ 一(碧)
九〇 冬 十首 安楽行品 菩 菩 薩 薩 有時入於静 処 室 51 静なる閨に降つるむら時雨浮世の夢もさめ終よとや 王解 髪 髻 中 明珠 与 賜 之」 (8オ) 52 時しもあれ我もとゆひをとく玉の光をそへてふる霰哉 若於夢中 但見妙事 53(欠) 竹のはによはの霰を聞もうし妙なる法のさむるなこりは 涌出品 地皆震烈而於其中有無量菩薩 54( 53) 朝日さす汀の氷うちとけてむれつゝ求食池の鴛かも 単 単 己無眷属 楽於独処者 55( 54) 吾ひとり入ぬる山の奥の雪人にしられぬ年はふりつゝ」 (8ウ) 仏昔従釈種 出家近伽耶 56( 55) 箸鷹のそると思へはいつのまに雲ゐはるかに遠さかりけん 寿量品 雖近而不見 57( 56) 降雪といくへか埋むみちのくのちかの塩かま見えぬはかりに 冬 十 首 ― 冬( 内 )― 〔 な し 〕( 碧 ) 処 室 ― 室 ( 内 ・ 春 ) 閨 ― 園( 内 ) つ る ― く る( 内 ) 髪 髻 ―髻 (内・春) 与 賜 ―賜 (内・春) 時しもあれ―時しあれは (内) 〔 歌 題 ・ 和 歌 な し 〕( 内 ) 〔 歌 題 ― 注 9 〕 法―夢 (碧) なこり―こり (碧) 烈 ― 裂( 内 ・ 春 ) 無 量 ― 無 量 千 万 億( 内 ・ 春 ) 鴛―あし (内) 単 単 己(春) ―単已 (内) そると思へは―そるとしみれは (碧) 〔注 10〕 遠さかりけん―〔注 11〕 〔詞書高さ、ママ〕 雪と―雪も (内) 9若於夢中 但見妙事―若 シ 於 二 テモ 夢 ノ 中 ニ 一但 タヽ 見 ム 二妙 ヘナル 事 ヲ 一(碧) 10古典文庫 ・新編国歌大観、 「そる」を 「くる」と読むが、内閣文庫本の字は 「そる」と読める。 11遠さかりけん―とをさかり行 (内) ―とをさかるらむ (碧)
叡山文庫本『尊円親王詠法華経百首』翻刻 九一 一心欲見仏 不自惜身 命 命 58( 57) 古への雪の深山に身をすてし人こそふかき心なりけれ 現有滅不滅」 (9オ) 59( 58) 消るとやよそには人のしら雪の雲にかくるゝ富士のしは山 過阿僧祇劫 不聞三宝名 59( 58) いかにして仏の名をもとなへまし御法にあはて年を送らは 分別功徳品 恋 十五首 我説是如来寿命長遠 61( 60) 哀とも人やいふとて年月のつもる思ひをしらせつるかな 得楽説無礙弁才 62( 61) 今こそはいひつくしつれ人しれす心にこむる恋も恨も」 (9ウ) 説得法利者 歓喜充遍身 63( 62) 逢夜はの人の情そ身にあまる涙を袖にいつつゝみけん 常在 於 於 其中 経行若坐臥 64( 63) 忘らるゝときしなけれは夜もすからねても覚ても人そ恋しき 消るとや―きゆるやと (内) 劫(春) ―〔注 12〕 〔詞書―注 13〕 〔礙、底本の表記「㝵」 〕 こむる―こめし (内) 遍(春) ―徧 (内) 〔注 14〕 情そ―なさけも (内) 新編国歌大観、 「却」と読む。たしかにそのようにも見えるが、 「劫」と読んでおく。 分別~長遠―恋 分別功徳品 我説是如来 寿命長遠 (内)―分別功徳品/我説 ク 二是如来 ノ 寿命長遠 一 ナルコトヲ (碧) 新編国歌大観、 「遍」に校訂する。
九二 随喜功徳品 随喜転教 65( 64) 思ひ侘ぬせめてゆかりを尋はや人つてにたにきかまほしきに 世皆不牢固 如水沫 范 泡 焔」 ( 10オ) 66( 65) 涙川身さへなかるゝ水のあはのあはてやつゐに思ひ消なん 言此経深妙 千万劫難遇 67( 66) 逢事のかたしときけはうかりける人の心や御法なるらん 面目悉端厳 為人所喜見 68( 67) 皆人のうつす心は曇なき鏡の影に思ひしるらん 法師功徳品 父母所生眼 悉見三千界 69( 68) 見 る め た に へ た て さ り せ は 生 駒 山 君 か あ た り の 雲 も い と は し 」( 10ウ ) 以此常耳聞三千世界声 70( 69) うしやたゝとをちの里の鳥の音も枕にちかきけさの別路 范 泡 ―泡 (内・春) 〔歌題―注 15〕 事の―事は (内・碧) ける―けり (内) なき―なく (内) 〔歌題―注 16〕 見るめたに―みるたひに (内) 〔五句―注 17〕 15言此経深妙 千万劫難遇―言此 ノ 経 ハ 深妙 ナリ 千万劫難過 (碧) 新編国歌大観、 「劫」を 「却」と読む。たしかにそのようにも見えるが、 「劫」と読んでおく。 16父母所生眼 悉見三千界―父母所生 ノ 眼 ヲモテ 悉見三千界 ヲ (碧) 17底本、五句「け」 (字母は「个」 )は「そ」にも見える。
叡山文庫本『尊円親王詠法華経百首』翻刻 九三 如是諸色像 皆於身中眼 71( 70) 面影につれつゝ人の身にそはゝつれなしとてもなにか恨ん 通達無量義 次第如法説 72( 71) なれ行はさすかに人もしるらめや思ふ心の浅き深きは 不軽品 経歴多年 常被罵詈」 ( 11オ) 73( 72) うきを猶したふもくるし末の世のしらぬ契をたのむはかりに 於阿鼻地獄 受大苦悩 74( 73) むくひある世のことはりをうき人もつもる思ひに身をやこかさん 世々値仏 疾成仏道 75( 74) さりともと世々のちきりをたのむ哉よも偽はあらしと思へは 雑 十五首 神力品 為 説 悦 衆生故 現無量神力 76( 75) 数ならぬ我涙をもいとはてやせはき袂にやとる月かけ」 ( 11ウ) 如風於空中 一切無障礙 77( 76) 曇なく晴たる空を吹風に法とく人の心をそしる 眼―現 (内・春) 行は―ゆけは (内) 浅き深きは―あさゝふかさ に をイ (内) 猶―なに (内) 世の―世に (内) ことはりを―ことはりは (内) 〔歌題―注 18〕 雑 十五首 ―雑 (内) ―〔なし〕 (碧) 〔歌題―注 19〕 世々値仏 疾成仏道―世々 ニ 値 二 ヒテ 仏 ニ 疾 トク 成 二 ス仏道 一 ヲ〔返り点ママ〕 (碧) 為 説 悦 衆生故 現無量神力―為悦衆生故現無量神力 (内 ・春)―為 三 ノ悦 二 シメンカ 衆生 一 ヲ故 ニ 現 二 シ玉ヲ 無量 ノ 神力 一 ヲ〔「現 二 シ玉ヲ 」の訓 点「玉ヲ」は 「玉フ」の誤写か〕 (碧)
九四 如日月光明 能除諸幽冥 78( 77) 末の世の闇をてらさんためとてや月日も空に出はしめけん 是人於仏道 決定無有疑 79( 78) おしへをく人のまことそしられける分る深山の道もまよはて 嘱累品 流布此法 広令増益」 ( 12オ) 80( 79) 鷲の山峯のあらしに契りをかん御法の花を四方にちらせと 令一切衆生 普得聞知 81( 80) みな人の浮世の夢も覚はかりはる/\ひゝけ暁の鐘 多宝仏塔還可如故 82( 81) 今日の日もはや暮かたに成にけり今やかへらんをちの里人 薬王品 我適曽供養 今 復 復 還親近 83( 82) 結ひをく契りくちせてめくりあふ昔の友そ哀也ける」 ( 12ウ) 而今焼 譬 臂 身不具足 84( 83) おしますよ思ひにたにもこかす身をまして妙なる法の手向に 如炬除闇此法花経 85( 84) 今も猶かゝけつたへて長夜の闇をそ照す法の灯 まよはて―まよはす (内) 〔歌題―注 20〕 はる/\―はるかに (内・碧) 今(春) ―令 (内) 而今 (春) ―而令 (内) 焼 譬 臂 ―焼臂 (内・春) 闇―暗 (内・春) 20令一切衆生 普得聞知―令 シテ シム 一切衆生 一普 ク 得 二聞知 一〔返り点ママ〕 (碧)
叡山文庫本『尊円親王詠法華経百首』翻刻 九五 病即消滅不老不死 86( 85) 唐人も御法にあはていたつらに蓬の嶋の草は尋ねし 妙音品 百千天楽 不鼓自鳴」 ( 13オ) 87( 86) 遥なる雲ゐの空にきこゆ也人もしらへぬいと竹の声 而 来 来 詣 詣 此娑婆世界耆 闍 闍 崛山 88( 87) 白雲をいくへ分来て鷲の山高根の花を人の見るらん 現種々身処々為 説 諸 衆生説是経典 89( 88) たのもしなとうな/\に身をかへて人をみちひく法のおしへは 及衆難処皆能救済 90( 89) 但他蘗多の誓にさこそかなふらめ奈落の底もすてぬ恵は」 ( 13ウ) 神祇 十首 普門品 威神之力 91( 90) 月も日もかはらす影を和けて塵にましはる道そかしこき 受此法施珍宝瓔珞 92( 91) 神垣に妙なる法の手向して玉のかさりや光そふらん 不死―不死 ナラム (碧) あはて―あはゝ (内・碧) 〔歌題―注 21〕 也―なる (碧) 来 来 (春) ―求 (内) 白雲―〔注 22〕 見る―みつ (内) 〔 詞 書 高 さ、 マ マ 〕 説 諸 ― 諸( 内・ 春) とうな―ところ (内) 但―坦 (内) らめ―らん (内) 神祇 十首 ―神祇 (内) ―〔なし〕 (碧) か は ら す ― は か ら す( 内) 〔 三 句 ― 注 23〕 かさり―かさし (内) 百千天楽 不鼓自鳴―百千 ノ 天楽不 レ ルニ 鼓 一自鳴 ナル 〔返り点ママ〕 (碧) 古典文庫、 「しら雪」と読むが、内閣文庫本の字は 「しら雲」と読める。 古典文庫、 「やはらけ く (「て」 か) 」とするが、内閣文庫本の字は 「て」と読める。
九六 無垢清浄光 恵日破諸闇 93( 92) 明らけき神は日吉の名にしほへは浮世の闇を照也けり 陀羅尼品 為愍 ・ 念 衆生 権 擁 護 ・ 此 法師」 ( 14オ) 94( 93) 世をすくふ誓ひもふかき神なれは法とく人をさそ守らん 妙荘厳王品 為現神 夂 (ママ) 95( 94) 唐崎の松の梢に舟よせて我山もとに神そきませる 値仏復難是 96( 95) 鷲の山八年の春にあはぬ身もへたてははてし七の神垣 宿福深厚 生値仏法 97( 96) 契り有て神も御法にあふみ路や心によする志賀のうらなみ」 ( 14ウ) 勧発品 各現威徳神通之力 98( 97) 神垣や七のいらかをならへても一つ心に世を守るらん 心意質直 ・ 有 正憶念 99( 98) 哀我かわたくしもなき心をは人こそしらね神そしるらん 亦於現世得其福報 〔歌題―注 24〕 ほへは―おへは (内・碧) 〔歌題―注 25〕 守―まほる (内・碧) 夂 (ママ) 〔「変」の略字か〕―変 (内・春) 我―わか (内) 身も―身は (内) 心に―こゝろを (内・碧) 守るらん―まほるらし (内) ・ 有 ―有 (内・碧・春) 神そ―神は (内・碧) 24無垢清浄光 恵日破諸闇―無垢清浄 ノ 光 アリテ 恵日破 二 テ諸闇 ヲ 〔返り点ママ〕 (碧) 25為愍 ・ 念 衆生 権 擁 護 ・ 此 法師―為愍念衆生擁護此法師 (内 ・春)―為愍 二念 シ 衆生 ヲ 一擁 二護此法師 ヲ 一(碧)
叡山文庫本『尊円親王詠法華経百首』翻刻 九七 99) 大江山麓の雲となりやせんほそき煙を神にまかせて 建武 丁丑 仲春下旬 叡南住侶尊円親王」 ( 15オ) (白紙) 」( 15ウ) 大江山―をひえ山 (内) 建武~親王―〔なし〕 (内・碧)
九八 【他出一覧】 凡例 一、他出は次のように示す。 ・ 叡 山 文 庫 本 の 歌 番 号 を ア ラ ビ ア 数 字 で 示 し、 『 新 編 国 歌 大 観 』 の 歌 番 号 が 異 な る 場 合 は そ れ を 括 弧 内 に 示 す。 また、 『法花経和歌』所収歌は歌番号を四角で囲む。 ・他出の作品名(勅撰集の場合は部立と詞書) 、歌番号( 『釈教歌詠全集』は巻数とページ数) 、異文を示す。 ・『類題法文和歌集注解』の異文は次のように注記する。 ・上段には、異同箇所と『類題法文和歌集注解』の異文、括弧内にそれと同じ本文を持つ『尊円親王詠法 華 経 百 首 』 の 伝 本 名 の 略 称( 叡 山 文 庫 本 は「 叡 」、 内 閣 文 庫 本 は「 内 」、 『 碧 冲 洞 叢 書 』 所 収『 法 花 経 和 歌』は「碧」 )を記す。下段には、 『尊円親王詠法華経百首』の本文を示し、括弧内にその伝本名の略称 を示す。なお、 『類題法文和歌集注解』は「類」と略称する。 例)二句 袖にそ誘ふ(類)―袂にさそふ(叡内) こ れ は『 類 題 法 文 和 歌 集 注 解 』 の 二 句 が「 袖 に そ 誘 ふ 」 で あ る の に 対 し、 『 尊 円 親 王 詠 法 華 経百首』の叡山文庫本・内閣文庫本の二句が「袂にさそふ」であることを意味する。 ・ 適 宜、 「 ※ 」 以 下 に 備 考 を 記 す。 『 法 華 経 』 の 句 に 異 同 が あ る 場 合 は、 参 考 と し て 春 日 版『 法 華 経 』( 駒 澤 大 学 図 書 館 蔵。 駒 澤 大 学 電 子 貴 重 書 庫 の 画 像 に よ る ) の 本 文 を 示 し、 『 大 正 新 修 大 蔵 経 』 で 異 同 を 確 認する。
叡山文庫本『尊円親王詠法華経百首』翻刻 九九 ・『類題法文和歌集注解』は歌題の『法華経』の句に訓点を付すことがあるが、それは異同に挙げない。 A、 『新編国歌大観』 、『新編私家集大成』 、『歌書集成』 (以上、日本文学 WEB 図書館所収) 。 B、塚田晃信『類題法文和歌集注解』 (古典文庫、一九八五~九三年) 。 ※引用は間中冨士子『類題法文和歌集注解』 (世界聖典刊行協会、一九八三年)の影印による。 C、高楠順次郎ほか『釈教歌詠全集』 (東方出版、一九七八年) 。 D、 『日本歌学大系』および『日本歌学大系 別巻』 。 E、 内 野 優 子「 慶 安 五 年 刊『 訳 和 和 歌 集 』 翻 刻 と 解 題 附 校 異( 1) ~( 6) 」( 文 献 探 究 39、 二 〇 〇 一 年 三 月。 同 40、 二 〇 〇 二 年 八 月。 同 41、 二 〇 〇 三 年 三 月。 同 42、 二 〇 〇 四 年 月。 同 43、 二 〇 〇 五 年 三 月。 同 45、 二〇〇七年三月) 。 辻 勝 美・ 那 須 陽 一 郎「 資 料 紹 介 日 本 大 学 所 蔵『 訳 和 和 歌 集 』〈 翻 刻 〉( 上 )( 下 )」 ( 語 文( 日 本 大 学 ) 111、 二〇〇一年十二月。同 112、二〇〇二年三月) 。 F、奈良女子大学学術情報センター蔵『釈教題林集』 (京都菊屋喜兵衞・宝暦九年(一七五九)刊記) 。 ※国文学研究資料館の古典籍総合目録データベースの画像による。 ※ 八 木 意 知 男『 京 都 女 子 大 学 研 究 叢 刊 38 八 坂 神 社 蔵 明 治 版「 説 教 必 用 釈 教 題 林 和 歌 集 」 翻 刻 』( 京 都 女 子大学、二〇〇三年)参照。 G、首藤靖子「和歌索引―法華経鷲林拾葉鈔・法華経直談鈔」 (叙説9、 一九八四年十月) 。 ※なお、D~Gには他出を見出せなかった。
一〇〇 1 『類題法文和歌集注解』 (八八) 2 『類題法文和歌集注解』 (八七) 二句 袖にそ誘ふ( 類 )―袂にさそふ(叡内) 四句 あかぬなこりは( 類内 )―あはぬなこりは(叡) ※歌意より叡の誤写か。 3 『類題法文和歌集注解』 (一〇一) 四句 声また若き( 類 )―また声わかき(叡内) 4 『 類 題 法 文 和 歌 集 注 解 』( 九 七・ 詞 書「 本 光 瑞 如 斯 」。 碧 と 一 致。 た だ し 二 首 前 の 詞 書 を 受 け る。 春 日 版「 本 光瑞如此」 。異同なし) 5 『類題法文和歌集注解』 (三七五) 6 『新後拾遺集』 (釈教・方便品、唯有一乗法無二亦無三といふ心を・一四七三) 『類題法文和歌集注解』 (一五二) 『片岡山』 (『釈教歌詠全集4』一二ページ) 7 『類題法文和歌集注解』 (一六四) 詞書 如我昔願( 類 )―如我昔所願(叡内) ※春日版「如我昔所願」 。異同なし。類の脱字。 二句 思ひしまゝに( 類叡 )―おもひしことゝ(内) 8 『類題法文和歌集注解』 (一五六・四句「いつく」は「いつこ」とも読める。百首諸本「いつく」 ) 詞書 若有聞是法( 類叡 )―若 者 (ママ) 聞 是 (ママ) (内) ※春日版「若有聞是法」 。異同なし。内の誤脱。 9 『類題法文和歌集注解』 (四一七)
叡山文庫本『尊円親王詠法華経百首』翻刻 一〇一 三句 忍はすよ( 類内 )―しのかすよ(叡) ※歌意より叡の誤写か。 10 『類題法文和歌集注解』 (四〇四・古典文庫、三句「其初日」と読むが、底本「もえ初る」と読める) 『類題法文和歌集注解』 (四二二・古典文庫、詞書「伹」と読むが、底本「但」と読める) 詞書 餘無所知( 類叡 )―餘無所分(内) ※春日版「餘無所知」 。異同なし。内の誤写か。 五句 たかふむくひを( 類 )―たかふ報は(叡内) 『類題法文和歌集注解』 (四二三) 五句 人にかたらは( 類内 )―人にかたらん(叡) 『類題法文和歌集注解』 (四五九) 14 『類題法文和歌集注解』 (四四一・詞書「無上宝聚」 。前歌の詞書を受ける。百首諸本「無量珍宝」 ) 『類題法文和歌集注解』 (四五三) 四句 よその雲ゐに( 類内 )―よその雲ゐを(叡) 『類題法文和歌集注解』 (四五二) 二句 よもの山への( 類内 )―四方の山鳥の(叡) ※歌意より叡の誤写。 四句 遠近人も( 類内 )―とをきを人も(叡) ※歌意より叡の誤写か。 17 『類題法文和歌集注解』 (四九七) 『類題法文和歌集注解』 (四九八) 三句 田子の浦の( 類内 )―田子の浦(叡) 『類題法文和歌集注解』 (四九六)
一〇二 三句 花もみつ( 類叡 )―花をみつ(内) 五句 又や拾はむ( 類叡 )―またやひらかん(内) 20 『類題法文和歌集注解』 (五〇〇) 初句 今そきく( 類内 )―今そ (叡) ※叡の脱字。 二句 暮ぬる春の( 類叡 )―是かぬる春の(内) ※歌意より内の誤写。 五句 行心とは( 類内 )―行心哉(叡) 21 『類題法文和歌集注解』 (五二六) 二句 けふ聞初る( 類叡内 )―けふなきそむる(碧) 四句 昔もしらぬ( 類叡内 )―むかしもきかぬ(碧) 22 『類題法文和歌集注解』 (五二七) 詞書 常出好香( 類叡 )―常山好香(内) ※春日版「常出好香」 。異同なし。内の誤写か。 詞書 散衆名華( 類内 )―散衆妙華(叡) ※春日版「散衆名華」 。異同なし。叡の誤写か。 23 『類題法文和歌集注解』 (五一九) 24 『類題法文和歌集注解』 (五二八) 25 『類題法文和歌集注解』 (五六〇) 初句 いく重とも( 類内 )―いつくとも(叡) 三句 五月雨の( 類叡 )―五月雨に(内) 26 『新拾遺集』 (釈教・化城喩品、従冥入於冥永不聞仏名の心を・一四五八)
叡山文庫本『尊円親王詠法華経百首』翻刻 一〇三 『類題法文和歌集注解』 (五七二) 27 『類題法文和歌集注解』 (五六九) 二句 野中の杜の( 類叡 )―野中のとりの(内) ※歌意より内の誤写か。 28 『類題法文和歌集注解』 (六一六) 四句 心のやみや( 類内碧 )―心のやみの(叡) 29 『類題法文和歌集注解』 (六一五) 初句 おもひ出よ( 類叡 )―とひ出よ(内) 30 『類題法文和歌集注解』 (六二四) 31 『 類 題 法 文 和 歌 集 注 解 』( 六 四 二・ 古 典 文 庫、 三 四 句「 萩 原 や 露 引 む す ふ 」 と 読 む が、 傍 線 部「 荻 」「 吹 」 と 読める) 32 『類題法文和歌集注解』 (六四三) 33 『 類 題 法 文 和 歌 集 注 解 』( 六 四 〇・ 詞 書「 我 為 太 子 時 羅 睺 為 長 子 我 今 成 仏 道 受 法 為 法 子 」。 前 歌 の 詞 書 を 受 け る。百首諸本「我為太子時 羅睺為長子」 ) 34 『類題法文和歌集注解』 (六四四) 35 『類題法文和歌集注解』 (六七六) 詞書 繒蓋 幡 ( マ マ ) 幢 ( 類 )―繒蓋幢幡(叡)―繒蓋幢幡衣服妓楽(内) ※春日版「幢幡」 。異同なし。類の「幡幢」は誤写であろうが、詞書の長さは叡に類似する。 な お 、『 大 正 新 修 大 蔵 経 』 は 「 妓 楽 」 を 「 伎 楽 」 と し 、 異 同 を 記 さ な い が 、 春 日 版 は 「 妓 楽 」 と す る 。
一〇四 36 『類題法文和歌集注解』 (六七八・古典文庫、詞書「叟」と読むが、 「臾」と読める) 三句 玉ゆらも( 類内 )―玉ゆふも(叡) ※歌意より叡の誤写か。 四句 たへてや聞ん( 類内 )―た て え てや聞の(叡) 五句 秋の夕風( 類内 )―秋の夕暮(叡) 37 『類題法文和歌集注解』 (六六一・古典文庫、五句「秋の夕 暮 」と読むが、傍線部「霧」と読める) 五句 秋の夕霧( 類叡 )―秋の夕つゆ(内) 38 『類題法文和歌集注解』 (六六七) 39 『類題法文和歌集注解』 (六九六) 五句 今きなく也( 類内碧 )―又来鳴らん(叡) 40 『類題法文和歌集注解』 (六九三) 詞書 釈迦牟尼仏( 類叡 )―釈迦牟尼(内) ※春日版「釈迦牟尼仏」 。異同なし。内の脱字か。 41 『類題法文和歌集注解』 (七〇六・古典文庫、五句「文字をつら ぬ よ」と読むが、傍線部「ね」と読める) 四句 雁は御法の( 類叡 )―雁たに法の(内) 42 『類題法文和歌集注解』 (七〇五) 詞書 我則歓喜( 類 )―我即歓喜(叡内) ※春日版「即」 。異同なし。類の誤写か。 43 『類題法文和歌集注解』 (七四四) 詞書 随時恭敬( 類 )―随時恭敬与(叡内) ※春日版「随時恭敬与」 。異同なし。類の誤写か。 三句 とり/\に( 類 )―折々に(叡内)