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博士(工学)麓 恵里 学位論文題名

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Academic year: 2021

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     博士(工学)麓   恵里 学位論文題名

酸化鉄触媒を用いた水蒸気雰囲気下の 部分酸化分解による重質油と下水消化汚泥の

石油系有用化学物質への転換反応 学位論文内容の要旨

  

現 在までに、化石燃料である 石油資源はその原始埋蔵量の 約半分を消費している。代 替エネル ギー 開発が注目されているが、 近未来においても不足する石油を補うことは難しい。そこで、石油 精製 過程で副生する未利用の常 圧・減圧残油などの重質油を高度利用する技術開発が切望されてい る。 一方、定常的に排出される 生ゴミや汚泥に代表されるバイオマス廃棄物は埋設や焼却などの手 段で 処理され、大気汚染や地球 温暖化といった環境問題を引き起こしている。これらのバイオマス 廃棄 物に含まれる炭素は日本の 原子力発電所の数基が発電するエネルギーに相当する。よって、バ イオマス廃棄物を資源の乏しい日本で定常的に産出される数少ない資源.と捉え、有用化学物質とし て化 学エネルギーに転換する技 術開発が急務である。そこで、重質油やバイオマス廃棄物などの未 利用 炭素資源を有用化学物質へ 転換することを目的とし、第

1

部(第2、3章)では常圧・減圧残油 など の重質油から軽質燃料油へ の転換プロセスの開発、第2部(第4章)ではバイオマス 廃棄物の ー っ で あ る 汚 泥 か ら 有 用 石 油 化 学 物 質 へ の 転 換 プ ロ セ ス の 開 発 を 実 施 し た 。

  

1

章は序論であり、重質油と バイオマス廃棄物の利用法 の現状と本研究の目的を述べた。重質 油の 軽質化は水素/炭素(H/C)比 を高めることであり、反応 器内や触媒への残渣の付着を防ぐため には 、多量の水素を添加する必 要がある。しかし、石油由来の水素を用いることはエネルギー問題 の根 本的な解決とはならないた め、本研究では、安価な水蒸気を水素源とした水蒸気分解による重 質油 の新規軽質化プロセスの開 発を目的とした。ー方、バイオマス廃棄物の中でも特に難処理な汚 泥は メタン発酵や高温ガス化に よって処理されている。汚泥は多量の水を含んでいるため、エネル ギー 消費の観点からメタン発酵 処理が適応できるが、生成物は温室効果ガスである。そこで、本研 究で は、水蒸気雰囲気下での接 触分解によって汚泥から有用石油関連物質ヘ転換する新規プロセス の開 発を目的とした。

  

2

章では、重質油の水蒸気分 解によって軽質燃料油を生 成するため、水蒸気雰囲気下で安定で あり 重質油に含まれる重金属や 硫黄などの不純物への耐性が強い酸化鉄触媒を開発した。酸化鉄触 媒を用いて常圧残油の水蒸気分解を行った結果、残渣を生成せずに有用な軽質燃料油(ガソリ.ン、

灯油 、軽油)が生成した。さら に、ジルコニアを担持した酸化鉄触媒を用いるとガソリンと灯油成 分の 収率が増加した。無触媒で 常圧残油を分解した際に生成するガスの主成分はアルカンとアルケ ンで あるが、触媒を用いた場合 には主に二酸化炭素が生成した。本触媒上で水が分解して生成する 活性 酸素種が酸化分解で重質分 子を分解し、水分解で副生した活性水素種が生成分子に組み込まれ る こ とで 分解 反応 が進 行 する こと がTDS、

XRD

、メスバウア分析 の結果から判明した。また、 ジ ルコ ニアは水からの活性酸素・ 水素種の生成を促進するため、ジルコニア担持量が増加すると触媒 活性 が向上した。

ー 44ー

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第3章では、常圧残油の分 解に高活性であるジルコニア担持酸化鉄触媒の安定性を検討し、常圧 残油よりもさらに重質な減圧残油の水蒸気分解を実施した。触媒安定性を検討するため、常圧残油 の水蒸気接触分解反応と触媒の再生を繰り返した結果、触媒活性が低下した。これは、反応で酸化 鉄の格子酸素が消費されてへマタイトからマグネタイトへの相変化が起こり、ジルコニアが剥離す るためであることが、TEM観 察から判明した。そこで、 この相変化に伴う酸化鉄の構 造変化の影 響を抑制するため、アルミナを導入したジルコニア担持酸化鉄触媒を開発した。アルミナを導入し た触媒は残渣を生成せずに常圧残油を有効に軽質化し、反応と再生を繰り返すと活性が向上した。

アルミナを導入することによって、酸化鉄の結晶ドメインサイズが小さくなり、相変化による酸化 鉄の構造変化の影響が抑制されてアルミ―鉄複合酸化物からのジルコニア粒子の剥離が抑制される ためであることがTEM観察か ら判明した。さらに安定性 を高めるには、反応中の酸化 鉄の構造変 化それ自体を抑制する必要がある。そこで、ジルコニアを高分散化させ、水蒸気からの酸化鉄への 活性酸素種の供給速度を向上させた。本法で得られた触媒は常圧残油の分解活性が高く、予想され たように反応中のヘマタイトからマグネタイトヘの酸化鉄の相変化が抑制され、再生せずに反応を 繰り返しても長時間、高活性が維持された。以上で開発した触媒を用いて、常圧残油よりも重質な 減圧残油の水蒸気分解を行った結果、有効に軽質化した。よって、ジルコニア担持酸化鉄触媒は重 質油の分解に高活性であり、アルミナを導入してジルコニアを高分散化させることによって安定性 が向上することが判明した 。

  

第4章では、バイオマス廃 棄物のーっである汚泥から有用炭化水素であるケトンへの転換を行っ た。多量の水を含む汚泥の 反応には水蒸気雰囲気下で安 定な触媒が必要であるため、第2、3章で 開発したジルコニア担持酸化鉄触媒を用いた。消化汚泥を水熱条件下で可溶化させて得られた液を 原料とし、触媒反応を行った結果、汚泥由来可溶化液から選択的にアセトンなどのケトンが生成し た。酸化鉄上で主に反応が起こる一方、ジルコニアによる水の分解から生成する活性酸素種によっ て反応が促進されることが ′rDS分析から判明した。さらに、ジルコニア担持酸化鉄触媒を充填し たベンチスケールの流通式反応器を用いて、汚泥から連続的にアセトンが製造できることを実証し た。また、アセトンの利用法のーっとして、ガソリンヘの転換を試みた。 その結果、MFI型ゼオラ イ ト 触 媒 に よ っ て ケ ト ン か ら ハ イ オ ク ガ ソ リ ン ヘ 転 換 で き る こ と を 見 出 し た 。

  

第5章は結論である。本研 究では、ジルコニア担持酸化鉄触媒を開発し、未利用炭素資源である 重質油やバイオマス廃棄物 から、ガソリンや有用化学原 料であるケトンヘ転換することを見出し た。よって、有限な石油から副生する残油を有効に利用でき、化石資源の少ない日本においても、

未利用のバイオマス廃棄物を有用な資源として活用できる本研究の成果は、環境・エネルギー両面 の問題解決に大きく貢献す るものである。

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学位論文審査の要旨 主査    教 授    増田 隆夫 副査    教 授    荒井 正彦 副査    教 授    向井    紳 副査   教授   林   潤一郎

学 位 論 文 題 名

酸化鉄触媒を用いた水蒸気雰囲気下の 部分酸化分解による重質油と下水消化汚泥の

石油系有用化学物質への転換反応

  

現在,代替エネルギー開発が注目されているが,近未来においても不足する石油を補うことは難し いため,石油精製過程で副生する重質油を高度利用する技術開発が切望されている。一方,生ゴミや 汚泥に代表されるバイオマス廃棄物は埋設や焼却などの手段で処理され,大気汚染や地球温暖化等 の環境問題を引き起こしている。よって,バイオマス廃棄物を資源と捉え,有用化学物質として化学 エネルギーに転換する技術開発が急務である。そこで,本研究は重質油やバイオマス廃棄物などの 未利用炭素資源を有用化学物質へ転換することを目的とし,第一部(第2,3章)では重質油から軽質 燃料油への転換プロセスの開発,第二部(第4章)ではバイオマス廃棄物のーっである汚泥からの有 用石油化学物質への転換プロセスの開発を実施した。

  

第1章は序論であり,重質油とバイオマス廃棄物の利用法の現状と本研究の目的を述べた。重質 油の軽質化は水素/炭素比を高めることであり,反応器内や触媒への残渣の付着を防ぐためには、多 量の水素を添加する必要がある。しかし,石油由来の水素を用いることはエネルギー問題の根本的 な解決とはならない。そこで,本研究では,安価な水蒸気を水素源とした水蒸気分解による重質油の 新規軽質化プロセスの開発を目的とした。一方,バイオマス廃棄物の中でも特に難処理な汚泥は多 量の水を含んでいるため,メタン発酵処理される。しかし,汚泥中炭素の半分は消化残渣として焼却 処分されている。そこで,本研究では消化残渣を,水蒸気雰囲気下での接触分解によって有用石油関 連物質へ転換する新規プロセスの開発を目的とした。

  

第2章では,重質油の水蒸気分解に関して,水蒸気雰囲気下でも安定で活性な酸化鉄触媒を開発 した。本触媒は常圧残油の水蒸気分解に適用した結果,残渣を生成せずに有用な軽質燃料(ガソリ ン,灯油,軽油)を生成した。さらに,ジルコニアを担持する事でガソリンと灯油成分の収率が向上 した。無触媒で常圧残油を分解した際に生成するガスの主成分はアルカンとアルケンであるが,触 媒反応では主に二酸化炭素が生成した。本反応では,まずジルコニア上で水が分解して生成する活 性酸素種が酸化鉄上で重質な分子を酸化分解する。そのー方,水分解で副生する活性水素種が生成

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物 に 付 加 す る こ と が ,TDS,XRD, メ ス バ ウ ア 分 析 の 結 果 か ら 判 明 し た 。 そ の た め , ジ ル コ ニ ア 担 持 量 が 増 加 す る と 触 媒 活 性 が 向 上 し た 。

  第3章 で は , ジ ル コ ニ ア 担 持 酸 化 鉄 触 媒 の 安 定 性 の 向 上 を 検 討 し た 。 触 媒 は , 常 圧 残 油 の 水 蒸 気 分 解 と 再 生 を 繰 り 返 す と 活 性 が 低 下 し た 。 こ れ は , 反 応 中 に 酸 化 鉄 の 格 子 酸 素 が 消 費 さ れ て ヘ マ タ イ ト か ら マ グ ネ タ イ ト ヘ の 相 変 化 が 起 こ り , ジ ル コ ニ ア が 剥 離 す る た め で あ る こ と が , ′rEM観 察 か ら 判 明 し た 。 こ の 相 変 化 の 影 響 を 抑 制 す る た め , 触 媒 に ア ル ミ ナ を 新 に 導 入 し た 。 こ の 触 媒 は 残 渣 を 生 成 せ ず に 常 圧 残 油 を 有 効 に 軽 質 化 し , 反 応 と 再 生 を 繰 り 返 す と 活 性 が 向 上 し た 。 ア ル ミ ナ の 導 入 に よ っ て 酸 化 鉄 結 晶 の ド メ イ ン サ イ ズ が 小 さ く な り , 相 変 化 に よ る 酸 化 鉄 の 構 造 変 化 の 影 響 が 抑 制 さ れ て ジ ル コ ニ ア の 剥 離 が 抑 制 さ れ た た め で あ る こ と がTEM観 察 か ら 判 明 し た 。 さ ら に , 酸 化 鉄 の 相 変 化 そ れ 自 体 を 抑 制 す る こ と を 目 的 に , ジ ル コ ニ ア を 高 分 散 化 し て , 水 蒸 気 か ら の 酸 化 鉄 へ の 活 性 酸 素 種 の 供 給 速 度 を 高 め た 。 得 ら れ た 触 媒 は 常 圧 残 油 の 分 解 活 性 が 高 く , 触 媒 中 の 酸 化 鉄 の ヘ マ タ イ ト か ら マ グ ネ タ イ ト ヘ の 相 変 化 が 抑 制 さ れ , 再 生 せ ず と も 活 性 を 維 持 す る こ と に 成 功 し た 。 ま た , こ の 触 媒 は , 常 圧 残 油 よ り も 重 質 な 減 圧 残 油 の 水 蒸 気 分 解 で も 高 活 性 で あ っ た 。   第4章 で は , パ イ オ マ ス 廃 棄 物 の ー っ で あ る 汚 泥 か ら 有 用 炭 化 水 素 で あ る ケ ト ン へ の 転 換 反 応 に っ い て , 第2,3章 で 開 発 し た 触 媒 を 用 い て 研 究 を 行 っ た 。 汚 泥 を メ タ ン 発 酵 し た 際 に 多 量 に 副 生 す る 残 渣 ( 消 化 汚 泥 ) を 水 熟 条 件 下 で 水 可 溶 化 し て 得 ら れ た 黒 水 を 原 料 か ら 触 媒 反 応 に よ っ て , 選 択 的 に ア セ ト ン な ど の ケ ト ン を 生 成 す る こ と に 成 功 し た 。 さ ら に 、 ジ ル コ ニ ア 担 持 酸 化 鉄 触 媒 を 充 填 し た ベ ン チ ス ケ ー ル の 流 通 式 反 応 器 を 用 い て , 消 化 汚 泥 か ら 連 続 的 に ア セ ト ン が 製 造 で き る こ と を 実 証 し た 。 ま た , ア セ ト ン の 利 用 法 の ー っ と し て , ガ ソ リ ン ヘ の 転 換 を 試 み た 。 そ の 結 果 ,MFI型 ゼ オ ラ イ ト 触 媒 に よ っ て ア セ ト ン か ら ハ イ オ ク ガ ソ リ ン ヘ 転 換 で き る こ と を 見 出 し た 。   第5章 は 結 論 で あ り , 第2章 か ら 第4章 の 成 果 を 纏 め た 。

  こ れ を 要 す る に , 著 者 は 未 利 用 難 処 理 炭 素 物 質 に っ い て , そ の 高 度 資 源 化 技 術 の 要 素 技 術 を 開 発 し , そ の プ ロ セ ス 化 の 新 知 見 を 得 た も の で あ り , 化 石 資 源 の 少 な い 日 本 に お い て 有 限 な 石 油 か ら 副 生 す る 残 油 の 利 用 と , バ イ オ マ ス 廃 棄 物 を 有 効 な 資 源 に 活 用 で き , 環 境 化 学 工 学 に 貢 献 す る と こ ろ 大 な る も の が あ る 。 よ っ て 著 者 は , 北 海 道 大 学 博 士 ( 工 学 ) の 学 位 を 授 与 さ れ る 資 格 あ る も の と 認 め る 。

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