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博 士 ( 薬 学 ) 樫 山 英 二

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Academic year: 2021

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博 士 ( 薬 学 ) 樫 山 英 二

学 位 論 文 題 名

薬 物 の 光 学 異 性 体 の 体 内 に お け る 相 互 変 換 メ カ ニ ズ ム に 関 す る 研 究

―不斉硫黄原子を含むフ口セキナンを例として―

学 位 論 文 内 容 の 要 旨

  薬物が生体 内に投与され、受容体等を介した薬理反応、また薬物の 特定の官能基を認識し て 進む 薬物 代謝 など の 反応 には 、す べて 光学 的特 異性 が大きく関与 している。我々が現在 使 用レ てい る薬 物に は 、そ の分 子内 に不 斉原 子を 有し 、ラセミ体と して使用しているもの が 多く 存在 する 。最 近 の分 析化 学の 進歩 とと もに 、薬 物の異性体間 の体内動態に著しい差 が ある こと が見 い出 さ れる よう にな って きた 。こ のよ うな異性体の 体内動態の研究は薬物 の 薬 効 や 毒 性 の 発 現 に も 大 き な 意 味 を も つ こ と が 認 識 さ れ る よ う に な っ て き た 。   近年、薬物 として開発される化合物の構造は複雑かつ多様になり、 炭素原子以外の不斉原 子 に起 因す る光 学異 性 体を 有す る化 合物 も増 加し つっ ある。硫黄原 子もキラリティーが発 生 する 場合 があ るが 、 不斉 硫黄 原子 に起 因す る光 学異 性体の体内動 態に関する研究はほと ん ど行 われ てい ない 。 そこ で、 不斉 硫黄 原子 に起 因す る光学異性体 の体内動態について検 討 した 。モ デル 化合 物 とし てス ルフ ォキ シド 基を 有し 、比較的構造 が単純なフロセキナン を 選択した。 フロセキナンの主要な代謝物は不斉硫黄の酸化反応によ って生成するスルフォ ン体¢S(りと還元反応によって生成す るスルフィド体(FS)のみであり、不斉硫黄原子以外の 部 位で の代 謝が ほと ん ど起 こら ない こと から 、モ デル 化合物として 適していると考えられ る。

  光学異性体 の体内動態を検討するために、フロセキナンの各異性体 の分離定量と代謝物の FSOzとFSを 同 時 に 測 定 可 能 なHPLCに よ る 定 量 法 に つ い て 検 討 し 、 キ ラ ル な 固 定 相 の Chiralcel ODカ ラム を 用い 、操 作が 簡便 で精 度お よび 再現性に優れ た定量法を確立レた。

  本定量法を 用いて、ラットにおける光学異性体の体内動態にっいて の検討し、生体内で興 味 ある 挙動 を示 すこ と を明 らか にし た。 すな わち 、一 方の異性体を ラットに経口投与する と 、血 漿中 に他 方の 異 性体 が検出された 。さらに、この相互変換には選択性があり、S‑FSO か らR‑FSOへ の変 換が 優位 に起 こった。このような光学異性体の体内 での相互変換の例は他 の 薬物 でも 認め られ る が、 不斉 硫黄 原子 に起 因す る光 学活性な薬物 に関する報告はない。

そこで、不 斉硫黄原子(スルフォキシド基)を有する薬物の光学異性体の生体内相互変換のメ カニズムを 明らかにすることを目的として研究を進めた。

  生体 内相 互変 換の 起 こる メカ ニズ ムと して 、光 学不 活性な代謝物 であるFSあるいはFSOz が、それぞ れS.酸化および還元反応に よって再度R‑FSOとS‑FSOに代謝されるためと推察し、

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ラ ット にFSとFS2を静 脈内 投与 した 。そ の 結果 、FSを投 与し た場 合に のみ 血漿中にR‐FSO とS,FSOが 検 出さ れた こと から 、生 体内 相互 変換 はFSを介して生ずることが明らかにな っ た。ま た、R−FSOとS.FS0を経口投与した場合の生体内での相 互変換は静脈内投与した場合 に 比較 して 高 く、 無菌 ラッ トお よび 抗生 物質 で処 理レたラットでは相互変換が認められ な か った 。し た がっ て、 経口 投与 され たフ ロセ キナ ンは主に腸内細菌によって還元され、 生 成したFSが体内で再びR‐FS0とS−FSOにS.酸化されると考えられた。そこで、相互変換の機 序とそ の選択性のを明らかにするためにスルフォキシド基の還 元およびS.酸化反応について 詳細に 検討した。

  1)スルフォキシド基の還元反 応

  ラ ットの腸内より内容物を採取して直接R‑FSOおよびS‑FSOの還元にっいて検討した結果、

R‑FSOの 方がS‑FSOより 速や かに 還元 され た。 好気および 嫌気的な条件下での反応より、通 性嫌 気性菌にスルフォキシドの高い還元活性のあることが示 唆された。腸内細菌のスルフォ キ シド 基 の不 斉選 択的 還元 につ いて28種 の菌 株を用いて 検討した結果、興味あることに検 討 した 菌 株の うち 、そ れぞ れR‑FSOとS‑FSOを 特異的に還 元する菌株が存在することが明ら か にな っ た。 この 選択 性は 他の 光学 活性 な基 質を用いた 場合にも認められ、腸内細菌の興 味あ る特徴であると考えられた。

  2冫S.酸化反応

  ま ず、4種の不斉選択的なS‐酸化反応についてラット肝ミ クロゾームを用いて速度論的解 析 を 行 な っ た 結 果 、 生 体 内 で はFSか らR‑FSOが 優 先 的 に 生 成 す る こ と が 確 証 さ れ た 。   一 般に含硫黄化合物の酸化反応にはP−450とFMOが関与することが知られている。そこで、

不斉 選択的なS−酸化反応を触媒 している酵素を明らかにするために、それぞれの酵素の阻害 剤 と活 性 化剤 等を 用い て検討し た。FSからR‑FSOへのS‐酸化反応にはFMOと P‑450の両酵素 が、 他の3種のSー酸化反応にはPー450が関与していることが 示唆された。さらに、FMOが主に FSか らR‑FSOのS―酸化反応を触媒し、相互変換の選択性の主たる原因であることが示された。

一方 、P‑450には多くの分子種が 存在することが知られている。そこでP‑450に対する抗体を 用い てそれぞれのS‐酸化反応に 関与するP‑450分子種につい て検討した結果、特にCYP 3A分 子種 がFSからRーFSOへのS‐酸化 反応を除く3種のS・酸化反応に関与している主な分子種であ るこ とが明らかとなった。

  以上 、 相互 変換 の選 択性 の原 因は 、FMOが選 択的 にFSからR‑FSOの生成を触媒しているこ と であ っ た。 そこ で、 ラッ ト肝FMOを コー ドす るc)NAを酵 母に 導 入し 、FMOを 発現してい る形 質転換酵母のミクロゾームを用いてFM0の不斉選択的なS‐酸化反応について検討した結 果、FMOの不斉選択的なS一酸化反応が実証された。さらに、 不斉選択的なS‐酸化反応を触媒 す るFMOの特 性を 利用 した 形質 転換 酵 母を 用い たバ イオ リア クタ ーと して の適 用について 検 討し 、 スル フォ キシ ド基 を有 する 化合 物の 不斉 選択的生 産の有効的な手段に成りうるこ とを 示した。

  3)ヒトにおける相互変換の可能性

  ヒトとラットにお いて構成比は異なるが共通の腸内細菌が存在しているこ とから、ヒトに お いて もス ルフ ォキ シド 基の還元tま腸内細菌 によって触媒されると考えられた。次に、ヒ ト肝ミク口ゾームを 用いてS‑酸化反応にっいて検討した結果、4種のS・酸化 反応が確認され た こと より 、ヒ トに おい ても ラッ トと 同 様な メカ ニズムで、相互変換が起こっている可能 性が強く示唆された 。

(3)

  以上の結果より、フロセキナンの生体内での相互変換はスルフォキシド基の腸内細菌によ るスルフィド体への還元とスルフィド体の生体内でのFMOとP‑450によるスルフォキシド体 への再酸化によって起こることが明らかになった。腸内細菌によるスルフォキシド基の還 元とFMOとP‑450によるスルフィド体の酸化反応についてはいくっかの報告があり、種々の スルフォキシド基を有する化合物で起こることが容易に推察される。すなわち、スルフォ キシド基を含む光学活性な医薬品は生体内での相互変換が起こる可能性か極めて高く、薬 効や毒性が異なる場合には重要な問題であり、相互変換の程度や選択性を見極めることが 重要であると考えられる。

(4)

学位論文審査の要旨 主査

副査 副査 副査

′教授 教 授 助教授 助教授

鎌滝哲也 野村靖幸 徳光幸子 横井   毅

学 位 論 文 題 名

薬物 の光学異性体の体内における 相互変換メカニズ ムに関する研究

―不斉硫黄原子を含むフ口セキナンを例として―

不斉硫黄原子に起因する光学異性体の体内動態に関する報告はほと んど行なわれていない。そこで、申請者は不斉硫黄原子に起因する光 学異性体の体内動態について検討したところ、光学異性体の生体内相 互変換が起こることを見いだした。そこで、そのメカニズムについて も研究を進め、生体内における光学異性体の相互変換のメカニズムの 詳細なメカニズムを明らかにした。本研究は不斉硫黄原子を有する化 合物の生体内変換に関して新しい概念を提供するものであり、以下に 詳 述 す る よ う に 極 めて 優 れ た 研 究 成 果 で あ る と評 価 さ れ る 。

   !). 7 聖重圭士Z(F$O) と量Q 岱謝物金離定量法 c 確立と垈自動態    本研究では不斉硫黄原子を有するモデル化合物としてスルフォキシ ド基を有し、比較的構造が単純なフロセキナンを選択した。フロセキ ナンの代謝経路は単純で、主要な代謝物は不斉硫黄の酸化反応によっ て生成するスルフォン体(FS02) と還元反応によって生成するスルフイ p 本(FS) のみであり、不斉硫黄原子以外の部位での代謝がほとんど 起こらないことから、モデル化合物として適していると考えられる。

まず、光学異性体の体内動態を検討するために、フロセキナンの各異

性体の分離定量と代謝物のFS02 とFS を同時に測定可能なHPLC による

定量法を確立した。

(5)

   本定量法を用いて、ラットにおける光学異性体の体内動態について 検討した結果、フロセキナンは生体内で興味ある挙動を示すことを見 いゝ出した。すなわち、一方の異性体をラットに経口投与すると、血漿 中に他方の異性体が検出された。さらに、この相互変換には選択性が あ り 、 S‑FSO か ら R − FSO へ の 変 換 が 優 位 に 起 こ っ た 。    生体内相互変換の起こるメカニズムとして、光学不活性な代謝物で あるFS あるいは FS02 が、それぞれS ‐酸化および還元反応によって再度 R‑FSO と S‑FSO に代 謝されるた めと推察し た。そこでラットにFS と FS02 を単 回静脈内投 与した結果 、 FS を投与した場合のみ血漿中に R‑FSO と S‑FSO が検出され、このとき R‑FSO がS‑FSO より高い血漿中濃 度を示した。

  R‑FSO とS‑FSO を静脈内投与した場合の生体内での相互変換は経口 投与した場合に比較して極めて少なく、無菌ラットおよび抗生物質で 処理したラットに R‑FSO と S‑FSO を経口投与した場合には相互変換は 認められなかった。したがって、フロセキナンは腸内細菌によって還 元され、生成した FS が吸収されて体内で再びR‑FSO とS‑FSO にS ‐酸化 されると推定した。

  2 ) Z 里重圭士 Z 光生異性 垈 Q 生垈四担互変換堕嵳変三蓋A ;丞 )1/

7 空圭2 ピ基Q 還元反応

   面 vitro で肝臓と腎臓の可溶性画分を用いて検討した結果、アルデヒ ドオキシダーゼとチオレドキシン依存性の還元酵素によって還元反応 が触媒されることが示されたが、その寄与は腸内細菌より小さいと考 えられた。腸内細菌によるスルフォキシド基の不斉選択的還元につい て 28 種の菌株を用いて検討した結果、3 種はR‑FSO を、2 種はS‑FSO を 特異的に還元することが明かになった。

  3 ) Z 里童主 士 Z 光生異性垈 Q 生垈鹵担互変換Q2 変三ズム; S 〓酸化 厘応

   立体選択的なS‑ 酸化について酵素化学的に証明するために、FS から R‑FSO およびS‑FSO への S .酸化、さらにR‑FSO およびS‑FSO からFS02 へ のS ‐酸化についてラット肝ミクロゾームを用いて詳細に検討した。FS からR‑FSO への S ‐酸化反応にはFMO とP‑450 の両酵素が、他の3 種のS

‐酸化反応には P‑450 が関与していることが示唆された。また、肝ミク

ロゾー ムを用いて速度論的解析を行なった結果、FMO が主に FS から

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(6)

R‑FSO のS .酸化反応を触媒し、相互変換の選択性の主たる原因である ことが示された。さらに、特にCYP3A 分子種がFS からR‑FSO へのS ―酸 化反応を除く3 種のS ‐酸化反応に関与している主たる分子種であるこ とを明かにした。

豊)竺と睦蔓!士墨拍互変換Q 亜能性

   ヒトとラットの腸内には構成比は異なるが共通の腸内細菌が存在し ていることから、ヒトにおいてもR‑FSO およびS‑FSO からFS への還元 は腸内細菌によって触媒されると考えられた。また、ヒト肝ミクロゾ ームを用いてS ‐酸化反応について検討した結果、4 種のS ‐酸化反応が 起こることが確認されたことより、ヒトにおいてもラットと同様なメ カ ニ ズ ム で 相 互 変 換 が 起 こ っ て い る と 推 察 さ れ た 。

以上、本研究は本論文「薬物の光学異性体の体内における相互変換

メカニズムに関する研究ー不斉硫黄原子を含むフロセキナンを例とし

てー」に含まれる研究成果は薬学における基礎および応用のいずれに

おいても優れており、博士(薬学)の学位を受けるに充分値するもの

と認めた。

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