運動生理学実験実習における体力科学プログラミングの有用性について
三
み村
むら寛
かん一
いち*・秋
あき武
たけ寛
ひろし**・大
おお垣
がき直
なお也
や***・織
おり田
た修
しゅう輔
すけ***・汪 立 新
+ *保健体育講座・**日本体育大学大学院・***大学院保健体育専攻・+大阪ハイテクノロジー専門学校 (平成24年3月30日 受付) 本研究は,某専門学校生を対象に,体力科学プログラミングを通じて形態・体組成測定,体力測定,心拍数,血圧,最大酸素摂 取量,血中乳酸,血糖値,骨密度,脳波の測定および評価方法を学習させることを目的とした。その結果,学生1人1人が積極的 に学習に参加し,近い将来,彼らの職場で実践する運動処方や運動療法の基礎的な知識や実践方法について十分な理解やヒトが健 康で楽しい生活を送るための知識の習得が出来たことが示唆された。 キーワード:専門学校生,体力科学プログラミング,授業カリキュラム Ⅰ 諸言 我が国では,肥満や糖尿病,高血圧などの生活習慣病が原因で多くの人が亡くなっていることが問題となっ ている[8]。これらの問題に対して,壮年期死亡の減少や健康寿命の延伸と生活の質(“QOL”)の向上を目的 とした「21世紀における国民健康づくり運動」(健康日本21)や,「健康増進法」,「健康フロンティア戦略」な どの健康政策が行われている[11]。それらの政策の中には,運動習慣を身につけるという共通の目標がある。 運動をすることにより,生活習慣病の予防やその症状の軽減だけでなく,体力の向上やストレス解消などさま ざまな効果があることが報告されている[4, 5, 10, 15]。 最近,市民の健康ブームにより市民マラソン,フィットネスクラブ等に参加するスポーツ人口が増加する一 方,怪我や障害も増加する傾向にある。そのため,専門的知識・技能を身に付け,国民の健康指導・相談など を行う健康ケアトレーナーや人々の健康に関する様々な疑問や質問に答える健康管理士や,個人の身体や状況 に合わせた適切な運動を指導する健康運動実践指導者などの専門的なアドバイスを行う人も大変重要な存在と なる。また,スポーツ界において国内や世界にかかわらず,多くの日本人選手の活躍が目覚ましい。日本人に 限らず,世界中のスポーツ選手の実績も延びてきており,歴代の記録更新が多くなってきている。それゆえ に,現場での応急処置やスポーツ傷害の予防[12],リハビリテーションなどの選手のコンディションや競技パ フォーマンス向上のためのトレーニングメニューを組んだりする質の高いアスレティックトレーナーの存在が 今まで以上に重要となる。 某専門学校生は,運動を通じて健康をサポートする健康ケアトレーナーや健康管理士,健康運動実践指導者, 競技者に対してよりよいパフォーマンスをするためのサポートをするアスレテックトレーナーなどの資格取得 を目指し,スポーツ医学の視点から人の身体のしくみやはたらきの知識をもとに専門性を養うことで,スポー ツ現場をはじめ医療や健康,レジャーなどさまざまな場面で活躍できるように学習に取り組んでいる。また, 本校スポーツ学科は理論のみでは対応できない現場での様々な状況を想定し,測定や実験などのあらゆる実習 を行い,専門的な知識と技術を身に付けるカリキュラムとなっている。中でも,体力科学プログラミングは解剖生理学と共に必要不可欠な科目であり,全員が履修している。 そこで本研究は,某専門学校生を対象に,体力科学プログラミングを通じて形態・体組成測定,体力測定, 心拍数,血圧,最大酸素摂取量,血中乳酸,血糖値,骨密度,脳波の測定および評価方法を学習させることを 目的とした。 Ⅱ 方法 1.対象 対象は,大阪府下にあるH専門学校に所属する学生のうち,2010年度スポーツ科学科1クラス25名,2009年 度スポーツ科学科1クラス26名の2クラス,計77名(男子35名,女子42名)である。 2.場所 体力科学プログラミングを行う場所は,大阪府下にあるH専門学校の運動生理学実験実習室と大阪府下にあ るO大学運動生理学実験室である。 3.学習計画 本学習は,運動生理学における基本的な知識を習得するとともに,安全な実験方法を学習すること,あらゆ る年代の一般の人々におけるフィットネスや,患者や高齢者に対するリハビリテーションやアスレティックト レーナー職などの現場で役立てる技術を習得すること,測定されるだけでなく,測定する側に立ち実験を経験 すること,および単に測定を行うだけでなく,測定で得られた数値をコンピューターでデータ解析し,分かり やすくまとめるという能力を養うことで理解しやすい記録を自ら作成できることを目的としている。また,授 業には講師だけでなく,時には専門家を呼び,現場での活用例やより専門的な知識を習得できるようにした。 さらに,実験における安全を確保し,また学生の疑問に対して即座に対応できるように助手を配置した。 表1は体力科学プログラミングにおける学習計画を示したものである。本授業は,1コマ90分の授業を2コ マ連続して行った。1時間目は理論,知識の習得,2時間目は1クラスを6∼7グループに分け,グループで 各自役割を決め責任を持ち,安全に実験実習を行う。授業の最後にはまとめとして,実験実習では,どのよう な結果が出たかやなぜそのような結果が出たのかなどをグループで考察し,確認をさせる。 4.測定項目 1)形態および体組成測定 形態測定としてR.Martinの人体測定器を用い,新・日本人の体力標準[16]に記載された方法に従って,長 育,幅育,量育および周育の測定を行う。体組成として体脂肪率の測定を行う。体脂肪率はバイオ・インピー ダンス法及び皮下脂肪法(栄研式キャリパー)を同時に行う。なお,皮下脂肪法により得られた皮下脂肪は Nagamineらの式[9]により身体密度を求めた後,Brozekらの式[3]により体脂肪率を求める。 表1 体力プログラミングにおける学習計画(90分×2コマ/週) 学習項目 学習内容 第 一 回 オリエンテーション この授業の目的と学習項目の流れの説明とグループ分けを行う。 第 二 回 形態および体組成測定 形態および体組成について学習し,測定の正しい技能を習得し,実際に自分の身体的特徴(形態,体組成)を測定する。 第 三 回 体力測定 体力の意味,体力測定の項目や必要性について学習し,中高齢者に対する体力測定の注意点を知り,指導法を習得する。 第 四 回 パソコン グラフで表す。パソコンを用いて形態測定のレポートを作成する。測定結果を表または 第 五 回 心拍数測定 脈拍数,心拍数の違いを知り,測定方法を学習する。
第 六 回 血圧測定Ⅰ 安静時及び運動時の心拍数の変動について学習する。 第 七 回 血圧測定Ⅱ 自転車エルゴメーターを用いて運動時の心拍数・血圧変動について学習する。 第 八 回 パソコン 体力測定のレポートを作成する。Tスコアのグラフの作成をする。 第 九 回 最大酸素摂取量Ⅰと体力測定 最大酸素摂取量測定の直接法(呼気ガス分析)の測定方法について学習し,測定を行い,最大酸素摂取量を測定する。50m走,20mシャトルラン, ハンドボール投げの測定方法を学習し測定を行う。 第 十 回 最大酸素摂取量Ⅱ 最大酸素摂取量の間接法(外挿法,オストランド法)について学習し,最大酸素摂取量を算出する。また,直接法と間接法により得た値をコン ピューターを用いて,比較検討を行う。 第 十 一 回 血中乳酸と心電図 運動による血中乳酸濃度の変化を知る。心電図計の電極位置を確認し,使用法を習得する。 第 十 二 回 血糖値と骨密度 血糖値について学習し,正しく安全な測定方法を習得し,飲食による血 糖値の変化を知る。骨密度の影響する因子についての知識を得て,実際 に測定し,自分の値を確認する。 第 十 三 回 脳波と試験対策 脳波についての知識と測定方法を実習する。試験対策として今までの学習の再確認をする。 2)体力測定 握力,上体起こし,反復横跳び,全身反応時間,閉眼片足立ち,立位体前屈,長座体前屈,垂直跳び,立ち 幅跳び,肺活量,20mシャトルラン,ハンドボール投げの測定する[7]。 3)心拍数測定 安静時,運動時および回復期の心拍数と脈拍数の変動および,その差異を知るため,脈拍は,聴診法により, 右腕橈骨動脈15秒間の脈動数を数え算出する。心拍の測定は心拍数連続測定装置(ハートレートモニター: POLAR社製)により測定する。実験プロトコールは,安静時として,仰臥位,座位,立位をそれぞれ2分間 測定した後に,自転車エルゴメーター(COMBI AEROBIKE 820)を用い,60watt,の負荷から始め,1分毎 に30wattずつ上昇させ,180wattまで運動させた。その後,回復期として3分間,心拍数と脈拍数の測定を行 う。 4)血圧測定 体位によって血圧がどのように変動するのかについて測定するため,各体位(仰臥位,座位,立位)で十分 な安静状態を保った後,全自動血圧計(オムロン社)を用い,血圧を測定する。また,運動中および運動後の 血圧変動を知るため,自転車エルゴメーター(COMBI AEROBIKE 820)駆動における血圧変動において,全 自動血圧計を用いて測定する。運動実験プロトコールは座位安静時の血圧を測定した後,ウォーミングアップ として60wattの負荷で2分間,その後150 wattの負荷に増加して5分間の運動を行わせる。血圧測定は,安静 時,ウォーミングアップ開始1分後,運動終了直後,運動終了1分後,と3分後の計5回である。 5)最大酸素摂取量の測定(間接法と直接法) ①直接法 ・呼気ガス分析
呼気ガス分析機(MINATO AEROMONITOR AE280)を使用し,実際にトレッドミルを用いて測定を 行うため,安全な実験が進行できるように実験における役割について十分な説明を行った後,最大酸素摂
取量の測定を行う。実験プロトコールは,1分間の安静状態を保った後,90m/min.で1分間のウォーミン グアップを行い,その後,120m/min.,150m/min.,180m/min.で各々 3分間の走行を行った後,1分毎に 負荷を上昇させ疲労困憊(All Out)にまで追い込む。なお測定項目は心拍数,酸素摂取量,主観的運動 強度(RPE)である。 ②間接法 ・外挿法 自転車エルゴメーター(COMBI AEROBIKE 820)に組み込まれている最大酸素摂取量の算出原理を理 解し,実際に自分で計算するため,一定の負荷に対する心拍数を心拍数連続測定装置(ハートレートモ ニター:POLAR社製)を用いて測定する。実験プロトコールは,30wattで1分間のウォーミングアップを 行った後に,50watt,100watt,150watt,と段階的に負荷を上昇させ,その際の心拍数と負荷を記録用 紙に記入させる。測定した心拍数と負荷の値から,最小二乗法により直線回帰式を求めた。最大酸素摂取 量の推定は,予想最高心拍数に対応する負荷量(Wmax)を求め,下記の換算式により算出する。 最大酸素摂取量=1/5×1/0.232×0.014×(Wmax) ・オストランド法 最大酸素摂取量に際して最も一般的な間接法であるオストランド法について学習し,実際に実験を行う ため,自転車エルゴメーター(COMBI AEROBIKE 820)を用い,心拍数を心拍数連続測定装置(ハート レートモニター:POLAR社製)により測定する。実験は40wattで1分間のウォーミングアップを行った 後,負荷を上げて6分間の自転車駆動を行わせた。この際の負荷は心拍数が125~150拍/分になるよう調 節させた。最大酸素摂取量の推定は,オストランドの換算表(ノモグラフ)を用い,測定した負荷と心拍 数から算出する。 6)血中乳酸濃度 運動を行うことにより血中乳酸濃度がどのように変動するのかについて学習するため,乳酸測定装置(ラ クテート・プロセンサー アークレイ社製)を用い,血中乳酸濃度を測定した[17]。運動は自転車エルゴメー ター(COMBI AEROBIKE 820)を用い,最初の1分間は60wattでウォーミングアップを行わせた後,負荷を 30watt増加し自転車駆動を行わせる。これを3分毎に行い,負荷が180wattになるまで繰り返し,運動終了直 後に血中乳酸濃度測定のために血液を採取した。さらに,回復時の血中乳酸濃度について検討するため,3分 後に再び測定を行う。 7)血糖値 飲食により血糖値がどのように変化するのかについて知るため,ダイヤセンサーを用いて血糖値測定を行う。 測定後,最後の食事内容と食事を行ってからの時間を思い出させ記録用紙に記入させた。飲食による血糖値の 変化を見るため,市販の飴をなめさせ,その後血糖値を再測定させる。 8)骨密度測定 生活習慣が骨密度に与える影響について検討するため,超音波骨密度測定装置(CM-200 古野電気社製)を 用い音響的骨評価値を求めた。骨密度測定部位は右足踵骨であり,測定後に生活習慣に関するアンケート調査 を行う。 9)脳波 運動および外部刺激に対する脳波の変動について検討するため,脳波計(日本光電社製)を用いて測定した。 実験では,仰臥位の状態になり,開眼,閉眼,腕を動かすなどの軽い運動時に出る脳波を測定する。
Ⅲ 結果および考察 <授業形態について> 体力科学プログラミングは,週に1回,14週にわたって行った。2009年度は1クラス26名の2クラス,2010 年度は25名の1クラスで授業時間は1コマ90分授業を連続で2コマの180分であった。また,授業形態は1ク ラスを6∼7グループに分け,各グループで実験実習を行った。その結果,より効率よくなり積極的に生徒1 人1人が取り組み,協力しながら実験実習を行うことができたとうかがえる。90分授業連続2コマの1時間目 に理論,知識の習得,2時間目にグループに分かれ実験実習を行った。また,その日の授業の最後にまとめと して復習も行った。 写真1 授業風景 <形態および体組成測定> 形態および体組成測定は,身体特性を知る上で最も基礎になる分野で,生理学の基本的な分野にあたるもの である。また,アスリートの活動現場やフィットネス現場において運動処方を行う上で,身体的特徴を見る重 要な測定項目となる。内容は,形態測定としてR.Martinの人体測定器を用い,人体における計測点の正確な位 置をおさえ,長育,幅育,量育,周育の測定,体組成測定として皮下脂肪から算出する皮脂厚法や生体に微量 な電気を流してその抵抗から算出するバイオ・インピーダンス法を用いた体脂肪量の測定を行った。生徒1人 1人が注意しなければならないポイントや意識することなどを確認しながら行うことでより正確な知識と技能 を身につけることができたと考える。 各項目の測定の長所と短所を知り,3回の測定を行うことにより,十分な理解と現場の指導に役立てるよう な技術を習得したものと考えられる。 表2 対象の形態および体組成の測定結果 男子( n=35) 女子( n=42) 平均値 ± S.D. 全国平均値 ± S.D. 平均値 ± S.D. 全国平均値 ± S.D. 身長 (cm) 169.9 ± 6.6 171.3 ± 5.5 158.35 ± 5.31 158.9±4.8 ± 4.8 体重 (kg) 64.68 ± 7.63 63.4 ± 8.1 52.33 ± 11.2 51.5±6.52 ± 6.52 上肢長 (cm) 73.16 ± 3.74 73.4 ± 2.9 66.35 ± 3.41 67.0±2.8 ± 2.8 下肢長 (cm) 89.27 ± 5.96 87.7 ± 4.1 80.17 ± 1.32 81.2±3.7 ± 3.7 肩幅 (cm) 39.11 ± 3.45 39.1 ± 1.7 36.02 ± 2.85 35.0±1.3 ± 1.3 腰幅 (cm) 26.33 ± 1.94 27 ± 1.4 27.23 ± 2.02 26.7±2.1 ± 2.1 胸囲 (cm) 85.69 ± 10.17 86.6 ± 5.60 84.74 ± 7.53 81.5±5.3 ± 5.3 腹囲 (cm) 72.77 ± 4.65 71.8 ± 5.50 70.36 ± 7.17 63.4±5.6 ± 5.6 大腿囲 (cm) 53.81 ± 3.49 52.9 ± 3.9 50.97 ± 5.5 52.5±3.6 ± 3.6 皮下脂肪法 (%) 14.35 ± 5.6 12.5 ± 5.3 18.8 ± 18.8 16.6±5.3 ± 5.3 インピーダンス法 (%) 16.2 ± 5.6 23.8 ± 6.4
<体力測定> 体力測定は体力の身体的要素のうち,行動体力の機能を測定することで,体力年齢の測定や運動処方に役立 てることができる。この体力測定は各省庁または,年齢によって測定項目が異なる。まず,その項目が身体の どの能力を示すものかについて学習させた。次に,測定が安全かつ正確に測定できるようにしっかりと体力測 定についての基本事項を学習させた。現場での事例をもとに特に中高齢者に対する体力測定の注意事項や指導 法を学習させた。さらに,数種類の測定を大勢で行う場合の環境の整備や器具の設置場所などの細かな準備が 必要になることも学習させた。その後,教室と廊下で体力測定を実際に行った。測定項目は,我々が大阪府医 師会の依頼で行っている「健康展」の体力測定項目[6]と文部科学省が定めている体力測定項目を参考に測定 を行った。教室では握力,肺活量,全身反応時間,閉眼片足立ち,上体起こし,立位体前屈,廊下では,垂直 跳び,立ち幅跳び,反復跳び,長座体前屈を測定した。 測定は,グループ内で「測定する人」と「測定される人」に分かれて行った。この際に,測定する人は実際 に測定される人に対して,測定方法や注意事項を確認させた。また,安全に測定が行えているかどうかをグ ループのメンバーや教員が確認した。 グループ間で測定を行うことで,より細かなことを確認でき,疑問に思ったことや気付いたことを話し合い ながら行うことができた。図2は,Tスコアで示した体力測定結果である。 また,第9回の授業では,課外授業として大阪府下にあるO大学のグランドにて,20mシャトルラン(写真 2)とハンドボール投げの講義を行った。学生のほとんどが経験したことのある測定種目であったが,準備し たことのある学生は1人もおらず,特に,ハンドボール投げの測定に必要なラインの細かな準備などを学習さ せた時は興味を持ち積極的に動く生徒が何人もいた。 図2 Tスコアで示した体力測定結果 写真2 体力測定(20mシャトルラン) <心拍数,血圧測定> 心拍数は,日頃の健康管理や運動を行う際の運動強度の指標になるもので[1, 14, 19],自分の身体の状態を 知る上で重要となってくるものである。また,血圧も同様に健康管理や運動を行う際に大きく影響するもので ある。運動前と運動後の血圧の変化の様子で体調を知る指標にもなる。また,生活習慣病である高血圧や肥満 は,血圧が大きく関与している[2]。 それらを踏まえて,安静時,運動時および回復時の心拍数,血圧の身体変動について学習することを課題と して指導を行った。 授業の内容は,心拍数の変動について実験を行うにあたって基本事項である心拍数と脈拍数の相違について の講義を行った。心拍数とは1分間の心臓の電気活動を計数したものであり,対象者の体調チェックや運動時 のトラブルを防ぐと共に運動強度の設定などトレーニング効果を上げるためにも重要である。脈拍数は心臓の 収縮により1分間に動脈が脈打つ回数のことであり,運動場面において,特に運動終了時において心拍数とは 異なる数値を示すことを学習させた。これらを学習する事は学生にとって現場での運動指導中の事故防止およ び効果的な運動強度の決定に役立てるうえで大変有用である。これを踏まえたうえで,心拍数,脈拍数の測定 を行った。測定は仰臥位,座位,立位の3体位で行い違いを学習させた。
実験実習では,自転車エルゴメーターの実験を行うグループと心電図の使用方法について学習するグループ に分かれて授業を行い,測定者と被験者の両方の立場に立ち,出来るだけ多く経験させるようにした。 実験を行うにあたり,心拍数連続測定装置の使い方について説明し実験に臨んだ。自転車エルゴメーターを 用いて漸増的に負荷を増加させ,運動終了時には急速に減少することを学習した。また,性別,年齢が同じで あっても個人差があり,同一の対象者であっても測定方法(脈拍数と心拍数)によって誤差が認められ,運動 強度が高くなるにつれ触診法が低く測定されるなど触診法の限界を知ることもできたようである。対象者の申 告する疲労感(RPE)と合わせ,心拍数を確認することによって運動を安全に行えることを学習した。心電図 は安静時心電図を測定させたが,その際に専門家による使用法の説明を行った。また,心電図異常が見られた 時にそれが何を意味するのかについて学習させた。心電図波形の診断は医師のみが行うものであるが,標準12 誘導法の電極の位置を知り,波形を見てそれが何を意味するのかを理解しておけば,現場において役立つもの であると考えられる。 血圧変動についての学習では,まず,基本事項として最低血圧,最高血圧の説明を行い,次に血圧計の種類 と測定方法について説明した。正常範囲値より低い状態は低血圧症と呼ばれ,疲れが取れにくい,体が重くだ るい,耳鳴りや息切れ,貧血などで意識を失いやすいなどの症状がある。正常範囲値を超えた血圧が維持され ている状態は高血圧症とよばれ,生活習慣病の一つである。自己の血圧を知ることは日常の生活において重要 となる。実際に,血圧測定を行うと,学生は全自動血圧計による測定は経験がありうまく測定できていたが, 水銀圧計,アネロイド圧力計を用いた触診法では,全員が初めて行う方法で血圧帯(マンシェット)の巻き方 に戸惑いながらも,興味をもって取り組み,わからないときは質問してくる学生が多く見られた。また,これ らの測定では正確な方法で集中して行わなければ拍動音が聞こえず,測定が不可能なため,学生はうまく測定 できるまで何度も挑戦し,積極的に測定を行っていた。 次に,運動時における血圧変動の測定と安静時の体位の変化による血圧変動の測定をする実験を行った。図 3は,学生Fの実験結果である。運動による血圧変動は自動血圧計を用いて測定した。運動中は特に収縮期血 圧の上昇が顕著であるため,現場における安全対策として血圧がよく利用される。安静時の血圧変動は,自動 血圧計を用いて行った。学生は心拍数と同様に仰臥位,座位,立位といった3体位の変化に伴い,血圧も変動 することを学習した。 図3 学生Fの自転車エルゴメーターにおける血圧及び心拍数変動
表3 体力プログラミングカリキュラム実践例(第5回) 大阪ハイテクノロジー専門学校指導案 1.時間 5 月20日木曜日 2.学年・組 スポーツ科学 3.教材 運動生理学実験実習 4.本時の目標 ・脈拍の測定方法を学習し,心拍数との対応を検討する。 ・心電図および心拍数モニターの使用法を習得する。 ・心拍数の連続測定を行うことにより,安静時,運動時,回復期の心拍変動を確認する。 5.準備物 POLAR,ストップウォッチ6個,自転車エルゴメーター 6.本時の展開 時間 学習活動 指導上の注意 備考 10分 ・出席確認 ・本時の説明 ・黒板に授業の流れを板 書(事前に) ・5人1組のグループに分 かれて座らせる 80分 ・心拍数測定に ついて ・心拍数と脈拍数の相違について学習する。・心拍数…1分間の心臓の電気活動を測定したもので、 対象者の体調チェックや運動時のトラブルを防ぐと 共に運動強度の設定などトレーニング効果を上げる ためのも重要である。 ・脈拍数…心臓の収縮により1分間に動脈が脈打つ回 数のことであり、運動場面において、特に運動終了 時において心拍数とは異なる数値を示すことを学習 ささせる。 ・ 脈拍の正しい測定法を習得する。 ・一定時間拍動数計数法の時間による差異を知るとと もに安静時による仰臥位、座位、立位の体位の変化 による心拍数の違いを知る。 ◎測定方法 被験者の第2、第3、第4の指頭を被験者の手首内側 の橈骨動脈上に置き、軽くおさえて所定(15秒、30秒、 60秒)の拍動を数える。 ・ 測定するときは静かに安静状態で測定する。 ・ 心拍数連続測定装置の使用法を習得する。 ・ 安静時(仰臥位、座位、立位)、運動時および回復 期の心拍数と脈拍を測定する。 ・心拍数(heart rate:HR) ・脈拍(pulse) ・グループで協力し、注 意点をおさえながら実 験する。 2 時 間 目 ・心拍数連続記録 (実験実習) ◎測定方法自転車エルゴメーターでの運動 各安静時体位で2分間過ごした後、自転車エルゴメー ターにより運動開始。 プロトコールはウォーミングアップ1分間(60wat) の後、1分ごとに30wattずつ負荷を上昇させる。最 高負荷200wattとする。 その後、3分間の座位安静状態を保つ。なお、体位 や負荷の変化前15秒間、および回復期の1分ごとの 脈拍も同時に測定する。 ・対象者の申告する疲労感と(RPE)合わせ、心拍数 を確認することによって、運動を安全に行えること などを学習する。 ・ 運動強度の増加および回復期による心拍変動を知る。 ・ 性別・年齢が同じであっても個人差がある。 ・ 同一の対象者であっても測定方法(脈拍数と心拍) によって誤差が認められ、運動強度が高くなるにつ れ触診法が低く測定されるなど触診法の限界を知る こともできたようである。 現場の環境によって測定方法を特定される場合もあ るが、その特性を知る必要がある。 ・グループで協力して、 各自役割分担し測定す る。 ・心拍数は運動の強度が 増加するとともに増加 することや、運動終了 後には急速に減少する ことを学習させる。 80分 10分 ・まとめ ・これらを学習することは学生にとって現場での運動指導中の事故防止および効果的な運動強化の決定に 役立てるうえで大変有用である。
<最大酸素摂取量の測定> 最大酸素摂取量とは,単位時間あたりにその人が取り入れることのできる酸素の量のことで,この値が高け れば高いほど,高負荷の運動をすることができる。つまり,全身持久力の指標として最もよく用いる。競技選 手においては運動能力を知る一つの指標としてよく用いられている。また,中高齢者の運動処方を行う際にも 最大酸素摂取量は運動処方作成の資料の一つとしてよく用いられる。すなわち,本学習項目は,将来,病院や スポーツジムの就職を希望している学生にとって大変重要な授業であると考えられ,最大酸素摂取量の授業に 時間をかけて指導を行った。 学習内容は,まず最大酸素摂取量測定における直接法として呼気ガス分析機による算出法の学習,運動時 の酸素摂取量の変動を知るとともに,最大酸素摂取量,AT(VT)の意味を確認することを課題として指導を 行った。はじめに,基本的な心肺機能に関する知識を得るために,酸素摂取量とは何か,またその仕組みにつ いて学習させた。さらに,AT(Anaerobic threshold)とは何かを理解させ,その指標とされるVTの意味,仕 組みについて学習させた。次に,トレッドミル,呼気ガス分析機,心拍連続測定機を用意し,それぞれの機械 の使用方法を学ばせた。それぞれの機械の使用方法を学んだ後,実践としてトレッドミルを用いた運動負荷テ スト時における酸素摂取量の測定を行った。この測定を行う前に,安全かつ正確に実験を行うためには,役割 分担を行い,複数の人で行わなければならないことを理解させた。各役割の仕事内容は,監督,機械操作,タ イムキーパー,速度調節,補助,記録,RPEがあり,教科書に説明が書かれているのでしっかりと確認させた。 また,事故,およびハプニングを想定した動きも行わせ,それぞれの役割の重要性を理解させた。実験を行う 時に,被験者に呼気ガス分析機のマスクを装着することで,マスク装着時には話すことが出来ないということ を身を持って理解させ,酸素摂取量測定時には測定者と対象者との間の合図が重要であることを学習させた。 その後実際にトレッドミルを用いた運動時の酸素摂取量を直接法により測定させた。 次に,最大酸素摂取量の測定における間接法の測定方法および算出方法を学習させた。間接法には外挿法と オストランド法があり,中高齢者などを対象とした運動処方等を行う際によく用いられている。これらの間接 法は運動途中で最大酸素摂取量が算出できるため,中高齢者を対象として測定を行う際にも安全であり,重要 であることを理解させた。外挿法とオストランド法はともに自転車エルゴメーターを用いて運動を行い,心拍 数の測定を行った。この時,グループに1台の自転車エルゴメーターを用い,対象者,記録,負荷(補助)と 1人1人が役割を持ち,常に実験に参加できるようにした。 オストランド法はある一定の強度の負荷を一定時間(通常6分間)行い,その時の負荷値と心拍数から換算 表(ノモグラフ)によって最大酸素摂取量の推定値を求める方法であることを学習させた。換算表を用いた推 定値は容易に換算できるため,学生も抵抗なく換算していた。 外挿法は最大運動負荷テスト時に各負荷段階における心拍数とその負荷強度における酸素摂取量が直線関 係にあることから,多段階漸増負荷テスト(最低3点)による負荷(W)と脈拍の関係から直線回帰を求める。 そして,推定最高脈拍に対応する仕事率(Wmax)を求め,その値を最大酸素摂取量に換算する方法であるこ とを学習させた。外挿法の算出では,Microsoft Excelを用いて外挿法により測定した心拍数および,負荷を 入力し,直線回帰式を求め,その後,計算式に代入することにより最大酸素摂取量を換算させた。計算式だけ みて説明しても,理解できる学生はほとんどいなかったが,先に自分自身で直線回帰式を求めさせることで, 心拍数,負荷,最大酸素摂取量の関係を理解し,計算式による算出方法を理解しやすくなったと考えられる。
写真4 トレッドミルによるオールアウトの実験風景 <血中乳酸濃度測定> 血中乳酸濃度測定では,運動中における血中乳酸濃度測定の変化を知るということを目的とした。まず,基 本事項として,乳酸について学習させた。 ATP(アデノシン三燐酸)がADP(アデノシン二燐酸)とP(燐酸)に分かれた時に生じるエネルギーに よって筋肉を収縮させることで運動を行うことができる。このATPの再合成には3つの供給機構があるが,酸 素を使わずに糖を分解した時に乳酸が産生される。この乳酸が筋肉中に多く産生されると,筋の作業能力が低 下することから,一般に乳酸は疲労物質としてしられている。即ち,血中乳酸濃度測定を行うことで運動時の 筋肉の疲労度がわかるため,重要な分野である[17]。また,運動強度を徐々に増加させて運動を行うと,血中 乳酸濃度の上昇率が増加するポイントがある。これを乳酸閾値(Lactate Threshold: LT)といい,運動処方を 施す際に無酸素作業閾値(Anaerobic Threshold: AT)として扱われることがある。血中乳酸濃度の上昇屈曲 点であるLT,さらに血中乳酸濃度が4mmolの地点であるOBLA(Onset of blood Accumulation)の意味および 仕組みについて学習させた。LTについて学習することは運動処方における運動強度決定に大変重要な項目で ある。 実験実習では,測定を行う際採血を行うが,採血を行うにあたって,必ず新しい針を用いること(人の使っ た針は使用しない),センサーには手で直接触れないようにすること,使用後の針は必ず専用のごみ箱に捨て ることなど安全かつ衛生的な測定を学習させた。実際に,血中乳酸濃度測定をすると,自分の疲労度を血中乳 酸濃度として目で見て理解できることに興味を示していた。また,慣れない採血でうまく採血が出来ず,何度 も自分の指に針を刺しながら苦労しながら測定を行っていた。 <血糖値,骨密度,脳波測定> 生活習慣病に対して運動の効果を取り入れた処方を行うものとして,高血圧や肥満の他に糖尿病や骨粗鬆症 などがある[13]。糖尿病患者にとって自己の血糖値を知ることは日常の生活において大変重要となる。骨粗鬆 症においては,骨塩量(骨中のカルシウム量)がピークにある20歳代から注意を払う必要がある。血糖値に ついての学習は,糖尿病は遺伝的要素が強いこと[18]などの基本知識を教えると,より興味をもつ学生がおり, 自分の血糖値を気にする学生が多くいた。血糖値測定も,血中乳酸濃度測定同様に採血を行うので,採血,測 定時の注意点を再確認させた。採血が2回目ということもあり,スムーズに測定を行うことが出来ていた。 骨密度測定において,骨の基本的な知識,骨密度とは何か,またどのようにすれば骨密度が上昇するかと
いった基本事項を学習することは,骨粗鬆症予防の重要なことである。 骨密度測定では,X線を用いず,手軽に使え,検査を受ける人にも安全な検査法である超音波法で測定を 行った。その後,我々が使用している機械は,各自の骨密度から自己の年齢に対する骨密度評価が表記されて おり,自分の測定結果に大変興味を持っていた。 脳波測定では,専門家から脳波についての知識を学び,脳波測定機の使用法の説明を学習した。脳波の波形 は読み取りが難しく,困難である。しかし,脳波につい て学習する事は,運動精神的活動に及ぼす効果を知るう えで重要である。 脳波測定を行う際には,代表で3人の学生が被験者とな り,その学生のパートナーが専門家の指示に従い電極を貼 るポイントを確認し測定を行った。脳波の説明は,測定と 同時に実際にモニターに映っている学生の脳波を見ながら 行った。学生は興味深く脳波形のモニターを見ており,被 験者の学生に話かけたり,被験者の学生が動いたりするこ とにより変化する波形に興味を持っていた。(写真5) <データ処理> 2週分の授業が終えてから授業で測定した記録をMicrosoft社のExcelを用いてデータ入力し,さらに統計処 理を行った。その際に,パソコンの起動方法や統計処理に必要なExcelの基本的な操作方法を学習させた。 形態および体組成測定,体力測定のデータ処理では,まず結果を入力させ,同時に全国標準値を入力させ, 比較を行った。また,今回は自分たちが今まで行っていた競技の種目別の標準値も調べさせ,比較を行った。 形態および体組成測定の比較ではExcel内にあるグラフの中から見やすくて理解しやすいグラフを自ら選択し 実際にグラフで表した。 体力測定の結果は全国標準値を50とするTスコアを算出させ,レーダーチャートのグラフを作成させた。T スコアとは,各々の年齢,性別ごとに全国標準値に対する各体力測定項目を点数化したものである。Excelを 使用したデータ処理をしたことがある生徒はほぼおらず,クラスのほぼ全員が初めてたったので1つ1つ丁寧 に作業の手順をMicrosoft社のPower Pointを用いて教室のスクリーンに映しながら授業を進めた。それでもわ からない生徒に対しては,補助に入っている先生が指導しながら行った。 そして,作成したグラフをMicrosoft社のWordに貼り付け,今回の実験実習で学んだことや,気付いたこと など,注意しなければならない点などを書き,レポートとして提出させた。 Ⅳ まとめ 本研究は,某専門学校生を対象に,体力科学プログラミングを通じて形態・体組成測定,体力測定,心拍数, 血圧,最大酸素摂取量,血中乳酸,血糖値,骨密度,脳波の測定および評価方法を学習させたところ,以下の 知見を得た。 1.安全に実施するための注意事項や最新機器の操作方法およびコンピューターでの解析処理方法を取得する とともに,対象者の目的によって測定方法を選択する必要があることを学習し,運動処方,運動療法実施 のノウハウを取得することができた。 2.学生1人1人の活動が活発で積極的に学習し,学生は運動処方,運動療法の実施において,現場で十分貢 献できるだけの知識と技術を習得したものと考えられる。 3.本体力科学プログラミングの授業カリキュラムが有効で,かつ学生に親しみを持って受け入れられたこと が示唆された。 写真5 脳波の単元の授業風景
参考文献
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The Usefulness of Physical Science Programming in Exercise Physiology Experiment MIMURA Kan-ichi*, AKITAKE Hiroshi**, OGAKI Naoya***,ORITA Shusuke*** and Wang Lixint+
* Department of physical education, Osaka Kyoiku University
**Graduate School of Health and Sport Science, Nippon Sport Science University
***Graduate School of Education(Master Course)Health and Physical Education, Osaka Kyoiku University + Osaka College of High Technology
The purposes of this study reflected whether it exercised physiology experiment which made the assignment acquire more practical knowledge and technology looking over revisits on the usefulness of the curriculum of physical science programming for a vocational school's students. As a result, every person's activity could be activated and got to be positive. so as to let more knowledge and skills acknowledged during the establishment of exercise prescription and exercise therapy. In comclusion, it was suggested that the curriculum of physical science programming is effective.