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巻頭言 河川を基軸とした生態系ネットワークの構築

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Academic year: 2021

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(1)伊東啓太郎・大野良徳. 景観生態学 25(1)1 - 3.2020 特集 河川を基軸とした生態系ネットワークの構築. 技術情報. 巻頭言 河川を基軸とした生態系ネットワークの構築 伊東 啓太郎 1*・大野 良徳 2 1. 九州工業大学 大学院工学研究院 〒 804-0032 北九州市戸畑区仙水町 1-1 2. 国土交通省遠賀川河川事務所 〒 822-0013 直方市戸畑区溝掘 1-1-1 Ecological networks based on river basin Keitaro Ito1* and Yoshinori Ono2. 1. Faculty of Civil Engineering, Kyushu Institute of Technology, 1-1 Tobata, Kitakyushu, 804-8550 Japan. 2. Ongagawa River Branch, Ministry of Land, Infrastructure, Transport and Tourism, 1-1-1 Mizohori, Nogata, Fukuoka 822-0013, Japan. 私(伊東)が河川のランドスケープに関わる計画・. が重要であるという.. 設計の仕事に携わるときに,手放せない 2 冊の本が. このように河川は,科学的・工学的論拠に基づい. ある.関正和さんの「大地の川」と中村太士さんの「流. た治水・生態学的機能の保全・再生を含む河川管理. 域一貫」である.関(1994)および中村(1999)は,. とともに,地域コミュニティ形成の場としても活用. 川が山から海までを結ぶ「回廊」であることを認識. され,地域のグリーンインフラとして重要な役割を. し,回廊が内包する物質の移動路としての機能を確. 果たしている.国土交通省では,近年,グリーンイ. 保することが大切であるという.例えば,鮎や鮭な. ンフラを社会資本整備や土地利用等のハード・ソフ. どの魚をはじめとして,さまざまな生物が遡上し,. ト両面において,自然環境が有する多様な機能(生. 降海する.それらの生物の自由な移動を,堰や落差. 物の生息の場の提供,良好な景観形成,気温上昇の. 工などによって阻害しないように,かつ,つねに豊. 抑制等)を活用し,持続可能で魅力ある国づくりや. かで清らかな水が流れるように配慮する必要がある. 地域づくりを進めるものと定義しており,河川を身. (関 1994).中村(1999)は,景観生態学からの川づ. 近な自然環境の質を高めながら活用していくことが. くりのアプローチの重要性,可能性に言及するとと. 求められている.. もに,流域の川づくりや森づくりは,地域づくりを. 福岡県の一級河川である遠賀川は,古くから続く. 通してはじめて実現できるものである,と述べてい. 稲作文化や石炭産業によって,わが国の近代化や戦. る.また,島谷(2001)は,河川における健全な生. 後復興に大きな役割を果たすなど,人々の生活や文. 態系とは何か?という議論のなかで,国内外の複数. 化,経済と深く結びついてきた河川である.過去に. の事例を紹介しながら,自然再生のための目標設定. おいては石炭の選別に利用した水の排水や高度成長. とアプローチ手法の重要性を論じている.さらに中. 期の生活排水の影響を受けて遠賀川の水質は著しく. 村(1999)は,生物多様性の保全という観点のみでは,. 悪化したが近年は汚水処理の進捗等により改善して. 地域で発生している環境問題を解決することはでき. きている.また鉱害復旧等による護岸整備により河. ず,地域からボトムアップし,政策的・技術的提案. 岸の直線化や高水敷の乾燥化が進み,高水敷は運動. や改良のできる新しいアプローチが必要である,と. 広場や採草地とし高度に利用されており,ワンドや. 述べる.また,鎌田(2001)は,河川管理を行って. たまり,砂州,ヨシ原等の湿地環境が減少している.. ゆく上で,必要な調査や研究の諸過程をなるべく多. また,農業用水や水道用水の取水のために設置され. くの異なった立場の人が共有できるようにすること. た数多くの堰による湛水域のため,瀬や淵は減少し. * 連絡先:[email protected]. ている.. 受付:2020 年 1 月 27 日/受理:2020 年 3 月 18 日. このため,遠賀川では,2010 年から継続して流域. -1-.

(2) 巻頭言 河川を基軸とした生態系ネットワークの構築. 全体のエコロジカルネットワーク(生態系ネット. 人間形成も含め点から線,線から面,さらには流域. ワーク)再生事業を推進してきた.本計画は,自然. 全体への展開をにらんだネットワーク形成を推進し. 再生事業として位置づけられ,エコロジカルネット. ているところである.. ワーク検討会(委員会)によって,国,自治体,大学,. 本特集では,これまでの 10 年の取り組みから,国. 専門家,コンサルタント,地域の協働で継続的に議. (河川管理),大学(研究,提言),専門家・コンサル. 論と実践がなされてきた.生態系ネットワークの概. タント(生物,歴史等についての議論・提案),地域. 念は,「21 世紀の国土のグランドデザイン(1998 年. (個々の自然再生事業のモニタリング),自然再生事. 3 月)」で位置づけられ,「生物多様性国家戦略 2012-. 業の成果と今後の課題について整理し,同様の課題. 2020(2012 年 9 月)」や「国土形成計画(全国計画). を持っている地域,大学,研究機関とプロセスや協. 2015 年 8 月」において,生態系ネットワーク形成の. 働の課題を共有しながら,議論を行いたい.いま,. 重要性や関係機関における連携の推進が位置づけら. 私たちは再び,関正和さんや中村太士さんが示され. れている.. た河川の目指す姿を,技術者・研究者としてどこま. また,エコロジカルネットワーク構想が計画され. で具体的にデザインし,地域に調和するかたちで実. る以前より, 「多自然川づくり」を基軸とした河川の. 装できるかが問われているのだと思う.そうするこ. 整備が進められており,遠賀川河口堰における多自. とによってはじめて,関正和さんのいう山紫水明の. 然魚道の整備(伊東ほか 2015, 2020),中島地区にお. 美しいふるさとを少しでもよみがえらせることがで. け る 自 然 再 生( 眞 間 ほ か 2011, 2013; 福 原 ほ か. きるのではないか.本稿の執筆にあたっては,国土. 2014),御徳地区における排水樋管の整備による水田. 交通省遠賀川河川事務所の技術者のみなさん,プロ. との連続性を確保する取り組み(鬼倉ほか 2020)な. ジェクトで協働いただいた建設コンサルタントのみ. ど,川の縦と横の繋がりについての検討・計画・実. なさん,河川計画・設計における景観生態学からの. 施が行われてきた.しかし多様な生物が生息・生育. アプローチについての議論で鎌田磨人氏,本特集の. すると同時に,地域と調和を保った環境を再生する. 構成・編集にあたっては,真鍋徹氏に多大なサポー. には,多くの課題が残されている.すなわち,流域. トをいただいた.ここに厚く御礼申し上げる.. レベルでの生態系ネットワーク形成を促進するため には,これまで流域の各地で個々に行われてきた森. 引用文献. 林保全や河川の自然再生,環境学習などの取組を各 主体が連携と協働により取組んでいくことが必要で. 福原達人・江藤秀和・今徳美里・郭晃成.2014.遠. ある.. 賀川河川敷の自然再生事業造成裸地における初期. 実際,遠賀川を所管する遠賀川河川事務所では,. 植生遷移.福岡教育大学紀要 63: 99-108.. 流域内で河川愛護活動等を行っている約 80 の団体と. 伊東啓太郎・藤田直子・真鍋徹・須藤朋美・花田有. 河川管理者が協働して活動する基盤が確立してい. 里絵・板垣早香.2015.北部九州における自然景観・. る.2014 年 1 月に開催された「第 3 回 I Love 遠賀川. 文化景観.景観生態学 20: 149-154.. 流域リーダーサミット」においては,福岡県知事,. 伊東啓太郎・須藤朋美・長谷川逸人・石松一仁・塩. 流域 22 市町村長が一堂に会し,遠賀川の豊かな水の. 手健斗・光橋尚司・大野良徳・深浦貴之・嶋田智行・. 流れやその生態系を守りより美しい川として次世代. 和泉大作・豊國法文.2020.河川におけるグリー. に引き継ぐことを宣言したことにより,河川管理者,. ンインフラの計画と設計―遠賀川多自然魚道公園. 自治体,河川活動団体,流域住民等が計画段階から. の設計プロセス―.景観生態学 25: 5-12.. 維持管理,利活用まで地域住民とともに歩む歴史を. 鎌田磨人.2001.「学際研究」が持つ意味―河川工学. 築きはじめている.清掃・環境保全活動,子供たち. と の 共 同 研 究 を 通 し て ―. 日 本 生 態 学 会 誌 51:. との環境学習,体験学習などの継続的な取り組みは. 261-267. もとより,流域の住民団体が河川空間に集う流域. 眞間修一・相崎優子・山下健作・松永泰裕・山口嘉隆・. フェスティバルの取り組みや,日常的な憩いの場と. 平島征治・柴田みゆき.2011.遠賀川中島自然再. しての河川空間を積極的に利活用しまちづくりに繋. 生における湿地再生と地域参加.河川技術論文集. げようとする新たな取り組みも始まったところであ. 17: 529-534.. り,様々な機会をとおして,生態系だけではなく,. -2-. 眞間修一・遠山貴之・山下健作・石坪昭二・原田佐.

(3) 伊東啓太郎・大野良徳. 良子・梅田真吾・柴田みゆき.2013.遠賀川中島 自然再生のモニタリング成果と順応的管理の試 案.河川技術論文集 19: 423-428. 中村太士.1999.流域一貫 森と川と人のつながり を求めて.138.築地書館,東京. 鬼倉徳雄・井原高志・酒井奈美・江藤孝.2020.堤 防の内と外をつなぐ:遠賀川エコネットの取り組 み.景観生態学 25: 25-29. 関正和.1994.大地の川.247.草思社,東京. 島谷幸宏.2001.健全な生態系とは何か?その評価 と復元.応用生態工学 4(1): 19-25.. -3-.

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参照

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