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空間理解を容易にする立体教具を活用した授業案の検討 : 中等理科教育法Ⅲ 授業実践報告

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Academic year: 2021

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Ⅰ.はじめに

理科や数学などの教科では、空間的な配置や変位・形状を正しく認識することが、中等 教育段階に限らず学習内容の要点となることがある。理科に限ってみても、天体の運動と 天球上の位置や見かけの形状、生物・植物分野での葉序、有機化合物の立体構造と異性体 など、多くの分野にわたる。その一方、これらを授業で扱う際、教室での主要な教具は、 依然、二次元のメディアすなわち教科書等の図、黒板、プロジェクター等で写出された画 像や動画である。大きなスクリーンに映し出された動画は、古典的な図や写真に比べ、生 徒の内容理解をはるかに容易にしているが、迫力や臨場感には限界があり、空間認識や想 像力が乏しい生徒には、要点となる空間の現象が容易に把握できないこともある1 − 3 ) 教科指導において、空間的な配置や変位・形状が要点となるとき、立体教具を活用する ことが効果的である。対象によっては実物を教室に持ち込むことが困難である場合もある が、サイズの変更や要点のみを残し他を捨象した模型を用いることでも生徒への訴求は上 がることが容易に想像される。 空間的な認識を容易にするための教具の工夫については様々な分野で報告がある4 )。特 に中等教育での授業を構成するとき、授業者は立体教具の有効性を認識し、労を厭わずに 準備する姿勢を身につけるべきである。 以上を念頭に、筆者は2015・2016年度の中等理科教育法Ⅲで、中学 2 年理科 1 分野で学 習する「モーターが回り続けるしくみ」を題材に 2 週にわたる授業を行った。これについ

空間理解を容易にする立体教具を活用した授業案の検討

─中等理科教育法Ⅲ 授業実践報告─

高 杉   強

概要  生徒の立体的・空間的な配置等の正しい認識を促すには、立体教具を活用することが効 果的である。理科教員志望の学生に模擬授業を計画・実施させることにより、これを主体 的に意識させ、併せて教育実践例を紹介し、より充実した授業案作成の一助となるよう 行った授業について報告する。 キーワード:理科教育、中学生、空間認識、電磁気

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て報告する。

Ⅱ.ねらい

授業案を作成させ模擬授業を行い、相互に観覧し評価することで、空間理解の困難さ、 立体教具の効果を認識させる。また手作り教具の製作や既製品の活用を厭わない姿勢を持 つことで、教案作成ならびに授業実践のスキルを上げさせる。

Ⅲ.課題の提示

中学校 2 年の理科教科書5 )の一部(図 1 に示すもの p.213のほか、p.206コイルのまわ りの磁界、p.210電流が磁界から受ける力、p.210モーターを分解したようす、p.212フレミ ングの左手の法則、p.214作ってみよう モーター)のコピーを参考資料として各学生に 配布した。フレミングの左手の法則までを学習済みという前提で、モーターが回り続ける しくみを説明する(掲出した図 1 の内容を説明する)授業の一部の授業案を作り、10分〜

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15分の部分的な模擬授業を行う。課題を提示した講義時間の後半と模擬授業実施までの 1 週間を準備にあてることとした。

Ⅳ.想定される説明(授業)の大まかな流れと留意点

この課題について、学生達が作成してくるだろうと筆者が想定していた授業の概要は次 の①〜④であった。 ①電流が磁界から受ける力の向きの関係(フレミングの左手の法則)の確認。 ②モーターのしくみを生徒に問いかけ、教科書掲載の写真・図などで構成部品(磁石、 コイル、回転軸と回転子、整流子とブラシ、通電端子など)や配置・構造を確認。 ③通電時にモーター内で導線(電流)が受ける力の向きと、生じる運動のようすを確認 し、軸のまわりに回転運動を生じることを提示。 ④1/4回転・1/2回転したときに生じる “問題点” と解決方法・装置の工夫を解説。 さらに、これらの説明を進めていくうえで、特に注意を払うべきと思われた点は、次の a〜fの 6 点であった。 a.磁界・電流・力の空間的な配置と向きが、装置のどこでどのようになるかを明確に 伝える。 b.コイル(回転子)に、軸のまわりの “回転” 運動が生じることを示す。 c.位置の変化すなわち回転の度合い(1/4回転・1/2回転)を明確に伝える。 d.1/4回転(90°)で、力は回転子を回転させる向きにならなくなるが、回転が継続する。 e.1/2回転(180°)では、動き出しと逆の向きに力をうける。 f.整流子とブラシによって、1/2回転ごとに電流の向きが逆転し、回転子の同一方向 の回転運動が継続する。 この過程を通して、生徒の容易な理解を促すのには立体教具を製作・活用するのがよい ことを、学生達が自発的に思いつくことを期待した。

Ⅴ.学校現場での実践の状況

中学校等の授業では、教員は自作教具や既製品を用いたり、簡略な器具でイメージを 作ってから 2 次元の図・画像に落とし込んで説明したり、既成動画を活用している6 )。筆 者は図 2 、 3 のように自作教具を用いている。

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Ⅵ.学生による模擬授業のようすと評価

模擬授業を行った学生(15年度 3 名、16年度 3 名)らは、おおむね上記①〜④の流れに 沿って模擬授業を展開した。各授業の特徴と講評は以下の通りである。 ○15年度学生A(以下、「15A」のように略記する) この学生は絵画的・図的表現力が高く、図 4 のように回転子の各位相の図を拡大して描 いた図をホワイトボードに掲出するだけでなく、適時必要と思われる図を、多少ラフであ るが瞬時に描き出すことができた。 評 適切な図をその場で描けることは、これらの授業を行う際大きな武器となる。肉筆の 描画が不得意な者も図学等の訓練を受け、ある程度の技術は獲得しておくべきであ る。しかし、教科書とほぼ等価な図ならば、プロジェクター等で写出すればよく、理 解を促す効果を上げているとは言い難い。 ○15B この学生は、課題の意図をよく理解し、コイルおよび回転子に相当する部分の立体可動 模型を身近な素材で自作した(図 5 )。部分や向きの指示の仕方に多少慣れが必要なとこ ろはあるが、簡潔に課題の内容を説明することができた。 評 回転子の模型を、回転粘着式クリーナーの機構を活用して製作することによって、 “回転” 的な運動をするものであるという認識を生徒に無意識に惹起させる(広い 意味でのアフォーダンス)点が教具として優れている。中高の授業ですぐに活用でき るアイデアである。 16年度の講義では、課題提示時に「教科書の平面的な図だけでは理解しにくい生徒が、 どのような集団にもある程度存在する。」旨述べたので、模擬授業を行った 3 名とも、自 作の立体教具を用意してきた。 図 2 .教具(モーター模型) 図 3 .教具(回転子 整流子 ブラシ)

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○16C 簡易モーターを自作し、卓上小型カメラでスクリーン上に実際に動く様子を映写した。 評 この学生は、課題を提示された際に、「このようなしくみを用いることで継続した回 転運動が得られるのを生徒に示すこと」が要点であると、なかば頑なに思い込んでし 図 4 .学生15A 板書 図 5 .学生15B 教具(回転子) 図 6 .学生16C 投影された簡易モーター

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まったようで、しくみを理解するためには空間的にとらえることが重要で、これを促 すにはどうすべきかという本題を掴みきれていなかった。説明も冗長で焦点が定まら ず、努力が十分に結果に反映されなかったのが残念であった。他の発表者の授業を見 ている間に、本人もそのことに気付いた。 ○16D 立体教具としては、回転子(コイル)部分のみを持ち込み、ホワイトボード上の図と組 み合わせて(図 7 )説明した。 評 よく練られ簡潔で適切な説明内容であったが、教具の色遣い(ホワイトボードをバッ クに白色主体の部材で作られた模型)など初歩的な部分で改善すべき点もあった。 ○16E 磁石・回転子・整流子などの立体模型を厚紙等で製作した。 評 図 8 のように、電流や力の向きを模型中に矢印で示す工夫もあり、説明も簡潔で適切 図 7 .学生16D 板書と教具

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であったが、立体教具のスケールや強度など部材の選び方に難があり、工夫が十分に 機能しなかったのが残念であった。

Ⅶ.学生の感想・評価

16年度の学生には、授業後に、 ①この授業のねらいは何であったか。 ②この授業により、何を学習したか。 を質問紙に記入させた。大半の学生は、当初のねらいに沿って学習できたことが読み取れ る記述であったが、何名かは、捉え方が大掴みで焦点が絞れず、ねらいを見失っているも のもあった。いくつかを以下に示す。 ○16F ①生徒にモーター独自の回り方を指導できるように。理解できる説明を行うため。 ②この模擬授業の時に、生徒にどのようにして、モーターが回る仕組みを理解してもらう か。考えたときに、真っ先に思い付いたのが、モーターの模型を作ることでした。  しかしモーターの模型を作ったものはいいもの、(原文のママ)これで生徒が理解できるの か? と思いました。  他の回る仕組みとは違い、モーター独自の回り方を教えるためには、模型を作るだけで はなく、作成した後の工夫が大切なんだと、この、模擬授業を通して、学びました。  高杉先生が、モーターが回り続ける仕組み模型を見して(原文のママ)頂いた時、手型の、 左手の法則をよりわかりやすく、興味がわく模型を見していただき、工夫というのは、 細かい部分までめんどうくさがらず、生徒により、面白く、興味を引けるものを作成 し、教えること。だと思いました。 ○16G ①モーターが回り続ける仕組を説明するための教具の開発。 ②モーターが回り続けるわけには、 “整流子” が大きくかかわってくる。その整流子の はたらきや仕組みの説明の仕方を通して、言葉の選び方の重要性と、視覚から受けるも のの重要性を学んだ。  言葉の選び方の重要性としては、「90°回転した」「1/4回転した」などの量や数値を表す とき、どう表現したら良いのか、また説明中の言葉は、本当に中高生にわかるような言 葉になっているか、などといったことだ。授業は主に教員が生徒に説明として話をする ことが多い。言葉の選び方によっては、授業の理解度が大きく変わるということを実感 することができた。  moodleにもコメントがあったが、表現に迷ったら、 2 つ 3 つちがった表現をならべる

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というのは生徒にとっても有効であると考える。視覚から受けるものの重要性として は、今回は教具の開発にあった。せっかく良い物をつくっても小さくて見にくくては、 逆に生徒の集中を切らしてしまうだろう。  いかに分かりやすく説明をし、集中を切れさせないか、というを(原文のママ)今回の授 業で学ぶことができた。

Ⅷ.おわりに

生徒の空間に対する認識の困難さや、立体教具を活用(既製品や手作り教具の製作・利 用)することの有効性、またそれらの準備を厭わない姿勢を持つべきである─という当初 のねらいは、多くの学生に比較的容易に理解・共感されたように思える。 一方で、模擬授業として実践させたためか、準備段階ではこの課題の要点(空間認識と 立体教具の活用)まで思いが及ばず、授業を行う上でのごく一般的な注意点すなわち、簡 潔で誤解のない表現(声の大きさ・滑舌、言葉遣い、板書の文字の大きさ、教具の大きさ や色遣いなど)をすることに、終始してしまった者もあった。 教職課程の学生には、学習単元の要点が何なのか、どこにあるかに素早く気づくよう洞 察力を深め、アイデアを活かした授業案を構成できるようになってもらいたい。授業後の 講評で、これらを指摘・示唆した。 1 )立花正男ら「空間概念を育成する指導(Ⅱ)」『岩手大学教育学部付属教育実践総合センター研究 紀要』第15号、89−99、2016。 2 )瀬戸崎典夫,森田裕介,藤木卓(2006)「ものづくりに関する技能における空間認識力の検討」 『日本科学教育学会年会論文集』30,177−178。 3 )松森ら(1983)「児童・生徒の空間認識に関する考察(Ⅱ)」『日本理科教育学研究紀要』,22:61 −71。 4 )たとえば、森厚「電磁気学を立体的に理解するための教材開発」桜美林大学『教職研究』創刊号、 25−30。 5 )『理科の世界 2 年』213 大日本図書。 6 )「横浜物理サークル 例会速報」。http://www2.hamajima.co.jp/~tenjin/ypc/ypc177.htm

参照

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