小学校における
Scratch を用いた
プログラミング授業の実践と検証
†Practice and Verification of the Computer Programming Class
with Scratch in an Elementary School
宮本 賢治* 河野 翔**
Kenji MIYAMOTO Shou KAWANO
2013 年 6 月に決定した「世界最先端 IT 国家創造宣言」や 2020 年度からの小学校でのプログラミン グ教育の必修化を背景に,近年,小学生向けに様々なプログラミング教育が実施されている。本研究で は,約20 名の小学校 6 年生を対象にし,総合的な学習の時間の 5 時間を用いて,ブロック型プログラ ミング言語の Scratch を用いた授業実践を行った。そして,(1)迷路を用いた事前・事後テスト,(2)自 由作品の制作,(3)授業後の感想を基に,プログラムを構成する基本処理(順次,反復,分岐)を論理的に 活用するプログラミング的思考や児童の興味・関心の度合いを検証した。その結果,大部分の児童は事 前テストの前に既に,順次処理や反復処理の基本的な考え方をほぼ身につけているが,分岐処理に関し ては十分理解できていないことが分かった。また授業後の感想から,プログラミングの楽しさを児童に 体感させることができたと考えられる。 キーワード:情報教育,プログラミング教育,Scratch,小学校,プログラミング的思考
1.はじめに
現在の情報化社会を背景として,政府は,2013 年 6 月に決定した「世界最先端 IT 国家創造宣言」1)におい て,小・中学校における情報・技術教育を推し進めて いくことを明記している。また,2020 年度から実施さ れる次期学習指導要領 2)では,小学校においてプログ ラミング教育が必修化されることが決定している。 小学校におけるプログラミング教育の目指すものと して,「プログラミング的思考」を身に付けさせるこ とが挙げられている 3)。このプログラミング的思考と は,「自分が意図する一連の活動を実現するためにど のような組み合わせが必要であり,一つ一つの動きに 対応した記号をどのように組み合わせたらいいのか, 記号の組み合わせをどのように改善していけばより意 図した活動に近づくのかといったことを論理的に考え ていく力」と定義されている。ゆえに,小学校でのプ ログラミング教育は,将来の IT 技術者の育成という キャリア教育的な側面のみならず,課題解決能力や創 造力の育成につながると考えられる。 そのため,我が国においても初等・中等教育や民間 企業,NPO により,小学生を対象とした各種のプログ ラミング教育が実施されてきた。阿部らは,プログラ ミング言語としてブロック型のプログラミング言語で ある Scratch や Squeak Etoys を用いて,小学生を対 象としたコンピュータプログラミングのワークショッ プや授業の支援を各地で行っている4)。 川島らは,迷路を用いて,小学校 6 年生を対象とし たアルゴリズム学習を実践すると共に,情報科学と情 報技術の観点に基づいた評価基準を提案している 5)。 山本らは,プログラミング言語であるソフトウェアと Sphero と呼ばれる加速度センサー内蔵のハードウェア を組み合わせることで,ハードウェアの制御を通した プログラミング学習を提案している6)。また,Perts と 呼ばれる,処理系ブロックを筐体に指すことで命令通 りに動作する教材を活用した,低学年向けの授業実践 例 7)を報告している。大森らは,初等・中等教育を対 象とした体系的プログラミング教育カリキュラムの試 案を開発し,子供プラザ等の児童・児童に対して実践 (2017 年 5 月 23 日受付,2018 年 2 月 1 日受理) * 鳴門教育大学 (正会員 A) ** 鳴門教育大学 (大学院生) 現在 川崎市立富士見台小学校 (正会員 B) † 2017 年 2 月本学会第 32 回情報分科会(上越)にて発表を行い,試案の評価を行っている 8), 9)。教育用のプロ グラミング言語を用いた初等教育での授業実践とその 評価の事例として,Scratch を用いて小学校 4 年生向 けにプログラミングの授業をデザインし,実践した結 果が森らにより報告されている10)。 総合的な学習の時間の26 時間分を本授業に充て,プ ログラミングによる制御や繰り返し命令の基本を学習 させるとともに,それらを使って作品を制作し,小学 生向けのプログラミング教育が可能であることを確認 している。しかし実際の総合的な学習の時間では, 様々な探求的な学習を行うために,26 時間の授業時間 をプログラミング学習に充てることは難しい。そのた め,より少ない時間で要点を絞った指導が必要になる と考えられる。 本研究では,現実的な授業時間でScratch 1.4 を用い た授業実践を行い,小学校におけるプログラミング教 育の実践の可能性を検証した。授業実践を行う以前に 現場の先生と相談し,総合的な学習の時間の 5 時間分 を設定した。そして,プログラムを構成する基本処理 である順次,反復,分岐やこれらの処理手順を論理的 に組み合わせることで,意図する活動を実現する,と いうプログラミング的思考の育成に関する授業内容と した。そして,後述するような事前・事後テストや児 童の自由作品制作,授業後の感想を基に,実践した授 業を検証した。
2.Scratch について
MIT(マサチューセッツ工科大学)メディアラボが開 発したビジュアルプログラミング言語である 10)。特徴 として,直感的に手でブロックを組み立てるようにプ ログラミングできるため,初心者にも簡単に使いやす い。また,使い続けていく中でより高度な作品づくり が可能であること,また,個人の興味にあわせて多種 多様な作品をつくることができること等が挙げられる 11)。Scratch は無料で公開されており,誰でも専用サ イトからダウンロードすることができる。 Scratch の基本画面とプログラム例を図 1 に示す。 Scratch は,スプライトと呼ばれるキャラクターが動 くスペースと,スプライトにプログラムをするスペー スから成る 12)。ブロックとして用意されている「命令」 を組み合わせることでプログラミングを行い,スプラ イトを動かす。図 1 のプログラムでは,スプライトで ある猫は先ずペンを下し,右に 100 歩動いて,ペンの 色を変え,向きを変えて,また100 歩移動する。3.授業実践
徳島県吉野川市立A 小学校の 6 年生を対象に,2015 年度(24 名:男子 15 名,女子 9 名)と 2016 年度(18 名: 男子 6 名,女子 12 名)に 5 回分の授業を,それぞれ 2015 年 10 月 30 日,11 月 2,6,9,16 日,及び, 2016 年 10 月 24 日,11 月 2,9,14,16 日に実践し た。 授業では,1 人~3 人の班ごとに 1 台のパソコンを用 いた。Scratch を通してプログラミングを体験すると 共に,プログラムを構成する基本処理である順次,反 復,分岐について説明し,これらの処理手順を論理的 に組み合わせることで,意図する活動が実現できると いう,プログラミング的思考を育成できるような指導 を行った。 中学校の技術の授業で行われたプログラミング資料 がインターネット上で公開されており 13),これを参照 してテキストを準備した。Scratch のバージョンはこ れに合わせて 1.4 を用いた。また,インターネットを 使用できる教室で授業ができない場合を想定して,今 回はオフライン版を使用した。 事前にパソコンやプログラミングに関する知識や経 験がどの程度あるかを把握するためのアンケートを実 施した。また,事前・事後テストや制作した作品の評 価から,授業を通しての習得,理解度を測った。 3.1 事前アンケート 2015 年度,2016 年度共に,6 月に A 小学校を訪問 して,事前アンケートを実施した。アンケート実施の 目的として,(1)パソコンを操作した経験がどの程度あ るのか,また,(2)プログラミングについての知識や経 験がどの程度あるかを把握することが挙げられる。(1) 図1 Scratch の基本画面は,本授業で各児童がプログラミングをする際,パソ コンの操作に問題がないかどうかの確認である。図 2 に,実際に使用したアンケートを示す。 3.2 授業概要 3.2.1 2015 年度の授業概要 1 時間目は導入部であり,プログラミングや Scratch の概要について説明を行う内容である。めあてやグ ループ活動の際に班員の意見を記入するためのワーク シートを使用した。また授業の最後に,次時から実際 に使用する Scratch の簡単なデモンストレーションを 行った。 2 時間目は,Scratch の基本操作について体験させる 内容である。主に,プログラムを構成する基本要素の 1 つである順次を学習した。順次処理は,命令が上か ら 順 に 実 行 さ れ る 仕 組 み で あ る こ と を , 模 式 図 と Scratch の例題(図 3)で説明した。 Scratch の例題では,連結した命令ブロックが,上 から順に実行されてスプライトの猫が,(1)10 歩動く→ (2)ドラムを鳴らす→(3)10 歩戻る→(4)ドラムを鳴らす, の順に動作し,あたかもダンスをするような動きであ ることを各児童に確認させた。また,図 4 に示す練習 問題を各自に解かせた。この命令が実行されると, 図2 事前アンケート
アンケート
年 氏名( ) (1)パソコンの操作は得意ですか? ( はい・いいえ ) (2)授業でパソコンを操作したことがありますか? ( はい・いいえ ) (3)家でパソコンを操作したことがありますか? ( はい・いいえ ) (4)パソコンを操作したことがある人は、何をしましたか? (操作したことがない人は、書かなくてもいいです。) (5)プログラミングという言葉を知っていますか? ( はい・いいえ ) (6)(5)で「はい」と答えた人は、プログラミングという言葉をどこで知りま したか?(「いいえ」と答えた人は、書かなくてもいいです。) ( ) (7)(5)で「はい」と答えた人は、プログラミングについて知っていることを 何でもよいので書いてください。(「いいえ」と答えた人は、書かなくてもい いです。) 図4 順次の練習問題 〇練習問題チャレンジしよう!! 次のようにブロックをくっつけてみよう! ヒント! ① 「(…)歩動かす」と「(…)度回す」ブロックは「動き」の中にある。 ② 「(…)の音符を(…)拍鳴らす」ブロックは「音」の中にある。 1 命令ブロックの仕組み プログラムの基本形態は、この3種類しかない。全てのプログラムは、この組合せ でできている。 (1) 「順次」の仕組みを知ろう! 上の図は、最も基本的で簡単な「順次(じゅんじ)」の例を示したものである。くっつけた命令ブ ロックは、上から順に実行される。 上の図のように「命令ブロック」をくっつけると, (1)10歩動く。 (2)ドラムを鳴らす。 (3)10歩戻る。 (4)ドラムを鳴らす。 このように上から順に動く。 図3 順次の説明図「かえるの歌」のメロディが流れるようにしており, なるべく児童の興味・関心を引くことができるように した。 3 時間目は,2 時間目と同様に,Scratch の基本操作 について体験させる内容である。主に,プログラミン グを構成する基本要素の 1 つである反復を学習した。 反復処理は,ある命令が繰り返して実行される仕組み である。さらに無限に命令が繰り返して実行される場 合と,ある条件が満たされる間だけ命令が繰り返して 実 行 さ れ る 場 合 と に 大 別 さ れ る こ と を , 模 式 図 と Scratch の例題(図 5,図 6)で説明した。 ま ず 無 限 に 命 令 が 繰 り 返 し て 実 行 さ れ る 場 合 , Scratch の「制御」にある「ずっと」の命令ブロック の中にある命令ブロックが無限に繰り返して実行され る。そのため,猫は上述のダンスの動きを無限に繰り 返すことを各児童に確認させた。次にある条件が満た される間だけ命令が繰り返して実行される場合,条件 を指定する命令ブロックとして,「制御」にある「~ 回繰り返す」の命令ブロックを用いた。この命令ブ ロックで例えば「10 回繰り返す」と設定すると,猫が ダンスの動きを10 回繰り返すことを各児童に確認させ た。また,繰り返し回数の設定値を変えると,それに したがってスプライトの猫がダンスの動きを繰り返す ことも確認させた。 4 時間目は,プログラミングを構成する基本要素(順 次,反復,分岐)についてその仕組みを詳しく学習し, 自由作品の作成に取り組む内容である。特に分岐につ いて詳細に採り上げ,ある条件を満たすかどうかで処 理の流れが変わることを,模式図と Scratch の例題で 説明した。今回は,ある条件を満たす場合に命令が実 行されて,満たさない場合には実行されない分岐処理 を取り扱った(図 7)。条件を指定する命令ブロックとし て,「制御」にある「もし~なら」の命令ブロックを 用いた。Scratch の例題では,猫がサッカーボール(ス プライト 2)に触れたならば,ニャーと鳴くことを各児 童に確認させた。また,自由作品は 1 班に 2 つの作品 を完成させるようにした。 5 時間目は,4 時間目に引き続き自由作品の作成に取 り組み,完成した作品の鑑賞会を行う内容である。鑑 賞会は,席を移動して,すべての班が作成した作品を お互いに鑑賞できるようにした。また,授業の最後に, 5 時間分の授業を通しての感想を記入できるワーク シートを使用した。 指導案における授業展開の例を表 1 に示す。また, 授業の様子を図8 に示す。 図6 反復の説明図(条件が満足される間だけ繰り返す場合) 2)ある条件が満たされている間だけ繰り返す場合 上の図は、ある条件が満たされている間だけ同じ動きを続ける「繰り返し」の例を示したものであ る。ここではある条件として,繰り返しの回数を扱う。「制御」にある「~回繰り返す」の命令ブ ロックの中に入れた命令ブロックは、設定した回数に達するまで,その動きを繰り返す。 上のようにくっつけた命令ブロックを「~回繰り返す」の命令ブロックの中に入れて,「10回繰 り返す」と設定すると, (1)10歩動く。 (2)ドラムを鳴らす。 (3)10歩戻る。 (4)ドラムを鳴らす。 この動き(1)~(4)を10回繰り返す。 図5 反復の説明図(無限に命令が繰り返す場合) (2) 「繰り返し」の仕組みを知ろう! 繰り返しには、無限に繰り返す場合と、ある条件が満たされている間だけ繰り返す場合がありま す。 1)無限に繰り返す場合 上の図は、無限に同じ動きを続ける「繰り返し」の例を示したものである。「制御」にある「ずっ と」の命令ブロックの中に入れた命令ブロックは、無限にその動きを繰り返す。 上のようにくっつけた命令ブロックを「ずっと」の命令ブロックの中に入れると, (1)10歩動く。 (2)ドラムを鳴らす。 (3)10歩戻る。 (4)ドラムを鳴らす。 この動き(1)~(4)を無限に繰り返す。
3.2.2 2016 年度の授業概要 概ねは2015 年度と同様であるが,以下の 3 点が異な る。 (1) 1 時間目の最初の 10 分間において,後述するよう な事前テストを行った。 (2) 4 時間目は主に,プログラミングを構成する基本 要素の 1 つである分岐を学習した。また,分岐処 理の知識を使って取り組むことのできるワーク シートを使用した。 (3) 5 時間目は,プログラミングを構成する基本要素 (順次,反復,分岐)についてその仕組みを詳しく 学習した後,自由作品の作成に取り組んだ。そし て,最後の10 分間おいて,後述するような事後テ ストを行った。 3.3 事前・事後テスト 2016 年度の授業実践では,5 回分の授業の始めと終 わりでどの程度プログラムを構成する基本要素を理解 できたかを判断するため,文献 5)を参照して,事前・ 事後テストを導入した。本テストでは,論理的かつ数 理的な思考を伴う考え方からプログラミングを構成す る基本要素を理解できているかを評価するため,情報 科学の観点に重きを置いた。 事前・事後テストを図 9 に示す。図 9 に示すように コースの「開始位置」(●)から「終了位置」(G)までの 道が示された5 種類のコースを図示したテストを 1 時 間目と 5 時間目に実施した。各コースの「開始位置」 から「終了位置」に到達するまでの 1 マスごとの動き を「上に1 マス移動する」,「右に 1 マス移動する」 などの言葉によって記述させた。 コース①は,「順次処理」のみを使って回答する問 題である。コース②,③,④は,少ない手順で記述す 図7 分岐の説明図 (3) 「分岐」の仕組みを知ろう! 上の図は、ある条件が満たされた場合に命令が実行されるが,満たされない場合には命令が実行さ れない「分岐(ぶんき)」の例を示したものである。「制御」にある「もし~なら」の命令ブロック の条件「~なら」が満たされる場合,この中に入れた命令ブロックが実行される。 上のようにくっつけた命令ブロックを「もし~なら」の命令ブロックの中に入れると, (1)10歩動く。 (2)もしスプライト2(サッカーボール)に触れたなら・・・ (3)音が鳴る。 このように,もし猫がスプライト2(サッカーボール)に触れたなら,音が鳴る。 図8 授業の様子 表1 指導案における授業展開の例(4 時間目) 時間 環境・資料 学習活動 指導上の留意点 評価 10 分 ・黒板 ・ワーク シート ○本時の目標を知る。 プログラミング の仕組みについ て知ろう ○教師から,順次,反 復,分岐というプロ グラミングの仕組み の説明を聞く。 ○テキストを用いた 説明により,子ど もが,順次,反 復,分岐のプログ ラミングの仕組み が理解できるよう にする。 25 分 ・ワーク シート ・パソコン ・プロジェ クター ○自由作品の作成に取 り組む。 ○前時までに学習し たプログラミング 技術を活用するよ う促すことによ り,工夫を凝らし た作品作りができ るようにする。 プログラミ ングの仕組 みを活用で きたか。 (自由作品) ○「プログラミングの 基本」のワークシー トに取り組む。 ○分からない子ども に対しては,助言 を行う。 10 分 ・ワーク シート ○本時の学習の振り返 りと本単元のまとめ を行う。 ○プログラミングの 仕組みを理解する ことによってプロ グラミングされた ものの見方につい て,まとめの話を する。 プログラミ ングについ ての知識を 深めること ができた か。(ワー クシート)
るためにはどのような工夫が必要になるかを考えさせ, 「順次処理」と「反復処理」を使って回答できる問題 である。また,コースの番号が進むごとに難易度が上 がるように設定した。コース⑤は,「☆」の位置に着 いたときにサイコロを振り,出た目によって「終了位 置」を変える「分岐処理」を使って回答する問題であ る。 情報科学の観点からの評価項目と評価基準を表 2 に 示す。「順次処理」の評価項目として,(1)「開始位置 から終了位置に向かう方向が正しく考えられているか を評価するための「処理手順の方向性」と,(2)目的達 成のための道筋が最後まで考えられているかを評価す るための「処理手順の経路」を設定した。 「反復処理」の評価項目として,(1)反復処理では開 始と終了の関係が考えられているかを評価するための 「開始と終了の関係性」と,(2)反復処理では条件の指 定によって繰り返されることが考えられているかを評 価するための「反復条件の考え方」を設定した。「分 岐処理」の評価項目として,(1)条件によって後続処理 の場合分けがなされていることが考えられているかを 評価するための「分岐の考え方」と,(2)後続処理が正 しく考えられているかを評価するために「分岐の後続 処理の考え方」を設定した。 図9 の特に問⑤は,文献 5)と顕著に異なる。文献 5) では,情報科学の観点からのみならず,情報技術の観 点からも評価するため,例えば「サイコロの目<4, そうだったら,違ったらを使って書きなさい」と指示 し,条件項目の記述や条件の記述も評価項目として挙 げている。対して本研究では,情報科学の観点からの みの評価であるため,条件分岐の判断が済んだ後に, 右側のゴールへ進む処理と左側のゴールへ進む処理を 書く指示とした。 3.4 結果と考察 3.4.1 事前アンケート 事前アンケートの回答結果を図 10 に示す。(2),(3) の質問から得られた回答より,ほぼすべての児童がパ ソコンを操作した経験があることが分かる。よって, 本授業でプログラミングを行う際,パソコンの操作に ついて問題が無いことを確認した。 また,「(4)パソコンを操作したことがある人は,何 図9 事前・事後テスト ① 次の迷路をゴールまで進む手順を、5行で書きなさい。 G ● 手順1 手順2 手順3 手順4 手順5 ② 次の迷路をゴールまで進む手順を、「くり返し?回」と「くり返し終わり」を使って3行で書きな さい。 手順1 手順2 手順3 G ● ③ 次の迷路をゴールまで進む手順を、「くり返し?回」と「くり返し終わり」を使って9行で書きな さい。 G ● 手順1 手順2 手順3 手順4 手順5 手順6 手順7 手順8 手順9 ④ 次の迷路をゴールまで進む手順を、「くり返し?回」と「くり返し終わり」を使って9行で書きな さい。 手順1 手順2 手順3 手順4 手順5 手順6 手順7 手順8 手順9 G ● ⑤ 次の迷路をゴールまで進む手順を、「くり返し?回」と「くり返し終わり」を使って8行で書きな さい。 ただし、「☆」の書いてあるマスについたら、サイコロをふって、「1, 2, 3」が出た場合、左 側のゴールに、 「4, 5, 6」が出た場合、右側のゴールに進むこととする。 手順1 手順2 手順3 手順4 手順5 手順6 手順7 手順8 1, 2, 3 4, 5, 6 ☆ G ● G 左 右 表2 情報科学の観点からの評価項目と評価基準 処理内容 評価項目 評価基準 順次処理 処理手順の方 向性 開始位置から終了位置に向かう方向が正 しく考えられているか 処理手順の経 路 目的達成のための道筋が最後まで考えら れているか 反復処理 開始と終了の 関係性 反復処理では開始と終了の関係が考えら れているか 反復条件の考 え方 反復処理では条件の指定によって繰り返 されることが考えられているか 分岐処理 分岐の考え方 条件によって後続処理の場合分けがなさ れていることが考えられているか 分岐の後続処 理の考え方 後続処理が正しく考えられているか
をしましたか?」という質問に対しては,「ローマ字 などを使うゲーム,作文,絵,キーボードの練習,地 図,買い物,音楽を聴くこと,分からないことを調べ ること,動画を観ること」が挙げられた。これから, 主に自分の趣味や興味,分からないことを調べるツー ルとして活用していることが分かった。(5)の質問から 得られた回答より,2015 年度,2016 年度いずれの児 童においても 6 割以上が「プログラミング」という言 葉を耳にした経験がないことが分かった。 また,(6),(7)の質問から得られた回答より,「プロ グラミング」という言葉を知っていたとしても,それ は家族や先生から聞いたことがあるという程度で,そ れがどのような仕組みで自分の身の周りの生活やツー ルとして活用されているのか等に関する知識やプログ ラミングの経験がない状態であることが分かった。 3.4.2 事前・事後テスト 全5 問分の結果を表 3~表 7 にそれぞれ示す。また, 「完全正答による評価」欄では,その問題において満 点の場合は「正答」とし,1 点でも減点があれば「誤 答」とした。 問①は順次処理のみの問題で,順次処理の評価項目 である「処理手順の方向性」と「処理手順の経路」か ら採点し,2 点満点である。事前テストでは正答率が 72%であったのに対して,事後テストでは 89%であっ た。問②は反復処理を含む問題で,順次処理の評価項 目である「処理手順の方向性」と反復処理の評価項目 である「開始と終了の関係性」と「反復条件の考え方」 から採点し,3 点満点である。事前テストでは,正答 率が 50%であったのに対して,事後テストでは,67% である。 事前テストにおける情報科学の観点からの評価が 3 点満点中2 点の児童 7 名は,いずれもゴールを 1 マス だと見なしていないため,反復回数を誤った回答をし たと考えられる。よって,反復処理における反復条件 の考え方は,事前テストの段階で,まずまず理解でき ているとみなせる。 問③と問④も問②と同様に反復処理を含む問題であ るが,問②<問③<問④の順番で難易度が高くなる。 問④については,正答率は事前テストで5.5%,事後テ ストで17%と低い割合となった。 問⑤は順次処理,反復処理に加えて,分岐処理を含 めた問題である。順次処理の評価項目である「処理手 順の方向性」と「処理手順の経路」,反復処理の評価 項目である「開始と終了の関係性」と「反復条件の考 え方」,分岐処理の評価項目である「分岐の考え方」 と「分岐の後続処理の考え方」から採点し,9 点満点 である。正答率は事前テストで 11%,事後テストで 28%と問④と同様に低い割合を示す。 問⑤において,特に分岐処理のみにおける正答率を 表 8 に示す。正答率は事前テストで 22%,事後テスト で 28%と低い割合を示し,事前と事後とで大きな変化 は見られなかった。 事前・事後テスト結果から以下のことが示される。 図10 事前アンケートの回答結果 (1) パソコンの操作は得意ですか? 2015 年度分 2016 年度分 55% 32% 13% 33% 67% (2) 授業でパソコンを操作したことがありますか? 2015 年度分 2016 年度分 100% 100% (3) 家でパソコンを操作したことがありますか? 2015 年度分 2016 年度分 100% 61% 39% (5) プログラミングという言葉を知っていますか? 2015 年度分 2016 年度分 26% 63% 11% 17% 83% はい いいえ 無回答
(1) 難易度の低い順次処理,反復処理が含まれている問 題に対しての正答率は高い。このことから,大部分 の児童は事前テストの前に既に,算数や国語など他 教科の学習や日常生活を通して,順次処理や反復処 理の基本的な考え方をほぼ身につけていることが考 えられる。算数で習う倍数を例に挙げると,3 の倍 数は3,6,9,12,…のように,3 ずつ数字が増加 するのが繰り返されており,反復処理の考え方を身 に付けるのに役立ったと思われる。これについては 今後,根拠となるデータを取得する必要がある。 (2) 分岐処理に関しては,他の 2 つの基本処理に比べて 考え方が難しく,5 時間分の授業を通して学習して も,その考え方自体はほとんど身につきにくいこと が考えられる。さらに分岐処理に関して,今回の事 前・事後テストの問題は反復処理と分岐処理が複合 し,難易度が高い。そのため正確な評価をするには 適切ではなく,より平易な問題設定をした方がよい と考えられる。 3.4.3 自由作品 5 回目の授業で,学習したことを活用し,自由に作 品を作成する時間を設けた。そこで作成した作品から, プログラミングを構成する基本要素(順次,反復,分 岐)を論理的に組み合わせて,どの程度,作品に活かす ことができるかについて評価した。 児童の作品例を図11 に示す。「動き」と「音」の命 令ブロックを上から順に組み立てているため,プログ ラムを構成する要素のうち「順次」を活用できている ことが分かる。また「制御」の命令ブロックから,無 限に命令が繰り返して実行される場合である「ずっと」 を使用しているため,「反復」を活用できていること が分かる。さらに,「動き」の命令ブロックから「も 表3 問①の事前・事後テストの結果 情報科学の観点からの評価 完全正答による評価 0 1 2 誤答 正答 事前 テスト 人数 0 5 13 5 13 割合(%) 0.0 28.0 72.0 28.0 72.0 事後 テスト 人数 1 1 16 2 16 割合(%) 5.5 5.5 89.0 11.0 89.0 表4 問②の事前・事後テストの結果 情報科学の観点からの評価 完全正答による評価 0 1 2 3 誤答 正答 事前 テスト 人数 1 1 7 9 9 9 割合(%) 5.5 5.5 39.0 50.0 50.0 50.0 事後 テスト 人数 3 1 2 12 6 12 割合(%) 17.0 5.5 11.0 66.0 33.0 67.0 表5 問③の事前・事後テストの結果 情報科学の観点からの評価 完全正答による評価 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 誤答 正答 事前 テスト 人数 3 1 0 0 1 0 2 0 0 11 7 11 割合(%) 17.0 5.5 0.0 0.0 5.5 0.0 11.0 0.0 0.0 61.0 39.0 61.0 事後 テスト 人数 2 1 2 0 0 0 0 1 1 11 7 11 割合(%) 11.0 5.5 11.0 0.0 0.0 0.0 0.0 5.5 5.5 61.5 39.0 61.0 表6 問④の事前・事後テストの結果 情報科学の観点からの評価 完全正答による評価 0 1 2 3 4 5 6 7 誤答 正答 事前 テスト 人数 15 0 0 2 0 0 0 1 17 1 割合(%) 83.5 0.0 0.0 11.0 0.0 0.0 0.0 5.5 84.5 5.5 事後 テスト 人数 9 1 1 2 1 0 1 3 15 3 割合(%) 50.0 5.5 5.5 11.0 5.5 0.0 5.5 17.0 83.0 17.0 表7 問⑤の事前・事後テストの結果 情報科学の観点からの評価 完全正答による評価 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 誤答 正答 事前 テスト 人数 8 0 1 3 0 0 0 2 2 2 16 2 割合(%) 45.0 0.0 5.5 16.5 0.0 0.0 0.0 11.0 11.0 11.0 89.0 11.0 事後 テスト 人数 7 0 0 4 0 0 1 0 1 5 13 5 割合(%) 39.0 0.0 0.0 22.0 0.0 0.0 5.5 0.0 5.5 28.0 72.0 28.0 表8 分岐処理のみにおける正答率 情報科学の観点からの評価 完全正答による評価 0 1 2 誤答 正答 事前 テスト 人数 10 4 4 14 4 割合(%) 56.0 22.0 22.0 78.0 22.0 事後 テスト 人数 9 4 5 13 5 割合(%) 50.0 22.0 28.0 72.0 28.0 図11 児童が制作した作品例
し端についたら,跳ね返る」を使用しているため, 「分岐」を活用できていることが分かる。 各班で制作した作品に,3 つの基本処理(順次,反復, 分岐)が用いられているかどうかを,表 9 (2015 年度の 結果)と表 10 (2016 年度の結果)にまとめる。これらの 基本処理を論理的に活用できていれば〇で,活用でき ていなければ×で示した。ほぼ全ての班で「順次」, 「反復」,「分岐」を活用できていることが分かる。 事前,事後テストの結果と照らし合わせると,「順 次」,「反復」に関しては,本授業以前からある程度 その仕組みを理解しているため活用できていると考え られる。「分岐」に関しては,その考え方自体は十分 に理解していないが,授業を通して学んだ「スペース キーが押されたとき」や「もし端についたら,跳ね返 る」などの分岐に関するブロックをそのまま活用して いる作品例が多く見られた。 3.4.4 授業後の感想 表11 に,代表的な感想を示す。「興味を持った,楽 しかった,よく分かった」など,授業に対して肯定的 な感想が多く見られた。よって,プログラミングをす る楽しさを児童に体感させることができたと考えられ る。
4.まとめと今後の課題
本研究では,総合的な学習の時間の 5 時間分という 現実的な時間設定で,Scratch を用いた授業実践を 行った。 事前アンケートから,(1)児童の全員が既に学校の授 業でパソコンを操作した経験があり,本授業でプログ ラミングを行う際,パソコンの操作について問題が無 い,(2)プログラミングについての知識や経験がほとん ど無い,ことを確認した。 小学校におけるプログラミング教育において,プロ グラムを構成する基本処理(順次,反復,分岐)を論理 的に活用するプログラミング的思考や児童の興味・関 心の度合いについて,迷路を用いた事前・事後テスト, 自由作品の制作,及び,授業後の感想を基に検証を 行った。その結果,以下のことが分かった。 (1) 事前・事後テスト結果から,大部分の児童は事前 テストの前に既に,順次処理や反復処理の基本的 な考え方を,ほぼ身につけている。一方,分岐処 理に関しては,他の 2 つの基本処理に比べて,十 分理解できていない。 (2) ほぼ全ての班で順次,反復,分岐を論理的に組み 合わせた作品を制作することができた。しかし事 前,事後テストの結果を比較すると,分岐に関し ては,その考え方自体を十分に理解していないが, 授業を通して学んだ「スペースキーが押されたと き」や「もし端についたら,跳ね返る」等の分岐 に関するブロックをそのまま活用している作品例 が多見られた。 (3) 授業後の感想では,肯定的な感想が多く見られて おり,プログラミングをする楽しさを児童に体感 させることができたと考えられる。 上記の(1)から,プログラミングで特に分岐処理の理 解に対して,今回,実践した 5 時間の時間数では不十 表9 制作作品での基本処理の活用状況(2015 年度) 順次 反復 分岐 1 班 ○ ○ ○ 2 班 ○ ○ × 3 班 ○ ○ ○ 4 班 × × × 5 班 ○ ○ ○ 6 班 ○ ○ ○ 7 班 ○ ○ ○ 8 班 ○ ○ ○ 9 班 ○ ○ ○ 10 班 ○ ○ ○ 11 班 ○ ○ ○ 表10 制作作品での基本処理の活用状況(2016 年度) 順次 反復 分岐 1 班 ○ ○ × 2 班 ○ ○ ○ 3 班 ○ ○ ○ 4 班 ○ ○ ○ 5 班 ○ ○ ○ 6 班 ○ ○ ○ 7 班 ○ ○ ○ 8 班 ○ ○ ○ 9 班 ○ ○ ○ 10 班 ○ ○ ○ 11 班 ○ ○ ○ 表11 児童の感想(抜粋) 映画やゲームがプログラミングされていることが分かった。 プログラミングのことが少し分かった。 自由作品を作るのが楽しかった。 自分の身近なところにプログラミングされているものがたくさん あることを知った。 難しい操作があって分かりにくかった。 プログラミングに興味を持つことができた。 もっと難しいプログラミングをしたいと思った。 Scratch をもっと使ってみたいと思った。分であることが分かった。今後の課題として,他教科 との連携や長期間の継続した学習によって,その能力 を育成する必要があると考えられる。
参考文献
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Based on the July, 2013 cabinet decision, “Declaration on the Creation of the World’s Most Advanced IT Nation” and the obligation to provide computer programming instruction in elementary schools starting in 2020, various types of computer programming instruction have been recently attempted. In this study, about 20 sixth grade pupils in computer programming classes were introduced to a visual programming tool, called Scratch. Five classes were taken in the Period for Integrated Studies not to interfere with the students’ regular school day. Using information found from tests on labyrinths, the students’ artwork, and each student’s impression of the course from before and after the class was introduced, the student’s ability to use programming thinking logically, and to combine the control structure of programming (sequence, iteration, selection), was evaluated. It was found that most of the pupils already were able to construct an algorithm composed of sequences and iteration, although they did not fully understand selection. Moreover, the study revealed that most of the pupils have interest in computer programming learning.
Key words: Information education, Computer programming education, Scratch, Elementary school, Programming thinking