織
著者 遠藤 由隆
雑誌名 同志社政策科学研究
巻 18
号 1
ページ 27‑37
発行年 2016‑09‑01
権利 同志社大学政策学会
URL http://doi.org/10.14988/pa.2017.0000014674
滋賀県野洲市祇王地区における協議会型住民自治組織
遠 藤 由 隆
概 要
いわゆる「平成の大合併」を契機に、各地 で地縁型住民自治組織、ボランティア団体、
NPO、学校、PTA、企業等の多様な主体による、
地域課題の解決のための組織として「協議会型 住民自治組織」が設立されている。全国的な動 向としては、都市自治体のおよそ半数で設立さ れており、そのうち、条例・要綱に基づいて設 置されているものが最も多く、今後も増加する 傾向にあることが推定できる。しかし、そのほ とんどは行政主導によるものである。このこと から、本稿では、住民主導による協議会づくり をしている滋賀県野洲市祇王学区の協議会型住 民自治組織を事例に調査し、協議会設立後の運 営と変化を見てその成果を探った。
当学区の組織が住民主導でできた要因は、「①
「社会教育センター」を拠点にしたこと、②主に 社会教育のリーダーとして自治会長・自治連合 会が主体的に活動をしてきたこと、③そのセン ターの管理が「公設民営方式」(後に、コミュニ ティセンター「指定管理者制度」)であったこと、
④センター事務局による各種団体へのサポート がしっかり機能したこと、⑤そうした活動が地 域の凝集性を高めたこと、⑥その歴史が約20年 間続いてきたこと、⑦さらに、それを担ってきた 自治会長経験者有志がその活動の課題を抽出し、
自ら新しい仕組みづくりに着手したこと」があ げられる。
また、この組織の仕組みの特徴・課題を明ら かにし、行政主導の協議会づくりとの比較を試 みた。その結果明らかとなったのは、「①地域 における協議会が住民にとって必要か否かが
「住民の自治」の核心部分であり、②したがって、
住民の必要性と住民の自治に基づくことが制度
づくりの根源であるということ、③翻って、協 議会の必要性を明確にできるのは、住民自身の 必要性に裏打ちされた住民主導による協議会づ くりにおいてであり、この方式が組織において も活動においても機能的であり効果的であると いう優位性をもつ」ということである。さらに、
「④協議会の必要性等を明らかにせず、行政主 導による条例等に位置づけされた協議会づくり を進めれば、条例等による「住民への統制と負 担(動員)」につながり、⑤協議会の運営・活 動内容は行政を代替・補完する「下請け」的な ものになり、⑥組織を構成する既存各種団体の 弱体化や消滅を招き、⑦ひいては「地域力」の 脆弱化をもたらすことになりかねない」ことな どを示唆できた。
今後さらに考察を深め、住民主導か行政主導 かということを二者択一的にとらえず、住民の 自治力を生かした地域の再生・発展に向けた仕 組みとして実践的にアプローチしていくための 研究を進めていきたい。
1.はじめに
1993年6月、地方分権の推進に関する国会 決議を契機とした一連の分権改革のなかで、市 町村合併がクローズアップされ、1999年7月 に成立した地方分権一括法と合併特例法の改正 をきっかけに、いわゆる「平成の大合併」がは じまった。合併によって新しく誕生した自治体 は、その規模が拡大し、いかに住民の声を反映 させた施策を講じるかなどが課題となった。こ のような事態を背景に、第27次地方制度調査 会「今後の地方自治制度のあり方に関する答申」
(2003年11月)に基づき、2004年に日本では
これら自治体独自に規定している協議会に比 べ、地方自治法で規定される地域自治区の地域 協議会は、15団体(6.1%)と少なく、平成27 年4月1日現在でも同数5である。以前からみ れば、この制度を採用する自治体は減少してお り、増加する気配はないように思われる。これ は、前者(条例等)の優位性として、「①住民 構成や歴史性を考慮した、地域特性に応じた仕 組みを構築できること、②区や自治会等従来の 住民自治の仕組みを包括的な地域自治組織に移 行・発展させるプロセスを柔軟に設計できるこ と、③包括交付金や地域公共施設の指定管理者 制度の適用、地域担当職員制度など住民自治を 支援する様々な制度をシームレスに構築できる こと等」6と指摘されている。
これまで、全国レベルでの協議会の設立状況、
設立時期、設立目的、法的性格の動向をみてき た。特に合併以降、「身近な生活課題を地域住 民自らが解決する活動を活発にするため」に条 例による協議会の設置が相次ぎ、今後もそれが 増加する傾向にあるものと推測できる。このよ うな背景もあって、協議会に関する多数の研究 がなされているが、そのほとんどは、行政主導 の、条例等による協議会を採用している自治体 の検証・成果に関するものである。その行政主 導の制度基盤づくりに関して、「包括的・総合 的な地域自治組織が自然発生的に叢生すること は期待できないし、そのような例はほとんどな い。各地で試行されているこのような仕組み は、いずれも「行政主導」(行政による働きかけ)
で実現している。このことは、しかし、住民が 受け身であるということではなく、行政が協働 によってしか地域の再生、活性化、生き残りは 不可能であることを感知し、住民に近寄らざる を得なくなったことの反映であると捉える方が じめて自治体内に自治組織を設置できる制度が
法(地方自治法202条の4「地域自治区の設置」)
で定められた。これ以降、全国的に小学校区や 旧町・村単位に「地域自治組織」(第27次地方 制度調査会答申で使われた語句)の設立が相次 ぎ、現在では、合併していない自治体にも波及 し、新しい地域自治の仕組みが構築されようと している。その動向を把握するのは困難であっ たが、2014年に「日本都市センター」が出版 した『地域コミュニティと行政の新しい関係づ くり〜全国812都市自治体へのアンケート調査 結果と取組事例から〜1』(以下、「全国アンケー ト調査」という)が、全国の実情を明らかにす ることになった。
さて、この全国アンケート調査で新しい地域 自治の担い手とされる協議会型住民自治組織の 全国的な動向をみると、設立状況ではこうした
「協議会がある」と回答したのは回答507団体 のうち248団体(48.9%)で、およそ半数の都 市自治体に設立され、その設立時期は2005年 以降に急増しており、平成の大合併と法改正と の関連がうかがえる2。
設立目的は、選択肢からあてはまるもの全て を選んだ結果、「身近な生活課題を地域住民自 らが解決する活動を活発にするため」(80.2%)
が最も多く、次いで、「地縁型住民自治組織 の活動を補完し、地域の活性化を図るため」
(57.7%)、「地域の多様な意見を集約し、市政 に反映させるため」(42.7%)と続く3。また、
協議会の法的性格について、選択肢からあては まるもの全てを選んだ結果、平成25年4月1 日現在では、「要綱に基づいていて設置されて いる」が最も多く71団体(28.6%)で、「条例 に基づいている」の39団体(15.7%)とあわ せて、110団体(44.3%)である4。
1 調査対象:全国812都市自治体(789市、23特別区)、調査期間:2013年11月19 日〜1月18日、調査時点:2013年4月1日、調査方法: 紙媒体発送、当センターホームページから書式をダウンロードし、電子メールで回答、回収率:507市区(62.4%)、都市分類ごとの回収率は、
一般市421市(61.3%)、特例市28(70.0%)、中核市82(76.2%)、政令指定都市15(75.0%)、特別区11(47.8%)である。なお、この 調査による用語の定義は、自治会・町内会などの比較的狭い区域で住民に最も近い立場で住民相互の親陸や地域課題に取り組むために 組織された任意の団体及びその連合会等を「地縁型住民自治組織」(以下、「自治会」、またその連合組織を「自治連合会」という場合も ある)とし、地縁型住民自治組織、ボランティア団体、NPO、学校、PTA、企業等の多様な主体による、地域課題の解決のための組織を「協 議会型住民自治組織」(以下、「協議会」という場合もある)としている。本稿もこの定義に合わせ、題名にもそれを使用している。
2 同書、237頁。アンケート回答(248団体)による設立時期は、1969年以前:3.2%、1970年〜1979年:9.3%、1980年〜1989年:8.5%、
1990年〜1999年:4.0%、2000年〜2004年:8.9%、2005年〜2009年:30.2%、2010年以降: 23.4%、無回答:12.5%である。
3 同書、230頁。
4 同書、228頁。
5 総務省〈http://www.soumu.go.jp/gapei/sechijyokyo01.html〉を参照(最終アクセス2016年3月30日)。
6 直田春夫・辻上浩司「伊賀市と名張市の地域自治システム」中川幾郎編『コミュニティ再生のための 地域自治のしくみと実践』学芸出
版社、2011年、108頁。
2.「妓王10まちづくり推進協議会」の成立 2. 1 祇王学区の概要
祇王学区は、野洲市(面積80.14㎢、人口:
50,733人、世 帯 数:18,830戸、学 区 数:7学 区)11の北東部に位置し、学区の中央部は昭和 50年代から市街化が進み住宅開発がはじまっ た。北部は南北に長く水田と集落地で多くを占 め、南端部先には滋賀県希望が丘文化公園があ る。また、日本最大の銅鐸の出土地があり、永 原御殿や妓王妓女、北村季吟などで知られるよ うに、歴史や文化に恵まれた地域である。歴史 的には、1889年(明治22年)4月1日(「明治 の合併」)に誕生した「義王村」12に由来し、そ の名称は、1894年(明治27年)8月22日に「義 王村」を「祇王村」に改称したことによる。以 降、「昭和の合併」で、1955年(昭和30年)4 月1日 に旧野洲町と合併(「昭和の合併」)し、
「祇王学区(祇王小学校区)」となる。2004年(平 成16年)10月1日には旧野洲町と旧中主町が 合併し、現在の「野洲市」となるが、その位置 づけは同様である。つまり、祇王学区は明治の 合併時、いわゆる7村13の「自然村」を合併し た「村」である。そして、昭和の合併で「祇王 学区」となり、区域的にいえば、おおむねそれ を現在の「祇王学区自治連合会」が管轄し、そ れを構成するのが学区内の各「自治会」であり、
その自治会を構成するのは上記「自然村」に加 え、新しくできた住宅団地である。その自治会 数は、15団体となり、人口7,668人、世帯数2,730 戸、高齢化率は20.9%14となっている。
2. 2 社会教育センターからコミュニティ センターへ
祇王学区における協議会型住民自治組織づく りについて、1991年、野洲市における生涯学 建設的だろう」7と論じており、多くの自治体
がこのような見解を所与ものとして、流行的に、
また、「先行的といわれる自治体」8に倣いなが ら制度の導入を進めていく傾向も垣間みえる。
筆者もこのような見解に、真っ向から批判す る立場をとらないが、一方で条例等による協議 会の効果などを検証する場合、その目的に照ら して、住民の工夫による自主的な制度づくりと の比較検証がないのではその主張の信頼性を問 われることにもなりかねない。住民主導による 協議会やその制度化が進んでいないことは事実 であるとしても、仮に、住民主導では進まない、
進みにくいとするならば、その実態と原因を示 す必要がある。筆者の研究関心はここにある。
全国アンケート調査において、上記の「協議 会の法的性格」を問うた回答で、2番目に多かっ たのが「特に文書により定めていない」63団 体(25.4%)であり、本報告書における分析では、
「特に定めが無いにも関わらず、一定数の都市 自治体がその存在を認識している点が興味深い が、本アンケート調査では残念ながらその詳細 までは把握することができない」9とコメント している。そのなかに、住民主導の協議会づく りを実践している地区がないとも限らない。
したがって、本稿では今後の考察に向けた予 備的材料として、また、現在各地域で進められ ている協議会づくりや協議会創設を検討してい る自治体・地域の検証材料として、住民主導で 協議会づくりを実践している滋賀県野洲市祇王 学区における協議会型住民自治組織(妓王まち づくり推進協議会)の事例を報告する。
そこでは、住民主導で設立できた要因とその 仕組みの特徴と課題、また、行政主導の協議会 づくりとの比較を試みつつ、筆者が重視する「住 民の自治」の発展という視点からさらに整理・
考察を深め、住民主導の優位性の有無を明らか にする。
7 同書、108頁。
8 条例等の協議会の代表例としては、三重県伊賀市における協議会の権能や名張市の交付金制度が先駆的なものとして多くあげられ、自
治法の代表例としては、特に新潟県上越市の協議会委員の選任における「準公選制」の採用が有名である。
9 日本都市センター、前掲書、228頁。
10 地区名は「祇ぎ王おう」であるが、当地区の歴史的資源を生かす(『平家物語』)という観点から「妓ぎ王おう」とした経緯がある。
11 野洲市『野洲市統計書平成26年度版』平成26年3月末現在。
12 永原村・中北村・上屋村・辻町村・冨波村・五之里村・北村の7区域。
13 北・中北・永原(現、上町・江部・下町)冨波甲・冨波乙・辻町・上屋村の7村。
14 野洲市、前掲書。
増進に寄与することを目的として、各種事業の 企画実施などの業務を行ってきたのに対し、コ ミュニティセンター20は、住民主体のまちづく りを進めることを目的に、従来の公民館事業も 住民が自主的に開催することを促し、また、各 種団体及び機関の連絡や調整など、市民活動の 促進や「市民と行政との協働」のまちづくりを 進めるための場として機能することとなった。
つまり、行政の「指導」的な場であったものを、
公設民営方式で培ってきた地区の自律性を踏み 台に、社会教育の充実だけにとどまらず、住民 の「自律」や「参加」を重心に置いた場に転換 したといえる。
なお、各学区のコミュニティセンターの管理 運営にあたって、2009年度に市から「第1期 が終了する2010年3月までに、指定管理者制 度による管理運営が学区の大きな負担となって いないか、そうであるなら市の管理とするが検 討していただきたい」と市自治連合会に提案が あった。市自治連合会会長は、「コミュニティ 力の脆弱化等失うものが大きいと予想され、一 定期間指定管理者制度を継続し、その期間のな かで、結論を出したい」と回答し、市は、それ に応えて第2期指定管理者期間を2010年4月 1日から2012年3月31日までの2年間とした。
自治連合会が出した結論は、「自治会長、各種 団体、コミュニティセンター事務局等との協議 を重ねた結果、指定管理者を継続したい」とい うものであった。
その理由は、「コミュニティセンターを地域 が管理することを通して、学区のまちづくりが できていること、引いては、それが各自治会の 活動につながっている。仮に、市が管理運営す ることになると確かに楽だが、その分、現在の 活動の強化につながるどころか、むしろ衰退に つながる可能性が高い。また、一旦市直営にし て、再度指定管理者にと言われたらそれは無理 であろう」ということであった。コミュニティ センター職員も、「市の臨時職員となるので安 習の拠点として、また、各団体が集まる拠点と
して「ぎおう社会教育センター」15が設立(野 洲市の第1号館)された時期から概観する。な ぜなら、後述するようにこのセンターの設立が 協議会を成立させる大きな契機となったからで ある。
「ぎおう社会教育センター」の管理運営形態 は、いわゆる「公設民営方式」で、当時の祇王 学区にある9つの区の区長からなる区長会16が 管理運営会議(意思決定機関)を組織し、区長 会長を館長(非常勤)として、その管理運営に あたる。事務職員は、社会教育指導員1人と事 務員1人の体制である。その業務は、センター の日常的管理のほか、主として、生涯学習講座 の企画立案、各種団体の活動支援、市と自治連 合会による行政懇談会の課題整理の支援などで ある。また、区長は、市からの要請としての生 涯学習、人権啓発、青少年健全育成、体育振興 などの社会教育事業において各部の長として位 置付けされ、各種団体とともに地区のまちづく り活動を推進してきた。
そうした経過のなかで、2003年に指定管理 者制度が法制化17されたことから、野洲市は 2005年に社会教育センターを全センター18と も教育委員会部局から市長部局へ移管し、その 名称もコミュニティセンターへと変更し、2006 年には指定管理者制度を導入19した。
元来公設民営方式(管理委託)からスタート していることもあって、その延長線上のものと して、比較的スムーズに移行され、基本的な運 営体制も、事務職員である指導員が事務局長に 職名変更された程度で、実質的な変化はなく、
全館とも学区の自治連合会長を館長として、事 務職員数、指定管理料(市が支出していた補助 金や賃金を合算)も管理委託時とほぼ同様で あった。ただし、社会教育法における公民館で ある「社会教育センター」が、教育委員会の指 導のもと、住民の教養の向上、健康の増進、情 操の純化を図り、生活文化の振興、社会福祉の
15 「ぎおう社会教育センター」という名称は、市民が親しみやすい館にという理由で、地区の名称である「祇王」を「ぎおう」と平仮名 とした経緯がある。
16 区長会とは、現在の自治連合会である。なお、区長会長が現在の自治連合会長で、区長は、現在の自治会長である。
17 地方自治法の一部改正(2003年9月2日施行)。
18 旧野洲町区域では小学校区毎に5館。なお、合併(2004年10月)以降、旧中主町区域に2館建設(2006年、2007年: 小学校区として
は1つだが、人口、面積から2館とした)。
19 第1期2006年4月1日〜平成2010年3月31日。
20 コミュニティセンター条例(設置)第1条 市民が、市内の身近な地域において自主的に交流し、互いに連携を図り、市民活動を促進
することにより、市民主体のまちづくりを進めるため、野洲市コミュニティセンターを設置する。
管理料や補助金の削減など、市の財政が厳しく 行政に期待ができなくなった。⑥祇王には妓王 寺や永原御殿、北村季吟などの歴史資源が多く あり、単独自治会では、それを生かすことが難 しくなってきた。」ことなどである。
つまり、推進協議会の設立により、「①社会 教育センター設立当初から広域的なまちづくり として、自治会長を生涯学習や人権啓発の部会 長とし推進してきた事業を、推進協議会に引き 継ぐこと。②それにより自治会長の負担を軽減 することで、高齢化による地域福祉の推進など、
近隣・狭域的な活動が重要視されるなかにあっ て、自治会長が本来の役割である自治会活動に 専念できること。③一方で、上記のような役割 分担をすることで、活動や情報が分断されるこ とがないよう、推進協議会として市からの情報 も含め地域のニーズを各団体が共有し、それぞ れの団体の役割を明確にした上で、特に横断的・ 効率的・合理的に活動ができるようにすること。
④さらには、いままで取り組めなかった事業に も着手するため、人材の掘り起しや女性など多 くの市民の参加を促進すること」が期待された のである。このように課題を抽出し、組織のあ り様等を約1年間検討し、2011年4月に推進 協議会が設立され、コミュニティセンターぎお うの指定管理者(第3期を2012年4月1日〜
2017年3月31日:館長は代表制の観点から学 区の自治連合会長)は、祇王学区自治連合会か ら推進協議会が担うことになった。
推進協議会の目的は、「祇王の歴史と伝統、
文化遺産や自然を守り、豊かで、住みよく安心 安全で、やすらぎのあるまちをつくるため、地 域住民が相互に連携し、地域の特色を活かした まちづくり」とし、その事業を「①歴史と文化 遺産を活かした、まちおこし事業、②青少年の 健全育成を図る事業、③人権意識の高揚を図る 事業、④地域福祉を考える事業、⑤安心安全で 暮らせるまちづくり事業、⑥コミュニティセン ターぎおうの活動団体を活かした文化振興事 業、⑦地域住民の参加による体育振興事業、⑧ 別に定める規定によるコミュニティセンターぎ おうの管理運営事業、⑨地域の環境に関する事 定的な雇用になると思うが、まちづくりの観点
からはマイナスになると考える」との見解を示 した。
このことは、各学区におけるコミュニティセ ンターの管理運営が、各活動団体の凝集性を高 める効果があったこと、また、それによって住 民のまちづくりに対する主体性を育んできたこ とが証明されたものといえるだろう。よって、
市は指定管理者制度を継続することとし、第3 期を2012年4月1日〜2017年3月31日の5 年間とし、現在に至っている(祇王学区におい ては、第3期から協議会(「妓王まちづくり推 進協議会」)が指定管理者となる)。
2. 3 「妓王まちづくり推進協議会」の設立 「妓王まちづくり推進協議会(以下、「推進協 議会」という場合もある)」の設立に至る契機は、
2010年度の祇王学区内の自治会長退任者の有 志が発起人となって、各種団体の代表にも呼び かけ、以後のまちづくりを維持・発展させるた めにどのようにすればよいかという検討に入っ たことによる。
課題としては、「①自治会役員の負担21が大 きくなってきたこと。これは、自治会内での地 域福祉や環境問題、防災防犯活動など、自治会 が担う事業が多くなり、そのほとんどを役員が こなしていることによる。そのため自治会を超 えた広域的なまちづくりまで手が回らない状況 になってきた。②上記の状況により役員のなり 手が少なくなるとともに高齢化が進む一方で は、継続雇用制度の導入等による定年の引き上 げなどで、自治会役員や活動の担い手の絶対数 が少なくなってきた。③自治会長の任期が単年 度化傾向にあり、また、学区の代表である自治 連合会長もほとんど1年任期であることから、
地域づくりの継続性が確保しにくくなってき た。④自治会活動と各種団体、また、各種団体 間の役割に類似のものがあり、効率性・明確性 に欠けることが明らかになってきた。これは、
各団体が市の担当課とのみ話し合い、地域での 情報共有がないことが主な要因である。⑤指定
21 本稿では、詳細を割愛するが、2010年度の祇王学区A自治会会長の役員活動記録の手帳をもとに、筆者が整理したものによると、年間
で活動に出た日数は、会長が223日(内、平日138日)、副会長・防災、社会教育委員(兼務)が178日(内、平日102日)、副会長・
社会教育委員(兼務)が123日(内、平日60日)など、役員の多忙さがわかる。注)この日数は、活動に出た日数であり、労働日数 ではない。よって、1日に2回の活動があっても、その日数は1日とカウントしている。
事務を専任職員的(基本的に無償)24に担当し ていることがその運営にとって欠かせない力と なっている。
2. 4 「妓王まちづくり推進協議会」設立 後の新しい取り組みと課題
設立後の推進協議会の総会により、福祉問題、
環境問題、防災防犯問題、まちおこし事業など のなかで、いままで取り組みが充実できなかっ た活動を推進しようということが確認された。
新しく取り組んだ主な事業は、福祉関係では、
障がいの子ども(小・中・高校生を対象)を持 つ家族の宿泊体験交流会を「野洲市手をつなご う育成会」25との共催で実施した。これは、東 日本大震災において、「①「障がい者に対応で きない」と避難所側から拒否される、② 福祉 避難所がどこにあるのかわからない、③ 集団 での生活が難しく避難所での避難をあきらめ、
被災した自宅、車中での生活となり、環境が悪 化する」など多くの課題26があったことから、
その対策の一環として考えられてきた。具体的 には、コミュニティセンターが祇王学区の避難 所のひとつとして指定されていることから、障 がい者にその場所を知ってもらうこと、また、
集団生活に慣れるための宿泊ができることを目 的とした事業を展開することである。その他に、
乳幼児とその保護者を対象に、子育てサロン「ぽ かぽか広場」を毎月実施27したり、隣接する幼 稚園の園児の親から依頼されれば託児事業28な ども実施したりしている。
環境保全関係では、環境ボランティア団体
「フィールドワークやす」29が主導する河川清掃 を地域のボランティアの参加のもとに実施して きたことから、年一回の事業であるが、12月 の第1土曜日を「川の日」と定めるに至った。
また、びわ湖の魚を河川に遡上させるプロジェ クトにも積極的に関与している。
防災関係では、各自治会防災隊長の参加のも 業、⑩祇王全体の防災防犯に関する事業、⑪そ
の他この会の目的達成に必要な事業」としてい る。
推進協議会の組織と運営の概要22は、活動拠 点および事務所を「コミュニティセンターぎお う」に置き、その範域は、歴史的な活動区域で ある祇王学区とし、組織は、祇王学区自治連合 会から委嘱された市民の代表者による役員と、
市民および各団体代表者で構成する運営委員に よる運営委員会で構成される。なお、推進協議 会の意思決定については、構成員数の2分の1 以上が出席する総会で、その出席者の過半数を もって決することとされている。
役員は、会長、副会長、理事、事務局長、会 計、監事で構成する(事務局長は、役員会にお いて選任)。実践活動の要は、文化振興、体育 振興、青少年育成、人権教育、地域福祉、環境 推進、防災防犯の7つの運営委員会である。こ れら運営委員会は、地域の団体である交通安全 協会祇王分会、消防団祇王分団、商工会祇王支 部、保・幼・小・中の学校園代表、PTA、老人 クラブ、コミュニティセンターを拠点とする活 動団体、各自治会まちづくり推進委員などと連 携しながら事業を展開することになる。
活動財源は、人権推進、体育振興、青少年 育成など市などからの補助金・助成金が約
1,000,000円(各団体あての補助金は各団体独
自の財源となる)、自治会・自治連合会からの 分担金が約1,100,000円、夏まつり・収穫祭協 賛金やコミセン後援会などから約500,000円、
事業収入・雑収入などが約1,500,000円であり、
これらを主な収入としている23。収入の構成は、
自主財源が75%(自治会分担金等が39%、事 業収入等が36%)と自立性が高いことがうか がえる。もちろん金額としては指定管理料の 約8,800,000円が大きい。その内訳では、管理 費と人件費が約半分ずつを占めており、その事 務局職員がコミュニティセンターの貸館や点検 などの管理業務のほか、兼務的に推進協議会の
22 妓王まちづくり推進協議会会則(2011年4月2日施行)による。
23 妓王まちづくり推進協議会「平成25年度決算」による。
24 休日勤務などで報酬を支払う場合は自治会・自治連合会の分担金から支出している。
25 障がいのある子どもを持つ親の会で、子どもたちの自立や社会参加に向けた活動をしている団体。
26 全国社会福祉協議会・障害関係団体連絡協議会、災害時の障害者避難等に関する研究委員会『災害時の障害者避難等に関する研究報告書』
2014年、29頁。
27 主催は、祇王学区民生委員児童委員協議会である。
28 幼稚園がPTA事業などをしている時など。
29 野洲を流れる童子川の河川掃除をきっかけに結成した団体で、野洲市のまちづくりなら、なんでもやってみようと「フィールドワークやす」
という団体名になった。現在、野洲市内を流れる祇王井川、中の池川、童子川などの河川清掃を行っている。
ど事情の違いの説明を重ねることで、設立2年 目ぐらいから薄れてきた。また、②人材の発掘、
後継者の育成、③活動資金の確保、④推進協議 会に対する市の認識・理解がほとんどないこと、
⑤推進協議会の活動が広がっていて際限がなく どこまでするのかがみえないこと」などが指摘 されているところである。
3.事例の考察
3. 1 住民主導で動いた要因とその仕組み の特徴・課題
祇王学区の取り組みは、公設民営方式による 地域施設運営からはじまる自治会・自治連合会 を中心としてきたまちづくりの資産を引き継ぎ つつ、ときの課題を踏まえ、自治会・自治連合 会、推進協議会のそれぞれが役割分担して行こ うとするものである。そのために、各団体が情 報共有をしつつ、各団体のヒト・カネ・モノを 相互補完しながら、横断的・効率的に連携して いくことで、各団体のミッションに応じた活動 を活性化させつつ、全体として地域活力の維持・ 発展につなげていこうという地域からの仕組み づくりである。
この仕組みが住民主導でできた要因は、「①
「社会教育センター」を「活動の拠点」にして きたこと、②そこでは主に社会教育のリーダー として自治会長・自治連合会が主体的に活動を してきたこと、③また、そのセンターの管理が
「公設民営方式」(後に、コミュニティセンター
「指定管理者方式」)であったこと、④そのこと からセンター事務局による各種団体へのサポー トがしっかり機能し、⑤そのことが地域の凝集 性を高めたこと、⑥そして、その歴史が約20 年間続いてきたこと、⑦さらに、それを担って きた自治会長経験者有志がその活動の課題を抽 出し、自ら新しい仕組みづくりに着手したこと」
があげられる。
推進協議会の仕組みの意義は、自治会長の負 担の大きさや高齢化による活動の担い手の減少 という背景のなか、推進協議会の組織化によっ て自治会長が自治会活動にできる限り専念でき るよう「自治会の維持・発展」をさせるととも に、一方でそのことが、各自治会長(自治連合会)
と、コミュニティセンターの防災訓練を、祇王 小学校の避難訓練及び保護者引き渡し訓練と共 に合同で実施している。そこでは、かまどベン チを使っての炊き出しや非常食の試食、また、
消防団祇王分団の協力による消防訓練をするな ど、約800名の規模でより現実味を増した訓練 を実施している。また、推進協議会設立と同時 期に「祇王小学校応援団」も設立され、その推 進母体を推進協議会が担っている。そのことで 地域と学校が一つになって事業ができるように なった。
まちおこし事業としては、妓王寺、妓王、妓 女、妓王井川のPRをするため、「妓王せんべい」
を創作・販売し、また、妓王が詠んだ妓王詠歌 を掛け軸や色紙に学区内の書道家の方に書いて もらい、それを販売するなど、収益事業も兼ね た事業を展開している。また、収益金の一部は 妓王寺の修繕等に充てている。今後の計画とし て、長期の大事業となるが、「永原御殿跡整備」
も実施していく予定である。
また、コミュニティ事業として、推進協議会 の活動報告などを掲載した「コミセンだより」
の発行はもちろんのこと、日常的な「社交」の 場として、住民が気軽に集えるようコミュニ ティセンターロビーにコーヒーサロンを開設 し、そこに地域の活動写真等を展示したり事業 への参加募集案内をしたりと、活動のPR や人 材の発掘などにつながる工夫もしている。
このように、「①祇王学区内の活動団体にと どまらず、学区外の市民活動団体との協働事業 が展開され、②人材を発掘する工夫や人材を生 かした収益事業などにも着手する」など、推進 協議会の組織化により、従来からの成果を活用 しつつ、「コーディネート機能」などが強化さ れた。そのことによって、誰もが参加しやすい 環境となり、地域の開放性や情報発信力が高ま るとともに、人と人とのつながりや団体間の相 互作用・ネットワークが拡大され、諸活動が活 発化していることがうかがえる。
一方で、課題としては、「①設立当初は、過 去にまちづくりを担ってきた歴代自治会長・自 治連合会長からは、「自分たちは実践してきた。
なぜ今はそれができないのか」との自負と批判 があり、推進協議会の活動に対しては大きな不 信感があり否定的な感情があった。こうした意 識の対立は、以前と現在の自治会長の忙しさな
の内容を大きく分類すると、「①広報紙、連絡 文書等印刷物の配付などの「行政連絡業務」、
②公共工事などの「地元同意」を確保するなど の「地域とりまとめ業務」、③各種委員の推薦 など「それ以外の業務」」34であり、筆者の調べ では60種類程度ある。行政はこのことを問題 視するには至っていない。
「E活動に際限がなくどこまでするのかがみ えない」は、「D行政からの依頼事項が多い(特 に自治会に)」に関連するが、日本の特徴とい われる「底の抜けた」35、「最大動員システム」36 という言葉にあらわされている。要は、日本の 行政は仕事の増加分を民間組織も含めながらこ なしてきたゆえ、それぞれの仕事の役割分担が あいまいで、かつ、それぞれの活動範囲の限度 もあいまいである。行政から、「協働」をかけ 声に「自助→共助→公助」ということが強調さ れるのであるが、そのように実働させるために は、「公」の役割・領域を明確にしないと「自助、
共助」の領域がわからず、そこに、「際限のな い活動への住民(組織)の不安・不信」が募る わけである。したがって、実践的概念として、「公 助→自助→共助」とするのが妥当であろう。
「F推進協議会に対する市の認識・理解がほ とんどない」は、行政側の応答責任という問題 である。一般的に本事例の推進協議会のように、
住民主導で、なおかつ、その地域特有の仕組み であれば行政の応答責任性は低い。それは、職 員がその事務事業として認識する行政主導の事 業については、職員はその事業の正当性を認め るが、住民主導の事業は所管事務ではなく責任 の範囲外であり、行政評価制度の枠外であるこ とも影響してその関心が薄い。また、行革で職 員数の削減がある一方では、住民ニーズに応え るべく仕事量は増えてきたという関係もあり、
執行が容易な一律的な事業には対応しようとす がリーダーとなって長年にわたって培ってきた
学区のまちづくりを縮小させることなく、新た な担い手によって「祇王学区のまちづくりの維 持・発展」につなげようとしてきたことにある。
実際に、推進協議会設立後の新しい事業展開を 見てみると、以前よりも事業活動の地域への開 放性も高まり、活動が活発化するとともに、自 治会長が自治会活動に多くの時間を費やせるこ とで、地域活力の発揮につながっている。
以上を踏まえ、端的にこの仕組みの特徴をい うと、次の三点である。一つは、「A推進協議 会の必要性や自治会・自治連合会・推進協議会 の役割分担を明確にしたこと。」、二つは、「B 一方でこのことは、推進協議会組織の代表性・
正当性に問題がでてくることから、推進協議会 の会則により自治連合会長から推進協議会の役 員をまちづくりの担い手として委嘱するという 形でそれを担保していること」、三つは、「C自 治会からの分担金が拠出されていること、ま た、事業収入も加わり、自主財源の比率が高 い(75%)こと」が指摘できる。ただし、財源 については、祇王学区各自治会費を合わせた約 30,000,000円30のうち推進協議会への分担金は 約1,000,000円(3.3%)であり、その負担範囲 をどのように設定するのかなど困難な問題もあ ることから財源確保は課題となっている。
次に、本調査事例における大きな課題は以下 の三点に集約される31。一つに「D行政からの 依頼事項が多いこと(特に自治会に)」、二つに
「E活動に際限がなくどこまでするのかがみえ ないこと」、三つに「F推進協議会に対する市 の認識・理解がほとんどないこと」である32。 「D行政からの依頼事項が多い(特に自治会 に)」は、自治会からの問題提起として、各種 アンケートでもみられるように全国的な課題で もある。いわゆる「行政協力活動」33だが、そ
30 祇王学区各自治会(上町、下町、江部、中北、北、上屋、新上屋、辻町、冨波甲、冨波野、冨波松陽台、冨波乙、野洲の里、見星寺オ
レンジタウン、冨波東)の平成25年度総会資料による。
31 「妓王まちづくり推進協議会」役員へのヒアリングも含む。
32 これらは典型的なパートナーシップの失敗のケースということができる。新川達郎「パートナーシップの失敗−ガバナンス論の展開可
能性」『年報行政研究』39、2004 年を参照。
33 一般的に多いのは、自治会長を「行政事務取扱委員」として委嘱する。
34 上田惟一「行政、政治、宗教と町内会」岩崎信彦他編『町内会の研究』御茶の水書房、1989年、444-448頁を参照。
35 伊藤大一『現代日本官僚制の分析』東京大学出版会、1980年、26頁。「日本では、官僚制が行政という相対的に閉鎖的な活動体系の組
織化ではなく、民間人まで含む開放的な組織としての性格を強くもつ。その意味での「底が抜けた」という表現であるが、役割があい まいであることを示唆している。
36 村松岐夫『日本の行政−活動型官僚制の変貌』中公新書、1994年、28-30頁。地方行政も含め官僚制自らの組織拡大によってではなく、
同時に『手足(国の手足として地方行政や外郭団体などを、地方レベルでは町内会など)』を拡張することによって仕事量をこなして きたという。
る。
「C協議会の財源」は、行政からの交付金等 がそのほとんどを占める。その財源は、従来の 各種団体への補助金をまとめて協議会に交付金 として支出しているのが一般的である。そこに 事務的経費を上乗せしている程度であり、財源 的には本事例の推進協議会と同様に不十分とい う声が多い。
課題の「D行政からの依頼事項が多い(特に 自治会に)」と「E活動に際限がなくどこまで するのかがみえない」は、「住民の負担と不安・ 不信」ということが生じ、住民主導、行政主導 に関わらず共通する課題である。
「F協議会に対する市の認識・理解がほとん どない」は行政側の応答責任という問題である が、行政主導による学区毎などに全域的に設置 される一律的制度として機能する協議会の場合 に、住民主導のそれとは逆に行政の応答責任性 は高いかというとそうでもない。その原因は、「A 協議会の必要性等」を協議会も担当行政職員も 明確に回答ができないというところにある。実 際に、行政側から協議会創設の必要性について、
ほとんどが「行政が限界だから、地域の実情に 応じ、地域で考え地域で課題解決してほしい」
と呼びかけたに過ぎない。「コミュニティ政策 を担当する自治体職員ですら 「コミュニティ政 策とはなにか」についてのビジョンを持たない まま(指示がないまま)、とにかく「コミュニ ティのまとまりをつくる」「活性化する」こと に汲々としているように見える」39との指摘も ある。近年、地域支援職員として協議会に1〜 2人配置するのが行政からの支援策として常套 的なものとなっているが、受け入れ側からする と「どうせ何年かでいなくなるというのも含め、
何か役割を担ってもらおうとしても何を頼んだ らいいのかわからない」、支援職員側も「何を していいのかがわからない」という意見が多い のも、これらのことをあらわしているといえる だろう。
このような課題を克服するためには、住民主 るが、住民の自治によって形成された多様な制
度に個別に対応するという柔軟性はないという ことがいえる。
3. 2 行政主導の協議会づくりの現状 ここで、上記A〜Fの特徴・課題を行政主 導の協議会づくりの現状37に当てはめてみると 以下のようなことが指摘できるし、地域住民に とっても行政にとってもいい状況とはいえな い。
「A協議会の必要性等」については、設立か ら一定の年月を経ても多くの地域で、いわゆる
「屋上屋」批判が繰り返されている。「ただでさ え自治組織の担い手不足なのに、同様の活動団 体(協議会)を上につくって何の意味があるの か」という問題指摘である。これは、協議会創 設時の推進勢力が行政(国や他の自治体も含 む)38であり住民がその創設に対して無自覚で あったことに起因する。その上、協議会に対し て交付金等を助成するという経済的誘因もあっ て、さほど議論もないまま住民側はその設立に 同意した経緯がある。そのために、協議会設立 後の経過年数に関係なく、意志決定などをめぐ り住民団体間で問題が生じたとき、また、住民 団体の役員が交代したときなど、誰が協議会組 織を創ろうとしたのか、あるいは、なぜ創るこ とを了承したのか、という原点的な問いに対し て協議会自らが明確な回答ができないのであ る。さらにいえば、担当行政職員ですら協議会 の必要性等について不明瞭なのである。
「B協議会組織の代表性・正当性」は、行政 主導の場合、基本条例や要綱で担保することが 多い。しかし、協議会の必要性や各種団体の役 割が不明確なまま、それを法的に位置づけする ことで、Aの問題をより増幅させる例も見受け られるのである。そもそも、住民側から協議会 を法的に位置づけようとする動きや要求はほと んど無かったといってよいし議会との関係を議 論した形跡がないことも気になるところであ
37 筆者の属する研究会(「これからの地域自治を考える会」)による滋賀県内の協議会の現状である。研究会は、滋賀県内の市・町自治体
の自治関係担当者と県のコミュニティ関係担当者を構成員として、「市民による市民のための持続可能なまちづくり〜自りつと共生に よる地域自治システムの構築〜」をテーマに研究している会(2010年〜)である。筆者は、当研究会の立ち上げ時から2014年度まで その委員長を務めた。それ以降は、さらにこの研究を深堀するためにNPO団体を立ち上げるとともに、研究会には、引き続きその代 表として参加している。
38 総務省報告『分権型社会における自治体経営の刷新戦略―新しい公共空間の形成を目指して』(2005年)や先進事例地の動向など。
39 乾亨「地域・住民のための「コミュニティ政策」をめざして」日本都市センター、前掲書、12頁。
を重要課題として設定し、本事例の住民主導に よる推進協議会づくり等を参考に改善・工夫を する必要があると指摘できよう。もし、このこ とに注意せず進めれば、条例等による「住民へ の統制と負担(動員)」につながり、協議会の 運営・活動内容は行政を代替・補完する「下請け」
的なものになり、組織を構成する既存各種団体 の弱体化や消滅を招き、「地域力」の脆弱化を もたらすことになりかねない。また、住民側か ら協議会を休止ないしは解散するという事態を 招く可能性も高い。仮に、行政側が現状維持し ようとするなら、人的支援として地域支援職員 を増員したり、経済的支援として交付金等を増 額するという手段をとらざるを得なくなり、結 果としてその大きな支援そのものに問題が生じ てくるであろう。
三つは、行政主導であれ、本事例のような住 民主導であれ、協議会制度がうまく進まないし 進みにくい要因は、住民側にもあろうが、行政 側にも多いということがみてとれた。
全国的な課題で、かつ、歴史的にも脈々とつ づく「D行政からの依頼事項が多い(特に自治 会に)」の行政協力活動を優先的に検討すべき 課題と捉え、行政と住民との間でそのあり様を 確認する必要がある。「確認」としたのは、行 政との適正な役割分担と相互依存関係を築くこ とが必要だと考えたからであり、それは「E活 動に際限がなくどこまでするのかがみえない」
という課題に対応しているということでもあ る。その過程で、行政が自治の現状(脚注21 を参照)を直視・把握しつつ、住民のためのよ りよい将来ビジョンを住民とともに語り共有す ることで、行政の応答責任も高まり、「F協議 会に対する市の認識・理解がほとんどない」と いう問題に対応するとともに、諸課題の課題解 決に向けた糸口をつかむことができるであろ う。もちろん、自治会にあっては役員に権限や 負担がかかりすぎる運営実態を改善していくと ともに、その規模の適正を見極めることも必要 であるということを指摘しておきたい。
以上の結論は暫定的なものであって、本事例 研究から引き出しえた論点という限界があるも のの、協議会の制度づくりを検証するための視 座として有用性は高いものと思われる。
したがって、今後の考察においては、本稿で の調査を深化させること、また、条例等による 導であれ、行政主導であれ、誰のための制度づ
くりで、どのようなビジョンを持ち、それをど のようにして実現していくかということを住民 と行政が共有しながら進めていくことが必須の 条件となろう。
4.まとめにかえて
本稿では、住民主導による協議会づくりが地 域の課題解決力に有効に作用していることがそ の要因も含めて明らかになり、その特徴と課題 も抽出できた。さらに、その特徴と課題を行政 主導の協議会づくりの現状に当てはめてその比 較も試みた。事例調査レベルの検討にとどまる が、それらを踏まえ整理すると、次の三点のこ とがいえる。
一つは、行政主導による協議会づくりと住民 主導のそれとを比較して明確にいえることは、
少なくとも「A協議会の必要性等」が協議会運 営を左右する最も重要な部分であり、また、そ の必要性は住民側で明確にならなければならな いということである。
なぜなら、「A協議会の必要性等」が住民側 に不明瞭だと、「B協議会組織の代表性・正当性」
は何ら意味をもたない。同時に、なぜ協議会を 地域住民団体の代表にする必要があるのか、ま た、なぜ協議会を条例・要綱で位置づける必要 性があるのかも問われなければならない。本事 例の学区における自治連合会から推進協議会の 役員を委嘱するという形も参考となろう。「C 協議会の財源」についても、「A協議会の必要 性等」が明確になれば、住民からの拠出金や様々 な資金の確保が期待でき、協議会の経済的自立 性は高まるといえる。つまり、「A協議会の必 要性等」は、地域における協議会が住民にとっ て必要か否かが「住民の自治」の核心部分であ り、かつ、協議会の制度づくりのための根源的 なものであるということになる。
二つは、事例からもその必要性を明確にでき るのは、住民自身の必要性に裏打ちされた住民 主導による協議会づくりの方が組織においても 活動においても優位性をもつということであ る。そもそも行政主導で住民組織をつくろうと いう試み自体に無理があるといえるだろう。
行政主導の場合は、「A協議会の必要性等」
ものをさらに幅広く客観的に観察して、検討し て行くことが必要となる。これらを踏まえてよ り理論的・実証的に考察し、その比較検証を行 い、地域自治の仕組みが、誰のために何を目的 とした制度づくりかという基本を問いつつ、住 民主導か行政主導かということを二者択一的に とらえず、住民の自治力を生かした地域の再生・ 発展に向けた仕組みを実践的にアプローチして いくための研究としていきたい。
参考文献
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総 務 省<http://www.soumu.go.jp/gapei/sechijyokyo01.html>を 参 照
(最終アクセス2016年3月30日)。