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教育実習生の道徳教材開発への支援に関する試み-香川大学学術情報リポジトリ

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教育実習生の道徳教材開発への支援に関する試み

伊 藤 裕 康

Ⅰ はじめに―私の道徳授業の原風景から―  筆者の道徳授業体験で記憶に残るのは中学校である。その他は全然記憶にない。好ましい意味で 記憶に残っているのではない。文部省指定の道徳教育研究発表会が中学校2年生時にあった。当 時、筆者は室長(学級委員)だった。2年生になり急に学級会が増え、その司会に苦労したのを覚 えている。公開発表に向けた布石だった。研究会当日まで道徳授業が毎週欠かさずあった。道徳授 業の度、教師の望む答えを先回りして答えるのが道徳の時間と思った。研究会当日の資料も答えが 容易に分かるものだった。授業では誰も発言せず、重苦しい雰囲気がクラスを包んだ。室長として 責任を感じた筆者は、意を決し先生が望む答えを発表した。筆者の発表を皮切りに発言が出始め た。次週の朝会、校長先生が「文部省の先生(道徳の教科調査官か)が研究発表を大変褒めておられ た」とおっしゃられた。筆者は「そんなことないのに」と思った。教員養成大学で受けた道徳授業も、 道徳教育の歴史や原論等である。テキストは村井実著『道徳は教えられるか』国土社であった。名 著ではあるが、現場では必ず道徳授業をすることになる。学生が教育現場に出て直面することを射 程に入れた授業をしてほしかった1)。教育実習では道徳授業を必ずすることになっていた。「意味」 の見いだせない中学校での道徳授業体験と道徳授業方法の欠落した道徳教育法の授業体験しかない 筆者は大変困った。同じ学校に配属された友人から二分法を教えてもらい、四苦八苦して実習を終 えたことを覚えている。  教育現場に出てからは子どもに申し訳ないと思いつつ、しばらく満足に道徳授業ができなかっ た。教育現場を経て教員養成の現場に身を置き、毎週道徳授業を受けた体験があるだけ、教育実習 で道徳授業をさせてもらえただけで幸運だったことが分かった。現場では毎週道徳授業をする学校 は少なかった。また、前任校のH女子大学でも、筆者が本実践をした頃の香川大学教育学部でも、 学生達は教育実習で道徳授業をしないことがしばしばあった。筆者の如き苦労は学生にさせたくな い、何より子どもがかわいそうである。そこで、道徳教育担当ではなかったが、社会科教育研究室 の学生の教育実習での道徳教材づくりを支援した次第である。  ところで、「特別の教科 道徳」の設置が決まった。恐らく今後は増えていくであろうが、校内 研修などで道徳を扱う学校は必ずしも多くない。にもかかわらず、若年教員が増え、道徳の授業技 術や豊かな指導方法などの伝授も難しい状況である。また、香川県の道徳教育関連研究団体などに おける若手教員の参加も伸び悩んでいる状況である。道徳教育を担う教師は如何にキャリア形成を しつつ実践力を研修するかが、重要な課題となっている。道徳教師としての最初の体験が、教育実 習中の道徳授業であろう。まずは、教育実習中の道徳授業経験を豊かにしていくことが求められ

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る。前述した教育現場における道徳教育の状況の中、最近の香川大学教育学部においては、附属学 校教員の協力を得て、ほとんどの学生達は教育実習中に道徳授業を体験している。そこで、教育実 習中の道徳授業経験を豊かにすることに少しでも資することができないかと考え、教育実習生の道 徳教材づくりへの筆者の支援の様子を報告する次第である。 Ⅱ 教育実習生による道徳教材づくりの実際 1 筆者の支援の基で教育実習生が自作したジレンマ資料  筆者は、環境問題に関するジレンマ資料を基に討論授業をすれば、「意味」ある環境学習が成立 すると考え、資料を自作し、授業にかけたいと思っていた2)。そこで、資料づくりから関わって、 教育実習生にモラルジレンマ授業経験をさせてみようと思った。そうすれば、その教育実習生に限 られるが、道徳授業経験をせずに実習から帰ってくることはないと思った次第である。  次の資料は、O生が教育実習授業当日(2004年9月22日4時29分)までかかって完成したもので ある。なお、作成当時はほとんどの人が「ツバルって何」という状況であり、地球温暖化によるツ バルの水没の危険性について今ほど認知されていなかった。 総合まんでがん資料 「ツバルの決断」 2004.9.22(水)  南太平洋に浮かぶ9つの小さな島から成る美しい島国である。人口約1万1000人のこの国は、世界 の中で最初に沈む国といわれ、危機にさらされている。平均海抜1m以下、最高標高は海抜4.5m。満 潮時には海から、また地面の下から吹き出る海水の浸入で、島は洪水状態となる。激しいところでは 大人の胸のあたりまで水位があがってくる。内陸部からわきでる海水と海からの浸水で逃げ場もきわ めて限られており、このままでは島が沈んでしまうのは、もはや時間の問題であるとツバル国民は考 えている。  そこで、ツバルの首相は2000年2月、国が完全に沈む前に全国民を国外に移住させるという決断を 下した。オーストラリアとニュージーランドに移民の受け入れを要請したところ、オーストラリアは 拒否、ニュージーランドは2002年から年間75人のツバル人を毎年労働者として、永住を前提とした移 民の受け入れをおこなうことに合意した。  毎年75人の移住者はニュージーランド政府の決めた条件のもと、受け入れ側であるニュージーラン ドが抽選をおこない、決定する。申請条件は次の通りである。 ☆申請条件 ・18-45歳であること ・英語コミュニケーション能力があること ・ニュージーランドでの職があること(家族を伴う場合は年収28,276NZ$以上)  ※28,276NZ$=約195万円 (ツバルの平均年収は日本円で72万円) ・違法滞在歴がないこと  ツバルの首都フナフチに住むフアロパさんはおじいさん、おばあさん、奥さん、息子3人、娘2人 の9人家族である。フアロパさんも島が沈むことに不安を感じている国民の一人である。フアロパさ んの住むところにも変化が起こっている。先祖代々受け継いできた畑は、2、3年前から急に塩水を かぶるようになり、作物はとれなくなってしまった。主食となるプラカ(タロイモの一種)の葉は黄色 く変色し、根も腐ってしまった。また、10年ほど前まで飲み水として利用していた井戸の水も塩水へ と変わってしまい、生活用水にまで被害が及んでいる。さらに昨年は海水が来なかった場所まで、浸 水するようになり、いよいよ事態は深刻化してきた。海岸浸食が一気に進み、近くの島が波に流され てしまった。フアロパさんが子どもの頃からよく遊びに行った思い出の島も、ある日突然海の下に沈 んで、今はやしの木の先の方が海面からのぞいているだけとなっている。

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 ツバルはついにいつ沈んでもおかしくない状態にまでなってしまった。フアロパさんは、一刻も早く 国を出て家族を安心させてやりたいと思い、先月移住希望申請の登録を済ませた。つい先日、移住申請 の抽選がニュージーランドでおこなわれ、その結果フアロパさんの家にも当選の通知がきた。以前から 移住を強く願っていたフアロパさん一家は大喜び。しかし、一緒に住んでいるおじいさんとおばあさん だけは違っていた。おじいさん、おばあさんは今までずっと国内で生活しており、ツバル以外の国に渡 ることに不安を抱いている。ツバルはおじいさんとおばあさんの思い出がいっぱい詰まっているところ なのだ。フナフチ島のみんなに祝福されて結婚式をあげた教会、家族で協力して育てたプラカの畑、ど こまでも続く青い空、海に沈む大きな夕日……自分の生まれた土地を離れたくない――それはフアロパ さん自身も同じである。また、熱心なキリスト教徒であるおじいさんとおばあさんは、政府がなんと言 おうが、科学者がなんと言おうが、神はノアの方舟以来二度と洪水を起こさないと約束したのだから、 ツバルが沈むことはないと信じている。また、もし沈むとしてもツバルと共に沈んで死ぬなら本望だと 主張している。しかし、おじいさんとおばあさんは口に出しては言わないが、家族と一緒に今までどお りツバルで生活を続けたいと思っている。フアロパさんはおじいさんを思い切って説得してみた。  フアロパ「父さん、僕だってつらいんだ。父さんだけでなく、僕もこの島で育ったんだから父さん の気持ちは痛いほどわかるよ。でも、いつこのあたりも沈んでしまうかわからない。この機会を逃す と、あとはないんだよ。」  おじいさん「神様はノアに二度と洪水は起こさないと約束なさった。それに何百年も前に祖先がツ バルに移り住んで以来この島は沈んでいないじゃないか。ニュージーランドにツバルのような美しい 海や豊かな自然があるといいきれるか?移住してしまえば、今までのような島での楽しい生活はもう できなくなるんだぞ。それでもお前はいいのか。」  それを聞いたフアロパさんはだまりこんでしまった。  刻一刻と申請期間はせまってきている……この移住申請を諦めると今度はいつその権利が得られる かは分からない。フアロパさんは困ってしまった。(下線部は9/21の筆者助言後に付加された文章) 【フアロパさんはおじいさん、おばあさんを置いてニュージーランドに行くべきか、それとも家族み んなでツバルに残るべきか? それはなぜか?】 ( ニュージーランドに行く  ・  ツバルに残る )  理由 資料:ツバルの位置とその島分布地図

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2 教育実習生による資料自作の過程  先に紹介したジレンマ資料を、O生が作成するまでの過程を述べる。 1)教育実習生による資料づくりの発端  筆者は、当時、附属坂出中学校の安藤孝泰教諭(現善通寺中学校校長)と連携して同校の選択社 会の授業を実践していた。筆者担当の「社会科授業研究Ⅰ」は、その選択社会の授業に学生による 飛び込み授業を位置づけ、2004年度は3年目をむかえていた。2004年度の「社会科授業研究Ⅰ」で の学生の飛び込み授業で、社会科教育研究室所属のO生が、授業展開が上手く、生徒とのやりとり も上手いことを知った。O生が主免の教育実習が附属坂出中学校であることが分かった。安藤教諭 との間には親密な人間関係ができている。多少の無理もきいてくれるし便宜もはかってくれる。そ こで、「教育実習中に環境問題に関する資料を自作してモラルジレンマ授業をしないか」とO生に 持ちかけた。O生も授業をすることに前向きだった。そこで、早速、安藤教諭にO生の環境問題に 関する自作資料での道徳授業の場の設定を依頼した。安藤教諭より、道徳での実施は無理である が、総合「まんでがん」の時間において実施の場を設定しようとの確約をもらった。かくして、O 生を指導しての道徳教材づくりが実習開始前から始まった。 〈8月22日〉  O生15時に来研する。モラルジレンマの簡単な説明をする。地球温暖化で沈むモルジブを題材に した資料の自作を持ちかける。ただ、何をもとにジレンマさせるか、伊藤もまだ確たるものがな かった。研究室にてインターネットでモルジブと地球温暖化を調べるが、使えそうな情報は探せな かった。とりあえず、モルジブと地球温暖化を調べておくよう指示する。また、モラルジレンマ関 係の文献2冊(荒木紀行編著『モラルジレンマ資料と授業展開 小学校編』、明治図書、1990、荒木 紀行編著『資料を生かしたジレンマ授業の方法』、明治図書、1993,荒木紀行編『モラルジレンマに よる討論の授業 中学校編』、明治図書、2002)をO生に貸し出し、読んでおくよう指示する。 〈8月30日〉  台風16号来襲する。地球温暖化の影響も懸念される異常な気候である。高松では高潮となり、死 者1名を出す被害を被り、市街地は一面海水に浸かる。筆者はこの経験を教材化すべきであると考 えた。 〈9月1~2日〉  O生、自宅にてインターネットでモルジブと地球温暖化を調べる。 2)モラルジレンマ資料の舞台をモルジブからツバルへ変更する  筆者は、モルジブを題材にした場合、如何なる者に役割取得して考えさせるかなど地球温暖化と 絡めたモラルジレンマ資料づくりに困難を感じていた。そんな折り、地球温暖化の為に水没が懸念 されているツバルが、国民を他国に移住させる計画をしていることを思い出した。そこで、地球温 暖化と絡めたモラルジレンマ資料づくりは、ツバルを題材にすることを決める。早速、宮脇カル チャータウンに出かけ、子ども向けの書籍、遠藤秀一著『ツバル―海抜1メートルの島国、その自 然と暮らし―』、国土社を見つけた。 〈9月6日〉  O生来研する。遠藤秀一著『ツバル―海抜1メートルの島国、その自然と暮らし―』、国土社があ ることをO生に示す。研究室にてO生とともにツバルをインターネットで調べる。筆者は、オース トラリア首相に役割取得させた資料作成が考えられることをO生に話す。その際、あくまでも事実 に基づいて資料を作成すること、事実と違うことを記述しないよう心がけるようにO生に伝える。

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〈9月7日〉  台風18号来襲する。O生、自宅にてインターネットでツバルと地球温暖化を調べる。 〈9月10日〉  O生、高松市図書館で、神保哲生(2004)『ツバル―地球温暖化に沈む国』春秋社を見つけ、借り て一日で読む。夜、筆者、O生に電話し、進捗状況を報告することの大切さ(ほうれんそう)を伝 える。 〈9月11日〉  O生15時に来研し、神保哲生(2004)『ツバル―地球温暖化に沈む国』春秋社を持参する。同書を 見て、筆者は、オーストラリア首相に役割取得させる困難を感じた。そこで、ニュージーランドの 移民相に役割取得することに変更する。ニュージーランドの移民相が移民受け入れ枠を拡大するか 否かの意思決定で悩むという状況設定を構想する。研究室にてO生とともにツバルとニュージーラ ンドをインターネットで調べる。 〈9月12日〉  夜、O生来研する。研究室にてO生とともにニュージーランドドルについて調べる。O生に、モ ラルジレンマは、エゴとスーパーエゴ(良心)との対立ではないことを説明する。 〈9月13日~10月8日〉O生、附属坂出中学校にて教育実習を行う。 3)役割取得をニュージーランドの為政者からからツバルの住民へ変更する 〈9/16〉  O生、一日の教育実習を終え21時30分に来研する。O生が作成してきた未完の「ダンゼル移民相 の悩み」①と段階表を検討した。検討する中で筆者は、点線部、特に「なければ想定する」ことに無 理があり、事実と反した資料になる可能性が高いと判断した。そこで、「ダルゼル移民相の悩み」 ②に変更する。ダルゼル移民相が、移民受け入れに批判的なニュージーランドの国状から移民枠拡 大で悩む設定から、一度移民枠拡大を受諾すると、いざという時に温暖化の影響を受けるツバル以 外の国からも移民が集中することを危惧する設定に変更した。設定変更したので、段階表は検討し なかった。 「ダルゼル移民相の悩み」①  ツバル――南太平洋に浮かぶ9つの小さな島から成る美しい島国である。人々は主に漁業を行い、 近隣諸国に出稼ぎにいって生計をたてている。この国は、世界の中で最初に沈む国といわれ、危機に さらされている。ツバル首相は2000年2月、ついに国が完全に沈む前に全国民を国外に移住させると いう決断を下した。  その結果、ニュージーランド政府は(ツバル首相から移民の受け入れを依頼され、)2002年から年間 75人のツバル人を毎年労働者として、永住を前提とした移民の受け入れをおこなうようになった。  (これ以前に、ニュージーランド政府とツバル政府の間には「出稼ぎ制度」があり、毎年約80人のツ バル人がニュージーランドに働きに来ていた。これは期間3年で、その後はツバルに戻ってこなけれ ばならないものであった。)  しかし、移民受け入れをしたことによってニュージーランドでは・・・(治安が悪くなったなどニュー ジーランド国民による批判の声があがったという資料があればよい。なければ想定する。)といった声 があがった。  ある日、ニュージーランドのダルゼル移民相のところに、ツバル首相から次のような申し出があった。  『ツバルには全部で1万1000人の国民がおります。現在の年間75人の受け入れでは、島が沈む前に 全国民を移住することはできません。オーストラリアにも受け入れを断わられ、頼れるのはニュー

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ジーランドしかないのです。どうか少しでも早く全国民が移住できるよう、受け入れの人数の拡大を していただけないでしょうか。ダルゼル移民相は受け入れの拡大化をはかるべきなのか、これまで通 りの受け入れを続けるべきなのか *この教材では、A(責任・信頼・生命尊重・郷土愛)、B(社会秩序・規律・集団生活の向上・郷土愛・ よりよい社会の実現)の価値のあいだで起こる葛藤を取り扱う。 「ダルゼル移民相の悩み」①判断・理由づけの道徳性発達段階 価値分析表 受け入れを拡大すべき 思いやり・国際親善 現状維持よりよい社会の実現・向上心 【段階1 他律的な道徳性】 ・ツバルの人から感謝される。 ・ツバルの人をうけいれるとニュージーランド 国民から責められる、批判をうける。 【段階2 個人主義、道具的な道徳性】 ・ツバルの人はニュージーランドに移住するこ とで国の危機を免れる。 ・ツバル首相の願いがかなう。(完全に沈む前 に全員助かる。) ・温暖化問題に熱心に取り組んでいることを国 際的にもアピールできる。 ・ニュージーランドも沈むかもしれない ・ニュージーランドだけが背負う問題ではない。 ・他に経済的に豊かな国が請け負うべきだ。 ・今いっぺんに受け入れなくても時間をかけれ ば全員が移住できるのだからよいではないか。 ・受け入れるとニュージーランド国民の生活が おびやかされる。 【段階3 対人的規範の道徳性】 ・ツバルとの友好関係がより深まる。 ・ツバルの人はがっかりしてしまうだろう。 ・ツバルの人に申し訳ない。 【段階4 社会システムの道徳性】 ・ニュージーランドもいつ沈むかわからないの だからお互い様だ。 ・ツバルを受け入れることで自分の国が沈みそ うになったときに助けてもらえるだろうという 保障を考えて。 ・ツバルを受け入れることで他の沈みそうな国 を今後受け入れていく必要性がでてくる。 「ダルゼル移民相の悩み」②  ツバル――南太平洋に浮かぶ9つの小さな島から成る美しい島国である。人々は主に漁業をおこな い、近隣諸国に出稼ぎにいって生計をたてている。この国は、世界の中で最初に沈む国といわれ、危 機にさらされている。(なぜ世界で最初に沈む国といわれているか・・・)ツバル首相は2000年2月、 ついに国が完全に沈む前に全国民を国外に移住させるという決断を下した。オーストラリアとニュー ジーランドに移民の受け入れを要請したところ、ニュージーランドは2002年から年間75人のツバル人 を毎年労働者として、永住を前提とした移民の受け入れをおこなうことに合意した。  ツバルのフナフチ島に住むラウペパさんは  温暖化に起因する海面上昇で沈みそうな国はツバルだけではない。ツバル国民の移民を拡大するこ とで、ツバルに続くほかの国々からも、次から次へと人々がニュージーランドへと移民の申し出がで てくると考えられる。南太平洋はおろか世界中の沈みそうな国々からいっせいに移住したいと申し出 る人々がニュージーランドに集結することが考えられる。  ダルゼル移民相は受け入れの拡大化をはかるべきなのか、これまで通りの受け入れを続けるべきなのか。 *この教材では、A(思いやり・国際親善・責任・信頼・生命尊重・郷土愛)、B(社会秩序・規律・集 団生活の向上・郷土愛・よりよい社会の実現)の価値のあいだで起こる葛藤を取り扱う。 〈9/16 23:59〉

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 この日は、最終的に役割取得の対象をニュージーランドの為政者からからツバルの住民へ変える ことにした。それは、ニュージーランドの為政者がモラルジレンマする仮定はありそうなことでは あるが、より現実性の高い状況設定を求めてのものであった。O生は、まだモラルジレンマ授業の 授業展開がイメージできていなかったので、モラルジレンマ資料「ロンとわかれたくない」の授業 ビデオをO生に貸し出した。 4)携帯電話・メールでのやりとりをして  9月17日から19日の間、筆者は立教大学で開催される日本教師教育学会に参加した。O生への直 接指導ができなくなるので、その間は、携帯電話や携帯電話でのメールを使ってのやりとりを行っ た。9月17日は学会出発直前までO生に指導を続けた。役割取得の対象をニュージーランドの為政 者からツバルの住民に変更した。そこで、設定を次のようにして資料を作成するよう助言し、学会 に出かけた。働き盛りのツバルの男性が家族を守るため移住の申請をしたところ、めでたく認めら れるところとなった。ところが、彼の両親が愛着のあるふるさとツバルから移住することに反対し ている。さあ、どうするかという設定である。  〈9/17 ①〉と〈9/17 ②〉の資料において下線は付加部分、並線は修正部分、点線は削除部分であ る。①と②を比較すると、〈9/17 ②〉の方が詳細になっていることが分かる。資料の作成にむけて、 努力しているO生の様子が分かる。 〈9/17 ①〉  ツバル――南太平洋に浮かぶ9つの小さな島から成る美しい島国である。海抜1メートル以下。こ の国は、世界の中で最初に沈む国といわれ、危機にさらされている。満潮時には、地面から海水が湧 き出て、海からも海水が浸入してきて、ひどいところでは人の胸のあたりまで水位があがってくる。 内陸部からわきでる海水と海からの浸水で逃げ場もきわめて限られている。このままでは島が沈んで しまうのはもはや時間の問題であると島民は考えている。  まさに島は沈んだも同然の状態となっている。・・・その影響で農作物は育たなくなり、植物もみ んな枯れてしまった。市民生活が脅かされている。  そこで、ツバルの首相は2000年2月、国が完全に沈む前に全国民を国外に移住させるという決断を 下した。オーストラリアとニュージーランドに移民の受け入れを要請したところ、ニュージーランド は2002年から年間75人のツバル人を毎年労働者として、永住を前提とした移民の受け入れをおこなう ことに合意した。  毎年75人の移住できる人はニュージーランド政府の決めた条件のもと、ニュージーランド側で抽選 をし、その権利を得ることができる。  ★申請条件は次の通りである  ・18-45歳であること  ・英語コミュニケーション能力があること  ・ニュージーランドでの職があること(家族を伴う場合は年収28,276NZドル)  ・違法滞在歴がないこと  エリートがでていくと困る。ツバル  おじいちゃんおばあちゃんはいたって健康、生活もできる。仕送り  ツバル住民のラウペパさんは  抽選期間は8月13日~9月半ばで、抽選の結果、ラウペパさんの家に当選の通知がきた。  以前から移住を強く願っていたラウペパさん一家は大喜び。しかし、おじいさんだけは違ってい た。おじいさんは島への愛着が強く、  刻一刻と申請期間はせまってきている・・・

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 新幹線の車中からO生に電話するが、留守だった。資料がほぼ完成したら携帯のメールに送るよ う、留守電にいれておく。ホテルでそろそろ就寝しようと思っていた時、O生からメールが入った。  お父さんは困ってしまった。 *この教材では、A(責任・信頼・生命尊重・郷土愛)、B(社会秩序・規律・集団生活の向上・郷土愛・ よりよい社会の実現)の価値のあいだで起こる葛藤を取り扱う。 〈9/18 00:01(O生→筆者)〉  連絡が遅くなりました。すみません。資料はまだ完全にはできていません。流れとしては今考えて いるものですが、次のようにしようと考えました。  ツバルの資料をみてどちらの立場に立つか考えをきいて1回目の価値判断決定→人数把握→ディス カッション→2回目の価値判断決定→ツバルの人がこんなことを考えるようになったのは?を考える →新聞を通じて台風16号を意識する→具体的に私たちは何が出来るか考える。といったものにしよう と思います。 〈9/17 ②〉  ツバル――南太平洋に浮かぶ9つの小さな島から成る美しい島国である。ツバルの平均海抜は1m 以下で、この国は、世界の中で最初に沈む国といわれ、危機にさらされている。満潮時になると、地 面から海水が湧き出て、海からも海水が浸入してきて、激しいところでは人の胸のあたりまで水位が あがってくる。内陸部から湧き出る海水と海からの浸水で逃げ場は極めて限られている。このままで は島が沈んでしまうのはもはや時間の問題であるとツバル国民は考えている。  (研究機関の報告では島は100年後には海中に沈んでしまうと言われている。  ・・・その影響で農作物は育たなくなり、植物もみんな枯れてしまった。市民生活が脅かされている。)  そこで、ツバルの首相は2000年2月、国が完全に沈む前に全国民を国外に移住させるという決断を 下した。オーストラリアとニュージーランドに移民の受け入れを要請したところ、ニュージーランド は2002年から年間75人のツバル人を毎年労働者として、永住を前提とした移民の受け入れをおこなう ことに合意した。  毎年75人の移住者はニュージーランド政府の決めた条件のもと、ニュージーランド側が抽選をおこ ない、決定する。  ★申請条件は次の通りである。  ・18-45歳であること  ・英語コミュニケーション能力があること  ・ニュージーランドでの職があること(家族を伴う場合は年収28,276NZドル以上)   1NZドル=69円  ・違法滞在歴がないこと  エリートがでていくと困る。ツバル  おじいちゃんおばあちゃんはいたって健康であり、二人で家族は散っても十分な生活もできる、仕 送りも可。  ツバル住民のラウペパさんは首都のあるフナフチ島に家族11人で暮らしている。(ツバルは平均11 人家族)  抽選期間は8月13日~9月半ばで、抽選の結果、ラウペパさんの家に当選の通知がきた。以前から 移住を強く願っていたラウペパさん一家は大喜び。しかし、おじいさんとおばあさんだけは違ってい た。おじいさんは島への愛着が強く、  刻一刻と申請期間はせまってきている・・・  お父さんは困ってしまった。 *この教材では、A(生命尊重)、B(郷土愛)の価値のあいだで起こる葛藤を取り扱う。

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 学会での昼食の合間にO生にメールをする。 〈9/18 00:01(O生→筆者)〉  ツバルが何年後に沈むのか、条件をみたすツバル国民は全体のうち何%をしめるのかについてなど を補充すべき点もたくさんみつかりました。みんなに聞いてもらったところ、はじめは生命尊重が多 かったのですが、途中で家族愛に移った人が多くなりました。みんなは上手く揺れてひっかかってく れましたよ☆そのへんは無理矢理にでも2つの価値が押さえられるようにしたいです(筆者の内心の 声、この部分はメールはしていない。「無理矢理二分してはいけないんだよな。自然に二分されない と。」)。 〈9/18 00:04(O生→筆者)〉  最終的には私は授業を通じて、少しでも「このままでいいのか、何かしなきゃ」といった危機感を抱 いてほしいと考えています。今日はもう寝て明日しっかりやりたいと思います。先生、本当にお忙し いのにご指導していただいて感謝しています。また明日ご報告します。 〈9/18 13:03(筆者→O生)〉  ツバルが何年後に沈むのか。これはどんな理由で出たか知らないが、大切な視点。老夫婦が天寿を まっとうできた後、しばらくして沈むなら残りそう。だから、いつ沈むか分からない、ほどなくかも 知れないし、暫く後かも知れないがいい。実際分からないだろうし。条件をみたすツバル国民は全体 のうち何%をしめるのかについてなんて分かる?分かれば入れた方がいいが、年収で相当ハードルが 高いのは分かるよね。それと、価値を確定させなさい。生命尊重・家族愛と家族愛・郷土愛かな。ま だ考えられそう。  ツバルだけでなく、開発途上国からモルジブ等、先進国からオランダ等。最後はどの国も大きな影 響があることを。台風の高潮被害は当然とりあげる。とにかく他人事ではないと気づかせたい。  今、立教大学。レンガづくりの建物は大学らしいね。 〈9/18 22:40(O生→筆者)〉  資料を一応完成させました。ほかの学生にもみてもらったところ、文章だけでは淡泊で、あまりジ レンマがおきないといわれました。文章を見ながら私が解説していくというのはいかがでしょうか。 他にツバルの位置をしめす地図は提示するつもりです。ビデオについてはストップモーション方式で 資料の解説しながら見せる、あるいはモラルジレンマの最終判定をおわらせた後に見せることを考え ています。ビデオは兄に録画できるかやってもらっています。以下に資料を送ります。まだ家族の年 齢や構成をいれるつもりではありますが…お願いします。 〈9/18 22:41(O生→筆者)〉  ツバル――南太平洋に浮かぶ9つの小さな島から成る美しい島国である。この国は、世界の中で 最初に沈む国といわれ、危機にさらされている。平均海抜は1m以下で、最高標高は満潮時には海か ら、また地面の下から吹き出す海水の浸入で、島は洪水状態となる。激しいところでは大人の胸のあ たりまで水位があがってくる。内陸部から湧き出る海水と海からの浸水で逃げ場も極めて限られてい る。このままでは島が沈んでしまうのはもはや時間の問題であるとツバル国民は考えている。 〈9/18 22:41(O生→筆者)〉  そこで、ツバルの首相は2000年2月、国が完全に沈む前に全国民を国外に移住させるという決断を 下した。オーストラリアとニュージーランドに移民の受け入れを要請したところ、ニュージーランド は2002年から年間75人のツバル人を毎年労働者として、永住を前提とした移民の受け入れをおこなう ことに合意した。毎年75人の移住者はニュージーランド政府の決めた条件のもと、ニュージーランド 側が抽選をおこない、決定する申請条件18-45歳であること、英語コミュニケーション能力があるこ と(ツバルの平均年収の2.6倍)、違法滞在歴がないこと。

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 次に載せるのは、録画したビデオを見ながらのO生のメモである。 〈9/18 22:42(O生→筆者)〉  ツバルの首都フナフチに住むラウペパさんも島が沈むことに不安を感じている。ラウペパさんの住 む地域にも変化が起こっているのである。10年ほど前まで飲み水として利用していた井戸の水も淡 水から塩水へと変わってしまった。主食となるタロイモなどの農作物は育たなくなり、枯れてしまっ た。また昨年は海水が来なかった場所まで、浸水するようになり、自分の住んでいるところもいつ沈 んでもおかしくない状態にまでなってしまったのだ。ラウペパさんは、一刻も早く国を出て家族を安 心させてやりたいと思い、先月移住申請の登録を済ませた。 〈9/18 22:42(O生→筆者)〉  つい先日、移住申請の抽選がニュージーランドでおこなわれ、その結果、ラウペパさんの家にも当 選の通知がきた。以前から移住を強く願っていたラウペパさん一家は大喜び。しかし、一緒に住んで いるおじいさんとおばあさんだけは違っていた。熱心なキリスト教徒であるおじいさんとおばあさん は、神様は国を沈めることはないと信じており、もし沈むとしても国と共に沈んで死ぬなら本望だと 主張している。刻一刻と申請期間はせまってきている・・・お父さんは困ってしまった。 〈9/19 12:30(筆者→O生)〉  おじいさんとおばあさんが島を愛していることを入れたい。その際、単に言葉で言うのでなくエピ ソード等で。逃げ場が年々なくなってきていることを強調したい。それと、塩害で作物の根が腐るこ との説明がほしい。とにかく具体的に。  ノアの箱舟後の神様の言葉を入れないと、おじいさんとおばあさんは、神様は国を沈めることはな いと信じている事が分からない。  刻一刻と申請期間はせまってきている…お父さんは困ってしまった。ここで今回申請を諦めるとい つまた移住できるか分からないことを入れたい。  とりあえず、ここまで。ある程度目処がついたら、今度は電話されたし。今日は学会が6時まである。 モラルジレンマをふまえて、ツバルの現状を把握する。 温暖化によって今どんな影響がみられるか。 先日の台風16号をとりあげる。新聞記事の提示。     ↓ ツバルってどんな国だろう。ツバルはどのくらいの危機?     ↓ ツバルの現状を知る。     ↓ もう一度2つの価値を判断。 「村長の悩み」を参考に。生命尊重と家族愛 家族みんなでニュージーランドに移住する権利を得たが、おじいちゃんは国に残るという。おじいちゃんを残して ニュージーランドに移住するか、おじいちゃんと共に おじいちゃんは自分の生まれた土地をはなれたくない おじいちゃんは敬虔なクリスチャンであり、島が沈むことはないと信じている。 例え沈んでも島と沈むなら本望だ 2002年 ETV2002 ツバル 神保さんを検索 MSNのリサーチ 郷土愛 〈9/19 12:45(O生→筆者)〉  わかりました。やってみます。兄がビデオに録画することができたみたいなので、今からそれをと りに岡山に一瞬帰ってきます。またお電話します。失礼します。

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〈9/18・19〉  O生、貸し出したビデオを見終える。O生、一応完成した次の資料で教育実習生を相手に模擬授 業を行い、改良点を探る。 6分ぐらい 茨城大学 三村信夫 ↓ 海岸侵食 やしの木が海側にかたむいている ↓ 9分経過 首相の決断のメッセージ このままでは私たちの住む国は海に沈んでしまう 国土が余っている国や人を受け入れる余裕のある国に私たちを受け入れてくれるようお願いをしている ↓ 敬虔なクリスチャンが大半をしめる ノアの箱舟以来沈まないと思っている ツバルが海に沈むことはない 行けるなら早く移住したい もう沈む 年齢層によって違う見方・・・英語を話す人と話せない人 ↓ 11分オーストラリア  人口増加のこと ↓ ツバルの人10人以上の家族 人口増加率はゼロだと主張しているツバル首相 ↓ 13分オーストラリア 海面上昇していないということを裏付けるデータ ツバルの海面はあがっていない ↓ 16分ラドック大臣 17分ニュージーランド 福音派・・・聖書をそのまま受け入れる 2002年5月6日放送 ↓ 人口の集中 18分経過 環境難民 難民となると受け入れ態勢がかわる。これ以上きてはならないといえない。歯止めがきかなくなる。 先進国が手立てを考えなければならない。 ビデオ視聴全体は20分  ツバル――南太平洋に浮かぶ9つの小さな島から成る美しい島国である。人口約1万1000人のこの 国は、世界の中で最初に沈む国といわれ、危機にさらされている。平均海抜1m以下、最高標高は海 抜4.5m。満潮時には海から、また地面の下から吹き出る海水の浸入で、島は洪水状態となる。激しい ところでは大人の胸のあたりまで水位があがってくる。内陸部からわきでる海水と海からの浸水で逃 げ場もきわめて限られており、このままでは島が沈んでしまうのは、もはや時間の問題であるとツバ ル国民は考えている。  そこで、ツバルの首相は2000年2月、国が完全に沈む前に全国民を国外に移住させるという決断を 下した。オーストラリアとニュージーランドに移民の受け入れを要請したところ、オーストラリアは 拒否、ニュージーランドは2002年から年間75人のツバル人を毎年労働者として、永住を前提とした移 民の受け入れをおこなうことに合意した。  毎年75人の移住者はニュージーランド政府の決めた条件のもと、受け入れ側であるニュージーラン ドが抽選をおこない、決定する。申請条件は次の通りである。

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 あなたがフアロパさんだったらどうしますか?おじいさん、おばあさんを置いて子どもたちと ニュージーランドに行きますか?それとも家族みんなでツバルに残りますか?  私は( ニュージーランドに行く  ・  ツバルに残る )    理由 ☆申請条件 ・18-45歳であること ・英語コミュニケーション能力があること ・ニュージーランドでの職があること(家族を伴う場合は年収28,276NZ$以上)  ※28,276NZ$=約195万円 (ツバルの平均年収は日本円で72万円) ・違法滞在歴がないこと  ツバルの首都フナフチに住むフアロパさんはおじいさん、おばあさん、奥さん、息子3人、娘2人 の9人家族である。フアロパさんも島が沈むことに不安を感じている国民の一人である。  フアロパさんの住むところにも変化が起こっている。先祖代々受け継いできた畑は、2、3年前か ら急に塩水をかぶるようになり、作物はとれなくなってしまった。主食となるプラカ(タロイモの一 種)の葉は黄色く変色し、根も腐ってしまった。また、10年ほど前まで飲み水として利用していた井 戸の水も塩水へと変わってしまい、生活用水にまで被害が及んでいる。さらに昨年は海水が来なかっ た場所まで、浸水するようになり、いよいよ事態は深刻化してきた。海岸浸食が一気に進み、近くの 島が波に流されてしまった。フアロパさんが子どもの頃からよく遊びに行った思い出の島も、ある日 突然海の下に沈んで、今はやしの木の先の方が海面からのぞいているだけとなっている。  ツバルはついにいつ沈んでもおかしくない状態にまでなってしまった。フアロパさんは、一刻も早 く国を出て家族を安心させてやりたいと思い、先月移住希望申請の登録を済ませた。  つい先日、移住申請の抽選がニュージーランドでおこなわれ、その結果フアロパさんの家にも当選 の通知がきた。以前から移住を強く願っていたフアロパさん一家は大喜び。しかし、一緒に住んでい るおじいさんとおばあさんだけは違っていた。おじいさん、おばあさんは今までずっと国内で生活し ており、ツバル以外の国に渡ることに不安を抱いている。ツバルはおじいさんとおばあさんの思い出 がいっぱい詰まっているところなのだ。フナフチ島のみんなに祝福されて結婚式をあげた教会、家族 で協力して育てたプラカの畑、どこまでも続く青い空、海に沈む大きな夕日……自分の生まれた土地 を離れたくない――それはフアロパさん自身も同じである。また、熱心なキリスト教徒であるおじい さんとおばあさんは、政府がなんと言おうが、科学者がなんと言おうが、神はノアの方舟以来二度と 洪水を起こさないと約束したのだから、ツバルが沈むことはないと信じている。また、もし沈むとし てもツバルと共に沈んで死ぬなら本望だと主張している。  刻一刻と申請期間はせまってきている……  この移住申請を諦めると今度はいつその権利が得られるかは分からない。フアロパさんは困ってし まった。 〈9/21 7:22(O生→筆者)〉  おはようございます。資料なんですが、明日授業なのが、今日中に印刷して配布した方がよいです よね?

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〈9/21 7:56〉  28~29頁に掲載した「総合まんでがん資料『ツバルの決断』2004.9.22(水)」の筆者の助言後に付加 された下線部がないものがメールで筆者のパソコンに送られてくる。 〈9/21 8:44(筆者→O生)〉  そうですね。ただ、念の為、植田先生がつかまえられたら資料を聞きますから、配布は本日なるべ く最後に。それと資料配付の際、判断・理由づけを書いて授業に臨むように徹底した方がよい。植田 先生に意見を聞くタイムリミットは何時までか? 〈9/21 16:00〉  授業前日である。筆者は、火曜日は附属坂出中学校の3年生選択社会を担当しているので附属坂 出中学校に来ていた。心配だったので、資料と指導の流れの完成具合を見る。「あなたがフアロパ さんだったらどうしますか?」とは聞かない方が良いことを説明する。モラルジレンマ資料の中に フアロパさんとおじいさんの会話等を挿入するよう指示する。そこで、O生は29頁にあるように下 線部部分を付加する。 3 授業当日早朝に完成した指導案  〈9/22 4:23〉 総合まんでがん 学習指導案 指導者 教育実習生 ○○○○ 1.授業実践 (1)主題名 ツバルから世界へ  資料名 「フアロパさんの決断-私たちの島が沈む-」 (2)主題設定の理由(ねらい)  本資料においては、「生命尊重・家族愛」「自然愛・郷土愛・家族愛」の価値のあいだで起こる葛藤 を取り扱う。 (3)資料について  3-(1)自然愛、3-(2)生命尊重、4-(6)家族愛、4-(7)郷土愛  資料「ツバルの決断」は南太平洋に浮かぶ島国、ツバルが舞台である。ツバルは温暖化の影響を受け て、国が沈むという危機におちいっている。国が沈む前にニュージーランドへ移住することを決意し た国の方針を受け、主人公のフアロパさんはツバルに残るという父と母の思いに悩んでしまう。  子どもたちを連れてニュージーランドに移住するか、家族みんなで共に愛着のある島に残るか。授 業では、この葛藤状況下における役割取得をさせ、フアロパさんの判断・理由づけを考えさせる。そ して、「生命尊重・家族愛」「郷土愛・家族愛」のそれぞれの価値に基づく意見を材料にディスカッショ ンを行い、命がかけがえのないものであることや家族の大切さに気付かせたい。また、温暖化が原因 でツバルという一つの国が沈む危機にあること、愛する国がなくなることの現状に思いをはせ、自分 たち一人一人の生活を見直していくことが必要であることを意識させたい。 (4)価値分布表  判断・理由付けをコールバーグの道徳性発達段階に照らし合わせて分析すると、次のようになる。  「ツバルの決断」判断・理由づけの道徳性発達段階 子どもたちを連れてニュージーランドに行く (生命尊重・家族愛) (郷土愛・家族愛)おじいさん、おばあさんと共にツバルに残る 【段階1 他律的な道徳性】

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・ツバル首相が決めたことだから。 ・国の危機であるから、できるだけ早くツバル を出て移住する必要がある。 ・せっかくニュージーランドに移住する機会を 設けたツバル政府 ・おじいさん、おばあさんを置いていくと島の 人に悪く思われる。 おじいさん、おばあさんがツバルに残りたいと 思っているから。 ・昔から老人は敬うべきだといわれているから。 【段階2 個人主義、道具的な道徳性】 ・子どもたちの未来が守られる。 ・ニュージーランドで沈む心配をせず、生活が できる。 ・ニュージーランドに行けば、きっと今よりも よい生活ができるだろう。 ・ツバルに残ると家族みんな死んでしまうかも しれない。 ・おじいさん、おばあさんともう会えないかも しれない。 ・自分の思い出が失われずに済む。 ・自分も生まれ育った島が沈むのだから一緒に 死んでもいい。 ・おじいさん、おばあさんにうらまれずに済む。 【段階3 対人的規範の道徳性】 ・ニュージーランドにいってもおじいさんおば あさんに仕送りを送ることができる。 ・家族の誰かは助かる。家族全員死ぬことはな い。 ・父親として子どもの未来を優先することが大 切だ。 ・おじいさん、おばあさんはツバルに愛着を もっている。 ・残ることで家族みんな一緒にいられる。 ・おじいさんとおばあさんはツバルの国を愛し ている。 ・おじいさんとおばあさんを置いていったら、 悔いが残る。 【段階4 社会システムの道徳性】 ・国の危機であるから、できるだけ早く全国民 が移住しなければならない。 ・自分たちがツバルに移住することで、ツバル の文化は存続していくだろう。 ・国を捨ててよその国に移住しなければならな いまでに放っておいた政府に責任がある。 ・ニュージーランドにエリートが行くことでツ バルの国の存続があやしくなる。 2.指導計画 (1)指導目標  ○ 命の大切さ、家族の大切さに気付き、どちらもかけがえのないものであること気付くことができ る。  ○ ツバルが沈む危機にあるということを通じて、愛する国が消えてしまうことに思いをはせ、自分 の生活を見直していく必要があるということを意識することができる。 (2)指導計画  ①資料を読み、主人公はどうすべきかを考え、判断・理由づけをする。  ② ディスカッションを行い、またツバルの現状を示すビデオを視聴して、再度、判断・理由づけを する。  ③ ツバル以外にも同じような危機をむかえている国や温暖化による異常気象・異変をあげ、地球全 体に異変が起きていることを意識する。 (3)学習指導過程 学習活動 予想される生徒の反応 指導上の留意点 1.資料を読む ○ツバルってどこだろう。 ○こんなことが現実に起こっている のか。 ○資料を読む際、線を引きながら 読むよう助言する。

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学習活動 予想される生徒の反応 指導上の留意点 2.第一次の判断・理 由づけをおこなう。 ☆子どもたちとニュー ジーランドに行く ★おじいさんおばあさ んと共にツバルに残る 3.それぞれの判断・ 理 由 づ け を ふ ま え て ディスカッションする。 ○どちらにも決められないなぁ。 ○★おじいさんおばあさんを置いて いくことはできない。 ○こんな話が実際にあるのか。 ●沈む前にどこかの国に非難すれば よい。 ●すぐには沈まないし、死なないだ ろう。 ○★家族を捨てては後味が悪い。 ○☆子どもを守る責任がある。 ○★家族が離れ離れになってはなら ない。 ○☆生きていかなければならない。 ○☆子どもたちの未来がある。 ○★家族は一緒にいるべきだ。 ○そちらの意見も大事だなぁ。 ●答えはないのだから、どちらの 意見も正しいことを強調する。 ○少数派の意見から発表するよう 促す。 ○教師はかたよらずどちらにも均 等に助言する。 3.ビデオを見てツバ ルの現状を知る。(約10 分) ○ツバルの状況はかなり深刻だ。 ○若い人と年寄りの人の意見は異 なっている。 ○ディスカッションをしていく段 階で頃合を見計らってビデオを見 せる。 ○感じたことをメモするように促す。 4.ビデオを視聴した 後、ディスカッション する。 ○ここまで深刻なのだから早く逃げ なければならない。 ○ツバルの被害はひどいなぁ。 ○それぞれビデオを見てどう思っ たか、グループで意見を発表し、 それを全体で発表させる。 5.ツバルだけではな く、モルジブやオラン ダなど他にも同じよう な境遇の国があること を知る。 ○世界各地でいろいろな異変が起き ている。 ○日本も沈むのだろうか。 ○ツバル以外の沈みそうな国、地 域を写真などで提示する。 例:オランダ、モルジブ、東京 6.地球温暖化によっ てさまざまな異常気象、 異変が起こっているこ とを知る。 ○台風16号の被害はすごかった。あ れが毎日起こると大変だ。 ○あの台風16号も異常気象の一つな のだ。 ○真夏日が増えているのも温暖化の 影響だ。 ○地球が変わってきている。 ○ も っ と 暑 い 日 が 続 く の は 嫌 だ なぁ。 ○台風16号の新聞記事を提示する。 ・海岸浸食→砂浜なくなる ・東京など満潮面以下1m 区域は 1mの海面上昇で沈んでしまう。 ・海面上昇によって多大な被害額 が生じる ・マラリアの流行の危険 ・水不足 ・自然生態系が変わる ・真夏日の増加 8.まとめ 第二次の判断・理由づ けをおこなう。 今 日 の 授 業 を 通 じ て 思ったこと、感じたこ となどをまとめる。 ○自分はやっぱりツバルに残る。 ○初めと意見が変わった。 ○大変なことが起こっているなぁ。 ○自分たちはどうしたらよいのだろう。 ○どうしてこんなことになったのだ ろう。 ○自分たちには何ができるだろう。 ○一人一人が意識して行動しなけれ ばならない。 ○共生の理念が大切だ。 ○何とかしていかなくては! ○教師の方からは詳しくは述べな い。助言は最低限度に。 ○余裕があれば、判断が変わった 人変わらなかった人に発表しても らう。 ●感じたことのほかに、自分たち がどうしたらいいか、どうしてこ のようになったのかまで考えられ れば◎

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Ⅲ 終わりにーその後のO生ー  一年後、4年生での小学校の教育実習で、O生は中学校の教育実習で開発した道徳教材を小学校 用に修正して授業を行った。 〈2003年6月18日 15:33(O生→筆者)〉  メールで失礼します。研究室に伺ったのですが、出張にいかれているみたいですね。Kさんから先 生が東京にいらっしゃるとききました。実習も一週間おわり、だいぶ慣れました。こどもたちとも仲 良くやっています。来週、担任の先生と交渉して、道徳でツバルの授業をやらせていただけるように なりました。  資料を小学校用に直して、授業をすることは可能でしょうか。小5のこの時期では環境問題に対す る意識が低く、難しいように思います。先生はどう思われますか? 〈6月18日 16:51 (筆者→O生)〉  担任の先生と交渉して、道徳でツバルの授業をやらせてもらうなんて、君も成長しましたね。  資料を小学校用に直して、授業をすることは可能です。小5のこの時期では環境問題に対する意識 が低く、難しくても。ただし、相当仕掛けが必要でしょう。本気なら、出来る範囲で支援はします。 できれば、授業を見たいですね。 〈6月18日 17:18 (O生→筆者)〉  ツバルのがだめだったら、違う価値をあげた既製のジレンマ資料を用いて授業をしようかなとも 思ったのですが。ツバルのことは子どもたちに伝えたかったし、頑張ってみようと思います(^-^)  授業は2時間分いただいていて、2時間目が採点授業になります。採点授業は木曜の3時間目です (メールでは言わなかった筆者の内心の声→「おいおい、採点授業なんて聞いてないよ。学会発表も二 つあるし、学生の飛び込み授業の指導もあるのに。ただ、普通の授業でやると思ったのに。腹くくら んとな。」)。相当な仕掛けとはどんなものでしょうか…地球温暖化についての知識をいれておくとい うことですか?  ちなみに先生はいつ高松にお帰りになりますか?お忙しいところすみません。 〈6月18日 18:11 (筆者→O生)〉  ツバルのことで子どもたちに伝えたかったとは、ツバルのどんなことか、ずばりまとめてみなさ い。採点授業の木曜3時間目でやるということなんだね。仕掛けについては、子どもの実態を見てか ら。高松には明日夜帰ります。ただし、月曜日は多度津中で研究授業の指導助言です。 〈6月18日 21:10 (O生→筆者)〉  先生、本当にお忙しいですね。今日はお会いできると思ったのに残念です。  とりあえず、自分なりに資料を直してみます。徳永さんの本3)を読んで参考にしながら…明日はお 疲れでしょうから、また改めてお伺いします。 〈6月18日 21:23 (筆者→O生)〉  何を伝えたいか、明確にしてから、自分なりに資料を直してみなさい。徳永さんの本を読んで参考に しながら…は、子どものあらわれを参考に出来るでしょう。月曜日なら時間がとれるでしょう。君の実 習クラスは、オープンエンドの授業経験はどのくらいあるの?授業構成の時、考慮に入れる点だよ。 〈6月20日 0:47 (O生→筆者)〉  お疲れ様です。  休みの間に自分なりに資料と指導案を作成してみました。(まだまだ途中段階ですが…)  添付ファイルを開いてください。お忙しいでしょうが、目を通していただけたらと思います。  担当クラスでのオープンエンドの授業経験ですが、担任の先生にうかがっていないため、分かりませ ん。でも道徳の教科書の中にある、『星野君の二塁打』というオープンエンドの資料を使っての授業はし たようです。月曜日は何時ごろお帰りでしょうか。私は6時ごろには大学に着くようにするつもりです。 明日からまた実習です。朝はかなりキツイですが、子どもに会えるのが楽しいです。また携帯にメー ルください。

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 O生は、6月21日と6月22日に来研した。2度にわたるO生との話し合いで、小学5年生でもあ ることを考え、子どもに役割取得させてモラルジレンマする設定に資料を変更すること、分量も小 学5年生に負担がないよう縮減することが決まった。 〈6月23日 10:35(採点授業直前)(筆者→O生)〉  Oさん  採点授業、気をつけたいこと。①大事なことは言わない、言うのを出来るだけ我慢して子どもか ら。②教えたいことは絞って。たくさん教えたくても、本当に大事なことだけを。③笑顔で明るく。 子どもを信じてね。  授業で使用した資料が下記のものである。 「ラケルの迷い―私たちの島がしずむ」  ツバルは南太平洋の9つの小さな島からなる美しい国です。この国は、地球温だん化のえいきょう により世界で最初にしずむ国と言われています。1ヶ月に5~6回は洪こうずい水になって、島の中からも外 からも海水が入ってきます。ひどいところでは、大人のむねの高さまで水がおしよせてきます。この ままでは島がしずむのは時間の問題だと、多くのツバル国民は考えています。  そこで、ツバルの首相は2000年2月、国が完全にしずむ前に国民を他の国に移すことに決めまし た。ツバルから近い所にあるニュージーランドでは、1年間に75人の人を受け入れることを約束して くれました。しかし、それには次のような条件があります。 ・18-45さいであること ・英語が話せる人 ・ニュージーランドで仕事が決まっている人 (家族を連れて行く場合は,ツバルで働く人の2年8ヶ月分の給料をもらっている人でなけ ればならない。)  ラケルはツバル小学校の5年生。ひいおじいさん、ひいおばあさん、おじいさん、おばあさん、お 父さん、お母さん、弟2人、妹2人の11人家族でツバルの中でも一番大きな島、フナフチ島にすんで います。ラケルの家族も島がしずむことにとても不安を感じています。先せ ん ぞ祖代々受けついできた畑 は、3,4年前から塩水をかぶるようになって、作物は全部だめになってしまいました。また、10年ほど 前まで飲み物として使っていた井い ど戸の水も塩水に変わって、使えなくなってしまいました。ラケルが 友達とよく遊びに行った思い出の島も、波に流されてしずみ、今はヤシの木の先が海面からのぞくだ けとなっています。  ツバルはいつしずんでもおかしくないじょうたいになってしまいました。お父さんは、できるだけ 早く国を出て家族を安心させたいと思って、ニュージーランドに引っ越すことができるように手続き をしました。しばらくして、ラケルの家に当選の知らせが届きました。ずっと前から移いじゅう住を強く願っ ていたラケルの家族は大喜び。しかし、いっしょに住んでいるおじいさんとおばあさんだけはちがっ ていました。おじいさんとおばあさんは生まれたときから今までずっとツバルで生活していて、ツバ ル以外の国に住むことに不安を感じていました。英語もあまり話せません。そしておじいさんとおば あさんにとって、ツバルは思い出がいっぱいつまった場所でした。島のみんなに祝ってもらって結こ ん式をあげた教会、家族で協力して育てた畑、どこまでも続く青い空、海にしずむ大きな夕日……。 大好きなツバルをはなれたくない――それはラケルだって同じ気持ちです。おじいさんとおばあさん は、神様が守ってくれるからツバルはぜったいにしずまないと信じています。もししずむとしても、 ツバルといっしょにしずんで死ぬならいいと言っています。でも、おじいさんとおばあさんは口に出 しては言わないけれど、今までどおり家族いっしょにツバルでくらしたいと思っているのが、ラケル はとてもよく分かります。

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 3年時の中学校での教育実習で開発した道徳教材を、4年時の小学校の教育実習で再び修正し て授業展開しようとO生自ら考え、附属小学校の指導教員に交渉している。このことから、O生に とって中学校での教育実習での道徳教材開発が意味のあるものであったことがうかがえられる。O 生は、卒業論文の一環として、中学校と小学校の教育実習で開発した道徳教材の精緻化を図るた め、実際にツバルまでフィールドワークに言っている。O生は、現在と異なり教員採用状況が厳し かった当時、現役合格し、某県の小学校教員となった。卒業後は3~4回、O生の道徳の指導案の 検討依頼を受けたことがあるが、諸般の都合でO生は国語の実践研究に努めていた。数年前、O生 は某国立大学教育学部附属小学校の道徳担当教員となり、現在に至っている。  通常、教育実習では、道徳授業の教材開発までさせることはない。本事例は大変特異なものと考 えている。しかしながら、力のある学生をマンツーマンで道徳教材開発の支援をしていけば、相当 の力をつけさせられることを実感出来た。教職大学院などでの将来の道徳教育推進教師の育成に、 このような試みが効果的なのかもしれないと感じている。道徳教師の育成に関する効果的な知見が 得るために、O生の教育実習での道徳授業経験(特にモラルジレンマによる教材開発)が教員生活 で如何なる意味があったのかを聴き取りをし、明らかにすることが今後の課題と考えている。 註 1) 筆者と同様な思いを小野(1996)も持っている。氏は、自身が受けた教員養成大学での教師教育をふり返り、「大 学教員は自らの学問・研究のための仕事や時間が第一であり、未来の教師たる学生を育てるという意識は、ほ とんどなかったのではないか」、「教え子たる学生が、これから教員として赴任する先の『子供』達について、ど れだけ知っていたというのか。いや、知ろうとする努力さえしたことがあったのか」、と大学教員の在り方に 疑義を呈している。現在の教員養成大学での教師教育の現場では、小野が思っているようなこととは、少しば かり良い意味で様相が異なってきているとは思う。しかし、なお、心に留めなくてはいけないことである。  しかし、お父さんはニュージーランドに行く準備をすすめています。いよいよ明日は引っ越しの 日。そんな時、ラケルの親友のマサがやって来ました。  「ラケル、きみはずっとツバルに残ってくれるよな。いつまでもいっしょにいようって約束した じゃないか。となりの家のムロアは、きのうニュージーランドに行ってしまった…。ぼくはこのまま 島がしずむのをだまってみていられないよ。きみだってそうだろう。一緒に力を合わせて島を守ろう よ。」  ラケルはニュージーランドに行くことを家族以外の誰にも話していません。そんなマサの言葉に対 して、ラケルは何も答えることができませんでした。  ラケルは思い切っておじいさんの本当の気持ちやマサにいわれたことを家族のみんなに話しました。 ラケル  「お父さん、おじいさんと一緒にツバルに残ることはできないの?ツバルに残って、みんな で協力すれば島がしずまないように守ることはできるんでしょう?」 お父さん 「ラケル、むちゃをいうな。もう引越しの日は明日なんだぞ。それにニュージーランドに誰 もが行けるわけじゃない。お父さんだっておじいさんやおばあさんとはなれるのはつらい。 でもそれはおじいさんたちが決めたことなんだ。うーん、でもこれは家族みんなの問題だか ら、みんなの意見を聞いて考えようじゃないか。」  家族の中で多数決をとったところ、ひいおじいさんとひいおばあさん、おじいさんとおばあさん、 おじいちゃん子の一番下の妹のヒリアはツバルに残ると言っています。お父さん、お母さん、妹と弟 二人はニュージーランドに行くという意見になりました。  それを聞いたラケルはどうしたらいいか分からなくなってしまいました。ラケルの意見次し だ い第で家族 のこれからが決まります。  ラケルは困ってしまいました。

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2) 環境問題に関するジレンマ資料を基に討論授業をすれば、「意味」ある環境学習が成立することについては、 伊藤(2010)を参照願いたい。 3) モラルジレンマ学習が分かるので読むように助言した、徳永悦郎(1995)『ジレンマ学習による道徳授業づく り』、明治図書、190p.である。 文献 伊藤裕康(2010)「地球的規模の環境問題を扱ったモラルジレンマ教材を活用した授業」、教材学研究第21巻、 pp.267-274、日本教材学会 小野正俊(1996)「教員養成のあり方 現場からの提言」、大学時報No25、pp.38-391、日本私立大学連盟

参照

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