信号交差点における横断歩行者の速度分析
名古屋大学大学院 学生会員 ○張 馨 名古屋大学大学院 正会員
Wael ALHAJYASEEN
名古屋大学大学院 正会員 浅野 美帆 名古屋大学大学院 正会員 中村 英樹
1. はじめに
日本の信号交差点での死亡事故件数のうち,横断中 の人対車両の事故が約
32%
を占めており1),横断歩道上 での歩行者の安全性が問題となっている.事故発生の 要因分析として,車両の危険挙動が注目されているが,歩行者自体も危険挙動を取る事があり,その危険挙動 についても注目すべきである.歩行者の危険挙動には,
まず歩行者青
(PG)
になる前に横断し始めるフライング 歩行者が挙げられる.矢野ら2)が明らかにしているよ うに,歩行者青点滅(PF)
の正確な意味を知っていた歩 行者が極めて少ない.そのため,PF
開始後に横断し,結果赤現示開始までに渡り切れない歩行者もしばしば みられる.これらの挙動は,信号制御や横断歩道長な どの幾何構造要因によっても影響を受けると考えられ る.
従って,本研究では信号現示や横断歩道の長さと歩 行者挙動の関係について観測データを用いて明らかに することを目的とする.
2. 分析対象交差点とデータ取得方法
表
1
に示す交差点規模の異なる名古屋市内の二箇所 の信号交差点の横断歩道にて,ビデオ観測行い歩行者 挙動・信号現示データを取得した.対象とした歩行者の足と地面の接触するポイント の位置をビデオ画像処理システム3)によって
0.5
秒おき に追跡し,カルマンスムージングにより誤差補正を行 う事で,歩行者の0.5
秒ごとの位置座標を得た.このデ ータを用いて分析を行う.3. 横断開始・終了のタイミング
表
1
に示す信号現示によるサイクルごとのPG
開始時 刻を0
とし,PG
前後の時間帯をR1
,G1
,G2
,G3
,FG
,R2
の6
つのステップに分けて横断開始・終了のタイミ ング分析を行った.末盛通
2
と西大須における歩行者の横断開始タイミ ングの分布を図1
に示す.T<0
の時をPG
開始前とする.R1
,G1
,G2
の間にそれぞれ約55
%と82%
の歩行者が横 断を開始しており,これは,西大須のサイクル長が長 いため,PG
開始前に横断待ちの歩行者が多いことが原 因として考えられる.また二つの交差点とも,これは サイクル長が長いためであると考えられる,PF
とR2
表2 歩行者青現示前後のステップ定義 定義
R1 右折矢開始~PG開始
G1 PG開始から5秒間(横断待ち歩行者が横断を開始するまで
の時間,ここで,PGの最小時間を参考し5秒間を取る)
G2 G1終了時刻に横断し始めた歩行者が1.0m/sの速度で横断
歩道を半分横断するのに要する時間
G3 G2終了時刻~PG終了までの間(PG開始時には横断歩道か
ら離れており,PG開始のタイミングを確認できていると は限らない.また,PG開始と同時にわたり始めた歩行者 も多くが横断歩道の半分以上を渡り切っており,その方向 者が赤現示開始までに余裕を持って渡り切る事が出来る かどうかがわからない状況と考えられる.)
PF 歩行者青点滅(PF)と同じ時間
R2 PR開始~交差方向の直進青開始
0%
10%
20%
30%
40%
50%
60%
70%
80%
90%
100%
0 0.02 0.04 0.06 0.08 0.1 0.12 0.14 0.16
… -6 -1 4 9 14 19 24 29 34 39 44 49 54 59 64
歩行者頻度
信号現示
西大須頻度 末盛通2頻度 西大須累積百分率% 末盛通2累積百分率%
末盛通2 西大須
R1 G1 G2 G3 PF R2
R1 G1 G2 G3 PF R2
末盛通2 西大須 サンプル数 138 249
平均(m/s) 14.27 8.39 標準偏差 15.4 9.91
図 1 横断開始タイミング分布
表1 対象交差点の概要 交差
点名 観測日時 分析横
断歩道 横断歩道
の長さ[m] 標準サイ
クル長[s] サンプ ル数 PG
[s] R1 [s] G1
[s] G2 [s] G3
[s] PF [s] R2
[s]
末盛
通2 2008/1/18(金)
9:30~12:00 南 18 140 138 47 20 5 4 38 8 23
西大
須 2008/11/18(火)
9:00~12:00 北 35.5 160 249 38 19 5 12.8 25.2 10 22
土木学会中部支部研究発表会 (2011.3) IV-030
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に横断を開始した駆け込み歩行者が
4%
と2%
が見ら れた.横断開始タイミング別に,歩行者が横断終了 したタイミングの分布(
図3)
をみると,末盛通2
ではG1
で横断開始する歩行者の終了時刻がG1
からG3
の 間で分布している.西大須ではG2
,G3
で横断開始 しR2
で横断終了した人も見られた.原因として,そ して,横断歩道が長いほどPG
の間に渡り切れない傾 向があることがわかった.4. 横断開始速度
末盛通
2
の信号現示のPG
とPF
に着目し,G1
,G2
,G3
,PF
の 横断開始速度V
in(
図2)
を比較した結 果を図4
に示す.歩道と横断歩道の境界線の前後直 近の地点における速度から境界線における速度を算 出した.横断開始速度V
inがここでの歩行者のV
inの平均は
1.22
m/s
であった。V
in累積百分率をみると,G1
とG2
の分布には違いが見られなかったが,G3
,PF
と横断開始時刻が遅くなるにつれて横断速度分 布が徐々に速い方にシフトしており,速度が上がる 傾向があると言える.5. 歩行者の横断歩道内における速度変化
歩行者の横断歩道内における速度変化をみるため,
図
2
に示す横断開始位置側の区間(
以下,横断前半)
と 横断終了位置側の区間(
以下,横断後半)
それぞれに おける歩行平均速度分布を検討する.横断前半およ び後半における歩行平均速度V1
,V2
は,図1
に示す 前半距離d
1,後半距離d
2をその空間の横断所要時間 で除することより計算した.歩行者は横断歩道が長くなるほど,横断前半と後 半の速度が異なると予測し,長さの違う横断歩道を 用いて分析した結果を図
5
に示す.末盛通2
,西大須 ともに横断前半と後半は違いが見られなかった.今回 の分析では,右左折車が横断歩道付近にいる場合など の歩行者への影響を考慮していなかったので,今後車 に影響される歩行者と影響されない歩行者を分けてよ り詳細な分析を行う必要がある.6. おわりに
本研究では信号現示や横断歩道の長さが異なる横 断歩道での歩行者挙動について分析した.その結果,
同じステップで横断開始した人の終了タイミング異な っている.
PG
の間に渡り始めても横断終了タイミング がR2
になってしまう歩行者の割合が横断歩道長の長 い交差点ほど多い.そしてサイクル長が長いほど,フライングや駆け込みの挙動が増加する傾向がある.信 号現示による,歩行者の横断開始速度が異なる事がわ かった.今回横断前半および後半平均速度の変化傾向 がよく見られなかった.従って,今後サイクル長がよ り短い交差点や横断歩道長が異なる交差点について調 べる必要がある.また車両による影響を考慮した上で,
歩行者の速度を分析する必要があると考えられる.
参考文献
1) 警察庁交通局:平成21年中の交通事故発生状況,2010. 2) 矢野 伸裕、森 健二:青点滅表示中の横断開始行動と青点
滅表示の意味についての認識,第24回交通工学研究発表会論 文報告集,pp.317-320,2004.
3) 鈴木一史・中村英樹(2006):交通流解析のためのビデオ画像 処理システムTrafficAnalyzerの開発と性能検証,土木学会論文 集D,Vol.62,No.3,pp.276-287.
A B
中央分離帯通過時刻tmiddle
A方向の 横断終了 時刻tout A方向の
横断開始
時刻tin 前半距離d1
後半距離d2
左折車 右折車
横断開始 速度Vin
境界線
図 2 横断歩道の定義
6 21 3
152
9 11
18 3 8
12 4 2
0 50 100 150 200
R1 G1 G2 G3 PF R2
G2で終了 G3で終了 PFで終了 R2で終了
b)西大須(n=249) 1
45 38
6 3
19 4 1
114 0 6
20 40 60 80 100
R1 G1 G2 G3 PF
G1で終了 G2で終了 G3で終了 PFで終了 R2で終了
a)末盛通(n=138)
図 3 横断開始タイミング別の横断終了タイミング分布
0%
20%
40%
60%
80%
100%
0 0.3 0.6 0.9 1.2 1.5 1.8 2.1 2.4 2.7 3 3.3
累積百分率(%)
横断開始速度Vin(m/sec) G1(n=62)
G2(n=13) G3(n=57) FG(n=6)
図 4 信号現示による横断開始速度分布
0%
20%
40%
60%
80%
100%
0 0.3 0.6 0.9 1.2 1.5 1.8 2.1 2.4 2.7 3 3.3 3.6 3.9…
累積百分率(%)
横断前半・後半の平均速度(m/s) 末盛通2-V1(n=138) 末盛通2-V2(n=138) 西大須-V1(n=249) 西大須-V2(n=249)
図 5 横断前半・後半における空間平均速度分布
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