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期待マネジメントに挑む黒田日銀
4 月以降夏場にかけての追加緩和を予想
○ 日本銀行は3月の金融政策決定会合で金融政策を据え置く一方、景気判断では輸出を下方修正した。 黒田総裁は経済・物価見通しに強気の見方を示しているが、市場の追加緩和期待は根強い状況だ。 ○ 黒田総裁は、追加緩和の可能性に言及しつつも、現時点での追加緩和は不要と発言している。追加 緩和をできる限り温存しながらインフレ期待を高める戦略と考えられる。 ○ 物価目標2%を2年で達成するとの目標を掲げる限り、日銀の追加緩和は避けられないだろう。4月 以降夏場にかけての金融政策決定会合で追加緩和が行われると予想する。1.輸出の判断を下方修正
日銀は、3 月 10・11 日の金融政策決定会合で金融政策を据え置く一方、輸出の判断を下方修正した。 黒田総裁は物価目標達成への強気の見方を示しているが、市場での追加緩和期待は根強い状況だ。 今次会合では金融政策の変更はないとの見方が多かったため、会合後の市場の反応は限定的となっ た。景気判断については、総括判断は「緩やかな回復を続けている」と前月から変更はなかったが、 輸出は前月の「持ち直し傾向にある」から「このところ横ばい圏内の動きとなっている」と下方修正 された(図表 1)。他方、設備投資判断は「持ち直している」から「持ち直しが明確になっている」 と前進した。最終需要項目での下方修正は、昨年 4 月の量的・質的金融緩和後初めてとなった。マーケット
2014 年 3 月 18 日みずほインサイト
市場調査部シニアエコノミスト 野口 雄裕 03-3591-1249 [email protected] 図表 1 日銀の景気判断(総括判断・設備投資・輸出) 4月 下げ止まっており、持ち直しに向かう動きもみられている。 非製造業に底堅さがみられるものの、全体として弱めとなっている。 下げ止まっている。 5月 持ち直しつつある。 非製造業が引き続き底堅く推移するなか、全体としても下げ止まりつつある。 - 6月 持ち直している。 - 持ち直しつつある。 7月 緩やかに回復しつつある。 企業収益が改善するなかで下げ止まっており、持ち 直しに向かう動きもみられている。 持ち直している。 8月 - - - 9月 緩やかに回復している。 企業収益が改善するなかで、持ち直しつつある。 持ち直し傾向にある。 10月 - 企業収益が改善するなかで、持ち直している。 - 11月 - - - 12月 - - - 1月 緩やかに回復を続けており、このところ消費税率引き上げ前の駆け込み 需要もみられている。 - - 2月 - - - 3月 - 企業収益が改善するなかで、持ち直しが明確になっている。 このところ横ばい圏内の動きとなっている。 設備投資 輸出 (資料)日本銀行よりみずほ総合研究所作成 (※)記載がない欄は判断が据え置かれたことを示す。 2013年 2014年 総括判断2 輸出が伸び悩む理由について、会合後の記者会見で黒田総裁は、海外生産シフトといった構造的要 因があるとしながらも、①ASEAN景気の弱さ、②米国の寒波や東アジアの春節の影響、③駆け込 み需要への対応から企業が国内向け出荷を優先する動きが見られることを挙げ、一時的な要因も相応 にあると説明した。今後、先進国の成長率が高まっていけば輸出も増加していくとの見方だ。 一方、消費者物価上昇率(除く生産食品)は、昨年1月に掲げた目標の前年比上昇率 2%に対し、 今年1月には前年比+1.3%まで高まっている。日銀の展望レポート(2014 年1月)における 2013 年度の物価見通し+0.7%(政策委員見通しの中央値)の達成は確実な状況だ。食品及びエネルギー を除く消費者物価上昇率も+0.7%となり、1998 年 8 月以来の水準となっている。黒田総裁は、「2014 年度後半から 2015 年度前半にかけ、消費者物価上昇率は 2%に達する」と強気の見方を示している。 しかしながら、消費者物価はエネルギー価格による押し上げ効果が剝落し、今後、上昇幅が鈍化する ことが見込まれる。日銀は今後の物価見通しについて、2014 年前半は1%台前半で推移し、その後 再び上昇傾向に復し 2%に到達するとの見方を示している。日銀と民間の 2014 年度の物価見通しは 乖離しているが、消費増税後の物価上昇スピードに対する見方の違いが要因と思われる。当社の見通 しでは、年前半は消費税を除くベースで 1%台前半での推移となるものの、年後半は 1%を下回ると 予想している(図表 2)。2 年で 2%の物価目標を達成することは困難で、日銀は早晩追加緩和を行う との見方が大勢だ。
2.期待のマネジメントに挑む黒田日銀
黒田総裁は、経済・物価見通しに強気の見方を示しながらも、追加緩和の可能性も否定していない。 追加緩和策をできるだけ長く温存しつつ、量的・質的金融緩和の目的であるインフレ期待を高めるた めの戦略と考えられる。 追加緩和期待の高まりに対し、黒田総裁のコメントは首尾一貫している。物価見通しについては 「2%の物価安定目標実現への道筋を順調にたどっている」と強気の見方を示す一方、追加緩和の可 図表 2 消費者物価上昇率の見通し ▲ 1.0 ▲ 0.8 ▲ 0.6 ▲ 0.4 ▲ 0.2 0.0 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0 1.2 1.4 12/1 12/7 13/1 13/7 14/1 14/7 食料(酒類・生鮮食品除く) 米国基準コアCPI エネルギー コアCPI (前年比、%) 見通し (資料)総務省「消費者物価指数」よりみずほ総合研究所作成3 能性については「日銀の見通しの下振れリスクが顕在化する場合は、躊躇なく現在の量的・質的金融 緩和の調整を行う」と否定していない。 量的・質的金融緩和の目的はインフレ期待を引き上げることにあるが、そのためには将来物価が上 昇するとの期待が高まることに加え、実際に物価が上昇していくことも重要だ。日銀は、インフレ期 待の形成メカニズムについて、将来の物価上昇期待である「合理的期待形成」による部分に加え、実 際の物価上昇による影響、つまり「適応的期待形成」による影響が相応にあるとしている。しかしな がら、2%達成に依然距離がある中では、実際の物価上昇だけでなく、日銀が 2%の物価目標達成へ の強いコミットメントを示し続け、期待に働きかけることにより、さらに引き上げていく必要がある。 これまでのところ日銀の想定通り物価が上昇していることもあり、日銀としては、なるべくぎりぎり まで追加緩和を温存してインフレ期待を引き上げたいというのが本音だろう。黒田総裁の発言は、こ うした狙いを踏まえたものと考えられる。日銀による期待のマネジメントが量的・質的金融緩和成功 の鍵を握っている。 それでは、インフレ期待は実際に上昇しているのであろうか。量的・質的金融緩和における期待へ の働きかけの問題点は、期待の高まりをどのような指標で検証するのかが不明確な点だ。日銀は家計 の予想物価上昇率や物価連動国債のBEIなど、様々なデータを示し期待が高まっていると主張して いる。債券市場参加者が予想する物価上昇率見通しを見ると、中長期的な物価見通しである今後 10 年の物価見通しは、昨年後半以降緩やかに上昇してきたが、未だ 2%を下回っており、足元は横ばい 推移となっている(図表 3)。 2 月の金融政策決定会合で決定された貸出支援措置の延長・拡充は、期待への働きかけの好事例と 言える(図表 4)。このスキーム自体は、企業の資金需要が高まることが前提であり、効果は未知数 だ。しかしながら、貸付枠を 2 倍にするなど、量的・質的金融緩和のキーワードである「2 倍」とい う表現が盛り込まれたことで、市場の追加緩和期待を高め、会合後に円安・株高が進んだ。年初以降 の新興国不安が落ち着いた後、米国株に対し日本株の戻りが鈍くなっており、1月以降、海外投資家 図表 3 市場参加者のインフレ期待 図表 4 貸出支援措置 変更前 変更後 貸付限度額 ・金融機関の貸出増加額相当額 (無制限)(※1) ・金融機関の貸出増加額の2倍 相当額(無制限)(※2) 貸付条件 ・年0.1%。1年、2年又は3年。最長 4年まで借換可能 ・4年固定0.1%。1年毎に金融機関 のオプションによる期日前返済可 貸付残高 ・87先。50,843億円(2013年12月 16日時点見込み) (※1)直近の貸出増加額を踏まえた資金供給額想定は15兆円 (※2)直近の貸出増加額を踏まえた資金供給額想定は30兆円 変更前 変更後 貸付限度額 ・総枠:3.5兆円・対象金融機関毎の上限 :1,500億円 ・総枠:7兆円 ・対象金融機関毎の上限:1兆円 貸付条件 ・年0.1%。原則1年。3回まで借換 可能(最長4年) ・4年固定0.1%。1年毎に金融機関 のオプションによる期日前返済可 貸付残高 ・71先。32,393.4億円(2013年 12月6時点見込み) (資料)日本銀行よりみずほ総合研究所作成 ( 貸出増加を支援するための資金供給 ) ( 成長基盤強化を支援するための資金供給(本則) ) ▲ 1.0 ▲ 0.5 0.0 0.5 1.0 1.5 2.0 2.5 1 4 7 10 1 4 7 10 1 4 7 10 1 (%) 今後10年 今後2年 今後1年 1.72 1.82 1.36 2013年 2012年 2011年 (月) 物価目標2% (※)CPIコア変化率の見通し(消費税含む平均値) (資料)QSS月次調査(最新調査:2014年3月3日)
4 の日本株売り越しが続いていることなどを踏まえると、海外勢を中心にアベノミクス相場の持続性に 対する懐疑的な見方が台頭している可能性は否定できない。日銀は、市場の不安に先行的に対応し、 期待の維持を図ったものと考えられる。2 月の金融政策決定会合の議事要旨では、多くの委員が、「金 融機関の一段と積極的な行動や企業・家計の前向きな資金需要の増加を強力に促し、日本銀行として の「強い意思」を示す観点から、資金供給と規模と期間の面で、思い切った拡充を行ってはどうか」 との発言も見られた。
3.4 月以降夏場にかけての追加緩和を予想
日銀の追加緩和の目的がインフレ期待の引き上げであることを踏まえると、市場に対して後手に回 らない政策対応がポイントとなる。日銀は、市場の期待をつなぎとめながら、インフレ期待を引き上 げる最適なタイミングで追加緩和を行うだろう。 追加緩和のタイミングとしてまず考えられるのは、4 月 30 日の金融政策決定会合である。当会合で は、展望レポートの発表が予定されており、2016 年度までの経済・物価見通しも示される予定だ。4 月の消費増税による景気下振れへの対応を前倒しで行うというものだ。日銀は展望レポートで消費増 税による影響は織り込み済であるとしているものの、10~12 月期の実質GDP下方修正を受け、黒 田総裁は 4 月の展望レポートで今後の経済・物価見通しを再度検証する旨発言をしている。日銀の 2013 年度の成長率見通し+2.7%は下方修正される可能性が高く、2014 年度以降の経済見通しも見直 される可能性がある。 通常の金融政策運営であれば、消費増税の影響を経済指標で見極めてから対応すると考えられる。 4~6 月期の成長率を確認して対応するのであれば 8 月ということになる。しかしながら、期待のマ ネジメントの観点でいえば、事後的な追加緩和は、市場が追加緩和を織り込んでからの対応となり、 インフレ期待を引き上げる効果は限定的となるだろう。インフレ期待は 4~6 月期の景気下振れによ り低下する可能性があり、これを回避するには早期の対応が効果的だ。市場に「サプライズ」を与え ることも期待の引き上げには効果的であることを考えると、市場の緩和期待が後退している時期こそ、 むしろ追加緩和の好機と言えよう。日銀の森本宜久審議委員は 2 月 20 日の記者会見で、「足元と先行 きの状況を見通して、見通しの基本的なパスに変化が生じているのかどうかという点を毎回見極め る」とし、予防的な対応の可能性を否定していない。但し、追加緩和を何度も行うと期待に働きかけ る効果が低下しかねない。追加緩和の必要がないと判断した場合は追加緩和策を温存し、市場の期待 をつなぎとめる何らかのメッセージを出すといった対応も考えられる。 4 月の対応が見送られた場合も、2014 年度後半に物価上昇率が 2%に達するとの目標を掲げる限り、 早晩追加緩和は避けられないだろう。次のタイミングは夏場までに開催される金融政策決定会合だ。 7 月会合では 4 月に発表される展望レポートの中間評価が行われる。安倍政権は年末にも 2015 年度 の消費税率引き上げ(8%→10%)の判断を迫られることになる。消費税率引き上げを決断するには 7~9 月期の成長率が持ち直し、その後も成長が持続していくことが見通せることが必要だ。消費増5 税が実現できなければ、財政悪化懸念から長期金利が上昇し、景気が下振れる要因となり得る。夏場 に追加緩和を行うことで、金融政策面から 2015 年の消費増税の実現をサポートすることも考えられ る。政府の新成長戦略も 6 月末に発表される予定であり、同時期に追加緩和を行えば、更に期待を押 し上げる効果も期待できるだろう。 物価目標 2%を 2 年で達成する必要はなく、経済成長に見合った物価上昇が維持されていれば問題 ないとの見方もある。しかしながら、黒田総裁は、「消費者物価指数は実態よりも高めに出る傾向が あり、ある程度ののりしろが必要」と述べており、2%の物価目標を簡単には引き下げないだろう。 2016 年度には 5 年ごとの消費者物価指数の改定が予定されており、過去の経緯を踏まえると改定の タイミングで物価上昇率が下方修正される可能性がある。物価が上昇し 2%が見通せるようになれば、 人々の物価観が変化し、実体経済を変化させる可能性も考えられよう。 ●当レポートは情報提供のみを目的として作成されたものであり、商品の勧誘を目的としたものではありません。本資料は、当社が信頼できると判断した各種データに 基づき作成されておりますが、その正確性、確実性を保証するものではありません。また、本資料に記載された内容は予告なしに変更されることもあります。