99 1.はじめに
個人の生活は文化や人間関係によって影響を受けざるを得ない。また,個人の内面では様々 な選択を強いられている。そこで,自分の置かれた状況をどのように認識し,どのような分別 のもとに眼前の事柄を選択しながら生きているかをより自覚的に捉えることが必要となる。
2.目的
生活の中に自分の物語が進行しているという点を理解する。次に一見関係がないと思う ものに自己との関連を見出す。さらにグループワークをしながら,他の学生にわかりやす く伝達,説明する方法を学習する。グループの仲間との交流を通じ,新たな物語を作り出 す力,発想力をつける。
3.授業の概要
授業で扱うトピックは表1の通りである。
この授業の①では関係ないものを結び付ける練習をする。いくつかの単語を板書し,次 に文章にその単語の全てを使って意味ある文を作る。その後単語を増やして練習を行う。
グループを作り,作った文を紹介し合い,いくつかの文を発表,あるいは板書して紹介す る。表1の②③⑦においては自由な発想で,頭の中に浮かんだ単語をつなげていくマッ ピングを行う。マッピングに書かれた単語はカテゴリーごとにまとめる。次にグループ を作ってマッピングを見ながらトピックを紹介する。それから数名が全員の前で発表を行 う。その後作文を書く。それらの作文は提出され,次の週に返却される。時間に余裕のあ る場合は提出前に学生同士で作文を読み,コメントを書き合うこともある。また,⑥では 好きなことばや格言を一人一つずつ板書し,意味や好きな理由を説明する。他の学生のこ とばや格言で好きなものを選びその理由を説明する。その後自分で格言を作ってみる。
④と⑤では,「大切なもの」や「大切な人」について観察,分析することにより,筆者 が自分ともの,または自分と他者との関係を発見できるようにする。⑧⑨⑩はワークシー トの質問に答えてからそれをもとに作文を書く。
早稲田日本語教育実践研究 第 6 号 【実践紹介】
自分を物語る
―自分について考えていること―
井波 真弓
科目名:生活の中に物語を見つける
レベル:初級 1・2 /中級 3・4 ・5 /上級 6・7・8 履修者数:28 名
早稲田日本語教育実践研究 第 6 号/ 2018 / 99―100
100 4.成果
授業の最後には今までの作文に加筆訂正を加えて「本」を作っている。学生は「本」に 自分の経験や心情を書いており,あとがきには「私の心,私の今までの人生,私の全てを 書き込んでいる。書いている間すごく楽しくて,以前より自分の性格,生活,人生などが わかってきた」,「みんなと日本語を話すのは最高だ。これからも日本語で自分のことを書 くことを諦めない」,「私の人生をもっとわかってほしい」などの記述があった。
学生は書くことで心が開放され,内省を深め,さらに自己承認されたいという欲求も満 たされたことが推察される。また,書く前に互いに話し合うことで書くモチベーションが 刺激され,自信を持って書く行為がなされたと考えられる。
5.今後の課題
生活を見つめ,自分自身のあり方を再考できる授業となるよう今後も工夫したい。
(いなみ まゆみ,早稲田大学日本語教育研究センター)
表 1 2017 年度春学期に授業で扱ったトピックと活動内容
トピック 活動内容
① 関係ないものを結びつける練習 ワークシート記入,グループ会話,発表
② 自己紹介 マッピング作成,グループ会話,発表,作文
③ 名前 マッピング作成,グループ会話,発表,作文
④ 大切なもの ワークシート記入,グループ会話,発表,作文
⑤ 大切な人 ワークシート記入,グループ会話,発表,作文
⑥ 好きなことば,格言 ワークシート記入,グループ会話,発表,作文
⑦ 私の好きなこと・趣味 マッピング作成,グループ会話,発表,作文
⑧ 愛せないもの・ことの理由を書く ワークシート記入,グループ会話,発表,作文
⑨ 早稲田大学と私 ワークシート記入,グループ会話,発表,作文
⑩ 夢,将来 ワークシート記入,グループ会話,発表,作文