プロフェッショナルとインフラ型組織
I は じaめに 過 去 20年間 におけ る 日本 の職 業別 雇用 者数 の推移 をみ る と,「 管理 的職 業従 事者」 の伸 びが微 増 ない し横 ば いであ るの に対 し,「 専 門的 ・技術 的職業従事 1 ) 者」は実数,比 率 とも急速 に伸 び続け,20年 間で約2.3倍になっている。 また, 各種意識調査 に表れているように,管 理職 よ りも専 門職への志向が強 まってい る。職業構造や仕事 内容 の面で も, また意識や志向の レベルで も,組 織中心か ら仕事 中心へ と日本人の働 き方が変化 しつつあるとい うことができる。 筆者は,組 織 よ りも自分 の専 門 とす る仕事 に強 くコ ミッ トし,仕 事 をとお し てキャ リアの形成や 目的の追求 をしてい く 「仕事人」について,「 組織人」 と 比較 しなが ら,そ の態度,行 動特性 な どを論 じた。そこでは,「 仕事人」 を 5 つのタイプに類型化 しているが,な かで も研究職,建 築士,会 計士 などの 「知 的専 門職型」は,組 織の外部 に準拠集団 を有 し,専 門の仕事への コ ミッ トメン トが強い点で 「組織人」 と対照的である。 筆者 はこれ までの研究のなかで,こ れ らの職種 に属す る者 を企業 内のプ ロフ ェ ッショナル として扱い,組 織 との統合の枠組みについて理論的 。実証的に研 D 究 を重 ね て きた。 つ ぎの課題 は,彼 らが能 力 を発揮 す るため に どの よ うな形態 の組織 が望 ま し いか につ いて,組 織構 造 の面 に焦点 を当てなが ら検討 してい くこ とであ る。職 1 ) 総 務 庁 「労働 力調査 」。 2 ) 大 田 (1997)。 3 ) 大 田 (1993)(1994a)(1994b)(1995)(1996a)。 肇 田 太44 彦 根論叢 第 312号 種や仕事の内容が異なれば,適 合す る組織の形態 も自ず と違 って くるか らであ る。 ところで,従 来のマネジメン トにおいては,組 織の効率 あるいは生産性 を強 調す るあま りに,個 人の視点,個 の論理 を尊重す る姿勢に欠け るケースが少 な くなかったように思 える。 しか し,「 組織におけ る個の尊重」 とい う理念 を追 求す るうえでは もちろんのこと,真 の意味で 「組織 と個人の統合」 を図 るうえ で も個 人の視点についての深い洞察が欠かせ ない。 とりわけプロフェッショナルの場合,仕 事の性質上,そ の成果は個人の 自発 的 ・自律 的な能力の発揮 に依存す る。す なわち,組 織 としての 目的 を追求す る うえで も,個 人の視″点,個 の論理 を踏 まえてお くことが必要 なのである。 した が って,組 織の設計に際 しては,彼 らが実際に どの ような組織 を指向 している か を明 らかに しておかなければならない。 本稿 では まず,プ ロフェッショナルに適合す る組織の特徴 を演繹的に推論す る。つ ぎに,前 述 した 「知的専 門職型」の典型であ り, また企業内プ ロフェッ シ ョナルの代表的な職種 で もある研究職が,実 際に どのような組織 を指向 して い るかについて実証的に分析す る。 II 企 業 内 プ ロフェッシ ョナルの行動原理 1.企 業 内プ ロフェ ッシ ョナル プ ロフェ ッシ ョンな らびにプ ロフェ ッシ ョナルの概 念,特 徴 につ いては,職 業社 会 学 の分 野 を中心 に, これ まで多 くの論 者 に よって述べ られてい る。 Carr‐Saunders=Wilson(1933),Greenwood(1957),Wilensky(1964)な どに よれば,典 型的なプロフェッションとは,つ ぎのような特徴 を備 えた職業 である。 ①専 門的知識 あるいは技術 に基づ いて行 われ る仕事 に従事す る職業 であるこ と。なお,そ の専 門的知識 ・技術 は理論的な基礎 を必要 とし,そ れは長期 の教 育訓練 をとお して獲得 され るものである。
プ ロフェ ッショナル とインフラ型組織 4 5 ②サー ビスの提供 に当たっては,職 業に付随す る倫理規範の追守,な らびに 公益へ の奉仕が求め られ ること。 ③ これ らの能力的及 び倫理的基準 を維持す ることを主 目的 とした職業団体が 存在 しているこ と。 ④専 門性,倫 理性 を保証す る内的規範が職業の内部 に存在 しているため,当 該職業に対 して独 占的な権限が与えられていること。 以上の特徴 を備 えた職業 としては,医 学,聖 職,法 曹,科 学などがあげ られ て い て, こ れ らの 職 業 は 一 般 に 「認 知 さ れ た専 門職」 ( a c k n o w l e d g e d p r o f e s s i o n s ) , 「確立 された専門職」( e s t a b l i s h e d p r o f e s s i o n s ) , 「完成 された専 門職」( f u l l ‐p r O f e s s i o n s ) などと呼ばれ る。そ して, こ こに掲 げ た特徴 の うち い くつ か を 欠 く 「準 専 門 職」( s e m i ‐p r O f e s s l o n s ) , 「補 助 専 門 職」( p a r a ‐ professions)などとは区別 され るこ とが多い。 セ ミ ・プ ロフェッシ ョンやノヾラ ・プロフェッションを含め, ここにあげ られ ているような職業 に属す る者すなわちプ ロフェッショナルは,独 立 して,あ る いは病院,協 会,法 律事務所,大 学のような非営利組織において活動す るす る のが通例 である。 一方,産 業社会においては,こ れらの典型的なプロフェッションのように上 述 した特徴のすべ てを備 えているわけではないが,しヽくつかの点でそれ らと類 似 した職業が台頭す るようになった。 こうした背景のなかで,プ ロフェッショ ンの概念 を拡張 し,新 しいプロフェッションとして再定義す る動 きも現れてき た。 た とえば AbbOtt(1988)は ,プ ロフェ ッシ ョン を 「具体 的 なケー スに対 し て あ る抽象的 な知 識 を応用 す る独 占的 な職 業集 団」 と,極 め て広 く定義 してい る。筆 者 は,企 業 をは じめ とす る 「非専 門職組織」 を主 た る活動 の場 とす る職 業 につ いては,そ の性格上,上 述 の よ うな 4条 件 は必ず しも必要 とせ ず,つ ぎ 4 ) 準 専 門職 ,補 助専 門職 につ いて は 田尾 (1995)を参 照。 5 ) A b b o t t ( 1 9 8 8 ) p . 8 . 6 ) E t z i o n i ( 1 9 6 2 ) .
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のような特徴を備えているものを企業内プロフェッションとして扱うことが妥
の 当だ との見解 をとっている。 まず,専 門的知識 ・技術 に基づ く仕事 に従事 していることである。 なおその 知識や技術 は,一 定の外部汎用性 を備 えた ものでなければならない。そ して, 外部 に専 門家団体 もしくは専 門家社会が存在 し,何 らかの形で能力その他 を評 価す るシステムが備 わっているこ とが必要 である。 それでは新 しいプロフェッショナルには,具 体的に どのような職種が含 まれ るのか。Sharma(1997)は ,Abbottの 定義 を援用 しなが ら,会 計 (accOunting), 建築 (architecture),工 学技術 (engineering),法 律 (law),広 告 (advertising), 投資金融 (investment banking),経 営 コンサル タン ト (management consult‐ ing)な どを例示 している。 ただ し彼の リス トは,企 業 を顧客 として営業す る 「専 門職組織」に焦″点が当 て られているため,特 定の職種 に限定 されていることに注意す る必要がある。 したが って,こ こに含 まれていない職種 をプロフェッショナルの範疇か ら排除 す る もの ではない。 た とえば Shapero(1985)が 掲 げ るプ ロフェ ッシ ョナ ル の リス トには,デ ザ イナー (designer),コ ン ピュー タの専 門家 (computer specialist),編 集者 (editer),ジ ャーナ リス ト (journalist)な どが含 まれている。 今 日,企 業組織においては とくに,研 究職,情 報処理技術者,各 種 ヨンサル タン ト,証 券アナ リス ト,デ ィー ラー,そ れに法務 ・特許やマーケティングの 専 門家 といった職種が量的に もまたその 占め る役割の面で も重要性 を増 してお り,そ のマネジメン トが大 きなテーマ となっている。 これ らの職種 は,前 述 し た 「企業 内プ ロフェッショナル」の条件 を一応備 えている。 したがって,そ れ らを企業 内プロフェッショナル (以下 とくに断 りのない限 り「プ ロフェ ッショ ナル」は企業内プロフェッショナルを指す)の 代表的な職種 として扱 うことに す る。 7 ) 大 田 ( 1 9 9 3 ) 。
プ ロフェ ッシ ョナル とインフラ型組織 47 2.組 織 ・仕事 との関係 つ ぎに,プ ロフェ ッシ ョナル と組織,仕 事 との関係 につ いてみてい くこ とに したい。 筆 者 は,企 業 の研 究職 を中心 に した先行研 究 のサーベ イ,な らびに研究職, 情報処 理 技術 者,服 飾 デザ イナー,お よび建築士 を対象に実施 した意識調査 の 0 結果か ら,プ ロフェッショナルが重視す る要 因をつ ぎの 3種 類に分類 している。 ① 高次欲求の充足に直接つ なが る要 因。 これは,「 仕事 それ 自体」,「専 門技 術 ・研究分野の発展へ の貢献」,「学会 での評価」,「研究の社会的 レベルの高 さ」 な どである。 ②高次欲求充足の条件 となる要 因。 これは,「 自己のアイデア を実行す る自 由」,「独立」,「 自律」,「研究成果 を発表す る自由」,「勤務時間その他管理の柔 軟性」な どである。 そのほか,予 算,設 備,人 的支援,情 報などが これに含 ま れ ると考 えられ る。 ③低次欲求の充足手段 となる要 因。 これは 「給与」,「ボーナス」 な どである。 なお ここでは,給 与や ボーナスが能力や業績の指標 として よ りも,Herzberg の 「衛生要 因」に近い もの として とらえられている。 プ ロフェッショナルは,① の要因によって,尊 敬 。自尊, 自己実現,達 成の ような高次の欲求 を充足す ることがで きる。すなわちそれ らは,彼 らの生 き甲 斐,働 き甲斐 につなが る要 因であ り, 自分 の仕事 をとお して獲得 され るもので ある。 これに対 して② は,① を追求す るのに必要 な要 因であ り,主 として所属
意識から獲得されるものである。そして③は,生 活の基礎 となる要因であり,
② と同様に組織から獲得される。これら3種類の要因は,そ れぞれの性質や,
個人にとっての意味が異なるため,獲 得するために投入される努力の水準も違
ってくる。
ところで, とくに企業のような非専門職組織においては, プ ロフェッショナ 8 ) 大 田 ( 1 9 9 3 ) 。48 彦 根論叢 第 312号 9 ) ル個人の 目的 と組織全体 の 目的 とは必ず しも一致 しているとは限 らない。 その ため彼 らは,仕 事 と組織に対 して異なった関わ り方 をし,そ のなかで上述の要 因をよ り効率的に充足 しようとす る。 それ を図式的に説明す るとつ ぎのように なる。 Masiowの 欲求階層の うち高次の欲求,あ るいは Herzbergの 「動機づ け要 因」は,そ の性質上, よ り高い水準で充足す るよう個人を動機づけ る。いわば
際限がないのである。そのため彼らは,① の要因を獲得するため, 自分の仕事
に対して最大限の能力 ・努力を投入する。一方その条件 となる②の要因や,低
次欲求を充足させる③の要因は,必 ずしも努力や業績に比例 して与えられると
はいえず, しかも彼らにとって生き甲斐そのものではない。ある水準以上で充
足 され るこ とが決定的に重要 なのである。 したが って彼 らは,そ れ らの要因を 獲得す るのに必要 な範囲で能力 ・努力 を投入す る。 要す るに,March=Simon流 にい うな らば,プ ロフェ ッシ ョナル と仕事 と の関係 は最適基準,組 織 との関係 は満足基準によって支配 されていることを意 味す る。 これが 「プロフェ ッショナル ・モデル」(あるいは 「仕事人モデル」)で ある。一方,仕 事 よ りも組織への コ ミッ トメン トが強 く所属組織の内部 で主要 な欲求 を充足す る 「組織人」は,組 織 との間で最適基準による交換関係 を築 く (組織人モデル)。第 1図 はこれ を対比 して示 した ものである。 全 国の主要大企業60社に勤務す るホワイ トカラー700名 (課長以上 の役職者 は除 く)を 対象に して,筆 者が1994年に実施 した調査の分析 によると,技 術系 の専 門職すなわち研究職,情 報処理技術者,そ れに営業 ・マーケティング,財 務 。経理 といった事務系の専 門的職種 の態度や行動様式は,組 織人モデル よ り もプ ロフェ ッシ ョナル ・モデルに近 いこ とが判明 した。 しか も,で きるならい っそ うプ ロフェッショナル ・モデルに近づ きたい とい う志向をもっていること も明 らかになった。 さらにインタビューに よると,比 較的規模 の大 きな組織に 属す る経営 コンサル タン ト, コ ピー ライター, ジャーナ リス トなどにも上述の 9 ) た とえば K o r n h a u s e r ( 1 9 6 2 ) ; V o n G l i n o w ( 1 9 8 3 ) i R a e l i n ( 1 9 8 5 ) などを参照。 1 0 ) 大 田 ( 1 9 9 4 b ) 。プロフェッショナルとインフラ型組織 第 1 図 組 織 人 モ デ ル とプ ロ フ ェ ッシ ョナ ル ・モ デル 組織人 モデル 最大 限の貢献 組 織 ︵仕 事 ︶ 〔最適基準〕 高次欲求お よび低次欲 求 の充足 プ ロフェッシ ョナル ・モデル 必要 な範囲での貢献 〔満足基準〕 高次欲求充足の条件 の 獲得 お よび低次欲求 の 充足 最大限の貢献 〔最適基準〕 高次欲求 の充足 専 門 家 社 会 (大 田,1994,35,40頁 )
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職種 と類似した傾向がうかがえた。
IH イ ンフラ型組織 1.有 機的組織 とその限界 プ ロフェッショナルが能力 を発揮 し, また企業がそれ を活用 して利益 に結び つけてい くためには,組 織の 目的 とプロフェッショナル個人の 目的 を統合 しな ければならない。 組 織 と個 人の統合 に関す る代 表 的 な理 論 として,Argyris(1957;1964), McGregor(1960),Likert(1961;1967)な ど,い わゆる 「新 人間関係学派」 に よる研究があげ られ る。それ らに共通す るのは,統 合 についてのつ ぎのよう な考 え方である。 人間は,本来 もっている能力 を最大限に発揮 し成長す ることを望んでいる(自 己実現人仮 説)。 しか し,職 務 が細分化 され,権 限や責任が固定的な官僚制組 織 では,個 人の能力 を十分 に活かす ことはで きない。個人が能力 を発揮 して成 長 し, 自己実現や達成 を遂げてい くためには,組 織全体 と密接に関係す る重要 な仕事 に従事 し,全 体 の意思決定に参加 で きること,な らびに大 きな責任 と権 限 を与 えられ ることが必要 である。 それによって個 人は満足が得 られ,同 時に 組織は最大限の貢献 を引 き出す ことがで きる。 この ような統合 の枠組み を,筆 者は 「直接統合」 と読んでいる。直接統合 に おいては,個 人が協働 に参加 した時″点で,組 織の 目的 を自己の仕事上の 目的 と して受け入れている。 そ して,直 接統合 の もとでは,有 機的組織が理想 とされ る。すなわち,全 体 と部分の相互作用,豊 富なコ ミュニケー ション,権 限の委譲,柔 軟 な職務形態 などが重視 され る。 一方,有 機的組織 と対照的な官僚制組織 (あるいは機械的組織)は , とくに プ ロフェッショナル (ここでは伝統的なプロフェッショナルが念頭に置かれて いる)に は適合 しない もの と考 えられて きた。 また,そ れを裏付けるような実プロフェッショナルとインフラ型組織 51 証研究 もある。 それ らの研究では官僚制の諸特徴の うち, と くに集権性,公 式 性,非 人格性が,プ ロフェッショナル としての 自律的な活動に とって障害にな るとい うことに焦点が当て られている。 しか し筆者は,Weberが 掲 げ る官僚制の特徴 の うち とくに専 門性,そ れに 個人の 自由や権 限 を制度的に保障す る 「立憲的な側面」については,む しろプ ロフェッショナルに とって重要 であるとい うことを理論的 ・実証的に明 らかに した。 もっとも実際には,制 度やルールが逆に個 人の 自律性 を束縛す る方向に 転化す る可能性 をもつ こ とは事実 であ り,赤 岡氏はそれが どちらに働 くかは労 使 の交渉力に依存す ると主張す る。 ただ,少 な くとも官僚制には,組 織か らの ア ドホックな要請か らプ ロフェッショナル としての個人 を保護す る面があるこ とは否定で きないであろう。 一方有機的組織については,新 人間関係学派に代表されるように肯定的な評 価が 多いに もかかわ らず,そ れはプ ロフェッシ ョナルに とってネガティブな側 面 も合 わせ持 っている。 とくに, 日本的経営の もとで広 くみ られ るごとく,組 織主導で 「有機化」が行 われた場合,プ ロフェッショナルの活動 を妨げる恐れ がある。 有機 的組織は,全 体 と部分 の利害一致 を前提に したコミッ トメン トを要求す るが,前 述 したようにプロフェッショナルは,所 属組織に対 して限定的,手 段 的に関与 しようとす る。 したが って,前 掲の ような有機的組織の諸特徴は,プ ロフェッショナル個人に とって魅力に乏 しいばか りか,場 合 によっては専 門の 仕事 を遂行す るうえで妨 げになることがある。一般に 日本の組織では,専 門の 仕事 を遂行す ることに対す る立憲的な保障が不十分 なため,組 織主導の もとで はこの ようなマイナス面が顕在化 しやすいのである。 1 1 ) S c o t t ( 1 9 6 5 ) ; H a l l ( 1 9 6 8 ) . 12)大 田 (1993)。 13)た とえ│ゴRaelin(1985)p.56を参 照 。 14)赤 岡 (1997)。 15)詳 し くは大 田 (1996a)を参 照 。
52 彦 根論叢 第 312号 要す るに,官 僚制組織,有 機的組織 とも長所 とともに軽視 できない短所 を抱 えてお り,そ の ままではプロフェッショナルに適合す るとはいいがたい。 した が って,新 しい形態の組織が設計 されなければならないのである。 2.イ ンフラ型組織の特徴 前述 したように,プ ロフェッショナルの場合,組 織の 目的 と個人の 目的は常 に一致す るとは限 らない。 また,能 力 を発揮す る場所は,必 ず しも組織の内部 に限定 されない。そこで必要 になるのは,つ ぎのような統合の枠組みである。 個 人が専 門の仕事 の うえで能力 を発揮 して,市 場 その他 の社会的要求に直接 応 えてい く。 そこか ら得 られ る有形無形の報酬によって個 人の 目的 を達成 し, また組織の利益 に も貢献す る。 これが 「間接統合」の枠組みである。問接統合 の もとでは,組 織 目的 とは必ず しも一致 しない 自己の仕事上の 目的 を追求す る こ とが一定の範囲で容認 され る。 ただ し,仕 事 の成果 をとお して組織の利益 に 貢献 してい くことが絶対条件 である。 全 国の主要企業947社 とホワイ トカラー700名を対象に,筆 者が1993∼94年に 実施 した調査 の分析 によると,技 術系専 門職,事 務系専 門的職種 の双方におい て,直 接統合 よ り間接統合 の もとで組織の成果,個 人の満足度 とも有意に高い とい う結果が得 られた。 前述の定義によるプロフェッショナル的な職種のなかで も,た とえば研究職 は,伝 統的なプロフェッショナルの要件 をほぼ備 えている。そ して,個 人の仕 事が組織の成果 に結 びつ くプ ロセスは迂回的である。一方,経 営 コンサルタン トな どは,専 門家団体 が未発達 であ り,ま たその多 くが Etzloniのい う専 門職 組織で働 くため,組 織成果 との結びつ きは直接的である。 したがって間接統合 の具体的なプ ロセスには職種間で差異がある。 しか し前述 したように,組 織 ・仕事 に対 してプロフェッショナル ・モデルの ような関わ り方 をす る (しようとしている)傾 向が多 くの職種 に共通 してみ ら 1 6 ) 太 田 ( 1 9 9 4 b ) ( 1 9 9 5 ) 。
プロフェッショナルとインフラ型組織 5 3 れる。そこから推論するならば,プ ロフェッショナルに共通 して求められてい るのはつ ぎのような特徴 を備えた組織である。 彼 らは,組 織に対 して限定的,手 段的に関わろうとしている。 したがって, 組織への強いコミットメン トが要求されないことが重要である。そして,組 織 全体,す なわち自分の仕事に関係する範囲を超える意思決定に対 して参加する ことが強制 されてはならない。 また,彼 らの能力は外部汎用性 をもつため, より有利な条件 を求めて組織を 移 ることもあ り得 る。 したがって移動の際の障害が少ない,オ ープンな組織で あることが望 ましい。 くわえて,官 僚制組織のひとつの特徴でもある立憲的保障が重要である。具 体的には,プ ロフェッショナル として専門の仕事に従事 し続けることや, 自分 の仕事 を行 ううえで必要な権限 。自律性などが制度 として保障されていること である。さらに,施 設 ・設備や資金など仕事 を支援するハー ド面,な らびに情 報その他 ソフ ト面の条件が備わっていることも重要である。 これらの特徴か ら明らかなように,こ こで理想 とされているのは,個 人を内 部に取 り込むのではな く(limited involvement),個人の活動 をサポー トする ような組織である。その役割は,社 会的なインフラス トラクチャーのイメージ に近 い。 したが って,こ の ような特徴 を備 えた組織 を 「インフラ型組織」 (infrastructural organization)と呼ぶことができよう (第2図 )。 IV 研 究職 と事務職 の比較分析 1.分 析方法 以上の ように,企 業内プロフェッショナルは他 の一般的なホワイ トカラー と 比較す ると,イ ンフラ型組織に対す る指向が強 く,逆 に有機的組織への指向は 弱い と考 えられ る。 この仮説 を検証す るため,職 業 ・仕事 の性格の うえで もまた数の うえで も, 企業内プロフェッショナルの代表的な職種 である研究職 と,最 も一般的なホワ
54 彦 根論叢 第 312号 第 2 図 イ メージ と しての イ ンフラ型組織 官僚制組織 有機 的組織 イ ンフラ型組織 ○ ―○一-0-○ ―O ※ ○ は個人,実 線は組織,点 線はコミュニケーションを表す。 (大 田1997, 157頁 ) イ トカ ラー で あ る事 務 職 を取 り上 げ て 比 較 す る こ とに し た 。 調査 は,研 究開発部 門を有す る大手製造業 8社 に勤務す る研究職180名,事 務職170名の計350名を対象に,1997年 10月に実施 した。 なお,学 歴や職位の差 が もたらす影響 をで きる限 り排除す るため,両 職種 とも,大 卒以上でかつ課長 レベ ルに達 していない者 を対象 とした。 調査票は職制 をとお して配布 し,回 答後は各 自で密封 ・投函 させ 回収 した。 なお,調 査票の配布 に際 しては標本の抽出方法によるバ イアスが生 じないよう に注意 し,回 答は無記名かつ任意で行 われた。 質問項 目は,い ずれ も先験的に有機的組織,イ ンフラ型組織 それぞれの特徴 として導 き出された ものであ り,12項 目の質問に 「極めて重要」か ら 「全 く重 要 でない」の 7点 尺度上 で回答 を求めた。 有効 回答数 は計283,有 効 回答率 は80。9%で あった。 性別 では,研 究職が男性 :86.4%,女 性 :13.6%,事 務職が男性 :82.3%, 女性 :17.7%で ある。 なおいずれの項 目への回答 に も,男 女間で顕著 な差はみ
プ ロフェ ッシ ョナル とインフラ型組織 られ なか った。 2.結 果 回答はまず,因 子分析 にかけ られた。第 1表 がその結果である。固有値が 1 以上の因子の数 は 4で あ り,第 1因 子∼第 4因 子はそれぞれ,「 個 と全体 の一 体化」,「保障 と支援」,「相互作用 とコ ミュニケー ション」,「組織 と距離 を置い た関係」 を表す因子 と解釈 され る。 これ らの うち,第 1因 子は組織 と個 人の間での,第 3因 子は水平方向におけ る密接 な関係 を意味 してお り, ともに有機的組織の特徴 を表す因子である。一 方,第 2因 子 と第 4因 子はインフラ型組織の特徴 に関係 してお り,前 者はその 積極的な側面,後 者は消極的な側面 を表す。 したが って,第 1因 子 と第 3因 子 の因子得点が高いほ ど有機的組織 を指向 し,第 2因 子 と第 4因 子の得点が高い ほ どインフラ型組織 を指向す る傾 向が強い とい うことができる。 表か ら明 らかなように,各 因子の負荷量が高い項 目は,ほ ぼ当初の予想 どお りである。 ただ,第 3因 子の負荷量が高い 「組織内外の労働力移動が比較的オ ープンである」の項 目は,有 機的組織の特徴である垣根のない柔軟な組織形態 と,イ ンフラ型組織の特徴 である労働市場への開放性の両方に解釈が分かれた 可能性がある。 つ ぎに,各 因子得点の平均値 を職種間で比較 した。第 2表 はその結果である。 第 1因 子は事務職,第 2因 子は研究職の方が有意に高 く,予 想 どお りの結果 と なってい る。 また,第 3因 子 と第 4因 子は,両 職種間に有意な差はない ものの 傾 向 としては予想 どお りである。 V 考 察 プ ロフェ ッシ ョナル に関す る先行研 究 の 多 くが研究職 や 開発職 を対象 に して い るこ とに よって示 され るよ うに,研 究職 は企業 内プ ロフェ ッシ ョナルの代表 的 な職種 であ る。 これ に対 して一般事務職 は,専 門性 が低 い こ と,外 部 に準拠 集 団 を もつ者 が少 ない こ とな どの特徴 か ら,典 型的 な ノン ・プ ロフェ ッシ ョナ
56 彦 根論議 第 312号 第 1表 組 織 の 特 徴 につ い て の 重 視 度 (因子 負 荷 ■ ) n = 2 8 3 注 :(1)因子 は固有値 が 1以 上 の もの であ る。 12)因子負荷 量 はバ リマ ックス回転後 の ものであ る。 僧)下線 は因子負荷 量 の絶対値 が0.3以上 の ものであ る。 因 子 1 2 3 4 固有値 2.15 1.85 1.33 1.25 累積 寄与率 (%) 17.9 33.4 44.4 54.8 1.会 社全体 に関係す る業務 に携 わ り,貢 献 で .80 .13 -.00 .08 きる 2.個 人の仕事 は会社全体 の状況 と密接 に関係 .75 .05 。 13 -。 11 してい る 3.組 織 に対す る強い一体化 は要求 されない 一 。10 .24 -.11 .58 4.自 分 の仕事 に関係す る範囲での発 言力は維 持 され て い るが,会 社 全体 の 意 思 決 定 に参 .12 .02 -.06 .74 加 す るこ とは強制 され ない 5.組 織 内外 の労働 力移動が比較的 オープ ンで 一 .21 .02 .41 .56 あ る 6.専 門の仕事 に従事 し続け るこ とが保障 され ― .04 。 63 -.16 .29 てい る 7.責 任 の範囲は限定 されていない (広い) .03 -.17 .54 .30 8.個 々の仕事 は他 の仕事 と相互 に関係 してい 。 14 .03 ,73 -.21 る 9.社 内の コ ミュニケー シ ョンが頻繁 であ る .14 。 34 .70 -.07 10。 自分 の仕事 を行 ううえでの権 限 ・自律性が .09 。 63 .12 .19 保 障 されてい る 11.会 社全体 に対 して忠誠心 をもつ 。 70 -.09 .08 -,03 12.仕 事 を支援す るハー ド面 (施設 ・設備 な ど), な らび に ソ フ ト面 (情報 な ど)の 条件 が 十 .01 .79 .12 -.17 分 に備 わ ってい る
プロフェッショナルとインフラ型組織 5 7 第 2表 重 視 度 の職 種 別 比 較 (因子 得 点 の 平 均値 ) 因 子 職 種 個 と全体 の一 保 障 と支援 タト化 ( 第 1 因 子) ( 第 2 因 子) 相互作用とコミ 組 織 と距離 を ュニケーション 置 いた関係 ( 第3 因 子) ( 第 4 因 子) 研 究職 ( n = 1 7 0 ) 事 務 職 ( n = 1 1 3 ) 一.091 .096 -.048 .048 .119 -.121 .067 -.077 注 i*は ,両 職種の間に p<.1(t分 布両側検定)で 有意差があることを示す。 ル といえ る。実 際 に筆 者が行 った研 究 で も,そ の態度や行動 にはプ ロフェ ッシ ョナル としての特徴 はみ られ ない。 分析 の結果,研 究職 は一般事務 職 に比較 す る と,イ ンフ ラ型組織の特徴 であ る側 面 を重視 し,逆 に有機 的組織 の特徴 であ る側 面 を重視 しない傾 向が明 らか に な った。 す なわ ち,こ れ は前述 の仮 説 を裏付 け るものであ る。 ただ し,第 3, 第 4因 子 では両職種 間に有 意差 が表れ なか った。 これにつ いては,つ ぎの よう に解釈 す るこ とが で きよ う。 本来,重 視度 を比較す るには,現 状 におけ る充足度 を一定に してお くことが 望 ましい。充足度が重視度に影響す る可能性があるか らである。 一般に,大 企業の研究所で働 く研究職の場合,施 設,設 備,資 金,情 報など は比較的充実 してお り,職 種,権 限 ・自律性 なども一応保障されていることが 多い。言い換 えれば,現 状がある程度 インフラ型組織に近いのである。 したが って,そ の ような現状 をいわば当た り前のこととして受け とめているため,あ えて 「重視 している」 と回答 しなか ったのではなかろうか。一方,一 般事務職 の場合,そ れ らの条件が必ず しも整 っているとはいいがたい。 とくに組織の末 端近 くに位置す る者は,資 金 その他 の裁量権 も乏 しく, また人事のローテー シ 1 7 ) 大 田 ( 1 9 9 4 b ) 。
彦根論議 第 312号 ョンによって職種や配属 は短期 間で変わることが多い。 要す るに,研 究職 と一般事務職 とでは客観的な充足度に大 きな格差があ り, 理想 とす る客観的な水準に もかな り開 きがあるか もしれないのである。すなわ ち,回 答に表れた主観的な 「重視度」は,実 際に理想 としている客観的水準の 格差 よ りもガヽさ くなる可能性がある。 しか し,こ のように論理的に考 えられ るバ イアスの方向は,今 回の分析 で表 れた傾 向をよ り増幅 させ るものであってその逆ではない。 それは,イ ンタビュ ー など定性的調査の結果 ともほぼ符合す る。 VI む すぴ プ ロフェッシ ョナルは,一 般 の労働者 とは違 った価値観や志向を有す る。そ して,組 織 ・仕事 に対す る関わ り方 も独特 である。 したがって,プ ロフェッシ ョナル と組織 を統合す るためには,彼 らを主たる対象に していない伝統的な理 論 とは異なった枠組み を必要 とす る。 そ して,適 合す る組織の形態 もまた違 って くるはずである。プロフェッショ ナルには,伝 統的な理論が理想 とす るような有機的組織 よ りも,イ ンフラ型の 組織が適合す ると考 えられ,実 際に彼 らはその ような組織 を志向す る傾 向のあ るこ とが明 らかになった。 最初 に述べ たように,彼 らの能力 を引 き出 し革新的 ・創造的な成果に結びつ けてい くために も,こ の ようなプロフェッショナル個人の指向を尊重す る必要 がある。 そ して,か りにモチベー ションを一定 と仮定 して も,複 雑 で専 門化 した顧客 や社会の要求に応えるためには,組 織による環境適応 よ りも個人による環境適 応の方が有効 な場合がある。現に, コンサルタン ト会社や会計士事務所のよう な専 門職組織では,個 人による環境適応が行 われている。 そ して組織の形態は 18)た とえば村上 (1994)の経営 コンサルティング企業 を対象に した研究で も, と くにアメ リ カ型の企業 は,知 的刺激,情 報収集 といったインフラス トラクチャーの役割 を果た してい るこ とが報告 されている。
プ ロフェ ッショナル とインフラ型組織 5 9 1 8 ) インフラ型に近 い。大企業の研究所 などは,主 として労使関係や制度上の理由 か ら極端 な形態 を採用 していないケースが多い ものの,専 門機能の別会社化, 契約社員,ア ウ トソー シングを利用 した場合 には急速にインフラ型に近づ いて いることをみ ると,条 件 さえ整 えばインフラ型がいっそ う普及す る可能性が高 レヽ。 もちろん組織 としては,こ の ような条件 を提供す る一方で,厳 格 な成果主義 ( 必ず しも短期 的成果, 金 銭的成果 を意味 しない) や , 場 合 に よっては有期契 約制 などのチェック ・システムを導入す ることが必要になるか もしれない。 こ れ らの点については別の機会 に論 じることに したい。 主要参考文献
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本 稿 は ,平 成 8∼ 9年 度 文 部 省 科 学 研 究 費 補 助 金 (萌芽 的 研 究 )を 受 け て行 っ た研 究 成 果 の一部 で あ る。