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中世片仮名文における字音語の拗音表記について

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Academic year: 2021

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(1)

国語学教室 榎 と は じめ に 院政・ 鎌倉時代 の片仮名文献 は

,漢

字 と片仮名 の交 え方の相違 によって

,二

類 に大別す ることが 提唱 されてい る(1ち 漢字表記が中心で片仮名表記 は助詞・助動詞・送 り仮名の類であるものを片仮名 交 り文

,片

仮名表記が中心で若千の漢字表記 を交 えるものを漢字交 り片仮名文 として区別するもの である。 この二類の片仮名文 を

,語

(自立語

)の

表記 とい う観点か ら見 ると

,片

仮名交 り文で は

,語

の表 記 は原則 として漢字表記 とい うことがで きる。一方

,漠

字交 り片仮名文で は

,漢

字表記 されている 語 は字音語が中心であ り

,そ

れ に若干の和語が加わ るものである。 この ような漢字交 り片仮名文では字音語 は多 く漢字表記 されるが

,片

仮名表記 された例 も見 られ る。筆者 は先孜(動において,次 の

3文

献 に見 られ る片仮名表記字音語 について,語彙的性格 の面か ら, なぜ これ らの語が片仮名表記 されたかについて考察 を加 えた。 『法華百座聞書抄』(『法華修法―百座聞書抄』勉誠社文庫・『法華百座聞書抄総索引』小林芳規編) 天仁

3年

(1110)法華経 をある内親王 の発願 によ り

,一

百座 にわたって開講演説 した法談 を筆記 した もの。現存 の法隆寺本 は平仮名文のよ り大 きな原本 を漢字交 り片仮名文で抄出し た もの と推定 され

,院

政末期 の書写 とされる。 『図書寮本宝物集』(『宝物集』古典保存会) 平康頼が鬼界が島か ら治承

3年

(1179)帰 洛後

,数

年の間に撰述 された もの と考 えられ る。 図書寮本 は平康頼 自筆 と伝 えられ るが

,鎌

倉初期 の書写 と考 えられ る。 F観智院本三宝絵詞』 (『三宝絵詞上・下』勉誠社文庫・『三宝絵詞 自立語索引』馬淵和夫監修 央大学国語研究会編

)

′ 源為憲 の撰述。序 によれば永観

2年

(984)尊 子内親王 に奉 られた。観智院本 は巻下 に文永 10年 (1273)書写の奥書がある。巻上 は片仮名交 り文・ 巻中下 は漢字交 り片仮名文 の表記様 式である。(なお

,本

資料 においては

,片

仮名表記字音語 の例 はすべて巻中・下か ら見出され た) 先孜で は

,

これ ら

3文

献 に見 られ る片仮名表記字音語 について

,次

の平安中・ 後期和文

5文

献 の 語彙 との比較 を行 った。 蜻蛉 日記 (『かげろぶ 日記総索引』佐伯梅友 。伊牟田経久) 久 木

(2)

枕草子 (『枕草子総索引』榊原邦彦・ 武山隆昭 。塚原清・ 藤掛和美) 源氏物語 (『源氏物語大成索引篇』池田亀鑑) 紫式部 日記 (『紫式部 日記用語索引』東京教育大学中古文学研究会) 更級 日記 (『更級 日記総索引』東節夫・ 塚原鉄雄・前田欣吾) その結果,これ ら

3文

献 に見 られ る片仮名表記字音語 の内,普通名詞類0に和文文献 との共通語彙 の多い ことが分か った。各文献 にお ける片仮名表記字音語 中の固有名詞141と 普通名詞類 の用例数,お よび普通名詞類 中の和文共通語の用例数 を示 した ものが表1・

2で

ある。 (表 1〉 用例 数 法 華 百 座 固 有 名 詞 81 (61.4%) 普通名詞類 51 (38.6%) 宝 物 集 固 有 名 詞 11 (29.7%) 普通名詞類 26 (70.3%) 三 宝 絵 詞 固 有 名 詞 9 (25.7%) 普通名詞類 26 (74.3%) 〈表2〉 用例 数 法 華 百 座 和文共通話 28 (54.9%) 普通名詞類 宝 物 集 和文共通語 15 (57.7%) 普通名詞類 三 宝 絵 詞 和文共通語 18 (69.2%) 普通名詞類 このことか ら

,普

通名詞類 において は

,片

仮名表記 されてい る語 の多 くが 日常 の言語表現 において 用い られた語

0で

あって,これ らの語 は漢字の表意機能 を必要 とせず

,語

形が示 され るのみで(つま り片仮名表記 され るのみで

)語

として理解 され得たであろうことが推定 され る。一方

,固

有名詞 に おいては

,品

詞の性格上漢字の表意性が語 の理解 に対 して機能 しない と考 えられ る。 この ことは

,実

際の書記 に際 して

,普

通名詞類 においては

,そ

の多 くを占める

,日

常の言語表現 において用い られ る語 は

,字

音語 との認識が明瞭 に持たれなか ったために片仮名表記 されやす く, また固有名詞同様

,語

の理解 において漢字 の表意機能 を必要 としないために

,片

仮名表記が許容 さ れやすかったた もの と考 えられる。一方

,固

有名詞 においては

,語

が内包 としての意味 を持たない ため

,漢

字表記 を知識 として記憶 していなければ

,語

の意味か ら漢字表記 を類推で きないために片 仮名表記 されやす く

,ま

た漢字の表意性が語の理解 に対 して機能 しないため

,意

図的にも片仮名表 記が許容 されやすい。 更 に

,普

通名詞類 において

,右

のような性格 の語が片仮名表記 されていることか ら

,本

孜で取 り 上げた漢字交 り片仮名文資料

3文

献 の書記者 は

,字

音語 は漢字表記・ 和語 は片仮名表記 とい う表記 規則に原則 として従いなが ら

,こ

れ らの文献 を書記 したものと考 えられる。つまり

,日

常の言語表 現において用いられる字音語の片仮名表記が出現する背景には

,字

音語 は漢字表記・和語 は片仮名 表記 という漢字交 り片仮名文の表記様式があるということが出来 よう。

(3)

2

振 り仮 名 付 き字 音 語 の 話 彙 的 性 格 高羽五郎氏 は

,そ

の御論孜0において,『法華百座聞書抄』『図書寮本宝物集』の片仮名表記字音語 における拗音表記 の有無 を振 り仮名付 き字音語 と比較 して

,本

文 の片仮名表記 と漢字 に対す る振 り 仮名表記 とで拗音表記が異 なると述べてお られ る。高羽氏 は

,本

文 の片仮名表記 に拗音表記が見 ら れないか極少数例 しかな く

,漢

字 に対す る振 り仮名表記 に拗音表記が多 く見 られ ることな どを手掛 りとして

,こ

れ らの文献 の本文 の表記 は中古和文 の表記 を踏襲 した ものであると述べてお られ るの である。しか し

,既

に先孜で述べたように,『法華百座聞書抄』『図書寮本宝物集』『観智院本三宝絵 詞』 の片仮名表記字音語 には

,普

通名詞類 において語彙的な偏 りが見 られ る。振 り仮名付 き字音語 において も

,同

様 の偏 りが見 られ るのでなければ

,片

仮名表記字音語 に拗音表記が見 られない こと が

,表

記の異 な りと言 えない可能性があると考 えられ る。 そ こで

,三

文献 に見 られ る振 り仮名付 き字音語 について

,片

仮名表記字音語 と同様 に

,固

有名詞 と普通名詞類 とに類別 し

,平

安 中・ 後期和文

5文

献 の語彙 との比較 を行 った。 なお

,語

の検索 に当 つて は

,漢

語サ変動詞 と名詞 とを区別 しなかった。 また

,複

合語の下位要素であって も意味的に独 立性が高い と考 えられ るものは取 り上 げた。 シヤウ

『法華百座聞書抄』

固有名詞】

蜻枕源紫更

賞 ウ168 千

IFI千

暴菖 逢 争孝:ウ 012 XXX× × X× ×X× × × × ×X X× × × × X×○ ×X XX× ×X ×X× × × × × × × × X× × × × × × ×X× × × × ×X X× × × × × × ×XX × ○ ○ × ○ × × × ×X × × × × × ×X× X× × × × × × 安置 ウ201 不注チウ オ423 楊(楡)チフ盗タフ オ315 銅柱鉄裾 ウ291 弗カチヨク ウ003 チヨク 勅 ウ203 佛ツ勅 ウ049 三途 ウ286 ト 屠者 オ052 トウ 等 ウ224 夕]ナム拒ゴクフン シ1422 男 官 ウ219 日食 ウ237 懐任(妊

)ウ

412 身体髪ハフ ウ022 百練 オ367 ハ リ 頗梨 オ162 父フ母ホ ウ022 亡相天道 オ252 鬼魅旭両 ウ278 XX× XX ×OX× X XX× ×X X× ×XX × × ×X× × ×X× X ×XXX× × ×XX×

OXO

××

OXO

OOOOO

XX× × × X× × × × × ×XX× X× × × × X× X× × × × × ×X × × × × × ×X× X× × × × ×X × × ×X× × ×XX× ×XX× X ×X× × × 早秩(魃)ハツ ウ101 祈念 ウ415 利 益 ク ウ220 行住 坐 臥 オ327 亡 涼 ウ047 □□国 ウ411 産生 ウ414 女識シイ オ

422ウ

219 疾疫 ウ411 翻ン馬 ウ301

(4)

地 涌 ウ041 弱(ラク ラ,444 楽 ウ118 舌Lラン Eク014 お欝ロウ ラr220 フツ 死(擁)護コ ウ227 恩 ウ141 『図書寮本宝物集』

固有名詞】

× × ×X× × × ×X× × ×X× X X× XXX XX× XX X× ×XX ×XO× × × ×XX× ×XX× X X× ×XX XX× XX XXXX× X× ×X× ×X× XX × × ×XX X× × ×X XXX× × ×X× ×X X× × ×X X× ×X× X× ×X× ×X× X× ×X× × × X× × ×X ×X× × × XXX× × ×X× ×X × ×X× X ×X× × × × × ×XX × ×X× X × × × ×X ×X× X× X× XXX 類                 0 詞               4

″ 勲

” 抑

コ ]

↓ ]

瑠]

” ﹃

一鰤

″]

券 蜘

” ]

” 鰤

つ 蜘

滑 期

ル 蜘

XXX× × XXO× × ×X× X× XXX× × ○○○○○ ×

XO×

× ○○○ ×

X

× ×XXX X× × ×X ×XXXX XXX× X XXX× X X× × ×X XXXX× XX× XX XXXX× X× × × × X× × × × × × ×XX × ×X× X ×XX× X × × × ×X × × ×X× ×XX× × X× × ×X ×XX× × X× ×X× ×XXX× ×○

OXO

XOOOX

×X× XX X× XXX と が 分 か る 。 04   0             30 30     4 0                   67

ル 攀

イ]

″ ]

中 蜘

” ]

ブヽクイ]

力 ]

を 申

″ 翔

つ 噺

”﹃

︻ 鋤

” 仰

『観智院本三宝絵詞』 【固有名詞】 巨鯛女 中02オ 1題 中33ウ6地 アイ 需禅師 中03ウ5地 金剛 山 寺 下30オ6地 宇陀羨工 上02ウ8地 奈女 下12ウ備司 風行 天 下60ウ 1詞 維衛仏 下15オ痛司

普通名詞類】

干菖 下60オ2地 窟 下27ウ3話 画讃 下73ウ 1地 棺 中14ウ4地 渫豆 下13オ5詞 看花示位 下66オ 1地 仙霊 下27ウ3話 地 下27ウ3話 帝姫 中37ウ5地 伏蔵 下27ウ3話

誌面

73オ6地 固有名詞・ 普通名詞類 ともに, 片仮名表記字音語 と同様 に用例数 平安 中・ 後期和文

5文

献 に見 られ る語が極少 ない こ を数値 として示 した ものが表

3,4で

ある。

(5)

(表3〉 用例数 法 華 百 座 固 有 名 詞 8 (16.3%) 普通名詞類 41 (83.7%) 宝 物 集 固 有 名 詞 28 (68.3%) 普通名詞類 13 (31.7%) 三 宝 絵 詞 固 有 名 詞 7 (38.9%) 普通名詞類 11 (61.1%) く表4〉 用例数 法 華 百 座 和文共通話 6 (14.6%) 普通名詞類 宝 物 集 和文共通語 4 (30.8%) 普通名詞類 三 宝 絵 詞 和文共通語 2 (18.2%) 普通名詞類 11 この ことか ら

,ま

ず普通名詞類 の語彙的性格 は

,日

常 の言語表現 に用い られることの少ない もの ということが考 えられ る。漢字表記 の語 に振 り仮名が附 され る理由は幾つか考 えられ るが

,大

きな 理由の一つ としてその語が未知 の ものであって

,ど

の ように音声化す るか不明である場合が考 えら れる。 このように見 ると

,普

通名詞類 については

,片

仮名表記字音語 と振 り仮名付 き字音語 とは語 彙的性格が 日常の言語表現 に用 い られ る語 と

,日

常の言語表現 に用い られ ることの少ない語 とい う 相対立す る性格 を持 っていると言 うことが出来 る。 一方

,固

有名詞 については

,普

通名詞類 と同様 の観点か ら

,語

彙的性格が同 じか どうか は明 らか に出来 ない。片仮名表記字音語・ 振 り仮名付 き字音語共 に平安中 。後期和文

5文

献 との共通語彙 は 無いかあって も極少数であるが

,時

代 とジャンル とを異 にすれば

,用

い られ る固有名詞が大 き く異 なることが考 えられ

,共

通話彙 の有無 をもって

,日

常の言語表現 において用 い られた語であったか どうか は判断 し難い。 しか し

,多

くの語 は日本以外 の人名や地名 な どであるか ら

,字

音語 として認 識 されたであろう。

3

拗 音 表 記 の分 布

3文

献の片仮名表記字音語・振 り仮名付 き字音語中に見 られる拗音表記を含む語 は次の通 りであ る(『法華百座聞書抄』には

,漢

字の右傍ではな く

,右

下に片仮名小字表記によって字音が記 された 例がある。 これは

,右

傍の振 り仮名 とは

,書

写の過程が異なる可能性があるが

,同

一の語に右傍の 振 り仮名 と右下の片仮名小字表記 とが見 られ

,拗

音表記についても差異が見出されないので

,一

括 して扱った)。 なお

,頭

子音のない形および直音表記形 は全体 に亘ってみられる。 『法華百座聞書抄』 【振 り仮名付 き字音語】 鰤 名詞類〉 亡 涼 ウ047 賞 塑 68 センカウシヤツチヤウ 先 孝 聖 朝 ウ012 弟カテヨク Eン003 チヨク 勅 ウ203

(6)

先孝 聖 朝 ウ012 行住坐臥 オ327 クフウリヤウ 亡 涼 ウ047 夕3ナムτ子クワン ラ1422 男 官 ウ219 『図書寮本宝物集』

片仮名表記字音語】

固有名詞〉

孟 シヤ ウ君 (嘗

) 278

カウ リヨ (聞間

)437

〈普通名詞類 〉 ハ ム シヤ ウ (繁盛

) 736

チヤ ク (嫡

)548

【振 り仮名付 き字音語】 〈固有名詞〉 道 隆(澄

)303

(頃

)羽

438

匡 衡

300

これ らの用例が

, 3文

献 の片仮名表記字音語・ 振 り仮名付 き字音語 の固有名詞・ 普通名詞類 中に どのように分布 しているかを次 に見 たい。表中分母部分が固有名詞・普通名詞類 の用例数

,分

子部 分が拗音表記 を含 む語 の用例数である。なお

, 1語

中に拗音表記が2ヵ所 ある場合 には

2例

と看倣 した。 睾賢

493

郭 巨(臣

)045

モウタエツ 毛 血 律師 567 __〈 普通名詞類〉 蒋 種

437

筈葦 828 緑 込

875

繹 種

437

『観智院本三宝絵詞』

振 り仮名付 き字音語】

固有名詞〉

風行 天 下60ウ 1詞 巨鯛女 中02オ1題 中33ウ6地 〈普通名詞類〉 霊 応面 下73オ6地 棺 中14ウ4地 画讃 下73ウ1地 く表5〉 片仮名表記 字音語 振 り仮名付 き 字音語 法 華 百 座 固 有 名 詞 0 一 8︲ 0 一 8 普通名詞類 0 一 5 . ・ 0 一・ 宝 物 集 固 有 名 詞 2 一 H 6 一 28 普通名詞類 2 一 26 4 一 13 三 宝 絵 詞 固 有 名 詞 0 一 9 3 一 7 普通名詞類 0 一 26 3 一■

(7)

表 5よ り

,振

り仮名付 き字音語で は

,拗

音表記 を含 む語 は『法華百座聞書抄』固有名詞 に見 られ ない他 は

,全

てに見 られ る。片仮名表記字音語で は,『図書寮本宝物集』普通名詞類 に

2例

。固有名 詞 に

2例

見 られ るのみである。

4

分 布 の 偏 りの 理 由 このような拗音表記 を含 む語 の分布 の偏 りの理 由については次のような可能性が考 えられ る。 先 に述べたように

,普

通名詞類 における片仮名表記字音語 と振 り仮名付 き字音語 の語彙的性格 の 違いによるとい う可能性である。普通名詞類 において は

,片

仮名表記字音語 は日常の言語表現 にお いて用い られる語

,振

り仮名付 き字音語 は日常 の言語表現 に用い られ ることの少ない語 とい う語彙 的性格 の違 いが見 られる。 この内

,日

常の言語表現 において用い られ る語が片仮名表記 される理 由 は

,字

音語意識 の不明瞭 化 にあると考 えられ る。漢字交 り片仮名文 の表記 は

,和

語 は片仮名表記 中心

,字

音語 は漢字表記中 心であって

,字

音語 の片仮名表記 は例外的な ものである。 このような理 由で字音語が片仮名表記 さ れ るとす るならば

,拗

音表記 を含 む語 は片仮名表記 されに くい とい うことになろう。つ まり

,こ

の 時期 には和語に拗音節 を含 む語 はなかった と考 えられる (口頭語 において音韻変化 の結果存在 した か もしれないが,この時代書記上 には現われ難 い)。 この ことか ら

,拗

音節 を含 めば字音語 として意 識 され

,片

仮名表記 されない ことになるであろう。 勿論

,全

ての片仮名表記字音語が このような理 由によるものであるとす ることは出来ない。 その 意味で は,『図書寮本宝物集』に

2例

見 られ る拗音表記 を含む字音語 の片仮名表記例 は

,漢

字表記が 思い付かない ことによる当座 の表記 とい うような事情が考 えられ る。 一方

,固

有名詞 について は

,先

述 したような理 由で

,日

常の言語表現 に用い られた語であつたか どうか は判断 し難い。ただ

,多

くの語 は日本以外 の人名や地名 な どであるか ら

,字

音語 として認識 されたであろう。 そのような観点か ら見れば

,片

仮名表記字音語 の固有名詞 における拗音表記語 の 有無が問題 となるであろう。 しか し,『図書寮本宝物集』『観智院本三宝絵詞』で は片仮名表記宇音語・ 固有名詞 の用例数 は10 例前後であって

,拗

音表記 の有無が有意の理 由によるのではな く

,偶

然 の偏 りであることも考 え ら れ る。 この ことは,『法華百座聞書抄』振 り仮名付 き字音語・固有名詞

7例

中に拗音表記が見 られな い ことか らも考 えられ る。 以上の ことか ら

,固

有名詞・ 普通名詞類 を合わせた用例全体 として,『図書寮本宝物集』『観智院 本三宝絵詞』において振 り仮名表記字音語 に拗音表記例が多 く

,片

仮名表記字音語 に拗音表記例が 少ないか無いのは,『図書寮本宝物集』『観智院本三宝絵詞』 とも片仮名表記字音語用例中に普通名 詞類 の用例が多 く

,片

仮名表記字音語の普通名詞類 は

,語

彙的な偏 りか ら拗音表記が出現 しに くい か らであるとい う可能性が考 えられ るのである。 但 し,『法華百座聞書抄』で は

,片

仮名表記字音語 の用例中

,固

有名詞の用例数が多いにも拘 らず 拗音表記が見 られない。 この ことか ら,『法華百座聞書抄』 を『図書寮本宝物集』『観智院本三宝絵 詞』と区別すべ き可能性が考 え られ る。つ まり,『法華百座聞書抄』について は

,高

羽氏が述べてお られるように

,本

文 の表記が中古和文 の表記 を踏襲 しているとい う可能性 である。この ことは,『法 華百座聞書抄』の書写時期が

3文

献 中 もっ とも古い こと

,平

仮名文か らの書 き換 えが想定 されてい ることな どか らも首肯 され るところである。

(8)

5

まとめ

以上 の考察 よ り

,平

仮名文か らの書 き換 えの可能性 を指摘 されている文献 を除 くと

,院

政・ 鎌倉 期の漢字交 り片仮名文 において

,片

仮名表記字音語 に拗音表記 を含 む語が見 られない理 由を

,和

文 の表記の踏襲 とす ることには疑間の余地のあることが明 らかになった。無論

,本

政 は高羽氏 の主張 を全面的 に否定す るもので はない。 しか し

,字

音語 の表記 に関 しては

,仮

名表記 を基本 とす る中古 の和文 と

,漢

字表記 を基本 とす る中世 の漢字交 り片仮名文 とでは

,本

質的な差異があると考 えた方 が良いように思われ る。 また本孜 は

,各

類 の用例 に共通 した語彙的性格 を見出 し

,類

相互 にそれを対比す ることによって, ある音韻 に関す る表記形式の差異 の理 由を考 えようとした ものである。 よって

,個

々の用例がなぜ そのような表記形式 を採 つているのか についての個別の検討 は別 にす る必要がある。 江 小林芳規博士「中世片仮名文の国語史的研究」広島大学文学部紀要 特輯号3 1971年3月 「中世片仮名文 における片仮名表記字音語について」鎌倉時代語研究 第16輯 平成 5年 5月 普通名詞類 は,用例中,固有名詞以外の語を一括 したものである。普通名詞類 という名称 は使宜的なものであっ て,品詞 としては名詞以外のものも含 まれる。一方,固有名詞 とは次のような性格 を持つ語 とした。「普通名詞 は 同種の事物 を一般的に表わす。一方,固有名詞はその同種の事物の内個々のそれぞれの事物 を他 と区別 して表わ す。普通名詞が事物 の属性 を表わすのに対 して,固有名詞 は事物の属性そのものを表わさず,その事物 を単に指 示する。つまり,固有名詞 は内包 としての意味を持たないJ(鏡味明克氏「固有名詞」『講座 日本語の語彙』第1 巻 語彙原論) 固有名詞 とは注(3)で述べたような性格 を持つ語 とした。 築島裕博士に次のような指摘がある。「一般 に仮名文学に出て来る漢語は,その性格が訓点資料のそれ とは異つて, 実際に作者の脳裏にあ り

,社

会一般で使用 されてゐた

,所

謂「表現語彙」であつた と見ることがで きる」(『平安 時代語新論』第二編本論 第四章語彙 第四節漢語の諸問題)勿 論,「表現語彙」といっても,個々の語の性格は 一様ではなく,また作品毎にその範囲 も異なるであろうが,和文語に見 られる字音語 の語彙的な性格 として一般 化できるのは,当時の貴族社会において,日常の言語表現に用いられた語彙 ということであろう。 「拗音について片仮名交 り文

,特

に本文 と傍訓の表記の違いから知 り得る事――漢字音考察の一b一―」(国語 と 国文学 第38巻第8・ 9号 昭和36年8・ 9月) (1993年4月20日受理)

参照

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