小池真理/相手の状況や気持ちを配慮した会話を目指して
51 1.はじめに
本稿で相手の状況や気持ちを配慮するということは,相手の年齢や社会的な立場等の背 景,相手との関係等を考慮すること,さらにその時の相手の置かれている状況や気持ちを 考慮すること,そしてそれらに考慮していることが相手に伝わるようにすることを表す。
これには,例えば,聞き手である相手のことを考えて,わかりやすい流れで話すことや相 手の様子を見ながら話すこと,また話し手である相手のことを考えて,話の内容に関心を 持って聞き,適切に応答すること等も含まれる。そして,科目名の「相手と気持ちを共有 して会話する」は,これらの相手へ配慮する気持ちを共有して会話するという意味である。
2.授業の目標
良好な人間関係を構築するためには,会話において円滑なコミュニケーションが必須で あり,日本語を学習している学生にとっては日本語が上達することが同時に重要である。
上達するためには,学生が日本語でのインターアクションで何ができて,何ができないか という情報を得ることが必要である。学生自身がそれらの情報を得る力を獲得できれば,
効率よく上達できるであろう。そこで,この授業では以下の二つを目標とした。まず,相 手の状況や気持ちを配慮して円滑なコミュニケーションができるようになることである。
次に,教室内外の自身のインターアクションを客観的に振り返って,自分ができることと できないことを認識できるようになり,かつ他者のインターアクションを観察して,その 観察したことを自身の会話に反映できるようになることである。
3.授業の概要
会話は,自分の言いたいことを話し相手の応答を聞き,さらにそれに適切に応答すると いう,産出と理解をほぼ同時に瞬時に行わなければならない。したがって,自身が行った 会話を振り返ること,そしてインプットをし,繰り返しアウトプットして,それらの運用 が自動化できるようになることが求められる。
3―1.インプット
言語習得を促進するためには精緻化されたインプットが使用されるべきだとされている
(
Yano,etc.
1994)。この授業では,複数の精緻化されたインプットを同様の文脈の中で,また種々の文脈の中で提示しているオリジナル教材1)を使用している。これは,学生のレ ベル差や多様なニーズへの対応を考えたものでもある。教材以外にも友達や教師の発話,
日常生活やインターネットでの日本語等を広くインプットのリソースとして活用している。
早稲田日本語教育実践研究 第 3 号 【実践紹介】
相手の状況や気持ちを配慮した会話を目指して
小池 真理
科目名:相手と気持ちを共有して会話する レベル:初級 1・2 /中級 3・4・5 /上級 6・7・8 履修者数:29 〜 35 名(2012 年春〜 2014 年春)
早稲田日本語教育実践研究 第 3 号/ 2015 / 51―52
52 3―2.アウトプット
毎回ペアでのロールプレイや,ペアあるいはグループで自分の考え,経験,意見などを 言う会話を行う。学生により日本語能力,知識,インターアクションの方法等が異なるた め,様々な相手と話せるようにペアやグループを作り,お互いに学び合えるようにしてい る。そして毎回5項目の目標を設定し,それを意識させ会話をさせている。4項目は円滑 なコミュニケーションのための目標で,1項目は様々な表現を使用するということである。
実際の日常生活では,会話の目的を達成するための言語運用であるため,緊張感があり使 い慣れた語彙,文型,表現を使う傾向があると考えられる。繰り返しのアウトプットによ り習得が進むため,この活動では新しく習った語彙,文型,表現等,さらに日常生活で聞 いた日本語,あるいは理解だけに留まっている日本語の使用を,強く勧めている。
3―3.自己評価と他者評価
評価活動は主に2種行う。一つは毎回学生が自身の会話でのインターアクションと相手 のインターアクションを評価することで,用紙に記入するものである。評価項目は,設定 した目標の5項目と,正確さ,話の流れ,適切な丁寧さ等5項目を加えた10項目である。
学生はこの10項目に関して4段階の評価をし,良かったところ良くなかったところ等の コメントを書く。記入方式は,他の学生には言いにくい反省点や評価を書ける利点がある。
もう一つはクラスメートのインターアクションを評価することで,口頭また用紙に記入 するものである。口頭の場合は良かったところと良くなかったところを言わせる。これは,
自分では気付かなかった異なった観点の評価をクラス全員で共有できる利点がある。
3―4.学生の緊張感や不安を取り除くために
学生が日本語で会話するときは,緊張しやすい。その緊張感や不安感を和らげるために 以下のことを繰り返し伝えている。1)他の人と比較しないで自身の日本語の上達を考え ること,2)相手が言ったことがわからないときは,気にせずに相手に聞けばいいこと,3) 言いたいことが日本語で言えないときはお互いに助け合うこと,4)間違えから学ぶこと ができるので,間違えることを恐れずに様々な語彙,文型,表現を使うこと,である。
4.おわりに
本稿ではこの授業の趣旨と基本的な活動のみを紹介した。授業での反省点や,教室外の 会話との繋げ方,学生の多様なニーズへの対応法等の改善に現在も取り組んでいる。
注
1)この教材は,筆者他2名の日本語講師と話し合い共同で作成しているものである。
参考文献
Yano, Y., Long, M. H., & Ross, S.(1994) The effects of simplified and elaborated texts on foreign language reading comprehension. Language Learning, 44, 189-219.
(こいけ まり,早稲田大学日本語教育研究センター)