理学療法学 第
22
巻第6
号263〜275
頁 (1995
年)特
別
講演
1
21
世紀
の
理
学療
法
自然科 学
か ら み た 理学療 法
*中 村 隆
一
* * は じ め に 「21
世紀の理学療法 :自然 科 学か ら み た理 学 療 法」 と い うテー
マ で話題を提供す る に当たっ て,1986
年に こ の集 会で行っ
たシ ン ポジ ウム 「運動療 法の技 術と科 学 性 」を振 り返る ことに し ます。 そこ で は 「運動療法を広 く物 理 医 学の一
分 野に属 する もの と して,一
自然界に 存 在 する種々 の物 理的刺 激を生体に与えて,
生理的な反 臨 を起こさせる もの」と定 義し ま し た。 今 回,
その延長 線上で運 動 療 法 を取 り上 げて,
温 熱 療 法 や 光 線 療 法な ど の物理療法につ いては触 れ ませ ん。 当 時の シ ンポ ジウ ム で は, 先ず 「科学と は」と問い, ポパー
の言葉 「科学者 は命題 を提 唱 し,
それ を一
歩,一
歩 調べ て い く。
と くに 経験科学で は,
仮説や 理論を作り, それらを観 察や実 験 で検証 す る」, お よ びピ ア ジェ の言 葉 「科 学は問題が規 定されう る時に始ま る。 問題が はっ き りと規 定 さ れて,
ど ん な人が行っ て も 証明できる ように,
目に見え る形で 提供さ れ る時,
は じ めて科学は科学 と して成 立 する」を 引用し ま した。 そ して, 帰納と演繹とい う論理を簡単に 紹介し,PNF
に関す る10
年 間に わ た る個 人 的 な 研 究 結 果 を まと める形で技術と科学とのクロ ス トー
ク を紹介し ま した。 ファ シ リテー
ショ ン ・ テクニ ッ ク を 振 り返 るKabat
に よっ て提唱さ れ たPNF
手 技の 理論 的仮 説は 「固 有 感 覚 入力を利用 して運動= a一
ロ ン の興 奮 性 を制*
Physical Therapy in the 21st Century−
Scientific Basisof Physical Therapy
−
*
*
国 立 身 体 障 害 者リハ ビ リテ
ー
ショ ン セ ン ター
(〒359 埼 玉 県 所 沢 市 並木 4
−
1)Ryuichi Nakamura
,
MD : National RehabilitationCenter for the Disabled
キ
ー
ワー
ド;理学 療 法,
技 術 法則,
科 学理論 御 する」にありま し た が,
実 際の手 技は正 常の人 間の運 動 行 動,
た と え ば障 害 物競 争でハー
ド ルを越える時の下 肢の運 動パ ター
ンな どですが、
それ らの観 察に基 づい て いま し た。
そして神経 生 理 学の理 論 は,Sherrington
や Magnus の モデル を 利 用 して,
個々 の手 技 が もた らす であろ う効 果の説 明に利 用し たの であっ て,
理論か ら各 種技術が体 系 的に演繹されたので はな かっ たのです。
神 経 生理学に関して は,
後にGellhorn が ProPriocePtive corticalfacilitation
とい うモ デル を提 唱し,PNF
に よっ て得ら れ る効果が脊髄機構だ けでな く, 大脳皮 質機 構も関与すること を示唆し たことの方が重要で しょう。 これらにか かわる詳 細は論 文 「運 動療法の 技術と科 学 性」 を参照して戴けれ ばよいのですが, PNF
の効果発 現に脊 髄と皮 質との関 与は どのようなものか とい う問 題 を 立て,
正常 者と患者と を被 験 者と した反 応 時 間,
そ の他の分析,
運動失調へ のPNF
の効果,
小 脳 破壊 の動 物モ デル,
にっ い て紹 介しま した。 そ して最 後に,
「私のPNF
につ いて の研 究 は,
こ こまで です。 新しい 方 向を求め なければな らないよ うな気が して い る昨 今で す」 と締め括っ て います。 それ か ら 10年 近 く経 過 した 今日,
ふ たたび理 学 療 法 (運 動 療 法 ) を 自然 科 学の視 点 か ら問 うことにな り ま し た。 歴 史 的に見ると運 動 療 法の ひ とっ の まと め は1966年 の NUSTEP にあ ります。
プ ロ ジェ ク ト管 理 者で あっ た Elizabeth C WoQd は緒 言で 「運 動 療 法は職 業 的理 学 療 法の主要な一
部 分と な って います。 そ して運 動 療 法の教 育は 理学療法士の全教育に お いて重要性を増して います。 近年, 運動療 法の新た な方法が多く開発さ れ, 人々の注 意 を 引い て い ます。 神 経 生理学の概 念に基づいて,
これ ら の方 法は人 間の反 射機構の理解に貢献 し,
神経 生 理学 の新た な発 展の光 りに照ら して,
すべ て の運 動 療 法を再 評 価 する必 要 性 を指し示 して い ます。……
」 と述べ て い264
理学療法学 第22
巻第6
号 ま す。 こ の プロ ジェ クトの 目的 と して7項 目 が上 げ られ て いま す。
運 動 療 法という言葉に よっ て何を意味する のかにつ い て合意 すること。 正 常 な 運 動 行 動の理 解 が リハ ビ リテー
ショ ン (リハ )手段と して の運動療法の最 適な利 用に本 質 的である,
および 訓 練は不 可 分に運 動 学 習 と結 びつい て い るとい う命題 を 探 究 すること。 正常な 運 動 行 動と運動 学 習の理解に必 要と さ れ る基 本 的な情報 にっ いて再 検 討 を行い,
新 たな知識を 獲得すること。 多 くの運 動 療 法の手 段,
伝統 的 な 手 段,
そ して新た な治 療 法 を分 析し,
正 常お よび異常な 運動行動と 運動学習へ の それ らの影響を決定す ること。 多くの治療的ア プ ロー
チの共 通 分母を 同定 すること。 個別お よ び集団に お け る教育 目的を再検討すること。 我々の 現在の教育 を調べ,
カ リ キ ュ ラム の変更を考慮して,
コー
ス の内容 と方法と を作り出すこと。 コ ミュ ニ ケー
シ ョ ン の障 壁 を 認 め,
そ れ を除くこと。 これ らの項 目を 眺 めて明らか なこと は, 当時の主な目的は正 常な運動行 動の理 解にあ り,
そこ には潜 在 的で は あっ て も ボバー
スや ブル ン ス ト ロー
ム,
ルー
ドの アプロー
チ,
そ してPNF
な どの影 響 が強 く認められます。 リング以 来,
運 動 療 法において は,
身体 運 動の運 動 軌 跡を重 視 するとい う伝 統 的 な流れ が認 められ ま す。 そして意外な程に,
治療成績に関する評価 基準にっい て は突っ 込んだ検 討は な さ れて い な いのです。
む しろ,
神経 生 理学 を 全 面 的に信 頼 し,
それに基づく演 繹 的に見え る理 論体 系が先行していた の です。 そ し て, その後 も運 動 行 動 あるいは運 動学習の面か ら理論体系の 証拠を固め る努 力が な されていま し た。一
方,
1960 年代 中 頃 か ら は リハ 医学の 領 域で は,
バー
セ ル・
インデッ クスなど に よっ て代表さ れ る よ うに, 機能的自立の指標を確 立 するこ と, そ れ らを利用して各 種の アプロー
チの効果 判定,
さ ら に はアプロー
チ問の比 較を試み る とい う研究が 進 め ら れ始めて いま した。 現在 で は, バー
セル・
インデッ クスを指標と し た場合,
脳卒 中リハ におけ る伝統的な 理学療法と新たに発展して きた 神 経 生 理 学 的ア プロー
チとの 間に治療成績の一
ヒで差異が ない こと が明ら かに さ れて い ます。 1970 年代か ら は, 神経科学の進 歩にっ れて神 経 系の可塑性や神 経 調 節 物 質 につ いて の知 識が深まり,
機 能 回復 神 経 学の発 展 を もた らして います。 技術
の科学性
を問 うと は どういうこ と か ? こ の様な状況で 「自然 科学から み た 理学療法」と は何 か という問はどの よ うに立て れ ば良い の で しょう。
や や 長 くなり ますが,1992
年に発表し た 「リハ ビ リテー
ショ ン・
テ クニ ッ クの科学性」とい う論文か ら要点を ま とめて見ることに し ます。
リハ 医学研 究者の これ まで の努力によっ て多数の リハ 技術が 開 発さ れ,
その うちい くっ か は専門職の支持を得 て臨床の場で広く使用さ れて います。 多くの技術の臨床 的有効性は も と より,
その 科 学 的基礎につ い て,
そ れ ぞ れに検討すること は重要です。 し か し, 今日の リハ 医学 に お いて,
直ちに技 術の科 学 性の検 討に具 体 的に取 りか か れ ば そ れで済むの で しょ うか。
む しろ,
技 術の科 学 的 基 礎 を検 証 することの意 味,
手 続 きその ものから反 省 す る こと が重要です。
た とえば,
PNF の科 学 的 基 礎と し て,
運 動ニ ュー
ロ ンの振舞に関 する神 経 生理学的 研究が 枚 挙さ れて きまし た。
こ の手 技の神 経 生理学 的 基礎と し て,
これ らが検 討に値 することは勿論です。 しか し,
人 間の運 動技能,H
常の勤作に みら れ る協調的運動パ ター
ンは多 くの運 動ニ ュー
ロ ン の活 動 を 中枢神経系が統合す る ことで実 現 するの です。 現在の神経生理学は 日常 的な 運 動 行 動 をニ ュー
ロ ン・
レベ ル に還元して説明で きる段 階に達していま せ ん。 リハ 医学の 目的は人間と して の運 動行動や役割遂行の障 害を除 去,
改善 することにありま す。 こ の 目的と今日の神経生理 学の レベ ル との間には大 き な距離が あ り ま す。ところ がPNF の科学性を示 すと さ れ る
1960
年以前の電気生 理 学 的 実 験 結 果が,
しば し ば安易に行 動の変 容 (学 習 )と結 びっけて解 釈 され た り してい ま す。 学習は独 自の構 成 概 念であ り,
そ の研 究に は独 自の方法があるの です。
リハ 技術の科学性を問う前 提の問 題と し て,
以下の 二 点に注意が必要です。 技 術の科 学 件 を検 証 する ことの 意 味,
手 続き とはどの ようなこと か, リハ 医学の特殊 な事 情,
すなわ ち 研 究の主 要な対象は人間の行動とい う 複 雑なシ ス テム であり,
それには実験的研究と は別の研’
究方法が自覚 的に用い られね ば な らない, とい うことで す。 技 術 法 則と科 学理論 1.
法 則 とは ある リハ 技 術の臨床的有効 性が多数の専門職に認め ら れて い ると します。一
群の手 技X に よる介 入が患 者の 機能の回 復Y
を伴い, X
とY とを適 切な変 数で表 した 時,
両者の間に一
定の関 係があるとい う意 味です。 こ の 関係を追試すること が可 能であ り,
あ る程 度一
般 的に成 り立つ こ と が 研究 者 仲 間に知ら れて い る場 合,X
とY21
世 紀の理 学 療 法265
との関係 を記 述 する言 説 を 「法則 」と呼んで います。
そ こ で,
リハ 医療に お け る手技にも 「技 術 法 則 」 を認め て,
た と え ば 「ボバー
ス・
ア プロー
チ と はボバー
スの法 則の ことで あ る」と言っ てもよい のです。 法則は多 くの事例 と領域で テス ト さ れ,
そ れ に伴って 明 確に言い表さ れ る よ うにな る こ と が重要です。 テス トとは観察 と実 験 とに よ る経 験的帰納の ことです。 リハ 技術を技術法則として 確 立 するた めの テ ス トが大切であ ることは言う まで もあ りませ ん。 注意すべ き点は,
科学 法 則と は違って技術法則には,
経 済 的 および倫 理 的 理 由が不 可分に結びつ い て いること です。 こ のた め テス ト によ る技 術 法 則の科 学的検 証で は,
科 学 的 とい うことの意 味が重 要になります。 2.
理論とは一
般に法則の テス トとい うレ ベ ルで二っ の閙題が あり ま す。 第一
に は, 実験的方法 か非 実 験 的方 法か な ど,
テ ス トの性格の 吟 味が必 要です。
これにつ い ては後で触れ ます。 第二の問題 は,
観 察か ら帰 納された法則はそれ だけで は ま だ法 則が対象とする事象に対 する科学的 理 解, 科学 的 説 明と しては認め ら れ ない ということです。 ある リハ 技 術の経験 的有効 性が確 かめ られ,X
とY
との一
定の 関 係がテ ス トに よっ て広 く認め られたと して も,
そ れ で この リハ 技術の科学的基 礎づ け (理解 )が得 られたと は 言いま せ ん。 あ る法則の科学 的基礎づ けとは,
理 論に よ る法 則の説 明の ことです。一
般に説明 や 理解の レ ベル は 様々です が,
その うち科 学 的説明, 理解の水準を 理論 と 名 付 けて いるの です。 理論と は一
組の構成 概 念か らな る 言 説です。
能 力,
学 習な ど が構 成概念の 例です。 理論は これ らの構成概 念の関係 と して記 述さ れ る仮定で あ る と も言え ます。
理論 的 仮 定から,
論理的な演繹操作によっ て, い くつ かの予 測 が 可 能にな り ま す。 あ る理論が科 学 的理論であ る た めには, そ れ はテ ス ト 可能で なけれ ばなりませ ん。 そのた め に は, 理論を構成 する概 念が操 作 的に定 義可能であ ること,
測定可能の も の で ある こと が必 要です。 何を もっ て能力低下を測るの が適 切で あ る か とい う 問題で す。
た と え ば PNF の科 学 的検 証は徹底的に神 経 生 理 学 的なものでな けれ ば な らな いとい う仮 定か ら,
脊 髄の単シ ナ プス反射回路を操作 対 象と し た電 気 生 理 学 的な テス トを構 想 することが できま す。 こ の仮定が見 当外れ か否かは,
理論にとっ て はど う で もよ い ことです。 こう して,
あ る リハ 技術 (あ るい は 技 術 法 則 )が どのような 理論によっ
て説 明さ れてい る か, こ の理 論がテ ス ト によっ て ど れ ほ ど支 持されて いるか,
あるいは反 証されて い るか とい う検 討 が,
技 術の科 学 性 を 確か めると い う問題の核 心とな るのです。
我々は暗黙の うちにある立 場 (科学的, 経 済 的,
倫 理 的 )から事 実と法 則と を捉え,
技 術を評 価して います。
これ らの性 格の異な る評 価の うちで,
技 術の評 価 が と く に科学的評価と言い得る た め に は,
技術法 則の検証の レ ベ ル に留まっ て い てはならず,
評価 を科学的理論のテス トの レベ ル へ と意識 的に移行さ せ ることが必要です。 こ こ で科学 的とい うこと が極めて操作的に考え られて いる こと に注意を要し ま す。 科学的真理 とい う よ う な ことは 何も仮定さ れてい ま せ ん。 真理 を言い当て ること が科 学 的検証であ る と も言え ま せ ん。 理論と は, 研究 者が人為 的に,
手軽に でっ
ち 上 げ た り,
捨てた り す る もの なの で す。 以前の理論が捨て られ,
新た な 理論が持て囃さ れ た りする という,
理論の興 亡を通じて,
あ る領 域で ひ とっ の理 論が多 くの研究者仲間の支持を集め る よ うにな り ま す。 こ の ように して,
理 論の正し さ と は,
取 り あえず 研 究 者 仲 間の支持の ことで ある と言える の です。3 .
検 証,
反 証,
モ デ ル とは テス ト に よっ て理 論の正しい こと が証 明さ れるわけで はあ り ませ ん。 単に理 論が支 持 されたと言え る だけです。 これ が 理論の検 証です。 た と え ば,
A とい う理論が真 で あ る な ら ば,
リハ 技術B
法によ る介入X
は機能の回 復 Y を もた らす と論 理 的に演 繹 されたと しま す。 そし て,
実 際にこ の よ うな 事 実が観 察さ れ たと しても,
A 理 論の正 しさ が証 明されたとは論 理 的に言えません。
何 故な らX
とY との関 係は 理論の仮 定と は まっ た く別の 要因に よ るものか も知れないか らです。一
方,
理論の帰 結をテス ト結果が支持し ない と言う反証は強 力で す。 「すべ て の ス ワ ン (自鳥) は白い」 とい う理論は白い ス ワン の観 察事例がい くら重ね ら れ て も証明さ れ ま せ ん が,
白くない ス ワ ンが一
羽で も観察さ れれ ば, それは理論を 拒否するのに十分です。 実 際に オー
ス ト ラ リアでblack
swan が発 見さ れ たこ と に よっ て,
「すべ ての スワ ン は 自い」とい う言説は誤り になっ てい ます。
モ デル とい う言 葉が理論と同じ よ うに使われて います。
これ までに触 れ たように,
理論の位 置づけを理 解して,
モ デ ル という言 葉を用い るの が良い で しょ う。 リハ 技 術 の科 学 的 基礎を問 題にする とい うの は, ひとっ の技術法 則を説 明す るモ デル を 立て,
そ れ をテス ト によっ
て検証 する,
あるいは反 証 することです。266 理学療法学 第
22
巻第6
号 リハ ビ リ テー
シ ョ ン医 学 研 究の特 異 性 リハ 医学 研 究の対 象は 人間の機 能,
行 動とい う複 雑な システムです。
現在,
こ の研究のた めの概念的枠組み,
す な わ ち理 論は世 界 保 健 機 関が 1980年に提 唱 した 機 能 障 害,
能 力 低F
,
社会 的 不 利とい う三 つ の構 成 概 念に よっ て記述されるべ き もの と考え られています。 しか し, これ らの概 念の操 作 的 定 義に関して は,
ADL やQOL
に見ら れ る よ う に,
合意は得られ ていま せ ん。 科学性を 主 張 すべ き根本において, 差し当た りの合意を得ること が必要で しょ う。 人 間の機能と言う複雑なシ ス テム の 科学的研究, お よ び機能障害,
能力 低下,
社会 的不利とい う構成概念によ る理 論 的 構 成のた めに は,
通 常の実 験 的 研 究と は異なる 独 自の研 究 手 法を取 らなけれ ば なりま せ ん。 実 験 的 研 究 と は,
目的とする変 数 以 外の独 立 変 数 が 厳 密に統 制 され て い る研 究です。
独 立 変数 X 以 外の考え ら れるすべ て の要因 が 同一
であると して,
はじめて独 立変数X と従 属変数 Y との関係が 記 述できる よう な研 究です。 筋線 維 組成に対する運 動の影響を 知る た め に は実 験 対 象の遺 伝的同一
性が保証さ れ ていなけ れば ならないで しょ う。 こ の場 合に はX
と Y,
そ れ ぞ れの平均値を比 較して,
運動X
の筋線維 組成Y
に対する効果を検討すること が 可能であり,
平均値の差が統計 的に有意で あ れ ばX
と Y との関係を因果関係と して認め ることがで き ます。 しかし,
複雑なシ ステムの研 究で は,
独 立変 数の統 制 は原理的に不 可 能で,
実 験 的研 究はあり得な い と極 言さ れます。 我々 は,
機能障害に対 する リハ 医療的介入が能 力 低 下を改 善す る とい う理論を意識 的, 無意識 的に仮 定 してい ます。 そ こ で,
ある リハ 技術の 効 果 を 実 証 するテ ス トを考え ます。 二組の被験者 (患者) 群に対する介入 方 法を変え,
あ る種の能力低下の指標の変化を比 較 しま す。 こ こ で被験者の属性や病型な ど は同一
に できて も, 彼らの遣 伝 的特性や, 発病前の生活や社会適応 状況 を 等 し く す ること は で き ま せ ん。 この病前の社会適 応状況の 差が,
脳 卒 中リハ の帰 結には影 響 しま す。
こ の よ うな要 因を無 視して リハ 治 療 前 後である能 力 測定の平 均 値 を 比 較 検 討して も,
そ の リハ 技 術の効 果を実 証 した ことには ならないか も知 れ ませ ん。 リハ 医 学 研 究に実 験 研 究の手 法を厳 密に適 用 しよ う と すれ ば,
研 究その ものが不 可 能になります。
薬 効 検 定の モデルを リハ 治療の効 果 判 定に適 用 すること は倫理的に 許さ れ ることで はない で しょう。 そのた め,
非実験 的研 究の独 自のパ ラ ダ イム と手法と を理解してお くことが大 切です。
リハ 医 学が研 究 対 象とする入 間の機 能 (端 的に は能 力低下)は, 無数の変数の統合に よっ て は じめて規 定 されるシ ス テ ム です。
将 来,
我々 は多 数の連 立 方 程 式 に より能力低下を決定 する こ と が できる かも知れ ま せ ん。 しか し,
今日の ところ は能力低 下に影響す る多数の変数 間の非 決 定 論 的 関 係を知り得る だけです。 そうで あ れ ば,
こ の研 究は本 来 的に多 変 量 解 析になります。 関 連 する変 数をで きるだ け多 く測 定 して,
それ らの相 関 関 係とその 変化 とを 知る必要が あるのです。 こ のようにして,
変数 の集 合 {X}の変 化に {Y}の変 化が 「伴う」,
「関 連 す る」あるいは 「関係する」 と言う ことが できます。 しか しX
がY
の原 因であ る と み なすこと はで き ま せ ん。 科 学 的であ ろ うとす ること こ こ で前 回の シ ンポ ジウムでふ れ た ポパー
の意見をも う一
度 取 り上 げます。 「科 学 は,
その答 を 最 終 的なもの にするとい うような,
幻 想 的な目標は置い て いない。
む し ろ,
科 学の前 進は無 限の,
しか し到 達 し得る目標に向 かっ て いる。
そ の目標は,
新しい,
よ り深い,
よ り一
般 的な問題を見 出 し,
我々 の試 案 を新た な, 強 力 な 検 証に 掛 けて い くことであ る……
」。 我々 は進化の過程を科 学 の進 歩の過 程と同 じように,
[問 題1一
暫定 的理論一
誤 りを排 除一
間題2
]の四段 階の図式で表すこ と がで き ま す。 両者はいず れ も推 測と 反駁の方 法に 基づ く問題解 決 理論の漸進 的な成長過程です。 両者の本質は同じであ り,
違 うの は進 化における推 論と反 駁を,
科 学は言 語 (言 語 も進 化の過 程で生 み 出 さ れた間題解決方法のひ とっです が ) を用いて自覚 的,
積 極 的に,
そして誤っ た推 測 を し た人 間 自身を死 滅させずに,
ただ仮 説だ け を淘 汰 し,
死 滅 させ る形で行っ ている点 だけ です。
科学理論の進歩も,
っ ま りは仮 説の生 存 適 性 を巡る競 争と淘 汰の結 果に ほ か な ら ない の です。 もう一
度ま とめ ておきます。 「自然科 学か らみ た理学 療 法 」は,
少な くとも研 究 とい う視 点で は,
技 術 法 則 の検 証の レ ベ ル か ら科 学 的理論の テ ス トへ と意 識 的に移 行 すること,
ひ とつの技 術 法 則を説 明 するモデルを立 て,
それ をテス ト によっ
て検証,
あるい は反 証 すること,
とくに臨 床 研 究とい う立場か らは非 実 験 的 研 究のパ ラ ダイム, 手法を導入するこ と, 科学は進 化 する とい う ことt
の四点 を理 解 してお く と よいで しょ う。 こ こか ら は, これ ま で にふ れ た抽象 的な事項を若 干の具体例で示 すことに し ます。
21
世紀の 理学療 法267
脳卒中機能
評価
に関 す る研 究 動 向 を振
り返 る 脳 卒 中 患者の リハ 医療に おける機能 評 価 を,
と くに リ ハ 医療のための 参照デー
タとい う視 点 から, 取り上 げま す。 その 主た る関心事は,
評 価 尺 度が どのよ う に作ら れ て き た か,
それに よ る評 価結果が ど の よ うに分 析 さ れ た かの二点です。
1950年 代の研究の特 色は運 動 回復の規 則 性の認識にあり ます。Twitchetl
は脳 卒 中による片麻 痺 患者 121 例の運 動 回 復の経 過 を追跡し, すべ て の患者 に共 通する回 復のパ ター
ンを明ら か に し ま し た。 完 全 麻 痺から固有感覚受容 反射の出現, 共同 運動の 出現,
痙 縮 の軽 減,
そ して 完全 回復に至る とい う順 序です。
後にBrunnstrom
が回復段 階 を 区 分 す るの に利用した研 究 の ひ とっ です 。 こ の時 期の研 究は神経学 的徴候や単純な 運 動 課 題の遂 行 能 力を分 析 対象と し ま し た。 1960 年代 に は機能 評価尺度の開発に重点が移りま す。 その 中 心は ADL 評価で あ り,
PULSES ,
バー
セ ル・
イ ンデ ッ クス , カッ ッ・
イ ンデッ クスな どで代 表 され ま す。 これら は変 数と して身辺 処 理と移 動 を取り上 げ, 入院患者か ら退 院 患 者の追跡調 査 まで利用さ れ ま し た。 1970年 代に な る と,
これ らの尺度を利用して機能的 予 後に影 響 する要 因 の分 析が展開さ れ る ようにな り ます。 1980 年代の研究 に は四つ の流れ があ り ますQ 第一
は予 後予測に多変量解 析などの統 計手法が導入さ れ たこと,
第二 は機 能 回 復の 時間経 過の検 討, 第三 は リハ 治 療の有 効性に関する技 術 評価の検討, そ して第四に評 価 尺 度がADL
を越えて患 者や家族の 心 理社 会 的側 面ま で に広がっ たこ とが 上 げ ら れます。 こ こ で は リハ 医 療の効果 判定に関心が ある わ け です が,
その内 容は, 急性期の治 療として,
脳卒 中患 者の リハ を集 中 的に行う脳 卒 中 病 棟は 効果が あ るのか,
急 性 期 および慢性期 共に,
在 宅 ケア は有効か,
具 体 的 な治療法と して筋 電 図フ ィー
ドバ ッ ク, ファシ リテー
シ ョ ン・
テ クニ ッ クは効 果 が ある か,
です。 こ の うち に関 しては,
具体 的な治療 法や リハ 医 療その もの の有 効性を吟 味し た もので は ありま せん。 につ い て は,
先 程 もふれた ように伝統的な理 学 療法とファ シ リテー
シ ョ ン・
テ クニ ッ クとの間に は ADL の変 化を評 価 基準とす る限 り有 意な差はないので す。 こ こ に は フ ァ シ リテー
シ ョ ン・
テ クニ ッ ク の多くが痙 縮 や 運動麻 痺な どの機能 障 害を標的と し た治 療 法で あるの に対して,ADL
尺 度 は能 力低 下の測 定 法で あ る とい う問題点が認め ら れま す。
機能 障害と能 力 低 下とは相互に関連し あいな が ら も,
異 な る階 層に属 するこ と を示 唆して い ます。 こ の問題を 我々 のデー
タ に よっ て解いてみ ます。 障 害モデル の検 証1.
デー
タベー
ス につ い て 脳 卒 中患者の障 害に関する情 報は複 雑で す。 そ れ を A 一一一
{
B 退 院先,
役 割 遂行 自立度,
仕 事,
QQL
(治 療) (退院 )副
一一
晒
ノ
リハ ビ リ テー
シ ョン の帰 結 機 能 的帰結 個人情 報 (性 別・
年 齢な ど) 診 断 MD 図1
障 害モ デ ル (A
)と障 害の デー
タモデル (B )268 理学療 法 学
第
22
巻第6
号 デー
タベー
ス に貯えて , 処 理をするに は一
定の関 心と見 方とに よっ て情報を抽象 化 (構造化)し な けれ ば な りま せ ん。 抽 象 化の手掛か り と な る考え方を デー
タモデル と 呼び ます。
こ こ で は世界保健 機 関の提 唱 する障害モデル を基礎と しま す。 脳 卒中と い う疾患は,
そ れが原因と なっ
て患者は特 定の症 候を示し,
ま た機 能 障 害をもた ら して い る,
そ して機 能 障 害をもと に患者の能 力 低 下 を理 解できる と仮 定し ます。 これ らが発 症時あ るい は入 院 時 の医 学 的な障害像を構成して い ま す。 リハ 医療に よっ て 機 能障害および能 力 低下の改善が期待され ま す。 そ れ は 退 院 時の機 能的帰結と して評 価さ れ ま す。 これ らの過程 全 体に対して,
患者の病 前 か らの特 性が大きな影響 を 与 え ま す。 性 別,
年齢, 家族, 教育歴,
職 業,
社会 適 応 能 力な どの個 人 情 報,
そ して医学的な合 併 症の有 無です。 障害とリハ 医療に関 する情報を, こ のような構 造と範 囲 の もの と考え るのがひ とつ のデー
タモ デル な の です (図 1 )。 我々 は東北 大 鳴 子 分 院 以来, こ の よ うなデー
タ ベー
スを機 能回復評 価シ ステム(
RES
)と命名して
,
10数 年に渡っ て デー
タを蓄積していま す。
・
RES
の デー
タ を 用いて, 脳 卒 中の もた らす 心 身 機能 の障害につ いて, 障害モ デ ル の検 証を試み て みま す。
図 2 は医学モ デル と障害モ デル とを対比して示し たもので す。
機 能 障害,
能力低 下, 社会 的 不 利がこ の よ う な階層 関 係に ある とい う わ けで はあ り ませ ん。
[疾病の帰 結 ] と して矢 印で結ば れて いる だ け です。
階 層 関 係は分析に よっ て具体 的に明 らかにさ れ るべ き事 柄です。
障 害モ デ ル に従っ て次の三つ の問 題を取 り上 げます。 機 能 障 害 は医学モ デル に お け る疾病の [発 現 ](症候)に当た り,
これ は疾病と因果関係で結ば れる(矢 印
1
)。
障害モデ ル に含まれて い るこ の医学モデル は正 当化で き るか。「
一
一
一
一
一
一
一
一
一
一
一
一
一
発 現(症 候) 病理↑
病 因医 学モ ヂル
「
「
L_
_
_
_
一
_
_
_
_
_
_
_
一
一
1 図2
障害の階層モ デル 能 力低下は疾 病の帰結の ひとつ の カテゴ リー
で すが, 両 者は能力低下が疾 病か ら説明 (決 定 )で き ない とい う意 味で階層的関係にある か否か (矢 印 2)。
能 力 低 ドが 機 能 障 害の帰結であるとい うのは, どの よ うに正 当化で きるか (矢印3
)。 こ こではモ デル (理論)が 先にあ り,
そ れ を RES の デー
タ で検証 し よ うと す る わ け です。
RES の入 院 時 デー
タか ら,
病 型 が 脳 梗塞か脳 出血であること (く も 膜 下 出血な どを除く), 左 右 ど ち らか に麻 痺が認め ら れる (両 麻 痺,
麻痺な しを 除 く),
発作が1
回である こ と,
発 症 か ら入院まで の期間が12
月以 内で あるこ と,
年齢は20歳 以 上,80
歳 未満の範囲にあること,
の基準に従い285
例 を選 出 しま した。 疾病 概念はr
病 因一
病 理一
発 現 」です が , そ れを 病 型 (脳 梗 塞・
脳出血) と病 理 変 化の局 在 (CT
所見) と して,
これ らが十分な 分 散を もつ こと が分 析の前提に な り ます。
複 数の病 巣部 位が特定さ れ ることによっ て病 巣の広が りもある程 度は 反映さ れ ると仮定 し ます。
機能障害と して は種々 の臨床 症 候 を取 り上 げます。 便宜 上,
これに昏 睡 期 間,
脳外科 手術の有無を含めて お き ま す。
能 力 低 下の尺度と して は ’ 運動年 齢検査,
脳 卒 中上 肢 機 能検査, ミ= メ ンタル ス テー
ト,
バー
セ ル・
イ ンデ ッ ク スを用い て いま す。
2.
疾病と機能障害との相 関 デー
タの統 計 的 処 理 過程 (線型多変 量 解 析の 1種であ る正準 相関 分析 ),
お よ び そ れ らの解 釈に関 する詳 細は 省略し ます。 知 りたい方は我々 の著書 「脳 卒 中の機 能 評 価と予後 予測」 を参照して下さい。 結 論を図3に示 し ま す。 機能 障害を患者の症 候の組合せで測定する時,
それ は疾 病 (病型と病巣分 布)か ら90
% 以 上 説 明 すること が でき ます。
両 者は1
:1
に対 応 する と言えま す。 これ は症 候の組 合せか ら責 任病巣, 病理 を言い当て る伝 統 的 な神 経症候学の根拠を 明 らかにする ものです。 ま た,
疾 病と機能障 害との関係を原 因と結果の単純な因果モデル で考え る とい う示唆を支持します。
先 程の問題 (矢 印 1)は正 当 化さ れ ま す。 これ は特 定の症 候の組合せ か ら 機 能 障害を み る時,
これ が 疾 病 (病 巣 分布)を よ く反映 機 能障害(症 候の組 合せ〉 Rt=
0、
94 症候 (個別)↑
R2≦0.
10 疾 病(病 型,
病 巣 部 位 ) 図3
疾病と機能障 害の相 関21
世 紀の 理学 療法 269 認 知 機 能 R〜=
0,
38辱
コ
廠 攤 0,
15 0.
16 下 肢 機 能 e.
14 図4
疾 病と能 力 低 下の相 関 認 知機 能 RZ=
0,
62『
コ
平
騰 0.
54 0.
58 0.
58 図5
機 能障害と能力低下の相関 する と い う意味であり,
単純に大 脳 機 能 局 在 論 を支 持 す る とい う わけで は あ りま せん。
実 際,
機能 障害の単 独の 変 数,
例えば 認 知 障 害 と疾 病 との 相 関は (失 語 を除い て) 非 常に低い の です (R2=
0,
08)。 失語だ け は重相関 寄 与 率 (R2=0.
48) が高い ことは,
大脳機 能局在論が 失語の病理 の発 見か ら提唱さ れ たこと と関 連して いま す。 ま た,
こ こ に は示して ありま せん が,
ブル ン ス トロー
ム・
ス テー
ジ (上・
下 肢 と手 指 )に対する疾 病変数から の重相 関寄与 率 (R2≡0,
14)も低く, 特定の機 能障害の テス ト結 果か ら,
その責 任病巣を論じ るの は危 険です。
3 .
疾 病と能力 低 下との相 関 次に (矢 印2)の問題, 疾病に よ っ て能力 低.
ドが説 明で きるか を考 え ます。
図 4 に示すよ う に,
疾 病か ら能 力低下を説明す ること は, いずれの変数を みて も重 相 関 寄与率は低く,
原 則的に で き ま せ ん。 能 力低’
ドが疾病に 関係する こ と は当然で ありますが,
疾病の法 則 (病 型 と 病 巣 分 布 )に還 元して説 明 することの できない, 独 自の カ テゴ リー
で あ ること を示 唆 しま す。 疾病 (病理 過程) の治療だけで は能 力低下の回復はもた ら さ れ ない可能性 もある わ けです。 こ こか ら リハ 医療の特殊 性が生ま れ,
理学療 法の効 果判定に も機能 障害の変 化を指 標とするの で は な く,
能 力低 ドを指 標とすべ き とい う意 見が理解で き ま す。4 .
機 能 障 害と能 力 低一
.
ドとの相 関次は (矢 印3)
,
能 力 低 下は機 能 障害の帰結で あ る か とい う問 題です。 能力低下の4
尺度を目的変 数と し,
機 能障 害の症候18
変 数に便 宜 的に性 別,
年 齢 および発 症か ら入院まで の期間を加え た合 計 21項 目を説明変数 と して 分 析 を 行いま す。 各項 目とも重相 関寄 与 率は約 60% とな り,
疾 病との相関に 比べ てか な り向上 し ます (図5
)。 能 力低下は機能 障害をもっ ことの帰 結と言 え ま す。 能力 低 下を一
層よく説 明 す る機 能 障 害変 数を求める とい うの も,
今 後の問 題 解 決の方 向である かも知れ ま せ ん。 5.
疾 病,
機 能 障 害 と能 力 低 下の 因果 関係一
歩行を 例 題に 疾 病か ら機 能 障害,
能力 低一
ドへ の因 果の道 筋 が成 立 す る可能性を検 討し たわ けですが,
これ をパ ス解 析 を 用い て解 くことにしま す。
取 り上げるの は歩行速度です (図 6)。
なお歩 行 不 能の場 合は速度0
と し ま す。 歩行 速 度 図6
歩行速度と機能 障害お よ び疾病との因 果 関 係 (パ ス解 折 ) 歩 行 速 度に対する寄 与率 RZ−
0.
50270 理 学 療 法 学 第
22
巻 第6
号 低 ドの原 因と なり うる変数を疾病,
機能 障害のそ れ ぞ れ か ら選 び,
変 数 相 互の因 果 関 係が矢印で示 される と仮定 して,
パ ス係 数 を求め ます。
原 因と して の変数に は,
歩 行速度と相関の高い項 目を 選 び ます。
モ デルを 簡 単にす る た め, 病巣部位は皮 質損傷と皮質下 損傷とに分類して あります。 機能障害と して取り上 げた4
変数相互聞に は,
矢 印の ような因 果 関 係を仮定し ま した。 この仮定は矢印 につ けたパ ス係数が プラ ス にな ることで肯定さ れ ます。 パ ス係 数は矢 印につ けて あ りま すが,
疾 病 変 数か ら歩 行速度へ の直接的な因果関係は非 常に小さ い の です。一
方,
機 能障害から歩行速 度へ の因 果 は大 き く,
パ ス係 数 はマイ ナスです。 筋 力低下があ れ ば, 歩 行速度は遅 くな るとい う意味です。 こう して,
疾病は機 能障害という結 節 点を介して,
能 力低 下をもた らすこと が明ら かになり ます。 こ の結論は先程の正準 相 関 分 析の結果が示 唆し た 点を支 持するもの です。6 .
ひとっ のま と め 以 上の再検 討をまと めて お き ま す。1960− 70
年代の 理学療 法は主と して神 経生理学か ら の演 繹体系に依存し, 治 療の標 的を機 能 障害に して いま した。 その結 果, リハ 医療と して望 ま れた患 者の 自立生活へ 必要な能力の再獲 得に は必 ずしも至ら な かっ た ようです。 そ れ は機 能 障 害 を治療 す れ ば, 能力 低 下の軽 減が得 られ る と暗 黙 理に仮 定し て い た ためです。1980− 90
年代になると, 障害モ デルの検証 が開 始さ れ,
疾病一
機能 障害一
能 力 低下の図式 が確 認さ れ ま し た。 理学療法の治療 効果で,
モ デル を作 り, それを検証することを邁じて, 種々 の技術が どの レ ベ ル に対応する か を検討する必要が あ ります 。 脳卒
中 患者
の最大歩行
速度
の決定
因 その よ うな例題のひとつ と して, 脳卒中患者の歩行を 取り.
ヒげます。 歩行の神経生理学 的研究で は, 歩行に必 要な要因と して,
抗重力機構,
立位バ ランス保 持機搆,
そ れに四 肢の リズム運 動が加わります。 人 間で はリズム 運 動に変えて,
下 肢の踏み出し運 動とする こともあ りま す。 脳 卒 中患 者にお け る最 大 歩 行 速 度の生 体 力 学 的 決 定 因として麻 痺 側筋 力 (具体 的に は等 運 動性 膝伸 展ト ル ク)と立位バ ラン スの安定性 (具 体的には両足圧の中心 の累 積移 動 距離:重心動揺,
随意 的 前 後 あるい は左 右方 向重心 移 動 距 離と足 長ある い は両 足 外縁間距離との比 ) とが取り出され ま した。 麻 痺側の筋力 強化 訓練に よっ て歩 行速度の向上が得ら れる はずです。 しか し,
結果は逆であ り,
筋力 強化 訓練 に よっ て必 ずし も歩 行速度の向上は得られず,
歩行速度 の向上に筋 力の改善が伴う とい うもの で し た。 具体 的な 運動課 題の学 習に は,
その要素を個 別に訓 練 す るより も,
課 題その もの の訓 練の方が有 効である とい う運 動学習の 経 験 的 法 則 が 実 証 さ れて しまっ たことにな りま す。 ま た, 歩行に対する筋力の影響につ い ても患側より も健側が重 要との意見も出さ れて いま す。 いわ ば技 術レベ ルにお け 表1
略語一
覧 BW (body weight ):体 重 height :身 長TSO (time since onset ):発 症か ら測定まで の期 間
MWS
(maximum walking speed ):最大歩 行速度SP
(sway path):両足圧の中心の移動距離FB
% :随 意 的 前 後方 向重 心移動 距 離 と足 長 との比LR % :随 意 的 左 右 方 向 重 心 移 動 距 離と両 足 外 縁 間距 離との比
N −IK
(iso
垣netic strength of the non−
affected side ):非患側膝伸展筋力A −IK
(isokinetic
strength of the a廿ected side):患側膝伸展筋 力表2 全 症例と
3
群の対象脳卒 中片麻痺患者の特性 全 症 例 (n=
54) S 群 (n・
=
18) M 群 (n=
18) F 群 (n=
18) 年 齢 (歳 ) 身 長 (cm ) 体重 (kg) TSO (週 ) 54.
9 (11.
2) 161.
7 ( 5.
7) 61.
0 (6.
8
) ll.
6 (4.
9) 53,
4 (11.
1) 16L9 (6 ,
8
)58.
9
(5 .
3) 11.
1 ( 3,
9) 58,
0 (11.
0) 53.
2 (11.
4) 160.
6 (4.
8) 162.
7
(5.
5)60,
1
(7.
0
)64.
0 (7,
3
) 12.
4 (5.
9) 11.
3 (4,
9) 平均 値 (標準 偏 差 ).
21
世紀の理学療法 271 表3
3
群の訓 練 開 始 時 および8
週 後にお け る測 定 値 訓練期 間 (週 )S
群 (n・
=
18) (M
n=
群18)F
群 (n;
18)Maximum
Walking
Speed (m /min )08
78 379一
.
9 (2.
8
).
3 (12.
9
).
4 (15,
2
)II・
*Il
* *1
* *40.
O
(23.
5) 70.
6
(25.
2) 1G3,
1 (17,
2) 一Sway
Path
(cnユ/10sec
)08
F”
”
”
””
”
”
””
”
”
”
”’
]40.
4
(11.
7
)35.
7
(13.
7
)24.
9
(5.
8
)1
棉1
「・II
30.
3
(7,
5
)27.
3
(6,
2
)23.
3
(3.
5
) L.
.
.
.
.
』
凵
一
.
.
.
.
“
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
」FB
(% )08
12.
3 (8.
3) 12.
2 (9.
2) 18.
5 (9.
7
)II
*
1
卜 卜*
15,
9
(9。
2)15.
3
(8,
2)26.
3
(14.
3)L
.
.
.
.
一
.
.
.
一
.
.
一
.
.
一
.
.
.
一
.
.
.
.
.
一
.
.
.
一
.
.
一
.
.
.
.
三
= 二∵二 二二 :二7二⊥.
」
LR %08
一
16.
4
(8.
7
)20.
9
(13.
3
)36.
4
(11.
5)ll
・FI
*II
* 27.
9 ( 9.
8) 30.
0 (13,
6) 44.
7 (15.
0) 一 N−
IK (N・
m ) 08 「1『
『
…一
…’
’
’
’
’
’
”
『
一
.
.
一
.
.
.
一
.
1一
.
…’
『
’
’
’
’
”
−.
.
一
.
.
.
一
……’
匿
’
’
”幽
’
1
98,
3
(28.
2) 111.
0
(27,
8) 133,
6 (49.
2)II
* *II
* *Il
*120,
7
(26.
0
)133.
9
(37,
4
)15L9
(48.
2
)L
.
.
.
.
.
.
__.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
__.
一
.
一
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
_ .
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.
一
一
.
i
A −IK
(N ・
m )D8
ドロ
tt
’
’
−
1 ド’
’
tt
ロ
”
111,
2
(12、
8
)34.
3
(25.
0
)6LO
(35,
7
)II
*
*
1
・
*
II
*
29,
1
(26.
1
)54.
4
(39.
4
)77,
2
(36.
6
)一
訓練 開始 時 (0) と8週 間後 (8)の検定 (=
),
3群 間の検定,
・
…
:p< O.
05,一
:p〈 O.
OLs :p< O.
05,
* * :pく0,
01 表4
訓 練 開 始 時 および8
週 後にお け る最 大 歩 行 速 度の決 定 因 訓練期間 (週) 全 症例 (n− 54
)S
群 (n− 18
)M
群 (n=
王8
)F
群 (n=
18)0
A−
IK (0.
426) LR % (O.
365
) R2;
O.
492age (−
0.
540) FB % (0.
596)R2=0.
291
R2=O,
492
non8
A −
IK (0.
762) A−IK
(0.
663
)A一
工K
(O.
687)A −
IK (O,
694) R!=
O,
581 R2・
O.
440 R2=
=
O.
472 R2;O .
482
( ) 1標 準 偏 回 帰係 数,
Ra:寄 与 率.
る法 則 性に関して は混 沌と した状 況にあっ た わ けです。 そこ で,
も う一
度,
生体力学的変数と歩 行速度,
そ れ に 訓 練 期 間の問 題 を再検討することに し ます。 表 1に使用 し た諸変 数 表 2が対 象と し た脳卒 中患者 54 例の特 性 です。 歩 行 訓 練の 方 法を 統一
す る 目的で,
全員が CAGT プロ グラムによっ て 8週間の理学療 法を受けて い ます。 歩行 訓 練 開始時の最 大 歩行速度に よっ て患者群 を3
群に分けて あ り ま す。 表3
は 3群の歩 行 訓 練 開 始 時 と8
週後の諸 変数の値を示し ます。S
群は開始 時に最 大 歩 行 速度は約正Om /min ,M
群は37
m /min,
F 群は78
m /min です 。8
週後の最大歩行速 度はS
群が40 m /min
,
M 群は71
m /min,
F
群は103
m /min です。 最大歩行速度を指 標とすれば
,
訓 練 開始 8週後の S 群は 訓練開始時のM
群に近 く,8
週後のM
群は開 始 時のF
272 理学療法学 第
22
巻 第6 号 表5
生 体 力 学 的 変 数の実 測 値 (n=
18) 独 歩 開 始 時 (CAGT 施 行 前 ) CAGT8
週 聞 施行後 差 △MWS
(m /min ) SP (cm /10 sec)FB
% (% ) LR% (%)N −
IK (N ・
m ) A−
IK (N・
m )7.
8
二辷3.
4
(2,
8〜16.
8
) 58.
9±46.
0 (25,
7〜
232,
5
)9.
7± 6.
4 (O.
4〜
19.
8) 14.
1± 7.
0 (O.
8〜
27.
上)77.
8
±29.
4
(39.
0〜
142.
0
)7.
3
±9,
3
(0.
O〜28.
O
)31.
Ot
:22.
9
(3.
1〜76,
9
)36,
±10.
5
(22.
2〜64.6
) 10.
3± 5.
5 (0.
4〜
19.
2) 21.
2:ヒ10.
4 (1.
4〜
40.
7) 95.
9±33、
8 (31.
0〜
170.
0) 14.
3
±10.
工 (0.
0〜
28.
0)23,
2
±21.
4
**− 22.
8
±42.
1* 0.
6±5.
6
7、
1±10、
2* * 18.
2±14,
1* * 8.
9±二11.
0*
s 平 均 値±標準 偏 差 (範囲 ),
1 :pくO.
05,
牌
:pく0.
Ol.
MWS (0)=
3.
72十〇.
05×N−
rK(0)(R2=
O.
2/) MWS (8)=
33.
31十1.
30×LR % (8)−
1.
41×TSO (8) (Rz・
=
O.
62) △MWS・
=
38.
77−
L63 ×TSQ (O)1−
0,
83×△LR %〔R』 0.
46 ) 表6
脳 卒 中片 麻 痺 患 者7例の患 側・
健 側 膝 伸 展 筋 力 (A −
IK,
N−
IK),
両足
1
−E
中心移動距 離 (Sway
Path
),
最 大歩 行速度(Maximum Walking Speed)
.
TRH 2 mg 投 与 前 後の比 較変 数 前 後 差
A
−
IK (ft・
lb) N−IK
(ft・
lb)Sway
Path (cm /10s)Maximum
W
乱lking
Speed
(m /min )60