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ボールゲームにおける情況判断力の動感分析 : バスケットボールのパスミスについて

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(1)Title. ボールゲームにおける情況判断力の動感分析 : バスケットボールのパス ミスについて. Author(s). 中瀬, 雄三; 佐藤, 徹. Citation. 北海道教育大学紀要. 教育科学編, 62(2): 1-12. Issue Date. 2012-02. URL. http://s-ir.sap.hokkyodai.ac.jp/dspace/handle/123456789/2831. Rights. Hokkaido University of Education.

(2) 北海道教育大学紀要(教育科学編)第62巻 第2号 JournalofHokkaidoUniversityofEducation(Education)Vol.62,No.2. 平成凶年2月 February,2012. ボールゲームにおける情況判断力の動感分析 −バスケットボールのパスミスについて−. 中瀬 雄三・佐藤 徹* 北海道教育大学札幌・岩見沢枚スポーツ運動学研究室 *北海道教育大学岩見沢枚スポーツ教育課程. “Kinasthese’’AnalysisofSituationalJudgementinBallGames −OnthePass MissintheBasketballGames− NAKASEYuzoandSATOToru* DepartmentofPhysicalEducation,SapporoandIwamizawaCampus,HokkaidoUniversityofEducation. *DepartmentofSportEducation,IwamizawaCampus,HokkaidoUniversityofEducation. 概 要 ボールゲームにおいて選手の情況判断力を向上させるためには,指導者はミスの原因となった行動の意味 を理解させることが重要である。よって指導者には,選手がどのような意図(志向性)をもってパスしたの かを動感的に分析できる能力が必要である。本研究の目的は,バスケットボールのゲームにおけるパスミス について動感論的視点から分類し,その戦術行動的意味を探ることである。ゲームを撮影したビデオ映像の 観察と選手へのインタビューに基づいて,パスミスの原因を,パサーとレシーバーの意図の違い,自己・他 者の動感を把握する能力の不足,ディフェンスの行動意図の読み違い,に分類した。ここでは,パスを放つ 時点で選手が「パスが通る」と判断していたにもかかわらず,実際にはミスとなった情況の意味を選手自身 が把握できていたか否かが重要である。指導者はそれを的確に判定するために,選手の動感志向性を読み取 る感性の研鋳が求められる。. かを一義的に判定できる基準があるわけではな Ⅰ.研究の目的 ボールゲームでは,プレイをする選手の競技力 によって回数や頻度に違いはあるものの,つねに パスミスは起こり得る。情況によってパスミスの 内容は毎回異なり,どのような原因で起こったの. い。よって,指導者はパスミスの再発を防ぐため. に,選手のプレイを動感的に観察し原因を探り出 さなければならない。. また,情況判断の誤りから起こるパスミスにお いて,選手はパスを出すとき,パスを通せるとい.

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(4) ボールゲームにおける情況判断力の動感分析. 況の意味を把握できているか否かということを指. る身体」と述べ,さらにこの動感身体による運動. 導者が動感的に判定できなければならない。その. については「生き生きと運動する私の生身にあり. ような選手の情況判断時の動感意識というもの は,そもそも自然科学的立場から分析できる対象. ありと感じられる く身体性〉 を含意した運 動」(2 ̄p・24)であると説明してい る。つまり,抽象. ではなく,指導者が動感論的視座に立ち,初めて. 的・物理的運動ではなく,自分自身の身体で感じ. 探り出せるものである。. ることのできる運動といえる。. Ⅳ.情況判断力の把握における動感分析の意 義. (2)指導者による動感把握の重要性. コート上にいる選手らはそれぞれ,身長や体力 などを含めた身体的特徴をもっている。また,練. 1.パスミスと動感の関係性. 習によって習得された技術や,その場その時にお. (1)分析対象としての動感. けるプレイの意図を,選手一人一人が持ち合わせ. スポーツ指導においては,プレイに関わる選手. ている。動感とは,それらの身体的特徴や技術,. らの動感を指導者が的確に理解する必要がある。. 技能,に支えられた く動ける感じ〉 である。した. ここでいう動感とは,文字通り,「動く感じ」で. がって,指導者による選手の動感を把握する能力. ある。この言葉は,金子(2 ̄p・24)が現象学の祖フッ. とは,選手の持ち合わせている身体知としてのく動. サールの「キネステーゼ」(Kinasthese)の概念. ける感じ〉 を把握する能力であるといえる。. を援用し,日本語に置き換えた語である。 キネステーゼとは,フッサールが運動を意味す. パサーがパスをするとき,パサー自身の動感と 味方選手の動感,さらに対戦相手の動感を理解し,. るキネーシス(kinesis)と感覚を意味するアイ. パスという判断に至っているため,その動感把握. ステーシス(aisthesis)を合成したドイツ語であ. に誤り,もしくは動感を把握しきれない点があっ. る。キネステーゼは直訳すると「運動感覚」とな. たとき,指導者が選手にそのことを指摘しなけれ. るが,心理・生理学的な運動感覚から区別するた. ばならない。そのため,指導者は選手よりも厳密. めに,フッサールはキネステーゼ(動感)という. な動感把握により,パスをする選手やパスを受け. 言葉を用いたのである。. る選手,パスを妨害する選手といった,パスに関. ラントグレーベ(4 ̄p・188)は,キネステーゼにつ. わる全ての選手の動感を把握する必要がある。そ. いて,「感覚であると同時に,感覚を引き起こす. して,なぜ成功すると思ったパスがミスとなった. 運動の意識,つまり,われわれによって発動され. のかを選手に動感論的視点から説明し,理解させ. たわれわれの運動である運動の意識」であると述. ることが重要である。それは言い換えれば,指導. べて運動と感覚における意識の意義を強調してい. 者が,「選手自身による,パスミスに至った動感. る。つまり,ここでいう運動とは,まさに今動い. 把握」と「指導者による,情況の意味を捉えた動. ている自分自身の運動を表しており,この運動と. 感把握」の相違を明瞭に選手に理解させることで. 感覚(知覚)の関係は,隔たりを有しているもの. あるともいえる。よって指導者は選手がその時そ. ではなく,運動している時には感覚し,感覚して. の場でどのような動感把握によって「パスが通る」. いる時には運動をしているというように,常に同. という判断をしたのかを動きの観察から解釈でき. 時性を持つ意識であり,ヴアイツゼッカー(5)の. るだけの資質を備えていることが要求される。. 意味での「ゲシュタルトクライス理論」が示すも. のであるといえる。 ここで対象となる身体について,金子(2 ̄p・2)は 「今ここに息づいて動きつつ感じ,感じつつ動け. また,指導者は選手がパスミスをした際のプレ イの意図や,その選手が持ち合わせる技術や身体 的特徴を把握できずに,選手に対し指導者の私的 な動感意識をもとにパスミスに対する指導をして.

(5) 中瀬 雄三・佐藤. 徹. しまうことがある。この場合,選手は自らの動感. 限の自由度をもつ動感運動の世界」であるため,. と適合しない指導者の動感を受け取ることとな. 指導者が情況の意味を読み解くためには,パスに. る。それによって,選手にとっては く動けない動. 関わる全ての選手の動感を把握する必要がある。. き〉 の遂行を求められることとなり,さらなるパ. そして,選手間の動感志向性の関係構造のなかに. スミスへと繋がることが危惧される。したがって,. 情況の本質的意味を見出すことができる。そのよ. 指導者は選手に対し,指導者自らの私的な動感意. うな選手間の動感における関係性は,自然科学的. 識のみにもとづいた指摘をするのではなく,パス. な立場から定量的に分析することはできない領域. ミスをした選手の動感世界に潜り込むような動感. である。. 分析を通して,選手に適合した動感呈示をするこ 3.先読み統覚化能力としての情況判断力. とが重要である。. 選手はパスをするとき,常に変化しつつある情. 2.パスミスに対する指導者の情況分析. 況を読み解き,パスを出す瞬間を即興的に判断す. 指導者がパスミス指導をする際の分析対象とな. る。その選手の情況判断力を,発生運動学では「先. る「情況」とは,オフェンス選手とディフェンス. 読み統覚化能力」としている。先読み統覚化能力. 選手それぞれが刻々と変化する互いの意図や動. とは,金子(3 ̄p・47)が言うように,「これから生起. 感,空間的位置関係を把握していくなかで生まれ. する私の運動,つまり,私の身体それ自身がどの. る,選手一人一人の動感と動感との関係性である. ように動くのか,私がどのように周界情況に関. といえる。ポイテンデイク(1 ̄p・26). わって動くのかを先読みできるカン身体知注1)の. は,「世界の構. 造化されている部分の意味内容との関わりのなか. 一つ」である。さらに,「これから起こるであろ. ではじめて現れてくる」その関係こそが情況と定. う未来の動感形態の自我中心化的意味構造や情況. 義している。. 投射化的意味構造が同時に読み切れる身体. そういった選手の動感志向性が投射化される情 況は,金子(3 ̄p・26)が指摘してい. るように,定量. 知」(3 ̄p・47)が意味されている。つまり,選手自身 が移ろいやすい周界情況の意味構造を読み解き,. 分析的に解明されるものではない。たとえば,指. 選手自身の情況との様々な関わり方のなかから,. 導者がパスミスの発生原因を選手の位置関係だと. 決定的な唯一の動感図式を選び出し,即興的に実. 見定め,選手の図形的な位置変化を情況から絶縁. 行に移すということである。. 的に抜き出して定量的に分析してしまうと,選手 の動感が分析対象からすべて排除されてしまう。. ゲーム中,パスをする選手が情況を判断する時. このような情況を瞬時に判断し行動に移せる能. 力を鍛えることの重要性は従前から指摘されてい たにも拘わらず,未だに「信号の受信と反応」的. には単純な位置関係だけではなく,相手や味方選. なドリル練習を反復的に訓練するしかないという. 手の意図,技術,身体的特徴を基とした動感を把. 考え方は珍しくない。言い換えれば,あらゆる相. 握している。パスをした選手が,自分自身の動感. 手チームの行動パターンを頭ないし体に叩き込. やパスを受ける選手の動感,さらに対戦相手の動. み,いかに反応速度を上げることができるか,い. 感といった,パスに関わる全ての選手の動感を把. かに多くの行動パターンを体に覚えこませること. 握できない,もしくは情況の意味を掴めなければ,. ができるか,という機械論的な考え方であると言. そのパスは結果としてパスミスとなる。そこで,. える。つまりこの場合,情況判断を画一的なもの. 指導者は選手が把握しきれなかった選手の動感を. として捉えた練習法を徹底的に行えば,あらゆる. 含めた情況の意味を理解させることが重要であ. 情況に即興的に対応できる選手を育てることがで. る。. きると即断しているのである。. 金子(3 ̄p・27)が述べているように,情況は「無. しかし,金子(3 ̄p・51)が指摘しているように,.

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(7) 中瀬 雄三・佐藤. 徹. はパスに対して警戒せず,パスカットを狙う意図. (1)ディフェンスのプレッシャーによるパスミス. がない。また,ディフェンスyはレシーバーbに. ディフェンスのプレッシャーによるパスミスと は,ボールを持った選手が,ディフェンス選手に. より背中で押さえられており,パスカットをする. 間合いを詰められ,パスコースを妨害されること. ことができない状態であるため,パサーaはディ. により周界情況を把握できない状態でパスを放っ. フェンスとの駆け引きを要することなくレシー. た結果,パスミスとなってしまう情況である。例. バーbにパスをすることができる。. を挙げると,ボール保持者がドリブルをしていた が,ディフェンスにドリブル行為を妨害されドリ ブルを止め,それ以上ドリブルをすることができ ない場合,止まった選手は,ディフェンスに間合 いを詰められ,パスコースを防がれ,情況を把握 できずにボールを放り,パスミスとなる。もう一. つの例では,ライン際でボールを持った選手が二 人のディフェンスに囲み込まれ,ドリブルをする ことができない,また,パスを受けることが可能. な選手を探すこともできない状態でボールを放 図2−1 パス技能を必要としないパスの例. り,パスミスとなる。. このような情況でパスミスとなったとき,選手 はディフェンスのプレッシャーにより情況判断が. それに対し図2−2では,パサーaからレシー. できる状態ではないが,「目の前のディフェンス. バーbへのパスコースにディフェンスⅩが位置. にボールを奪われるより,ボールを放り投げたと. し,パス行為を妨害している情況である。ここで. き味方選手にボールが渡る可能性がある」という. は,パサーaのパスを出す意図がディフェンスⅩ. 意図でパスを出したならば,指導者がその意図と. の動感把握により探られてしまえば,パサーaが. 情況を把握できずに,選手に情況把握を促したと. パスを出してもディフェンスⅩの妨害プレーによ. しても,情況判断力の育成にはつながらないと考. りボールはカットされてしまう。そこで,パサー. えられる。. aはディフェンスⅩがパスをカットする意図があ. したがって,「ディフェンスのプレッシャーに. ることを読み解き,どのようなパス技術を選択す. よるパスミス」は本研究の目的である情況判断力. ればパスカットされずにパスを通すことができる. の向上についての分析対象からは除外した。. (2)適用可能なパス技能の不足によるパスミス. 適用可能なパス技能の不足によるパスミスと は,ボール保持者がパスを出すときディフェンス が妨害しようとする動感は把握できているが,そ の情況に最も適合した動き方を持ち合わせていな い,つまり,ある情況に対して適用可能なパス技. 能を習得していないため,パスミスとなってしま う情況である。. 図2−1のように,パサーaがレシーバー 対しパスをHすとき,パサーaのディフェンスⅩ. bに. 図2−2 適用可能なパス技能の不足に よるパスミス.

(8) ボールゲームにおける情況判断力の動感分析. のかをディフェンスの動感把握をもとに,パス技. る。そのため,選手の情況判断力を向上させるた. 術を選択判断できなければパスを出すことはでき. めに,指導者に求められることは,選手が味方選. ない。. 手や相手選手の動感把握が適正であるのか判定す. しかし,パサーaがディフェンスⅩの妨害行為. ることである。また,選手間の動感の関係性から. を動感として把握できていたとしても,その時そ. 読み解くべき情況の意味を,ミスをした選手が把. の場の情況において最善な技術(動き方)を持ち. 握できていたか否かを選手の動きの観察から見抜. 合わせていないのであれば,パスが成功すること. けることが重要となる。さらに,指導者はこの動. はない。. 感および情況の意味把握に基づいて,ミスとなっ. したがって,「適用可能なパス技能の不足によ るパスミス」は,情況に適応し得るパス技能を習 得していないため,パスミスとなった情況と定義. た原因を選手に理解させ,適切な動きに導いてい くことが必要である。. したがって,本研究では「情況判断の欠陥によ るパスミス」を分析対象とし,動感論的視点から. した。. このような情況でパスミスとなった場合,パ. パスに関わる選手らの動感分析と,選手間の動感. サーがディフェンスの動感を把握できていないた. の関係性から見出せる情況の意味について分類す. めにパスミスとなったのか,あるいはディフェン. る。. スの動感は把握できているがパス技能が不足して いるためにパスミスとなったのかを指導者は分析 できなければならない。それは,パス技能が不足. している選手に対し,より厳密なディフェンスの. 2.情況判断の欠陥によるパスミスの分類 (1)レシーバーとの意図の違い レシーバーとの意図の違いにより起こるパスミ. 動感把握を促し,それによって選手はどのような. スは,ボール保持者がパスを出すときに,レシー. パス技術を選択すれば良いかを知識として理解で. バーがパスを受けようとする意図を持っていない. きていたとしても,実際に選手の身体は周界情況. ことを把握できなかったためパスミスとなる情況. に合わせて動けないままなのであり,パスミスの. である。このような情況をゲームから抽出した映. 改善にはつながらないためである。そのため,「適. 像を基に,パスを出す選手の動感と,パスを受け. 用可能なパス技能の不足によるパスミス」は本研. 取る選手の動感という二つの視点から情況を事例. 究の目的である情況判断力の向上についての分析. 的に説明する。. 対象からは除外した。 く事例1〉. ① パサーaの動感分析. (3)情況判断の欠陥によるパスミス. 情況判断の欠陥によるパスミスとは,パサーが. 図3−1では,パサーaがレシーバー. bにパス. ディフェンスによるプレッシャーをかけられてお. を出そうとしているとき,ディフェンスⅩはパ. らず,パスを狙うことができる情況にも拘わらず. サーaによるドライブ注2)行為を警戒しているた. 結果としてミスとなってしまった場合である。. めパサーから少し離れた場所に位置している。. 情況判断の欠陥によるパスミスでは,パスを出. よって,パサーaは周囲の情況を把握しやすい状. す選手が,自分自身の動感,パスを受け取る味方. 態である。また,ディフェンスyはパサーaから. 選手の動感,および対戦相手の動感との関係の意. レシーバーbにパスが入らないようにするため,. 味を掴むことができないとい. パサーaとレシーバーbとのパスコースの間に手. うことが主な原因と. なる。パスを出した選手は結果としてはパスミス. をかざしているが,パサーaを見ながらパスを出. となっても,その時その場の情況を選手自身の動. すタイミングを窺っている様子ではない。このよ. 感把握能力により「パスができる」と判断してい. うな情況を,パサーaは把握していた。.

(9) 中瀬 雄三・佐藤. 図3−1 パサーaによるプレイの意図. 徹. 図3−2 選手bのプレイの意図. したがって,パサーaは自らの攻撃行為を妨害 するディフェンスⅩがパス行為に対して警戒して いないことと,パスを受け取る選手bのレシーブ 行為を妨害するディフェンスyはパスコースに手 をかざしてはいるが,パスをするであろうという 予測ができていないことからパスを出せると判断 したが,レシーバーbの動感は把握していなかっ た。. ② レシーバーbの動感分析. 図3−3 レシーバーとの意図の違いによるパスミス. レシーバーbは,レシーブ行為を妨害するディ. フェンスyが自分自身とパサーaとの間に手をか. スを経由してほしい」という意図を把握せずにパ. ざしているため,パスが出ればディフェンスyに. スを出したため,レシーバーbはパサーaからの. カットされることを予測した。そこでレシーバー. パスを受ける準備をしておらず,パスをキャッチ. bは,パサーaからパスを受けるのではなく,味. しきれずにディフェンスyによってボールを奪わ. 方選手Cにパスを経由し,経由した選手Cから自. れてしまった(図3−3)。. 身にパスを出せば,パスを受けることができると. このように,パサーとレシーバーの間に意図の. 考えた。そこで,レシーバーbはパサーaに対し. 相違がある状態でパスをした場合,パスミスにつ. て,一旦パスを味方選手Cに経由してほしいとい. ながる可能性は高い。上記の例において,パサー. うアピールを目的に,味方選手Cを指で指し示し. aはレシーバーbの「パスを一皮味方選手Cに経. ていた。図3−2はレシーバーbのパス経由の意. 由してほしい」という意図を把握せずにパスをし. 図を示した図である。. てしまったためにパスミスとなってしまった。. ③ パサーとレシーバーとの意図の相違. (2)ディフェンスの意図を把握する能力の欠陥. パサーaはパスプレイを直接妨害するディフェ. ディフェンスの意図を把握する能力の欠陥と. ンスⅩ,yの動感のみを把握し,パスがカットさ. は,ボール保持者がレシーバーの周囲にいるディ. れることはないと判断しパスを出した。その結果,. フェンスがパスカットを狙っているのか,そして. ディフェンスⅩやyにパスカットされることはな. パスをカットできる状態であるかを動感として把. かったが,レシーバーbの「味方選手Cに一度パ. 握できずにパスをHすため,パスミスとなる情況.

(10) ボールゲームにおける情況判断力の動感分析. である。このような情況をゲームから抽出した映 像を基に,パスを出す選手の動感と,パスプレイ. を市接妨害するディフェンス選手の動感という二 つの視点から事例的に説明する。. く事例2〉. ① パサーaの動感分析 パサーaはレシーバーbがゴール近くでボール. を受け取る準備をしていることを確認する(図4 −1)。レシーバーbのレシーブ行為を妨害する ディフェンスyは,レシーバーbにより背中で押. 図4−2 ディフェンスZによるパス行為予測 と対応行動. さえられているため,パスをカット出来る状態で はない。さらに,パサーaは,自身の攻撃行為を. ③ 周囲ディフェンスの意図把握の重要性. 妨害するディフェンスⅩが姿勢を低く保ちパサー. パサーaは,ディフェンスZのパスをカットす. aによるドリブルを警戒し,パスカットの意図が. る意図を把握できなかったためにパスを出し,結. なかったため,オーバーヘッドパス(頭上から両. 果的にパスミスとなってしまった(図4−3)。. 手で放るパス)を出そうと考えた。そして,パサー. aはレシーバーbを狙いながら両手でボールを持 ち上げ,オーバーヘッドパスの構えをとった。. 図4−3 ディフェンスの意図を把握する能力 の欠陥によるパスミス. 図4−1 パサーaによるパスの意図. このように,パサーは,ディフェンスのパス妨. 害行為や,レシーバーの行為を妨害するディフェ ② ディフェンスZの動感視点 オフェンス選手Cのレシーブ行為を妨害するは. ンスの意図のみならず,パサーとレシーバー以外 の攻撃行為を妨害するディフェンスの意図を把握. ずのディフェンスZは,パサーaがオーバーヘッ. することができる総合的な情況判断力がなけれ. ドパスの構えからレシーバーbに対しパスを狙っ. ば,パスプレイは成立しないと考えられる。. ていることを推測した。そのため,ディフェンス. Zはパサーaのパス行為の軌道やパスの速度を予 測した上で,パスカットを狙えるように,①から 矢印方向②へ移動した(図4−2)。. (3)動感を把握する能力の欠陥. 動感を把握する能力の欠陥は,「自己の動感を 把握する能力の欠陥」と「レシーバーの動感を把 握する能力の欠陥」に分類した。.

(11) 中瀬 雄三・佐藤. ① 自己の動感を把握する能力の欠陥. 自己動感把握能力の欠陥では,パサーが自らの. 徹. ② レシーバーの動感を把握する能力の欠陥 レシーバーの動感を把握する能力の欠陥とは,. パスが届く距離やパススピードを動感的に把擬す. ボール保持者がレシーバーのボールに飛びつく反. ることができずにパスを出してしまったため,パ. 応のスピードを含めた,パスキャッチが可能であ. スミスとなってしまう情況である。. る範囲を動感的に把握することができずにパスを. 出したため,パスミスとなる情況である。 く事例3〉. i)パサーaの動感分析. 図5−1のように,パサーaが攻めるべきゴー ルとは反対側のゴール近くに位置しており,味方. く事例4〉. i)ボール保持者aの動感分析 ボール保持者aが,ドリブルをしながら目の前. 選手bが攻めるべきゴールの近くでパスを要求し. のディフェンスⅩを抜き去り,ゴール方向へ向か. ていることを確認する。味方選手bの周囲には. い始めた(図6−1)。そこで,レシーバーbの. ディフェンスがおらず,ディフェンスⅩにパス. レシーブ行為を妨害するディフェンスyはボール. がカットされる情況ではないことを把握する。. 保持者がゴール方向へ向かうことを警戒する状態 となる。そこで,レシーバーbは,自身のレシー ブ行為を妨害するディフェンスyの背後からゴー ル方向へ走り出した。ディフェンスyはレシー バーbが走り出したことに気づいていない。. 図5−1:パサーaのパスイメージ 図5−2:自己動感把握能力の欠陥によるパスミス. そこで,パサーaは味方選手bにパスをするが,. 図6−1 選手aのドリブルによる周囲選手の 対応行動. 図5−2のようにパスが味方選手bに届かない, もしくはパススピードが遅いため,ディフェンス. ディフェンスyはレシーバーbが走り出したこ. Ⅹがパスに追いついてしまいカットされ,結果的. とに気づいていないことから,ボール保持者aは. にミスとなってしまうという情況である。. レシーバーbがボールをもらえる状態であること. このような情況において,パサーは味方選手が. を把握したため,ゴール方向に走るレシーバー. ゴール近くでパスを受ける準備ができているとい. に対しパスを出した(図6−2)。ところが,ボー. う情況を把握してパスを出している。しかしなが. ル保持者aはレシーバーbのボールをキャッチで. ら,パサーは自身のパスが届く距離,パスのスピー. きる範囲としての動感を把握することができな. ドという動感を把握できていないためにパスミス. かったため,レシーバーbにとってはキャッチが. となってしまう。. 不可能な箇所へパスをHしてしまい,パスミスと. 10. b.

(12) ボールゲームにおける情況判断力の動感分析. レイへの意図が常に変化しつつある情況に直面し. なってしまった。. このように,パサーがレシーバー. のキャッチカ. や走る早さ,ボールに対する反応速度を動感とし て把握できずにパスを出した場合,結果としてパ スミスとなることが予想される。. たとき,情況に最も適した最善の動き方を即座に 選択判断していくことは難しいのである。 また,選手の戦術力の要素であるカンは,ひた. すら実戦的な場で反復練習をすることでしか身に 付けることができないとい. う考え方が,指導実践. の場では未だに珍しくない。このため,実践現場. の間では選手の情況判断という身体知発生につい ての重要性が認識され,カン身体知の発生目的論 的構造分析は急を要するものであるといえる。. パスミス指導において難しい点は,一回性を本 質とする人間の運動において二度と同じ情況が現 れることはないため,パスミスの種類は非常に多 様であり,直接的な原因を探り出すことは困難だ という点である。 図6−2 レシーバーの動感を把握する能力の 欠陥によるパスミス. また,パスミスは相手選手の妨害行為や味方選 手同士の意図の違いなどによって現れた結果であ り,パスそのものはパサーが自らの情況判断に基. Ⅶ.まとめ−実践的な指導場面に向けて−. づいて決断した行為である。結果としてパスミス になったとき,パサーがミスとなった原因を理解. ボールゲームでは,千変万化する周界情況の意. できているか否かを指導者は見抜かなければなら. 味構造を読み解き,その情況に最も適した最善の. ない。したがって,指導者は単純な結果の適否に. 動き方を即座に選択判断していくことが要求され. 対する指導をしただけでは,選手にとって固定的. る。そのような選手の即興的な判断が必要とされ. に設定された場面に対する理解に留まってしま. る場面において,いくら指導者による指示が情況. う。そのような指導により,その固定的な場面だ. を的確に把握できている内容であっても,コート. けで正しい判断が可能となっても,選手の位置が. の外からパスをするべき方向やタイミングについ. 少しでも変化すれば,情況の意味は同じであった. て逐一指示を出し,選手の情況判断過程に直接的. としても,同じミスを繰り返してしまうことが危. に介入することにより情況判断力を養うことは難. 供される。. しい。何故なら,指示通り動いた選手は,味方選. パスミスをした選手が,そのときの情況の意味. 手や相手選手一人一人の動感を把握し,情況を判. を的確に把握できていたか否かを的確に判定でき. 断しているのではなく,指導者の指示に対する反. る一義的基準があるわけではないため,指導者に. 応になってしまっているからである。その結果,. は選手の動感志向性を読み取る感性の研鐙が求め. 選手の動感意識はいかに指導者の指示に対し機敏. られる。さらに,指導者は選手になぜパスミスと. に反応をすることができるか,ということに向け. なったのかについて説明し,戦術的意味を理解さ. られてしまう。本来把握するべき周囲選手の動感. せる必要がある。それによって選手は,一回ごと. や雑多な情況のなかに見出すことのできる情況の. に異なる情況の中にある戦術的構造を理解し,戦. 意味は,選手にとって情況判断に必要な材料とし. 術力を獲得することができる。それは雑多な情報. て捉えられなくなってしまい,そのような選手が. が入り混じる複雑な情況のなかにひとつの意味を. 対戦相手の先読みによる妨害行為や味方選手のプ. 見川すことができる能力であり,様々な情況に応. 11.

(13) 中瀬 雄三・佐藤. じて最善の動きを選択判断できる情況判断能力で ある。その指導のために指導者は,戦術的知識と. 並んで選手の志向性を適切に把握できる動感分析 能力と,動感を含めた情況を読み解き選手に戦術. 徹 けるパスについての一考察.日本体育学会大会号 第34. 号 7)山根成之(1998)バスケットボールにおけるパスの 判断能力に関する実践的研究.鳥取大学教育学部研究 報告.教育科学 40(1). 的構造を理解させる促発能力を備えることが不可 欠である。. (中瀬 雄三 札幌・岩見沢校大学院生). 本研究では,パスミス時の情況とパスに関わる 選手の動感分析により,パスミスを情況の意味別 に分類することだけに留まっているため,実際の 指導場面での選手の情況判断力の向上における指 導の一部分のみの検討となっている。そこで,今. 後は分類されたパスミスをもとに,情況判断力向 上を目的にした練習法の創案と実践により,情況 判断のカン身体知発生構造を明らかにしていくこ とが課題である。. 「注」. 1)カン身体知(情況投射化的身体知)について,金 子(3▼p・25)は「私の身体とそれを取り巻く動感志向の情. 況との関わりのなかで,動きかたを選び,決断して実 行に移せる身体知」であると述べている。つまり,運. 動着白身が白らの身体能力や技術・技能を含めた動感 を,判断を行うための土台としながら,常に変化しつ. つある周囲の情況に合わせて最適な動きかたを選択判 断する能力であるといえる。 2)ドライブとは,ボール保持者がディフェンスをスピー ドをつけてドリブルをしながら抜き去り,ゴール方向. に鋭角に切れ込んでいくプレイである。ドライブプレ イにおける本来の目的はボール保持者がシュートを決 めることであるが,ドライブ中に周囲の情況に合わせ. て味方選手にパスを出すことも多々ある。. 参考文献 1)ポイテンデイク:浜中淑彦訳(1970)人間と動物.. みすず書房 2)金子明友(2005)身体知の形成(上).明和出版 3)金子明友(2005)身体知の形成(下).明和出版 4)ラントグレーベ:山崎・甲斐・高橋訳(1980)現象 学の道.木鐸社 5)ヴァイツゼッカー:木村敏・浜中淑彦訳(1975)ゲ シュタルトクライス.みすず書房. 6)山中博史,小森正巳(1983)バスケットボールにお. 12. (佐藤 徹 岩見沢校教授).

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