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状態フィードバックを用いたカオス制御

小林 幹

【要旨】 カオスはその予測不可能性のため,特に工学分野では厄介なものと見なされ, カオスをいかに制御するかというカオス制御の問題は,主に工学,物理や数学の 分野で現在でも精力的に研究されている.現在広く用いられているカオス制御の 手法は,カオス変動を周期変動へと変えることでカオスを制御している.本稿で は,カオス制御のなかで最も広く使われている制御法の一つであるDelayed

Feedback Control法のレビューを行い,特にDelayed Feedback Control法の 欠点である奇数制約について述べる.そして,その奇数制約を回避するための方 法としてPrediction-based Feedback Control法とその拡張を紹介する.

【キーワード】 カオス,制御,時間遅れフィードバック,時系列解析,予測

1. はじめに

制御理論は工学,物理,生命科学,数学など幅広い分野に応用されている学際 的な学問分野である.制御理論の主な目的は,システムに入力を与えてシステム を所望の状態へと変化させることである[1, 2].例えば,風邪のときに薬を飲んで ウィルスを殺すことも制御であると考えられるし,社会に出回るお金の量をコン トロールしてGDPを増加させることも制御であると考えられる.このように制 御の考え方は至るところで用いられる.

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近年,制御理論分野における主要な問題の一つに,カオスのような不規則な変

動を周期的な変動に制御するためのカオス制御理論の構築がある[3].カオス制御

には大きく分けて2つの手法が存在する.どちらの手法も,カオス変動を周期変

動に変えるために,カオスアトラクタに埋め込まれた不安定周期軌道を安定化す るという方針で制御理論が構築されている.

一つ目は,Ott, GrebogiとYorkeにより提案されたOGY法と呼ばれる手法

である[4].これは,軌道に制御入力としての微小摂動を与えて軌道を不安定周期 軌道の安定多様体上に乗せることで不安定周期軌道上の軌道を実現し,カオス軌 道を周期軌道へと制御するというものである.OGY法の利点は制御入力が微小 でありシステムに負荷をかけずに制御可能なことである.一方,OGY法の難点 はOGY法を使用するためには不安定周期軌道の安定多様体の情報を予め知って いる必要があるが,一般的にこの情報を得るのは大変困難であり,そのため実験 などのシステムへの適用が難しい点である.とはいえ,OGY法は大変シンプル な考え方で制御理論としても扱いやすいため多くのシステムへの適用やOGY法 の拡張が現在でも研究対象となっている[3, 5, 6].OGY法は,非線形力学系分野の 研究者が考案した方法であるが,その後,制御理論の研究者によって,この手法 が制御理論ではよく知られた極配置問題と同等であることが明らかとなった.

二つ目の方法は,Pyragasによって提案されたDelayed Feedback Control法

(DFC法)と呼ばれる手法である[7].DFC法のアイディアは,カオスアトラクタ に埋め込まれている不安定周期軌道のうち安定化させたい不安定周期軌道の周期 と一致する時間だけ前のシステムの状態と現在のシステムの状態の差をフィード バックとして加えることで,不安定周期軌道を安定化させるというものである. 詳細は第2節で述べる.DFC法は,OGY法と違って安定化させたい不安定周期 軌道の詳細な情報を必要としないので,実験系を含む非常に多くの系に適用され ている[3, 8, 9, 10] .DFC法の難点は,制御システムが時間遅れ系となるためシステ ムの次元が増え,その結果,安定性の解析的な補償を得るための線形安定性解析 が大変困難な状況となることが挙げられる.さらに,DFC法には奇数制約とい う名で知られる原理的な適用限界が存在することも知られている[11, 12] .本稿の目 的は,奇数制約を回避するための方法とその拡張について述べることである.

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本稿は構成は以下の通りである.第2節では,Delayed Feedback Control法 について詳しく述べ,特にDelayed Feedback Control法の欠点として知られる 奇数制約について紹介する.第3節では,Delayed Feedback Control法におけ る奇数制約を回避するための方法としてPrediction-based Feedback法を,その

後第4節ではその拡張法について述べる.最後に第5節でまとめを行う.

2. Delayed Feedback Control 法

本節では,Delayed Feedback Control法(DFC法)についての説明を行う[7]

. 以下の非線形写像fRnRnと制御項で記述されるn変数離散システムを考え る: xk+1=(f xk)+Kxkτxk), (1) ただし,K Rn×n はゲイン行列,k Zは時間を表す変数,τ Zは遅れ時間,そ して,xkRnは時刻kにおける状態変数を表す.(1)式におけるKxkτxk)の 項が制御項であり,制御項が遅れを含んでいることから本制御はDelayed Feed-back Control法と呼ばれている.Kが0行列のとき(つまり制御入力が印可され ていない場合)には,このシステムにはカオスアトラクタが存在し,適当な初期 条件を用いてこのシステムの時間発展を計算すると軌道はカオスになる状況を考 える.そのカオスアトラクタの中に周期τの不安定周期軌道が埋め込まれている とすると,Kの値を適切な値にすることでτ周期の不安定周期軌道が安定化され カオス軌道が周期軌道へ制御されることとなる.これがDFC法でカオスが制御 される基本なメカニズムである.直感的には制御項がバネの復元力の形で入って いるので,xkτxkが0になるような力が働くと考えられる.xkτxk=0を満た すことは,軌道が周期τの軌道であることの条件そのものである. ここで,具体的な例を挙げてDFC法について考察する.ロジスティック写像 に存在する不安定解をDFC法により安定化させる問題を考える.ロジスティッ ク写像は以下で記述される:

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xk+1 = ax(1−k xk), (2) ただし,aはコントロールパラメタである.ロジスティック写像はa>3.5699 でカオスアトラクタが存在し,適当な初期条件を用いて軌道を計算するとカオス になることが知られている.以降,カオスを制御する問題を考えたいので,カオ ス軌道が存在するパラメタa=3.7を考える.カオスアトラクタに埋め込まれてい る不安定解を安定化するために以下の制御系を考える: xk+1=axk 1−xk)+Kxkτxk). (3) K=0のとき本システム(式(2))は2つの不安定固定点xf1, xf2が存在する: xf1= a −1 a , xf2= 0. これら2つの固定点の安定性を議論するために,システム(式(2))をこれらの固 定点の回りで線形化する: δxi k+1= (a−2axfiδx i k, (4) ただし,δxikxkxfi,(i=1, 2)である.2つの固定点の安定性は後ほど議論する. 不安定な固定点xfi,(i=1, 2)は周期1の周期軌道であると考えれば良いので,安 定化するためには遅れ時間τ=1をとればよいことになる.つまり,制御入力と してKxk−1−xk)を印可することになり,考える制御システムは xk+1 = ax(1−k xk)+Kxk−1−xk), (5) となる.このシステムは,wkxk−1と変数変換することで以下のように遅れの含 まれないシステムへと置き換えることができる. xk+1 = ax(1−k xk)+Kwkxk), (6) wk+1 = xk. (7) 遅れ項は無くなったがシステムの次元が1次元から2次元へと増えていることが 分かる.一般的に,遅れ項の存在はシステムの次元を増やす.さらに,遅れ時間

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が大きくなるにつれてシステムの次元がそれに伴い増えていき,長い遅れ時間を 持つシステムは本質的に大自由度となる.このことが遅れの含まれたシステムの 数学解析を難しくしている要因である.システム(式(6),(7))における固定点xfi, (i=1, 2)のまわりでの線形化方程式は以下のように書くことが出来る: δxi k+1 = a−2axfiKK δx i k (8) δwi k+1   1  0 δw i k ただし,δxikxkxfi, δw i kwkxfi,(i=1, 2)である. まず,固定点xf1をDFC法により安定化させる.xf1の安定性はシステム(式 (2))におけるフロケ指数(式(4)の係数a−2axf1)を求めればよく,そのフロケ 指数は2−aである.本稿では,a=3.7を課しているのでフロケ指数2−aは ­1 以下となりxf1は振動不安定である.不安定な固定点xf1をDFC法(式(5))で安 定化するのがここでの問題である.制御システムを固定点xf1の回りで線形化し た線形化方程式における線形化作用素(線形化方程式(式(8))の係数行列)の固 有値において,それら全ての固有値の絶対値が1より小さくなるという安定化条 件より,­1<K<(3−a)/2を満たすKによってxf1を安定化できることが分か る.一般的に線形安定性解析はJuryの安定判別法を用いると比較的簡単に解く ことができる[13]. 次に,固定点xf2=0をDFC法により安定化する問題を考える.結論から述べ ると以下の奇数制約にxf2が該当するためxf2をDFC法により安定化することは できない. 定理(奇数制約[11, 12]) 安定化したい不安定周期軌道が1より大きい実のフロケ乗数(線形化作用素の 固有値)を奇数個持つとき,その軌道はDFC法では安定化できない. 以下,xf2の安定性解析を行い,奇数制約に該当することを確かめる.固定点xf2 =0の回りでの線形化方程式(式(4))よりフロケ乗数はaとなる.いまa>3.7を 考えているので固定点xf2は1以上の実フロケ乗数を奇数個持つこととなり奇数

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制約を満たすので,xf2をDFC法で安定化することができない.実際,システム (式(6),(7))よりxf2の回りで線形化作用素は aKK 1  0 となる.a>3.7を課しているため,この作用素における2つの固有値のうち少な くとも1つは必ず1より大きくなることがJuryの安定判別法により簡単に分か る.つまり,どのようなゲインKを選んでも固定点xf2=0を安定化することは出 来ない.このように,DFC法には奇数制約という原理的な制約のため適用範囲 が制限される.

3. Prediction-based Feedback Control 法

ここでは,前章で述べた奇数制約を回避するための1つの試みである未来の情

報を用いたフィードバック制御法(Prediction-based Feedback Control法(PFC 法))について説明する[14, 15, 16] .基本的な制御のアイディアはDFC法と同じ不安 定周期軌道の安定化である.周期τの不安定周期軌道を安定化するために,PFC 法では制御入力としてτだけ未来の状態と,現在の状態との差を与える:ukKxkτxk), ただし,xkRnは時刻kにおける状態ベクトル,Kはゲイン行列で ある.xkτは制御入力が印可されていないシステムにおける時刻k τにおける 状態ベクトルであることに注意しよう.つまり,PFC法は以下で記述される制御 系である: xk+1 = fxk)+Kxk+1−xk) (9) DFC法との比較においてPFC法の利点は何と言っても安定性解析が容易である ことである.DFC法では制御入力が入ったシステムは入力が入っていないシス テムよりも次元が増えることに起因して安定性解析が極端に難しくなるが,PFC 法は制御入力が入ったシステムも入力が入っていないシステムと同じ次元(ただ し非線形性は増す)なので安定性解析の難しさはさほど変わらない.安定性解析

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が可能となると,適切なゲイン定数の設計などが数学的に可能となり制御システ ムを組み立てやすくなる.ここでは離散時間システムを例にとって説明したが PFC法の連続時間システムへの適用はすでに先行研究が存在する[17]. 次に,具体的な例を挙げてPFC法について考察する.前節で考えたシステム と同じ1次元離散システムを考え,不安定固定点xf1, xf2をPFC法により安定化 させる問題を考える: xk+1= ax(1−k xk)+Kxk+1−xk), (10) ただし,aはコントロールパラメタである.2つの固定点xfi,(i=1, 2)の周りでの 線形化方程式は以下となる: δxi k+1= (­2a(1+KxfiaaKKδx i k, (11) ただし,δxkixkxfi. DFC法とは異なり,制御入力が含まれたシステムの次元は 1のままなので線形安定性解析が容易に可能となる.結果として以下の不等式を 満たすKを選ぶことで2つ全ての不安定固定点を安定化することができる: ¦(­2a(1+KxfiaaKK)¦<1. (12) ここで注意すべきは,DFC法ではxf2=0の不安定固定点を安定化することはで きなかったが,PFC法では安定化が可能であることである.実際,xf2=0を安定 化させたければ不等式(12)より(a+1)/(1−a)<K<­1となるKを選べば安定 化出来ることが簡単な計算で分かる. 以上で述べたように,PFC法は線形安定性解析がDFC法に比べて容易である こと,奇数制約を回避できることなど多くのメリットを持つ.しかしながら,PFC 法は制御入力に未来の状態変数xkτが含まれているが,一般的なカオス力学系が 持つ予想不可能性のため,正確な未来の状態変数の値を知ることは原理的に不可 能である.つまり,上で述べた制御システムを構築するためには正確な未来を予 測するという神の視点が必要となる. この困難を解消するための1つの試みを以下で紹介する.この試みのアイディ アは,将来の変数値の正確な値ではなく,何らかの時系列解析から得られる予測

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された将来の変数値を用いるよう,制御スキームを改良することである.つまり, 制御入力として, ukKxpkτxk), ただし,xpkτはある種の時系列解析から予測される将来の時刻kτにおける状 態ベクトルである.従来のPFC法との違いは,制御入力において用いられる将 来の状態変数がxkτではなくxpkτとなっているところである.このようなPFC 法の改良を行うために重要なことは時系列解析を用いて如何に将来の予測を適切 に行うかである.将来の予測のための時系列解析手法は非常に多く存在する が[18, 19],本紀要では,もっとも基礎的な手法である類似法を用いることとする[20].

4. 予測値を用いた PFC 法

以下では,PFC法を用いるためには完全な将来の予想が必要不可欠であるとい う欠点を補う1つの試みについて説明する[16].以下の制御入力ukが印可された 非線形システムを考える: xk+1 = fxk, uk). (13) カオスアトラクタに埋め込まれた周期τの不安定周期軌道を安定化するために以 下の制御入力を印可する: ukKxpkτxk), ただし,Kはゲイン行列であり,xpkτはシステム(式(13))において制御入力が 含まれていない場合の動学(xk+1=fxk, 0))において時間τだけ将来の状態ベク トルの予測値である.制御で用いる将来の値を予測値に置き換えることで完全な 将来の値が得られなくても使えるのでPFC法の欠点が回避されたと言える.さ らに,本制御法は時系列データのみを用いているので,実験系から時系列データ さえ得られれば本制御法を実験系へも適用できることになる.今後,この方法を 予測値を用いたPFC法と呼ぶことにする.制御入力がukKxkτxk)のとき本

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制御スキームはDFC法に対応し[7] ,制御入力がukKxkτxk)のときには従来 のPFC法に対応する[14, 15]. 予測値を用いたPFC法を用いるために,我々は将来の予測を行う必要がある. ここでは非線形時系列解析の一つである類推法[20] を用いた将来の予測の方法を紹 介する.類推法とは,現在の状態に近い過去の状態における時間発展を現在から 将来の時間発展の近似値として見なす手法である.説明のために,制御入力が印 可されていないシステムに従う軌道をxksystemと表す,つまりxsystem=fxsystem, 0)

が成り立つとする.そして,用いる時系列データの時系列をxdata と表し,xdata が 生成されるシステムをxdata =(f xdata , 0)とする.さらに,制御が印可されていな いシステムに従う軌道xksystemのτだけ将来の予測値をxkpτと定義する.初めに, 時系列データ生成のためのシステムxdata=fxdata, 0)(0 ktp)から時系列データ xdata を得る.パラメタtpは時系列の長さを表す.ここで,時系列データの初期値 xdata は,システムにおける変数の初期条件x0system と同じである必要はないことに 注意しよう.目的は,時系列データxdata,(0 ktp)のみを用いてシステムxsystem

fxsystem, 0)におけるxsystemのτだけ将来の値xsystemを予測することである.

次に,制御入力が印可されたシステム(式(13))における時刻kの状態変数xk にユークリッド距離の観点から最も近い時系列データxdata を見つける.最後に, 制御入力が印可されていないシステムにおけるτだけ将来の値xsystemとして,xk*τ を用いる.つまり,予測された将来の値xkpτとしてxk*τを使うので,制御入力 としてはukKxkpτxk)=Kxk*τxk)を用いることになる. ここで例としてロジスティック写像xk+1=3.7x(1−k xk)を用いて類推法がどれ ほど正確に予測値が求まるかを明らかにする.時系列データxdata,(0 ktp)か ら現在の状態x0systemからτだけ将来の状態xsystemを予測する. 表1は,時系列データを得るためのシステムの初期条件xdata ,推定したいシス テムの現在の値x0system ,そして推定値xpと正確な将来の値xsystem との誤差を記し ている.表から明らかなように,用いる時系列データの長さtpが長くなればなる ほど予測が良くなっていることが分かる.さらに,より遠い将来の値を予測する ためにも,より長い時系列が必要になることも見てとれる. ここでは,予測のための非線形時系列解析として最も基本的な類推法を用いた k+1 k k k k+1 k k+1 k k 0 k k+1 k k kτ k* kτ data data data k τ 0 τ

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が,より進んだ解析法(例えば,radial basis function[19] )を使えばより良い予測 が出来ると思われる. 4‒1. 応用 ここで,前節で紹介した予測値を用いたPFC法の適用例としてロジスティッ ク写像(a=3.7)の不安定解を安定化する問題を考える. xk+1 = 3.7x(1−k xk). (14) 本システムに対して適当な初期条件を用いて計算された軌道xkは図1で示されて おり,明らかにカオス軌道であることが見てとれる. 前節で説明した予測値を用いたPFC法を用いてシステム(式(14))のカオス 的軌道を周期的な振動へと制御する.制御システムは以下で表される: xk+1= 3.7xk 1−xk)+Kxpkτxk), 表 1: 推定値xpと正確な将来の値systemとの誤差に対する時系列の長さtp依存性.時系列 データを得るためのシステムの初期条件x0 data と推定したいシステムの現在の値x0 system も記 載.表より,時系列の長さtpが長くなればなるほどより良い推定が可能となり,予測する 将来τが遠ければ遠いほど予測が困難となることも分かる. tp x0 data x 0 system 将来の正確な値と推 定された値との誤差 τ=1 1000 0.31 0.21 0.001 100 0.31 0.21 0.006 50 0.31 0.21 0.045 10 0.31 0.21 0.241 τ=5 1000 0.41 0.11 0.006 100 0.41 0.11 0.081 50 0.41 0.11 0.142 10 0.41 0.11 0.957 τ=10 10000 0.41 0.11 0.007 1000 0.41 0.11 0.187 100 0.41 0.11 0.663

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ただし,xpkτは制御入力が含まれていないシステム(式(14))における変数の時 刻kτだけ将来の予測値であり,Kはゲイン定数である.制御入力は,安定化 したいターゲット軌道に軌道が近づいたときに印可させるのが制御コストの観点 から望ましいので,ここでは以下の制御スキームを用いる: ukKxpkτxk), if ¦xkτxk¦ 0.1, (15) 0, otherwise. ここでは,ロジスティック写像の固定点xfp=(a−1)/a=0.7297 を安定化させ る場合を考える.不等式(12)を満たすようにK=­0.5を選ぶことにする.ただ し今の場合,不等式(12)を導出した際に用いた制御入力Kxkτxk)ではなく Kxpkτxk)を用いているため,不等式(12)を満たすKの選択は安定化のため の必要条件でも十分条件でもない.しかしながら,xpkτの推定値が十分な精度で 得られている場合は,不等式(12)を満たすKの値は良い選択を与えると想像さ れる. 図2(左)は制御された軌道を表している.状態変数の推定値xpを得るために 使うデータの長さtpは1000を用いている.この場合,制御された軌道は時間的 に変化しない静的な軌道となっている.図2(右)は制御された軌道xkの分布関 数であり,固定点xfp=0.7297 の周りで鋭いピークを持っている.これらの図 より,制御された軌道は固定点に収束しており,制御されたシステムのアトラク 図 1:(左)制御されていない軌道xkの時間発展.(右)制御されていない軌道の分布関数. 0 0.2 0.4 0.6 0.8 1 0 200 400 600 800 1000 xk k 0 5 10 15 20 0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0.7 0.8 0.9 1 distribution function of x, P(x) x

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タがカオスから固定点へと変化していることが見てとれる. 図3(左)は推定に用いるデータ数tp=50における制御された軌道の時間発展 を表している.この場合,制御された軌道はカオス的な振動となっていることが 見てとれる.実際,図3(右)にあるように,xkの分布関数は固定点xfp=0.7297 の周りで分布しており,軌道がカオス的であることを示している.しかしなが ら,この分布の広がりは制御なしの軌道の分布(図1(右))の広がりに比べて非 常に狭く,軌道のカオス性が低いことを示唆している.この意味では,tp=50を 用いた制御も成功であるといえる. 図4(左)は推定に用いるデータ数tp=10における制御された軌道の時間発展 0 0.2 0.4 0.6 0.8 1 0 20 40 60 80 100 xk k 0 100 200 300 400 500 0 0.2 0.4 0.6 0.8 1 distribution function of x, P(x) x 図 2:(左)ゲイン定数K=­0.5,推定に用いる時系列の長さtp=1000を用いた制御された 軌道xkの時間発展.(右)制御された軌道の分布関数. 図 3:(左)ゲイン定数K=­0.5,推定に用いる時系列の長さtp=50を用いた制御された軌 道xkの時間発展.(右)制御された軌道の分布関数. 0 0.2 0.4 0.6 0.8 1 0 100 200 300 400 500 xk k 0 10 20 30 40 50 0 0.2 0.4 0.6 0.8 1 distribution function of x, P(x) x

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を表しており,制御された軌道はカオス的に振動していることが分かる.図4(右) で示されている制御された軌道の分布関数は制御されていない軌道の分布関数と 同程度の広がりを持っており,制御入力が印可されている軌道のカオス性が強い ことを示唆している.これより不安定な固定点xfpが安定化されておらず制御が 失敗したと考えられる. ここで,不安定固定点を安定化するためにどれくらい長い時系列が必要かを議 論する.表2は,時系列の長さとしてtpを使った場合の制御の成功率の関係を表 している.制御成功の定義は,制御入力が印可しているシステムにおける軌道の 分散が0.01以下のこととする.ランダムに選ばれた10個の異なる初期条件から 計算された10個の異なる時系列を用いて,そのうち何回制御が成功したかで制 御の成功率(パーセンテージ)を計算する.表2から,tp>100の場合制御は完全 表 2: 時系列の長さtpを使った場合の制御の成功率.制御成功は, 制御された軌道の分布の分散が0.01以下のときと定義する. 時系列の長さtp 制御成功率(%) 1000 100% 500 100% 100 100% 50 60% 20 30% 10 0% 図 4:(左)ゲイン定数K=­0.5,推定に用いる時系列の長さtp=10を用いた制御された軌 道xkの時間発展.(右)制御された軌道の分布関数. 0 0.2 0.4 0.6 0.8 1 0 200 400 600 800 1000 xk k 0 5 10 15 20 0 0.2 0.4 0.6 0.8 1 distribution function of x, P(x) x

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に成功していることが分かる.制御が印可されていないシステムの相関時間は約 8であるので,相関時間よりは十分長い時系列を使うことで制御が成功すると考 えられる. 本稿では,離散時間力学系について述べたが,本方法の連続力学系や,より大 自由度な力学系への拡張は容易に行うことができる.

5. おわりに

本稿では,カオス振動を周期振動へと制御するための制御方法として有名な Delayed Feedback Control法(DFC法)とその制御法の欠点である奇数制約, そしてその奇数制約を回避するための方法としてPrediction-based Feedback Control法(PFC法)とその拡張の解説を行った.DFC法の欠点である奇数制約 の回避のための拡張としては,PFC法以外にも多くの方法が提案されている.例 えば,ある種の対称性を持つカオス力学系においてその対称性を加味したフィー ドバックを印可することで奇数制約を克服できることが知られている[21, 22].他に も,DFC法のゲイン定数を複素数に拡張し制御項に自由度を持たせることで奇 数制約を回避できることも最近明らかとなった[23] .

本稿ではDelayed Feedback Control法(DFC法)の修正として主に未来の情

報を用いた制御法(PFC法)を取り上げたが,この未来の情報を取り入れるとい う考え方は,制御のみならず数理モデルの分野でも大変重要であると考えている. 例えば,投資などの行動を決定する際はまさに過去の経験と未来の期待に基づい て行われると考えるのは極めて自然である.つまり,投資などにおける人の意思 決定を数理モデル化する場合には,過去の情報と未来の情報を含む必要があり,こ れは本稿で述べたPFC法とDFC法が合わさった方程式xk+1=fxk, xkτ1, xkτ2) で表される.このような方程式をいかに解くかは将来の期待の項,つまりxkτ2の 項をどのように処理するか次第であり,本稿で述べた方法がその一つの解法を与 えていると思われる.今後,人の意思決定モデルの発展のため,より良い解法の 開発が望まれる.

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参照

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