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博 士 ( 理 学 ) 向 島 美 香

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Academic year: 2021

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(1)

博 士 ( 理 学 ) 向 島 美 香

     学位論文題名

Unusual motion of isolated twin boundary     m (TMTSF )2X

   ((TMTSF )2X における孤立双晶境界面の特異な運動)

学 位 論 文 内 容の 要 旨

  本 研 究 の 題 材 で あ る 有 機 錯 体(TMTSF)、Xの 針 状 単 結 晶 に 外 カ を 加 え 、結 晶 の 一 部 を 折 り 曲げ る よ う に 双 晶 変 形 さ せ る こ と が で き る 。 多 く の 場 合 、 結 晶 の 一 部 が 双 晶 変 形 し2枚 の 境 界 面 ( 以 後kinkと 呼 ぶ ) が ペ ア に な っ て 生 じ る 。 さ ら に 外 カ を 加 え る とkinkは 一 次 元 軸方 向 に 沿 っ て 運 動す る 。 そ の 運 動 に つ い て は こ れ ま で 研究 が お こ な わ れ てい な か っ た が 、 私 は単 結 晶 中 で 巨 視 的な 形 態 を も ち 、 かつ 孤 立 し た 境 界 面 が 外 カ の 下で ど の よ う な 運 動を 示 す か と い う 点 に興 味 を 持 っ た 。 様々 な 境 界 面 の 運 動に 関 す る こ れ ま で の 研 究 で は、 磁 化 な ど の 測 定量 に は 境 界 面 の 生 成・ 消 滅 や 境 界 面 問の 相 互 作 用 な ど の影 響 も 含 ま れ 、 孤 立 し た 境 界面 の 動 的 性 質 を 直接 的 に 取 り 出 す こ とが で き な か っ た 。外 部 駆 動 カ に 対 して 最 終 的 に ど う 変 化 し た か だけ で は な く 、 そ こに 至 る 過 程 を ル ア ルタ イ ム に 観 察 す るこ と に よ っ て 、 運動 を 支 配 す る 要 因 を 知 る こ とが で き る 。 こ の ため 、 境 界 の 運 動 を 解明 す る た め に は 運動 を り ア ル タ イ ムで 観 察 す る こ と が 、 境 界 運 動の 動 的 性 質 を 解 明す る た め に 非 常 に 重要 で あ る と 考 え た。 本 研 究 で は 、 単結 晶 の 有 機 錯 体(TMTSF)2Xに 発 生 さ せ た 孤 立 し た 双 晶 境 界 面 に 外 カを 加 え 、 繰 り 返 し運 動 の 観 測 に よ り 、境 界 面 の運 動を支 配す る要因 を明 らかに する ことが 目的 である 。

  ま ずX線 ( 振 動 写 真 ) で 境 界 の 左 右 の 方 位 の 関 係 を 調 べ た 結 果 、 折 れ 曲 が り が 双 晶 変 形に よ る も の で ある ことを 確認 した。

  kink付 近 の 微 細 構 造 を 解明 す る た め に 、 光 学顕 微 鏡 ・ 原 子 聞 力顕 微 鏡(AFM). 走査 型 電 子 顕 微 鏡(SEM) に よ る 観 察 を お こ な った と こ ろ 、 以 下 の結 果 を 得 た 。 サ ブ ミク ロ ン ス ケ ー ル で見 る 限 り 、kinkは 湾 曲 し た り凸 凹にな った りせず にま っすぐ であ り、シ ャー プに母 相(parent part: P‑part)から 双晶相(twinned part:

T‑parl)に移 り 変 わ っ て い るこ と を 確 認 し た 。 また 、kinkの 幅 は 最 大 で も20nmし か な いこ と を 確 認 し た 。 更 に 、 運 動 の 痕 跡 や 、2枚 のkinkを 対 で 消 滅 さ せ た痕 跡 は 認 め ら れ なか っ た 。 そ の 一 方で 、lO〜100,m に わ た っ て ゆ る や か にT‑partか らP‑partに 移 り 変 わ る 境 界(round kink)も 存 在 す る こ と を見 出 し 、X 線 回 折 の 結 果 、そ の 両 側 が 互 い に 鏡映 対 称 で あ る こ とを 確 認 し た 。 つ まり 、 形 態 を 観 察 す る限 り 、round kink以外の 境界 面は一 枚の 薄い平 板で あると 考え ること がで きる。

  一 定 外 力 下 で のkinkの 位 置 の 時 間 変 化 を り ア ル タ イ ム で 観 察 し た 。 双 晶 変 形 した 単 結 晶 の 一 端 を 固 定 し 、 他 端 に 一 定 の 外カ を 加 え 続 け る こと に よ っ て 、 孤 立 境界 面 を 運 動 さ せ た。 運 動 の 様 子 は 、@ 光 学 顕 微 鏡 を 通 し てCCDカ メ ラ に 送 り 、 そ の 映 像 を ビ デ オ デ ッ キ で 録 画 し 、1コ マ ご と の 境 界 面 の 位 置 の 時 間 変 化 を 測 定 す る 方法 と 、 ◎ 非 接 触 型の レ ー ザ 変 位 計 に より 、 境 界 面 の 位 置の 時 間 変 化 を 測 定す る 方 法 の2通 り で お こ な っ た 。 結 晶 内 の 同 じ 領 域 内 でkinkを 繰 り 返 し 動 か し た 。ま ず 、 運 動 前 にstart地 点 (xs,ユハ) で一 定時間 (′エ゛″)待機させ、その後一定外カを加えて境界面を運動させる。end地点(.Y‥d)で 一 定 時 間(tcnd)待 機 させ た あ と 、 一 定 速度 でXmー ま で境 界 面 を 押 し 戻 す 。こ れ を1サ イ ク ル と し て 、繰 り 返 し 観 測 を お こ な っ た。 こ の よ う に し て、 運 動 の 再 現 性 を 高め る と 共 に 、 そ れぞ れ の バ ラ メ 一 夕の 影 響 を 分離 するこ とが できた 。な お、全 ての 測定は 室温 でおこ なっ た。

  外 形 か ら はkinkは 上 述 のよ う に 単 純 な 板 で ある が 、 以 下 の よ うな 特 異 な 運 動 を する こ と を 見 出 し た 。

(2)

@速度は場所に強く依存する。

kinkは間 欠的に 運動す る。 間欠運 動は結 晶内の 決まっ た場 所で生 じるた め、結 晶内の不純物などに   よ ってピ ン止め されたkinkがな んら かの原因で再び運動を再開すると考えられる。運動速度(v)と途   中の停止時間( tIJu)のバラメー夕依存性からは、両者には定性的に大きな違いはない。しかし、運動状   態と停 止状 態との 移り変 わりは 不連続 であ る。一 時停止 は単に 速度‑0の極限 ではな く、kinkの運   動の持つ1つの本質的な現象である。

◎同 じ領 域内を 運動さ せても 、向 きが違うと速度が2桁以上も異なる。この現象はどの結晶においても   見 られる 。P‑partが大きくなる向きの速度が常に大きい。っまり、P‑partとT‑partは等価ではなく、

  TーpartはP‑partに比ぺて不安定であり、結晶内部に左右非対称な内部応カが発生している。また、結   晶 によっ ては、 外カを 加え なくて もkinkが 自発的 に運動 する領域が存在する。この自発運動も必ず   P‑partが増 大 す る 向 きに し か 生 じ ない 。 自 発 運 動は 非 対 称 な 内 部応 カ が 大 き い場 合 で あ る。

@測 定し た範囲 内では、速度は外カに対して指数関数的に増加する。しかし、静止摩擦に相当する臨界   外力F以下では速度はゼ□であると推測される。

kinkを結 晶の同 じ領域 内を 同じ方 向に運 動させ ても運 動速 度が大 きくば らつく 。これは、まだ制御   さ れてい ないパ ラメ一夕の存在を示す。実験の結果、P‑partの増加するkinkの運動は「直前にT‑part   であった時間の長さ(f丶丶au)」とともに急激に減少することを見出した。kinkの直前の運動、すなわち   直 前のP‑partからT‑partへの変換によって結晶に何らかの変化が生じ、この変化の緩和とともに運動   速度が減少することを意味する。速度はr丶丶・‥の増加とともに明らかに指数関数的ではなく、べきに近   い 関数で 減少す ることがわかる。っまり、tッIt中の緩和は、1つの緩和時間を持っような単純な緩和   過程ではない。fいaltの影響が速度の絶対値には依らないことを見出した。っまし、速度に依存する粘   性 が変化 するの ではな く、kinkに働 く有効 応カの 大きさ を変えていることを意味する。更に、kink   の運動には有限の臨界応カが存在し、f丶丶altの増加は臨界応カを増加させていることを意味する。また、

  f丶丶ユltと共に増加する内部応カは方向依存を導く成分とは完全に分離でき、どちらの向きにも働くこと   を見出した。

◎く。dとともにkinkの運動速度が大きくなる。つまり、kinkは直前の押し戻し運動のみならず、それ以   前 の運動 の影響 も受ける。P‑partが増加する向きに運動するとき、P‑partの時間が長いほど、T‑part   の 時間が 短いほ どP‑partの増加する速度は大きい。しかし、一度運動するとそれ以前の運動の影響は   急激に減少し、直前の運動の影響が支配的となる。

以上 から、kinkの運動にはなんらかのメモリー効果が存在し、kinkの運動は外力・温度などのパラメー タだ けでは 決まらない。境界面の運動は媒質の変化をもたらし、その変化によって境界面の運動自身が 大き く影響 される。これは、境界面は剛体ではなく、位置以外の自由度を持ちうることを示している。

固体 中の様 々な境界面の運動も、媒質になんらかの変化をもたらすとすると、同様に媒質の変化に運動 が大 きく影 響されるであろう。kinkの運動によって、結晶内部にどのような変化が生じ、kinkの運動に どの ように 影響を 及ぼす かに ついて の研究 は今後 の課題 とな る。

(3)

学位論文審査の要旨 主査

副査 副査 副査

教授 教授 助教授 助教授

三本木 八木 根本 川端

     孝 駿郎 幸児 和重

     学位論文題名

Unusual motion of isolated twin boundary     in (TMTSF)2X

((TMTSF)2X における孤立双晶境界面の特異な運動)

   固体にはェネルギー密度が一様な領域を区分するような種々の境界面がある.境界 面は外場の下で運動することができる.面に内在する多くの自由度と媒質の不均一性 との相互作用により,運動は複雑となることが期待される.また,境界面の動き易さ は 磁 性 材 料 ・ メ モ リ ー 材 料 など の 特 性 を 支 配 し , 実 用 的に も 重 要 で あ る .    申請者は有機錯体くTMTSF)2X の針状単結晶を双晶変形させ,孤立した境界面を作っ た,独特の測定装置を自作し,外部応カの下で孤立境界面の運動を室温で観測した.

   まず,X 線回折により境界面の左右の方位の関係を調べ,面が双晶境界であること を確認した,また,原子間力顕微鏡・走査型電子顕微鏡により,境界面が分解能の範 囲で平面であり,その幅の上限が20nm 以下であることを見出した.すなわち,静止 した双晶境界面は,一見,薄い剛体平板に近い.

   次に申請者は一定外力下での双晶境界面の繰り返し運動をりアルタイムで観察し,

以下のような特異性を見出した.

@速度は場所に強く依存する.これは結晶内の欠陥などが不均一に分布し,ピン止 めカの空間分布が不均一となる結果であることを示す.

◎運動は間欠的である.運動速度と停止時間のバラヌー夕依存性からは,両者には 定性的に大きな違いはないが,運動状態と停止状態の移行は不連続であり 一時停止 は単に速度 ‑0 の極限ではないことを示す.

◎同一領域内の運動速度は,その向きに大きく依存する.極端な場合には外カなし に運動する.変形領域の不安定性を示す結果である.

@速度の外力依存性からI 静止摩擦に相当する有限な臨界応カの存在が結論される.

◎速度は運動開始前の待ち時間とともに急激に低下する.直前の逆向き運動により

媒質に誘起された何らかの変化の緩和とともに速度が減少することを意味する,速度

の外部応カおよび待ち時間依存性から,後者は粘性に相当する動摩擦カではなく臨界

応カを増加させることを見出した.

(4)

   以上の結果から,申請者は境界面の運動が媒質の変化をもたらし,その変化によっ て双晶境界面の運動自身が大きく影響されることを見出した.これは,双晶境界面は 剛体面ではなく,多くの内部自由度を持つことを示すもので,固体内の様々な境界面 に共通する特徴であると主張した.

   これを要するに,著者は,固体中の孤立した双晶境界面の特異な運動に関する新知 見 を得 たも のであ り, 非線形実験物理学に貢献するところ大なるものがある.

   よって申請者が北海道大学博士(理学)の学位を授与される資格あるものと認める

参照

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