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脳卒中発症後6 ヵ月経過し歩行に全介助を要した状態から長下肢装具を用いた歩行練習を実施し監視歩行を獲得した重度片麻痺を呈した症例

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Academic year: 2021

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(1)理学療法学 第 45 巻第 3 号 183長下肢装具を用いた歩行練習にて歩行可能となった慢性期片麻痺例 ∼ 189 頁(2018 年). 183. 症例報告. 脳卒中発症後 6 ヵ月経過し歩行に全介助を要した状態から 長下肢装具を用いた歩行練習を実施し監視歩行を獲得した 重度片麻痺を呈した症例* 門 脇   敬 1) 阿 部 浩 明 2)# 辻 本 直 秀 2). 要旨 【目的】発症後 6 ヵ月経過した時点で歩行が全介助であった重度片麻痺者に対し,長下肢装具を用いて積極 的な歩行練習を実施したところ,屋内監視歩行を獲得したため報告する。 【対象】脳出血発症から 6 ヵ月が 経過したものの歩行に全介助を要する重度左片麻痺と高次脳機能障害および視野障害を呈した 50 歳代の女 性である。 【方法】当院転院後,足部に可動性を有す長下肢装具(以下,KAFO)を用いて行う前型歩行練 習を中心とした理学療法を実施した。 【結果】麻痺側下肢筋力の一部は改善し,380 病日に四脚杖と短下肢 装具を使用して屋内監視歩行が可能となった。 【結論】重度片麻痺例に対して KAFO を用いた前型歩行練 習は,下肢の支持性を向上させ,より高い歩行能力を獲得することに貢献できる可能性がある。発症から 長期間経過した症例に対しても,必要に応じて下肢装具を積極的に使用し,機能の改善を図る視点をもつ ことが重要であると思われた。 キーワード 脳卒中,長下肢装具,慢性期,倒立振子モデル,歩行練習. とした介入よりも,維持を目的とした介入が重視される. はじめに. ことも少なくないと思われる。.  歩行とは日常生活活動をなすための基本的な能力のひ.  今回,発症から 6 ヵ月が経過した時点で歩行に全介助. とつで,Quality of Life と相関する重要な因子でもあり,. を要する重度片麻痺者を担当する機会を得た。本症例の. 脳卒中片麻痺者の歩行能力を再獲得することは,リハビ. 歩行介助量を軽減する目的で,長下肢装具(Knee Ankle. リテーション(以下,リハ)における主要なゴールのひ. Foot Orthosis:以下,KAFO)を用いた歩行練習を積. 1) とつとなる 。. 極的に実践したところ,約 5 ヵ月後には四脚杖と短下肢.  一般的に,脳卒中後の機能回復は発症から 1 ヵ月程の 期間において良好な回復を示し,さらに回復が続く. 2). 装具(Ankle Foot Orthosis:以下,AFO)を用いて屋 内監視歩行が可能となり,自宅復帰を果たした。. が,6 ヵ月以上経過したのちには回復が緩やかとなり,.  発症から 6 ヵ月経過した時点では歩行に全介助を要し. プラトーと表現される状態となることが知られてい. たにもかかわらず,その後の介入によって監視歩行が可. る. 3). 。したがって,発症から 6 ヵ月以上経過した脳卒中. 片麻痺者に対しては,機能や活動の積極的な改善を目的 *. A Case with Severe Hemiplegia who Regained Gait Function Due to Proceeded Gait Exercise using a Knee-Ankle-Foot Orthosis Since the State Requiring Assistance for Gait at 6 Months after the Stroke Onset 1)大崎市民病院鳴子温泉分院リハビリテーション部 Kei Kadowaki, PT: Department of Rehabilitation, Osaki Citizen Naruko Branch Hospital 2)一般財団法人広南会 広南病院リハビリテーション科 (〒 982‒8523 宮城県仙台市太白区長町南 4‒20‒1) Hiroaki Abe, PT, PhD, Naohide Tsujimoto, PT: Department of Rehabilitation Medicine, Kohnan Hospital # E-mail: abehi0827@gmail.com (受付日 2017 年 11 月 10 日/受理日 2018 年 1 月 30 日) [J-STAGE での早期公開日 2018 年 3 月 19 日]. 能となった本症例に対する KAFO を用いた理学療法の 内容と経過について報告する。 症例紹介  50 歳代の女性。突然の頭痛・嘔吐があり近院へ救急 搬送され,クモ膜下出血の診断で同日に開頭クリッピン グ術が施行された。その後,右脳内出血を発症したため, 3 病日に外減圧術が行われ,64 病日に頭蓋形成術が施さ れた。既往歴に両変形性膝関節症(以下,膝 OA)があっ たが,発症前の ADL はすべて自立していた。急性期病 院では嚥下障害に対する介入のみ行われ理学療法は実施.

(2) 184. 理学療法学 第 45 巻第 3 号. 図 1 CT 画像(234 病日). されていなかった。その後,75 病日から 176 病日まで,. はすべて 4 であった。ROM 検査では麻痺側足関節背屈. 回復期リハビリテーション病棟(以下,回復期リハ病棟). 0° (非麻痺側 10°),両膝関節伸展 ‒ 5°の制限が認められ,. にて麻痺側下肢へ軟性膝装具と弾性包帯を装着した歩行. 両膝関節ともに他動的に 0°へ伸展させた際,膝関節後. 練習が行われたが,歩行の獲得には至らなかった。177. 面に疼痛が生じた。立位保持および歩行に際しては膝関. 病日にリハの継続を目的に当院回復期リハ病棟へ転院と. 節痛の訴えはなかった。感覚は表在および深部ともに軽. なった。当院転院後に撮像された CT 像を図 1 に示した。. 度鈍麻で,左同名半盲と右視神経損傷による右眼全盲を. CT の低吸収域は右中前頭回から下前頭回およびその皮. 合併していた。その他に,高次脳機能障害として注意障. 質下に及び,その深部は内包前脚,尾状核頭部に及ぶ。. 害と左半側空間無視を呈していた。認知機能は MMSE. さらには右島葉,横側頭回,上側頭回,その皮質下に及. にて 27/30 点であった。起居動作はベッド柵を使用して. び,主要連合線維として鈎状束と下後頭前頭束が,また. 自力で可能だったが,移乗は膝折れが生じるため中等度. 交連線維として小鉗子が広範に損傷し,さらには側脳室. の介助を要した。立位保持は平行棒を非麻痺側手で把持. 下角前方の側頭葉白質に及び,下縦束や帯状束の海馬傍. し軽介助で可能だったが,非麻痺側への身体軸の傾斜が. 回近傍部の損傷が考えられ,基底核スライスより上部で. 確認され,麻痺側踵部は床から離れており,重心が非麻. は中心前回の外側の前頭弁蓋部から側脳室体部近傍に及. 痺側へ偏位していることが推察される状態であった。歩. び,上縦束,放線冠に至っている。放線冠の低吸収域が. 行は平行棒内にて開始したが,無装具では麻痺側下肢の. 側脳室近傍の後方領域に及ぶことから片麻痺と感覚障害. 支持性が著明に低下し,初期接地(Initial Contact:以. の出現が予測される。また,側頭葉深部白質の損傷では. 下,IC)直後に膝折れが生じた。また,麻痺側下肢を. 視放線の前方が損傷するため左半盲の出現が予測され. 自力で遊脚することができないため振り出す介助を要. る。さらには,中前頭回,下前頭回,上縦束,下前頭後. し,Functional Ambulation Category(以下,FAC)は. 頭束,鈎状束および下縦束の損傷は半側空間無視の出現. 0 点 で あ っ た。Functional Balance Scale( 以 下,FBS). が予測され,広範な右前頭葉の損傷は全般性の注意障害. は 5/56 点で座位保持のみ自立しており,Barthel Index. 等の高次脳機能障害の出現も考えられた。. (以下,BI)は 45/100 点であった。. 1.理学療法初回評価(177 病日). 2.理学療法プログラム.  当院転院後より直ちに理学療法士,作業療法士,言語.  脳卒中片麻痺者の歩行能力は麻痺側下肢筋力との高い. 聴覚士による介入が開始された。当院での初回評価時の. 相関が報告されており. Brunnstrom Recovery Stage(以下,BRS)は左上肢Ⅱ,. には麻痺側下肢筋力を強化する視点が重要となる。ま. 手指Ⅱ,下肢Ⅱ∼Ⅲであった。麻痺側下肢の MMT は. た,自重を用いた課題指向型トレーニングは下肢筋力を. 股関節屈曲が 2,伸展が 1,内・外転ともに 1,膝関節. 向上させ,パフォーマンスの改善をもたらす. 屈曲が 1,伸展が 2,足関節背屈が 1,底屈が 1 で,非. 告がある。したがって,歩行能力の向上を目的とした場. 麻痺側下肢に関しては股関節屈曲のみ 3 であり,その他. 合,歩行そのものを課題とした反復練習を通じて下肢筋. 4)5). ,脳卒中片麻痺者の歩行再建. 4). との報.

(3) 長下肢装具を用いた歩行練習にて歩行可能となった慢性期片麻痺例. 185. 力の強化を図り,パフォーマンスの向上へとつなげるこ とが重要であると思われる。しかし,本症例の麻痺側下 肢の支持性は低下し,立脚期に膝折れが生じるため歩行 練習を遂行し難い状態であった。近年,随意的な筋力発 揮が困難な重度片麻痺者においても,KAFO を用いた 歩行練習によって麻痺側下肢の歩行様筋活動が得られる ことが報告されている. 6)7). 。歩行様筋活動を惹起するた. めには,麻痺側下肢への荷重と股関節の屈曲伸展運動を 提供することが重要とされ,大鹿糠らは,杖などの支持 物を用いた 3 動作揃え型歩行よりも無杖での 2 動作前型 歩行(以下,前型歩行練習)のほうが,KAFO を必要 とする重度片麻痺者の麻痺側下肢の筋活動が増大するこ 7) とを報告している 。この研究において,前型歩行練習. の際に用いられた KAFO の足継手は,外側に油圧制動 によって足関節底屈運動を制御し,滑らかな荷重応答を 可能とする Gait Solution(川村義肢社製,以下,GS) 継手と,内側にはダブルクレンザック継手が備わってい る。前型歩行練習を実施する際には,ダブルクレンザッ ク継手による底屈および背屈制限はせずに GS によって 踵接地後の底屈運動を適切に制動し,立脚中期(Mid Stance:以下,MS)以降の背屈運動を妨げないよう背. 図 2 前型歩行練習の際に用いた Gait Solution 足継手付き KAFO *は介助用のループ. 屈遊動に設定してある。当院には備品の GS 継手付き KAFO が な か っ た た め, 軟 性 膝 装 具 と AFO の Gait Solution Design(川村義肢社製,以下,GSD)を併用し, 7). 5° 屈曲位に設定した。なお,GS の油圧設定は IC 直後の. が用いた KAFO に見立てることで前型歩行. 底屈運動が適切な速度でなされていることを目視で確認. 練習が可能かを評価した。しかし,軟性膝装具では固定. して 3 に設定した。また,麻痺側下肢の遊脚と IC の位. 性が不十分で,荷重を促した際に麻痺側膝関節が装具内. 置を調節するために大. で屈曲位となり,加えて,麻痺側下肢の遊脚と IC の位. *)を取りつけた。本人用の KAFO を用いた前型歩行. 置の調節が困難なために,歩行様筋活動を惹起するうえ. 練習中の歩容は,麻痺側下肢に荷重を促した際にも膝関. での必要条件である麻痺側下肢への荷重と股関節の屈曲. 節の屈曲はみられず,麻痺側立脚期および非麻痺側ス. 大鹿糠ら. 7). カフ部に介助用のループ(図 2. が遂行で. テップ長の延長を目視にて確認することができた。そし. きなかった。麻痺側立脚期における膝関節の過剰な屈曲. て,前型歩行練習の際には,体幹が正中位となることに. を抑えることで,麻痺側下肢への荷重量を増大させ,股. 加え,IC から MS にかけて麻痺側股関節が屈曲位から. 関節の屈曲伸展運動を確実に引き出した状態での前型歩. 伸展位へ移行すると同時に,骨盤が前方へ推進すること. 行練習を可能とするためには本人用の KAFO が必要と. を強調するため,治療者が後方から体幹と骨盤部を密着. 判断し,作製することとした。よって,理学療法プログ. させる介助を加えた(図 3a) 。また,麻痺側下肢の荷重. ラムとしては,麻痺側下肢筋力および支持性の積極的な. 量を増大させることを目的として,平行棒や杖を用いず. 改善を図り,歩行介助量を軽減する目的で,GS 継手付. に無杖にて実施した。その他に,ブリッジングや起立練. き KAFO を用いた前型歩行練習を中心に実施すること. 習といった下肢筋力強化練習と,麻痺側の足関節背屈. を立案した。. ROM をより拡大させる目的で,起立台にて下. 伸展運動を再現した状態での前型歩行練習. 三頭筋. のストレッチを実施した。KAFO による無杖での前型 3.経過. 歩行練習は休憩を含め 30 分実施した。ブリッジングは.  本人用の KAFO の採型は 186 病日に行い,完成する. 両脚支持にて行い 30 回を 3 セット実施し,起立練習は. までの期間は麻痺側下肢へ軟性膝装具と GSD を装着し. 平行棒内にて麻痺側下肢の膝折れを防止するために下. て前型歩行練習を実施した。200 病日に KAFO(図 2). を固定する介助を加えつつ 10 回を 3 セット実施した。. が完成した。作製した KAFO の足継手は先行研究と同. さらに,ストレッチは 5 分としてこれらのメニューを 1. 様に外側に GS 継手,内側にダブルクレンザック継手と. 日に 1 回,週に 5 日間実施した。なお,ADL の早期の. し,膝継手は膝 OA を考慮してダイヤルロックを採用し,. 向上を目的とした場合,可能な限り速やかに AFO へ移.

(4) 186. 理学療法学 第 45 巻第 3 号. a. b. c. 図 3 歩容の変化と歩行練習の実際 a:KAFO による麻痺側下肢への荷重と IC から MS にかけての股関節伸展を強調した無杖での前型歩 行練習(200 病日),b:211 病日の AFO での歩容(Buckling Knee Pattern) ,c:411 病日の AFO で の歩容. 行することが望ましいが,AFO へのカットダウンに対. 旦 KAFO の状態に戻し,IC から MS にかけて股関節が. する明確な基準は存在しない。そのため,治療毎に平行. 伸展していくように強調し前型歩行練習を継続した。そ. 棒内にて KAFO の膝ロックを解除した状態で歩行を評. の他の練習に関しては,下. 価するようにした。その後,211 病日に膝ロック解除下. 立が可能となったことから下肢筋力強化練習は平行棒内. での膝折れが改善し,平行棒内にて GS 継手を利用し背. での反復的な起立練習のみへと変更した。麻痺側足関節. 屈に制限をせず,底屈を油圧で制動した AFO にカット. 背屈 ROM に関しても 5° へ改善したため,起立台でのス. ダウンし軽介助で歩行可能となったが,歩容は IC 直後. トレッチは終了した。その後,230 病日に BKP が軽減し,. に膝関節が過剰に屈曲する Buckling Knee Pattern(以. 平行棒内にて AFO を装着し監視で歩行可能となった。. 下,BKP)が観察された(図 3b) 。その際の GS の油圧. 250 病日からは休憩を含め 20 分間の Side Cane での歩. 設定は IC 直後の底屈運動が適切な速度でなされている. 行練習を追加し,289 病日に Side Cane 歩行が監視で可. ことを目視にて確認して 3 に設定していた。そこで,一. 能となった。この時点で,担当の作業療法士の協力を得. を固定する介助なしでも起.

(5) 長下肢装具を用いた歩行練習にて歩行可能となった慢性期片麻痺例. 187. 表 理学療法プログラムの経時的変化. て,作業療法場面においても Side Cane 歩行を行い,歩. 改善は難しいことが推察された。しかし,慢性期例にお. 行練習量の増加を図った。316 病日に休憩を含め 30 分. いても下肢筋力や歩行関連指標の改善が可能であること. 間の四脚杖での歩行練習を追加し,380 病日には四脚杖. が報告されている. で の 歩 行 が 監 視 で 可 能 と な っ た。10 m 歩 行 速 度 は. 施されていたが,KAFO が適応と思われる状態にもか. 12.2 m/min となり,重複歩距離は 51.3 cm となった。こ. かわらず,軟性装具と弾性包帯を用いた歩行練習が行わ. の時点で,自宅退院を見据えて階段昇降練習を追加し. れていた。運動学習を促進するうえでは,下肢装具など. た。 な お,AFO を 装 着 し て 行 う 歩 行 練 習 と 併 用 し,. を用いて関節の自由度を制限し,課題の難易度を調整す. BKP 改善後も,麻痺側下肢筋力および支持性を向上さ. ることを考慮する必要がある. せ,歩行能力をさらに改善する目的で,起立練習を 10 回. と弾性包帯が装着されていたが,本症例の麻痺側下肢の. 3 セットと KAFO による前型歩行練習を 20 分間実施し,. 支持性を考慮すると課題難易度の調整が十分になされて. 退院時まで継続した。本症例に対して実施した理学療法. いたとは言い難いと思われた。そこで,下肢の支持性を. プログラムの経時的変化を表に示す。. 確実に補い,課題難易度を調整した状態で,近年有効と. 8)9). 。そして,前院にて理学療法は実. 10). 。前院では軟性膝装具. される KAFO を用いた前型歩行練習. 6)7). を実践するこ. 4.理学療法最終評価(411 病日). とで,発症から 6 ヵ月経過した症例においても歩行介助.  BRS は下肢がⅢとなり,麻痺側下肢 MMT は,股関. 量を軽減できる余地があるのではないかと考え,本人用. 節屈曲が 3,伸展が 2,内・外転ともに 2,膝関節屈曲. KAFO の作製に至った。. が 2,伸展が 3,足関節背屈が 2,底屈 2+となり,一部.  歩行練習開始から 1 ヵ月後には,目的としていた麻痺. の筋で改善がみられた。また,ROM は麻痺側足関節背. 側下肢支持性の向上が得られ,カットダウンした AFO. 屈が 5°に改善した。移乗では膝折れが改善し,移乗用. で軽介助にて歩行可能となった。しかし,AFO を装着し. 介助バーを使用して監視で可能となった。歩行は視野障. た 歩 行 で は BKP の 出 現 と い う 新 た な 問 題 が 生 じ た。. 害および高次脳機能障害が残存したため屋内監視レベル. BKP の要因は,膝 OA の影響によって,膝関節軽度屈曲. に留まったが,四脚杖と背屈を制限せず底屈を油圧で制. 位での IC を余儀なくされることに加え,IC 直後に必要. 動 し た AFO を 装 着 す る こ と で 可 能 と な り(FAC:3. な股関節伸展モーメントの不足によって,その後の荷重. 点),歩容は BKP が改善した(図 3c)。なお,この際の. 応答期(Loading Response:以下,LR)から MS にかけ. 油圧設定は IC 直後の底屈運動が適切な速度でなされて. て,大. いることを目視にて確認して 3 とした。10 m 歩行速度. 節の後方を通過するためと推察した。歩行速度のさらな. は 13.9 m/min, 重 複 歩 距 離 64.5 cm と な り,FBS は. る向上や安定性の向上などをめざすうえで考慮すべき事. 39/56 点となった。BI に関しても 70/100 点に改善した。. 項として歩行の倒立振子モデル(Inverted Pendulum:. 考   察  本症例は発症からすでに 6 ヵ月が経過し,顕著な機能. および骨盤を前方へ推進できず,床反力が膝関. 以下,IP)の形成が挙げられる. 6)11). 。IP とは効率的な歩. 行を行うための力学的なパラダイムであり 成するためには,Perry. 13). 12). ,IP を形. が提唱した 4 つの Rocker 機.

(6) 188. 理学療法学 第 45 巻第 3 号. 能 が 重 要 と な る。 す な わ ち, 立 脚 初 期 に は 踵(Heel. 定した立位保持が可能となり FBS は改善した。さらに. Rocker:以下,HR) ,中期には足関節(Ankle Rocker:. 歩行においては,BKP が改善し四脚杖と AFO を使用. 以下,AR) ,後期には前足部からつま先を軸に回転しな. して屋内歩行が監視で可能となった。KAFO を利用し. 14). 。しかし,脳卒中片. て麻痺側下肢への荷重と IC 以降に股関節が屈曲位から. 麻 痺 者 は 麻 痺 側 下 肢 が IP を 形 成 で き ず,Extension. 伸展位へ移行することを強調した前型歩行練習を長期間. Thrust Pattern(麻痺側立脚期に膝関節が過伸展する歩. 継続したことで,IC から MS にかけて必要な股関節伸. がら,身体全体が前方へ移動する. 行)や BKP といった非効率的な歩容を呈しやすい. 15)16). 。. 従来,歩行再建をめざした脳卒中片麻痺者の歩行練習の 際に , しばしば AFO が用いられてきたが. 17). , 山本らは. AFO でもっとも重要な機能は立脚初期の HR を補助する 機能であることを見いだし GS を開発した. 14). 。そして,. 展筋力の強化と,大. および骨盤を前方へ推進させるタ. イミングの学習が図れた可能性がある。その結果,IC 直後に大. および骨盤を前方へ推進できるようになり,. 膝 OA による膝関節軽度屈曲位での IC は残存したもの の,床反力が膝関節周辺を通過するようなアライメント. 慢性期の脳卒中片麻痺者に対し,GS 継手付 AFO を使用. での歩行が可能となり,BKP が改善したと推察した。. した歩行練習を 3 週間実施したところ,歩行速度や非麻. また,BKP の改善は重心の円滑な前方移動を可能にし,. 痺側ステップ長の改善が図れ,さらに麻痺側立脚期にお. 歩行速度の向上に寄与した可能性がある。. ける重心の高さが上昇し,そのうえ,麻痺側立脚期最大.  今回,発症から 6 ヵ月が経過したにもかかわらず,. 背屈角度,最大底屈モーメントの増加などの AR の改善. KAFO を作製して積極的な前型歩行練習を実践したと. 18). 。つまり,GS によっ. ころ,屋内監視歩行を獲得することができた。急性期や. て HR 機能を補助した状態で歩行練習を行うことで,HR. 回復期の段階から,本症例の身体機能に応じた下肢装具. 以降のフェーズである AR が副次的に機能するようにな. を利用して歩行練習がなされていれば,より早期に歩行. り,IP を形成した歩容へと改善できる可能性があること. を獲得できた可能性があり得たかもしれない。. を示す効果が得られたと報告した. を示唆している。ところが,重度片麻痺者においては AFO によって HR を補助しただけでは,膝関節や股関節. 結   論. の伸展モーメントが不足しているために,IP を形成した.  発症から 6 ヵ月が経過した時点で歩行が全介助であっ. 状態での歩行練習が困難となる場合が多い。そのため,. た重度片麻痺者に対し,歩行介助量の軽減を目的に,. 近年では重度片麻痺者においても IP を形成した状態での. GS 継手付き KAFO を用いた前型歩行練習を積極的に実. 歩行練習を実施できるよう GS 継手付き KAFO が利用さ. 践したところ,麻痺側下肢筋力および支持性の向上が図. れ,関連する報告が散見されるようになった. 6)7)19‒22). 。. れ,歩容が改善し,歩行の獲得に至った。. AFO で歩行可能となったとはいえ,BKP に対してなん.  本症例が歩行能力の改善に至った経緯には,下肢装具. の策も講じずに AFO のみでの歩行練習に移行した場合,. を用いた歩行練習以外にも,下肢筋力強化練習といった. 不十分な膝伸展筋力のため膝折れが生じる可能性が常に. 通常の理学療法を取り入れていることなどから,下肢装. つきまとい,さらには歩行中の重心移動を妨げ,重心が. 具を用いた練習のみの効果であるかは不明であるが,重. 上昇すべき LR から MS にかけて上昇せず,力学的に非. 度片麻痺者に対する GS 継手付き KAFO を用いた前型. 効率的な歩容となる要因となり , これ以上の歩行速度の. 歩行練習は,麻痺側下肢筋力および支持性を向上させる. 向上が期待し難いと考えた。すなわち,さらなる歩行介. ことに貢献するとともに,歩行の効率性を阻害する因子. 助量の軽減を図るためには,床反力が膝関節周辺を通過. となり得る BKP といった歩容異常の定着を回避させ,. し,最小限の膝関節伸展筋力で歩行可能な IP を形成した. より高い歩行機能を獲得するためのひとつの手段となる. 歩容. 23). へ是正する必要があると考えた。本症例は膝 OA. 可能性があると思われる。. を伴い完全伸展が難しいため膝関節は多少屈曲せざるを.  今回の経験から,機能回復が難しいとされる発症から. えない。しかし,IC から MS における股関節伸展筋力の. 時間が経過した症例に対しても,必要に応じて下肢装具. 強化と,大. を使用し,機能の改善を図る視点をもつことも重要であ. および骨盤を前方へ推進させるタイミング. を学習できれば,IC から MS までの時間を短縮すること が期待でき,重心の前方移動が推進され,膝関節の後方 を床半力が通過する歩容からの脱却が計れるものではな. ると思われた。 倫理的配慮. いかと考えた。そのため,再度 KAFO によって不安定な.  本症例報告の趣旨を十分に症例に説明し,理学療法評. 膝関節を固定し,IC から MS にかけて麻痺側股関節が伸. 価および経過について記載することならびに写真の掲載. 展していくように強調した前型歩行練習を継続した。. について同意を得た。.  最終評価では股関節伸展筋力を含めた麻痺側下肢筋力 の全般的な向上が認められ,下肢の支持性は向上し,安.

(7) 長下肢装具を用いた歩行練習にて歩行可能となった慢性期片麻痺例. 利益相反  本症例報告について開示すべき COI はない。 文  献 1)Hsiao H, Knarr BA, et al.: The relative contribution of ankle moment and trailing limb angle to propulsive force during gait. Hum Mov Sci. 2015; 39: 212‒221. 2)Duncan PW, Goldstein LB, et al.: Measurement of motor recovery after stroke. Outcome assessment and sample size requirements. Stroke. 1992; 23: 1084‒1089. 3)宮越浩一:予後予測総論,脳卒中機能評価・予後予測マ ニュアル.道免和久(編),医学書院,東京,2013,pp. 82‒92. 4)Bohannon RW: Muscle strength and muscle training after stroke. J Rehabil Med. 2007; 39: 14‒20. 5)Nadeau S, Arsenault AB, et al.: Analysis of the clinical factors determining natural and maximal gait speeds in adults with a stroke. Am J Phys Med Rehabil. 1999; 78: 123‒130. 6)阿部浩明,大鹿糠徹,他:急性期から行う脳卒中重度片麻 痺例に対する歩行トレーニング.理学療法の歩み.2016; 27: 17‒27. 7)大鹿糠徹,阿部浩明,他:脳卒中重度片麻痺例に対する長 下肢装具を使用した二動作背屈遊動前型無杖歩行練習と三 動作背屈制限揃え型杖歩行練習が下肢筋活動に及ぼす影 響.東北理学療法学.2017; 29: 20‒27. 8)Ada L, Dorsch S, et al.: Strengthening interventions increase strength and improve activity after stroke: a systematic review. Aust J Physiother. 2006; 52: 241‒248. 9)Salbach NM, Mayo NE, et al.: The effect of a task-oriented walking intervention on improving balance self-efficacy poststroke: a randomized, controlled trial. J Am Geriatr Soc. 2005; 53: 576‒582. 10)才藤栄一,横田元美,他:運動学習からみた装具─麻痺疾 患の歩行練習において.総合リハ.2010; 38: 545‒550.. 189. 11)大畑光司:装具歩行のバイオメカニクス.PT ジャーナル. 2013; 47: 611‒620. 12)山本澄子,江原義弘,他:ボディダイナミクス入門 片 麻痺者の歩行と短下肢装具.医学書院,東京,2005,pp. 17‒106. 13)Perry J, Burnfield JM: Gait analysis, Normal and pathological function(2nd ed). SLACK, Thorofare, 2010, pp. 4‒47. 14)山本澄子:バイオメカニクスからみた片麻痺者の短下肢装 具と運動療法.理学療法学.2012; 39: 240‒244. 15)De Quervain IA, Simon SR, et al.: Gait pattern in the early recovery period after stroke. J Bone Joint Surg Am. 1996; 78: 1506‒1514. 16)Mulroy S, Gronley J, et al.: Use of cluster analysis for gait pattern classification of patients in the early and late recovery phases following stroke. Gait Posture. 2003; 18: 114‒125. 17)藤崎拡憲,山城 勉,他:脳卒中片麻痺に処方されている 短下肢装具の機能についての検討─全国アンケート調査よ り─.日本義肢装具学会誌.2013; 29: 51‒56. 18)Yamamoto S, Fuchi M, et al.: Change of rocker function in the gait of stroke patients using an AFO with oil damper immediate changes and the short term effect. Prosthet Orthot Int. 2011; 35: 350‒359. 19)阿部浩明,辻本直秀,他:急性期から行う脳卒中重度片麻 痺例に対する歩行トレーニング(第二部) .理学療法の歩 み.2017; 28: 11‒20. 20)大畑光司:歩行獲得を目的とした装具療法 長下肢装具の 使用とその離脱.PT ジャーナル.2017; 51: 291‒299. 21)大垣昌之:院内備品装具 VS 本人用装具─歩行時筋活動の 視点から.Jpn J Rehabil Med.2014; 51: S379. 22)増田知子:回復期脳卒中理学療法のクリニカルリーズニ ング─装具の活用と運動療法.PT ジャーナル.2012; 46: 502‒551. 23)Kuo AD: The six determinants of gait and the inverted pendulum analogy: A dynamic walking perspective. Hum Mov Sci. 2007; 26: 617‒656..

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