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注射恐怖の生起・維持メカニズムの検討――代理学習経路に焦点を当てて――

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Academic year: 2021

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日本認知・行動療法学会 第44回大会 一般演題 P2-40 376

-注射恐怖の生起・維持メカニズムの検討――代理学習経路に焦点を当てて――

○波光 涼風1)、神原 広平1,2)、重松 潤1)、尾形 明子1) 1 )広島大学大学院教育学研究科、 2 )日本学術振興会特別研究員DC 【問題】 予防接種や採血など,注射による処置は医療現場で 頻繁に用いられており,多くの人が経験し,かつ痛み やストレスを伴う処置の 1 つである。特に病気の予防 という点に関しては,誰もが注射処置を経験するた め,注射処置は身近な医療行為であり,われわれの健 康のために必要不可欠な処置である。多くの人が注射 処置を受けることに問題を抱えていない一方で,中に は注射処置に対して強い不安や恐怖を感じている人も い る こ と が 指 摘 さ れ て い る(McMurtry et al., 2016)。特定の恐怖症における血液・注射・外傷型の 人の中には,注射に対して過度な不安や恐怖を感じて おり,その苦痛に耐えながら注射を受けたり,注射処 置を回避したりしている。注射処置に対する過剰な恐 怖(注射恐怖)の大きな問題点は医療回避につながる ことであり(APA, 2013),そのことが原因で適切な治 療が受けられず重症化する可能性や,最悪の場合には 死に至る可能性もある(Olatunji et al., 2010)。 恐怖の獲得には,Rachman(1977)の理論が関連する と考えられるが,その中でも本研究は代理学習経路に 着目した。この経路は,モデリングや他者の不安行動 の観察を通して恐怖を獲得することであり,間接的な 恐怖獲得経路の 1 つである。この理論における代理学 習は直接条件づけのような連合学習と同様のメカニズ ムであると考えられている(e.g., Askew & Field, 2008; Field, 2006)。実際に,代理学習によって恐怖 信念や回避行動を学習することが実証されている (e.g., Askew et al., 2013;Dubi et al, 2008;Dunne

et al., 2013)。また,Kleiknecht(1994)の調査では, 特定の恐怖症の様々なサブカテゴリーに対する恐怖獲 得の経験経路として20%の人が代理学習であると回答 した。このように獲得経路に関する研究や,実験的に 代理学習による恐怖獲得の検討は行われているもの の,実際に個人が代理学習経路においてどのような経 験をして恐怖を獲得しているのかに関しては検討され ていない。そこで本研究では,回想法を用い代理学習 経路において個人がどのようなエピソードを体験して いるか検討を行う。具体的には,I.これまでに注射処 置中に他者が怖がっているところを見た時のエピ ソード,II.その経験による自身への影響,III.恐怖 の克服に至る経緯について質的に検討した。仮説とし て,他者が注射を怖がっている場面を目撃した個人 は,恐怖信念の形成や回避行動が生じるといったネガ ティブな反応が多く報告されると考える。 【方法】 参加者 大学生419名を分析対象とした(男性200 名,女性217名,不明 2 名,平均年齢20.00歳,SD = 1.39)。幼児や小中学生よりも大学生の方が,小児期 に受けた注射についての語りが多く報告された(佐 藤・蛯名,2009)ことから,本研究では,大学生を対 象にこれまでの注射経験について回想法で尋ねた。 手続き 調査は2017年12月に,大学の講義を利用し た集合調査法および縁故法によって実施した。

調査内容 質問紙はOllendick & King(1991)を参 考に,注射恐怖の獲得経路について,I.他者が注射処 置に対して怖がっている場面の具体的なエピソード, II.その経験によって生じた注射に対しての印象や行 動の変化,III.現在は注射恐怖を克服している場合, 克服した理由,の 3 点について自由記述で回答を求め た。 分析方法 得られた回答を,著者と臨床心理学を専 攻する大学院生 2 名によってKJ法(川喜多,1967)の アプローチを参考に用いてそれぞれの設問についてカ テゴリー分類を行った。割合に関しては,無回答を除 き,何らかの回答があったものすべてを100%とした ときの割合を算出した。 なお,本調査は広島大学の倫理審査委員会の承認を 得て実施した。研究内容や倫理的,社会的配慮の説明 を口頭や文書で行い,調査は無記名で実施した。質問 紙への回答をもって調査への同意を得られたものと判 断した。 【結果と考察】 対象者のうち119人(28.40%)が注射処置時に他者 が怖がっている何らかの場面を目撃したと報告した。 そのうち,その経験によって自身も怖くなった人は35 人(29.41%)であり,そのうち今現在怖くなくなっ た人は21人(60.00%)であった。以上より,約 3 割 の人がこれまでに注射処置時に他者が怖がっている何 らかの場面を目撃していることが明らかとなった。以 上より,全体の約 3 割が注射処置時に他者のネガティ ブな反応を目撃する機会があり,代理学習によって注 射恐怖を獲得した者は全体の割であり,そのうち約 6 割は自然寛解する可能性がある一方で,約 4 割はいま もなおその恐怖が持続していることが明らかになっ た。 次に,I.これまでに注射処置中に他者が怖がってい

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日本認知・行動療法学会 第44回大会 一般演題 P2-40 377 -るところを見た時のエピソードでは,「兄弟/姉妹が泣 いている場面の目撃」が23.62%と最も多く報告され た。次いで「他者が恐怖・嫌悪を示している場面の目 撃」(18.11%),「集団予防接種で他者が泣いている場 面の目撃」(14.17%)であった。その他にも,「他者 が 注 射 に 対 し て 嫌 悪 感 を 示 し て い る 場 面 の 目 撃 」 (18.11 %),「 注 射 か ら の 回 避・ 逃 亡 場 面 の 目 撃 」 (11.81%),「他者が失神する場面の目撃」(1.57%) というカテゴリーが抽出された。以上より,他者が泣 いている場面の目撃は多くの人が経験しやすい場面で あり,学校で行われる集団予防接種のように病院以外 でも体験しうるエピソードであることが示唆された。 さらに,II.その経験によって生じた注射に対して の 印 象 や 行 動 の 変 化 に 関 し て は,「 変 化 な し 」 が 31.50%と最も多く報告された。次いで「注射恐怖の 獲得」(22.05%),「怖がっている他者へのからかい・ 理解できない思い」(9.45%)であった。一方で,「誇 らしい気持ち」(3.15%)などの比較的ポジティブな カテゴリーも抽出された(Table 1)。以上より,多く の人が泣いている場面に遭遇する可能性はあるが,注 射恐怖の代理学習が成立する可能性のある場面を経験 したすべての人が注射恐怖を獲得するわけではなく, 経験による影響には認知的な個人差が存在する可能性 が示唆された。 最後に,III.現在は注射恐怖を克服している場合, 克服した理由に関しては,「慣れ」が44.83%と最も多 く,次いで「恐怖反応の消失」(24.14%)であった (Table 2)。これはMowrer(1939)の 2 要因理論より, 注射刺激に接近し続けることで恐怖心の低減につな がった可能性が考えられる。 本研究の結果より,注射処置時に泣いている人を目 撃する経験が注射恐怖の獲得に重大な影響を及ぼして いることが明らかとなった。その一方で,注射処置時 に泣いている人を目撃する場面に遭遇したとしても, 恐怖反応や回避行動の学習には至らず,むしろポジ ティブな反応を示す個人の存在も確認された。今後 は,注射処置という経験に対する,個人のとらえ方の 違いに着目して,恐怖獲得する個人とそうでない個人 の違いについて検討する必要がある。

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