自律的な判断へ
著者 鏡 圭佑
雑誌名 同志社政策科学院生論集
巻 5
ページ 11‑25
発行年 2016‑03‑10
権利 同志社大学政策学部・総合政策科学研究科政策学会
URL http://doi.org/10.14988/pa.2017.0000014411
日本における公務員倫理の課題
―法令の遵守から自律的な判断へ―
鏡 圭 佑
概 要
本稿の目的は、日本の行政における広義の公 務員倫理の導入に向けた議論を進めることであ る。広義の公務員倫理とは、公務員が自律的に 行う倫理的な行為である。国家公務員倫理審査 会では広義の公務員倫理の促進が重視されてい るが、その導入に向けた議論は進んでいない。
そこで、本稿では広義の公務員倫理の導入に 関する二つの問いを検討した。第一の問いは
「広
義の公務員倫理の導入に必要となる組織的な方 針とは何か」であり、第二の問いは「広義の公 務員倫理の導入によってどのような成果が期待 できるのか」である。二つの問いを検討するため、本稿では法令遵 守アプローチおよび価値に基づくアプローチと いうモデルを用いた。法令遵守アプローチは、
公務員の非倫理的な行為を防止する組織的な方 針を表す。価値に基づくアプローチは、公務員 の倫理的な行為を促進する組織的な方針を表 す。現行の日本の公務員倫理制度は前者に、広 義の公務員倫理は後者に基づいている。
第一の問いに関しては、価値に基づくアプ ローチに含まれる行為の基準、研修、報酬が広 義の公務員倫理の導入に必要であることを確認 した。そして、現行の日本の公務員倫理制度に おける取り組みの不十分さを指摘した。
第二の問いに関しては、法令遵守アプローチ の限界に対する価値に基づくアプローチの補完 の関係を参考にした。本稿では広義の公務員倫 理の成果として現行の公務員倫理制度の限界が
補完される可能性を指摘した。
1.はじめに
本稿の目的は、日本の行政における広義の公 務員倫理の導入に向けた議論を進めることにあ る。この目的のために、本稿では広義の公務員 倫理を導入する際に明らかにする必要がある二 つの問いを検討する。すなわち、本稿では「広 義の公務員倫理の導入に必要となる組織的な方 針とは何か」「広義の公務員倫理の導入によっ てどのような成果が期待できるのか」という問 いを検討する。
この目的のために、本稿では法令遵守アプ ロ ー チ(compliance-based approach)お よ び 価 値に基づくアプローチ1
(value-based approach)
というモデルを用いる。法令遵守アプローチは、
公務員による非倫理的な行為の防止を目的とす る方針を表す。価値に基づくアプローチは、公 務員による倫理的な行為の促進を目的とする方 針を表す。本稿ではこれらのモデルを用いるこ とで上述の二つの問いを検討する。
日本の中央政府では 1999 年の国家公務員倫 理法の制定以来、法令遵守アプローチに基づい て公務員の倫理を確保する方針がとられてき た。国家公務員倫理法の目的は第一条で示され ている通り、公務員による非倫理的な行為の防 止である。この法律の目的を実現するために
、
国家公務員倫理審査会と各省庁は法令遵守アプ ローチに基づく公務員への研修の実施、および1 価値に基づくアプローチは清廉性アプローチ(integrity-based approach)と呼ばれることもある。しかし、本稿では価値に基づくアプロー
チという名称を用いる。この理由は、“integrity”という言葉に含まれる多義性がもたらす曖昧さを避けるためである。
非倫理的な行為への罰則に取り組んできた。
国家公務員倫理審査会では、この方針では狭 義の公務員倫理しか確保できないという限界が 認識され始めている。狭義の公務員倫理とは国 家公務員倫理法で規定される「やらなくてはい けない」あるいは「やってはいけない」行為で ある2
。
実際に、「平成21
年度版 国家公務員白書」において、狭義の公務員倫理を周知徹底するだ けでは公務員の倫理を十分に確保できないこと が示されている3
。
この限界に対する解決策として、国家公務員 倫理審査会では広義の公務員倫理の導入が考え られている。広義の公務員倫理とは、公務員と しての姿勢や心構えから導き出される公務員と して「やった方がよい」行為である。国家公務 員倫理審査会では、公務員の自律的な判断に基 づく広義の公務員倫理を促進することで法令の 遵守に基づく狭義の公務員倫理の限界を補完す る解決策が考えられている。
しかし、国家公務員倫理審査会では広義の公 務員倫理に関する以下の二つの問いが検討され ていない。第一に、「広義の公務員倫理を導入す るためにどのような組織的な方針が必要となる のか」が検討されていない。第二に、「広義の公 務員倫理の導入によって狭義の公務員倫理の限 界がどのように補完されるのか」が検討されて いない。第二の問いは広義の公務員倫理の成果 に関係している。これらの基本的な問いを明ら かにしない限り、広義の公務員倫理の導入に向 けた具体的な議論を進めることができない。
そこで、本稿では法令遵守アプローチおよび 価値に基づくアプローチを用いて、二つの問い を検討する。第一の問いに答えるため、価値に 基づくアプローチに含まれる組織的な方針を参 考にする。広義の公務員倫理を導入するために は、行政組織は公務員の倫理的な行為を促進す る方針を採用する必要がある。価値に基づくア プローチは、公務員の倫理的な行為を促進する ための組織的な方針を包括的に示す。したがっ て、価値に基づくアプローチを参考にすること
で広義の公務員倫理の導入に必要となる組織的 な方針が明らかとなる。
第二の問いに答えるため、法令遵守アプロー チの限界と価値に基づくアプローチによる補完 の関係を理論的に検討する。この検討の結果を 参考にして、広義の公務員倫理によって狭義の 公務員倫理の限界がどのように補完されるのか を明らかにする。
法令遵守アプローチおよび価値に基づくアプ ローチの観点から日本の公務員倫理制度を論じ た先行研究は存在するが、上述の二つの問いは 検討されていない。たとえば、工藤裕子(Kudo,
H.)は日本の公務員倫理制度に清廉性アプロー
チを導入する必要性を主張する(Kudo, 2011)4。
同様に、阿久澤徹もバリュー志向施策の導入の 必要性を主張する(阿久澤,2014)5。しかし、
これらの研究は価値に基づくアプローチの導入 に必要となる組織的な方針を示していない。さ らに、法令遵守アプローチにどのような限界が 存在するのか、その限界は価値に基づくアプ ローチによってどのように補完されるのかが説 明されていない。
本稿では、以下の構成に基づいて二つの問い に対する答えを導出する。第二節では、法令遵 守アプローチおよび価値に基づくアプローチを 概観する。第三節では法令遵守アプローチの限 界を指摘し、価値に基づくアプローチがそれら の限界をどのように補完できるのかを理論的に 検討する。第四節ではこれまでの検討を踏まえ て、日本の公務員倫理制度が法令遵守アプロー チに基づいている点を確認し、広義の公務員倫 理の導入に必要となる組織的な方針およびその 実現から期待される成果を考察する。
2.法令遵守アプローチと価値に基づく アプローチ
法令遵守アプローチおよび価値に基づくアプ ローチは、組織が従業員の倫理を確保する方針
2国家公務員倫理審査会「研修教材パッケージ『公務員倫理』指導の手引」 http://www.jinji.go.jp/rinri/kensyu/tebiki22.pdf(2015年12月27 日閲覧)。なお、後述の広義の公務員倫理の定義もこの資料を参照にしている。
3 人事院「平成21年度版 国家公務員白書」http://ssl.jinji.go.jp/hakusho/h21/006.html(2015年12月27日閲覧)。
4 脚注1で指摘したように、清廉性アプローチは価値に基づくアプローチと同義である。
5 阿久澤は行政組織が公務員の倫理を確保する方針をルール志向施策およびバリュー志向施策に分類する。阿久澤の説明から、ルール志
向施策は法令遵守アプローチと同義であり、バリュー志向施策は価値に基づくアプローチと同義であることが分かる(阿久澤,2014,
39頁)。
を示すモデルである。これらのモデルは、ペイ ン(Paine, L. S.)によって考案された(Paine,
1994)。ペインはこれらのモデルを用いて民間
企業における従業員の倫理を確保する方針を分 析した。OECD は、これらのモデルを用いてい くつかの加盟国の政府における公務員の倫理 を確保する方針を分類する報告書を作成した(OECD, 1996; 2000)。 OECD の報告書が普及す
ることで、行政倫理研究でもこれらのモデルが 着目されるようになった。行政倫理研究では行政組織が公務員の倫理を 確保する方針を分析するために、法令遵守アプ ローチおよび価値に基づくアプローチが用いら れてきた6
。行政倫理研究とは、公務員の倫理
的な行為の実現を目標とする学問領域である。この関心の下で、行政組織は公務員の倫理を確 保する主体として位置づけられる。主体として の行政組織は、特定の政策領域を所掌する行政 組織および政府全体の公務員の倫理の確保を所 掌する行政組織に分類できる。行政組織による 公務員の倫理を確保する方針を分析するため に、これらのモデルが用いられてきた7
。
以下では、行政倫理研究における法令遵守ア プローチおよび価値に基づくアプローチの内容 を概観する。本稿ではそれぞれのモデルを目的、公務員に提示する行為の基準、公務員への研 修、公務員に求められる責任、公務員の責任を 確保するための手段、および行政組織が前提と する公務員像という観点から説明する(表
1
を 参照)。2. 1 法令遵守アプローチ
法令遵守アプローチの目的は、公務員による 非倫理的な行為の防止である。この目的のため に、行政組織は非倫理的な行為が規定された行 為の基準を制定する。行為の基準を公務員に遵 守させる手段には、研修および罰則がある。研 修では行為の基準の内容が周知徹底され、非倫 理的な行為には罰則が科せられる。このような 組織的な取り組みの下で、公務員には行為の基 準に対する他律的な責任が求められる。公務員 に他律的な責任が課される理由は、法令遵守ア プローチが公務員性悪説を前提とするためであ る。
公務員に対する行為の基準では、非倫理的な 行為として利益相反の禁止が規定される。一般 的に、非倫理的な行為とは公務員が自らに付与 された権限を私的な利益の追求に用いていると 疑われる行為を意味する(Cooper, 2012, p.116)。
公的な権限を私的な目的のために利用する行為 は、利益相反(conflict of interest)と呼ばれる。
したがって、法令遵守アプローチにおける行為 の基準では利益相反が疑われる行為が特定され る。具体的には、公務員が特定の利害関係者と の不適切な関係から私的な利益を得ていること が疑われる行為、および自らの権限の濫用に よって私的な利益を得ていることが疑われる行 為が非倫理的な行為として特定される。
行為の基準の具体例として、倫理法があげら れる。倫理法は、公務員の利益相反によって低
6 行政倫理研究では、これらのモデルに類似したモデルが考案されてきた。たとえば、ロアー(Rohr, J. A.)は低い道(low road)および
高い道(high road)のモデルを考案した(Rohr, 1989)。また、クーパー(Cooper, T. L.)は外的統制(external control)および内的統制(internal control)のモデルを考案した(Cooper, 2012)。これらのモデルでも行政組織による公務員の倫理を確保する方針が示されている。
本稿が法令遵守アプローチおよび価値に基づくアプローチを用いる理由は、これらのモデルが行政組織による方針を包括的に示してい る点にある。実際に、ロアーおよびクーパーのモデルは行為の基準および研修にしか焦点を当てておらず、包括性に欠けている。
7 たとえば、ロバーツ(Roberts, R.)はアメリカの連邦政府において法令遵守アプローチが強化される過程を分析した(Roberts, 2009)。また、
ヘイウッド(Heywood, P. M.)はイギリスの中央政府における公務員倫理制度を法令遵守アプローチおよび価値に基づくアプローチから 分析した(Heywood, 2012)。そして、フックストラ(Hoekstra, A.)らは、オランダの中央政府において価値に基づくアプローチが導入 される過程を分析した(Hoekstra et. al., 2008)。
法令遵守アプローチ 価値に基づくアプローチ 目 的 公務員の非倫理的な行為の防止 公務員の倫理的な行為の促進
行為の基準 非倫理的な行為の特定 倫理的な価値の特定
研 修 基準の内容の周知徹底 倫理的な能力の向上
公務員の責任 他律的な責任 自律的な責任
責任確保の手段 非倫理的な行為への罰則 倫理的な行為への報酬
公務員像 公務員性悪説 公務員性善説
表 1 法令遵守アプローチと価値に基づくアプローチ(筆者作成)
下した市民の信頼を回復するための手段であ る8
。したがって、倫理法では利益相反である
と疑われる公務員の行為が禁止される。実際に、一般的な倫理法では利益相反が疑われるさまざ まな状況が特定され、それらの行為に対する罰 則が規定される。さらに、一部の公務員には資 産の公開、利害関係者との接触における報告書 の提出が義務付けられる。また、倫理法では非 倫理的な行為の防止を執行させるために、政府 全体の公務員の倫理を所掌する行政組織の設置 が規定されている。この行政組織は、他の行政 組織との協調の下で倫理法の規定を運用する。
研修では、行為の基準を遵守して職務を遂行 する能力の向上が目的となる。この目的のため に、行為の基準の正確な理解および行為の基準 に対する遵守の意識を向上させる研修手法が重 視される(Hejka-Ekins, 2001, p. 83)。代表的な 手法としては、講義および事例研究がある。講 義では、行為の基準の内容が公務員に解説され る。また、事例研究ではさまざまな事例におけ る特定の判断が行為の基準に抵触するか否かを 公務員に検討させる。こうした研修を通じて、
非倫理的な行為への関与を避ける能力の向上が 目指される。
このような組織的な取り組みの下で、公務員 には行為の基準を遵守する他律的な責任が求め られる。法令遵守アプローチにおける行為の基 準は、公務員がどのような状況においても関与 してはならない非倫理的な行為を示す。したがっ て、公務員は事前に定められた行為の基準を遵 守しながら職務を遂行しなければならない。こ の点において、公務員には他律的な責任が求め られる。さらに、行為の基準の違反を疑われた 公務員には、自らの行為を弁明する責任が発生 する。この弁明の妥当性は、その公務員が所属 する行政組織および政府全体の公務員の倫理を 所掌する行政組織によって判断される。このよ うに、公務員には行為の基準を遵守し、非倫理 的であると疑われる行為をした場合には行政組 織に弁明する他律的な責任が求められる9
。
公務員の他律的な責任を維持するために、行 政組織は非倫理的に行為した公務員に罰則を科 す。具体的な罰則としては、懲戒処分がある。
一般的に、法令遵守アプローチにおける行為の 基準では非倫理的な行為に対する罰則が規定さ れている。たとえば、日本の国家公務員倫理法 ではそれぞれの違反行為に対する戒告から免職 に至るまでの罰則が存在する。これらの罰則の 存在は、非倫理的な行為による損失を公務員に 認識させる機会となる。したがって、行政組織 は罰則を通じて公務員による非倫理的な行為の 防止に対する実行力を担保できる。
以上のような法令遵守アプローチでは、公務 員性悪説が前提となる10
。公務員性悪説とは、
公務員は私的な利益の追求のために公的な権限 を濫用すると考える立場を指す。この観点にお いて、公務員の裁量は利益相反の発生につなが る危険性を有する。したがって、法令遵守アプ ローチにおいて、行政組織は公務員が裁量を行 使する際に利益相反につながる選択肢を行為の 基準を通じて制限する。さらに、行政組織は研 修および罰則によって公務員に行為の基準を遵 守させようとする。以上のように、法令遵守ア プローチとは公務員性悪説という前提に基づい て公務員の非倫理的な行為の防止を目的とする 組織的な方針を包括的に表すモデルである。
2. 2 価値に基づくアプローチ
価値に基づくアプローチの目的は、公務員に よる倫理的な行為の促進である。この目的のた めに、行政組織は実現すべき価値を示した行為 の基準を制定する。行為の基準で示される価値 を公務員に実現させる手段には、研修および報 酬がある。研修では公務員の倫理的な能力の向 上が目指され、倫理的に行為した公務員には報 酬が与えられる。これらの組織的な取り組みの 下で、公務員には行為の基準で示される価値を 実現する自律的な責任が求められる。公務員に 自律的な責任が課される理由は、価値に基づく
8 たとえば、アメリカの政府倫理法が制定された背景にはウォーターゲート事件を代表とする1970年代に続発した公務員の不祥事がある
(Plant, 2001, p. 309)。また、日本における国家公務員倫理法が制定された背景にも1990年代に続発した公務員の利益相反がある(原田, 1999, 25-30頁)。
9公務員が基準を遵守することで確保される責任は、ファイナー(Finer, H.)が主張した他律的な統制の概念と同一である(Finer, 1936;
1940)。
10 法令遵守アプローチにおける公務員性悪説および後述する価値に基づくアプローチにおける公務員性善説という想定に関しては、フッ
クストラらの研究においても同様の指摘がなされている(Hoekstra et. al., 2008)。
アプローチが公務員性善説を前提とするためで ある。
公務員に対する行為の基準では、倫理的な行 為の指針となる価値が特定される。本稿では、
倫理的な行為とは倫理的なジレンマに適切に対 処することであると定義する。倫理的なジレン マとは、公務員に実現が求められる価値の間で トレード・オフが生じる状況を意味する11
。公
務員は職務の遂行を通じてさまざまな倫理的な ジレンマに直面する。具体的には、政策におい て特定の価値が過剰に反映されることで別の価 値が反映されていない状況、あるいは行政組織 内で重視される価値と外部の利害関係者が重視 する価値が対立する状況があげられる。公務員 がこれらの状況に対処するには、価値を選択す る際の指針が必要となる。したがって、価値に 基づくアプローチにおいて、行政組織は公務員 の倫理的な行為の指針としての価値を特定する のである。行為の基準の具体例として、倫理綱領(code
of ethics)があげられる。倫理綱領とは、特定
の専門職の間で共有されている理想的な価値 を表明した文書である(Cooper, 2012, pp. 148-149; Svara, 2015, p. 101)。たとえば、アメリカ
行政学会が制定する倫理綱領がある。この倫理 綱領で示される価値は、公共の利益の増進、憲 法と法の支持、民主的な参加の促進、社会的公 正(social equity)の強化、公選職への十分な 情報の提供と助言、個人の清廉さの実演、組織 における倫理の促進、および専門職としての卓 越さの追求である12。また、イギリス政府が制
定した公共サービスの原則(Principles of PublicService)もある
13。この倫理綱領で示される価
値は、無私、清廉さ、客観性、アカウンタビリ
ティ、開放性(openness)、誠実さ、リーダーシッ プ、個人の尊重、法の尊重および権威の正当な 行使である14
。これらの倫理綱領は、価値の簡
潔な定義とそれらの価値を実現するための行為 の指針から構成される。したがって、倫理綱領 は公務員の倫理的な行為の指針となる。研修では、公務員が職務の遂行を通じて倫理 的な行為を自律的に行うための能力の向上が目 的となる。この目的のために、公務員の倫理的 な感受性(ethical awareness)および倫理的な意 思決定(ethical decision-making)の能力の向上 が取り組まれる(Hejka-Ekins, 2001, p. 83)。公 務員の倫理的な感受性とは、自らの職務におけ る倫理的なジレンマを発見する能力である。倫 理的な意思決定とは、倫理的なジレンマに対処 するための適切な意思決定の段階を示したモデ ルである15
。倫理的な意思決定の能力は、公務
員が発見した倫理的なジレンマを倫理的な意思 決定の過程を適用することで対処する能力を意 味する。こうした研修を通じて、倫理的な行為 に必要となる能力の向上が目指される16。
このような組織的な取り組みの下で、公務員 には行為の基準で示された価値を実現する自律 的な責任が求められる。行為の基準で示される 価値は、公務員の倫理的な行為によって実現す る。さらに、倫理的なジレンマを発見した公務 員は、その問題に適切に対処することが求めら れる。この状況において行為の基準は指針しか 示すことができない。したがって、この責任が 果たされるか否かは公務員の倫理的な能力に左 右される。このように、公務員には自らの職務 における倫理的なジレンマを適切に解決する自 律的な責任が求められる17。
このような自律的な責任を維持するために、
11 クーパーはこれらの価値の具体例として効率性、有効性、経済性、実現可能性、生産性、公平、平等、自由、信頼、慈善、人間の尊厳、
プライバシーおよび民主主義をあげている(Cooper, 2012, p. 74)。
12 American Society for Public Administration “Code of Ethics 1” http://www.aspanet.org/public/ASPA/About_ASPA/Code_of_Ethics/ASPA/Resources/
Code_of_Ethics/Code_of_Ethics1.aspx?hkey=222cd7a5-3997-425a-8a12-5284f81046a8(2015年12月27日閲覧)。
13 イギリスだけではなくオーストラリア、カナダおよびニュージーランドでも中央政府が倫理綱領を制定している。これらの政府の取り
組みは、カーナガン(Kernaghan, K.)の研究において整理されている(Kernaghan, 2003)。
14 Committee on Standards in Public Life “Principles of Public Service” https://www.gov.uk/government/publications/the-7-principles-of-public-life/the- 7-principles-of-public-life--2(2015年12月27日閲覧)。
15 行政倫理研究では多くの研究者が倫理的な意思決定の段階を独自の形で分類してきた(Wittmer, 2001)。これらの多様な分類に共通して
含まれる段階は、倫理的な問題に影響を受けている集団の把握、倫理的な問題に対する複数の解決策の形成、それぞれの解決策を採用 した場合の影響の予測、および最も望ましい解決策の選択である。
16 これらの倫理的な能力を向上させるための研修手法は多様である。とくに、アメリカ行政学ではこのような研修手法の開発に取り組ま
れてきた。アメリカ行政学において開発されてきた具体的な研修手法は山谷の研究において詳しく紹介されている(山谷,1991)。
17 公務員が自律的に倫理的な行為をすることで確保される責任は、フリードリッヒ(Friedrich, C. J.)が主張した自律的な責任の概念と同
一である(Friedrich, 1935; 1940)。
行政組織は倫理的に行為した公務員に報酬を与 える。具体的な報酬としては、人事評価におけ る倫理に対する考慮および表彰がある。人事評 価での考慮に関しては、倫理的な行為に関する 評価項目を設定することが考えられる。表彰に 関しては、模範となる倫理的な行為を行った公 務員を表彰してその行為の内容を公表すること が考えられる。これらの報酬の存在は、倫理的 な行為がもたらす利益を公務員に認識させる機 会となる。したがって、行政組織は報酬によっ て倫理的な行為に対する動機づけを確保でき る。
以上のような価値に基づくアプローチでは、
公務員性善説を前提とする。公務員性善説とは、
公務員はさまざまな価値を考慮に入れたうえで 公的な権限を行使すると考える立場を指す。こ の観点において、公務員の裁量は倫理的な価値 の実現につながる可能性を有する。したがって、
価値に基づくアプローチにおいて、行政組織は 行為の基準を通じて公務員が裁量を行使する際 に考慮すべき複数の価値を提示する。さらに、
行政組織は研修および報酬を通じて公務員によ る倫理的な行為を促進しようとする。以上のよ うに、価値に基づくアプローチとは公務員性善 説という前提に基づいて公務員の倫理的な行為 の促進を目的とする組織的な方針を包括的に表 すモデルである。
3.法令遵守アプローチの限界と価値に 基づくアプローチによる補完
日本を含めた多くの政府では、公務員の倫理 を確保する方針として価値に基づくアプローチ ではなく法令遵守アプローチを導入している。
この理由として、倫理法が政府にとって採用 しやすいことが指摘されている(Cooper, 2012,
p.147)。実際に、多くの政府では法律の制定お
よび運用に基づいて公務員の行為を統制してき た。したがって、倫理法の制定および運用に基 づく法令遵守アプローチは多くの政府における 伝統的な統制の形式に近いといえる。しかし、行政倫理研究では法令遵守アプロー
チの限界および、その限界を克服する価値に基 づくアプローチの導入の必要性が指摘されてき た。この節では、行政倫理研究における先行研 究の成果を参考にして法令遵守アプローチの限 界を指摘する。そして、それらの限界が価値に 基づくアプローチによってどのように補完でき るのかを理論的に検討する。
3. 1 法令遵守アプローチの限界
法令遵守アプローチには限界が存在する。法 令遵守アプローチにおける行為の基準は、道徳 的な最低限度(moral minimum)18という形式を とる。道徳的な最低限度には、倫理の水準が矮 小化されるという限界が存在する。この行為の 基準における限界は、行政組織による研修およ び罰則を通じて公務員に内在化される。研修を 通じた内在化によって、公務員の倫理的な無能 力という問題が生じるおそれがある。さらに、
罰則を通じた内在化によって公務員が倫理に対 して消極的な態度をとるおそれがある。公務員 の政策への関与を考慮すると、これらの問題に よって政策に倫理が反映されないことが指摘で きる。
法令遵守アプローチにおける行為の基準は、
道徳的な最低限度という形式をとる。道徳的な 最低限度とは「してはならない」行為を規定す る行為の基準を意味する
(中谷 , 2014, 34-35
頁; Cooper, 2012, p.147; Menzel, 2009, pp. 3-5)。法令
遵守アプローチにおける行為の基準が道徳的な 最低限度となる理由は、その前提にある公務員 性悪説に求められる。公務員性悪説では、公務 員による裁量は利益相反の発生につながると考 えられている。したがって、法令遵守アプロー チでは公務員が裁量を行使する際に利益相反の 発生につながる選択肢が制限される。裁量にお ける選択肢を制限するためには、いかなる場合 もしてはならない行為を事前に公務員に提示し なければならない。このような理由から、法令 遵守アプローチにおいては行為の基準は道徳的 な最低限度となる。道徳的な最低限度には、倫理の水準が矮小化 されるという限界が存在する。この限界は道徳
18本稿においては、道徳と倫理を同義であるとみなす。実際に、行政倫理研究では道徳と倫理を同義とみなす先行研究も存在する。たと えば、ルイス(Lewis, C. W.)とギルマン(Gilman, S. C.)の研究があげられる(Lewis and Gilman, 2012)。
的な最低限度が「してはならない」行為を示す が、それ以外の「してもよい」行為のなかでど の行為を選択すべきかに関する指針を提示しな いことから生じる。公務員は道徳的な最低限度 を参照にして非倫理的な行為への関与を避ける ことができる。しかし、倫理的なジレンマに直 面した際に、この基準を参照にして自らが行う べき倫理的な行為を判断できない。なぜならば、
倫理的なジレンマは「してもよい」行為のなか でどの行為を選択すべきかという問題を公務員 に突きつけるからである。この指針を提示せず に「してはならない」行為のみを提示する点に おいて、道徳的な最低限度では倫理の水準が矮 小化されている。
矮小化された倫理の水準は、研修および罰則 を通じて公務員に内在化される。研修は、公務 員が道徳的な最低限度を自らに求められる倫理 として内在化する機会となる。また、罰則は公 務員が行為の基準に違反した場合に失うものを 認識させる。したがって、公務員は罰則を通じ て道徳的な最低限度の内在化を強める。この機 会は罰則の対象となる公務員だけではなく、他 の公務員にも公表等を通じて与えられる。
矮小化された倫理の水準が内在化されること で、公務員の倫理的な無能力および倫理に対す る消極的な考え方という問題が生じるおそれが ある。
第一の問題として、研修を通じた内在化に よって公務員の倫理的な無能力という問題が生 じる。公務員の倫理的な無能力とは、公務員が 自らの職務における倫理的なジレンマを発見で きない、あるいは発見できたとしても解決でき ない状態を意味する。行政倫理研究では、法令 遵守アプローチにおける研修が公務員の倫理的 な無能力をもたらすと指摘されてきた。たとえ ば、ロアーは法令遵守アプローチにおける研修 は公務員が非倫理的な行為を避けられるように することに偏重すると指摘する(Rohr, 1989, p.
63)。ここにおいて、法令遵守アプローチでは
倫理的な能力を向上させるための研修に重点が 置かれないことになる(Ibid., pp. 63-64; Geurasand Garofalo, 2011, p. 143)。このような理由か
ら、法令遵守アプローチは公務員の倫理的な無 能力を引き起こすと指摘されてきた。第二の問題として、罰則を通じた内在化に よって公務員が倫理に対して消極的な態度をと
る。法令遵守アプローチでは、行政組織は罰則 の可能性を示すことで公務員が非倫理的に行為 しないように統制する。この罰則に基づいた統 制によって、公務員が抑圧的なものとして倫 理を理解する可能性が指摘されてきた(Foster,
1981, p. 31; Svara, 2015, pp. 192-193)。具体的に
は、道徳的な最低限度を満たすならば罰則は与 えられないため、公務員が道徳的な最低限度の みを考慮するという消極的な態度をとる可能性 がある(杉本, 2013, 73-74
頁;
山谷, 1991, 180
頁)。この考え方において、職務における倫理 的なジレンマは考慮されなくなる。むしろ、行 為の基準を遵守しているという事実から、公務 員が倫理的なジレンマに対する無関心を正当化 するおそれがある(Lawton et. al., 2013, p. 118)。これら二つの問題が強まるほど、公務員が職 務の遂行を通じて倫理的な行為に取り組むこと は期待できなくなる。公務員の倫理に関する消 極的な態度は、公務員が倫理的なジレンマに対 処する動機づけを低下させる。さらに、公務員 が倫理的に無能力であると、職務を通じて倫理 的なジレンマを発見できず、対処もできなくな る。
公務員が政策の形成に関する職務を遂行する 場合、これらの問題によって政策に倫理が反映 される可能性が低下する。一般的に、公務員は 政策案の形成に深く関与している。政府の政策 は、さまざまな個人あるいは集団に異なる利益 あるいは損害を与える。したがって、政策の形 成に関する職務を遂行する公務員には、多様な 利害関係者の価値を考慮に入れた倫理的な行為 が求められる(Luke, 1991)。たとえば、無視さ れた利害関係者の価値が存在しないかを確認し、
利害関係者の価値の間でトレード・オフが存在 する場合には適切に対処するように政策案を形 成することが求められる(Geuras and Garofalo,
2011, pp. 136-137)。しかし、公務員の倫理に対
する消極的な態度および倫理的な無能力という 問題は、公務員が政策における倫理的なジレン マを発見し対処する可能性を低下させる。この ような理由から、法令遵守アプローチでは政策 に倫理が反映される可能性が低下する。3. 2 価値に基づくアプローチによる補完 行政倫理研究では、価値に基づくアプローチ
の導入の重要性が主張されてきた。この主張は、
価値に基づくアプローチの導入によって法令遵 守アプローチの限界が補完されるという前提に 基づいている。しかし、行政倫理研究ではこの 前提の正しさが十分に説明されていない。以下 では、価値に基づくアプローチが前項で指摘し た法令遵守アプローチの限界をどのように補完 できるのかを理論的に検討する。
価値に基づくアプローチにおける行為の基 準は、道徳的な最高限度(moral maximum)と いう形式をとる。道徳的な最高限度とは、「実 現すべき」価値を規定する行為の基準を指す
(Cooper, 2012, pp. 148-149)。価値に基づくアプ
ローチが道徳的な最高限度を行為の基準とする 理由は、その前提にある公務員性善説に求めら れる。公務員性善説では、公務員による裁量の 行使は倫理的な行為につながるとして肯定的に 評価される。公務員が倫理的に行為するために は、具体的な状況における倫理的なジレンマに 対処する指針が必要となる。したがって、行政 組織は裁量を行使する公務員に指針として価値 を提示する。このような理由から、価値に基づ くアプローチでは行為の基準が道徳的な最高限 度となる。道徳的な最高限度を示す行為の基準は、法令 遵守アプローチにおける行為の基準の限界で あった倫理の水準の矮小化を補完できる。法令 遵守アプローチにおける行為の基準では「して もよい」行為のなかでどの行為を選択すべきか に関する指針が提示されていない。他方で、道 徳的な最高限度では公務員が実現すべき価値が 倫理的な行為の指針として提示される。この価 値は、倫理的なジレンマに直面した公務員が
「し
てもよい」行為のなかでどの行為を選択すべき かを判断する際の指針となる。このような行為 の基準を導入することで、倫理の水準の矮小化 という限界が補完できる可能性がある。この補完的な行為の基準は、研修および報酬 を通じて公務員に内在化される
。研修は公務員
が職務の遂行において直面する倫理的なジレン マを発見し対処する能力を向上する機会とな る。また、報酬は公務員が倫理的に行為した場 合に得られるものを認識する機会となる。法令 遵守アプローチにおける罰則と同様に、この機 会は報酬の対象となる公務員だけではなく、他 の公務員にも公表を通じて与えられる。この補完的な行為の基準が内在化されること で、倫理的な能力の向上および公務員の倫理に 対する積極的な態度が成果として期待できる。
それぞれの成果によって、法令遵守アプローチ における二つの問題が補完される可能性があ る。
第一の成果として、研修を通じた内在化に よって公務員の倫理的な能力の向上が期待でき る。価値に基づくアプローチにおける行為の基 準で示される倫理的な価値は、公務員の倫理的 な行為によって実現する。したがって、価値 に基づくアプローチでは倫理的な行為の主体 となる公務員の能力の向上に主眼が置かれる
(Hejka-Ekins, 2001, p. 83; Lawton et. al., 2013, p.
125)。具体的には、前節で指摘したように倫理
的な感受性および倫理的な意思決定の能力の向 上が取り組まれる。すなわち、価値に基づくア プローチを導入することで公務員の倫理的な能 力の向上が期待できる。こうした公務員の倫理 的な能力の向上は、法令遵守アプローチの問題 である公務員の倫理的な無能力を補完する可能 性がある。第二の成果として、報酬を通じた内在化に よって公務員が倫理に対して積極的な態度をと る可能性がある。価値に基づくアプローチを採 用する行政組織は、報酬を通じて行為の基準で 示される価値を公務員に実現させるように促 す。これによって、公務員が奨励的なものとし て倫理を理解すると指摘されてきた(Cooper,
2012, pp. 148-149)。この理解を通じて、公務員
が倫理に対して積極的な態度をとる可能性があ る。具体的には、道徳的な最高限度を満たすこ とで得られる名誉あるいは利益のために、公務 員が倫理的な行為に取り組む態度をとる可能性 がある(杉本, 2013, 72-73
頁)。このような理 由から、法令遵守アプローチにおける公務員の 倫理に対する消極的な態度が価値に基づくアプ ローチの導入によって補完される可能性があ る。さらに、公務員が政策の形成に関する職務を 遂行する際にも、価値に基づくアプローチは法 令遵守アプローチの限界を補完できる。前項で 指摘したように、法令遵守アプローチでは公務 員が形成する政策案に多様な利害関係者の価値 が反映される可能性が低くなる。その原因は、
法令遵守アプローチにおける公務員の倫理に対
する消極的な考え方および倫理的な無能力とい う問題にある。上述のように、価値に基づくア プローチの導入によってこれらの問題を補完で きる可能性がある。したがって、価値に基づく アプローチの導入によって、公務員が政策の形 成に関する職務においても倫理的に行為する可 能性が高まると指摘できる。
このように、法令遵守アプローチの限界およ び問題は価値に基づくアプローチの導入によっ て理論的には補完できる。道徳的な最高限度を 示す行為の基準は、法令遵守アプローチにおい て矮小化された倫理を拡充する。さらに、研修 および報酬を通じた行為の基準の内在化によっ て、公務員の倫理に対する積極的な態度および 倫理的な能力の向上が期待できる。また、これ らの成果によって政策に倫理が反映される可能 性が高まることを指摘できる。このような理由 から、価値に基づくアプローチの導入による法 令遵守アプローチの限界に対する補完の可能性 を指摘できる。
4.広義の公務員倫理の内容の検討 本節では、法令遵守アプローチおよび価値に 基づくアプローチを用いて広義の公務員倫理の 内容を検討する。まず、日本の公務員倫理制度 が法令遵守アプローチに基づいていることを確 認する。つぎに、第一節を参考にして、日本の 公務員倫理制度に広義の公務員倫理を導入する 際に必要となる組織的な方針を検討する。最後 に、第二節を参考にして、日本の公務員倫理制 度に広義の公務員倫理を導入した際の成果を明 らかにする。
4. 1 日本の公務員倫理制度の現状 日本の公務員倫理制度は、法令遵守アプロー チに基づいている。日本の公務員倫理制度にお ける行為の基準は、国家公務員倫理法および国 家公務員倫理規程である。これらの行為の基準 における目的は国家公務員倫理法の第一条で示 されている通り、公務員による非倫理的な行為 の防止である。さらに、国家公務員倫理審査会 および各省庁は、行為の基準を遵守させるため の研修および非倫理的な行為への罰則の付与に
取り組んできた。このような法令遵守アプロー チに基づく方針の限界が認識されているもの の、その解決策として考えられている広義の公 務員倫理の内容は曖昧である。
日本の公務員倫理制度の大枠は、1999 年に 制定された国家公務員倫理法において示され ている。国家公務員倫理法が制定された背景 には、1990年代に続発した公務員による利益 相反がある(原田
, 1999, 25-30
頁; Kudo, 2011, pp. 263-265)。したがって、国家公務員倫理法
では利益相反と疑われる行為を非倫理的な行為 とし、その発生を防止することが目的となって いる。さらに、国家公務員倫理法ではこの目的 を達成するための行政組織の体制が示されてい る。具体的には、公務員の倫理を所掌する行政 組織である国家公務員倫理審査会の設置、およ び各省庁の倫理を統括する倫理監督官の設置が 規定されている。この大枠に基づいて、2000年に制定された 国家公務員倫理規程では具体的な公務員の行為 の基準およびそれに対する公務員の責任が示さ れている。公務員の行為の基準としては、利害 関係者の定義および利害関係者との関係におい て禁止される行為が示されている。さらに、公 的な権限の濫用を通じた私的な利益の増幅にお いて禁止される行為が示される。そのなかで、
公務員は行為の基準の違反を疑われる行為を行 う前に倫理監督官の許可を得ることが規定され ている。さらに、疑わしい行為をした公務員は 自らの所属する省庁の倫理監督官に報告書を提 出する責任が課されている。また、一部の公務 員には自らの資産に関する報告書の提出も義務 付けられている。これらの報告書は、倫理監督 官および倫理審査会によって審査されることが 規定されている。このように、国家公務員倫理 規程では公務員が遵守すべき行為の基準および その基準に対する受動的な責任を確保する手続 きが規定されている。
国家公務員倫理審査会ではこれらの行為の基 準を遵守させるために、各省庁との協調の下で 研修の実施および罰則の付与に取り組んでき た。国家公務員倫理審査会は、国家公務員倫理 規程の運用を所掌するために人事院に設置され る合議制の行政組織である。国家公務員倫理審 査会は研修を実施する権限に加えて、各省庁で 用いられる研修の教材を開発する権限を有す
る。これらの研修および教材は、国家公務員倫 理法および国家公務員倫理規程の内容を公務員 に周知徹底するために活用されている(川瀬
, 2014, 55-56
頁;
中 谷, 2015, 40-41
頁)。
ま た、国家公務員倫理審査会は各省庁による非倫理的 に行為した公務員への罰則を審査する権限に加 えて、自らも非倫理的に行為した疑いのある公 務員を調査する権限をもつ。このように、国家 公務員倫理審査会と各省庁の協調の下で法令遵 守アプローチと同様の研修および罰則に基づい た国家公務員倫理規定の運用が行われている。
近年では、国家公務員倫理審査会において国 家公務員倫理法に基づいて公務員の倫理を確保 する方針の限界が認識されている。たとえば、
「平成 21
年度版 国家公務員白書」において、国家公務員倫理法に基づく方針では狭い意味で の公務員倫理しか確保できないことが指摘され ている19
。この指摘は、前節で指摘した法令遵
守アプローチにおける倫理の矮小化と同様であ る。つまり、国家公務員倫理審査会において法 令遵守アプローチの限界が部分的には認識され ている。この限界を克服するために、国家公務員倫理 審査会では広義の公務員倫理が着目され始めて いる。国家公務員倫理審査会は、国家公務員倫 理法に基づく方針で確保できる公務員の倫理を 狭義の公務員倫理とする。狭義の公務員倫理に は、公務員としてしなければならない行為、あ るいはしてはならない行為が含まれる。広義の 公務員倫理には、公務員として求められる姿勢 や心構えから導き出される公務員としてやった 方がよい行為が含まれる。このように、国家公 務員倫理審査会では狭い行為の基準を公務員の 倫理的な行為を促進することで補完する解決策 が考えられている。
しかし、国家公務員倫理審査会における広義 の公務員倫理の内容に関する検討は十分ではな い。国家公務員倫理審査会の
「研修教材パッケー
ジ『公務員倫理』
指導の手引」では、広義の公 務員倫理の定義およびその重要性しか説明され ていない20。この説明において以下の二つの点
が検討されていない。すなわち、広義の公務員 倫理の導入に必要となる組織的な方針およびその実現から期待される成果が明らかとなってい ない。これらの問いに対する答えを明確にしな い限り、広義の公務員倫理の導入に向けた具体 的な議論が進められないおそれがある。
以下では、広義の公務員倫理の導入に必要と なる組織的な方針およびその実現から期待でき る成果を検討する。具体的には、第一節で説明 した価値に基づくアプローチの内容に基づいて 広義の公務員倫理の導入に必要となる組織的な 方針を提示する。さらに、第二節における法令 遵守アプローチの限界に対する価値に基づくア プローチの補完の関係に基づいて広義の公務員 倫理の導入によって日本の公務員倫理制度の限 界がどのように補完できるのかを説明する。
4. 2 広義の公務員倫理の導入に必要とな る組織的な方針
ここでは、広義の公務員倫理の導入に必要と なる組織的な方針として価値に基づくアプロー チにおける行為の基準、研修、および報酬の有 効性を説明する。第一節で指摘したように、価 値に基づくアプローチにおいて行政組織はこれ らの組織的な取り組みを通じて、公務員による 倫理的な行為を促進しようとする。この公務員 による倫理的な行為の促進こそが、広義の公務 員倫理の導入に必要となる。したがって、広義 の公務員倫理を導入するためには、価値に基づ くアプローチにおける組織的な方針の導入が有 効であると考えられる。以下では、価値に基づ くアプローチにおける行為の基準、研修および 報酬が広義の公務員倫理の導入に有効であるこ とを説明し、日本の公務員倫理制度における現 状の問題点を指摘する。
第一に、行政組織が行為の基準を通じて広義 の公務員倫理の指針を提示することが有効とな る。広義の公務員倫理の内容は、公務員が公務 員としての自覚に基づいて職務を遂行するなか で解釈される。行政組織は広義の公務員倫理の 内容を行為の基準として公務員に提示すること で、公務員による適切な解釈を支援できる。こ の行為の基準には、広義の公務員倫理を構成す る価値およびその価値を実現するための行為の
19 人事院「平成21年度版 国家公務員白書」 http://ssl.jinji.go.jp/hakusho/h19/006.html(2015年12月27日閲覧)。
20国家公務員倫理審査会「研修教材パッケージ『公務員倫理』指導の手引」 http://www.jinji.go.jp/rinri/kensyu/tebiki22.pdf(2015年12月27 日閲覧)。
指針を記載することが求められる。この条件を 満たす行為の基準があれば、公務員が広義の公 務員倫理の内容に基づいて自らの職務における 倫理的なジレンマを対処できる可能性が生じ る。このような行為の基準の具体例としては、
第一節で指摘した倫理綱領がある。
日本の公務員倫理制度では倫理綱領のような 価値に基づくアプローチにおける行為の基準は 存在しない。確かに、国家公務員倫理法におけ る倫理三原則および国家公務員倫理規程におけ る五つの倫理行動基準のなかには、公務員が 実現すべき価値を示す箇所が存在する21
。しか
し、これらの行為の基準では特定された価値を 実現する際に参考となる行為の指針が示されて いない。したがって、これらの基準は公務員が 広義の公務員倫理を判断するための行為の基準 としては不十分である。多くの政府では、倫理 的な問題の解決に取り組む公務員の行為の指針 として倫理綱領が制定されている(Kernaghan,2003)。したがって、日本においても広義の公
務員倫理の導入のためには、倫理綱領のような 行為の基準を制定する必要がある。第二に、公務員が広義の公務員倫理を実現で きるように、行政組織が公務員の倫理的な能力 を向上させる研修を行うことが有効となる。公 務員が行為の基準を通じて広義の公務員倫理の 内容を理解するだけでは不十分である。なぜな らば、倫理的な行為の実現には価値の理解に加 えて、それらの価値から生じる倫理的なジレン マを発見し、対処する能力が必要となるからで ある。このような理由から、行政組織は公務員 の倫理的な能力を向上させるための研修を行う 必要がある。倫理的な能力とは、第一節で指摘 したように倫理的な感受性および倫理的な意思 決定の能力である。公務員は、これらの能力を 向上させる研修によって自らの職務の遂行を通 じて広義の公務員倫理を実現できるようにな る。
日本の公務員倫理制度においては
、公務員の
倫理的な能力の向上を目的とする研修は行われ ていない。前項で指摘したように、国家公務員 倫理審査会ではこれらの能力を向上させる研修 は行われていない。他方で、人事院では将来の 幹部職候補である国家公務員総合職試験(2011 年度以前は国家公務員Ⅰ種試験)の採用者を対 象に倫理的な態度を養成する研修が行われてい る。この研修は文献購読あるいは議論に基づく 演習を通じて、受講者に公務員としてふさわし い態度を考えさせることを目的とする。しかし、
この研修では倫理的な態度の養成が目的であっ て、倫理的な能力の向上は目的とされていない。
したがって、広義の公務員倫理を確保するため の研修としては十分ではない。このような現状 において広義の公務員倫理を実現するために必 要な組織的な取り組みとして、公務員の倫理的 な能力を向上させるための研修の開発をあげる ことができる。
最後に、個々の公務員による広義の公務員倫 理の実現に対する動機づけとして、行政組織が 倫理的に行為した公務員に対して報酬を与える ことが有効となる。公務員による倫理的な行為 には、時間および労力といった費用が存在する。
この費用が高ければ、公務員の倫理的な行為に 対する動機づけが低くなる。さらに、倫理的な 行為に対する報酬が存在しない場合には、倫理 的な行為に対する動機づけはさらに低くなる。
このような状況では公務員が行為の基準を理解 し、高い倫理的な能力を備えることに動機づけ られないであろう。したがって、広義の公務員 倫理を導入する際には、行政組織は公務員に対 する何らかの動機づけの手段を用意する必要が ある。
日本の公務員倫理制度における人事評価の
「倫理」という項目および表彰制度を改善する
ことで報酬の制度を整備できる可能性がある。実際に、中央省庁の人事評価では「倫理」とい う項目が存在し、表彰制度も存在する。しかし、
これらの人事制度は広義の公務員倫理の実現を
21 倫理三原則は、国家公務員倫理法第三条で示されている。国家公務員倫理法第三条では「国民全体の奉仕者であることを自覚し、公
正な職務執行に当たらなければならない」こと、「職務や地位を私的利益のために用いてはならない」こと、および「国民の疑惑や不 信を招くような行為をしてはならない」ことが示されている(国家公務員倫理審査会「国家公務員倫理法の概要」 http://www.jinji.go.jp/
rinri/gaiyou/rinrihou.pdf(2015年12月27日閲覧)を参照)。
倫理行動基準では倫理三原則に加えて「公共の利益の増進を目指し、全力で職務遂行に取り組まなければならない」こと、および「勤 務時間外も自らの行動が公務の信用に影響を与えることを常に認識して行動しなければならない」ことが示されている(国家公務員倫 理審査会「国家公務員倫理規程の概要」 http://www.jinji.go.jp/rinri/gaiyou/rinrikitei.pdf(2015年12月27日閲覧)を参照)。
これらの行為の基準のなかで、「国民全体の奉仕者であることを自覚し、公正な職務の執行に当たらなければならない」「公共の利益の 増進を目指し、全力で職務遂行に取り組まなければならない」という基準は、公務員に実現すべき価値を提示しているといえる。
公務員に促すものではない。人事評価における
「倫理」という項目では、倫理的な行為の実現
ではなく非倫理的に行為していないかどうかが 評価される(原田, 2009, 14
頁)。阿久澤が指摘 する通り「将来不祥事を起こしそうか」という 視点ではなく、「よい政府の実現を強く求める 気持ちを持っているか」という積極的な視点か ら公務員の倫理を評価する必要がある(阿久澤 ,
2014, 43
頁)。また、表彰制度である人事院総裁賞も技術的な業績に優れた公務員が受賞する 傾向にある22
。広義の公務員倫理を導入するに
は、広義の公務員倫理の実現を選考の基準とす る表彰制度が必要となる。このように、広義の 公務員倫理の導入のために、倫理的な行為を動 機づける報酬を人事制度において考慮する必要 がある。4. 3 広義の公務員倫理の導入によって期 待される成果
広義の公務員倫理の導入によって、日本の公 務員倫理制度における限界およびその限界から 生じる問題が補完されることが期待できる。日 本の公務員倫理制度は法令遵守アプローチに基 づいているため、法令遵守アプローチと同様の 限界および問題が存在する可能性が高い。前節 では、これらの限界および問題が価値に基づく アプローチの導入によって補完できることを指 摘した。したがって、広義の公務員倫理の導入 によって日本の公務員倫理制度における限界お よび問題の補完が期待される。ここでは日本の 公務員倫理制度には法令遵守アプローチと同様 の限界および問題が存在することを指摘し、そ の問題が広義の公務員倫理の導入によって補完 できることを確認する。
国家公務員倫理法および国家公務員倫理規程 は道徳的な最低限度の形式をとるため、矮小化 された倫理の水準という限界が存在する。国家 公務員倫理法および国家公務員倫理規定の目的 は、公務員による利益相反の防止である。この 目的のために、これらの行為の基準では「して はならない」行為が特定される。すなわち、こ れらの行為の基準は道徳的な最低限度を公務員
に示すものである23
。前節で指摘したように、
道徳的な最低限度では倫理の水準が矮小化され る。したがって、国家公務員倫理法および国家 公務員倫理規定においても倫理の水準が矮小化 されている。
これらの行為の基準に基づいた研修の実施お よび罰則の付与は、公務員が矮小化された倫理 の水準を内在化する機会となっている。国家公 務員倫理審査会および各省庁による研修の目的 は、行為の基準の内容を公務員に周知徹底させ ることであった。さらに、国家公務員倫理審査 会および各省庁は行為の基準に違反した公務員 に対して罰則を科してきた。前節で指摘したよ うに、これらの研修および罰則は矮小化された 倫理の水準を公務員が内在化する機会となる。
以上のような限界が存在するために、日本の 公務員倫理制度でも法令遵守アプローチと同様 の問題が存在する。法令遵守アプローチにおけ る問題とは、倫理に対する消極的な態度および 倫理的な無能力であった。前節で指摘したよう に、これらの問題は道徳的な最低限度という形 式をとる行為の基準が研修および罰則を通じて 公務員に内在化されることで生じる。日本の公 務員倫理制度における行為の基準は、道徳的な 最低限度という形式をとる。さらに、日本の公 務員倫理制度ではこの行為の基準に基づいた研 修および罰則の付与が行われる。これらの事実 から、日本の公務員倫理制度において公務員が 倫理に対する消極的な態度および倫理的な無能 力という問題を抱えている可能性は高い。
前節において、法令遵守アプローチにおける 限界および問題は価値に基づくアプローチの導 入によって補完できることを確認した。価値に 基づくアプローチでは、道徳的な最高限度を示 す行為の基準が制定される。この基準は実現す べき価値を倫理的な行為の指針として公務員に 示すことで、道徳的な最低限度の限界を補完す る。さらに、価値に基づくアプローチにおける 研修および報酬を通じた行為の基準の内在化が 法令遵守アプローチの問題を補完する。具体的 には、報酬を通じた公務員の倫理に対する積極 的な態度および、研修を通じた公務員の倫理的 な能力の向上が期待できる。
22人事院「人事院総裁賞」 http://www.jinji.go.jp/sousai/start.html(2015年12月27日閲覧)。
23 中谷常二も国家公務員倫理法および国家公務員倫理規程は特定の行為を公務員がとることを禁止している「べからず」集であると指摘
している(中谷, 2015, 37頁)。
したがって、広義の公務員倫理の導入による 成果は、日本の公務員倫理制度における限界お よび問題に対する補完である。広義の公務員倫 理を導入するには、前項で示した方針の導入が 求められる。すなわち、道徳的な最高限度を示 す行為の基準の制定、公務員の倫理的な能力の 向上を目的とする研修の実施、および広義の公 務員倫理を実現した公務員に対する報酬の付与 が必要となる。これらの方針を導入することで、
公務員は狭義の公務員倫理の遵守だけではなく 広義の公務員倫理の実現も自らの職務における 責任の一つと考えることが期待される。
さらに、広義の公務員倫理を導入することで 日本の中央省庁において政策の形成に関わる職 務を遂行する公務員の倫理的な行為を確保でき る。行政学および政策学では、日本の中央省庁 において公務員が政策形成の中心的な役割を果 たしていることが指摘されてきた。前節で指摘 したように、政策の形成に関する職務を遂行す る公務員の倫理的な行為を確保するには価値に 基づくアプローチの導入が有効となる。した がって、広義の公務員倫理の導入によって、政 策の形成に倫理が反映されることが期待でき る。
5.おわりに
本稿では広義の公務員倫理に関する議論を進 めるという目的の下で、広義の公務員倫理の導 入に必要となる組織的な方針およびその実現か ら期待される成果を検討した。日本の中央省庁 では国家公務員倫理法に基づく公務員の倫理の 確保が進められてきた。近年では、国家公務員 倫理法に基づく方針は狭義の公務員倫理しか確 保できないという限界が指摘されている。国家 公務員倫理審査会では、狭義の公務員倫理の限 界を広義の公務員を導入することで補完する解 決策が考えられている。しかし、国家公務員倫 理審査会では広義の公務員倫理に必要となる組 織的な取り組みおよびその実現によって期待さ れる成果が具体的に検討されていない。
そこで、本稿では法令遵守アプローチおよび 価値に基づくアプローチというモデルを用い て、広義の公務員倫理の内容に関する理論的な 検討を進めた。法令遵守アプローチは狭義の公
務員倫理を確保するための組織的な方針を表 し、価値に基づくアプローチは広義の公務員倫 理を確保するための組織的な方針を表す。本稿 ではこれらのモデルを用いることで、広義の公 務員倫理の導入に必要となる組織的な方針およ び広義の公務員倫理の実現から期待される成果 を検討した。
検討の結果は、以下のとおりである。広義の 公務員倫理の導入に必要となる組織的な方針に 関しては、価値に基づくアプローチにおける行 為の基準、研修、および報酬が広義の公務員倫 理の導入に有効であることを確認した。同時に、
日本の公務員倫理制度においてはこれらの組織 的な取り組みが十分ではないことを指摘した。
広義の公務員倫理の実現から期待される成果と して、日本の公務員倫理制度における法令遵守 アプローチと同様の限界および問題が補完され る可能性を提示した。
本稿の意義は、広義の公務員倫理の導入に向 けた議論を進めた点にある。広義の公務員倫理 は国家公務員倫理審査会において着目されてき たものの、その導入に向けた議論が十分になさ れていない。本稿における検討の結果は、広義 の公務員倫理の導入に向けた議論を進める際の 一つの方針となる。この点に本稿の実践的な意 義がある。さらに、日本の行政倫理研究におい ても国家公務員倫理法に基づく方針の限界を克 服する組織的な方針が議論されていない。この 点において広義の公務員倫理の導入に向けた議 論を行った本稿には学術的な意義がある。
ただし、本稿には価値に基づくアプローチに 含まれる組織的な取り組みに対する個別的な検 討が十分ではないという課題が存在する。本稿 では広義の公務員倫理の導入に必要となる組織 的な方針、およびその実現から期待される成果 を価値に基づくアプローチに基づいて検討し た。この検討の結果は、あくまでも価値に基づ くアプローチの包括的な検討に基づいている。
この包括的な検討の結果をより洗練するために は、価値に基づくアプローチに含まれる組織的 な取り組みを個別的に検討する必要がある。具 体的には、倫理綱領、倫理的な能力を向上させ る研修、および倫理的な行為を促す手段の個別 的な研究が今後の課題である。