信用状統一規則 について
‑ 法的性 質 を対象 と して ‑
桑 原 康 行
1
は じ め に
荷 為替 信 用 状 ( 以下 ,信 用 状 と略称 ) は, そ の い くつ か の機 能
1)ゆえ に・国 際取 引 と りわ け国 際売 買
2)にお いて, きわめて大 きな重 要 性 を有 して い る。
3)こ の よ うな重 要 性 に も拘 らず ,信 用 状 は,今 日に至 るま で,若 干 の例 外 を除 き,
4)国家 に よる立 法 の対象 と は され て こなか った0
5)信 用状 取 引 の大 多数 は,現在 ,荷 為替 信 用状 に関す る統 一規 則及 び慣 例
1983年版
6)( 以 下統 一規 則 と略称 )に よって行 われ て い る とい って も過 言 で はな いo
1)荷為替信用状が,支払機能,担保機能,信用機能 を有することにつ き,例えば,
Canari
S
,GroBkommentarHandelsgesetzbuch,3Aufl .
,Bd.Ill/3 (2Bearb.)1981,
Rdn.916‑918;Nielsen,Auslandsgeschaft,BankrechtundBankpraxi
s,Bd.Ⅰ,19 Auf1.,1978,Rdn.5/251等参照。
2
)国際売買の意義 については,国際的動産売買契約 に関する国連条約
(1980年 )1 条, 国際動産売買統一法条約
(1964年 )
1条,参照。
3
)西 ドイ ツ につ き,
Bandomir,WieaktuellistdasDokumentenakkreditiv?,BB 1971,S.314ff.日本につ き,斎藤彰 「 国際動産売買における売主の義務(
1)」民商法
雑誌91巻
6号896頁。
4
)信用状 に関する法律 ( 制定法)を有する国については,
Kolzolchyk,LettersofCre一 助 InternationalEncyclopediaofComparativeLaw,vol.ⅠⅩ (1979),chap.5,pp.10‑12
参照。
5
)その理由として,第
1に,信用状が大きな重要性 を占めるに至 ったのが, ドイツ ・ フランス等における法典編纂の後であったこと,第
2に,国家 ( 制定 )法が,その 性質上,国際取引を規制するために,必ず しも,ふさわ しくないこと,を指摘する ことがで きようo
Eberth,TheUniform CustomsandPracticeforDocumentaT3)Cre‑ d2'ts,CurrentProblemsofInternationalTradeFinancing(1983)pp.23‑24.6
)英原題 は,
Uniform CustomsandPracticeforDocumentaryCredits,1983Revi‑Sion
である。
〔451〕
452 商 学 討 究 第 37巻 第1 ・2 ・3号
しか し,統 一 規 則 の法 的性 質 につ い て7 ) は,諸 国 の学 説 ,判 例 にお い て , きわ め て さま ざま な見 解 が主 張 され て い る。 これ らの見 解 は,統 一 規 則 が (た と え 法 で あ る と して も)国家 法 にす ぎな い とす る もの か ら,起 国家 法 で あ る とす る
もの に まで及 ん で い る。
8)伝 統 的 かつ 今 日に お いて も支配 的見 解 は,統 一 規 則 の法 的性 質 を, いず れ か の 国家 法 のみ を基 準 と して, 決 定 しよう とす る もの で あ る。 しか し, この よ う な見 解 は, と くに最 近 ,強 い批 判 を う けて お り,統 一 規 則 の法 的性 質 を,超 国 家 法 あ るい は非 国家 法 を基 準 と して決 定 しよ うとす る, 新 しい理 論 が提 唱 され
る に至 って い る。
9)そ こで,本稿 は,伝 統 的 か つ 支配 的見 解 を前 提 とす る議 論 を,西 ドイツ ・イ ギ リス ・ア メ リカ ・日本 を対 象 と して概 観 し, さ らにか か る見 解 に対 す る批 判 に も簡 単 に言 及 す る こ と と した い。
10)そ れ に先 立 ち, ま ず統 一 規 則 の 内容 を概 観 す る こ とか ら,本 稿 を は じめ よ う。
2
統一規則の概要
11)現 行 規 則 は, 総 則 と定 義 ・信 用 状 の形 式 と通 知 ・義 務 と責 任 ・雑 則 ・譲 渡 の ,
6章5
5ヵ条 か ら成 って い る。
7
)この間題 は,理論的問題 と して,重要であるが,信用状開設依頼書や信用状 に統一 規則適用文言が挿入 されていない例外的な場合 には,実際的問題 としても,重要で
ある。
8) Bone
l
l,IIcreditodocumentario:normeedusiunifom i,Portale,Leoperazioni bancarie,TomoI
I,1978,p.959sgg.9
)なお,
4結 びに代えて, も参照。
10)
本稿 は,一方で,筆者の荷為替信用状に関する研究の一部 をなすとともに,他方で 援用可能統一規則 ・国際的約款 と国家法 との関係 に関する研究の一部 をもなすもの である。なお,援用可能統一規則 ・国際的約款 につ いては,例えば,畑口絃 「 援用 可能統一規則 と国際的約款 」 『 現代契約法大系
9巻国際取引契約
(2)』52貢以下,
参照。
ll)
詳 しくは,朝岡良平編著 『 実務家のための逐条解説 信用状統一規則
』24頁以下,
参照。なお,統一規則の沿革 につ いては,同書
9頁以下,の他,小峰登 「 荷為替信
用状の歴史 信用状統一規則の沿革
1‑ 4完」 国際金融33
8号3
3頁以下,同
『1974年信用状統一規則 ( 上 )一逐条解説 とその問題点』1
7貢以下,参照。
信用状統一規則 につ いて 453
A
章,総則 と定義 (
1‑ 6条 )は,信用状の基本原則 を定めた規定か ら成 っ ている。統一規則の適用範囲 ・効力に関する
1条 に続 いて,
2条では,信用状 の定義がなされている。次の
3条では,信用状の基本原則である,独立抽象性 の原則が,定め られている。受益者の抗弁の制限に関する
6条 は, この原則の 具体化の一例 とも言えよう。さらに,4 条では,独立抽象性の原則 とな らんで, 信用状の基本原則 の一つである,書類取引の原則が表明されている。
B
章,信用状 の形式 と通知 (
7‑14条 )で は, さまざまな形式 の信用状, すなわち, 取消可能信用状 ・取消不能信用状 および確認信用状が取 りあげられ, それぞれの信用状 について銀行の責任が定め られている
。10条 (
1項 )によれ ば,取消不能信 用状 は,支払 ・引受 または買取 を行 うとの発行銀行 の確約
(definiteundertaking)であって,原則 と して,変更 ・取消 されえないが, これに対 して,取消可能信用状 は,
9条 によれば,いつで も変更,取消 しうる ものである
。C章,義務 と責任
(15‑21条 )は,銀行 による書類点検義務 お よび銀行 の 免責 を定 める規定か ら成 っている
。15条 によれば,銀行 は,書類が信用状条件 と文面上一致 しているとみ られるかどうかを確かめなければな らない.銀行の 免責 を定める規定 (
17‑20条 )は,次のとお りである。すなわち
,17条 は,書 類 についての銀行 の免責 を
,18条 は,郵送 ・電送中の事故,翻訳等 についての 銀行の免責 を,19 条 は,不可抗力による業務中断に関する銀行の免責 を
,20条 は,他行利用,外国の法律 ・慣習上の債務 についての銀行 の免責 を,それぞれ 定 めている。
D
章,書類
(22‑42条 )は,信用状取引上提供 されるべ き書類 の受理可能 性 についての一連の規定か ら成 っている。いわば代表的書類 ( すなわち,海上 船荷証券 ・保険書額 ・商業送 り状 )の受理可能性 についてだけでな く,新 しい 書類 である, コンテナ
B/Lや複合運送書類 のそれについても,規定 されて いる。ここでは,第
4次改訂で,新たに次の規定 を設 けたことが,注 目される。
すなわち
,22条
C項
,30条である
。22条
C項 によれば,複写機器, 自動機器
またはコンピュータ,カーボン ・コピーをもって作成 された書類 は,それに原
454 商 学 討 究 第 37巻 第1・2・3号
本 (
Original)とい う表示 があれば,原本 と して受理 される。 また,30条 は, 郵便小包受領書 ・郵送証明書 の受理可能性 について定 めている。
E 章,雑則
(43‑53条 ) は,信 用状取 引 をスムーズに行 う上 で,必要不可 欠 と考 え られ る事項 を定 めている。例 えば,
about,circa等の用語の解釈 に関 する規定
(43条 )などである
。F 章,譲渡
(54‑55条 )は,信用状 自体 の譲渡 に関す る5
4条 と,信用状代 り金の譲渡 に関する
55条 との,
2ヵ条か ら成 っている。54 条 は,きわめて複雑 な内容 を有す る規定である。
12)3 統一規則の法的性質
( 1) 西 ドイツ
統一規則の法的性質 について,西 ドイツの学説 においては,大 きく分 けて, 次の
4つの説 が存在 している。すなわち, 第
1に,慣習法 (
Gewohnheitsrecht)読,第
2に,商慣習 (
Handelsbrauche)読,第3に,普通取引約款 (
Allgemeine GeschAftsbedingungen)読,第4に,第
2説 と第
3説の折衷説 とも言 うべき, 一部商慣習,一部約款説である。
西 ドイツ法上,慣習法 とは,「 社会の一般的 な,通常 は,慣行 によって表示 された法適用意思 によって形成 された,不文法
」13)であ り,民法施行法
2条 に ょって,法源 の一つ とされている。
14)かか る慣習法存在 の要件 と して,
15)第
1に,一般慣行 (
consuetudo),第
212)なお,拙稿 「
荷為替信用状の譲渡 ‑ 西 ドイツにおける最近の議論を対象として
‑ 」一橋論叢9
5巻2号109頁以下,参照。
13)EnneccerusINipperdey,LehrbuchdesBilrgerlichenRechtsAll.Teil,1Halbb"15 Aufl,1959,§38Ⅰ
.
14)なお,
、歴史法学派による慣習法の評価につき,
Bonel
l,LeRegQleOggettivedel Commerciolnternazionale,1976,p.102notal l . 参照。以下に引用するBon
ellの 文献は,いずれもこの文献である。
15) Sch6nle,DieRechtsnaturderEinheitlichen Richtlinien und Gebrauchefiir Dokumenakkreditive,NJW1968,S.726,727;Borggrefe,AkkreditivundGrund‑
verhaltnis,1971,S.28.
信用状統一規則 につ いて 455
法的確信 (
opinioiurisseunecessitatis)16),が指摘 される。
統一規則の法的性質について,数 は少ないがこの慣習法説 をとる者 もみ られ る。
17 ) なかでも,
Wesselyは,一 特定 の条項 に限ってではあるが ‑ この説 を 支持 し,詳細 な理由づ けを試 みている。そ こで,次 に
Wesselyの所説 の梗概
をうか
がってみることに しよう。
18)彼 は,独立抽象性の原則 を定 めた
3条 ( a) 項
1文,
8粂( a) 項,総則 と定義 ( C) 項 に,検討の対象 を限定する。
19)慣 習嘩存在 の手 がか りと して,第
1に,裁判所 の判例 の反復 (
standiger Gerichtsgebraudh)第
2に,当該取引圏 ( 当該取引の関係当事者 )の法的確信, が考え られる。
しか し,裁判所の判例 によって,慣習法の存在 を基礎づ けることはできない。
それは,次のような理由か らである。西 ドイツの多 くの判例 は,独立抽象性の 原則 を強調 しているけれども,その多 くは,売買契約 または信用状開設契約が 無効であったケースである。これに対 して, 両契約がいずれ も無効 であったケー スは存在 していない。まさにかかるケースに,独立抽象性の原則が威力を発揮 するのであるが,判例の反復 を出発点 としうるほど十分な判例 は,存在 してい ない。
次に,信用状取引の関係当事者の法的確信 に基づいて,慣習法が存在 してい ることを明 らかにすることができないであろうか。
法的確信の存在 は,一定の前提条件 かつ徴悪によって確認 される.そのよう な前提条件 ・徴暦として,次の・
4つ を指摘することができよう。すなわち,
1.慣行の期間および一様性,
2.慣行の承認,3.慣行の自発性,4.現行法 と16)これに対 して,法的確信 の存在 を慣習法の要件 とする ことを疑 問視 す る見解 につ き, Wessely,DieUnabhdngigkeitderAkkredL'tivverRflichtungyonDeckungsbe2:iehungund Kaufvertrag,1975,S.49こ参照。
17)Herold&Lippisch,BankundBbrsenrecht,2Auf1.,1962,S.5
1
.∧(但 し,SchOnle, a.a、0. ,S.727
による).18)WesSely,a.a.0.,S.47ff
.
19)ここでいう3条(a)項1文, 8条(a)項 ,総則 と定義(C)項 は,それぞれ,現行統一規則 の,10条(a)項 1文,4条,3条 に対応 している。
456 商 学 討 究 第 37巻 第1 ・2 ・3
号 の類似性 ,である。
20)第
1は,慣行 の期間 および一様性 (
DauerundGleichf6rmigkeit)で ある
。すなわち,当該慣行が,長期 にわたって一様 に守 られていることである。
2ユ)独立抽象性 の原則 は,統一規則
3条( a) 項
1文,
8条
(a)項,総則 と定義(
C)項 に おいて述べ られている形で,数十年来,適用 されてきている。そ こで,統一規 則 の これ らの規定が,一定,一様の慣行の表現であることは疑 いがない。 この
ことは, さらにこれ らの規定が,統一規則の
2度 の改訂
(1951年
, 1962年 )を 経 たのに,その内容上,ほとんど同 じであることによって も証明 される。
第 2に,慣行 の承認 である。当該慣行が承認 されていること,すなわ ち,当 該慣行の関係当事者,裁判所,信用状 に関す る文献 において,重大 な反対が存 在 していないことである。
22)関係当事者 による承認 は,迅速かつ確実 な支払手段 としての信用状の重要性 が,独立抽象性 の原則 に基づ いていることによって,証明 されることになる。
信用状 の重要性 か ら,以下の結論 が導 き出 され よう。つ ま り,独立抽象性 の 原則 は,関係当事者 によって,散発的 に問題視 されているにす ぎず,その際 に ち,法的確信の存在 を左右 しない利 己的立琴か ら,問題視 された ものであるこ とが多い。また,独立抽象性の原則 を争点 とする裁判所の判例 が少 ない ことも, 関係当事者 による承認 が存在 することの証拠 となる。
特 に考慮すべ きことは,統一規則 が,信用状上の法律問題 につ いて,当事者 の一般的見解 を反映 していることである。そ こで,
3条( a) 項
1文,
8条( a) 項, 総則 と定義( C) 項 において,独立抽象性 の原則が表明 されていることは,その限
ノ
りで,当事者 によって承認 された慣行 が問題 であることを示 している。
次 に,判例 において も,独立抽象性 の原則 は,一般的 に承認 されている.この
20) Wessely,a.a.
0.
,S.5if.においては,国家 による慣習法の承認の問題 につ いても, 検討 されてい る。 なお, この点 に関 す る,確信説 (Uberzeugungstheorie)と国 家 承 認 説 (LGestattungstheorie) との対 立 につ き,Enneccerus‑Nipperdey,a.a・0.
,§38ⅠⅠⅠおよび,Bonell,op.°it.,p.102notall・参照。21) Vgl.Enneccerus‑Nipperdey,a.a.
0.
,§39Ⅰ2.22) Vgl,Enneccerus‑Nipperdey,a.a.
0.
,§393b.信用状統一規則 について 457
原則 を制限す る判例 は,散発的 に しか,下 されていない し,支持 されて もいない。
最後 に,信用状 に関する新 しい文献 も,独立抽象性 の原則 を支持 して いる。
第
3に,慣行 の 自発性 (
Freiwilligkeit)である。
法的確信が形成 され るのは,優越的地位竃 占めるグ) t '‑プによる経済的強制 によらず に,当該慣行 が遵守 されている場合 だけで ある。 そ こで,信用状取引 の関係当事者,すなわ ち,売主 ・銀行 ・買主 が,かか る強制 によ らずに, 自 ら 当該慣行 , ここで は,独立抽象性 の原則 を承認す るのか否 かを,検討 しなけれ
ばな らない
。この ような検討 は,売主 ・銀行 ・買主 の三者 それ ぞれにつ いて,別個 になさ れ ることになる。
独立抽象性 の原則 は,売主 にとって, きわめて有利 である。彼 は,正規 の書 類 を提供 することによって,商品代金 を取得 す ることにな り,輸 出取引 にとも な う危険 を,大 き く取 り除 くことがで きる。 それゆえ,独 立抽象性 の原則の承 認 は,売主 自 らの決定 に基づ くものである
。次 に,独立抽象性 の原則 は,銀行 にとって も,有利 である。 この原則 のおか げで,銀行 は,書頬のみに基づ いて,信用状取引 を処理す ることができるか ら で ある。信用状 の独立抽象性 のゆえに,銀行 の費用償還請求権 の存否 は,同行 による正規書類 の受理如何 によることとなる。個 々のケースにおいては,独立 抽象性 の原則 が,銀行 に不利 となる こともある
。例 えば,信用状 開設契約 が無 効 であるにも拘 らず,銀行 が支払 を しなけれ ばな らない場合である。もっとも,
この ような危険 を,銀行 は,む しろ自ら引 き受 けたと言 え よう。
これに対 して,独立抽象性 の原則 は,買主 にとって,不利 である。正規 の書
類 が,契約 どお りの商品が引 き渡 されたことの絶対的保障 とはな らない以上 ,
正規 の書 類 と引換 えに支払 を した銀行 に対 して,買主 は,‑ 契約 どお りの商
品 が引 き渡 され な くて も一 補償 しな けれ ばな らない。売買代金返還請 求訴訟
は,買主 に対 す る救済手段 とはな らない ことが多 い。なぜ な ら,買主 は外国 に
赴 かなければな らない ことが多 く, そのゆえ に,訴訟 の結果が不確実 で あるか
らである。 さらに,勝訴の場合 に,外 国で判決の執行 がな され るか否か も疑問
458 商 学 討 究 第 37巻 第1・2 ・3号
とされよう。
そこで, この ような不利益 を,買主 が,やむをえず甘受するのかが,検討 さ れなけれ ばな らない。銀行 グ) i , ‑プ ・売主 グループが独占的地位 にあって,質 主 グループが,不利 な条件 の もとで当該契約 を締結せ ざるをえないか,契約締 結 を全 くあき らめ ざるをえない場合 には, 自発性 は存在 していない。 しか し, 信用状取引の場合 には,事情 は異 なる。買主 を信用状開設 にか りたてるのは, む しろ,市況 (
Marktzwange)である。例 えば,需要 よ りも供給 の方 が多 け れ ば,買主 の立場 は強 く,書類引換払 い (
KassagegenDokumente)条件 ま たは,商品受領後 の支払条件 で契約 を締結す ることができる。 これに対 して, 供給 よりも需要の方が多 ければ,信用状 を開設する必要性 が生 じよう。
さらに,買主が,かかる不利益 をやむをえず甘受するものでないことは,伝 用状取引 にともな う不利益 を ‑ 例 えば,売主 に保障状 を提供 させ る ことに
よって ‑ 買主 が大 き く減殺 することができることか らも明 らかである。
したが って,一般的 に言 って,買主 も,独立抽象性 の原則 を, 自発的 に承認 していると言 えよう。
第
4に,現行法 との類似性 である。法的確信存在 の重要 な徴悪 として,独立 抽象性 q) 原則 と現行法 との類似性が,評価 されるべ きである.
まず,信用状 と指図制度 との類似性 である。
23)信用状の独立抽象性 の原則 は, 指図制度 の抽象性 をさらに押 しすすめたものである。
次 に,手形 と信用状 との間にも多 くの点で関連性 がある。いずれ も,同一の 目的すなわち,迅速かつ確実 な支払 に奉仕す るものである。特 に,手形 の善意 の被裏書人の権利 は,信用状受益者の権利同様,抽象性 を有する。最後 に,伝 用状 ( 債務 )と手形 ( 債務 )とはいずれも,抽象的支払手段であるが,抽象性 は,手形 の場合 には,厳格 な方式主義か ら,信用状の場合 には,一定の要件 の 充足か ら生ずる。
この ような類似性 は,手形 が商慣習か ら生 じたものであるので,特 に強調 に
23)信用状 自体 の法的性 質 につ き,指図説 を支持 す る者 と して,例 えば,Canaris,a. a.
0.
,Rdn.920.参照。信用状統一規則について
459値 する。手形 の,基本的法律関係か らの峻別 は,立法者が,手形 をその対象 と
す る以前 よ り,慣習法上,承認 されていたのである。それゆえ,その機能 と重 要性 の類似性 に鑑 み,信用状 の場合 に も同様 の発展 をとげ,‑ 特 に他 の徴 億の観点か らも‑ 信用状の独立抽象性 の原則が,やがて,関係当事者 によっ て,法規範 と して承認 されるであろうと考え られる。
以上が,信用状 の独立抽象性 の原則 を定 めた,統一規則
3条( a) 項
1文,
8条 ( a) 項,総則 と定義
(C)項 につ き,慣習法説 をとる
W esselyの所説の梗概 である。
なるほど,統一規則の これ らの規定 に限定すれば,慣習法 であると言えるか も しれない。
24)しか し,統一規則 が全体 と して慣習法 であるとの説 に対 して は, 次の ような批判がなされている。まず,統一規則 は,たび重 なる改訂 をうけ, 大 きく変更 された規定 や新設 された規定 も含 んでいるので,一般慣行 とは言え ない。
25)次 に,統一規則 が,信用状取引の関係当事者 による法的確信 によって 支 え られているか否かきわめて疑わ しい,と。
26)商慣習 とは,「 商人間の取引 において, 商人 を相互 に義務づ ける規則であって, 当該取引 圏の一般 的見解 に基づ く‑‑様 な ・統一的かつ 自発的な事実上 の慣 行
」27 ) である。
商慣習 の要件 と して,第
1に,事実上の慣行,第
2に,時間的経過,第
3に, 当該取引圏の同意,を挙 げることができよう。
28)商慣習 は, ( 商 )慣習法 とは,法的確信 の存否 によって区別 され る。
29)すな
24)もっとも,学説の多くは,否定的である。
25) Eisemann,DieneuenEinheitlichenRichtlinienundGebrauchefiirDokumenten‑
AkkreditivederInternationalenHandelskammer(Neufassung1962),AND 1963, S.139,142;Wassermann,DieVerwertung yonAnsprilchenPusDokumenakkredll‑ tiven,1981,S.23;Canaris,a.a.0.,Rdh.926;Eberth,supranote5,at28‑29.
26) Sch6nle,a.a.0.,S.727;Borggrefe,a.a.0.,S.28;Canaris,a.a.0.,Rdn.926;
Wassermann,a.a.0.,S.23;Eberth,supranote5,at29.
27) Ratz,Handelsgesetzbuch GroBkommentar,3Auf
l
.,ⅠⅠⅠ/1,1978,Ann.28zu§346.28) Schlegelberger/Hefermehl,Handelsgeset2:buck,5Auf
1 .
,Bd.ⅠV,1976,Ann.1zu§ 346.29)
また,商慣習は,地方的なものもあるのに対 して,( 商)慣習法は,全国的,一般 的なものでなければならない。
Schlegelberger/Hefermehl,a.a.0.
,Ann.2zu§346;Ratz,a.a.0.,Ann.31zu§346;Bone
l
l,op.°
it
.,p.102notall.
46() 商 学 討 究 第 37巻 第1・2 ・3号
わ ち,商 慣 習 に お いて は,社 会 (よ り正確 に は, 当 該 取 引 圏 )の法 的確 信 は, 不 要 で あ る。
前 述 の 要 件 を充 足 す る商 慣 習 は, ドイ ツ商 法346条30)に よ って ,商 人 間 の契 約 の解釈 ・補 充 に あ た って,考 慮 され な けれ ばな らな い もの と され て い る。31)
ドイ ツ商 法346条 に よっ て, 商 慣 習 は, 規 範 的 効 力 (normativenEffekt) を取 得 す る。32)そ して商 人 は, そ の 内容 , さ らに は そ の存 在 す ら知 らな か っ た と して も,商 慣 習 に拘 束 され る こと に な る。33)
統 一 規 則 の法 的性 質 につ い て,少 な か らぬ学 説 が ,商 慣 習説 を採 用 して い る。
この説 は さ らに 2つ に分 け られ る。信 用 状 取 引 が統 一 規 則 に よって行 わ れ る と い う こ と が商 慣 習 で あ る とす る説34)と,統 一 規 則 自体 が 商 慣 習 で あ る とす る 説35)とで あ る。 これ らの説 の うち,後 説 が 多 数 説 で あ る。
後 説 が そ の理 由 とす る と ころ は, 大 体 ,以 下 の とお りで あ る。統 一規 則 は, 30)ドイツ商法346条 によると,「商人間二於テハ,行為及不作為 ノ意義及効果二関 シテ
ハ,商取引二際 シテ行ハル ル慣習及慣例 ヲ顧慮スルコ トヲ要 ス」る。(外国法典叢書, 独逸商法 〔
Ⅰ
〕商法総則 ・会社法 ・商行為法,訳による)031)私人間の関係 に適用 される ドイツ民法157条 ・242条の規定が,「商人間の関係 に適用 され る ドイツ商法346条の規定 に,大体,対応 していると言えよう。 この点 につ き より詳 しくは,Schlegelberger/Hefermehl,a.a.
0.
,Ann.19ff.zu§346.参照。32) Ratz,a.a.
0
リAnm.35zu§346;Schlegelberger/Hefermehl,a.a.0.
,Ann.31zu§346.∫
33) Ratz,a.a.
0.
,Anm.36zu§346;Schlegelberger/Hefermehl,a.a.0.
,Ann.31zu§346;Bonell,op.°it.,p.107.もっとも本文 で述べ た ことは,いわゆる全 国的 ・ 一般的商慣習 にのみ,あてはまるにすぎない。これに対 して,特定の職業や取引分 野 に限定 される,いわゆる地方的商慣習の場合には,当該職業 ・取引分野に属 して いない商人 に対 しては,やは り,かかる商人による服従意思(Unterwerfungswillen) が必要 とされる傾向にあると言われる。ただ,実際的には, このような意思 は,例 えば,特定の市場,商品取引所 においてなされる契約の場合 には,容易に推定 され よ う。Ratz,a.a.
0. ;
Schlegelberger/Hefermehl,a.a.0.
,Ann.33zu§346I, Bonell,op.°it.,p.107nota23.34) Horn,InternationalZahlungenundAkkreditiv,DokumentenakkreditiveundBank‑ garantienim internationalenZahlungsverkehr,1977,S.9,13.
35) Wiele,DasDokumenten‑AkkreditivundderanglO‑amerikanischeDocumentaryLetterof Credit,1955,S.26 ;Loeffler,Der EinfluB あ Kdufer‑Konkurses auf das Dokumenten‑Akkreditiv‑Geschaft,1969,S.9;Liicke,DasDokume71tenakkreditivin Deutschland,FrankreichundderSchweiz,1976,S.17;Zahn,ZahlungundZahlung‑
ssicherungim AuBenhanLkl,5Auf1.,1976,S.8;Nielsen,a.a.0.,Rdh.5/256.
信用状統一規則について
461今 や全世界で承認 されている。統一規則 は,つねに適用 され,信用状取引の実 務 を支配 している。商慣習 にとって重要 なのは,当該取引圏つ ま り信用状取引 の関係当事者 による一定 の取引慣行の承認である。 このような承認 は,統一規 則 が,( 銀行のための)免責約款 を含 む場合 において も,疑 いもな く,存在 する,
と。
統一規則 が,商慣習の時間的要件 を充足 しないとの批判 に対 して,商慣習説 は,次の ように反論 している。商慣習の要件 の一つである時間的要件 は,あま り重視 されるべ きではない。商慣習 は,実務 との当然の関連性 のゆえに,発展 の可能性 のあるものであ り, 自然発生的変化 に対応 していく ものであるか らで ある,
36)と
。ところで, この時間的要件 につ いて は,次 の如 き説 明がなされている。
37)辛 実上の慣行 は,長 い期間 あるいは少 な くとも相当の期間,存在 していなければ な らない。 もっとも,特殊 な場合 には,短期 間の うちに,商慣習が成立するこ ともある。その例 と して,戦時 における経済変革の場合や,短期間の うちに多 くの取引が特定の方法 によってなされるに至 った場合が挙 げられ る。そこで, 信用状取引が この ような場合 に該当するもの とすれば,時間的要件 は充足 され
ることになろう、 。
38)ところで,商慣習説 に対 して は,他 の要件 の充足 についても疑問 との批判が なされている。統一規則 は,現存する慣習 を述べた規定のみを含 んでいるわけ ではな く,将来一定の慣習が成立するであろうことを期待 して,合 目的的観点 ない し実際的観点か ら作成 された規定 をも含 んでいるか らである
。39)また,統一規則 は,その
17条か ら
20条 にか けて銀行 の免責 に関する規定 を含 んでいるが,かか る規定 は,普通取引約款 に,典型的なものである
。40)36) Zahn,a.a.0.,S.8f.
37) Schlegelberger/Hefermehl,a.a.0.,Ann.9zu§346;Ratz,a.a.0.,Ann.33zu
§346.
38)
もっとも,この点について,見解は対立している。
39) Wass。rmann,a.a.0.,S.26;Canaris,a.a.0.,Rdh.926二 40)Borggrefe,a.a.0.,S30;Wassermann,a.a.0.,S.25.
462 商 学 討 究 第 37巻 第1 ・2 ・3号
普通取 引約款 ( 以下約款 と略称 )とは, 「 多数の契約の ためにあ らか じめ設 定 され,一方の当事者 ( 利用者 )が契約締結 の際に相手方 に呈示する契約条件 のすべて をいう」4 1 ) ものとされている。
このような約款の法的性質 をめぐっては,法規範説 と契約説 との対立 が存す る
42)が,判例
43)通説 は,契約説の立場 に立 っているといわれる。
西 ドイツでは
,1976年
12月
9日に成立 し
,1977年
4月
1日より施行 された 「 普 通 取 引 約 款 規 制 に 関 す る 法 律 (
GesetzzurRegelung desRechtsder AllgemeinenGeschaftsbedingungenvom9.12.1976,以下,約款規 制法 と 略称
)44)によって,約款の規制 がなされている。
約款規制法 2条 は,形式的 コン トロールと して,約款が契約内容 となるため の要件 を定めている。 もっとも, この規定 は
,24条 によって,商人 を相手方 と しその営業 に関する契約 を締結するために利用 される約款 には, 適用 されない。
そ こで,約款 の個別契約への採用 については,従来の判例原則が妥当す る。
従来 の判例原則
45)に よれ ば,約款 が契約 内容 となるためには,必 ず しも, 明示の合意 を要 しない。 約款利用者が, 約款 に基づ き契約 を締結す る意思であっ た ことを,約款相手方 が,知 っていたか,知 るべ きであった場合 にも ‑ 黙 示 の服従 (
stillschweigendeUnterwerfung)に基 づ き ‑ 約 款 が契 約 内容 となるものとされている。特 に,銀行取引約款 は, このような取扱 いをうけて いる。
41)河上正二 「約款 とその司法的規制(1)」法協102巻4号49‑50頁, なお,普通取引約 款規制 に関す る法律 (後述 ) 1条,参照。
42)石原全 「約款 の法的性質論序説」商学討究27巻3 ・4合併号48‑49頁 ,高橋弘 「普 通取 引約款 と消費者保護1」 法律 時報47巻10号114貢注(1)。
43)もっとも,1940年代 か ら1950年代 にか けて,法規範説 をとったとみ られる判例 も存 荏 して いる。石原 ・前掲注42)50‑51頁,河上 「約 款 とその司法的規制(3)」 法協 102巻 8号103‑106頁 。
44)約款規制法 に関す る邦訳 お よび解説 と して,高橋弘 「普通取引約款 と消費者保護 (付 録)」広大政経論叢26巻6号166頁以下,石原全 「西 ドイツ 『普通取引約款規制 に関 す る法律』 につ いて」 ジュ リス ト637号149頁以下,渋谷光子 「西 ドイツの普通契約 条款法」 国際商事法務5巻12号551頁以下。
45)河上 ・前掲注43)106頁,高橋 ・前掲注42)113頁。
信用状統一規則について
463さらに,約款 に関連 して,商取引の確認書 (
Bestatigungsschreiben)にも 言及 しておかなければな らないであろう。
46)確認書 には,沈黙 に関する一般原 則 に反 して,次の ような原則が妥当する。すなわち,受領者が遅滞 な く異議 申 立 を しないと,たとえ確認書 に口頭合意 を変更 または付加する条項 が含 まれて いて も,受領者 は,確認書の内容 に同意 した ものとみなされることになる。
さて,統一規則 の法的性質 について,約款説 をとる者 も少 な くない。
47)統一規則 は,銀行 によってで はな く,国際商業会議所 によって作成 されたも ので はある。 しか し,約款規制法
1条
1項
1文の文言か ら明 らかなように,契 約条件 を,利用者 自らが作成 したか,第三者 が作成 したか は問題 とされない。
統一規則 は,多数の契約 のためにあ らか じめ設定 され,銀行が契約締結の際に 相手方 に呈示する契約条件 といえるので,同法 1条 にいう約款である, とされ
る。
48)これに対 して,次の ような理 由に基づ いて,統一規則 は約款ではない, と批 判 されている。
49)第 1に,統一規則 は,銀行 の利益のみな らず,売主 ・買主の 利益,さらには運送業者 ・保険業者の利益 をも考慮 して,作成 されていること, 第
2に,統 一規則 は国連 国際商取引法委員会
(UNCITRAL )等 の協 力 をも 得 て,国際商業会議所 によって作成 されたものであること,である。
約款説 に対 しては, さらに, ある法律制度 を一般的 に規制 しよう とすること は,約款 の本質 に反する, との批判 もなされている。
50)これ に対 して,約款説 か らは,次の ような反論がなされている。そのような批判 は,少な くとも,約
46)
確認書の意義 ・要件 ・効力等につき,より詳 しくは,石原全 「 商取引における契約 確認書について」一橋論叢
85巻 5号658頁以下,同 「 契約確認書法理についての一
考察」
NBLNo.243,6頁以下,参照。
47) Liesecke,DieneureRechtsprechung,insbesonderedesBundesgerichtshofes
,
zum Dokumentenakkreditiv,WM1966,S.458;Schlegelberger/Hefermehl,a.a.0.
,Anh.zu§365,Anm.148;YonWestphalen,RechtsproblemederExportfinan‑2:ierung,2Auf1.,1978,S.123・,Wassermann,a.a.
0.
,S.261,Canaris,a.a.0.
,Rdh.927.
48) Wassermann,a.a.0.;Canaris,a.a.0.
49) Cf.Eberth,suprlanote5,at30.
50) Loeffler,a.a.