実 践 紹 介
41 1.はじめに
留学生にとって心身ともに健康に留学生活を送ることは望ましいことである。しかしな がら,必ずしも望んだようにはいかないこともある。予想外の病気になることや怪我をす ることもあり得るが,その時にどのように対処すべきか,どのように伝えるべきかなどの 基本的な知識があれば,落ち着いた行動ができるであろう。また,日々の健康管理を心が けていれば,避けられる病気や怪我もあるだろう。本科目は,健康管理の方法及び病気や 怪我をしたときの対処法などを学ぶことに主眼を置いている。
2.授業の目的
授業の目的は,以下の四点である。①身体,健康,病気,病院などに関する語彙や表現 を学び,使えるようにする。②健康管理の方法や,病気になったときの対処法などがわか るようになり,日常生活で対応できるようにする。③健康管理や病気,怪我などの際に必 要な表現や情報を入れた冊子を作成し,生活に役立てられるようにする。④身体の部分を 使用した表現や慣用句を学び,日本語での身体に対する意識を理解する。
以上のように本科目では,身体の部位,健康管理,病気,怪我,病院,薬局,医療シス テムなど多岐に渡る分野を扱っているため,語彙も広範囲に及ぶ。しかし,習得を確認す るようなテストなどは実施せず,各学生が必要だと思う語彙,表現を覚えること,また必 要になったときに参照できるようにすることをねらったものである。
3.活動の内容
ここでは,語彙の学習という観点に絞って授業活動を述べる。語彙学習の過程として,
主に三種の活動がある。①授業中に教師により提示されて学んだ語彙を運用する活動,② 自分自身が調べた語彙,内容をグループ活動で共有し,学び合い,さらにクラス全員で共 有する活動,③自分自身が調べたいテーマを決め,自ら調べまとめたものを冊子にして,
クラス全員と共有する活動である。語彙学習の過程は異なるが,これら三種の活動の共通 点は,グループ活動が主でその中で語彙,表現を共有し学び合うこと,そして学習した語 彙,表現を繰り返し使用することである。グループメンバーは,基本的に四,五人で,毎 回異なる方法でメンバーを決めている。以下に具体的な活動内容を述べる。
早稲田日本語教育実践研究 第 7 号
自分に必要な語彙を学ぶ
小池 真理
科目名:日本語で身体を学ぶ
レベル:初級 1・2 /中級 3・4・5 /上級 6・7・8 履修者数:35 名
早稲田日本語教育実践研究 第 7 号/ 2019 / 41―42
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①は,シュミレーション・ロールプレイである。これは,グループで病気や怪我をした ことを想定して,病院で診察を受け,薬局で薬をもらうという一連の行動をロールプレイ として実施するものである。病気や怪我の種類と症状,また病気や怪我に至った理由など も全てグループで相談し,ロールプレイを完成する。このロールプレイを行う前に,授業 内で必要な語彙や表現を学び,毎回運用練習を行っている。だが,断片的な練習であるた め,統合した練習としてこのロールプレイを実施している。
②は,「心身ともに健康でいるためにはどうしたらいいか」というテーマのグループ ディスカッションである。これは,事前に授業内で学ぶのではなく,宿題として個々の学 生が考え調べてくるものである。授業では,まずグループ内で各自が発表し,語彙や表 現,内容を共有したあと,心身の健康を保つために一番重要なことを話し合い,各一つず つ決める。最後に,結果を発表しクラス全員で共有する。次回の授業で教師が全グループ の結果をまとめ,新たな情報を追加したものを見て,再度語彙,表現,内容を全員で共有 する。
③は,授業内での様々な活動を通し語彙や表現を学習してきたあと,最後に行う冊子 作成の活動である。これは,学期終了後も学生の手元に残り,必要な時に参照できるよう になっている。まず,学生自身が知りたい事,調べたい事を決めるために,グループ内で できるだけ多くそれらを挙げ,
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法1)により分類する。その結果を発表した後,教師に より八種程度のテーマ,例えば「体の病気」「生活習慣」などに分けられる。次に,これ らのテーマの中から学生が各自調べたいものを選択し,テーマ毎のグループを作る。そし て,その中で話し合って個々の学生が調べるトピックを決め,各自が調べてA 4
で1
〜2
ページにまとめる。作成途中で各トピックに必要な内容,わかりやすさなどをグループ内 でチェックし合いながら進め,語彙,表現を共有する。最後に一つの冊子として仕上げて から,各自発表し全員で冊子の内容を共有する。4.今後の課題
本科目では多くの語彙や表現が出てくるうえ,漢語も多い。そのため,非漢字圏の中級
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レベルの学生にとってそれらを理解し運用することは,高いハードルとなっているだろ う。漢字にはルビをふり,専門用語には英訳をつけているが,今後はさらに英訳と画像な どの視覚情報も増やして,分かりやすくしていきたい。同時に,ピアラーニングの工夫や 分からないことを質問しやすい環境作りなどもしていきたいと思う。注
1)
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法は,川喜田二郎氏が考案したもので,出されたアイデアや意見をカード化し,同じ 系統のものでグループ化することにより,整理をする方法である。(こいけ まり,早稲田大学日本語教育研究センター)