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21世紀の理学療法

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理学療法学 第

22

巻第

6

号  

263〜275

頁 (

1995

年)

講演

1

21

世紀

学療

自然科 学

か ら み た 理

学療 法

中 村  隆  

* * は じ め に  「

21

世紀の理学療法 :然 科 学か ら み た理 学 療 法」 と い うテ

マ で話題を提供す る に当たっ て

,1986

年に こ の集 会で行

たシ ン ポジ ウム 「運動療 法技 術と科 学 性 」を振 り返る ことに し ます。 そこ で は 「運動療法を広 く物 理 医 学の

分 野に属 する もの と して,

自然界に 存 在 する種々 の物 理的刺 激を生体にえて

理的な反 臨 を起こさせる もの」と定 義し ま し た。 今 回

その延長 線上で運 動 療 法 を取 り上 げて

温 熱 療 法 や 光 線 療 法な ど の物理療法につ いては触 れ ませ ん。 当 時の シ ンポ ジウ ム で は, 先ず 「科学と は」と問い, ポパ

の言葉 「科学者 は命題 を提 唱 し

それ を

,一

歩 調べ て い

と くに 経験科学で は

仮説や 理論を作り, それらを観 察や実 験 で検証 す る」, お よ びピ ア ジェ の言 葉 「科 学は問題が規 定されう る時に始ま る。 問題が はっ き りと規 定 さ れて

ど ん な人が行っ て も 証明できる ように

目に見え る形で 提供さ れ る時

は じ めて科学は科学 と して成 立 する」を 引用し ま した。 そ して, 帰納と演繹とい う論理を簡単に 紹介し

,PNF

に関す る

10

年 間に わ た る個 人 的 な 研 究 結 果 を まと める形で技術と科学とのクロ ス ト

ク を紹介し ま した。 ファ シ リテ

ショ ン ・ クニ ク を 振 り返 る  

Kabat

に よっ て提唱さ れ た

PNF

手 技の 理論 的仮 説は 「固 有 感 覚 入力を利用 して運動= a

ロ ン の興 奮 性 を制

Physical Therapy in the 21st Century

Scientific Basis

 of  Physical Therapy

国 立 身 体 障 害 者リハ ビ リテ

ショ ン セ ン タ

  (〒359 埼 玉 県 所 沢 市 並木 4

1)

  Ryuichi Nakamura

 MD : National Rehabilitation

  Center for the Disabled

ド;理学 療 法

技 術 法則

科 学理論 御 する」にありま し た が

実 際の手 技は正 常の人 間の運 動 行 動

た と え ば障 害 物競 争でハ

ド ルる時 肢の運 動パ タ

ンな どですが

それ らの観 察に基 づい て いま し た

そして神経 生 理 学の理 論 は

,Sherrington

や Magnus の モを 利 用 し

々 の手 技 が もた らす であろ う効 果の説 明に利 用し たの であっ て

理論か ら各 種技術が体 系 的に演繹されたので はな かっ たのです

神 経 生理学に関して は

後にGellhorn が ProPriocePtive cortical 

facilitation

とい うモ デル を提 唱し 

PNF

に よっ て得ら れ る効果が脊髄機構だ けでな く, 大脳皮 質機 構も関与すること を示唆し たことの方が重要で しょう。 これらにか かわる詳 細は論 文 「運 動療法の 技と科 学 性」 を参照して戴けれ ばよいのですが

, PNF

の効果発 現に脊 髄と皮 質との関 与は どのようなものか とい う問 題 を 立て

  正常 者と患者と を被 験 者と した反 応 時 間

そ の他の分析

  運動失調へ の

PNF

の効果

  小 脳 破壊 の動 物モ デル

にっ い て紹 介しま した。 そ して最 後に

「私の

PNF

につ いて の研 究 は

  こ こまで です。 新しい 方 向を求め なければな らないよ うな気が して い る昨 今で す」 と締め括っ て います。 それ か ら 10年 近 く経 過 した 今日

ふ たたび理 学 療 法 (運 動 療 法 ) を 自然 科 学の視 点 か ら問 うことにな り ま し た。   歴 史 的に見ると運 動 療 法の ひ とっ の まと め は1966年 の NUSTEP にあ ります

プ ロ ジェ ク ト管 理 者で あっ た Elizabeth C WoQd は緒 言で 「運 動 療 法は職 業 的理 学 療 法の主要な

部 分と な って います。 そ して運 動 療 法の教 育は 理学療法士の全教育に お いて重要性を増して います。 近年, 運動療 法の新た な方法が多く開発さ れ, 人々の注 意 を 引い て い ます。 神 経 生理学の概 念に基づいて

これ ら の方 法は人 間の反 射機構の理解に献 し

経 生 理学 の新た な発 展の光 りに照ら して

すべ て の運 動 療 法を再 評 価 する必 要 性 を指し示 して い ます。

……

」 と述べ て い

(2)

264

理学療法学 第

22

巻第

6

号 ま す。 こ の プロ ジェ クトの 目的 と して7項 目 が上 げ られ て いま す

  運 動 療 法という言葉に よっ て何を意味する のかにつ い て合意 すること。   正 常 な 運 動 行 動の理 解 が リハ ビ リテ

ショ ン (リハ と して の運動療法の 適な利 用に本 質 的である

および 訓 練は不 可 分に運 動 学 習 と結 びつい て い るとい う命題 を 探 究 すること。 正常な 運 動 行 動と運動 学 習の理解に必 要と さ れ る基 本 的な情報 にっ いて再 検 討 を行い

新 たな知識を 獲得すること。   多 くの運 動 療 法の手 段

伝統 的 な 手 段

そ して新た な治 療 法 を分 析し

正 常お よび異常な 運動行動と 運動学習へ の それ らの影響を決定す ること。   多くの治療的ア プ ロ

チの共 通 分母を 同定 すること。   個別お よ び集団に お け る教育 目的を再検討すること。   我々の 現在の教育 を調べ

カ リ キ ュ ラム の変更を考慮して

ス の内容 と方法と を作り出すこと。   コ ミュ ニ ケ

シ ョ ン の障 壁 を 認 め

そ れ を除くこと。 これ らの項 目を 眺 めて明らか なこと は, 当時の主な目的は正 常な運動行 動の理 解にあ り

そこ には潜 在 的で は あっ て も ボバ

スや ブル ン ス ト ロ

ドの アプロ

そ して

PNF

な どの影 響 が強 く認められます。 リング以 来

運 動 療 法において は

身体 運 動の運 動 軌 跡を重 視 するとい う伝 統 的 な流れ が認 められ ま す。 そして意外な程に

治療成績に関する評価 基準にっい て は突っ 込んだ検 討は な さ れて い な いのです

む しろ

神経 生 理学 を 全 面 的に信 頼 し

それに基づく演 繹 的に見え る理 論体 系が先行していた の です。 そ し て, その後 も運 動 行 動 あるいは運 動学習のか ら理論体系の 証拠をめ る努 力が な されていま し た。  

1960 年代 中 頃 か ら は リハ 医学の 領 域で は

セ ル

インデッ クスなど に よっ て代表さ れ る よ うに 機能的自立の指標を確 立 するこ と, そ れ らを利用して各 種の アプロ

果 判

さ ら に はアプロ

の比 較を試み る とい う研究が 進 め ら れ始めて いま した。 現在 で は, バ

セル

インデッ クスを指標と し た場合

脳卒 中リハ け るな 理 神 経 生 理 学 的ア プロ

チとの 間に治療成績

ヒで異が ない こと が明ら かに さ れて い ます。 1970 年代か ら は, 神経科学の進 歩にっ れて神 経 系の可塑性や神 経 調 節 物 質 につ いて の知 識が深まり

機 能 回復 神 経 学の発 展 を もた らして います。 技

科学性

を問 うと は どういうこ と か ?  こ の様な状況で 「自然 科学から み た 理学療法」と は何 か という問はどの よ うに立て れ ば良い の で しょう

や や 長 くなり ますが,

1992

年に発表し た 「リハ ビ リテ

ショ ン

テ クニ ッ クの科学性」とい う論文か ら要点を ま とめて見ることに し ます

 リハ 医学研 究者 れ ま 努力っ て多数の ハ 技術が 開 発さ れ

その うちい くっ か は専門職の支持を得 て臨床ので広く使用さ れて います。 多くの技術の臨床 的有効性は も と より

その 科 学 的基礎につ い て

そ れ ぞ れに検討すること は重要です。 し か し, 今日の リハ 医学 に お いて

直ちに技 術の科 学 性の検 討に具 体 的に取 りか か れ ば そ れで済むの で しょ うか

む しろ

技 術の科 学 的 基 礎 を検 証 することの意 味

手 続 きその ものから反 省 す る こと が重要です

た とえば

PNF の科 学 的 基 礎と し て

運 動ニ ュ

ロ ンの振舞に関 する神 経 生理学的 研究が 枚 挙さ れて きまし た

こ の手 技の神 経 生理学 的 基礎と し て

これ らが検 討に値 することは勿論です。 しか し

人 間の運 動技能,

H

常の勤作に みら れ る協調的運動パ タ

ンは多 くの運 動ニ ュ

ロ ン の活 動 を 中枢神経系が統合す る ことで実 現 するの です。 現在の神経生理学は 日常 的な 運 動 行 動 をニ ュ

ロ ン

レベ ル に還元して説明で きる段 階に達していま せ ん。 リハ 医学の 目的は人間と して の運 動行動や役割遂行の障 害を除 去

改善 することにありま す。 こ の 目的と今日の神経生理 学の レベ ル との間には大 き な距離が あ り ま す。

 

ところ がPNF の科学性を示 すと さ れ る

1960

年以前の電気生 理 学 的 実 験 結 果が

しば し ば安易に行 動の変 容 (学 習 )と結 びっけて解 釈 され た り してい ま す。 学習は独 自の構 成 概 念であ り

そ の研 究に は独 自の方法があるの です

 リハ 技術の科学を問う前 提の問 題と し て

以下の 二 点に注意が必要です。   技 術の科 学 件 を検 証 する ことの 意 味

手 続き とはどの ようなこと か,   リハ 医学の特殊 な事 情

すなわ ち 研 究の主 要な対象は人間の行動とい う 複 雑なシ ス テム であり

それには実験的研究と は別の

究方法が自覚 的に用い られね ば な らない とい うことで す。 技 術 法 則と科 学理論   1

法 則 とは  ある リハ 技 術の臨床的有効 性が多数のに認め ら れて い ると します

。一

群の手 技X に よる介 入が患 者の 機能の回 復

Y

を伴い

, X

とY とを適 切な変 数で表 した 時

両者の間に

定の関 係があるとい う意 味です。 こ の 関係を追試すること が可 能であ り

あ る程 度

般 的に成 り立つ こ と が 研究 者 仲 間に知ら れて い る場 合

,X

とY

(3)

21

世 紀の理 学 療 法

265

との係 を記 述 する言 説 を 「法則 」と呼んで います

そ こ で

リハ 医療に お け る手技も 「技 術 法 則 」 を認め て

た と え ば 「ボバ

ア プロ

チ と はボバ

スの法 則の ことで あ る」と言っ てもよい のです 法則は多 くの事例 と領域で テス ト さ れ

そ れ に伴って 明 確に言い表さ れ る よ うにな る こ と が重要です。 テス トとは観察 と実 験 とに よ る経 験的帰納の ことです。 リハ 技術を技術法則として 確 立 するた めの テ ス トが大切であ ることは言う まで もあ りませ ん。  注意すべ き点

学 法 則と は違って技術法則には

経 済 的 および倫 理 的 理 由が不 可分にびつ い て いること です。 こ のた め テス ト によ る技 術 法 則の科 学的検 証で は

科 学 的 とい うことの意 味が重 要になります。   2

理論とは

 

般に法則の テス トとい うレ ベ ルで二っ の閙題が あり ま す。 第

に は, 実験的方法 か非 実 験 的方 法か な ど

テ ス トの性格の 吟 味が必 要です

これにつ い ては後で触れ ます。  第二の問題 は

観 察か ら帰 納された法則はそれ だけで は ま だ法 則が対象とする事象に対 する科学的 理 解, 科学 的 説 明と しては認め ら れ ない ということです。 ある リハ 技 術の経験 的有効 性が確 かめ られ

,X

Y

との

定の 関 係がテ ス トに よっ て広 く認め られたと して も

そ れ で この リハ 技術の科学的基 礎づ け (理解 )が得 られたと は 言いま せ ん。 あ る法則の科学 的基礎づ けとは

理 論に よ る法 則の説 明の ことです。

般に説明 や 理解の レ ベル は 様々です が

その うち科 学 的説明, 理解の水準を 理論 と 名 付 けて いるの です。 理論と は

組の構成 概 念か らな る 言 説です

能 力

学 習な ど が構 成概念の 例です。 理論は これ らの構成概 念の係 と して記 述さ れ る仮定で あ る と も言え ます

理論 的 仮 定から

論理的な演繹操作によっ て, い くつ かの予 測 が 可 能にな り ま す。   あ る理論が科 学 的理論であ る た めには, そ れ はテ ス ト 可能で なけれ ばなりませ ん。 そのた め に は, 理論を構成 する概 念が操 作 的に定 義可能であ ること

測定可能の も の で ある こと が必 要です。 何を もっ て能力低下を測るの が適 切で あ る か とい う 問題で す

た と え ば PNF の科 学 的検 証は徹底的に神 経 生 理 学 的なものでな けれ ば な らな いとい う仮 定か ら

脊 髄の単シ ナ プス反射回路を操作 対 象と し た電 気 生 理 学 的な テス トを構 想 することが できま す。 こ の仮定が見 当外れ か否かは

理論にとっ て はど う で もよ い ことです。 こう して

あ る リハ 技術 (あ るい は 技 術 法 則 )が どのような 理論によ

て説 明さ れてい る か, こ の理 論がテ ス ト によっ て ど れ ほ ど支 持されて いるか

あるいは反 証されて い るか とい う検 討 が

技 術の科 学 性 を 確か めると い う問題の核 心とな るのです

 我々は暗黙の うちにある立 場 (科学的, 経 済 的

倫 理 的 )から事 実と法 則と を捉え

技 術を評 価して います

これ らの性 格の異な る評 価の うちで

技 術の評 価 が と く に科学的評価と言いる た め に は

技術法 則の証の レ ベ ル に留まっ て い てはならず

評価 を科学的理論のテス トの レベ ル へ 意識 的移行さ せ ることがです。 こ こ で科学 的とい うこと が極めて操作的に考え られて いる こと に注意を要し ま す。 科学的真理 とい う よ う な ことは 何も仮定さ れてい ま せ ん。 真理 を言い当て ること が科 学 的検証であ る と も言え ま せ ん。 理論と は, 研究 者が人為 的に

手軽に で

ち 上 げ た り

捨てた り す る もの なの で す。 以前の理論が捨て られ

新た な 理論が持て囃さ れ た りする という

理論の興 亡を通じて

あ る領 域で ひ とっ の理 論が多 くの研究者仲間の支持を集め る よ うにな り ま す。 こ の ように して

理 論の正し さ と は

取 り あえず 研 究 者 仲 間の支持の ことで ある と言える の です。  

3 .

検 証

反 証

モ デ ル とは  テス ト に よっ て理 論の正しい こと が証 明さ れるわけで はあ り ませ ん。 単に理 論が支 持 されたと言え る だけです。 これ が 理論の検 証です。 た と え ば

A とい う理論が真 で あ る な ら ば

リハ 技術

B

によ る介入

X

は機能の回 復 Y を もた らす と論 理 的に演 繹 されたと しま す。 そし て

実 際にこ の よ うな 事 実が観 察さ れ たと しても

A 理 論の正 しさ が証 明されたとは論 理 的に言えません

何 故な ら

X

とY との関 係は 理論の仮 定と は まっ た く別の 要因に よ るものか も知れないか らです。

理論の帰 結をテス ト結果が支持し ない と言う反証は強 力で す。 「すべ て の ス ワ ン (自鳥) は白い」 とい う理論は白い ス ワン の観 察がい ら重ね ら れ て も証明さ れ ま せ ん が

白くない ス ワ ンが

羽で も観察さ れれ ば, それは理論を 拒否するのに十分です。 実 際に オ

ス ト ラ リアで

black

swan が発 見さ れ たこ と に よっ て

「すべ の スワ ン は 自い」とい う言説は誤り になっ てい ます

 モ デル とい う言 葉が理論と同じ よ うに使われて います

これ までに触 れ たように

理論の位 置づけを理 解して

モ デ ル という言 葉を用い るの が良い で しょ う。 リハ 技 術 の科 学 的 基礎を問 題にする とい うの は, ひとっ の技術法 則を説 明す るモ デル を 立て

そ れ をテス ト によ

て検証 する

あるいは反 証 することです。

(4)

266 理学療法学 第

22

巻第

6

号 リハ ビ リ テ

シ ョ ン医 学 研 究の特 異 性   リハ 医学 研 究対 象は 人機 能

行 動とい う複 雑な システムです

現在

こ の研究のた めの概念的枠組

す な わ ち理 論は世 界 保 健 機 関が 1980年に提 唱 した 機 能 障 害

能 力 低

F

社会 的 不 利とい う三 つ の構 成 概 念に よっ て記述されるべ き もの と考え られています。 しか し, これ らの概 念の操 作 的 定 義に関して は

ADL や

QOL

に見ら れ る よ う に

合意は得られ ていま せ ん。 科学性を 主 張 すべ き根本において, 差し当た りの合意を得ること が必要で しょ う。  人 間の機能と言う複雑なシ ス テム の 科学的究, お よ び機能障害

能力 低下

社会 的不利とい う構成概念によ る理 論 的 構 成のた めに は

通 常の実 験 的 研 究と は異なる 独 自の研 究 手 法を取 らなけれ ば なりま せ ん。 実 験 的 研 究 と は

目的とする変 数 以 外の独 立 変 数 が 厳 密に統 制 され て い る研 究です

独 立 変数 X 以 外の考え ら れるすべ て の因 が 同

であると して

はじめて独 立変数X と従 属変数 Y との関係が 記 述できる よう な研 究です。 筋線 維 組成に対する運 動の影響を 知る た め に は実 験 対 象の遺 伝的同

性が保証さ れ ていなけ れば ならないで しょ う。 こ の場 合に は

X

と Y

そ れ ぞ れの平均値を比 較して

運動

X

筋線維 組成

Y

に対する効果を検討すること が 可能であり

平均値のが統計 的に有意で あ れ ば

X

と Y との関係を因果関係と して認め ることがで き ます。  しかし

複雑なシ ステムの研 究で は

独 立変 数の統 制 は原理的に不 可 能で

実 験 的研 究はあり得な い と極 言さ れます。 我々 は

機能障害に対 する リハ 医療的介入が能 力 低 下を改 善す る とい う理論を意識 的, 無意識 的に仮 定 してい ます。 そ こ で

ある リハ 技術の 効 果 を 実 証 するテ ス トを考え ます。 二組の被験者 (患者) 群に対する介入 方 法を変え

あ る種の能力低下の指標の変化を比 較 しま す。 こ こ で被験者の属性や病型な ど は同

に できて も, 彼らの遣 伝 的特性や, 発病前の生活や社会適応 状況 を 等 し く す ること は で き ま せ ん。 この病前の社会適 応状況の 差が

脳 卒 中リハ の帰 結には影 響 しま す

こ の よ うな要 因を無 視して リハ 治 療 前 後能 力 測定平 均 値 を 比 較 検 討して も

そ の リハ 技 術の効 果を実 証 した ことには ならないか も知 れ ませ ん。   リハ 医 学 研 究実 験 研 究手 法厳 密適 用 う と すれ ば

研 究その ものが不 可 能になります

薬 効 検 定の モデルを リハ 治療効 果 判 定に適 用 すること は倫理的に 許さ れ ることで はない で しょう。 そのた め

非実験 的研 究の独 自のパ ラ ダ イム と手法と を理解してお くことが大 切です

リハ 医 学研 究 対 象入 間機 能 (端 的 は能 力低下)は, 無数の変数の統合に よっ て は じめて規 定 されるシ ス テ ム です

将 来

我々 は多 数の連 立 方 程 式 に より能力低下を決定 する こ と が できる かも知れ ま せ ん。 しか し

今日の ところ は能力低 下に影響す る多数の変数 間の非 決 定 論 的 関 係を知り得る だけです。 そうで あ れ ば

こ の研 究は本 来 的に多 変 量 解 析になります。 関 連 する変 数をで きるだ け多 く測 定 して

それ らの相 関 関 係とその 変化 とを 知る必要が あるのです。 こ のようにして

変数 の集 合 {X}の変 化に {Y}の変 化が 「伴う」

「関 連 す る」あるいは 「関係する」 と言う ことが できます。 しか し

X

Y

の原 因であ る と み なすこと はで き ま せ ん。 科 学 的であ ろ うとす ること  こ こ で前 回の シ ンポ ジウムでふ れ た ポパ

見をも う

度 取 り上 げます。 「科 学 は

その答 を 最 終 的なもの にするとい うような

幻 想 的な目標は置い て いない

む し ろ

科 学の前 進は無 限の

しか し到 達 し得る目標に向 かっ て いる

そ の目標は

新しい

よ り深い

よ り

般 的な問題を見 出 し

我々 の試 案 を新た な, 強 力 な 検 証に 掛 けて い くことであ る

……

。 我々 は進化の過程を科 学 の進 歩の過 程と同 じように

[問 題1

暫定 的理論

誤 りを排 除

間題

2

]の四段 階の図式で表すこ と がで き ま す。 両者はいず れ も推 測と 反駁の方 法に 基づ く問題解 決 理論の漸進 的な成長過程です。 両者の本質は同じであ り

違 うの は進 化における推 論と反 駁を

科 学は言 語 (言 語 も進 化の過 程で生 み 出 さ れた間題解決方法のひ とっです が ) を用いて自覚 的

積 極 的に

そして誤っ た推 測 を し た人 間 自身を死 滅させずに

ただ仮 説だ け を淘 汰 し

死 滅 させ る形で行っ ている点 だけ です

科学理論の進歩も

っ ま りは仮 説の生 存 適 性 を巡る競 争と淘 汰の結 果に ほ か な ら ない の です。  もう

度ま とめ ておきます。 「自然科 学か らみ た理学 療 法 」は

少な くとも研 究 とい う視 点で は

  技 術 法 則 の検 証の レ ベ ル か ら科 学 的理論の テ ス トへ と意 識 的に移 行 すること

  ひ とつの技 術 法 則を説 明 するモデルを立 て

それ をテス ト によ

て検証

あるい は反 証 すこと

  とくに臨 床 研 究とい う立場か らは非 実 験 的 研 究のパ ラ ダイム, 手法を導入するこ と,   科学は進 化 する とい う こと

t

の四点 を理 解 してお く と よいで しょ う。 こ こか ら は, これ ま で にふ れ た抽象 的な事項を若 干の具体例で示 すことに し ます

(5)

21

世紀の 理学療 法

267

卒中機能

に関 す る研 究 動 向 を

り返 る  脳 卒 中 患者の リハ 医療に お能 評 価 を

と くに リのための

タとい う視 点 から, 取り上 げま す。 その 主た る関心事は

評 価 尺 度が どのよ う に作ら れ て き た か

それに よ る評 価結果が ど の よ うに分 析 さ れ た かの二点です

1950年 代の特 色は運 動 回復の 則 性の認識にあり ます。

Twitchetl

は脳 卒 中による片麻 痺 患者 121 例の運 動 回 復の経 過 を追跡し, すべ て の患者 に共 通する回 復のパ

ンを明ら か に し ま し た。 完 全 麻 痺から固有感覚受容 反射の出現, 共同 運動の 出現

痙 縮 の軽 減

そ して 全 回に至る とい う順 序です

後に

Brunnstrom

が回復段 階 を 区 分 す るの に利用した研 究 の ひ とっ 。 こ の時 期の研 究は神経学 的徴候や単純な 運 動 課 題の遂 行 能 力を分 析 対象と し ま し た。 1960 年代 に は機能 評価尺度の開発に重点が移りま す。 その 中 心は ADL 価で あ り

 

PULSES ,

セ ル

ッ クス , カッ ッ

イ ンデッ クスな どで代 表 され ま す。 これら は変 数と して身辺 処 理と移 動 を取り上 げ, 入院患者か ら退 院 患 者の追跡調 査 まで利用さ れ ま し た。 1970年 代に な る と

これ らの尺度を利用して機能的 予 後に影 響 する要 因 の分 析が展開さ れ る ようにな り ます。 1980 年代の研究 に は四つ のれ があ り ますQ 第

は予 後予測に多変量解 析などの統 計手法が導入さ れ たこと

第二 は機 能 回 復の 時間経 過の検 討, 第三 は リハ 治 療の有 効性に関する技 術 評価の検討 そ して四に評 価 尺 度が

ADL

を越えて患 者や家族の 心 理社 会 的側 面ま で に広がっ たこ とが 上 げ ら れます。 こ こ で は リハ 医 療の効果 判定に関心が ある わ け です が

その内 容は,   急性期の治 療として

脳卒 中患 者の リハ を集 中 的脳 卒 中 病 棟 効果が あ るのか

  急 性 期 および慢性期 共に

在 宅 ケア は有効か

  具 体 的 な治療法と して筋 電 図フ ィ

ドバ ッ ク, ファシ リテ

シ ョ ン

テ クニ クは効 果 が ある か

です。 こ の うち    に関 しては

具体 的な治療 法や リハ 医 療 の の 効性を吟 味し た もので は ありま せん   につ い て は

先 程 もふれた ように伝統的な理 学 療法とファ シ リテ

シ ョ ン

テ クニ ッ クとの間に は ADL の変 化を評 価 基準とす る限 り有 意な差はないので す。 こ こ に は フ ァ シ リテ

シ ョ ン

テ クニ ッ ク の多くが痙 縮 や 運動麻 痺な ど機能 障 害を標的と し た治 療 法で あるの にして,

ADL

尺 度 は能 力低 下の測 定 法で あ る とい う問題点が認め ら れま す

機能 障害と能 力 低 下とは互に関連し あいな が ら も

異 な る階 層に属 するこ と を示 唆して い ます。 こ の問題を 我々 のデ

タ に よっ て解いてみ ます。 障 害モデル の検 証

1.

タベ

ス に い て 脳 卒 中患者の障 害に関する情 報は複 雑で す。 そ れ を A 一

一一

B 退 院先

役 割 遂行 自立度

仕 事

QQL

(治 療) (退院 )

リハ ビ リ テ

ョン の帰 結 機 能 的帰結 個人情 報 (性 別

年 齢な ど) 診 断 MD 図

1

 障 害モ デ ル

A

と障 害の デ

タモデル (B )

(6)

268 理学療 法 学

 

22

巻第

6

号 デ

タベ

ス に , 処 理をするに は

関 心 方とに よっ て情報を抽象 化 (構造化)し な けれ ば な りま せ ん。 抽 象 化の手掛か り と な る考え方を デ

モデル と 呼び ます

こ こ で は世界保健 機 関の提 唱 する障害モデル を基礎と しま す。 脳 卒中と い う疾患は

そ れが原因と な

患者は特 定の症 候を示し

ま た機 能 障 害をもた ら して い る

そ して機 能 障 害をもと に患者の能 力 低 下 を理 解できる と仮 定し ます。 これ らが発 症時あ るい は入 院 時 の医 学 的な障害像を構成して い ま す。 リハ 医療に よっ て 機 能障害および能 力 低下の改善が期待され ま す。 そ れ は 退 院 時の機 能的帰結と して評 価さ れ ま す。 これ らの過程 全 体に対して

患者の病 前 か らの特 性が大きな影響 を 与 え ま す。 性 別

年齢, 家族, 教育歴

職 業

社会 適 応 能 力な どの個 人 情 報

そ して医学的な合 併 症の有 無です。 障害とリハ 医療に関 する情報を, こ のような構 造と範 囲 の もの と考え るのがひ とつ のデ

タモ デル な の です (図 1 )。 我々 は東北 大 鳴 子 分 院 以来, こ の よ うなデ

スを機 能回復評 価シ ステム

 

RES

 

と命名して

10数 年に渡っ て デ

タを蓄積していま す

       

 

RES

の デ

タ を 用いて, 脳 卒 中の もた らす 心 身 機能 の障害につ いて 障害モ デ ル の検 証を試み て みま す

図 2 は医学モ デル と障害モ デル とを対比してし たもので す

機 能 障害

能力低 下, 社会 的 不 利がこ の よ う な階層 関 係に ある とい う わ けで はあ り ませ ん

[疾病の帰 結 ] と して矢 印で結ば れて いる だ け です

階 層 関 係は分析に よっ て具体 的に明 らかにさ れ るべ き事 柄です

障 害モ デ ル にっ て次の三つ の問 題を取 り上 げます。   機 能 障 害 は医学モ デル に お け る疾病の [発 現 ](症候)に当た り

これ は疾病と因果関係でば れる

 

(矢 印

1

障害モデ ル に含まれて い るこ の医学モデル は正 当化で き るか。  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

発 現(症 候) 病理

 ↑

病 因

 

医 学モ ヂル

        「

L

_

_

_

_

_

_

_

_

_

_

_

 

1 図

2

 障害の階層モ デル 能 力低下は疾 病の帰結の ひとつ の カテゴ

で すが, 両 者は能力低下が疾 病か ら説明 (決 定 )で き ない とい う意 味で階層的関係にある か否か (矢 印 2)

  能 力 低 ドが 機 能 障 害の帰結であとい うのは, どの よ うに正 当化で きるか (矢印

3

)。  こ こではモ デル (理論)が 先にあ り

そ れ を RES の デ

タ で検証 し よ うと す る わ け です

RES の入 院 時

タか ら

  病 型 が 脳 梗塞か脳 出血であること (く も 膜 下 出血な どを除く),   左 右 ど ち らか に麻 痺が認め ら れる (両 麻 痺

麻痺な しを 除 く)

  発作が

1

回である こ と

  発 症 か ら入院まで の期間が

12

月以 内で あるこ と

  年齢は20歳 以 上

,80

歳 未満の囲にあること

の基準に従い

285

例 を選 出 しま した。 疾病 概念は

r

病 因

病 理

発 現 」す が , そ れを 病 型 (脳 梗 塞

出血) と病 理 変 化の局 在 (

CT

所見) と して

これ らが十分な 分 散を もつ こと が分 析の前提に な り ます

複 数の病 巣部 位が特定さ れ ることによっ て病 巣の広が りもある程 度は 反映さ れ ると仮定 し ます

機能障害と して は種々 の床 症 候 を取 り上 げます。 便宜 上

これに昏 睡 期 間

脳外科 手術の無を含めて お き ま す

能 力 低 下の尺度と して は       ’ 運動年 齢検査

脳 卒 中上 肢 機 能検査, ミ= メ ンタル ス テ

セ ル

イ ンデ ッ ク スを用い て いま す

  2

疾病と機能障害との相 関  デ

タの統 計 的 処 理 過程 (線型多変 量 解 析の 1種であ る正準 相関 分析 )

お よ び そ れ らの解 釈に関 する詳 細は 省略し ます。 知 りたい方は我々 の著書 「脳 卒 中の機 能 評 価と予後 予測」 を参照して下さい。 結 論を図3に示 し ま す。 機能 障害を患者の症 候の組合せで測定する時

それ は疾 病 (病型と病巣分 布)か ら

90

% 以 上 説 明 すること が でき ます

両 者は

1

1

に対 応 する と言えま す。 これ は症 候の組 合せか ら責 任病巣, 病理 を言い当て る伝 統 的 な神 経症候学の根拠を 明 らかにする ものです。 ま た

疾 病と機能障 害との関係を原 因と結果の単純な因果モデル で考え る とい う示唆を支持します

先 程の問題   (矢 印 1)は正 当 化さ れ ま す。 これ は特 定の症 候の組合せ か ら 機 能 障害を み る時

これ が 疾 病 (病 巣 分布)を よ く反映 機 能障害(症 候の組 合せ〉 Rt

0

94 症候 (個別)

  ↑

R2≦0

10 疾 病(病 型

病 巣 部 位 ) 図

3

 疾病と機能障 害の相 関

(7)

21

世 紀の 理学 療法 269 認 知 機 能 R〜

0

38

廠 攤   0

15       0

16 下 肢 機 能 e

14 図

4

  疾 病と能 力 低 下の相 関 認 知機 能 RZ

0

62

騰   0

54         0

58         0

58 図

5

  機 能障害と能力低下の関 する と い う意味であり

単純に大 脳 機 能 局 在 論 を支 持 す る とい う わけで は あ りま せん

実 際

機能 障害の単 独の 変 数

例えば 認 知 障 害 と疾 病 との 相 関は (失 語 を除い て) 非 常に低い の です (R2

0

08)。 失語だ け は重相関 寄 与 率 (R2

=0.

48) が高い ことは

大脳機 能局在論が 失語の病理 の発 見か ら提唱さ れ たこと と関 連して いま す。 ま た

こ こ に は示して ありま せん が

ブル ン ス トロ

ス テ

ジ (上

下 肢 と手 指 )に対する疾 病変数から の重相 関寄与 率 (R2

≡0,

14)も低く, 特定の機 能障害の テス ト結 果か ら

その責 任病巣を論じ るの は危 険です

 

3 .

疾 病と能力 低 下との相 関  次に  (矢 印2)の題, 疾病に よ っ て能力 低

ドが説 明で きるか を考 え ます

図 4 に示すよ う に

疾 病か ら能 力低下を説明す ること は, いずれの変数を みて も重 相 関 寄与率は低く

原 則的に で き ま せ ん。 能 力低

ドが疾病に 関係する こ と は当然で ありますが

疾病の法 則 (病 型 と 病 巣 分 布 )に還 元して説 明 することの できない 独 自の カ テゴ

で あ ること を示 唆 しま す。 疾病 (病理 過程) の治療だけで は能 力低下の回復はもた ら さ れ ない能性 もある わ けです。 こ こか ら リハ 医療の特殊 性が生ま れ

理学療 法の効 果判定に も機能 障害の変 化を指 標とするの で は な く

能 力低 ドを指 標とすべ き とい う意 見が理解で き ま す。  

4 .

機 能 障 害と能 力 低

ドとの相 関

 

次は  (矢 印3)

能 力 低 下は機 能 障害ので あ る か とい う問 題です。 能力低下の

4

尺度を目的変 数と し

機 能障 害の症候

18

変 数に便 宜 的に性 別

年 齢 および発 症か ら入院まで の間を加え た合 計 21項 目を説明変数 と して 分 析 を 行いま す。 各項 目とも重相 関寄 与 率は約 60% とな り

疾 病とのに 比べ てか な り向上 し ます (図

5

)。 能 力低下は機能 障害をもっ ことの帰 結と言 え ま す。 能力 低 下を

層よく説 明 す る機 能 障 害変 数を求める とい うの も

今 後の問 題 解 決の方 向である かも知れ ま せ ん。   5

疾 病

機 能 障 害 と能 力 低 下の 果 関

を 例 題に  疾 病か ら機 能 障害

能力 低

ドへ の因 果の道 筋 が成 立 す る可能性を検 討し たわ けですが

これ をパ ス解 析 を 用い て解 くことにしま す

取 り上げるの は歩行速度です (図 6)

なお歩 行 不 能の場 合は速度

0

と し ま す。 歩行 速 度 図

6

  歩行速度と機能 障害お よ び疾病との因 果 関 係 (パ 解 折 ) 歩     行 速 度にする寄 与率 RZ

0

50

(8)

270 理 学 療 法 学 第

22

巻 第

6

号 低 ドの原 因と なり うる変数を疾病

機能 障害のそ れ ぞ れ か ら選 び

変 数 相 互の因 果 関 係が矢印で示 される と仮定 して

パ ス係 数 を求め ます

原 因と して の変数に は

歩 行速度と相関の項 目を 選 び ます

モ デルを 簡 単にす る た め, 病巣部位は皮 質損傷と皮質下 損傷とに分類して あります。 機能障害と して取り上 げた

4

変数相互聞に は

矢 印の ような因 果 関 係を仮定し ま した。 この仮定は矢印 につ けたパ ス係数が プラ ス にな ることで肯定さ れ ます。  パ ス係 数は矢 印につ けて あ りま すが

疾 病 変 数か ら歩 行速度へ の直接的な因果関係は非 常に小さ い の です。

機 能障害から歩行速 度へ の因 果 は大 き く

パ ス係 数 はマイ ナスです。 筋 力低下があ れ ば, 歩 行速度は遅 くな るとい う意味です。 こう して

疾病は機 能障害という結 節 点を介して

能 力低 下をもた らすこと が明ら かになり ます。 こ の結論は先程の正準 相 関 分 析の結果が示 唆し た 点を支 持するもの です。  

6 .

ひとっ のま と め  以 上の再検 討をまと めて お き ま す。

1960− 70

年代の 理学療 法は主と して神 経生理学か ら の演 繹体系に依存し, 治 療の標 的を機 能 障害に して いま した。 その結 果, リハ 医療と して望 ま れた患 者の 自立生活へ 能力再獲 得に は必 ずしも至ら な かっ た ようです。 そ れ は機 能 障 害 を治療 す れ ば, 能力 低 下の軽 減が得 られ る と暗 黙 理に仮 定し て い た ためです。

1980− 90

年代になると, 障害モ デルの検証 が開 始さ れ

疾病

機能 障害

能 力 低下の式 が確 認さ れ ま し た。 理学療法の治療 効果で

モ デル を作 り, それを検証することを邁じて, 種々 の技術が どの レ ベ 対応る か を検討す必要が あ 。 脳

中 患

の最

大歩行

決定

因  その よ うな例題のひとつ と して, 脳卒中患者の歩行を 取り

ヒげます。 歩行の神経生理学 的研究で は, 歩行に必 要な要因と して

抗重力機構

立位バ ンス保 持機搆

そ れに四 肢の リズム運 動が加わります。 人 間で はリズム 運 動に変えて

下 肢の踏み出し運 動とする こともあ りま す。 脳 卒 中患 者にお け る最 大 歩 行 速 度の生 体 力 学 的 決 定 因として麻 痺 側筋 力 (具体 的に は等 運 動性 膝伸 展ト ル ク)と立位バ ン スの安定性 (具 体的には両足圧の中心 の累 積移 動 距離:重心動揺

随意 的 前 後 あるい は左 右方 向重心 移 動 距 離と足 長ある い は両 足 外縁間距離との比 ) とが取り出され ま した。  麻 痺側の筋力 強化 訓練に よっ て歩 行速度の向上が得ら れる はずです。 しか し

結果は逆であ り

筋力 強化 訓練 に よっ て必 ずし も歩 行速度の向上は得られず

歩行速度 の向上に筋 力の改善が伴う とい うもの で し た。 具体 的な 運動課 題の学 習に は

その要素を個 別に訓 練 す るより も

課 題その もの の訓 練の方が有 効である とい う運 動学習の 経 験 的 法 則 が 実 証 さ れて しまっ たことにな りま す ま た 歩行に対する筋力の影響につ い ても患側より も健側が重 要との意見も出さ れて いま す。 いわ ば技 術レベ ルにお け 表

1

  略語

覧 BW (body weight ):体 重 height :身 長

TSO (time since onset :発 症か ら測定まで の期 間

MWS

(maximum  walking  speed ):大歩 行

SP

(sway  path両足圧の心の移動距離

FB

% :随 意 的 前 後方 向重 心移動 距 離 と足 長 との比

LR % :随 意 的 左 右 方 向 重 心 移 動 距 離と両 足 外 縁 間距 離との比

N −IK

iso

netic  strength  of  the non

affected  side 非患側膝伸展筋力

A −IK

isokinetic

 strength  of the a廿ected side患側膝伸展筋 力

表2 全 症例と

3

群の対象脳卒 中片麻痺患者の特性 全 症 例 (n

54) S 群 (n

18) M  群 (n

18) F  群 (n

18) 年 齢 (歳 ) 身 長 (cm ) 体重 (kg) TSO (週 ) 54

9 (11

2) 161

7 ( 5

7) 61

0

6.

8

) ll

6 (4

9) 53

4 (11

1) 16L9  ( 

6 ,

8

58.

9

 ( 

5 .

3) 11

1 ( 3

9) 58

0 (11

0)    53

2 (11

4) 160

6 (4

8)  162

7

(5

5)

60,

1

 ( 

7.

0

)    

64.

0 ( 

7,

3

) 12

4 (5

9)   11

3 (4

9) 平均 値 (標準 偏 差 )

(9)

21

世紀の理学療法 271 表

3

 

3

群の訓 練 開 始 時 および

8

週 後にお け る測 定 値 訓練期 間   (週 )

S

群 (n

18) (

M

n

 群18)

F

 群 (n

18)

Maximum

 

Walking

Speed (m /min

08

                     78           379

9  (2

8

3 (12

9

4 (

15,

2

)    

II・

          

Il

* *         

1

* *

40.

O

 (

23.

5)    70

6

 (

25.

2)   1G3

1 (17

2) 一

Sway

 

Path

(cnユ/

10sec

08

      F

””

””

”’

40.

4

 (

11.

7

)    

35.

7

 (

13.

7

)    

24.

9

 ( 

5.

8

)    

1

       

1

       

II

30.

3

 ( 

7,

5

)    

27.

3

 ( 

6,

2

)                     

23.

3

 ( 

3.

5

)       L

FB

(% )

08

12

3 (8

3)   12

2 (9

2)   18

5 (

9.

7

)    

II

       

1

卜       卜

15

9

 (

9。

2)   

15.

3

 (8

2)   

26.

3

 (14

3)

L

= 二∵二 二二 :二7二⊥

LR %

08

16.

4

 (

8.

7

)   

20.

9

 (

13.

3

)   

36.

4

 (11

5)    

ll

         

FI

 *        

II

* 27

9 ( 9

8)    30

0 (13

6)    44

7 (15

0) 一 N

IK N

m 08  「

1『

…一

…’

1一

…’

−.

……’

”幽

1

98

3

 (28

2)   111

0

 (

27,

8)   133

6 (49

2)    

II

* *          

II

* *         

Il

120,

7

 (

26.

0

)   

133.

9

 (

37,

4

)   

15L9

 (

48.

2

)  

L

__.

__.

_ .

_.

i

A −IK

N ・

m )

D8

    ド

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

tt

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1  ド

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

tt

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1

11,

2

 (

12、

8

)    

34.

3

 (

25.

0

)    

6LO

 (

35,

7

)    

II

      

1

      

II

29,

1

 (

26.

1

)    

54.

4

 (

39.

4

)    

77,

2

 (

36.

6

訓練 開始 時 (0) と8週 間後 (8)の検定 (

3群 間の検定

 

p< O

05

,一

:p〈 O

OLs :p< O

05

 * * :pく0

01 表

4

  訓 練 開 始 時 および

8

週 後にお け る最 大 歩 行 速 度の決 定 因 訓練期間   (週) 全 症例 (n

− 54

S

  群 (n

− 18

M

 群 (n

8

F

群 (n

18)

0

A

IK (0

426) LR % (

O.

365

)  R2

O

492age (

0

540)  FB % (0

596)  

R2=0.

291

    

R2=O,

492

non

8

A −

IK (

0.

762)  A

−IK

0.

663

) 

A一

K

O.

687) 

A −

IK (O

694)  R!

O

581     R2 

O

440    R2

O

472    R2

;O .

482

( ) 1標 準 偏 回 帰係 数

 Ra:寄 与 率

る法 則 性に関して は混 沌と した状 況にあっ た わ けです。 そこ で

も う

生体力学的変数と歩 行速度

そ れ に 訓 練 期 間の問 題 を再検討ることに し ます。 表 1に使用 し た諸変 数 表 2が対 象と し た脳卒 中患者 54 例の特 性 です。 歩 行 訓 練の 方 法を 統

す る 目的で

全員が CAGT プロ グラムによっ て 8週間の理学療 法を受けて い ます。 歩行 訓 練 開始時の最 大 歩行速度に よっ て患者群 を

3

群に分けて あ り ま す。 表

3

は 3群の歩 行 訓 練 開 始 時 と

8

週後の諸 変数を示し ます。

S

群は開始 時に最 大 歩 行 速度は約正Om min , 

M

群は

37

 m /min

  F 群は

78

 m min す 。

8

週後の最大歩行速 度は

S

群が40 m /

min

  M 群は

71

 m /min

 

F

群は

103

 m /min です。 最

大歩行速度を指 標とすれば

訓 練 開始 8週後の S 群は 訓練開始時の

M

群に近 く,

8

週後の

M

群は開 始 時の

F

(10)

272 理学療法学  第

22

巻 第6 号 表

5

 生 体 力 学 的 変 数の実 測 値 (n

18) 独 歩 開 始 時 (CAGT 施 行 前 ) CAGT  

8

週 聞 施行後 差 △

MWS

(m /min ) SP (cm 10 sec)

FB

% (% ) LR% (%)

N −

IK (

N ・

m A

IK (N

m )

7.

8

二辷 

3.

4

 (

2,

8〜16.

8

) 58

9±46

0 (25

7〜

232

5

9.

7± 6

4 (

O.

4

19

8) 14

1± 7

0 (O

8

27

上)

77.

8

±

29.

4

 (

39.

0

142

0

7.

3

± 

9,

3

 

0.

O

〜28.

O

31.

Ot

22.

9

 (

3.

1〜76,

9

36,

 ±10

5

 (22

2

〜64.6

10

3± 5

5 (0

4

19

2) 21

2:ヒ10

4 (1

4

40

7) 95

33、

8 (31

0

170

0 14

3

±10

工 (0

0

28

0)  

23,

2

±

21.

4

**

− 22.

8

±

42.

1*   0

6±5

6

  7

1±10

2* *  18

2±14

1* *   8

9±二11

0

s 平 均 値±標準 偏 差 (範囲 )

 1 :pO

05

 

p0

Ol

MWS (0)

3

72十〇

05×N

rK(0)(R2

O

2/) MWS (8)

33

31十1

30×LR % (8)

1

41×TSO 8 Rz

O

62 △MWS

38

77

L63 ×TSQ (O)1

0

83×△LR %〔R』 0

46 ) 表

6

  脳 卒 中片 麻 痺 患 者7例の患 側

健 側 膝 伸 展 筋 力 (

A −

IK

  N

IK

   両足

1

−E

中心移動距 離 (

Sway

 

Path

最 大歩 行

   (Maximum  Walking  Speed)

 TRH  2 mg 投 与 前 後の比 較

変    数 前 後 差

A

IK (ft

lb) N

−IK

(ft

lb)

Sway

 Path cm 10s)

Maximum

 

W

lking

 

Speed

m /min )

60

1 (57

5) 104

0

 (

50.

1) 26

8

 (13

9)

81.

9 (49

0

) 62

3 (58

1)     2

1 (2

1)s 104

7 

50.

8

)     

0 .

7

 (

6 .

3

) 20

8  (7

9

)  

− 6 .

0  (6

1)* 84

0

 (48

O)     3

1 (1

8)* n

7

 ’ p<0

05

群に似て いま す。 最 大歩行速度に関 連す る諸変数も類 似 の傾 向を見せ て い ます。 表

4

に最大歩 行速度を目的変数 と し た重 回 帰 分 析の結 果を示し ます。 全 症 例で は

歩 行 訓練開始時には患 側 筋力と左 右方 向へ の重心移 動 能 力が 決 定 因に な り

8週 後には患 側 筋 力 だ けにな り ます

歩 行 速 度が遅 けれ ば

立 位バ ン ス と患 側 筋 力が重 要で あ り

速 くな れ ば患側 筋力が重要とい うのは多くの研究報 告と

致し ています。 そこ で

S ・

M

F 群を検討す る わけ ですが

最 大歩行速度が

8

週後の

S

群と開始時の

M

ま た

8

週後の

M

群と開始時の

F

群で は同 じ とい う点に 注 意しておいて下さい。 しか し

最 大歩 行速度の決定 因 は異な るの です。 

8

週 後の

S

群で は患 側筋力, 開始 時 の

M

群で は 左右 方 向へ の重心移 動能力です。 歩 行 訓 練 の有無が決 定 因の相 違を生み出してい るの です。 歩 行 経 験の有 無が 最 大歩 行速度の決 定 因に影 響 して い る ようで す。  最 大歩行速度の決 定 因が患 者の諸 状 況に こ のように影 響さ れる の であ れ ば

脳卒中 発 症 後に初めて歩 行を行っ た時か らのデ

タ を用い, さ らに経 時 的に変 化 を追 跡 す るの が問 題を解決する近 道の よ うです。 この ような条 件 を満たす 症例を集め るのに は

かなり の時間を要し ます。 表5に 正8例の デ

タ を示し ます

歩 行 開 始 時に は健 側 筋 力が唯

の決 定 因と して取 りヒげられ ますが

寄 与 率 (

R2=

 

O.

21

低 く

こ の時 期最 大 歩 行 速 度決 定 因 には未 知の要 因が多 数 あるよ うです

8週 後に な ると左 右 方 向へ の重 心 移 動 能 力

そ れ に発 症か ら訓練 開始まで の期 間 が最大 歩 行 速度の定因となりま す。 利得 (差 分 )の決 定 因も同じです。 こ の結果 は歩 行訓練開 始 時に

ま ず患側へ の体重負荷

立位姿勢に お け る重心移動の訓 練を行 うとい う経 験 的事 実と

致してい の です。 ま た

発症か ら歩行訓練開始 まで の期間が短い ほど最 大 歩 行 速 度の利 得 は大 き く

軽 症 患 者ほ ど回 復は速い の です

こ れ ら は経 験 的 事 実をひ とつの技術法 則として表 現 した こ とになりま す。 機

復神

経 学の インパク ト  近 年

機 能 回 復 神 経 学の分野で は

中枢神 経系損傷後 の運 動 機 能 回 復の促 進に ノ ルエ ピフ リン作 動 薬の効 果 も注 目されて い ます

行 動 面 から考えれ ば, 中枢覚醒レ ベ ルを高め

学 習 効 率を向上さ れ る と言え る か も知れ ま せ ん。 頭 部 外 傷 後の意 識 障害 治療 に用い ら れ てい る TRH もそ のような薬 物です

 これを脳 卒 中患 者に投 与 することによっ て

最 大 歩 行 速 度お よ び生 体 力学 的 変 数 に も好ま しい変 化が も た ら さ れると仮 定で きる で しょ

表 2  全 症 例 と 3 群 の 対象脳卒 中片麻痺 患 者 の 特性 全 症 例 (n = 54 ) ( S 群n・= 18 ) (Mn   群= 18 ) ( Fn   群= 18 ) 年 齢 ( 歳 ) 身 長 ( cm ) 体 重 ( kg ) TSO ( 週 ) 54 .9  ( 11 .2 )161.7 ( 5.7)61.0(6.8)ll.6 (4.9) 53 ,4  ( 11 .1 )16L9  ( 6 ,8 )58.9 ( 5 .3)11.1 ( 3,9) 58 ,0  ( 11 .0

参照