博士(獣医学)畑 学位論文題名
新規経口トリアゾール系抗真菌薬の開発 学位論文内容の要旨
桂
近年、医療の高度化に伴い、抗癌剤や免疫抑制剤をはじめとする化学療法薬の投与に より、日和見感染症の発生例が増加している。殊にカンジダ、アスペルギルス、クリプ トコッカス等による内臓真菌感染症が問題となっている。なかでも肺アスペルギルス症 は既存の薬物による治療効果が上がらないことから、新たな薬剤を開発する必要に迫ら れている。現在、内臓真菌症の治療にはボルェン系抗生剤とアゾール系合成剤が用いら れている。ポリエン系抗生剤は強カな抗真菌活性を示すが、副作用が強いために臨床利 用に制約がある。一方、アゾール系合成剤は有効性は劣るが毒性が低いので、確定診断 が困難な内臓真菌症の治療に広く用いられている。しかしながら、重症感染例やアスベ ルギルス症には充分に奏効しない。このような現状の下で、本研究は安全で且つ強い抗 真菌活性と広いスペクトルを有する新規アゾール系抗真菌剤を開発することを目的と する。
アゾール系抗真菌剤の作用機序は真菌細胞膜の主要構成成分であるエルゴステロー ル合成過程におけるラノステロールのC−14位脱メチル化反応の阻害である。この反応 を触媒するにはへムタンパクであるチトクロームP一450が必須であり、この酵素のへ ム鉄原子にアゾール環の窒素原子が結合することにより、真菌細胞膜の合成が阻害され る。動物細胞由来のチトクロームPー450はアゾール剤との親和性が著しく低いために アゾール剤の選択毒性が現われる。したがって、アゾール系合成剤の抗真菌活性は真菌 のチトクロームP−450との親和性の強さと相関する。
これまでに確立された抗真菌活性のin vitro評価系は必ずしも生体内における効果を 反映していない。そこで著者は抗真菌活性を認めた候補薬剤を直ちにin vivoで評価す ることとした。まず、in vivo第一次スクリーニング系としてカンジダ、アスペルギル スのマウス全身感染モデル系を用いた。次にin vivo第二次スクリーニング系として、
マウス肺アスベルギルス症モデル系を開発した。即ち、免疫抑制状態にしたマウスを用 いれば、健常マウスには発症しない肺アスペルギルス症を惹起できることが判明した。
同様の方法で肺カンジダ症も惹起することができた。次に、近年エイズ患者の増加に伴 いその発症が注目されてきた口腔カンジダ症モデル系を確立し、さらに、内臓真菌症と
して重要なクリプトコッカス症の全身感染、呼吸器感染、脳内感染の各モデル系を確立 した。
これらの評価系を用いた化合物のスクリーニングの結果、1次スクリーニングで59 剤が選択され、2次スクリーニングで24剤が選択された。次にこれらの化合物につい て、マウスに対する毒性試験を実施した。このようにして選択された12化合物につい てラット及びイヌに対する毒性試験を実施した結果、臨床で最も利用頻度の高いフルコ ナゾール(FLCZ)と同等以上の安全性を示し、カンジダ症に対してはFLCZと同等以上、
アスベルギルス症に対してはイトラコナゾール(ITZ)と同等以上の有効性が期待できる 新規トリアゾール系化合物、ER‑30346が選出された。
ER―30346はカンジダ、トリコスポロン、クリプ卜コッカス、アスベルギルスに対し て 幅 広い 優 れた 抗 真 菌活 性を示し、 特にCandida albicans、Cr卵to co cc us ne of ormans及びAspergillus fum延剛usに対しては既存の薬剤より強い抗真菌活性 を示した。また、本剤は皮膚糸状菌に対しても、爪白癬の治療に用いられているITZ よりも優れた活性を示した。アゾ―ル系薬剤のターゲッ卜である真菌チトクロームP― 450に対する親和性を比較検討したところ、ER一30346の親和性の強さはnZと同等で FLCZより強かった。
ER―30346はマウス全身及び肺アスペルギルス症モデルに対して、臨床で効果が認め られているITZと同等以上の効果を示した。C.aめぬnsによる全身、肺及び口腔カン ジダ症モデルに対してはFLCZと同等以上で、nZよりも明らかに優れた効果を示した。
また、ER 30346はマウス全身、肺クリプトコッカス症及びクリプ卜コッカス髄膜炎モ デルに対しても臨床において高い有効性が確認されているFLCZと同等で、rrZよりも 明らかに優れた効果を示した。ER心0346は「rZと同程度の最高血中濃度(Cmax)と、
良好な体内動態を示すFLCZと同程度の血中半減期(T1/2)を示し、薬物代謝酵素阻害 による毒性は認められなかった。
以上のように、ER―30346は主要病原性真菌に対して、幅広いスペクトルと優れた抗 真菌活性を示し、各種感染症モデル動物で高い治療効果を示したことから、各種真菌感 染 症 に 対 す る 治 療 薬 と し て 有 効 性 が 期 待 で き る と の 結 論 に 達 し た 。
学位論文審査の要旨 主査
副査 副査 副査
教授 教授 教授 教授
喜田 中里 橋本 高島
学 位 論 文 題 名 幸
郁 宏 和 晃 夫
新規経口トリアゾール系抗真菌薬の開発
近 年 、 医 療 の 高 度 化 に 伴 い 、 抗 癌 剤 や 免 疫 抑 制 剤 を は じ め と す る 化 学 療 法 薬 剤 の 投 与 に よ り 、 日 和 見 感 染 症 の 発 生 例 が 増 加 し て い る 。 殊 に カ ン ジ ダ 、 ア ス ベ ル ギ ル ス 、 ク リ プ 卜 コ ッ カ ス 等 に よ る 内 臓 真 菌 感 染 症 が 問 題 と な っ て い る が 、 既 存 の 抗 真 菌 薬 は 安 全 性 あ る い は 有 効 性 に 問 題 を 抱 え て い る 。 本 研 究 は 安 全 で 且 つ 強 い 抗 真 菌 活 性 と 広 い ス ペ ク ト ル を 有 す る 新 規 ア ゾ ー ル 系 抗 真 菌 剤 を 開 発 す る こ と を 目 的 に 遂 行 さ れ た 。 こ れ ま で 用 い ら れ て き たin vitro評 価 系 は 必 ず し も 生 体 内 に お け る 効 果 を 反 映 し な い 。 そ こ で 著 者 はin vivo評 価 系 を 確 立 す る こ と に 注 カ し た 。 ま ず カ ン ジ ダ お よ び ア ス ベ ル ギ ル ス の マ ウ ス 全 身 感 染 モ デ ル 系 を 作 出 し て 、 こ れ を 第 一 次 ス ク リ 一 二 ン グ に 用 い た 。 次 に 肺 ア ス ベ ル ギ ル ス 症 お よ び 肺 カ ン ジ ダ 症 の マ ウ ス モ デ ル を 開 発 し た 。 さ ら に 、 口 腔 カ ン ジ ダ 症 、 ク リ プ ト コ ッ カ ス の 全 身 、 呼 吸 器 お よ び 脳 内 感 染 症 の モ デ ル 系 を 確 立 し た 。 こ れ ら の 評 価 系 を 用 い て800以 上 の 合 成 化 合 物 の ス ク リ ー ニ ン グ 及 び 毒 性 試 験 を 実 施 し た 結 果 、 既 存 薬 と 同 等 以 上 の 安 全 性 を 示 し 、 カ ン ジ ダ 及 び ア ス ペ ル ギ ル ス 症 に 対 し て 高 い 有 効 性 が 期 待 で き る 新 規 経 □ ト リ ア ゾ ー ル 系 化 合 物ER−30346 が 選 出 さ れ た 。
ER‑3 0346は 主 要 な 内 臓 真 菌 症 原 因 菌 及 び 皮 膚 糸 状 菌 に 対 し て 、 幅 広 い 優 れ たUl vit ro抗 真 菌 活 性 を 示 し た 。 ま た 、 本 化 合 物 は ア ス ベ ル ギ ル ス 、 カ ン ジダ 、ク ルブ トコ ッ カ ス に よ る 全 身 及 び 局 所 感 染 症 に 対 し て 、 既 存 薬 に 比 し 同 等 以 上 の 優 れ た 治 療 効 果 を 示 し た 。 さ ら にER‑3 0346は 良 好 な 体 内 動 態 を 示 し 、 ア ゾ ー ル 系 薬 剤 で 懸 念 さ れ る 薬 物 代 謝 酵 素 阻 害 に よ る 毒 性 は 認 め ら れ な か っ た 。
以 上 の 成 果 は 、 新 規 ト リ ア ゾ ー ル 系 抗 真 菌 薬ER―30346が 主 要 病 原 性 真 菌 の 内 臓 及 び 皮 膚 感 染 症 に 対 す る 治 療 薬 と し て 有 効 性 が 期 待 さ れ る こ と を 示 す も の で あ る 。 よ っ て 審 査 員 一 同 は 畑 桂 氏 が 博 士 ( 獣 医 学 ) の 学 位 を 受 け る 資 格 を 有 す る も の と 認 め た 。
ー 282一