『子どもに見えている世界』を共有するデザイン
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(2) 2.2. 幼児の「時間がかかる行動」調査. ④ BGM のテンポによって作業効率が上がる可能性. 「早くしなさい」に代表される、所要時間の短縮や行動の催. 成人における認知的負荷の低い作業では、BGM(Back Ground. 促を意図する言葉が多用される行動、家庭での時間に関する取. Music)のテンポによって作業効率が高くなるとされ、幼児に. り組みなどについて、3歳児クラスから5歳児クラスの幼児の. おいても同様の効果が期待される8)。. 保護者を対象にアンケートを実施した(n=127)。その結果、. アンケートによる行動の分析と、いくつかの音源を用いた予. 幼児とのやりとりの中で時間の認識の差異に起因する、結果と. 備実験から、使用する音は以下の2グループとした。. して保護者が「早く」と言う頻度の高くなる行動は、以下の2. ①次行動への移行:着替え、お風呂(入浴)、洗顔、排泄. つに分類される(表1)。. 移動や動きを伴う行動であるため、音の流れを重視し、アッ. ①排泄から洗顔、洗顔から着替えといった移動の伴う行動で、 「次行動への移行」に時間がかかる場合. プテンポなメロディを中心に、各行動を想起させる効果音を組 み込んだ。. ②食事や入浴など、開始から終了まで一つの場所に留まる行動 で、「行動の完了」に時間がかかる場合. ②行動の完了:食事 開始から終了まで同じ場所に留まる行動であり、①に比べる. そこで、この2種類の「時間がかかる行動」を円滑に進め、. と時間を要することが多い為、楽器によるリズムを中心に、一. 親子のコミュニケーションの齟齬を軽減し得るプロダクトの検. 連の音の流れの中にアクセントとなる音を組み込み、随所で時. 討、制作を行うこととした。制作にあたり、当初の「早く行動. 間の経過を意識できるようにした。. を終える」ことではなく、「保護者が次行動の催促を頻発しな い」「幼児が自律的に次行動への移行、行動の完了を達成でき る」の2点を目標とした。. 予備実験では CD を用いて音と行動の検証を行ったが、その 際に「行動完了時の達成感が得られにくい」「音が発せられる. 表1 「早くしなさい」と言う頻度の高い行動 行動 食事. 状態. 行動の分類. 決まった時間に食べ終わらない. 72%. 行動の完了. り、一方的な投げかけになりかねない」といった課題が得られ. 朝食の時間になっても起きない. たことから、聴覚的アプローチを用いながら①子ども自身が操. 48%. 行動の完了. 54%. 次行動への移行. (夜)寝る時間になっても寝ない. 62%. 次行動への移行. 71%. 次行動への移行. なかなか入ろうとしない. 53%. 次行動への移行. いつまでも遊んでいて出ようとしない. 54%. 行動の完了. 「早く行くよ」「急いで」が伝わらない. 57%. 着替え 寝起きになかなか着替えようとしない. 登園 遊び. 装置が気になってしまう」「保護者が機器を操作することによ. 頻度. 睡眠 (昼)寝る時間になっても寝ない. お風呂. 2.4. プロトタイプの目的と仕様. 決まった時間に出発できない. 60%. 次行動への移行 行動の完了. いつまでも遊んでいる. 62%. 次行動への移行. 2.3. 音を用いた時間の表現と共有 プロトタイプの制作にあたり、以下の4点の理由から、音や メロディといった聴覚的なアプローチを用いることとした。 ①幼児の時間認識と音、メロディの共通性 幼児の『変則点線型』時間認識と、メロディの持つシークエ ンス性には共通性があり、また時間の有限性を認識しにくい幼 児に対し、メロディやリズム音の種類などの変化は時間の方向 性や区切りを作る手助けになり得ると考える。 ②視覚的表現に比べ幼児の行動を妨げにくい. 作できること、②行動の完了が明確であること、③一連の行動 の順序を把握し、自律的に複数の行動を達成できること、の3 点の実現を目指しプロトタイプの仕様を決定した(表2)。 表2 プロトタイプの仕様 必要な要素. 仕様. ①一連の行動を把握できる. 行動を示すアイコンの制作. ②行動の順序を保護者と共に決める. 一つの行動に一つの音. ③行動の終始を明確にする. 音の終始と行動の終始を結ぶ. ④行動の完了時に達成感が得られる. 行動の完了時は幼児が音を止める. ⑤家庭での使用を想定. 食卓に置いても違和感のない素材と 大きさ. ⑥汎用性がある. 幼児にわかりやすいアイコンと音の データ化. ⑦音の入れ替えが可能である. USB メモリの使用. ⑧操作が簡単である. 幼児がどのような状態でも操作でき る、単純で繰り返したくなるもの. 対象とする行動は、前項のアンケートより保護者が幼児に 「早く」と言う頻度の高かった「食事」「着替え」「洗顔」「排. 見ながら、もしくは定期的に見なくてはならない視覚的表現. 泄」「お風呂(入浴)」の5つとした。これら5つの行動内容を. に比べ、聴きながら行動することは幼児にとっても比較的容易. 示すピクトグラムを印刷した USB メモリに各行動に適した音. であると推測される。. を入れ、これをスイッチとし、幼児はこのスイッチをこれから. ③幼児は発達段階の早期から音を認知する. 行う行動の順番に本体に差していく。5つの行動は連続して行. 幼児は2歳で音に合わせることができ、3歳で音の動きの輪 郭を知覚するとされる 。 7). われる可能性がある為、音をセットする部分は5箇所設けた。 各行動をスタートする際には幼児自身がスイッチを上に倒し音 デザイン学研究特集号 Special Issue of Japanese Society for the Science of Design Vol.24-1 No.93 2016. 33.
(3) をスタートさせる。行動を完了させることができたら自らス. 識しづらいことに起因したものである。. イッチを下に倒すことで音が止まる(図3)。スイッチの順番. ③スイッチの操作性と幼児の行動. により全体の行動の流れを、スイッチの方向によって、どこま で行動を完了させたかを認識できる。. 行動完了と共にスイッチを上から下へ倒す操作は、幼児に とって全体的に容易であり、理解しやすいルールであるといえ る。また自由記述からは、操作時に発生する「かちっ」という クリック感が幼児にとって楽しく、また、一連の行動がピクト グラムによって視覚化されることで、現在の行動の位置付けが 理解し易くなる、スイッチ操作の楽しさにより幼児の気持ちが 次の行動へ向き易くなる、といった回答が得られた。 2.7. 発話内容の抽出と分析結果 プロトタイプによる実験の様子を撮影したデータから、幼児 の音への反応及び幼児と保護者の発話内容、所要時間を抽出し、 保護者へのアンケート結果と共に分析した。以下に最も保護者 が「早く」と言う頻度の高い「食事」についての結果を示す。 ①所要時間:どの幼児についても音が有ることによって、音が 無いときよりも所要時間が延長されるということはなく、A児 とB児については、短縮傾向にあった。 ②行動の円滑さ: A児とE児は音が有ることで、食事が円滑 になり、両者とも音に呼応しながら自ら食事を進めていく姿が 見られた。音の変化が意識を切り替えるきっかけとなり、再び. 図3 上:音データの入ったスイッチ 下:本体への装着状態. 食事へ向かう気持ちに繋がったと考える。B児は音を楽しみす. 2.5. プロトタイプによる検証. が、食事自体は楽しみながらでき、親子間で食事に向かう気持. ぎるあまり、行動自体は円滑になることも滞ることもなかった. プロトタイプを幼児と保護者が日常生活で使用することに. ちの向上や会話の発生が見られた。C児は、音が却って行動の. よって、2.2. 章で述べた目的が達成されるかなどについて、最. 妨げとなった、または実験の状況に興味を示し、食事に集中し. 終的な検証を行った(n=5)。3歳から6歳の幼児及びその. にくかったようだが、その原因として2歳8か月という年齢か. 保護者に各家庭内で数日にわたりプロトタイプを使用してもら. ら、ルールの理解が曖昧であること考えられる。. い、ビデオカメラによる使用風景の定点録画及び保護者に対す. ③楽しさ:全体的に音が有ることで食事を楽しんで進める様子. る使用後のアンケート調査を行った。一連の動作を幼児自身が. が確認され、音の楽しさからくる行動への意欲が結果的に行動. 行い、行動の途中では保護者は極力「早くしなさい」などの声. を円滑に遂行させるという傾向が見られた。. 掛けは行わないこととした。. ④音の印象:食事のスイッチに使用した音には、食事を想起さ. 実 施 期 間:2013年12月から2014年1月. せる具象音と、猫などの動物の鳴き声を組み込んでいる。その. 実験参加者:3歳から6歳の幼児及びその保護者(n=5). 音に最も反応し、次いでメロディ部分や音の変化の節目として. 使 用 期 間:3日以上. いるベル、ピアノといった音に反応を示す様子が見られた。食 事は他の行動に比べ所要時間が長いことから、音の変化を明確. 2.6. アンケート調査と分析. にするために、メロディ、楽器の一定したリズム音、具象音な. ①ピクトグラムが示す行動の理解. ど様々な要素を取り入れたが、実験参加者によっては変化に富. 食事、着替え、排泄、洗顔、入浴を示すピクトグラムについ て、いずれの幼児もほぼすべて理解できており、幼児の月齢及. みすぎるよりも単調な方がよい、あるいは音の無い状態が有る 方が良いという保護者の意見がみられた。. び性別による理解の差異は認められなかった。 ②スイッチの装着 いずれの幼児もスイッチの装着が困難なケースが目立った。 これはスイッチ先端部の USB コネクタの方向性が幼児には認. 34. デザイン学研究特集号 Special Issue of Japanese Society for the Science of Design Vol.24-1 No.93 2016. 2.8. 結果と今後の課題 実験の結果、日常生活の行動に関する幼児と保護者のコミュ ニケーションに、音が介在することにより、①行動の所要時間.
(4) は延長されず、短縮傾向にある②楽しさが生じ、自ら行動へ向. ら、彼らの「空・山・川・海」に対するイメージや興味、関. かう気持ちが向上する③幼児に「早く」と言わないことで、親. 心、遊び方などの把握を行った。. 子共に楽しさと心理的なゆとりが生まれるということがわかっ. ①「空・山・川・海」の理解を促す玩具の試作を制作. た。結果として、幼児の時間認識に寄り添うプロダクトによ. ②A児、B児のうち1名と療育者、制作者とのやりとりの中. り、親子で時間を共有し、時間の認識の違いに起因するコミュ. で、①の試作を使用し、自由に遊んでもらう. ニケーションの齟齬の軽減に繫がったと考える。また、物理的. ③その様子をビデオカメラ1台で撮影. なスイッチ操作により、行動の終始の明確化、次行動への意. ④発話内容や動作を書き起こし、療育者の意見などと共にレ. 欲、行動完了時の達成感につながる様子がみられた。本プロト. ポートを作成、課題や改善点を明確にする。. タイプによって大幅な時間短縮は実現されなかったものの、幼. これらのプロセスを約7か月にわたり複数回繰り返し、検討. 児自ら各行動が描かれたスイッチの操作を通して一連の行動を. を進めた。. イメージし、前向きな気持ちで行動完了に臨めること、保護者 が幼児の時間認識を共有し、共に一つのことへ向かう一体感が 得られることには大きな意味があると考える。. 3.2. 発達段階などによる2つのアプローチ 「空・山・川・海」の理解を促すためのアプローチには、発達 段階などに応じ以下の2つの方向性があることが推測された。. 3.盲児のための「空・山・川・海に触るおもちゃ」 もう1つの事例として、視覚に障がいを持つ子どもたちのた めの「空・山・川・海に触るおもちゃ」の制作プロセスについ て述べる 。社会福祉法人京都ライトハウス内にある視覚障が 9). タイプA:光や音を使って表現し、山や海に対し「行ってみ たい、もっと知りたい」という興味・関心を育むもの タイプB:空や海などの相互の関係が理解できる、またそれ ぞれについてより具体的な知識を得られる図鑑のようなもの. い児支援施設「あいあい教室」では、視覚に障害を持つ未就学. 触覚は対象物に触れることで初めて情報を得ることが出来る. 児童(以下、視覚障がい児とする)とその保護者に対し様々な. ものであり、視覚と異なり、能動的に触れに行く必要がある。. 支援を行っている。施設内だけでなく、散歩や遠足などで外出. その為に、まず対象について触れてみたいと感じる興味・関心. する機会も設けられている。この外出の際、土や葉っぱなどに. を育てることが重要であり、タイプAはこの興味・関心を育む. 触れることに恐怖や不安を示す様子がしばしば見られる。ま. 仕掛けを中心に構成するものである。. た、触覚では空・山・川・海といった大きな空間の理解が難し. 対してタイプBは、山や海などに対する興味・関心、あるい. 。これは全体像を瞬時に. は断片的な知識を既に得ている場合に、これらの全体像や相互. 捉えることが容易な視覚に対し、対象に触れ、その連続により. の関わりが理解でき、更に詳しい知識が得られることを通して. 全体像を把握する触覚の特性に起因するものである。触覚では. 「行ってみたい」「もっと知りたい」という気持ちを育むことを. いといった課題も指摘されている. 10). 空や山のように、手指で全体に触れられない空間は理解が困難 であり、理解が困難なものに触れることは恐怖や不安につなが る。また、空から降る雨が川となり山を流れ海へと注ぐといっ. 目的とする。 本稿ではこれらのうち、より具体的な知識を得る玩具〈タイ プB〉の取り組みについて詳しく述べる。. た相互の関わりをイメージすることも難しい。これらをふま え、本研究では、複数の試作によるコミュニケーションを通し て触覚による空間認知特性を共有しながら、空・山・川・海へ の興味・関心を育み理解を深める玩具の提案を行った。. 3.3. より具体的な知識を得る玩具〈タイプB〉試作検討 タイプBは実験参加者B児を対象に制作を進めた。空・山・ 川・海の概念や相互の関わりを理解し、更に具体的な知識を得 ることを目的とし、以下の順で試作検討を進めた。なお、いず. 3.1. 試作による検討プロセス. れの試作においても明確なストーリーは設定していない。. 「あいあい教室」に通う幼児のうち、本研究に協力してくれた. ①試作 B-1:空・山・川・海を抽象化したイラストを立体化す. 実験参加者はA児(5歳・光覚) 、B児(6歳・全盲)で、2名. る、一般的な絵本の形をとった(図4)。B児は積極的に触れ、. とも視覚的経験の記憶が少ない、先天性の視覚障がい児である。. 様々な質問を発したが、その発話内容から、同一平面上の描写. A児:音楽が大好き。指の感覚が敏感で、触感の好き嫌いが. では空が山や川の「上」にあることがイメージしにくいことが. はっきりしている。. わかった。晴眼者は画面上部に雲や太陽が配置されていれば、. B児:知的好奇心が旺盛で、読書が好き。物事の仕組みや作り. 絵本の向きに関わらずそれを「上」と認識することが容易だ. 方にも関心がある。. が、盲児が絵本を平置きにした状態で触れる際には、画面上の. まず数点の玩具の試作を制作し、彼らと共に遊ぶ機会の中か. 上下の概念がわかりにくい。 デザイン学研究特集号 Special Issue of Japanese Society for the Science of Design Vol.24-1 No.93 2016. 35.
(5) 与えたものであることから、山全体の具体的な形状などをイ メージしにくいこと、相互の関係の理解に関心が及びにくいこ となどが課題として挙げられる。. 図4 試作 B-1:イラストを立体化した絵本. 図6 試作 B-3:左)紙芝居形式で表現 右)生物フィギュアと貝殻. ②試作 B-2:「上にあるものは上(鉛直面)に、水平面のもの. ④試作 B-4:空や山などの全体像、相互の関係をイメージしや. は水平面に」配置した絵本を制作したところ、B児は位置関係. すいよう、積層段ボールによって山や海の高低差を表現した(図. を明確に把握することができた(図5)。また、カニなどの生. 7) 。これによって山や海などの立体感などの理解が容易になり、. 物をイラストの立体表現ではなくフィギュアで示したところ、. B児自ら遊び方を考え、ストーリーを発展させていく姿が見ら. B児は非常に強い関心を示し、これらの生態について活発な質. れた。また、この試作ではこれまでの会話や観察結果などから、. 問が生まれたことから、デフォルメされた表現ではなく、リア. 「触覚的な空間認知」に着目した。複数要素からなる空間を瞬時. ルで図鑑的な表現の可能性が示唆された。一方でこの絵本は大. に把握できる視覚と異なり、触覚では手指で対象物の一部に触. 人が常に両手で鉛直面を支える必要があり、その不安定さから. れ、その連続から形状や空間を把握する。そこで「空に浮かぶ. B児が自由に触れにくいという問題があった。. 雲から雨が降り、山に降り注ぐと川になり、やがて海に流れて いく」という「水」の動きを試作上に配した。この水を指先で 順に辿ることで、空・山・川・海の相互の関わりをイメージし やすくなっている。改善点として扱いやすい大きさにすること、 支え無しで一人でも遊べる安定した構造が挙げられる。. 図5 試作 B-2:左)上にあるものは上に配置 右)生物フィギュア. ③試作 B-3:試作 B-2では療育者が両手で鉛直面を支える必要 があり、B児と療育者とのコミュニケーションの取りにくさが 指摘されたため、持ち運びが容易で自立させやすい紙芝居形式 に変更した(図6) 。また、生物フィギュアも新たに制作し、 タコは吸盤の凹凸も再現するなど、極力リアルな形状を目指し た。フィギュアがあることで、B児自ら川や海の上でフィギュ アを動かして積極的に遊び、会話が弾む様子が見られた。生物. 36. 図7 試作 B-4で遊ぶ様子. 3.4. 〈タイプB〉最終プロトタイプ制作. フィギュアを核にして会話を重ねることで、川や海への理解は. 試作を使っての遊びを通し、①抽象的な表現より具象的な表. 深まったが、空・山・川・海があくまで平面的な描写に凹凸を. 現の方により積極的な興味を示すこと、②視覚的表現ではペー. デザイン学研究特集号 Special Issue of Japanese Society for the Science of Design Vol.24-1 No.93 2016.
(6) ジ上部に太陽を配置すれば「上」にあると認識されるのに対. 4.まとめと今後の課題. し、触覚的表現では三次元で実際に「上」に配置する方が理解. 「子どもに見えている世界を知る、共有する」ことを手掛か. しやすいこと、③山や海などの相互の関わりについては、それ. りに「能動的、自律的な行動につなげる」ことを目的とした2. ぞれを立体で表現するだけでなく、それらの間を移動する存在. つの試みについて紹介した。いずれもプロトタイプであるが、. を設定し、指で辿る形をとると理解しやすいこと、などが明ら. その試用を通して、子どもの成長を促すだけでなく、周囲の大. かになった。. 人のゆとりや新たな気づきを生む可能性が示唆された。. そこで最終モデルでは『とびだす自然絵本』と『いきもの図. 子どもの成長には保護者を中心とした周囲の大人との関係が. 鑑』の2冊1組の構成とし、とびだす自然絵本では山や海を立. 不可欠である。 「子どものためのデザイン」はその関係性の構築. 体的に表現し、いきもの図鑑にはそこに棲む生物のリアルな. をサポートするものでもあり、大人もまたユーザーであると考. フィギュアを収納、併せて点字でそれぞれの生態の説明を添え. える。大人が子どもに見えている世界を知り、共有することで、. た。また空の表現では太陽や雲を鉛直面に配置し、雨が空から. 両者のコミュニケーションの齟齬が軽減され、あるいは深まり、. 山へと降り、川となり海へ注ぐ「水」をたどることで相互の関. 子どもの成長がより健やかで伸びやかなものになることが期待. 係を触覚で追えるようにした(図8)。また自然絵本は自立し、. される。その為にも、教育分野との連携やプロトタイプの試用. 幼児一人で遊ぶことが可能であり、これら2冊は重ねて収納す. を通した子どもとのやり取りに加え、ヒアリング調査などによ. ることができる(図9)。. る保護者の気持ちの変化の把握などが重要であると考える。 一方で、プロダクトの目的が「子どもがある行為やタスクを 達成しやすくなる、出来るようになる」ことである場合、周囲 の恣意的な促しや意図が介在することになり、どこまでが子ど もの能動的、自律的な行動と言えるのか、という点については 継続的に考えながら取り組む必要がある。 【注釈及び参考文献】. 図8 左)『とびだす自然絵本』と 右)『いきもの図鑑』. 図9 左)2冊を並べて遊ぶ様子 右)収納状態. 3.5. 〈タイプB〉最終プロトタイプの試用を通して B児は積極的に各要素を指でたどりながら会話し、生物フィ ギュアを手にした際には生態に関する質問にとどまらず、「こ れ作ったの?どうやって作るの?」とフィギュア制作の手法に も興味が及んだ。初期段階では療育者や製作者が玩具を元に説 明を行うが、次第に自らストーリーを作って遊びを発展させ、 療育者や制作者に披露してくれる場面もあった。一方で、これ らのプロトタイプは、楽しみながら幅広く興味を持って知識を 得る1つのきっかけにはなったものの、山や海に「実際に行っ てみたい」という気持ちを喚起するには至らなかった。今後 は、より詳細な『いきもの図鑑』の制作だけでなく、もっと知 りたい、実際に行ってみたいなど次のステップにつながるプロ. 1)谷口由佳,赤井 愛:音を利用したプロダクトによる大人 と幼児の時間の流れの共有に関する研究1,日本デザイン 学会研究発表大会概要集 Vol.61,2014. 2)赤井 愛,谷口由佳:音を利用したプロダクトによる大人 と幼児の時間の流れの共有に関する研究2,日本デザイン 学会研究発表大会概要集 Vol.61,2014. 3)竹内謙彰,丸山真名美:慣用的時間概念の発達,愛知教育大 学,研究報告,49(教育科学編) ,pp.103-107,2000-03. 4)井倉美江:時間認識とその表現─子どもの時間概念の形成 を通じて,國語表現研究4,pp.49-57,1991-12. 5)但馬香里:幼児期における日本語の時制の概念について─ 3歳前後の幼児における初歩的観察報告,東京工芸大学工 学部紀要,28(2),人文・社会,pp.33-38,2005. 6)岡野雅子:幼児にとっての時間(Ⅵ)─言語表現にみる時 間認識群馬女子短期大学,日本保育学会大会研究論文集, 42,pp.84-,1989-05. 7)福井隼仁,山田裕美:乳・幼児の音楽認知に関する研究, 奈良教育大学紀要,38,1,人文・社会,1989. 8)阿部麻美,新垣紀子: BGM のテンポの違いが作業効率に 与える影響,日本認知科学会大会発表論文集,27,pp.347,2010. 9)赤井 愛,時實 茜,古川千鶴:盲児の知的好奇心を育む 「空・山・川・海に触るおもちゃ」の提案,日本デザイン 学会研究発表大会概要集 Vol.63,2016. 10)笹田昭三,田中利江:盲児における図形・空間認知力の育 成,鳥取大学教育学部研究報告,教育科学,第34 巻1号, pp.19-41,1992.. ダクトの検討が必要であると考える。 デザイン学研究特集号 Special Issue of Japanese Society for the Science of Design Vol.24-1 No.93 2016. 37.
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